本当を言うなら、屈託がないわけではない。
どうして、という思いもある。けれどそれは彼にとって、ここで陰る理由になりえない。
だから彼は太陽のように笑ってみせるのだ。守るべき人達の、その道先を照らすために。
全部、全部守ってみせるよ。
お前が守ろうとしたものも、お前自身も全部。
それが、オレが生まれた意味だから。
──決意は、金色に開花する。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
──演習場での射撃訓練中。
ジョージ | よーし! 次こそ標的に当ててやるっ! |
---|---|
ジョージ | あっ……! |
放たれた弾はジョージ用の的から大きく外れ、
ライク・ツーが狙っていた的をかすめる。
ライク・ツー | はぁっ!? おい、ノーコン! 俺の邪魔すんな! |
---|---|
ジョージ | HAHA☆ Sorry、ライク・ツー! |
ジョージ | まいったな、全然当たらないぞ。 今度こそ……! |
ジョージ | おぉっ!? |
ジョージ | Yes! やったぁ! やっと当たったぞ! マークス、見てただろっ!? |
マークス | めちゃくちゃ偶然って感じだったけどな。 ……あんたの銃、そんなに当たらないもんなのか? |
ジョージ | ん? 気になるなら、使ってみるか? はい、どーぞ! |
マークス | ……おい。 そんな簡単に、自分の銃を人に貸すなよ。 |
ジョージ | え~? オレは全然ヘーキだよ。 ほら、使ってみ……あっ! |
マークスに銃を差し出したジョージだが、
手が滑ったのか、銃を地面に落としてしまう。
ジョージ | Oh! やっべー、うっかり! |
---|---|
マークス | な、何やってんだ! よりにもよって、銃を落とすなんて……! |
ライク・ツー | お前……本体が破損したら終わりなんだぞ。 わかってんのか? |
ジョージ | だいじょーぶ! マスケット銃は丈夫だからさ! ちょっと落としたくらい、なんともないって☆ |
ライク・ツー | 雑すぎる……信じられねぇ。 |
ジョージ | ほら、マークス。試しに撃ってみてくれよ。 |
マークス | そこまで言うなら……。 俺、マスケット銃を撃つのは初めてだ。 手順はわかってるけど。 |
マークス | 銃口から弾を詰めるんだろ? つーか、銃身がかなり煤で汚れてるけど 大丈夫なのか……? |
ジョージ | 黒色火薬を使ってると、すぐ煤で汚れちゃうんだ。 でも、弾がボール型だから、汚れてても簡単に詰められるぞ! |
ジョージ | それじゃ、あとはこれをこーして…… 引き金を引くだけだ。Fire! |
マークス | ……ここだ! |
マークスが狙いを定めて撃った弾は、
的から大きく上に外れて飛んで行った。
ライク・ツー | ……全然ダメじゃねーか。 |
---|---|
マークス | なんだこれ!? クセが強すぎる! 今のは確実に当たる狙いだったはずだぞ! |
ジョージ | な!? オレのこと、わかってくれたか!? 滑腔式って、弾道がブレやすいんだよ。 |
ジョージ | なんか他の誰かに銃を使われた感覚も久しぶりだ! 懐かしいな~! |
マークス | ……使ってみて改めて思ったが、 やっぱりあんたの銃は実戦向きじゃねぇ。 |
マークス | 戦いは俺たちに任せて、 ジョージは後ろに下がってろ。 |
ジョージ | ええぇっ!? |
マークス | あんたは、絶対高貴担当でいいんじゃないか? |
ライク・ツー | 絶対高貴なら、あのすげぇ白煙も出ないしな。 |
ジョージ | ライク・ツーまで!? やだやだ! オレもちゃんと銃で戦うって! |
ジョージ | ちょっと煙いのはチャームポイントだし、 撃たない貴銃士なんて、銃じゃないじゃん!? それじゃあ貴士だぜ! |
マークス | 駄々をこねるな! 貴銃士なら、自分のことよりマスターのことを考えろ! |
ジョージ | もちろん〇〇のことは考えるけど! でも、これだけは譲れない! |
~10分後~
マークス | だから、あんたは──…… |
---|---|
ジョージ | なら、その時は──…… |
ライク・ツー | あ、授業終わった。 おつかれさーん。 |
恭遠 | 次は数学か……。 みんな、宿題をやってきたかなぁ……。 |
---|---|
ケンタッキー | ……覚悟しろ、ジョージ! |
ジョージ | おい! やめろって! |
恭遠 | ──ん!? 喧嘩か! ジョージとケンタッキー……そうか、あの2人は……!! |
恭遠 | おい、君たち! 教室で争いはやめるんだ! |
---|---|
ケンタッキー | ……は? |
ジョージ | え……? |
恭遠 | あれ……? |
ジョージ | 争い……? オレたち、別にケンカなんてしてないぜ? |
ジョージ | ケンタッキーの髪をいじって遊んでたら、 やり返されそうになって逃げてただけ! |
ケンタッキー | おう! 俺の髪で散々遊んだクセに、自分は拒否るんだからな! |
恭遠 | そ、そうだったのか……。 誤解してしまって、すまない……。 |
ジョージ | ははっ、気にすんなって! でも、珍しいな! 恭遠が早とちりなんて! |
恭遠 | いや……少し、レジスタンス時代を思い出してな。 ブラウン・ベスとケンタッキーは何かと衝突して、 よく乱闘騒ぎを起こしていたんだ。 |
ジョージ | へ~、そうだったのかぁ。 なんでそんなに仲悪かったんだ? |
恭遠 | ……ブラウン・ベスは、スナイパーという 在り方そのものを嫌っていたからな。 |
恭遠 | 『非紳士的で卑劣だ』、『騎士道精神に反する』 などと否定するような発言を── |
ケンタッキー | あんだと!? 今なんて言いやがった! |
恭遠 | うぐっ!? ま、待てケンタッキー。 落ち着け! 違うんだ! い、今のは! |
ケンタッキー | ああ!? スナイパーをバカにされて 落ち着いていられるかバーローッ! |
ジョージ | わぁぁ! 待て待て! |
ケンタッキー | どけ! 一発殴らなきゃ俺の気が済まねぇ! |
恭遠 | ま、待て! 待て! 拳を降ろし── |
恭遠 | ぐはあぁっ……! |
恭遠 | …………。 |
---|
むっつりと黙る恭遠の頬には、
〇〇によってガーゼが貼られていた。
ケンタッキー | さ、最初から言ってくれりゃあよかったんだよ! イギリス野郎の言葉をたとえで言っただけ、ってさ~。 |
---|---|
ジョージ | 言おうとしたけど、 ケンタッキーが止まらなかったんだろ! |
ケンタッキー | ええ!? そうだっけ!? ハハハ! わ……悪い、悪い! |
主人公 | 【恭遠教官にちゃんと謝る!】 【今度から話をちゃんと聞くこと】 |
ケンタッキー | ウッス、マスター! ……恭遠教官、マジでサーセンっした! |
恭遠 | まぁいいさ。2人が仲良くなったなら、 それ以上嬉しいことはないからな。 |
ジョージ | 優しいなぁ、恭遠! オレがケンタッキーに殴られそうになった時は、 間に入ってくれよな☆ |
恭遠 | それは勘弁してくれ! |
とある日の授業中。
部隊移動の訓練として、
貴銃士たちは匍匐(ほふく)前進を行っていた──。
恭遠 | まずは第一匍匐だ。 |
---|---|
恭遠 | ラインまで到着したら、今度は遮蔽物に身を隠し、 射撃体勢に入ること。では、始め! |
ジョージ | ふんふんふ~ん♪ おーい、みんな! 見てくれ! ……よっと! |
ジョージ | へへ、うまく横に転がれただろ? 次は……後転! そんでもって、倒立前転も! |
恭遠 | そこ! 訓練中に遊ぶんじゃない。 今は器械体操の時間じゃないんだぞ! |
ジョージ | え? 転がる訓練じゃないのか? そもそも『ほふくぜんしん』って、なんだ? |
恭遠 | ……匍匐前進を知らないのか!? |
ライク・ツー | おいおい、それマジボケか? 一応あんたの昔の持ち主も、戦争に行ってただろ。 |
ジョージ | ああ。 だけどオレが知ってる大部隊の移動は、 リズムに合わせて、一列に並んで行進するんだ! |
ライク・ツー | あのな。それは大昔の話。 そんなんじゃ敵にすぐ見つかって的になるだろうが。 |
ジョージ | そうだけど……隠れながらちまちま距離を詰めるより、 堂々と歩いて近づいて撃った方が早くないか? |
ライク・ツー | いやいや、相手に気づかれないように 射程距離に入ってから撃った方が、 被害が少ねーだろ。 |
ジョージ | ん……? どっちにしても、 射程距離内まで近づいたらバレちゃうだろ? |
ライク・ツー | は? なんでバレる? |
恭遠 | ……ジョージ。 現代のアサルトライフルの有効射程距離は、 300mから600mくらいはあるんだ。 |
ジョージ | へっ? ……あ、そういうことか! ついオレの射程で考えてた! 話が噛み合わないと思ったんだよな~! |
ジョージ | マスケット銃は命中率が低いから、 相手の白目が見えるくらいまで近づかないと 当たらないって言われてたんだ。 |
ライク・ツー | ……なるほどな。 |
ジョージ | オレの場合は…… 50~80mでそこそこ狙った通りに命中って感じ! |
ジョージ | 135mで当たればラッキー! 180m以上とかになったら……月を撃つようなもの、 なんて言われたもんでさ~。HAHAHA☆ |
ライク・ツー | 笑いごとじゃねぇだろ! |
ジョージ | とにかく、これでわかっただろ? オレの場合、隠れて撃つより 死ぬ気で近づいて撃った方が、早いしよく当たるんだ! |
ライク・ツー | いや、胸張って言うことでもねぇし。 よくその性能で戦えてたよな……。 |
恭遠 | 昔のイギリス軍のように、倒されても倒されても 進み続けられるほど物量があるならともかく、 君という貴銃士は1人なんだ。 |
恭遠 | 身の安全をできるだけ確保するためにも、 授業は真面目に受けるように! |
ジョージ | りょーかい! |
──過ぎ去りし日の、イギリス・ウィンズダム宮殿にて。
マーガレット | ──それでね、庭を見に行ったら…… わたくしのバラが、とても美しく咲き誇っていたの。 よければ、あなたにも見てもらいたいわ。 |
---|---|
ブラウン・ベス | ああ、ぜひ。楽しみだ。 |
マーガレット | ……あら? まだ、お菓子を食べていなかったのね。 いただいてから行きましょうか。 |
ブラウン・ベス | いや、申し訳ないが……今はちょっと……。 |
マーガレット | えっ……? あなたの好きなキャロットケーキよ。 もしかして、具合でも悪いの……? |
ブラウン・ベス | そうじゃなくて……。 ……実は、気がかりなことが。 |
マーガレット | まぁっ……お菓子も喉を通らないほどに? ねぇ、ブラウン・ベス。 わたくしでよければ、悩みを聞かせてくれないかしら? |
ブラウン・ベス | ……ああ。どうも俺は…… 時々、記憶にない行動をとっているようなんだ……。 |
マーガレット | ……? |
ブラウン・ベス | 知らないうちにコーヒーを飲んでいたり…… ハンバーガーをいくつも食べていたり……。 |
ブラウン・ベス | 普段の自分からは考えられない行動を、 いつの間にかしている。 |
ブラウン・ベス | 実は今朝も──目が覚めると、 食べ散らかしの残骸が、部屋のあちこちに散乱していた。 |
マーガレット | そんな……っ! |
マーガレット | ……まさか。 わたくしに何か、マスターとして問題があって、 あなたに悪い影響が出てしまっているのでは……。 |
ブラウン・ベス | ……! いや、それは有り得ない。 きっと寝ぼけていたとか……そんな理由だろう。 |
マーガレット | そう、なの……? |
ブラウン・ベス | ああ。今朝のことだって、その…… 空腹をどうにかしようと、 過剰な行動をとっただけなのかもしれない。 |
マーガレット | ……ふふっ、盛大な寝ぼけ方ね。 でもそういうことなら、 お菓子はもう下げてもらいましょう。 |
マーガレット | 紅茶も、体に優しいハーブティーに変えましょう。 カモミールなんてどうかしら。 近くにいる侍女を呼んで── |
ブラウン・ベス | いや、俺が行こう。 座っていてくれ、ユア・マジェスティ。 |
ブラウン・ベス | (マスターが笑顔を取り戻してくれてよかった。だが……) |
---|---|
ブラウン・ベス | 俺の、あの奇行は一体……? |
十手 | さて……今日は、煮魚定食にしようかな。 |
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ジョージ | 十手はいつも和食だよな~! 飽きないのか? |
十手 | 全然! 和食に飽きるだなんて、考えられないよ。 |
ジョージ | ふーん、そんなにうまいのか! ならオレも今日は、和食に challengeしてみようっと! |
ジョージ | へぇ~! これが、和食の煮魚かぁ。 美味しそうだな! |
---|---|
ジョージ | それじゃ、さっそく──ととっ!? |
十手 | ハハ。お箸は慣れないと難しいよ! 無理せずフォークで食べるといいさ。 |
ジョージ | いや、なんか箸で食べた方が美味しそうな気がする! 慎重に、慎重に……よし。 |
ジョージ | おおっ……! 味がしみ込んでて……delicious! |
十手 | はは、良かったよ! |
十手 | あっ、ジョージくん。そっちの小鉢のおかずは、 醤油をたらすともっと美味しいよ。 |
ジョージ | Thanks! 醤油って、確かこの黒い液体の── |
ジョージ | わわっ!? |
掴み損ねた醤油さしが倒れて、
ジョージの軍服に黒いシミを作る。
十手 | だ、大丈夫かい!? |
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ジョージ | ぐ、軍服……どうしよう。 軍服にシミが……。 |
十手 | ジョージ君……? |
ジョージ | どうしようどうしよう…… シミなんて……この軍服にシミなんて……。 だめだ……どうしよう、こんな……。 |
十手 | ちょ、ちょっと待ってて! |
十手 | ──お待たせ! 軍服、脱いでくれるか? 今ならこの大根で、シミも落ちるはずだから。 |
---|---|
ジョージ | え? あ、ああ……。 |
十手 | トントントン……!! トントントンっと……!! |
十手 | ……ふぅ。こんなものかな。 ジョージ君、確認してもらえるだろうか? |
ジョージ | ……Wow! すごいよ十手! もう全然目立たないな! |
ジョージ | 助かったよ……! ありがとう! 本当にありがとう……! |
十手 | いやいや、そんな……どういたしまして。 大根の汁とかの汚れはついたままだから、 あとでちゃんと洗った方がいいな。 |
ジョージ | そうか……わかった! このあと、すぐに洗濯するよ! |
ライク・ツー | ──へぇ、綺麗に落ちるもんなんだな。 |
ジョージ | おっ、ライク・ツー! 見てたのか? |
ライク・ツー | そりゃ、あんだけバタバタしてれば イヤでも目につくっつーの。 |
ライク・ツー | お前が服のシミくらいで あんなに取り乱すとは思わなかったし。 なんか意外だったな。 |
ジョージ | ……あはは。そう、かな。 …………。 |
ジョージ | これは、大事なものだから…… オレが汚しちゃ……いけないんだ……。 |
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