イースターのバニーハント! 急遽ウサギ役となった在坂は、自らの瞳を恐れぬ子供たちと、唯一自らを恐れる少年と出会う。
たとえ痛みを伴えど、本当の幸福を掴んでほしい。
だから在坂は、本気の勝負を申し出たのだ。
ずっと、この瞳は悪いばかりだと思っていた。
でも、初めて人の役に立てた。……嬉しかった。
在坂はもっともっと、皆にしあわせを運べる存在になりたい。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
とある日曜日の朝──
ケンタッキー | HAPPY EASTER~~!!! YEAH!! ハイタッチしようぜ! |
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八九 | うお……。 アメリカン陽キャが陽キャしてる……。 |
ケンタッキー | うら! ハイタッチ! |
八九 | わ……! |
ケンタッキー | ハイターッチ!! |
邑田&在坂 | おっと……! |
邑田 | 勢いで“はいたっち”をしてしもうたが…… かように浮かれて、何事じゃ。 |
在坂 | はっぴー、いーすたー? |
ケンタッキー | えっ! お前ら知らないのかよ。 |
ケンタッキー | どどど~ん! 今日はイースター! 復活祭だぜ! |
八九 | あー。 イースターって確か、ヨーロッパで有名な行事だっけ? |
ケンタッキー | 元々は救世主の復活を祝う宗教行事だからな。 もちろん、しっかりお祈りとかして過ごす人もいるけど。 |
ケンタッキー | 学生とか若者は、どっちかっつーと春の祝日って感じで、 みんなでお祭り騒ぎしたい! って雰囲気なんだよな。 |
八九 | なるほどな。由来の方はぶっちぎって、わいわい楽しむのが メインになってきてるわけ。 |
邑田 | ほほ。厳しい冬を越え、若草萌え立つ春に浮かれるのは どこの国も同じじゃのう。 |
ケンタッキー | そっ! まさにスプリングフェスってやつだな! |
ケンタッキー | でさ、今日の午後から、フィルクレヴァートでも イースターフェスティバルがあんだけど……。 |
ケンタッキー | その、なんつーか、お前らにさ……。 |
ケンタッキー | 一肌脱いで貰いたいっつーか……。 いや、この場合むしろ逆なんだけど。 |
在坂 | ……?? 在坂は、ケンタッキーが何を言いたいかがわからない。 |
邑田 | そうさな。はっきりと申してみよ。 |
ケンタッキー | ……っ……そ、その……。 |
ケンタッキー | 在坂、邑田、八九! この衣装を見てくれ!! |
在坂・邑田・八九 | っ!? |
ケンタッキーは両手を合わせて深々と頭を下げた後、
袋からパステルカラーのかわいらしい衣装を取り出した。
八九 | うおっ。 ひらひらにウサ耳で……アイドル衣装か? |
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在坂 | これが、どうかしたのか。 |
ケンタッキー | 今、こいつを着てくれる人が……いなくてよ……。 |
ケンタッキー | このままだとお蔵入りしちまうんだ……!! |
八九 | はぁ……? |
ケンタッキー | 実は俺、裁縫部に入っててさ。 普段は部の展示会で作品発表したり、 貴銃士がイベントで着る衣装を作ったりしてんだけど。 |
ケンタッキー | 今回イースターフェスティバルで、街の実行委員会から 「バニーハント」っつー目玉イベントの衣装製作を頼まれてよ。 |
ケンタッキー | で、完成したのがこの衣装ってわけ! |
邑田 | 復活祭のいべんと用衣装なのじゃな。 そも、この衣装は誰が着る予定だったのじゃ? |
ケンタッキー | ボランティアの学生が着るはずだったんだ。 でも今朝、そいつが事故で足折っちまって……。 |
ケンタッキー | 俺も実行委員会も必死で代役探してるけど、 イースター休暇で実家に帰ってる学生も多くてさ。 |
ケンタッキー | 貴銃士クラスの奴らも国に帰ってたり、 フェスティバル会場で他のことやってたりで連絡つかなくて。 |
在坂 | …………。 |
ケンタッキー | 頼む! もう頼れるのはお前らしかいないんだ! 俺の渾身のイースター衣装、着てくれねーか!? |
八九 | まぁ、よくできた衣装だし、お蔵にはしたくねーよな……。 |
邑田 | ちょうど暇をしておったところじゃ。 こちらとしても引き受けてやりたいのう……。 |
八九と邑田は、ちらりと視線をさまよわせる。
在坂 | …………。 |
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ケンタッキー | 元々150cmくらいの奴用に作った衣装だから、 着られる奴が限られてるんだよな……。 で、そのくらいの背丈のやつを探してるんだけど……。 |
八九、邑田、ケンタッキー、3人の目線が在坂に集まった。
在坂 | ……? |
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ケンタッキー | あとあと、バニーハントって動き回るイベントだからその、 ウサギ役は運動得意な奴だといいなーって……。 |
在坂 | …………む? |
数時間後──
イベントの設営テントの中には、
イースター衣装に着替えた在坂の姿があった。
在坂 | …………。 |
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邑田 | 此度の衣装……最高じゃ、在坂! よく似おうておる!!! |
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在坂 | 在坂は、祭りの手伝いをすることに異論はない。 |
在坂 | だが、在坂だけこの衣装なのは変ではないかと思う。 |
邑田 | 何を言うておる。在坂は、ばにーはんとのウサギ役じゃ。 ウサギの格好をするのは至極当然。普通じゃ、普通。 |
邑田 | わしらは裏方という名の人間役だから人間の格好をしている。 そういうものじゃ。 |
八九 | (大体そんな衣装、俺らが着れるはずねぇだろ……!) |
在坂 | 普通……これは、普通か……? そういうもの、なのか……? |
邑田 | そうじゃ、在坂。これをお食べ。 |
在坂 | ……? この卵はなんだ? |
邑田 | いーすたーちょこえっぐという菓子でな。 実行委員からボランティアへ、御礼の品だそうじゃ。 |
在坂 | そうか……。 これはいいものだ……美味い……もぐもぐ……。 |
八九 | (上手くごまかされてやがる……) |
主人公 | 【その衣装、よく似合ってる!】 【いい感じだね!】 |
在坂 | 〇〇……! |
邑田 | おや、〇〇も来ておったのか。 在坂の雄姿を見せるまたとない機会じゃな。 |
在坂 | ……似合っているのか。 在坂は、この衣装がだんだん気に入ってきた。 |
在坂 | ただ、在坂は、人が多い場所は……。 |
兵士 | こっちを見るな!! |
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兵士 | その目……!! 夢の中のあいつと同じ目だ! 俺を責める、あいつの目と同じ……! |
生徒 | ……ッ!!! |
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生徒 | す、すみません、僕……っ。 あ……あ……ごめ、なさ……。 |
在坂 | …………。 |
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八九 | だーいじょうぶだって。 走り回って逃げ回ったりするのがメインの仕事だろ? |
八九 | 人と近距離で顔つき合せるようなことにはなんねぇよ。 |
在坂 | しかし……。 |
邑田 | 在坂や。 本当に嫌なら辞退も止めはせぬが……。 |
邑田 | そなたも、本当は人に関わりたいと申しておっただろう。 これは格好の機会よ。 |
在坂 | ……邑田。 |
邑田 | わしが先回りをして、在坂が嫌な目にあわないように することは可能だがの。 |
邑田 | そなた自身が、以前、それは嫌だと教えてくれたであろう? ならば答えはもう、決まっている。 |
邑田 | 少しだけ、やってみようではないか。在坂。 |
在坂 | ……! そう、だな。挑戦はするべき……だと、在坂も思う。 |
邑田 | うむ! |
イースターのイベント会場には、幼い子供たちが
数多く集まっていた。
子供1 | あっ、ウサギだ! |
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子供2 | イースターバニーでてきたー! |
在坂 | ……っ! |
在坂 | (駄目だ。俯いても、相手の背丈が低いから視線が……) |
子供3 | ウサギのにーちゃんだ~! |
子供4 | ふわふわ~! このおようふくかわいいね! |
在坂 | えっ……!? |
在坂 | (子供たちが、在坂の目を怖がっていない……?) |
子供1 | ウサギのにーちゃん、俺が捕まえてやるからなーっ! |
子供2 | バニーハント楽しみっ! |
子供3 | しっぽもふもふ~! |
在坂 | (こ、これはなんだ??) |
在坂 | (こんな大勢の人間に囲まれたこと、ない……!) |
邑田 | 在坂っ!? |
子供たちに囲まれ、目をぐるぐると回している在坂に
気づいた邑田が、咄嗟に救出に入る。
邑田 | 大事ないか!? 在坂! 幼子たちに悪さをされたのではあるまいな……!? |
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在坂 | 邑田! 八九! 〇〇! |
在坂 | あの子供たち、在坂を怖がらなかった! |
八九 | へ……? |
邑田 | むむ……?? |
八九 | そういや、こんなちびっこどもと絡む機会なかったよな。俺ら。 |
邑田 | ふむ……。 思えば在坂の目は、その者の持つ闇を映し返す鏡なのかもしれぬ。 |
邑田 | 在坂の目を覗いて騒ぐ者どもは、 決まってそのようなことを騒ぎ立てるじゃろ? |
在坂 | ……、ああ……。 |
邑田 | つまり、まだ闇を知らぬ幼子や、無邪気で闇を持たぬ者は、 存外平気なのやも……。わしの仮説じゃがの。 |
在坂 | そういうものなのか……? |
主人公 | 【在坂はどう思った?】 【理由よりも、在坂の気持ちが知りたい】 |
在坂 | 在坂は……。 |
在坂 | 子供たちと話せて、嬉しかった。 |
主人公 | 【じゃあ、それでOK!】 【在坂が楽しむのが1番!】 |
邑田 | うむ、〇〇の言う通りじゃ。 楽しんでおいで、在坂。 |
在坂 | ……そうだな。 |
少年 | …………。 |
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少年 | なあ、あのにーちゃんさ……。 |
別の少年 | ウサギのにーちゃん、がんばってつかまえような! つかまえたら、賞品いっぱいもらえるらしいぜ! |
少年 | う、うん……そうだなっ! |
少年 | …………。 ぜってー、つかまえなきゃ……。 |
ケンタッキー | よーしちびっこども! お待ちかねのバニーハント、始めるぜ! |
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子供たち | やったー!! |
ケンタッキー | このゲームのルールはシンプルな鬼ごっこだ。 ウサギ役のお兄さんを捕まえたら豪華賞品をゲット! |
ケンタッキー | 今年の賞品は、フィルクレヴァート・マーケットにある レストラン街で使えるファミリーランチ優待券1か月分! |
ケンタッキー | そして今年のウサギはこの人! 日本からやってきた貴銃士、在坂だ! |
在坂 | …………。 |
ケンタッキー | みんな、頑張って捕まえろよ~~っ!! |
在坂 | 全力でかかってくるといい。手加減はしない。 ……ちなみに、在坂は本物のウサギも手づかみで狩れる。 |
在坂 | 在坂ウサギ、出動だ。 |
ケンタッキー | それじゃ行くぜっ! バニーハント、スタート! |
一方その頃、同じ会場内の別スペースでは
卵を落とさないように走る「エッグレース」が行われていた。
参加者たちはスプーンに卵を載せたままで、
卵を落とさないように慎重に走っている。
十手 | よっ、ほっ……! ははっ、やってみると難しいけどこれ、楽しいねえ! |
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マークス | くっ……卵がグラグラして……くそっ! |
ベルガー | この卵食っていい~?? つーか今食うわ! 腹減った~! |
ローレンツ | 棄権になるぞ、モルモット1号! |
在坂 | ……在坂ウサギは跳ねるのも得意だ。 |
ベルガー | ぎゃっ!?!? |
ベルガーの頭上を軽々と飛び越えた在坂は、
レースに出場中の貴銃士たちの間を 俊足で駆け抜けていく。
ローレンツ | な、なんだ!? 今、目の前を何かが横切った……! パステルカラーの残像が……!? |
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ジョージ | Wow! なんだかよくわかんねーけど、めっちゃ速かったな! |
カール | ふふっ。 どうやらベルガーとは違う「ウサギ」のようだねー。 |
一方、バニーハント参加中の子供たちも、
盛り上がりながら在坂を探していた。
子供1 | ウサギのにーちゃん、どこ行った!? |
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子供2 | さっきそっちに行ってて……あれ、もうあっちにいる!? |
子供3 | 今年のウサギ、足速すぎ! すごい!! |
少年 | くっ……! |
在坂 | (あの少年……ずっと在坂を追いかけてくる) |
在坂 | (餅のような根性だ) |
必死で追いかけてくる少年に気づいた在坂は、
ふっと微笑んで走り続けた。
在坂 | …………っ? |
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しばらく走り続けた後、在坂は周囲の風景が
変化していることに気づいた。
在坂 | (人気が少ない、木が多くて道が限られた場所……) |
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その瞬間在坂の踏んだ地面が抜け、
それが落とし穴だということに気づく。
在坂 | なにっ……!? |
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咄嗟に避けることもできず、在坂はそのまま穴に落ちた。
少年 | ぜぇ、はぁ……! よっし! 捕まえたぞ……! |
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在坂 | (罠……! 在坂は追い込まれていたのか!) |
少年 | ようやく、捕まえ…………っ! |
在坂の目を覗き込んだ瞬間、
少年は身じろぎをして動けなくなった。
在坂 | …………え。 |
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少年 | ご、ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさい! |
少年 | しょうがなかったんだ! 許して……!! |
在坂 | ……!! |
呆然としている在坂に背を向け、
少年は逃げるように走り去っていった。
在坂 | ……今のは……。 |
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邑田 | おお! おかえり、在坂。 |
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八九 | 余裕で逃げ切ってるじゃねーか。 お前ならそのくらい朝飯前だよな……って、服が汚れてる? |
邑田 | 本当じゃ……おしりに土とはっぱがついておるぞ! しりもちでもついたかえ? |
在坂 | 途中で落とし穴に落とされた。 |
八九 | 落とし穴ぁ!? |
邑田 | け、怪我はしておらぬか!? 一体、誰がこのようなことを……断じて許せぬ! |
在坂 | ……怪我は、問題ない。 落とし穴の下に、落ち葉が敷き詰めてあった。 |
在坂 | 在坂が怪我をしないように配慮されていたんだと思う。 |
邑田 | な、ならばよいが……。 |
邑田 | しかし……在坂にかなわぬと気がつき、罠を張ったのか。 なかなかの知将よのう。 |
八九 | バニーハント用に、落とし穴掘ったってこと? 子供やば……全力じゃん……。 |
八九 | でも、結局捕まんなかったんだろ? やっぱお前身体能力やっべーよな。 |
在坂 | ……いや……。 |
在坂 | (彼の反応は、今までの……。 在坂を怖がった人間たちと同じだった) |
在坂 | (在坂の目が、本当に闇を映す鏡なのだとしたら……) |
子供たち | ウサギのにーちゃんどこー!? |
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在坂 | ちょっといいか? |
子供たち | わっ!! |
在坂 | あの、茶髪で巻き毛の少年について聞きたい。 |
子供1 | え!? あ、オリバーのこと……!? |
在坂 | あの少年の名前は、オリバーか。 オリバーは、何か心に闇を抱えているのか? |
子供たち | ココロニヤミ?? |
在坂 | 深い悩みがあるとか……怖い思いをしているとかだ。 |
子供1 | うーん、そんな話聞いたことないよね。 |
子供2 | オリバーの家、何年か前に妹さんが生まれてさ。 きっと大変だろうけど、でも……。 「妹大好き! 超かわいい!」って笑ってたし。 |
子供3 | はっ!! そういえば、ウサギのにーちゃんつかまえなきゃなんだった! |
子供たち | つかまえろー! |
在坂 | ……在坂はまだ、捕まるわけにはいかない。 |
在坂 | (オリバーのことは、もう少し調査をする必要があると思う) |
追いかけてくる子供たちをかわした後、
在坂は建物の屋根に上がってオリバーを探した。
在坂のいる地点から少し離れた人混みの中に、
オリバーの姿を見つける。
在坂 | (オリバーの様子が少しおかしい。 在坂を捕まえようとしているのではないのか?) |
---|
オリバーは暗い顔で何かを思案するように立ち止まった後、
何もない場所で突然転倒した。
在坂 | (……? あれは……) |
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オリバー | いたっ!! ううっ……痛いよぉ。 |
老婦人 | あら! 坊や、大丈夫? |
オリバーは痛がる顔をしながら老婦人に懇願するような
瞳を向け、支えてもらいながら立ち上がった。
在坂 | (……!) |
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異変に気づいた在坂は屋根の上から跳躍し、
オリバーのいる場所へと降り立つ。
在坂 | オリバー。 |
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オリバー | ……! |
在坂 | ……在坂の目を見ると、怖いのだろう? |
在坂 | 大丈夫だ。 目を合わせなければそんなに怖くはない。 |
オリバー | っ……! |
在坂 | 逃げるな。 在坂はオリバーと話がしたい。大事な話だ。 |
オリバー | な、なんだよ……。 |
在坂 | 在坂は見ていた。 |
在坂 | さきほどオリバーは、転んだふりをしてご婦人に助けてもらい。 その隙に財布を抜き取っていた。 |
オリバー | ……!! |
在坂 | 上着の内ポケットが膨らんでいる。 そこにあるだろう。 |
在坂 | 紫の長財布だ。 |
在坂の指摘にオリバーは青ざめながら、
上着の内ポケットに手をかけ紫の長財布を取り出した。
オリバー | ごめんなさいっ……!! |
---|---|
オリバー | 俺、どうしてもお金が必要で……! |
在坂 | オリバーは、なぜ泣いている? |
在坂 | ……話してくれなければ、在坂には何もわからない。 |
オリバー | ……あのさ、あの……えっと。 |
オリバー | 俺の家、父さんが去年……事故で死んじゃって……。 それ以来、母ちゃんと妹と3人暮らしなんだ。 |
オリバー | 母ちゃんは一生懸命働いて俺たちを養ってくれたけど、 無理のし過ぎで病気になって……今はほとんど寝てる。 |
オリバー | もう家にはお金がなくて……俺が稼ぐしかないんだ! |
在坂 | ……。 |
オリバー | スリが悪いことなのはわかってる。 でも、俺みたいな子供を雇ってくれる場所なんかなくて……。 |
オリバー | このままじゃ、家族バラバラになっちゃう! 万が一、孤児院行きになったら、妹とも離れ離れになるかも! |
オリバー | それだけは絶対にいやだ! だから、お金が必要だったんだ……! だから、俺……! |
在坂 | ……してはいけないことをしたということは、 本当にわかってるんだな? |
オリバー | ……うん……ごめんなさい……。 |
在坂 | …………。 |
在坂 | オリバー。今から在坂と勝負しろ。 |
オリバー | 勝負……? |
在坂 | バニーハントの続きだ。 お前が在坂を捕まえたら、このことは黙っててやる。 |
在坂 | 在坂が勝ったら、お前の盗みをばらす。 |
在坂 | 本気で来い。 |
オリバー | ……!!! |
在坂 | 事情を知ったからといって、在坂は容赦しない。 本気で勝負だ。 |
オリバー | 俺だって、母ちゃんと妹に知られるわけには……。 |
オリバー | 絶対に負けない! |
在坂 | …………。 |
オリバーとの決戦が始まり、
在坂は再びイベント会場を俊足で駆け回った。
在坂 | …………。 |
---|---|
ペンシルヴァニア | あれは……! 風の精霊か? |
ドライゼ | む……僅かだが視認できた。 あれは、在坂ではないか? |
ジョージ | 在坂、ホントに風の妖精みたいだなっ! 写真がブレちまったぜ! HAHAHA☆ |
オリバー | (速い! 俺の足じゃ絶対追いつけない!) |
オリバー | (でも、あいつだってずっと走ってるわけじゃない。 そこを狙えば……!) |
しばらく走った後、在坂は木に登って休憩を取っていた。
オリバー | 見つけた! |
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在坂 | ……! |
在坂 | (いや、慌てなくていい。オリバーはすぐに登ってこれない) |
在坂 | (オリバーが登ろうと木に足をかけるだろう。 その間に在坂が飛び降りて走れば、逃げ切れる) |
オリバー | 待ってろよ……。 |
オリバーはゴミ箱に捨てられていたポップコーンなどを
拾い集めると、在坂のいる木の下に撒いた。
次の瞬間、鳩の集団が木の下へと集結する。
在坂 | 何をしている……?? |
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オリバー | わー! |
鳩の周囲をオリバーが駆け回り、驚いた鳩たちは
一斉にその場からバサバサと飛び立つ。
在坂 | ……! 鳩で、目くらましを……!? |
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在坂 | (でも、これしきで捕まることは……!) |
在坂がそう思った瞬間、何かにぎゅっと抱きつかれた。
在坂 | っ!? |
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オリバー | 捕まえた! |
鳩の群れがおさまった後、在坂は改めて前方を凝視する。
マークス | 俺たちの勝ちだ、在坂ウサギ。 |
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在坂 | ……マークス? |
そこには、マークスに肩車されたオリバーがいた。
オリバー | このでかいにーちゃんと取引したんだ! |
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マークス | そうだ。オリバーを肩車する代わりに、 俺はエッグレースのコツを教えてもらった。 |
マークス | 重心に近いほうがブレにくいから、できるだけ腰近いところに 卵を持つのがいいらしい。 |
マークス | これで、マスターに賞品のイースターマグカップを渡せる! 助かったぞ、オリバー。 |
オリバー | へへっ! こっちこそ協力ありがとなっ! |
オリバー | どうだ、ウサギのにーちゃん! 自分の頭使って取引したんだ。ズルじゃないだろ? |
在坂 | ……ああ。完敗だ。 |
ケンタッキー | FINE PLAY! とうとうウサギ役を捕まえた子が現れたぜー!! |
司会役のケンタッキーの叫び声に呼応するように、
周囲の人々が歓声をあげ始めた。
バニーハントの終了後。
在坂とオリバーはイベント会場で向かい合っていた。
在坂 | オリバーは今、自分で、正しい手段で、家族の食い扶持を稼いだ。 |
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在坂 | 嬉しいか? |
オリバー | うん! すげー嬉しい……! |
オリバーは、バニーハントの商品である
ファミリーランチ優待券を手にしていた。
在坂 | オリバーはとても賢い。 その頭を生かせば、お前はちゃんとやっていける。 |
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在坂 | それだけじゃない。オリバーは……優しい。 在坂が怪我をしないように、落とし穴に草を敷いてくれた。 |
オリバー | ウサギのにーちゃん……。 |
在坂 | お前は人を助けられるし、人からも助けてもらえる。 だから、大丈夫だ。 |
オリバー | うっ……ありがとう……。 |
オリバー | にーちゃんのおかげで、俺……勇気出た……! |
在坂 | 勇気? |
オリバー | やっぱり俺、自分で警察に行くよ。 だって……悪いことしたんだもん! |
オリバー | これまで盗んだ人たちに、ちゃんと謝りに行く……! |
在坂 | そうか……よかった。 |
オリバー | ……! もしかして、にーちゃん……。 |
オリバー | 俺が自分で警察にいく勇気が持てるように、 わざと勝負なんて言い出したの? |
在坂 | さあな。 在坂は、ウサギとして全力で走っただけだ。 |
在坂 | 行こう、オリバー。 |
オリバー | うん……! |
その後、在坂とオリバーは街の警察に行き、事情を話した。
警官はオリバーにひと通りお説教をした後、
親身になって様々な場所へと連絡をとってくれた。
すでに被害届を出しており、オリバーとの面会を望んだ数名からは
こっぴどく叱られたが、誠心誠意謝罪するオリバーを
最終的には許してくれて──
中には、盗んだお金を返す代わりに農作業の手伝いを
提案した人もいた。
作業が終わった後はオリバーにお小遣いが支給され、
実質的に仕事をくれたようなかたちとなった。
オリバー | にーちゃん、ありがとう。 ほんとにほんとにありがとう……! |
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在坂 | オリバー……。 |
オリバー | 今日、いろんな人に謝って、その人たちの顔を見て、 俺さ……自分がひどいことしたんだって気づいた。 |
オリバー | 今日ここに来なかったら、俺はきっと悪い道に行って、 そのままになっちゃってたかも……。 |
在坂 | ……うん。 |
在坂 | それがわかっているなら、大丈夫だ。 |
オリバー | 俺、もう絶対にスリなんかしない。 ちゃんとした仕事を見つけて、やっていくよ。 |
在坂 | しかし、オリバー。 当面の働き口ができたといってもまだ問題はある。 |
在坂 | オリバーくらいの子は、普通は学校に行くのだろう。 学校はどうするんだ? |
オリバー | それは、その……。 |
在坂 | ずっと働いているわけにはいかない。 何か方法を考えなければ。 |
オリバー | で、でも、どうやって? |
オリバー | 孤児院は……わがままかもだけど、嫌だ。 母ちゃんや妹と一緒にいられなくなるからいやだっ! |
主人公 | 【在坂、お疲れ様】 【バニーハント、いい勝負だったよ】 |
在坂 | 〇〇……! |
オリバー | にーちゃん、この人は? |
在坂 | そうだ……〇〇なら、 いい方法を知っているかもしれない。 |
在坂 | オリバー、この人は在坂の信頼できる人だ。 少し相談してみてもいいか? |
オリバー | にーちゃんが信頼してるなら、絶対いい人じゃん。 頼む! |
在坂 | 〇〇、実は……。 |
在坂 | 行政の福祉……そんな仕組みがあったんだな。 在坂は知らなかった。 |
---|---|
在坂 | 〇〇に相談してよかった。ありがとう。 |
主人公 | 【オリバーの役に立ててよかった】 【市民を助けるのも将来の士官の役目!】 |
在坂から事情を聞いた〇〇は、
行政の貧困支援と医療支援の係にオリバー一家を紹介した。
オリバーと母親は〇〇と在坂に
たくさん礼を言い、行政の担当者に色々なことを相談した。
主人公 | 【あと、自分は両親がいなかったから】 |
---|---|
主人公 | 【そういう支援に助けられた】 |
在坂 | ……そうか。 |
在坂 | 自分の経験を生かして人を助けられるのは、 本当にすごいことだと在坂は思う。 |
在坂 | …………。 |
主人公 | 【どうしたの?】 【何かあった?】 |
在坂 | ……在坂は、自分の目が嫌いだ。 |
在坂 | 在坂は人が好きで、人と話してみたいとも思う……なのに。 |
在坂 | この目は人を怯えさせて、嫌な思いをさせてしまう。 だから、いつも人の輪から離れていた。 |
在坂 | でも、今日……在坂の目は、役に立った。 |
在坂 | オリバーが在坂の目に怯えたことで、 オリバーの抱える問題に気づくことができた。 |
在坂 | オリバーが怯えなければ、きっと在坂も、 あの子の本当の気持ちに気づけなかったと思う。 |
在坂 | 在坂の目が役に立つこともあると、わかった。 |
主人公 | 【そうだね】 【在坂のおかげで、オリバーは救われた】 |
在坂 | 在坂は、これからも人の役に立てるだろうか。 |
主人公 | 【イギリスではウサギが幸運を運ぶんだよ】 【今日は在坂ウサギが幸運を運んでくれたね】 |
在坂 | ……! |
在坂 | そうか。 在坂ウサギは、幸運をみんなに運べるウサギ……。 |
在坂 | 在坂は、もっともっと幸運を運びたい。 みんなが笑顔だと、嬉しい。 |
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