イタリア遠征任務で出会ったのは、雀蜂の名を冠するマフィアの貴銃士達。
陽気な彼らに気を許し、カトラリーは本当に楽しい時間を過ごした。
銃声が真実を暴く瞬間まで……間違いなく、彼らはカトラリーの友だった。
イタリア観光、楽しかったよね。
ピッツァもジェラートも美味しくて、海も街も綺麗で、みんな笑っててさ……やっぱり僕、あれを嫌な思い出にしちゃうたくないな。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
カトラリー | ど、どうしよう……。 眠れない……。 |
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カトラリー | (僕がイタリアの任務に行くメンバーに選ばれるなんて……。 美味しいものがたくさんありそうで楽しみだけど、 ドキドキするな……ちゃんとした「任務」って初めてだし) |
カトラリー | (フランスの時は任務かと思ったら、 バカンスみたいなものだったから拍子抜けだったからなぁ。 ……あれはあれで、楽しかったけどさ) |
カトラリー | (〇〇と海外での任務、 なんだか緊張するな……。 一緒に行くのはマークスらしいし) |
カトラリー | ……ハッ! そうだよ、頼れる相手がマークスだけなんだよ……!? あんまり頼りにならないじゃん……! |
カトラリー | 僕が頑張らないと……! |
ファル | それで、私に何か御用です? まさか勉強を教えてほしい、とか? |
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カトラリー | 違うよ! その……遠征任務について、色々聞こうと思っただけ。 |
カトラリー | ファルは、任務で結構あちこちに行ってるでしょ? 気を付けなきゃいけないこととか知ってそうだから教えてよ。 |
ファル | はぁ、なるほど。 |
ファル | そうですね……基本的なことですが、目的地の地理や気候、 それから地区ごとの治安などを調べておくといいですよ。 |
ファル | 特に危険な地域に行く場合は、 その傾向と対策なども知っておくべきでしょうね。 |
カトラリー | 傾向と対策……! わかった、イタリアに関する本を持ってくる! |
カトラリーはイタリアに関する本を片っ端から集めて、
閲覧スペースで読み始める。
カトラリー | イタリアは統一国家になるのが遅かったんだね。 それで地域ごとの特色が強い……へぇ……! |
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カトラリー | 南北では気候もかなり違うんだ。 生活習慣や食生活も異なってる……ふぅん……。 |
ファル | 地政学という学問がありますが、 地理的な条件と、その国の特性や政治には 密接な関わりがあることが多いですからね。 |
カトラリー | この地区とこの地区は、治安がよくないんだね。 えっ、イタリアってスリが多いんだ。 鞄はちゃんと口が完全に閉じるものを……へぇ。 |
カトラリー | リュックは布を切り裂かれてしまうこともある!? じゃあ、鞄は抱きかかえなきゃいけないのかな。 |
ファル | 用心するに越したことはないでしょう。 アウトレイジャー討伐ならば、 そういった地区に派遣される可能性も考えておくべきかと。 |
カトラリー | わかった。 美術館や博物館、オペラのチケットの路上販売は要注意、 偽物を売られることもある……ええ……!? 覚えとかないと! |
ファル | ……観光じゃないんですから、 そのあたりはどうでもいいのでは? |
カトラリー | ね、念のためだよ! 時間が余って博物館とかオペラに行くかもしれないでしょ! |
ファル | はぁ……そうですか。 |
──数十分後。
カトラリー | わー! このピッツァすごい! 職人さんが手延べした生地をピッツェリアの石窯で焼き上げると、 外はカリッと中はもちもちになるんだって……! |
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カトラリー | こっちは……オリーブオイルのジェラート!? 想像つかないな……。 |
カトラリー | ふむふむ、ミルクとオリーブの香りが入り交じって、 濃厚なコクにまろやかな舌触りが……へぇ~! |
カトラリー | おいしそうかも……これはチェックだね。 南イタリアは魚介とトマトとオリーブオイルをふんだんに使った 料理が特徴なんだ……アマルフィの四角いパスタに……。 |
カトラリー | これと、こっちもメモしとかなきゃ! |
ファル | あの、あなた、任務でイタリアに行くんでしょう。 地理より熱心に見ていますが、それは関係があるんですか? |
カトラリー | ファルったら! せっかくなんだから、その場所の美味しいもの食べなきゃ! |
カトラリー | ほらほら、見てよこのチーズ! ファルも好きそうじゃない!? |
ファル | ほう、モッツァレラですか。 カプリチョーザは定番のアンティパストですね。 |
カトラリー | なんだかお腹空いてきちゃったな……。 |
カトラリー | ね、ファル! 食堂行こうよ! 何か食べたくなってきちゃった! |
ファル | ええ、構いませんよ。 ちょうどお昼時ですし。 |
カトラリー | ふふっ。まったく、任務の下調べも楽じゃないよ。 さて、今日のメニューは何かなー。 |
イタリアでの任務中。ボニートを助けるために海に飛び込んだ
〇〇とマークスがシャワーを浴びている間、
カトラリーは1人で待機していた。
カトラリー | …………。 |
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男1 | 見たか、フルハウスだ! |
男2 | ふざけんな! イカサマしてやがるな、おい。 |
男1 | 負け惜しみはやめとけ。 ほら、チップをよこせ。 |
男2 | チッ……。 |
カトラリー | (賭博ポーカーだ……! っていうか、ここにいる人たちみんなガラが悪すぎ……!) |
カトラリー | (それにこの家、なんかいかつい装飾が多いし……。 外の様子からして、ぜったい普通の家じゃないよね。 もしかしてっていうかほぼ確実に、マフィアのアジトでしょ!?) |
カルカノーレ | よっ、くつろいでるかい? |
カトラリー | わっ! |
カルカノーレ | はは、そんな驚くなよ。 全員分の着替えを持ってきたんだ。 それなりのスーツだぜ。 |
カトラリー | 全員分? 僕は濡れてないから着替えはいらないけど……。 |
カルカノーレ | ん、そうかい? まあ、あの2人みたいにびしょ濡れにはなってないけど……。 |
カトラリー | な、何? |
カルカノーレ | 腹のところ、気づいてないのか? |
カトラリー | え……? あっ、嘘! ジェラートがついてる!? |
カルカノーレ | やっぱり気づいてなかったのか! ボニートの騒ぎの時にこぼしたんだろうな。 素敵な服なんだから、シミになる前に洗った方がいいぜ。 |
カトラリー | う、うん……。 |
カルカノーレ | ってことで、早く着替えちゃいな。 服は俺がちょっと預かるよ。 |
カトラリー | 着替えてみたけど……。 |
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ベネッタ | へぇ……よく似合っている。 まるでカラヴァッジョが描いた少年のようだ。 |
カルカノーレ | おお! こりゃ、ミラノのコレクションから声がかかるかもしれないね。 |
カトラリー | そ、そういうのいいから! っていうか、僕の服はどこに持っていったの? |
カルカノーレ | ああ、シミ抜きしてきたよ。 干してきたけど、乾くまでは早くて3時間ってとこか。 |
カトラリー | え……あの、まさかとは思うけど、 カルカノーレさんが洗ってくれたの? |
カルカノーレ | Si! 食器用洗剤と歯ブラシでね、こうトントンっとすると、 油分が含まれてる汚れも綺麗に落ちるのさ。 |
ベネッタ | 洗面所で何をしているのかと思えば……。 ファミリーの幹部がちまちまシミ抜きなんかするな。 |
カトラリー | (……! ファ、ファミリーって言った……!) |
カルカノーレ | シミ抜きだって、Bella figuraのための大事なスキルだよ。 そうだろ? |
ベネッタ | ……ん……確かに、そうかもしれない。 |
カルカノーレ | だろー? 今度ベネッタにも教えてやるって。簡単だぜ。 |
ベネッタ | 遠慮しておく。 |
カトラリー | (やっぱりこの人たち、マフィアだよね……。 でも、思ったよりは怖くない人たちかも……?) |
カトラリー | (新しい服を用意してくれたのもすごくありがたいし。 だけど、銃をどこに入れるか迷うな……) |
カトラリー | (普段の服だと内側に銃が入れられるんだけど、 この服、ぴったりサイズで、銃を入れると目立つ……! カトラリーケースとかあればいいんだけど……) |
カルカノーレ | ん、どうした? |
カトラリー | え、あ、なんでもないよ! |
カルカノーレ | ふーん。 ……あ、忘れてた。 こういうのも用意してきたんだけど、使う? |
カルカノーレが、小さなトランクのようなものを持ち上げた。
カトラリー | これ、カトラリーケース……!? |
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カルカノーレ | キミさ、フォークとかナイフとか大事そうに持ってるでしょ? なくすと困るだろうし、 これに入れておけばいいんじゃないかな? |
カトラリー | う、うん。 ありがと── |
カルカノーレ | っと、あぶない! |
カトラリー | へ? |
カルカノーレ | 底に金入れたままだった! |
カルカノーレが隠しボタンを押すと、
カトラリーケースの底から札束が出てきた。
カトラリー | えええっ!? |
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カルカノーレ | あ、観光に使う? ボニートを助けてくれたお礼に、俺のへそくりあげちゃう。 |
カトラリー | 使わないよ、そんな得体の知れないお金! |
ベネッタ | ……ふむ。 じゃあ、こっちはどうだ? このバックルを引っ張ると軍用ナイフが出てくるんだが。 |
カトラリー | うわっ、危なっ! そんなの使わないよ!! |
ベネッタ | ……ぷっ。 |
カルカノーレ | はははっ、キミ、本当にいい反応をするねー! |
カトラリー | ちょ……僕のことからかってたの!? |
ベネッタ | 悪かった。あまりにもカチコチだったから、ついな。 |
カルカノーレ | どうだ? ちょっとはリラックスできただろ! |
カトラリー | (〇〇……マークス……早く帰ってきて……!) |
〇〇たちはイタリア遠征任務を終え、
イギリスに帰国した。
カトラリー | …………。 |
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十手 | (カトラリー君、任務から帰ってきたあと、 どうも元気がないなぁ……。 伊太利亜で何かあったんだろうか……) |
十手 | ……なあ、カトラリー君。 そろそろお昼時だけど、何か食べないかい? |
カトラリー | あ……ほんとだ。もうこんな時間……。 教えてくれてありがとう、十手。 |
十手 | えっ……! |
十手 | (こんなに素直にお礼を言われたことがあったかな……!? 嬉しいけど、やっぱりどうにも様子が変だぞ……) |
カトラリー | 十手も一緒に行こうよ。 1人はイヤ……。 |
十手 | ど、どうしてしまったんだい……? |
ミカエル | きみ、近頃ずっと複雑な音がしているね……。 イタリアで何か、きみを惑わせることがあったの? |
カトラリー | ……うーん……。 |
十手 | (やっぱり任務先で何かあったんだろうなぁ……。 ここはひとつ、気分転換にでも誘ってみるか!) |
十手 | カトラリー君、ちょっと街に出ないかい? かふぇーで美味しいものを食べよう! |
十手は、カトラリーとミカエルを連れて
街のカフェへとやって来た。
十手 | シャルルヴィル君に教えてもらったお店なんだ。 ここならきっと、美食家のカトラリー君も気に入るよ。 それに、ピアノもあるんだ。 |
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ミカエル | おや……素晴らしいお店だね。 僕はレクイエムを奏でよう……。 |
ミカエルは、カフェの片隅にあるグランドピアノを弾き始めた。
十手とカトラリーは、温かい紅茶を頼み、無言のまま一口飲む。
カトラリー | ……おいしい……。 |
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十手 | おお、口に合って何よりだ! 疲れた時には温かいお茶が一番だよ。 |
カトラリー | うん……そうだね。 |
十手 | …………。 あの、カトラリー君。 任務で何かあったのかい? |
十手 | もちろん、話したくないなら、無理に話さなくてもいい。 だけど……誰かに吐き出して少しでもすっきりしそうなら、 俺に聞かせてほしいんだ。 |
カトラリー | うん……。 …………。 |
カトラリー | ……任務中に、知り合った人たちがいたんだ。 最初は、アクシデントで関わることになって……。 |
カトラリー | ちょっと危ない感じだけど、 僕とちょっと似てるとこがあって気になって……。 親切にしてくれたし、一緒に観光した1日は楽しかったんだ。 |
カトラリー | だけど……その人たちの本当の目的は別にあったんだ。 仲良く見えたのに、騙し合ってて、最後は……撃ち合って。 |
十手 | ええっ……そんなことがあったのかい……? |
カトラリー | うん……。 僕たちをあちこちに連れ出して楽しませてくれたのは、 監視と、敵をおびき出すためだったって言われたんだ。 |
カトラリー | ……僕さ、あの人たちのこと、 自分で思ってた以上に信頼してたんだと思う……。 |
カトラリー | 貴銃士ってこともあるけど…… 一緒にいたのは半日くらいなのにね。 もしかしたら、友達になれそうとか思っちゃったのかも。 |
カトラリー | 本当に……バカみたい。 僕がイタリアに行ったのは任務で、 マフィアがいることも、危ない奴らだってことも知ってた。 |
カトラリー | なのに、あの人たちはマフィアだって知ったあとにも、 ほだされて、言葉のまんま受け取って、 あの陽気でちょっとアホっぽい奴らに裏なんてないと信じて……! |
カトラリー | 何であんなに甘い考えをしてたんだろう。 〇〇を危険に晒したかもしれない。 任務に同行するなら、もっとしっかりしなきゃいけなかったのに! |
カトラリー | 僕……悔しいし、 まんまと騙された自分が許せなくて……。 |
十手 | カトラリー君……初めての遠方での任務だったのに、 大変な思いをしたね……。 |
十手 | そんなことがあったら落ち込むのも無理はないし、 カトラリー君のまっすぐさ、優しさ、素直さ…… そういうのは、とってもいいところだ。 |
十手 | 今回はそれを逆手に取って悪用した人たちがいたんだね。 だからといって、カトラリー君が自分のいいところを 恥じて消してしまう必要はないんだよ。 |
カトラリー | ……僕のことをそんな風に言うのは十手くらいだよ。 それに……一緒に任務に行ったマークスは平気そうなんだ。 ケロッとしてて、全然普通なんだよ! |
十手 | うーん……マークス君は、 〇〇君のことが9割5分くらいだからね。 それはそれでまっすぐで眩しいが……。 |
ミカエル | ──世の中にハ長調しかなかったらつまらないよ。 |
カトラリー | わっ、ミカエル! 僕の話聞いてたの? |
ミカエル | うん、きみの澄んだ悲しみの音を聴きながら ピアノを弾いていたのだけれど……。 少し、怒りが混じったから。 |
ミカエル | カトラリー……きみはきみのままの音が綺麗だよ。 濁らせる必要はない。 |
十手 | ほら、ミカエル君もこう言っているよ! |
十手 | (正直なところ、わかるようなわからないようなだが……! 十人十色ということだよね、きっと) |
カトラリー | そ、っか……そうだね……。 |
カトラリー | 2人が言うなら……そう思うことにするよ。 ……ありがと。 |
ミカエル | うん。 |
十手 | それと、気休めかもしれないけど。 |
カトラリー | 小指……もしかして、Pinky Swear? |
十手 | ぴんき……? ええと、指切りだ。 俺は君を絶対に裏切らないって約束の証にね。 |
カトラリー | ……っ、うん! |
十手 | よぅし! ゆーびきーりげーんまーん! 嘘ついたら針千本飲ーます! |
カトラリー | ちょ、何それ! 子供っぽいのによく聞いたら物騒! |
十手 | ははは、調子が出てきたね。 ほら、指切った! |
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