春爛漫の桜の下、迷い込んだ不思議な空間。
在坂の幻影によるハプニングはありつつも、邑田は庇護者兼悪友として、ベルガーと共に
スプリングフィールドを導いた。
大切な者を傷つけられる苦しみを、よく知る者として。
若人を導くは年長者の役目よの!
……何?スプリングフィールドとわしは、銃の年代ではほぼ同期? なんならあっちが若干年上?
……まあ、うむ。心持ち的なあれよ。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
──邑田、在坂、八九が
〇〇の貴銃士になる前のこと。
八九 | はぁ……だりぃ……。 邑田の野郎、花見がしてぇなら自分で場所取りしろっての! どこでも眠れるんだから、あいつこそ場所取りに適任だろ。 |
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八九 | つーか、葛城。お前はなんとか──…… |
八九 | あれ? いねぇ……。 |
周囲を見回した八九は、マスターである葛城が、
花見中の賑やかな一団に声をかけているのを見つける。
葛城 | お楽しみのところ失礼します! 皆様の宴会のあと、ここを使わせて頂いてよろしいでしょうか? |
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八九 | うわー……酔っぱらいに突撃してやがる。 すげぇな、あいつ……陽キャ極めすぎだろ……。 |
酔っぱらい客 | がははは! 簡単には譲れねぇな~! けどろぉ、兄ちゃんがなんか面白いことやってくれらら 譲ってやらぁ! |
八九 | (うーわ、クソめんどくせぇ酔っ払いだな。 葛城、どうすんだ? あいつ、絡み酒のジジイへの対応とかわかんのか?) |
葛城 | ふむ……わかりました! |
葛城 | 皆さんの楽しいお花見のため…… そして、明日の陣地獲得のために、ここは一肌脱ぎましょう! |
酔っぱらい客たち | お~! いいぞ、頑張れ兄ちゃーん! |
葛城 | それでは! 一発芸、日常モノマネ! |
葛城 | 『カップ焼きそばを作っていて、 湯切りの時にフタが開いてしまい、 シンクにすべて落とした時の顔!』 |
酔っぱらい客たち | わはははははっ! |
酔っぱらい客 | 最高だ、兄ちゃん! 譲ったらぁから、一緒に飲もうれ!! |
葛城 | ありがとうございます! |
八九 | うお……。 |
あっという間に打ち解けた葛城は、
呂律の回っていない花見客たちに時折水を勧めつつ、
和気あいあいと過ごした。
千鳥足の一団が笑顔に去っていったあと、
譲ってもらった場所に持参したシートを敷いて、
ようやく八九も一息つくことができる。
八九 | ふぅ……場所取り、なんとかなったな。 |
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見ていただけで疲労困憊の八九は、
いそいそと寝袋に入った。
八九 | ……お前、すごかったぜ。 |
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葛城 | はて、すごいと言われるような覚えがないのですが……。 |
八九 | いや、一発芸とかいきなり無茶振りされたのによ、 きっちり笑い取って、場所もキープしただろ。 |
八九 | 正直お前の陽キャ力舐めてたわ。 真似はできねぇししたくもねぇけど、尊敬したぜ。 |
葛城 | はははっ! それは光栄です! |
八九 | ……はぁ。お前の聖人ぶりに比べて邑田はよぉ。 俺たちにこういうめんどくせーこと押し付けて……。 |
葛城 | 八九殿もわかってらっしゃるでしょう。 邑田殿は──── |
八九 | ぐぅ……すぴー……。 |
葛城 | ……まあ、言うのも野暮なことでしたね! 邑田殿と八九殿は、 心で通じ合っていらっしゃるに違いませんから。 |
葛城 | おやすみなさい、八九殿! |
──翌朝。
邑田 | 八九や、場所取りご苦労。 なかなかよいところではないか。 |
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在坂 | ぽかぽかしていて、桜も綺麗だ。 在坂は、八九たちに感謝する。 |
八九 | そりゃどーも……。 ……なあ、後ろのじーさんは知り合いか? |
葛城 | かっ……桂幕僚長!! |
八九 | は……幕僚長!? |
桂 | そう固くなるな、葛城二佐。 今日は花見、無礼講だ。マスター同士気楽にやろうじゃないか。 |
葛城 | そ、そうおっしゃいましても……! |
邑田 | 桂よ。 そやつには『かしこまるな』と命じたほうが早いのではないかえ? |
桂 | はっはっは! それでは逆効果になるわ。 |
桂 | しかしいつまでの立っているわけにもいかぬだろう? 葛城二佐。 美しき花の前に、人のもつ肩書きなど意味をなさぬ。 さあ、杯を持て。花見の始まりだ! |
全員 | 乾杯! |
在坂 | 八九には、邑田が甘酒を持ってきている。 |
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邑田 | 昨夜は冷えたようじゃからのう。 温かい甘酒をまほうの瓶で持ってきてやったぞ。 |
八九 | おお……! マジかよ! 野宿でちょっと体が冷えてるし、早速一杯くれ。 |
邑田がカップに注いだ甘酒をうきうきと飲んだ八九は、
次の瞬間悶絶した。
八九 | んぐ……っ、あ……っっっちぃ!!! マグマかよ!! 嫌がらせかちくしょー! |
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邑田 | む……? |
首を傾げた邑田は、自分用にも甘酒を注ぐと、
少しふぅっと冷ましてから一口飲む。
邑田 | ……むう、なんじゃ。 これくらい熱くなければ芯から温まらんではないか。軟弱者め。 |
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八九 | 温まるとかそういう次元じゃなくて、舌火傷レベルだぞ……。 もうヒリヒリして痛ぇし……。 |
在坂 | 邑田、在坂もこれは熱すぎると思う。 在坂は甘酒を飲みたいのに飲めなくて悲しい。 |
邑田 | なんと……! それはすまなんだ、在坂! わしがふーふーして冷ましてやるから、少し待っておれ。 |
八九 | 俺と在坂の扱い違いすぎんだろ……。 今更だしどうでもいいけどよ。 |
邑田 | なんじゃ、おぬしもわしにふーふーしてほしいと? いいぞ、場所取りの労いとして特別にふーふーしてやろう。 貸すがよい。 |
邑田 | ほれ、ふーふー。 |
八九 | ぎょえっ!? やっぱいいっす!! |
チェリーブロッサム・フェスティバルの見回りの任務が終わり、
在坂たちと合流した邑田は、屋台のある道を歩いていた。
邑田 | 活気があっていいものじゃのう。 屋台もいろいろあって面白し。出し物もまたよい。 |
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在坂 | 在坂は美味しいものをたくさん食べられて満足だ。 |
八九 | マジで山ほど食ってたな……。 |
邑田 | む……? 〇〇よ、何をそんなに熱心に見てるのじゃ? |
主人公 | 【あそこは何をしてるんだろう?】 【屋台だけど屋台っぽくないのがあって】 |
邑田 | あれは……。 ほう、型抜きか。 |
在坂 | 邑田、型抜きとはなんだ? 在坂にもできるのならしてみたい。 |
店主 | おっ! お兄さん方、興味があるかい? この薄い板に描かれた絵があるだろう? 針を使って、この板が割れないように丁寧にくり抜くんだ! |
店主 | 最後まで割れずに型の絵をくり抜けたら、 豪華賞品が手に入るってわけだ! |
店主 | 型の難易度によって、景品も変わってるからな! 豪華賞品を狙うもよし、簡単な型を選んで楽しむもよし! どうだい、夢があっていいだろう。挑戦するかい? |
邑田 | わしに任せよ。細かい作業は得意であるからな。 米粒あーとに比べれば容易いこと間違いなし。 在坂、〇〇よ。欲しい景品を選んでおくがよい。 |
八九 | (有言実行とフラグの間みてぇなこと言ってるな……) |
邑田 | どれどれ……。 |
パキン!
邑田 | ほわぁあっ!? |
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邑田 | な、何故じゃ……一刺し目で板が真っ二つに……!? これは不良品ではないのか!? 交換を要求する! |
店主 | いやいや、刺して割れたんだから兄ちゃんの失敗だぜ。 交換はできないから、まだ挑戦するなら新しい型を買ってくれ。 |
邑田 | もう1回じゃ! 次こそ完璧な型抜きをしてみせる……! |
八九 | (他の客も苦戦してるし、難しいんだな、型抜きって……。 ま、一応俺もやってみるか) |
4人はそれぞれ黙々と型抜きを始めた。
在坂 | む……あと少しのところで、在坂の蝶は割れてしまった。 〇〇はどうだ? |
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主人公 | 【傘の柄が抜ければ……!】 【あともう少し……!】 |
──パキン!
在坂 | ……! 折れてしまった……残念だ。 |
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邑田 | 在坂、〇〇よ。 そんなに落ち込むでない。 そなたらの仇は、このわしが討ってみせよう……! |
主人公 | 【何か策があるの?】 【邑田は成功しそう?】 |
邑田 | うむ。何枚か格闘して、ついに気づいたのじゃ。 これはひと針ひと針刺し貫き切るのではなく、 全体的にじわじわ掘り進めていくべきであると……! |
邑田 | そうしてコツコツと進んだ型がこれじゃ! あと、この細い部分で完成というところまで辿り着いた。 |
主人公 | 【すごい!】 【あとちょっと!】 |
在坂 | 邑田、頑張れ。 |
邑田 | くっ……あと、このひと掘り……! |
八九 | あ、できた。 |
邑田 | ほわっ!? |
邑田 | わしよりも先に完成した、じゃと……!? |
パキッ!
在坂 | ……邑田。邑田のは割れてしまった。 |
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邑田 | ああああ……八九……八九~~~~っ!! おのれ~~!! 許すまじ!!! |
八九 | や、八つ当たり……! |
チェリーブロッサム・フェスティバルから数日後。
邑田たちは普段通りの生活を過ごしていた。
生徒1 | ええ~? スイートポテトってなんか地味だろ。 いちごのタルトの方が絶対いいって! |
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生徒2 | だよなぁ。パンプキンならまだ色鮮やかだからいいけど。 |
邑田 | ……あやつらには、 芋の素晴らしさについて教えてやらねばなるまいな。 |
在坂 | ……邑田。 あの生徒たちは自分の好みについて、2人で話しているだけだ。 そこに邑田がいきなり割り込んだり殴ったりするのはよくない。 |
在坂 | 在坂は、邑田は短気を直したほうがいいと何度も言っている。 |
邑田 | ひぃっ! |
邑田は青ざめた顔で周囲を見回す。
在坂 | ……? どうした。 |
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邑田 | ほっほっほ、すまぬすまぬ。 なんでもないぞ……。 ちと、昼に芋を食べ過ぎてしゃっくりが出ただけじゃ。 |
在坂 | そうか。 |
邑田 | ほれ、購買についたぞ。 在坂や、ぷりんでも煎餅でもなんでも好きなものを買うがよい。 |
──その日の夜。
邑田 | ……う……うう……。 |
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在坂(?) | ……邑田、嫌いだ。 |
邑田 | うぬっ!? |
邑田 | 夢か……。 |
邑田 | ふん。もうその手には乗らぬぞ。 何度その手で攻める気じゃ? |
邑田 | 二番煎じの手を使われたところで、痛くも痒くもないわ。 わしを怯ませたくば、出直すがよい! |
在坂(?) | ……! |
無数の幻影の在坂たちは、顔を見合わせ、考え始める。
在坂(?) | ……だから……して……。 |
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在坂(?) | あ、……ぎゅって……。 |
在坂(?) | それ……、賛成だ。 |
邑田 | なんじゃなんじゃ、何を話しておるのじゃ! |
在坂(?) | ……こほん。 在坂たちは、意見がまとまった。 |
在坂(?) | 邑田……好きだ!! |
邑田 | は? |
在坂(?) | 邑田はいつも在坂に美味しい芋をくれる。 だから好きだ。ずっとそばにいてほしい。 これからは邑田と一緒に、紅ほのかを推すことにする。 |
邑田 | あ……在坂が、わしのために、紅ほのか派に……!? いや、これは夢じゃ。あり得ぬからな! |
在坂(?) | 寝るときはぎゅっとしてほしい。 邑田なら、在坂が寝てもずっと起きていて、 在坂のために子守唄を歌い続けられると信じてる。 |
邑田 | 在坂をぎゅっと…… しかし、在坂はわしに子守唄をねだったりせぬ! |
在坂(?) | アホ毛が芸術的で素敵だ。 それに…その眉毛も個性的でいいと思う。 |
邑田 | 在坂は絶対にそんな事は言わぬ! 言わぬじゃろう!! |
在坂(?) | 好きだ。 |
在坂(?) | らぶだ。 |
在坂(?) | 紅あずさよりもきゅんだ。 |
邑田 | も、もう耐えられん! わしの負けじゃ! 許せ! 許してくれ~~! |
在坂 | …………。 |
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邑田 | ほわぁああっ!? あ、在坂!? |
在坂 | 邑田。なんの夢を見ていた? |
邑田 | い、いや……。 |
在坂 | 在坂は日頃なら、邑田と同じ部屋で文句はない。 だが、今日はさすがにうるさかった。 それから、妄想を口に出すのはやめた方がいい。 |
邑田 | も、妄想……!? わしは寝言で何を口走っておったのじゃ!? |
在坂 | 紅ほのかだとか、子守唄だとか……。 |
邑田 | ご、誤解じゃ! これも皆、桜のあやかしの陰謀で……! |
在坂 | ……在坂は先に食堂に行く。 邑田はもう少し寝て、頭を休めた方がいいと思う。 |
邑田 | ま、待っておくれ……! |
邑田 | き、嫌いと言われるのも好きと言われるのも、 どちらも困るものよの……。よよよ……。 |
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