連合軍ドイツ支部特別司令官と、その補佐。
ずっと相容れないと思っていた、公の相棒。
……本人に言うつもりもなかった本音を、
あの時何故言ってしまったのか、彼は理解していない。それでも、言ってよかったのだ。
一体これは何だろうね。嫌い、好き、ムカつく、羨む……ううん違うな。
彼の言動を知る度に、上手く言語化できない衝動があるんだ。
君、これは何だかわかる?
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
これは、〇〇が
エルメとドライゼのマスターになる以前のこと──。
連合軍ドイツ支部の一室にて、
作戦会議が行われようとしていた。
エルメ | ……おや? ユリシーズ少佐の姿が見えないね。 |
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ドイツ支部兵士 | はっ。 ユリシーズ少佐は本日、体調が悪いため欠席です。 |
エルメ | へぇ。 |
エルメ | (最近は敵の侵攻が多く、連戦続きだし…… 体調不良を訴える日が増えてきたようだ) |
ドイツ支部兵士 | エルメ特別司令官補佐……? |
エルメ | ──ああ、会議を始めよう。 ではまず、状況の報告から。 |
ドイツ支部兵士たち | Jawohl! |
エルメ | ドライゼ。 一緒にユリシーズ少佐のお見舞いに行かないかい? |
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ドライゼ | 必要ない。行くならお前だけで行け。 |
エルメ | そんなのダメだよ。俺たちのマスターなんだから。 報告もあるし、特別司令官としての責務から逃げるの? |
ドライゼ | …………。 |
エルメ | ……ユリシーズ少佐、失礼するよ。 |
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ダンロー | ドライゼ特別司令官、エルメ特別司令官補佐……! |
ダンロー | うっ……。 |
ダンローは反射的に起き上がるが、
すぐにうずくまってしまう。
エルメ | そのままでいいよ。 このところ体調が悪いみたいだから、 ちょっとお見舞いに来ただけ。 |
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エルメ | 君は俺たちのマスターだから。 |
ダンロー | ……。 気を遣わせて申し訳ありません……。 |
ドライゼ | …………。 |
ドライゼは何も言わず、
ダンローから目を逸らしたまま何も言わない。
ダンロー | ミュンヘンの戦況はいかがでしょうか。 |
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エルメ | 苦戦しているよ。 インゴシュタットの野戦病院を視察したけれど── |
エルメは淡々と今日の作戦報告や戦況を説明する。
一方、ドライゼは眉間にしわを寄せて口を閉じたままだ。
ダンロー | ……がはっ! ぐっ……。 |
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エルメ | ……! |
ダンロー | ……失礼しました。 では、ミュンヘン奪還に向けて今一度……、ゴホッ! |
エルメ | ……今日はお暇するよ。ゆっくり休んで。 ね、ドライゼ。 |
ドライゼ | ……ああ……。 |
ドライゼ | …………。 |
ドライゼ | (この人は近いうちに死ぬ……。 何も思うな、何も……) |
ドライゼの眉間には更に深いしわが刻まれている。
エルメ | …………。 |
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エルメ | (君は平然としながらも、 本当は目の前で命の灯火が消えゆくのを直視できない。 歯痒い、情けない、悔しいね) |
エルメ | (ま、だからこそ、ここへ一緒にきてもらったんだけど) |
エルメとドライゼが、部屋を出ようとした、その時──
ダンロー | ドライゼ特別司令官! |
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ドライゼ | ……なんだ? |
ダンロー | すみませんが……この手紙を出していただきたいのです。 |
エルメ | それは? |
ドライゼがダンローから受け取った手紙には、
「フィルクレヴァート士官学校 〇〇」
と書かれていた。
エルメ | (士官学校……? 血縁者が……? いや、ユリシーズ少佐は天涯孤独のはず……) |
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ドライゼ | ……わかった。出しておこう。 |
ダンロー | 恩に着ます。 |
この手紙が、エルメたちの運命を
大きく変えることになるとは、誰も思ってもいなかった──。
ドライゼとエルメ、ジーグブルートが
ドイツの作戦から帰ってきて、数日が経った頃。
ジーグブルートはスプリングフィールドを連れて、
ドイツ料理店にやって来ていた。
スプリングフィールド | ここが、本場ドイツの料理を食べられるところなんですね。 |
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ジーグブルート | ああ、肉も美味いがやっぱりビールが格別で…… あの時はゆっくり飯を食う暇なかったからな。 お前にドイツ料理のことを教えながら食うとするか。 |
スプリングフィールド | な、何かあったんですか? |
ジーグブルート | いや、大したことねぇけど……ドライゼの奴が── って、胸クソ悪ィこと思い出すよりも食う方が先だ! |
ジーグブルート | お前はこれ食ってガッツつけろ! |
スプリングフィールド | は、はい! ジグせんせい……! |
スプリングフィールド | むしゃっ! もぐっ、もぐっ! |
スプリングフィールド | ……っ! とても美味しい……です! 噛むたびに、味わいが……! |
ジーグブルート | だろ? ここは結構、イケるんだ── |
ジーグブルート | おい、隠れろ! |
スプリングフィールド | え? は、はいっ! |
スプリングフィールドは、
ジーグブルートの指示に従い、テーブルの下に隠れる。
スプリングフィールド | どうしたんですか? |
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ジーグブルート | しっ! |
ジーグブルートの目線の先には、
店の入り口に立つドライゼとエルメの姿があった。
エルメ | うちのジグ、委員会の当番をサボって 街に来ているみたいなんですけど…… こちらの店には顔を出してませんか? |
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店主 | え、ええっと……。 |
ジーグブルート | あいつら……! 当番ってあいつらが勝手に決めた煙突掃除当番だろうがっ! |
スプリングフィールド | あっ! |
ジーグブルート | いってッ!!! |
怒りのあまり、ジーグブルートはテーブルの下にいることを忘れ、
立ち上がろうとしてテーブルに頭をぶつけた。
エルメ | …………。 |
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スプリングフィールド | だ、大丈夫ですか!? |
ジーグブルート | (やっべ! エルメの野郎に見つかったか!?) |
ジーグブルートは、口に手を当てて再び小さくなり、
テーブルの下から様子を窺う。
エルメ | 月水金のこの時間にジグが店に来ていたら、 今度は追い返してくださいね。 |
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店主 | はぁ。わかりました。 |
ドライゼ | よろしく頼む。 では、我々はお暇しよう。エルメ。 |
エルメ | そうだね。 |
ドライゼとエルメが店を出ようとするが、
エルメは踵を返して、店に戻ってくる。
エルメ | それと──あのテーブルの会計をお願い。 |
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店主 | は、はい。 |
スプリングフィールド | (会計って……まさか……) |
スプリングフィールドが、
少しだけテーブルの下から顔を出すと
微笑むエルメと目が合う。
スプリングフィールド | ……っ! |
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エルメ | じゃあ、これで。 |
ジーグブルート | ……あいつら行ったか? ったく、俺のこと監視しやがって……! |
スプリングフィールド | あー……。 ジグせんせいにとっては鬱陶しいだろうと思いますけれど……。 |
スプリングフィールド | あれはたぶん、心配性なだけですよ。 一応お兄さんなりに、可愛がろうとしてくれてるんだと思います。 |
ジーグブルート | あぁ? んなわけあるか! さっ、ドイツ料理を楽しむぞ! |
スプリングフィールド | (素直じゃない弟を持つお兄さんと、 愛情表現が独特な兄を持つ弟…… ……ふたりとも、大変だなぁ……) |
──その日。
フィルクレヴァートは今年一番の寒さを記録した。
エルメ | ……くしゅん! |
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主人公 | 【大丈夫?】 【風邪?】 |
エルメ | 大したことないよ。 でも、今日は一段と冷えるね……くしゅん! |
十手 | エルメ君がくしゃみ? 珍しいこともあるもんだ。 |
十手 | ……わっ! 手がすごく冷えてるじゃないか! |
主人公 | 【早く温かくしないと】 【風邪をひいたら大変!】 |
十手 | そうだ! 2人とも、俺の部屋にくるといいよ! |
エルメ | ……あれはなんだい? |
---|
エルメが指差す方を見ると、
テーブルの板の下から布団のような布が飛び出していた。
十手 | これは、こたつさ! 暖かいから入ってごらん! |
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主人公 | 【お言葉に甘えて】 【……お邪魔しまーす】 |
〇〇とエルメは、
恐る恐るこたつの中に入っていく……。
エルメ | ……これは! |
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十手 | どうだい? いいもんだろう? こたつに入りながらお茶を飲んで、みかんを食べる。 これが日本風の冬の過ごし方ってわけさ! |
エルメ | ……動かなくても暖かいなんて、画期的だ。いいね。 |
──次の日、
〇〇が談話室にいると、
十手が慌てた様子で駆け寄ってきた。
十手 | 大変だ、〇〇君! エルメ君が俺の部屋でまったく動かなくなってしまったんだ! |
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十手 | 悪いが一緒に俺の部屋に来てくれないか? |
主人公 | 【もちろん!】 【エルメが……珍しい】 |
十手 | 俺も最初はびっくりしたんだが……とにかく急いできてくれ! |
八九 | ぎゃあーーーーっ!! |
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十手 | は、八九君!? どうしたんだい? |
八九 | 裸のイケメンが……十手の部屋で転がってる……。 |
八九 | おーい、十手~。 この間貸したラノベなんだけどよ……。 |
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エルメ | …………。 |
八九 | ふぎゃっ!? |
八九の目に、こたつで眠る何者かの姿が飛び込んでくる。
その美しい寝顔は眩く輝いていて──
八九 | (えっ!? こたつの神様……!?) |
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八九 | ん……? いや、よく見たら……ドイツのエルメか……? |
エルメ | ん~……。 |
八九 | えっ、なんで十手の部屋にエルメが……ってか、 裸……そもそも、こたつ……で寝て……??? |
八九 | ぎゃあーーーーっ!! 情報量が多すぎて処理しきれねぇーっ!!! |
八九 | ……というわけなんだが、 どうしてエルメが裸で十手のこたつで寝てんだ? |
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十手 | 気に入ってくれたのは嬉しいけど、 脱水や低温火傷が心配だなぁ。 それにこたつで寝ると余計に風邪をひいてしまうよ。 |
主人公 | 【裸でこたつ……】 【ま、まさか……!】 |
八九 | 〇〇、何かわけを知ってんのか? |
主人公 | 【(鉄の日に入ったのかも……)】 【(でも、これは他の貴銃士には言えない)】 |
十手 | 〇〇君? |
主人公 | 【特殊な事情だから……】 【今日まるまる1日、エルメに部屋を譲って】 |
十手 | ええっ!? |
八九 | そんなもん、エルメを動かせばいいんじゃねーか。 し、失礼しまーす。 |
エルメ | ……ぐぅ……。 |
腕を引っ張りこたつから出そうと引っ張ってみるが、
エルメはその手を振り払い、より奥へと引っ込んでいった。
八九 | ……仕方ねぇ、諦めろ。 |
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十手 | そ、そんなぁ……! |
八九 | しかし、こたつの魔力はイケメンさえもだめにするのか…… 恐ろしいやつだぜ。 |
十手 | 俺のこたつぅ……!! |
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