人と貴銃士の決定的な違い──人はいずれ必ず死ぬことを知り、悲嘆するカトラリー。
それでも前を向き、今を楽しもうと決めた。
肉体が死を迎えたとしても、残る者たちの記憶の中で、人は生き続けるのだから。
本当の本当は、いつか離れ離れになる日が来るのはすごく嫌だし、悲しいし寂しいよ。
でもその時のことを考えてばかりいないで、楽しい今を過ごすって決めたんだ。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
カトラリーが園芸部に入ったばかりの頃──。
コリン | よーし、やっと花壇の準備ができたな。 今日はいよいよ種まきだ! |
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園芸部員1 | 種ちっちゃ! どこにまいたのかわかんなくなりそー……! |
コリン | みんな、種もらったか~? もらってない人がいたら挙手な! |
カトラリー | あっ……。 |
カトラリー | (僕、種もらってないけど……。 う、うまく話しかけられない……) |
園芸部員2 | どうかしましたか? |
カトラリー | う、ううん……なんでもない……。 |
カトラリー | (はぁ……せっかく話しかけてくれたのに、 会話できなかった……) |
カトラリー | (だって、僕が発言して変な空気になたりしたら 恥ずかしいし居心地サイアクになるし。 でも、もうちょっと話せるようになりたい……) |
カトラリー | (そうだ! この種が育ったら、 勇気を出して僕から皆に話しかけてみよう……! いつ目が出てくれるか、今から楽しみ!) |
──翌日。
カトラリーが花壇の様子を見に行くと、
種をまいた場所にマークスがハーブの苗を植えていた。
コリン | う、うわああああ!! か、花壇が……! |
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カトラリー | ちょ、ちょっとマークス! 何してんの!? |
マークス | 何って、ハーブを植えている。 この種類は温室ではなく露地?に植えるのがいいと 本に書いてあったんだ。 |
カトラリー | もう! ハーブとか薬草の研究に熱心なのはいいけど、 ここは園芸部の花壇なの! |
カトラリー | しかも、昨日種をまいたばっかりなんだよ! その上にハーブの苗なんて植えたら、 芽が出なくなっちゃうよ、やめて!! 違うとこでやって! |
マークス | ちょっ……うわ、背中を押すな……! |
コリン | カトラリーさん……! 花壇を守ってくれてありがとうございます。 |
カトラリー | べ、別に……。僕がムカついただけだし。 勘違いしないで。 |
園芸部員1 | そ、そうですよね……。 |
カトラリー | (あ、今の流れでもっと話せたかもしれないのに……! 惜しいことしちゃった! 僕のバカ……!) |
カトラリー | (で、でも、花壇を守れたし、よかったよね?) |
──翌日。
カトラリーが花壇に行くと、また別の苗が植えられていた。
カトラリー | 今度は何!? |
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邑田 | む? わしらの芋畑じゃ。 収穫するのが今から楽しみじゃのう♪ |
在坂 | 左側が在坂の紅あずさ。右側が邑田の紅ほのかだ。 芋を収穫できたら、また焼き芋の会をしたい。 |
邑田 | あれは誠に楽しい会であった。 それにしても、ちょうどよい場所に空いておる花壇があって 本当によかったのう。 |
カトラリー | 何もないわけないでしょ! マークスも! 邑田も! 在坂も! ここは園芸部の花壇なのになんで勝手に植えるの!? |
カトラリー | みんなで頑張って土を作って、やっと種をまいたのに……! 園芸部のみんなが頑張ってたのを台無しにして、ひどいよ!! |
カトラリー | これから芽を出そうって時に掻き回される花だって かわいそうだし! それに僕も、同じ貴銃士ってだけで肩身が狭くなっちゃうよ! |
カトラリー | せ、せっかく、園芸部のみんなと仲良くなる チャンスだったのに……っ! う、うぅぅ~っ! |
コリン | ──肩身が狭くなるなんて、そんなことありえません! |
カトラリー | えっ……? |
コリン | カトラリーさんが頑張ってくれているのを、 僕たちみんな知ってますから。 |
園芸部員1 | 僕、カトラリーさんが誰よりも先に来て、 備品の補充をしてくれているのを見たことがあります! いつも作業しやすくしてくれて、ありがとうございます。 |
園芸部員2 | 私も、温室や花壇でよくカトラリーさんを見かけます。 花が病気になっていないか、害虫がついていないか、 こまめにチェックしてくださってますよね。 |
園芸部員2 | カトラリーさんも花が大好きなんだって伝わってきて、 すごく嬉しく思ってたんです……! |
コリン | 僕、カトラリーさんと仲良くしたいと思ってて…… 僕だけじゃなくて、園芸部のみんなもそうだと思います。 カトラリーさんも同じように思ってくださって嬉しいです! |
カトラリー | ……! みんな……。 |
邑田 | ほう……そなたはよき仲間を得たようじゃな。 知らなんだとはいえ、大切な場所を荒らしてしもうてすまぬ。 |
在坂 | 在坂も、すまなかったと思う。花壇はちゃんともとに戻そう。 それから、在坂はできれば芋を植えていい場所を教えてほしい。 |
カトラリー | その……僕もカッとなって言い過ぎちゃって、ごめん。 芋の苗を植えたいなら、あっちの空いてるところを使うといいよ。 ただ、自分で耕さなきゃいけないけど……。 |
コリン | お2人の芋の苗は一応外来種なので、 あちこちに広がらないようにした方がいいですね。 |
邑田 | おお、心得た。 |
在坂 | 畑を耕す人員が2人では足りないと在坂は思う。 邑田、八九を呼びに行こう。 |
邑田 | うむ、そうじゃな。 あやつも焼き芋は好んで食うておるし、手伝いを嫌とは言うまい。 では、わしらはこの辺で失礼する。邪魔したな。 |
こうしてカトラリーと園芸部員たちは、
花壇を守ることに成功し、絆が深まったのだった──。
──紫陽花フェスタを数日後に控えた、ある日の夜。
カトラリー | うーん……何がいいかなあ……。 |
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カトラリー | (オーナーさんの話を聞いて、今を大切にしたいって思って……。 まずは、いつもお礼をちゃんと言えてないから、 〇〇や十手にお礼をって考えたけど……) |
カトラリー | (せっかくだから特別な贈り物とかできたらいいよね! 何なら喜んでもらえるかな?) |
カトラリー | 紫陽花フェスタの日にしたいから、紫陽花関連のもの……? うーん、どうしよう……思いつかない……。 |
ミカエル | ……その図鑑の、綺麗な花だね。 これって食べられるのかい? |
カトラリー | 紫陽花は毒があるから食べられないんだって。 でも、確かに綺麗だよね。 紫陽花をイメージしたお菓子とかあるみたいだし……。 |
カトラリー | (そうだ! 紫陽花を食べるのは難しくても、 モチーフにした料理とかお菓子を作るとか、楽しいかも!) |
カトラリー | (お礼を言いたい人たちを集めて、ミニパーティーを開く! うわぁ、すっごくいいアイディア思いついちゃった! そうと決まれば、さっそくレシピを考えなくっちゃだよね) |
──翌日から、カトラリーは図書館でレシピを調べ、
必要な材料を用意し始めた。
そして迎えた、紫陽花フェスタ前日の夜。
準備のため、カトラリーが寮のキッチンへ向かうと、
そこには電気がついていて、既に人影があった。
カトラリー | ……2人とも、何してるの? |
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タバティエール | よう、カトラリーくん。 何って、料理するのさ。 時間がある時には結構入り浸ってるもんでね。 |
カトラリー | へぇ……そうなんだ。 2人とも、料理上手だもんね。 |
ジーグブルート | けど、お前がここに来るのは珍しいな。 腹でも減ってんのか? |
カトラリー | ううん。僕も料理を作りに来たんだ。 明日の紫陽花フェスタで、 お世話になった人たちに作りたいものがあって……。 |
カトラリーは、調べた内容が書いてあるノートを2人に見せた。
ジーグブルート | へぇ……きっちり調べてあるな。 |
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タバティエール | こいつは随分と手が込んでるな……! |
カトラリー | あ、ありがと。 見た目も味も良さそうなレシピを厳選してみたんだ。 |
ジーグブルート | けどよ、お前、料理はできんのか? 普段からフレンチでも作ってるやつならともかく、 こんだけ繊細なのをこの量作るのは難しいと思うぜ。 |
カトラリー | あ……。 |
タバティエール | 確かに、どれもこれも時間がかかりそうだな。 俺たちも手伝おうか? |
カトラリー | だ、大丈夫! これくらい自分でできるし……! 2人ともそれぞれやることあるんでしょ! 僕に構わなくていいから、そっちで作業して! |
タバティエール | へいへい、了解。 ま、何か困ったことがありゃあ声かけてくれよ。 |
カトラリー | よーし、紫陽花模様の飾り寿司から作ってみようかな? 小さいノリマキを作って、それをいくつも重ねて、 大きなノリで巻いて……簡単そう! |
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カトラリー | ええっと、具材をカットして……。 |
カトラリー | いたぁっ! うぅ……っ、指切っちゃった……。 先にスメシ?ってのから作ろうかな……。 |
カトラリー | ……って、うわあああ、落っことした……! ううう、何この匂い! ビネガー? 目にしみる~っ! |
タバティエール&ジーグブルート | …………。 |
カトラリー | (ど、どうしよう。全然うまくできない……。 こんなんじゃ、贈り物として用意できないよ……!) |
ジーグブルート | 初めて見る作り方だな。 おもしれぇ……おい、俺に貸してみろ。 |
タバティエール | どれどれ……。 レシピ、もう1回ちゃんと見せてもらっていいか? |
カトラリー | ……っ! な、なんで……? |
タバティエール | お礼だから1人で作りたい気持ちもわかるぜ。 でも、見てるだけってのももどかしくてさ。 遠慮せず頼ってくれよ。な? |
ジーグブルート | 作業を手分けしたからって、お前の感謝の気持ちが減るわけでも、 伝わらねぇわけでもないだろ? |
カトラリー | う、うん……! |
タバティエールとジーグブルートは手際よく調理を始める。
カトラリーも2人の的確なアドバイスのもと手伝いをし、
あっという間に紫陽花模様の飾り寿司ができあがった。
カトラリー | わぁ……! すっごく綺麗……! あ、あの……僕のレシピ、ちょっとわかりにくかったよね……。 作ってくれて、ありがとう……。 |
---|---|
タバティエール | いや、カトラリーくんが細かく手順を書いてくれてたからこそ、 短時間で調理できたんだ。 |
ジーグブルート | お前がもうちょっと料理に慣れたら、 これくらいパパッと自分でも作れるようになると思うぜ。 |
カトラリー | ほ、本当……!? あのさ……実は、これ以外も作りたいのがいっぱいあって……。 でも、うまくできる自信がなくて……だから、あの……。 |
カトラリー | い、一緒に……一緒に作ってほしい! |
ジーグブルート | よし、それでいい。 ちょうどスイーツを作りたいと思ってたんだ。 手伝ってやるぜ。 |
タバティエール | それじゃあ俺は料理の方を担当しようかねぇ。 3人で協力すれば、フルコースだって余裕で作れるさ。 |
カトラリー | う、うん……そうだよね! 2人ともありがとう……! 僕も頑張る……! |
──こうして3人で力を合わせ、
見事な紫陽花モチーフのフルコースが完成したのだった。
──紫陽花フェスタが無事終わり、少し経った頃。
カトラリー | ミカエル……! どこにいるの? |
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カトラリー | 花でも見てるのかと思ったけど、 ここにもいないか……。 どこ行っちゃったんだろう。 |
士官学校内をあちこち見て回っていたカトラリーは、
メモリアルウォールの前に人がいることに気づいた。
カトラリー | (生徒でも教官でもないよね。 誰なんだろう……?) |
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女性 | ……今年もこの日が来てしまったわね。 私……だんだんあの子の輪郭がぼやけていく気がして……。 あの時の悲しみも少しずつ和らいできて、それが悲しいの。 |
女性 | 声や体温、手や頬の感覚…… あの子の記憶が薄れていくくらいなら、 悲しみのどん底だろうと、そこに留まっていたかった……。 |
男性 | ああ……わかるよ。 記憶も悲しみも、当時のままの強さで永遠に保つことはできない。 でもきっと、あの子だって私たちがずっと嘆いているのは嫌さ。 |
男性 | 私たちが前を向いて歩いて行くことを、 あの子も笑顔で見ていてくれるはずだよ。 |
女性 | そうね……。 優しい子だから……。 |
カトラリー | (あの人たち……革命戦争で子供が死んじゃったんだ。 子供でも、死んじゃって会えなくなって何年も経つと、 だんだん記憶が薄れていくんだ……) |
カトラリー | (……それって、人に限った話じゃない、かも? 僕……銃だった頃の前の持ち主のことをどれだけ覚えてる?) |
カトラリー | (銃を通じて伝わってきた、あいつの感情、想い……。 どんな風に響いてたっけ……? もしかしたら、もう、僕の思い込みになっちゃってるかも……) |
カトラリー | (どうしよう、怖い……) |
カトラリー | (僕も、大事な人を忘れちゃうの……?) |
──その日の夜。
カトラリーは〇〇の部屋を訪れた。
主人公 | 【どうしたの?】 【どうぞ、入って】 |
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カトラリー | ……あの、急に来てごめん……。 その、なんていうか、僕ね……。 |
〇〇はカトラリーが泣きそうなことに気づいて、
お茶を飲みながら話そうと提案した。
カトラリー | ありがとう……このハーブティー、いい匂いだね。 落ち着く優しい匂いがする……。 |
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主人公 | 【気に入った?】 →カトラリー「うん。 温まったし、美味しい。」 【マークスが作ってくれたんだ】 →カトラリー「へぇ、マークスが……? なんか意外だね。こんなホッとするものも作れるんだ。」 |
ハーブティーを飲んで一息ついたカトラリーは、
昼間の出来事を話し始めた。
カトラリー | ……あのね、昼間にミカエルを探してた時に、 メモリアルウォールで悲しそうな顔をしている人たちがいたんだ。 その人たちの話が聞こえちゃって……。 |
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カトラリー | 死んで会えなくなっちゃった人のことは、 長い時間が経つと忘れちゃうんだって思って……。 どうしようって考えてたら、ぐるぐるしてきて……! |
カトラリー | ねぇ。僕、忘れたくない……! |
カトラリー | 未来を怖がって、今を大事にしないのはやめるって言ったよね。 もちろん、その言葉は嘘にしないようにしたいよ。 |
カトラリー | でも、怖いのは怖いんだ。 〇〇のことを忘れるのなんて、絶対やだ。 |
カトラリー | だから、僕がずっと君を覚えていられるように…… 〇〇とたくさん過ごしたい。 どんなに頑張ったって忘れられないくらいに刻みつけたい。 |
カトラリー | ねぇ、僕の名前を呼んで。 カトラリーって呼んで? |
主人公 | 【カトラリー】 【何回でも呼ぶよ、カトラリー】 |
カトラリー | ……っ! |
カトラリー | あと……手、握ってほしい……。 |
カトラリー | あったかい……。 〇〇の手と、体温……。 |
カトラリーはぽろりと涙を流しつつ、
ぎゅっと手を握りしめる。
〇〇は気分を明るくしようと、
紫陽花フェスタについて語りかけた。
カトラリー | ……紫陽花フェスタ。 そうだね……園芸部のみんなと紫陽花の手入れをして……。 |
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カトラリー | シャスポーさんと一緒にガイドブックを作って……。 ベルガーがカタツムリを飼ってたのには驚いたけど……。 |
主人公 | 【白い紫陽花も綺麗だった】 【いろんな紫陽花があったね】 |
カトラリー | うん……! どれもすごく綺麗だった。 同じ紫陽花でも、土壌によって色が違うのも面白いよね。 来年は、ミョウバンありとなしで僕も育ててみたいな。 |
カトラリー | ……って、来年の話になっちゃった。 紫陽花フェスタの思い出話をしてたのに、脱線しちゃったね。 |
主人公 | 【未来の楽しい話もいいと思うよ】 【話したいことを話せばいいよ】 |
主人公 | 【今度の休日、一緒に何をしたい?】 |
カトラリー | え? えっと……。 〇〇が一緒に遊んでくれるってこと!? |
カトラリー | それじゃあ……えっと、えっと……! 僕ね、新しくできたレストランに行ってみたいかも! シャスポーさんが、ケーキが美味しいって教えてくれたんだ。 |
カトラリー | あっ、でもミカエルと新しい花の苗を見に、 お花屋さんに行きたいねって言ってたし、 久しぶりに釣りにも行きたいんだった……! |
カトラリー | どうしよう、〇〇としたいことが いっぱい浮かんできて、決められない……! |
主人公 | 【ゆっくり考えよう】 【時間はいっぱいあるよ】 |
カトラリー | じゃ、じゃあ……僕が予定を決めるまで、 このまま手を繋いでいてね。 約束だからね……! |
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