解説

カード解説

追悼式典に向かう途中で貴銃士たちが迷い込んだのは、1960年代のベルリン。
十手は、初めて目の当たりにする冷徹な戦場の現実を前に立ちすくむ。
でも、目を逸らさないと決めたから。固く拳を握り、前を見る。

心銃解説:理想と現実の天秤

変えられない過去の中で十手は苦悩する。正義とはなんなのか?
様々なものが揺らぐけれど、1つ確かなのは──奇跡的な巡り合わせの連続の先に今があることだ。

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

 

★4覚醒後のカードイラストに表示されるメッセージ

揺れるのはもう終わりだ。
マスターを。みんなを。
大切なものを、守るために……

Ep1. 揺れ動く天秤

──追悼式典の数日後。
〇〇と貴銃士たちは、
清掃当番で理科実験室の掃除をしていた。

シャルルヴィルわっ! ジョージ、床がビタビタだよ!?
モップはもっとちゃんと絞らないと……!
ジョージ……へ? あー! わりぃわりぃ!
シャルルヴィルもー……どうしたの?
もしかして、さっきの授業で観た映画のこと考えてた?
ジョージThat’s right……なんか、ずーんとしちまってさ。
後味がビターでモヤモヤするっていうか。
エンフィールドそうですね……。
どうしようもないような悪人が多く出てきて、
観ているだけでも精神的に摩耗してしまう感じでした。
ローレンツやれやれ……わかっていないな。
あの映画は絶望的な世界の中で、最後にほんの少し見える
人間への希望が独特の余韻をもたらすと評価されていて──
ベルガーわっかんねぇ~。
ヤな奴はぜーんぶ撃っちまえばいいだろ?
ベルガーごちゃごちゃ話しても変わんねーよ。
ぶひゃひゃひゃひゃ!
主人公【そんなことは……】
【いきなり撃つのは……】
十手……そうだなぁ。
十手どうしようもない悪はある……。
悪人全員を排除してしまえば、平和になるのかなぁ……。

独り言のように小さくこぼされた十手の声が耳に届き、
いつもの彼らしくない言葉に〇〇は驚く。

主人公【……十手?】
【何かあった……?】
十手………………。
エンフィールド十手さん?
十手……え、ああ、すまない……!
ちょっと考え事をしていたよ。掃除の途中だったね!
えぇっと、この天秤はあっちの棚かな?
十手…………。
……ごめん。嘘は駄目だよな。
十手いや、嘘ってわけじゃないんだが、誤魔化し……というか、
いずれにせよ、〇〇君が相手では隠せやしないね。
ははは……。
十手…………。
……ちょっと、話を聞いてくれるかい?
主人公【……うん】
【もちろん】

〇〇と十手は掃除の場所を移し、
2人だけで話すことにした。


十手……俺は、人情噺が好きなんだ。
十手根っからの悪人はいなくて、悪いことをした人にも理由がある。
義理人情で熱く盛り上がり、最後には改心して、
わかり合えて笑顔になる……そんな物語だ。
十手きっと、それが俺の理想の世界なんだ。
もちろん、理想と言っても人に押しつける気はないよ。
十手だけど、自分だけでも……。
周りがそんな優しい気持ちになれるような存在になりたかった。
十手……でも、世の中は全部が全部そうはいかない。
実際にあった恐ろしい事件について書かれた本も図書館で見たよ。
楽しんで他者を傷つけるような恐ろしい人間も実在する……。
十手そうでなくても、目の前の人を助けて、
一件落着、めでたしめでたし……
なんて、物語のように単純にはいかないこともある。
十手それを、俺は今回の件で……。

言葉に詰まった十手を、〇〇はそっと促した。

十手……夢か幻かはわからないが、
俺たちも不思議な体験をしたって言っただろう?
あの時詳しくは話さなかったが、実は……。

──十手は、追悼式典に向かう途中で体験した
不思議な出来事について話した。

主人公【タイムスリップ!?】
【1962年の西ドイツ……】
十手ああ、不思議な体験だった。
エルメ君のかつての持ち主だった
エメリヒ君という御仁と会ってね。
十手目の前で彼が敵に撃たれそうになって、俺はとっさに助けたんだ。
……彼が無事でよかったと思ったよ。
十手だけどその直後、俺の目の前で……。
負傷した敵兵と、彼を助けようとした年若い兵を
……エメリヒ君が、撃ち殺したんだ。
十手俺もわかっているんだ。
命がけの戦場で、エメリヒ君の行動は間違ってない。
相手は民間人ではない。エメリヒ君に殺意を持った軍人だった。
十手やらなければやられる……そういう状況だった。
でも……それでも俺は……大人とは言い切れない彼が
目の前で撃たれるのが、信じられない思いだった……。
十手……そして、俺は……
誰かを殺させるために助けたんじゃない、と、
エメリヒ君を助けたことを、一瞬後悔したんだ……。
十手そう思うのは間違っていると、今はちゃんとわかっているよ。
助けたのは俺の勝手で、
助けたからといって相手の行動を縛れやしない。
十手命の恩人だから、俺の望むように動け……なんて、
とんでもない押し付けでしかないからね。
十手でもあの時の、心の臓から一気に血が引いていくような感じが
忘れられないんだ……。
あの光景は、俺の願う『人情噺』には決して存在しない……。
十手……地獄だった。
十手俺が助けた人が、いつか誰かを殺すかもしれない……!
もし、エメリヒ君があのまま作戦を遂行していたら?
俺の人助けが、巡り巡って多くの人を殺していたかもしれない。
十手……そんな簡単なことを、わかってなかったんだ。
十手ああしてエメリヒ君に会ったことは、
きっとエルメ君にとって大切なことだったと思う。
十手でも、俺があの場に居合わせた意味は……?
十手もし、あそこに居合わせたことに意味があったとしたら?
あの鈴の音のように、
俺に何かと向き合えと言っているのならば……。
十手俺にこの先、どの道を行けと……?
主人公【十手……】
【それは……】
十手……俺が今まで信じてきた正義や善は……
一体なんなのだろうな。
十手でも、俺がそうやって地獄の前で立ちすくんでいる間にも、
戦場では目の前でどんどん人が死んでいく……。
十手はぁ……すまない。
ついいろいろと話してしまったよ……。
今の話なんだが、他のみんなには内緒にしてくれないかな。
十手俺も……こんな悩みは、おくびにも出さないと誓ってみせるよ。
十手……この世界は、優しいだけじゃないんだね。
残酷で、見たくもない地獄がある……。
十手これから先、もしもまたそんな場面に俺が直面しても……
立ちすくんで惑うだけじゃなくて、
きっと、きちんと選択してみせるよ。
十手ゆらゆらとどっちつかずに揺れるだけなのは、終わりにしないと。
……ちゃんと、大切なものを守るために。

十手は、埃を被った天秤の片方の秤へと指を置く。
キィ、と音を立て、天秤が傾いた──。

コメントを書き込む


Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

まだコメントがありません。

×