連合軍ドイツ支部特別司令官と、その補佐。
共に世界に喚ばれた時から無二の関係で、その心を疑ったこともなかった。
それを初めて疑った。……きっと必要な事だった。
獣と銃が、真に戦場で並び立つために。
まだ、血も、人の体温も苦手だ。けれど、少しずつでも進んでいきたい。
恐怖や義務感故ではなく、共に歩もうと選んでくれた者達に胸を張れる自分であるために。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
〇〇がドライゼとエルメのマスターになる以前──
ある内紛地帯の前線で、3人の貴銃士たちが軍務についていた。
ジーグブルート | 絶対非道──心銃! |
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親世界帝派武装兵1 | ぐぅっ……! |
親世界帝派武装兵2 | と、投降だ! 投降する!! |
武装兵数人が手を挙げて、ゆっくりと物陰から出てくる。
ドライゼ | 攻撃やめ! 投降者を受け入れろ! |
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ジーグブルート | ああ? こっちを油断させて自爆でもする気かもしれねぇぞ。 この前あったろ。 こいつらもさっさとやっちまえ。 |
ドライゼ | おい! やめろ! 正規兵ではないとはいえ── |
ジーグブルート | 絶対非道ォ!! |
ドライゼ | ジーグブルート!! |
ドライゼの静止を無視して、
ジーグブルートは親世界帝派組織の武装兵を無力化していく。
ジーグブルート | ははっ、全員ぶっ倒してやったぜ! 完全制覇だ! |
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ドライゼ | 貴様……ッ! |
ジーグブルート | てめぇ……何しやがるっ! |
ドライゼ | 投降の意思を示していた者たちを一方的に攻撃するなど、 あってはならないことだ! 貴様は殺戮を楽しんでいる……獣と同じだ! |
ジーグブルート | ……ハッ! てめぇにだけは言われたくねぇな。ご立派な獣サマがよ。 |
ドライゼ | ……なんだと? |
ジーグブルート | 自覚がねぇのか? ……俺を殴ってる時のてめぇは、野獣そのものだろうが。 |
ドライゼ | ……! |
再び拳を振り上げようとしたドライゼだが、
ハッとして、強く握りしめた拳をゆっくりと下ろした。
ジーグブルート | ほら、その目だ! 今も殺る気満々だったろ! |
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ジーグブルート | ついでにもう1つ、いいこと教えてやるよ。 ……てめぇ、俺を殴りながら笑ってるぜ。 |
ドライゼ | ……!!! |
エルメ | こら、ジグ。いい加減にしなさい。 |
ジーグブルート | ああ? なんだよ。 |
エルメ | ドライゼ、来てくれるかな。 兵からの報告があるみたいだよ。 |
ドライゼ | ……ああ。 |
エルメ | ……ジグ。上官の命令無視は重大な軍規違反だよ。 あとでお仕置きだからね。 |
ドイツ料理店で一騒動があったあと、
ドライゼは寮の部屋で物思いにふけっていた。
──ぐぅぅぅ……。
ドライゼ | (……! そういえば、今日はろくに食事を口にしていいないな) |
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ドライゼ | (まあいい……寝るか) |
…………ぐぅぅ。
ドライゼ | (くっ……腹が減って眠れん……!) |
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ドライゼ | (どういえば…… エルメは、鉄の日にはほとんど食事をとらないな) |
ドライゼ | (あいつはよく飲まず食わずでいられるものだ。 俺にはこんな生活は無理だ……) |
ドライゼ | はぁ……何か食べるものは……。 |
部屋の中を探してみるが何も見つからず、
ドライゼは重い足を引きずるようにして部屋を出た。
ドライゼ | (む……? 中からいい匂いがする) |
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ドライゼ | 誰か、いるのか……? |
タバティエール | お、ドライゼか。 ちょうどよかったぜ。 |
ドライゼ | タバティエール……こんな時間に何を? |
タバティエール | 見ての通り……ほら、ジャーマンポテトだ。 ちょうどこれから差し入れしようと思ってたんだが、 来てくれたおかげで手間が省けたよ。 |
ドライゼ | ……! ということは、俺に……? |
タバティエール | ああ。腹を空かせてるんじゃないかと思ってな。 ほらよ、Bon Appetit! |
ドライゼ | 礼を言う……! |
美味しそうな匂いを前に我慢ができず、
ドライゼはジャーマンポテトを勢いよく食べ始めた。
ドライゼ | うまい……! 生き返る……!! |
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タバティエール | もうなくなっちまったのか!? |
──ぐぅぅ……。
ドライゼ | くっ! 沈まれ俺の腹! 食べたばかりだというのに……! |
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タバティエール | ははっ、これだけじゃ足りなかったみたいだな。 カレーも食べるか? |
ドライゼ | いいのか……!? |
ドライゼはカレーもぺろりと平らげた。
ドライゼ | ……うまい! その……おかわりをもらえるだろうか……! |
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タバティエール | おう、まだまだあるからいっぱい食べな。 |
ドライゼ | タバティエール……恩に着る。 |
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タバティエール | ははっ、そんなにかしこまらなくても。 それに、俺としてもいろいろ気になってたもんで、 こうやって話せてよかったよ。 |
ドライゼ | …………。 エルメは、君に何か言っていたか? |
タバティエール | いや……。 |
タバティエール | 子羊のハートフランベ作戦で またどうにかならないかと思ったんだが…… いくら呼んでも返事すらなかった。 |
ドライゼ | ……そうか……。 |
タバティエール | ドライゼが呼びかけてみたらどうなんだ? 俺よりずっと望みがあると思うんだが。 |
ドライゼ | ……俺は、まだあいつを呼べない。 俺自身も、まだ整理がついていないのだ……。 |
ドライゼ | 悪いが……もう少し頭を冷やしてみる。 |
タバティエール | そうか……わかった。 |
タバティエールはそれ以上何も言わず、
去っていくドライゼの背中を見送ったのだった。
ドライゼとエルメが復活してしばらく経ったある日。
2人はグラウンドで自主トレーニングを行っていた。
ドライゼ | スペシャルマッスルメニュー、その79! エルメ、まだいけるな? |
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エルメ | Keine Kompromiss……もちろんだよ。 妥協せずにいこう。 |
ミカエル | おや、あれは……。 |
カトラリー | ミカエル? ちょっと……どこ行くの? |
エルメ | ……? 君たちは、確か……。 |
ミカエル | …………。 |
ミカエルは無言で2人に近づき──
突然、ドライゼの手を掴んだ。
ミカエル | ねぇ、きみ── |
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ドライゼ | ……や、やめろっ……! |
ミカエル | わっ……。 |
驚いたドライゼに突き放され、
ミカエルはよろめき、倒れそうになった。
カトラリー | うわあっ!? ミカエル、大丈夫!? |
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ミカエル | …………。 ああ……大丈夫だよ。 |
カトラリー | ちょっと! ミカエルになんてことするの!? 天使に乱暴するなんて信じられないよ!! |
ドライゼ | も、申し訳ない!! |
カトラリー | こんな野蛮な奴は放っといて、もう行こう! |
ミカエル | ノン……彼の手が気になるんだ。 |
ドライゼ | 手……? |
カトラリー | ああっ、もう! ミカエルは、あんたの手が気になるって言ってるんだよ! |
カトラリー | 早く見せなよ、ほら! |
エルメ | 忙しないね、君。 |
カトラリー | うるさいな……! いいから見せて! |
ドライゼ | あ、ああ……。 |
カトラリーの催促を受けて、
ドライゼはミカエルの前で両手を広げてみせた。
ミカエル | 血豆と傷痕がたくさん……思った通りだ。 |
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ミカエル | きみ、それでは美しいピアノ演奏ができないよ。 |
ドライゼ | ……ピアノ……? |
ドライゼ | (なぜ今、ピアノなのだ?) |
ミカエル | 手を大事におし。 |
カトラリー | ちょっ、ミカエル!? もういいの……!? |
カトラリー | え、えーっと、わかった? 手を大事にしろって。 ミカエルが心配してくれたんだからね! |
ドライゼ | …………。 |
ドライゼは、固くゴツゴツとした自分の手を眺める。
ドライゼ | ……俺の手では、綺麗な音を奏でるに値しないか。 |
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エルメ | ドライゼの手、俺はいいと思うけどね。 鍛錬を重ねた者の証が刻まれてて。 |
ドライゼ | ……そうか。 |
エルメ | そうだよ。 |
ドライゼ | エルメ……改めて言っておく。 お前に感謝している。 |
エルメ | ……ふふっ。さ、トレーニングを続けようか。 |
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