ブラウン・ベスの名を冠す、咲かない薔薇。
薔薇を巡り、秘め続けた思いをぶつけあった太陽と月。
花の色に、騎士からの答えを見た気がして、ジョージは思わず涙をこぼす。
ここにいる自分を、許された気がしたのだ。
願うことすら裏切りのような気がして──ずっと心に蓋をしてた。
でも、もう自分に嘘はつけない。
ブラウン。お前が帰ってきても…
…オレも、一緒にいていいかな?
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
──ある日のこと。
ジョージは買い物のため街へと出かけていた。
ジョージ | この数か月、アルバイト頑張ったなー! ようやく資金も貯まったし、念願の自転車を買うぞ! |
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ジョージ | ……What? こんな店あったっけ? |
自転車屋へ向かう途中、ジョージは古着屋の前でふと足を止めた。
ジョージ | なんか……面白そうかも。 入ってみよっと☆ |
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店内は、人ひとりがやっと通れるくらいの通路がある他は
あらゆる服が所狭しと並べられていた。
ジョージ | わぁ……。 |
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ジョージ | (ぶつかっちゃいそうだ! マネキンを倒さないようにしなきゃ……) |
突き当りを曲がったジョージの目に飛び込んできたのは──
ジョージ | Oh……! |
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紺色の生地に月の模様が描かれた、貴族のような服だった。
輝く装飾が散りばめられ、光を放っているように見えた。
ジョージ | (すっごく綺麗だ……) |
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ジョージ | (これ、シャルルに似合いそう……! うん、絶対に似合う……!) |
店主 | お兄さんお目が高いね。 それ、1点ものなんだよ。 |
ジョージ | おっ、そうなのか? これいくら? |
店主 | 5万UCだよ。 |
ジョージ | たっか!!! |
ジョージ | (5万UCって、オレの全財産じゃん!) |
ジョージ | なぁ、おじさん。 もうちょっと安くならない? |
店主 | 元々の価格が20万UC以上するものだからねぇ……。 これ以上はねぇ……。 |
ジョージ | そうなのか……服って高いんだなぁ……! |
ジョージ | (今これを買ったら、自転車を買うのはまた先になるな……) |
ジョージ | (でも……!) |
ジョージはあの服を着て、
笑顔をきらめかせるシャルルヴィルを思い浮かべる。
店主 | お兄さん、お買い上げありがとうな! |
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ジョージは、30分悩んだ末に購入を決意した。
店主 | この服、実は2着セットなんだ。 こっちも持って帰ってくれ。 |
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そう言って店主が差し出したのは、
柄違いのよく似た衣装だった。
ジョージ | えっ? 気持ちは嬉しいけどこれ、着る人がいないから……。 |
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店主 | でもこれ、セットなんだよ。 1着だけじゃ店に置いておけないし、受け取ってくれよ。 |
ジョージ | ……OK! |
店主に押し切られるかたちで2着の服を受け取り、
士官学校に戻る途中、渡された服を確認してみると──
太陽の柄だった。
ジョージ | (これ、シャルルの服とお揃いだ。月と太陽の柄。 月がシャルルで、太陽は……) |
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ジョージ | (……オレには着られないな。 この服を着るべきなのは──) |
ジョージ | シャルル! これ、プレゼント☆ |
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シャルルヴィル | えっ!? ボクに……? ジョージが選んでくれたの? 開けていい? |
ジョージ | おう! 街で偶然見つけてさ! シャルルに似合いそうだったから。 |
シャルルヴィル | わっ、まさかのお洋服! これ、すっごく素敵だね……! |
シャルルヴィル | 早速着てみるよ! |
試着を終えたシャルルヴィルが、早速談話室へと舞い戻る。
ジョージ | Wow! 思った通りだ。 よく似合ってるぜ!! |
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シャルルヴィル | ふふっ、ありがとう……! この月の柄、本当にきれい……。 |
シャルルヴィル | ちょっと、みんなに見せてくる! |
シャルルヴィルが衣装を披露すると、
まるでファッションショーのように周囲に人が集まり出した。
タバティエール | おっ! かっこいいの着てるねぇ。 新しい服かい? |
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スプリングフィールド | シャルル兄さん、とてもお似合いです……! |
在坂 | 在坂は、月の柄がシャルルヴィルによく合っていると思う。 |
シャルルヴィル | ありがとう! 実はこの服、ジョージが選んでくれたんだ! |
シャスポー | へぇ、君にしてはセンスいいじゃないか。 |
ジョージ | HAHAHA! だろー? |
その夜──
ジョージは部屋に戻ってもう1着の服を見つめた。
ジョージ | (太陽、か……) |
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静かに微笑みながら、
ジョージは服をクローゼットにしまったのだった。
マークス | 今日もハーブを収穫して、マスターに美味しいお茶を……ん? |
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マークスが中庭のはずれにある温室の近くを通ると、
ジョージと園芸部員が何かを一生懸命に運んでいた。
ジョージ | OK! じゃ、設置しようぜ。 |
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園芸部員 | はい! よろしくお願いします! |
マークス | おい、ジョージ。何を運んでいる? 段ボールに色々……入っているみたいだが。 |
ジョージ | あっ、これのことか? |
ジョージ | これはファル避けだ! |
マークス | ファル避け?? |
ジョージ | あっ、そういえば……。 昔、ファルが花むしっちゃったことあったよな……。 |
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園芸部員 | はい……。 |
園芸部員 | 今、温室にはたくさんの赤い薔薇が咲いておりますので。 その……お言葉ですが、ファルさんが近づいてしまわないよう、 事前に対策をしておきたいのですが。 |
ジョージ | うーん……対策かぁ。 |
カトラリー | あれ……あんた、園芸部の……誰だっけ。 |
園芸部員 | コリンです! ──そうだ! ファルさんのことなら、カトラリーさんがご存じでは? |
ジョージ | おっ、なるほどな! |
カトラリー | は? なんの話? |
ジョージ | あのさ、カトラリー。 ファルの苦手なものって知ってるか? |
カトラリー | え……? |
園芸部員 | カトラリーさんの情報によると、 ファルさんは赤いものが苦手だとか……。 |
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ジョージ | でさ! あの木と柱の間をロープで結んで鏡を吊るして、 目立つように赤いリボンを結んでみたんだ。 |
マークス | 赤いリボンだと? 確かに、赤いリボンだが……。 ただの赤いだけのリボンだろ。 |
マークス | こんなので本当にファルが避けるのか? |
ジョージ | まぁ見てろって。 あっ、ファルが来た! |
ジョージの視線の先には、中庭を散歩しながら
温室へと近づくファルの姿があった。
ファル | …………。 |
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ジョージとマークス、園芸部員たちは木陰に隠れて
その様子を見守っていた。
ファル | ん? なんですかこれは……。 何かの儀式ですかねぇ……関わらないでおきましょう。 |
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ファルは呆れた様子でリボンと鏡を一瞥すると、
踵を返して去っていった。
ジョージ | Yeah! 成功だ! |
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園芸部員 | やりましたね! |
マークス | 本当にあれが効いたのか……? |
シャルルヴィル | ねぇ、見て。 『ジョージ・ブラウン』が今日も綺麗に咲いてるよ! |
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園芸部員 | そうですね! 薔薇自体も、咲けたのを喜んでいるみたいです……! |
ジョージ | HAHAHA! ブラウン、今日も元気だな☆ |
カトラリー | その薔薇、『ジョージ・ブラウン』って名前になったんだ? |
ミカエル | 見事な美しさだね。 2つの色が交わるハーモニーが聴こえるよ。 |
ジョージ | カトラリー、ミカエル。 あの時は色々ありがとうなっ! |
シャルルヴィル | 2人が応援してくれたおかげで、こんなに綺麗に咲いたよ。 |
園芸部員 | あと、やはり日光が当たりやすいよう外に移したのが 功を奏したんだと思います。 |
シャルルヴィル | そうだね。 薔薇を咲かせたのは、太陽だから。 |
シャルルヴィル | (太陽、か……) |
ふと何かを思い出したかのように、
シャルルヴィルはジョージへと歩み寄った。
シャルルヴィル | ねぇ、ジョージ。 |
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ジョージ | ん? |
──しばらくして、ジョージとシャルルヴィルは
お揃いの服を着て、再び温室に現れた。
カトラリー | わぁ……! 双子みたい! |
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ミカエル | 太陽と月、か。よく似合っているね。 |
ミカエル | 温かい音色と優しい音色……あともう1つ、 高貴で……凛々しい音色が聴こえるよ。 |
ジョージ | へへっ。なんか照れくさいけど、嬉しいぜ。 |
シャルルヴィル | ね? 着てみてよかったでしょ? |
シャルルヴィル | 昼は、太陽があたたかい光で照らして。 夜は、寂しくないように月が見守って。 |
シャルルヴィル | そうして、薔薇が咲くんだよ。 |
ジョージ | シャルル……! |
庭師のおじさん | おっ。今日もみんなで来てくれたのか! |
ジョージ | おじさん! |
庭師のおじさん | ジョージくん、シャルルヴィルくん。 その素敵な服はお揃いの衣装かい? |
庭師のおじさん | せっかく着てきてくれたんだ。 自慢の『ジョージ・ブラウン』と一緒に記念撮影しよう! |
シャルルヴィル | はい! 喜んで! |
全員での記念撮影の後──
シャルルヴィル | ジョージったら子供みたいに駄々こねて、 なかなか着てくれなかったんだよ? |
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庭師のおじさん | こんなに似合っているのにかい? |
ジョージ | しょうがないだろ? 元々、セットで売ってる服だって知らなかったんだし。 |
カトラリー | ミ、ミカエル、あのさ……! |
カトラリー | もし嫌じゃなかったら今度…… 僕たちもお揃いの服、着ない……? |
ミカエル | うん。いいよ。 |
カトラリー | や、やった……! |
ジョージ | いいな、それ! 今度お披露目してくれよ☆ |
庭師のおじさん | ところでジョージくん。 実はまた、品種改良を計画してるんだが手伝ってくれるかい? |
ジョージ | Of course! 任せてくれ! |
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