マスターと貴銃士、その在り方。銃と共に生きる限り、安寧の運命はきっとない。
けれど、前を向いて歩み続けよう。
暗い夜を裂いて、空に輝く陽が昇るように──終わらぬ絶望はないのだから。
どんな未来が待っていても、君となら立ち向かえる。絶対に。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
君というモルモットが
在ることは俺の
そして世界の幸福だ。
貴銃士の勇敢さを讃える記念行事、
ブレイブ・マスケッターズ・デー。
その一環として開催された食事会に、
〇〇は貴銃士たちとともに参加していた。
ローレンツ | モルモット2号! 失礼するよ。 |
---|
ローレンツは短く告げると、〇〇の手を取って
脈に指を当てる。
ローレンツ | ふむ……。 |
---|---|
主人公 | 【ど、どうしたの?】 【脈を測ってる?】 |
ローレンツ | モルモット2号よ。俺との交流面談の日程を覚えているな? しっかりプランは練ってあるから、スケジュールの確保と 体調管理を忘れないようにしてほしい。 |
ローレンツ | そこでこの行動の意図を明かそう。 ……ではな。楽しみにしていてくれ。 |
──ローレンツとの交流面談当日。
〇〇の目の前で、クマとウサギの着ぐるみが
子供たちに風船を配っていた。
ローレンツ | 青空サーカスは初めてか? 〇〇。 |
---|---|
主人公 | 【小さい頃来たことがあるような……】 【両親が生きていた頃に……】 |
ローレンツ | ! ……そうか。 |
ローレンツ | その時の楽しい思い出が、よみがえるかもしれないな。 俺も今日は、童心に帰って楽しむとしよう! |
ローレンツ | 事前に仕入れた情報によると、 ジャグリング、猛獣使いによるコンビネーション芸、 空中ブランコなどが披露されるらしいぞ。 |
ローレンツ | ……おっと、そろそろ始まる時間だ。 さて、サーカス団のお手並み拝見といこうか。 |
ローレンツ | おぉーっ! |
---|---|
ローレンツ | 見たか!? 今、空中で回転しただけでなくひねりも入れたぞ!! 高い位置を漕いでいるというのに、実に危なげない動きだ! これが掴みの空中ブランコだと? 前座とは思えん! |
ローレンツ | 待て、まさかあれだけの量の松明を投げながら片足で立つと? 無茶だ、火だるまになるぞ!? |
ローレンツ | や、やめろっ! ほら、転ん── ……っ!! 1回転した! しかもまだ松明を回したままだ!! |
ローレンツ | 1段、2段、3段……何!? まだ積むのか!? ……7段だ! ぐらぐらと積み上げられた椅子の上を ぽってりとした熊さんが……なんとも鮮やかなる足取り!! |
ローレンツ | ふぁひゃあ! ……ほわ~~!! |
ローレンツ | はぁ……。 あっという間に公演時間が過ぎ去ってしまった……。 |
---|---|
主人公 | 【すごかった!!】 【楽しかったね!!】 |
ローレンツ | ああ……。緊張と緩和の交互浴……。 今、青年の心はかつてない興奮に包まれている……! |
主人公 | 【どうしてサーカスを?】 【サーカスを選ぶなんて意外だったな】 |
ローレンツ | ふむ。普段の俺から推測すると もっと知的な場所を選ぶと思われたか。 ……だが、しかしっ!! |
ローレンツ | 今回俺が選んだサーカスのように、 エンターテインメントと呼ばれるものは、 大いなる学習知による産物なのだ。 |
ローレンツ | 極限まで好奇心を高められ、 実に学究心がくすぐられるものなのだよ。 |
主人公 | 【そうなの?】 【なるほど……】 |
ローレンツ | 例えば、先ほども行われた椅子を使った曲芸は、 支店と重心を芸術的なまでに計算した 物理学の叡智の結集であり── |
ローレンツ | 演目の合間合間を駆け抜けたピエロは、人の注意や視線、 感情の動きを高度に計算した上で『計算していないように見える、 計算した笑い』を提供するまさに笑いのプロフェッショナル。 |
ローレンツ | 加えて、サーカスを彩る鮮やかな色彩も意味があり、 煙なども化学反応を有効に使った装飾だ。 猛獣使いの芸においては── |
主人公 | 【ちょ、ちょっと待って!】 【……うん、理解した】 |
ローレンツ | あー……コホン。少々語りすぎたか。 |
ローレンツは〇〇に背を向け、
空を見上げる。
ローレンツ | つまり、俺が言いたかったのは、サーカスとは、 科学の叡智で人を楽しませるために凝縮した場であるということ。 |
---|---|
ローレンツ | その成り立ちと至るまでの努力は、 とても尊いものだと俺は思う。そして、何より── |
いったん言葉を句切り、
ローレンツは〇〇を振り返った。
ローレンツ | 確実なる叡智の結晶を用いて、 俺は君に笑顔になってほしかった。 |
---|---|
主人公 | 【えっ……!?】 【……ありがとう】 |
ローレンツ | あの日の一件……君の心にのしかかったものは大きかっただろう。 隠していても無駄だ。 俺が普段からどれだけ君のことを観察していると思っている。 |
ローレンツ | 呼吸、皮膚から感じる温度と脈拍、視線の動き── 総合的に計算と判断をすると、君はたいそう疲れている。 身体的ではなく、主に精神的に……ね。 |
ローレンツ | 従って、今の君にはすかっと笑って楽しめる エンターテインメントが必要だと思ったのだ。 以上にてQ.E.D.──証明完了。……いかがかな? |
主人公 | 【そ、そんなこと──】 【──自分は……】 |
子犬 | ワンワンッ!! |
突然、元気な鳴き声を上げて、
〇〇とローレンツの方へ子犬が駆けてくる。
ローレンツ | ……む? 彼は……? |
---|---|
少年 | こら、ペロ!! 待って! 待てって!! |
ローレンツ | ……あれは、 先ほどサーカスでアシスタントをしていた少年だな。 ペロとは、こちらに駆けてくる子犬の名前か? |
少年 | だ、誰かぁ……!! その子犬を止めてください~!! |
ローレンツ | よし、任されよう! |
ローレンツは子犬の進行方向にしゃがみ、
両手を広げて受け止めたが──
子犬 | ワンワンワンッ!! |
---|
子犬からたなびくリードが、近くの照明に絡まって倒してしまう。
その照明は、隣の木と木の間に張ってあるロープに引っかかる。
ローレンツ | ……な!?!?!? |
---|
ロープの中央には大きなくす玉がぶら下がっており、
引っ張られた衝撃で大きな破裂音を響かせて2つに割れた。
ローレンツ | ひょあっ!? |
---|
音に飛び上がったローレンツの上に紙吹雪が降り注ぐ。
女性 | あらあら、なんて偶然なの! しかも、すべての現象がうまく作用して……ふふっ、まるで さっきのサーカスみたいだわ! ああ、なんておかしい……!! |
---|---|
男性 | 兄ちゃん、災難だったなぁ! 大丈夫か~? |
ローレンツ | なんたる不覚……。 決めた後だというのに締まりがない……。 |
子犬 | ワンワンッ!! |
ローレンツ | ……くっ。Mr.ペロを受け止められただけでも、良しとするか。 |
少年 | す、すみません……! でも、すごく助かりました! ありがとうございますっ!! |
ローレンツ | ……いや、役に立ったのなら何より。 マスターにも楽しい思いをさせられたみたいだしね。 |
主人公 | 【……これも計算?】 【実は狙っていた結果と見た】 |
ローレンツ | …………。 |
ローレンツ | ……さて、どうかな? 君の想像に任せるよ。 |
Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.
まだコメントがありません。