霧の都、女王の城。そこに一つの噂がある。
濃霧の夜に決して出歩いてはならない、と。
「その忠告を無視して出歩くとは」
「……余程俺に構われたいと見える」
紫の瞳の亡霊は、暗闇にひそりと微笑んだ。
目前の敵を蹂躙する力を求めた。
──それが叶った。それだけだ。
定義は無用。御託は不要。
金光と紫闇の狭間に立ち、彼はひたすら覇道を往く。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
エンフィールド | こら、スナイダー! 授業をサボって一体どこに行ってたんだい? |
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スナイダー | ……騒々しいな。 どこへ行こうが、俺の勝手だろう。 |
エンフィールド | いいや、それは違うよ。 今の僕たちは、貴銃士クラスに属する生徒なんだ。 授業中に好き勝手に出歩いたら駄目だろう? |
エンフィールド | それに、君が何度も授業を無断欠席していたら、 〇〇さんの評価にまで 影響しかねないんだよ。わかっているのかい? |
スナイダー | ……そして、優等生である自分の評価も──だろう? |
エンフィールド | ち、違う! 僕は君のためを思って……! |
生徒1 | なんだか揉めてるみたいだな……。 止めた方がいいかな? |
生徒2 | けど、相手は貴銃士だし……。 ヤバそうだったら教官呼ぶか。 |
シャスポー | ……ん? あいつらは……。 |
スナイダー | そもそも、あんな授業になんの意味がある? 俺たちは銃だ。 敵を屠れるだけの力があれば、それでいい。 |
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エンフィールド | 僕たちはただの銃じゃなくて、貴銃士だ。 だから人と同じように、知識や教養を身に着けて、 自分自身を高めていくことが大事なんだよ。 |
スナイダー | ……ふん。下らんな。 優等生の真似事がしたいなら好きにしろ。 だが、俺にまで同じことを求めるな。 |
エンフィールド | スナイダー……! |
スナイダー | ……そうだ。 もっと優秀になりたいというなら、いい手がある。 ……おまえを、俺に改造すればいい。 |
エンフィールド | なっ……!? |
シャスポー | ……! |
エンフィールド | ……い、嫌だ。僕は、君には……っ! |
シャスポー | …………。 |
スナイダー | 何故だ? 改造すれば、おまえは強くなれる。 絶対非道をもものにできるかもしれんぞ。 己を高めようというなら、躊躇う理由はないはずだ。 |
エンフィールド | それとこれとは違う……! 僕は、僕のままでも優秀で、 人々に求められる存在なんだ……! |
スナイダー | ほう……? では、そんなおまえの多くが俺へと改造されたのは、 一体どういうわけだろうな……? |
エンフィールド | そ、それは……っ! |
シャスポー | ……そこまでにしたらどうなんだ。 公衆の面前で兄弟喧嘩なんて、見苦しいよ。 |
エンフィールド | ……! シャスポーさん……。 |
スナイダー | おまえには関係のない話だ、シャスポー銃。 |
シャスポー | ああ、確かに関係ない。 だけど、君たちがここで揉めていると、 他の生徒の迷惑なんだよ。 |
シャスポー | それに、嫌がる相手に改造を無理に進めるなんて、 まったくもって優美じゃない。 |
スナイダー | 優美さなど、銃には不要だろう。 武器に重要なのは強さと実用性だ。 |
スナイダー | ……もっとも、おまえのように 見た目を優先していい的になっていた奴には、 理解が及ばんかもしれんがな。 |
シャスポー | …………。 |
恭遠 | おーい、そこ! なんの騒ぎだ!? |
スナイダー | ……チッ。 |
シャスポー | …………。 |
エンフィールド | ふぅ……。 |
エンフィールド | あの……ありがとうございました。 |
シャスポー | ……別に、君のために間に入ったわけじゃない。 礼は不要だ。 |
シャスポー | しかし……改造か。 |
エンフィールド | えっ? |
シャスポー | いや。僕も失礼するよ。 |
エンフィールド | ……? |
エンフィールド | ……おい、スナイダー! |
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スナイダー | なんだ。ようやく俺に改造される気になったのか? |
エンフィールド | ち、違う! 僕は君の授業態度について── |
ジョージ | ん……? また喧嘩かぁ? |
ライク・ツー | どうせまた、改造するとかしないとかの話だろ。 |
ジョージ | エンフィールドも、はっきり断ればいいのにな! |
ライク・ツー | いや、あいつは結構拒否してるけどな……。 |
ジョージ | ちょっと行ってみようぜ! |
ジョージ | おーい、エンフィールド! |
エンフィールド | ジョージ師匠! どうなさったんですか? |
ジョージ | また改造されそうになってんのかなーと思ってさ! おまえ、たまにはガツンと言ってやれよ。 |
エンフィールド | は、はい……! |
エンフィールド | …………。 |
エンフィールド | ……改造改造って言うけれど、 僕は、君より優れている点もあるんだからな! |
スナイダー | ……ほう? 具体的には? |
エンフィールド | め、命中精度は僕の方がいいって言われてるだろう? |
エンフィールド | 君は、エンフィールド銃からの 改造の容易さを重視して設計されたから、サイドハンマー式だ。 射撃時に加わる打撃で、狙いがぶれやすい! |
スナイダー | …………。 |
エンフィールド | それに、ブリーチが開けづらくなりやすかったり、 他にもいろいろと問題点があるはずだ! |
スナイダー | …………。 |
エンフィールド | 僕だって、君に負けていない! 君に改造なんてされるものか! |
スナイダー | そうか。 ……それで? |
エンフィールド | えっ……!? |
スナイダー | 俺の短所を必死に挙げ連ねたところで、 おまえよりも俺の方が強いという事実は揺らがない。 そもそも、前装式が後装式に敵うはずもない。 |
スナイダー | だからこそおまえは世界各地で改造され、 おまえに代わって俺が使われるようになった。 そうだろう? |
エンフィールド | そ、それは、そうなんだけど……。 |
ジョージ | エンフィールド、負けるなー! |
エンフィールド | ジョージ師匠……! |
スナイダー | ……どうだ。改造される気になってきたか? |
エンフィールド | だから、それはないって言ってるだろう! |
スナイダー | なぜだ? 強くなれば、おまえの師匠とやらも、 より一層おまえを頼りにするかもしれんぞ? |
エンフィールド | うっ……! それでも、嫌なものは嫌だ! |
スナイダー | ふん……まぁいい。 改造は、また次の機会にしてやろう。 |
エンフィールド | はぁ……ひとまず助かった……。 |
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ジョージ | 今日は頑張ってたな、エンフィールド! |
エンフィールド | ありがとうございます、ジョージ師匠……! |
ライク・ツー | 相変わらず、意味わかんねぇ兄弟だな……。 |
ジョージ | なーなー、次の休みは街に出かけようぜー! オレ、美味しい店があるって情報Getしたんだ! |
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ライク・ツー | どうせハンバーガーだろ。 ……ま、食い物はともかく、 服とかはちょっと見て回りたいんだよな。 |
ジョージ | お、ならちょうどいいじゃん☆ んじゃ、そういうことで外出申請よろしくな! |
ライク・ツー | は? なんでだよ。 お前が言い出したんだから、自分でやれっての。 |
スナイダー | ……おい。 |
ジョージ | おっ、スナイダー! おまえもバーガー食いに行くか!? |
ライク・ツー | いや、こいつは絶対食わないだろ……。 で、俺たちに何か用か? |
スナイダー | 木槌を探している。 どこにあるか知っているか。 |
ジョージ | 木槌……? オレは持ってないなぁ。 |
ジョージ | 何か家具でも組み立てるのか? 急ぎなら、誰か持ってないか聞いて回ろうぜ! |
ライク・ツー | いや、木槌持ち歩いてる生徒なんていないだろ。 確か、倉庫にあったような……。 まずはそっちを確認してみたらどうだ? |
スナイダー | 倉庫か……。 |
ライク・ツー | ……あいつ、木槌で何したかったんだ? |
ジョージ | やっぱり、工作じゃないかー? 寮の部屋に新しく棚を付けてみるとかさ。 |
ライク・ツー | スナイダーがそんなことすると思うか? 前にあいつの部屋をちらっと見たことあるけどよ、 殺風景で独居房みたいだったぜ……。 |
ライク・ツー | あれじゃないか? 誰かを殺さない程度にぶん殴るため、とか。 |
ジョージ | ええっ!? そ、そんな使い方!? 確かに、金槌よりはマシな気がするけど……!? |
ジョージ | ちょっと待てよ…… まさか、自分をぶん殴ったりとか…… そんなことはないよな……? |
ライク・ツー | はぁ? あいつに限ってそれはねーだろ。 バグったエンフィールドじゃあるまいし。 |
ジョージ | あ、ああ。けど…… スナイダーは一応エンフィールドの弟だし、 似てるところもあったりして……。 |
ジョージ | …………。 オレ、スナイダーを追いかけてみる! |
ジョージ | スナイダー! おーい! どこだー!? |
---|---|
スナイダー | …………。 |
ジョージ | あ、いた! |
倉庫に入っていくスナイダーを見つけたジョージは、
慌ててあとを追いかける。
ジョージ | スナイ……おわわわっ! Stop! Stop! スナイダー! 早まるなっ! |
---|---|
スナイダー | ……おい、邪魔をするな。 |
机にはスナイダー銃が置かれており、
その前でスナイダーは小槌を振り上げ、
今にも振り下ろそうとしているようだった。
ジョージ | いや、邪魔するに決まってるだろ! おまえ、自分の銃をそんなものでぶっ叩いて どうするつもりだよ!? |
---|---|
ジョージ | おまえが壊れちまったら、 〇〇も悲しむし、 エンフィールドもオレも悲しいよ! |
ジョージ | だから、頼むからそんなことするな……! |
スナイダー | おまえ……何を言っている。 |
ジョージ | へっ? |
スナイダー | よく見てみろ。これは俺の銃ではない。 それに、壊そうともしていない。 壊すなら、もっと大振りの金槌を使う。 |
ジョージ | え……? それじゃあ一体何しようとしてたんだ? |
スナイダー | 簡易的な修理だ。 |
スナイダー | 士官学校で保管しているスナイダー銃の1つが、 ブリーチ部が開かなくなったので直してほしいと、 恭遠から託されたのでな。 |
スナイダー | 音楽の授業の補習を帳消しにするならば直してやろうと 引き受けたというわけだ。 |
ジョージ | なぁんだ……そうだったのか~! いやぁ、ヒヤヒヤしたぜ。 |
ジョージ | っていうか、木槌でどうやって直すんだ? |
スナイダー | スナイダー銃のブリーチ機構の蝶番をつなぐピンは、 強度的な問題もあって変形しやすい。 |
スナイダー | 変形するとブリーチ部が開きづらくなるから、 木槌で叩いて開ける。 ついでに、ピンの変形も修正すればいいだろう。 |
ジョージ | へぇ~、おまえ、器用なんだな! |
ジョージ | しっかし、自分を壊そうとしてるんじゃなくて、 本当に良かった……。マジでヒヤっとしたぞ! |
スナイダー | ……勝手に勘違いしておいて文句を言うな。 |
ジョージ | なぁ、修理するとこ見ててもいいか!? |
スナイダー | ……好きにしろ。 |
邑田 | ……む? そなたは、鳥羽の弟のスナイドル銃で合っておるか? |
---|---|
スナイダー | …………。 |
いくつかあるうちの名前の1つを呼ばれ、
スナイダーは声の主の方へと視線を向ける。
そこには、2人の貴銃士がいた。
邑田 | ……なかなか良い眼をしておる。 鳥羽とはあまり似ておらぬようだが……。 |
---|---|
スナイダー | ……おまえらは誰だ。 |
スナイダーと邑田の視線がぶつかり、
両者の間の空気がピンと張り詰める。
しかし、邑田は雰囲気を一変させ、穏やかに微笑んだ。
邑田 | おや……。 鳥羽と同じく、そなたも日本に来ておらんのか。 |
---|---|
邑田 | わしは邑田という。 |
在坂 | ……在坂だ。 |
スナイダー | ……俺は、スナイダーだ。 |
邑田 | のう、鳥羽の弟や。 邑田という銃の名に聞き覚えはないのかえ? |
スナイダー | 聞いたことはあるが、 同じ戦場にいたことはないはずだ。 |
スナイダー | それより…… さっきからトバと言っているが、なんのことだ? 俺の兄は、エンフィールドだが。 |
在坂 | エンフィールド銃は、日本では 鳥羽ミニエーやエンピール銃とも呼ばれていたと、 在坂は記憶している。 |
スナイダー | ……ほう。 |
邑田 | 鳥羽とそなたは日本でも数多く使われておってのう。 わしらとも縁のある相手ゆえ、声をかけてみた。 |
邑田 | 日本でのそなたの銃の武勇は聞いておるぞ。 たとえば、かの戊辰戦争。 |
邑田 | 数では劣ったにもかかわらず、スナイドル銃を装備した 新政府軍が、ヤーゲルなどの旧式銃を装備した 旧幕府勢力に大勝したと伝えられておるな。 |
邑田 | かような強者と、 貴銃士の姿で相まみえることができるとは、 士官学校に来た甲斐もあったというものよ。 |
在坂 | 在坂も、スナイドルには興味がある。 |
スナイダー | ……そうか。 |
邑田 | しかし、ちぃと残念じゃのう。 革命戦争で戦ったスナイドル銃は、 戊辰の戦場で使われたものであったと聞いておった。 |
邑田 | この異国の地で、かつての日本の歩みについて、 昔話に花を咲かせるのも一興と 楽しみにしておったのじゃが……。 |
邑田 | 人違いならぬ、銃違いであるな。 ほっほっほ。 |
スナイダー | たとえ俺が日本の戦場にいたとしても、 大して語ることはないだろう。 |
スナイダー | どこのどんな戦いであれ、 俺はただ、目の前の敵を撃ち抜くだけだからな。 |
邑田 | ほっほっほ。それもそうじゃな。 銃の仕事など、どの戦場でも大差はあるまい。 |
スナイダー | ……話は終わりだな。 |
邑田 | ……うむ。 |
スナイダー&邑田 | …………。 |
立ち去りかけたスナイダーだったが──
ふと、目にも留まらぬ速さで一歩踏み込み、
邑田めがけて拳を振るう。
在坂 | 邑田……! |
---|
──が、邑田はそれを予期していたように、
平然と手のひらで受け止めた。
スナイダー | ……ほう。 |
---|---|
スナイダー | またな、邑田銃。 |
邑田 | うむ。またの、スナイドル。 |
在坂 | ……在坂には、よくわからない……。 |
スナイダー | …………。 |
---|---|
主人公 | 【お疲れ様】 【また明日】 |
ケンタッキー | はい、お疲れ様っしたっ! おやすみなさいっす、マスター! |
ジョージ | またな~! |
ケンタッキー | …………。 は~あ、これで終わりか。 マスターともっとお話ししたかったぜ。 |
ジョージ | えー? ケンタッキー、おまえずーっと喋ってたのに、 まだ足りないのかぁ? |
ケンタッキー | うっせーな。マスターとのお話は いくらしても飽きねぇし足りねぇんだよ! |
スナイダー | ……フン。 |
ケンタッキー | ……! |
ケンタッキー | てめぇ今……笑いやがったな? |
スナイダー | ほう? 嘲笑が自分に向けられたものだと察せられる程度の 頭はあるというわけか。 |
ケンタッキー | んだと……!? |
スナイダー | 媚びへつらい、尻尾を振るしか 能がないのかと思っていたが、意外だな。 少し見直してやってもいいかもしれん。 |
ケンタッキー | てめぇ……! |
ジョージ | ちょっ……落ち着けって、ケンタッキー! スナイダーも、いきなり喧嘩売るな! |
ケンタッキー | 馬鹿にされて落ち着いてられっか! |
スナイダー | 馬鹿に……? 俺は客観的な印象を述べただけだが。 自覚がなかったとは、憐れなものだな。 |
ケンタッキー | てめぇ……たしかスナイダー銃だよな。 植民地戦争では随分暴れたらしいけどよ、 そんなんでイキってんじゃねえぞ、クソガキが! |
スナイダー | 騒がしい奴だ。 いちいち叫ばないと会話もまともにできないのか? |
スナイダー | 弱い犬ほどよく吠えると言うが……ふむ。 どうやら犬じみた貴銃士にも同じことが言えるらしい。 |
ケンタッキー | ……っ! 調子に乗りやがって! 表出ろや!! |
ジョージ | ちょっ、ケンタッキー! 喧嘩はダメだぞ! |
ケンタッキー | こんだけコケにされて、黙ってられるかよ! |
スナイダー | いつでもかかってこい。 返り討ちにしてやろう。 |
ジョージ | こらっ! スナイダーも煽るなって! あーもう! Help~~~! Somebody~~~!!! |
恭遠 | 何をしている! |
ジョージ | 恭遠! ナイスタイミング!! ケンタッキーとスナイダーを止めるの手伝ってくれ! |
スナイダー | ……はぁ。 |
恭遠 | ……ケンタッキーがペンシルヴァニアに いつものようにじゃれ合いを挑んでいるのかと思えば、 今回はスナイダーだったか……。 |
ケンタッキー | じゃれ合いってなんだよ!? |
恭遠 | ……すまん、口が滑った。 決闘とでも言うべきだったかな……はは……。 |
恭遠 | それで、今回は何があったんだい? |
ケンタッキー | コイツがクソ生意気なこと抜かしやがるから、 締め上げてやろうとしただけだっての! |
恭遠 | いや、学校で暴力沙汰は困るんだが……。 スナイダー、君の言い分は? |
スナイダー | 俺はただ、事実を口にしただけだ。 |
ケンタッキー | はぁ!? |
恭遠 | 2人とも、そこまでだ。 今日は口論で済んだから特に咎めはしないが、 乱闘沙汰になった時は罰則だからな。 |
ケンタッキー | チッ……。 |
スナイダー | ……フン。 |
スナイダー | 時間を無駄にした。俺はもう行く。 |
ケンタッキー | それはこっちのセリフだ! 行くぞジョージ! |
ジョージ | あ、うん……。 |
恭遠&ジョージ | ふぅ……。 |
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