メリークリスマス!
クリスマスの苦い思い出を塗り替えるべく、まさかの陽キャと陰キャが手を組んだ。
舞台に立つのは嫌だけど、プロデュースとかはちょっとわくわくする八九である。
パーティ。イルミネーション。きらきらリア銃共のクリスマス。
全然羨ましくはないが、まあ…爆破するほど悪くもねーな。
ちょっとそう思えた、冬の日。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
1年前のこと。クリスマスの街中にて──
八九 | ……くっそぉ……。 |
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ベルガー | ま、元気出せよ、ドーテーくん♥ ケーキは俺が一緒に食ってやるからよぉ! |
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ベルガー | んん、むぐ……んっめぇ~~~! |
八九 | 一緒にっつーかてめぇ1人で食ってんじゃねぇかよ!! 俺のケーキ返せ!!! |
ベルガー | ざぁんねんでした~! もう俺の腹の中でぇーーす!!! |
八九 | て、てめぇ……! ミートパイにすんぞ、このクソウサギ!!! |
八九 | (どこを見てもイチャつくカップルだらけの街中で、 苦痛に耐えながらなんとかクリスマスケーキを買ったのに!) |
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八九 | (それをあのクソウサギめ……! 全部食いやがった!!) |
八九 | うぅ……。思い出しただけで腹が立つ!! |
八九 | ……だが、怒りは何も生まねぇ! 思い出せ八九! お前にはまだ、とっておきのアレがあるだろ……! |
八九 | やっぱり陰キャは陰キャらしく、 部屋でクリスマス満喫するしかねぇ! |
八九は部屋へと戻り、「とっておき」のものを取り出した。
八九 | ……お、あったぜ。 伝説のダンジョンゲー、その名も── |
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八九 | 『Dive to Thanatos(ダイブ・トゥ・タナトス)』──! |
八九 | (数々の神作を生み出した会社のゲームで、 発売前から話題になってたのに……。 トラブルで少数しか出回らなかったプレミアのレトロゲー) |
八九 | (敵を倒し、謎を解きながら地下へと進んでいくシンプルさだが、 やりこみ要素も多くて、地下100階に眠るというお宝に たどり着く難易度はウルトラ級!!) |
八九 | ……噂によれば、 まだ誰も地下100階まで到達してないらしいし……。 こうなったら、24時間ぶっ続けでプレイしてやる!! |
八九 | はははははっ! ゲーオタらしいクリスマスの過ごし方じゃねぇか! |
八九 | セット、オッケー! パワー、オン!! |
八九 | ダイブ、トゥ、タナトス──! |
──バン!!
八九 | ッ!? |
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ゲームを起動した瞬間、勢いよく部屋の扉が開いた。
邑田 | ほっほっほ。めりーくりすます! |
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在坂 | 邑田、在坂の予想が当たった。 |
八九 | はあっ!? お、お前ら……なんで……っ!? |
邑田 | やはり在坂の言う通り、見に来て正解じゃったのう。 くりすますなのに、部屋にこもってげぇむとは、 日本男児の風上にも置けぬ陰気っぷりじゃな。 |
在坂 | クリスマスは皆で楽しくパーティーをするものだと 在坂はマスターから教えてもらった。 だから、八九もパーティーに参加しよう。 |
八九 | 俺はパス。 あーいう、賑やかっつーか……。 陽キャの集まりみたいな場所、苦手なんだよ。 |
在坂 | 八九が寂しいなら、在坂がそばにいて話そう。 |
八九 | いやだから、寂しいわけじゃねぇんだって! |
在坂 | では、どうしてだ? 理由を教えてほしい。 納得のいく理由なら、 在坂は八九をパーティーに連れて行くのを諦める。 |
八九 | うっ……そ、それは……その、だな……。 伝説のゲームを……ごにょごにょ……。 |
邑田 | ええい! はっきり答えよ! 何よりも在坂が誘っているのに断るとは、言語道断! |
八九 | ちょっ……! まだ答えてねぇのに、引っ張んな!! 俺は絶対に部屋から出ねぇぞ! |
邑田 | 集団行動を乱すでない! 聞き分けのない輩には……ちぇすとー!! |
八九 | いででででっ! ギブギブ!! 行きますっ! 行かせていただきます……! |
邑田 | よかったのう、在坂。 八九も共にパーティーに参加するそうじゃ。 |
在坂 | 八九、きっとパーティーは楽しいはずだ。 在坂も邑田も、八九の近くにずっといる。寂しくない。 |
八九 | ハハハハハ……嬉シイナァ……。 |
──クリスマスパーティー後。
八九 | 畜生! わかってたけど、パシリ役がほしかっただけじゃねーか! |
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八九 | 来年こそ、あいつらに邪魔されずに くりぼっちを満喫してやる……!! |
──現在。クリスマス数日前。
八九 | そろそろあの季節がやってきたぜ……。 |
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八九 | 去年と同じ轍は踏まねぇ。 今年こそは誰にも邪魔されない、 優雅なくりぼっちを満喫してやるぜ……! |
八九 | 陽キャのするクリパなんかより、 1人でも楽しいじゃねぇか! って絶対思うような 計画を立てねぇとな……。 |
八九 | まずはあいつらに邪魔されねぇよう、 1人になれる場所を探すか……。 寮に居ると知れたらパシりに使われるし、街に出るしかねぇな。 |
八九 | (クリスマスが近いせいか、人が多い……。 こんな中で、くりぼっちになれる場所なんてあんのか……?) |
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八九 | (はぁ……。 昔はミカエルのピアノリサイタルに呼んでもらったっけ。 あれは俺の銃生で一番いいクリスマスだったな……) |
八九 | (ミカエル……クリスマス休暇はベルギーに帰っちまったし……) |
八九 | ……ん? あそこで配ってるの、地域新聞か。 |
八九は新聞を配っている人に近づく。
新聞を配る人 | はい、お兄さん。 今週はクリスマス特集だよ。 |
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八九 | ふーん……クリスマス特集……。 |
新聞を配る人 | それを読めば、このあたりのクリスマス情報がわかるし 100倍楽しくなること間違いなし! お兄さんも、良いクリスマスを! |
八九 | お、おう……。 |
八九 | (正直、地域新聞にそんな期待はしてねぇけど……。 ほら、あれだ。知ったかぶりってのもよくねぇしな。 この辺りの地理を把握するっつーのも仕事のうちっつーか……) |
八九 | とりあえず、読んでみるか。 |
八九は新聞をめくってみる。
八九 | うっ……!! |
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八九 | イルミネーション、特集……だと? |
八九 | 左を見ても右を見ても、カップル。 その上、前も後ろもカップルに囲まれるような場所……。 絶対楽しめねぇ……息絶えるわ! |
八九 | 次のページは……カフェのクリスマス限定メニューの紹介か。 へー……。これは結構いいんじゃね……? |
八九 | けど、1人にしては量が多いな── ……げ、 『クリスマススペシャル! カップル限定メニュ』……。 |
八九 | はぁ……もう読む気失せたわ。 |
八九は新聞を丸めるとポイと放り出し、再び街中を歩き始める。
八九 | どこか……。 |
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八九 | くりぼっちが満喫できそうな……。 |
八九 | 静かで、1人になれそうな場所……。 |
八九 | 見つかんねぇぇぇぇ! |
八九 | 日本と違って、こっちって カラオケも漫喫みてぇのもねーのな……。 どこにも行きようがねぇ……オワタ。 |
八九 | いや、諦めたらそこで試合終了だ! まだどっか行けるところがあるはず……! |
八九 | ここは恥をしのんで道行く人に聞くべし……! |
八九は近くを歩いている人を呼び止める。
街の人 | ん? 何? |
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八九 | す、すんませんっ! ちょっと教えてほしいことがあって。 あのー……夜でも開いてる店って、ないっすかねぇ? |
街の人 | ああ、それならいい場所があるよ。 ちょうど今から向かうから、一緒に行こうか。 |
八九 | ! あざーっす!! |
街の人 | さぁ、着いたよ! |
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扉を開けた瞬間、大音量の音楽が耳を刺激し──
回るライトの下ではたくさんの男女が踊り狂っていた。
街の人 | 夜通し開いている、最高の店さ! じゃあ、良い夜を! |
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八九 | あっ、ちょ……! |
八九 | (こんなノリノリな音楽とギラギラライトの中、 置いてかれちまった……!? どうする? 俺……!?) |
クラブ客1 | Yeaaaaah! お兄さん、ボーッとしてノリ悪くね? 嫌なこと忘れて踊ろうぜ~! |
八九 | えっ!? い、いやいやいや……! 俺、別に踊りに来たわけじゃ……っ! |
クラブ客2 | アハハ! クラブに踊りに来たわけじゃないって、 なにそれウケる~! 真面目すぎっしょ! 俺らとダンスバトルしようぜー! ウェーイ! |
クラブ客1 | おっ、いいねー! どうせならみんなで楽しもうぜ~! |
クラブ客 | ウェーイ!! |
八九 | な……なんだこのノリ……。 ついていけねぇ……マジ無理……。 撤収! 撤収だ……! |
八九 | はあぁぁぁぁ…………。 |
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八九 | (もう無理だ……。 この街に俺の居場所はない……士官学校に帰るか……) |
ホテルのスタッフ | こちら、当ホテルのクリスマスキャンペーンになります。 よろしければぜひ! |
八九 | えっ……? |
八九 | (なんだこれ……? お1人様スペシャルコース??) |
──クリスマスからしばらく経った、とある週末。
八九 | あ~……。 部屋でゴロゴロして過ごすの最高……。 |
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八九 | さて……ゲームをするか、漫画を読むか……。 どっちにすっかな~……。 |
──コンコン。
八九 | ん? |
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八九 | (来客の予定なんてねぇはずだけど……。 まさか、また邑田か在坂が俺をパシるために呼びに来たのか?) |
八九 | (冗談じゃねぇ! せっかくの引きこもりタイムを邪魔されてたまるか。 よし、居留守で乗り越え……) |
──ドンドンッ!
八九 | ヒッ……! |
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八九 | (仕方ねぇ……) |
八九 | えっ……!? |
ジーグブルート | やっぱりいたじゃねぇか。 いるならさっさと出て来やがれ。 |
八九 | わ、悪ィ……。 てか、どうしたんだ? 俺になんの用……? |
ジーグブルート | お前宛に出版社から荷物が届いてたから、持って来ただけだ。 ほらよ。 |
八九 | ……ああ、サンキュ。 |
ジーグブルート | じゃあな。確かに渡した……ぜ……? |
八九 | ん……? |
八九 | (な、なんだ!? 俺の背後、すっげぇ睨んでんだけど! 変なモン、置いてねーよな……?) |
ジーグブルート | おい……。 |
八九 | な、なんだよ……。 |
ジーグブルート | ……んだ、この部屋……。 |
ジーグブルート | 汚ねぇ!! |
八九 | へ? あ~……そう言えば、掃除したのいつだっけ……。 |
ジーグブルート | 食べっぱなしのメシに、パンの包み紙……。 いつ飲んだかわかんねぇ色してる液体入りのコップ……。 こんな部屋で生活できるとか信じらんねえぜ。 |
八九 | 確かに……やべーかも。 さすがに片づけっか……。 |
ジーグブルート | そうしろ。 |
八九 | (あ、そこは手伝ってくれねぇのか……いいけどよ) |
八九 | はぁ……とりま服から手をつけるか。 綺麗そうなのはたたんで棚に入れて……と。 |
八九 | ん? この紙袋なんだっけ。 |
見覚えのない紙袋を開けてみると、
そこにはクリスマスに買ったおしゃれな服が入っていた。
八九 | あー……ここにしまってたんだっけ……。 |
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八九 | そういやあれ以来1回も着てないし、たまには着てみるか……? |
八九 | …………。 |
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八九 | (着替えたノリで街に出てきたものの……。 やっぱり慣れねぇな……帰るか……) |
お姉さん | あの……お兄さん、今お時間ありますか? よかったら、お茶しませんか? |
八九 | え……? |
八九 | (い、今のセリフ……! 空想の世界では聞くけど現実に存在するとは……!!) |
八九 | (逆ナン!? マジかよ……いやでも、こんなのありえねぇ。 俺みたいな地味なやつに声かけるとか…… どう考えてもありえねぇ!) |
八九 | (それか、高い壺とか宝石売られるんじゃ? んで、買わねぇと店の奥から怖い男が出てきて……) |
お姉さん | えっと……急に誘われて驚いてますよね。 私のオゴリでいいんで、お茶してください! |
八九 | (なんでこんな必死なんだ? 俺、もしかして睡眠薬で眠らされて売られるのか……? オゴリと言っといて、後で何倍もの金額を請求されたりして……) |
八九 | (そ、そういうことだよな。 よし、ここはわかってるよ~みたいなノリで……) |
八九 | た……大変だねお姉さんも。ノルマとかあるんでしょ? |
お姉さん | え……?? ち、違います! 私、お兄さんに一目惚れして……! |
八九 | いいって、もう演技しなくて。 そういうの、もっと純粋な男にしたほうがいいぜ。じゃあな。 |
お姉さん | ま、待って……! |
八九 | (はぁ……こういう服着ると、ああいうのも寄ってくんのか……。 やっぱりしまっとこ) |
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