これは遠い記憶の欠片。アメリカでの、彼らの物語の前日譚。
日の沈んだ森は獣の時間だ。彼らの音と、星の声に耳を澄ませ、ペンシルヴァニアは夜に身を委ねる。
「俺たちを……信じてくれてありがとう」
山を駆ける獣たち。赤く熟れた森の恵み。見上げる、満天の星。
難しい話はない。誰よりも自由を愛する彼は、自由の国での不自由に耐えられなかっただけなのだ。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
──〇〇たちがアメリカを訪れる
しばらく前……スターズハウスの一室で、
貴銃士ペンシルヴァニアは、ゆっくりと目を覚ました。
ペンシルヴァニア | (……光が……眩しい。ここは、一体……?) |
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ペンシルヴァニア | ん……? |
政府高官たち | Welcome to USA! Yeah~~~! |
貴銃士として目覚めたペンシルヴァニアが
初めて見聞きしたのは、盛大な拍手と、
クラッカーから飛び出た大量の紙テープだった。
ペンシルヴァニア | ……! |
---|
あっけに取られたペンシルヴァニアの頭に、
星条旗柄の派手な帽子が被せられる。
??? | アメリカの開拓民を支えた偉大なる銃、 ペンシルヴァニア・ライフル! 君が貴銃士として目覚めてくれて、最高だよ! |
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ペンシルヴァニア | これは……ハハ、盛大な歓迎に感謝するよ。 俺が貴銃士になったことを喜んでもらえて、 ……俺も嬉しい。 |
ペンシルヴァニア | ところで……あんたは誰なんだ? |
女性 | ふふっ、このお方はアメリカの大統領よ。 |
ペンシルヴァニア | 大統領か。そいつはすごいんだな。 |
大統領 | 当然さ! はっはっは! 改めて、よろしく頼むよ、ペンシルヴァニア。 |
ペンシルヴァニア | ああ、よろしく。 |
大統領 | そしてこっちが、君を呼び覚ましたマスターだ。 さぁ、2人で親睦を深めてくれ! |
マイケル・ダイアモンド | Hello、ペンシルヴァニア。 俺が君のマスター、マイケル・ダイアモンドだ! |
マイケル・ダイアモンド | マスターに選ばれて実に光栄だよ。 これから一緒に力を合わせて頑張ろう! |
ペンシルヴァニア | ああ。 俺にできることがあるならば……力を尽くそう。 |
マイケル・ダイアモンド | その意気だ、ペンシルヴァニア! 正義の味方は、いつだって全力でなくてはなっ! |
女性 | 彼は登山家で、世界の名山に数多く登頂した人なの。 彼ほどのタフな人なら、貴銃士のマスターという大役も ばっちりこなせるはずだって期待されてね。 |
ペンシルヴァニア | そうか……あんたも、すごい男なんだな。 俺は目覚めたばかりで、この世界のことは、 まだよくわからない……これから、世話になる。 |
マイケル・ダイアモンド | Sure! さぁ、堅苦しい挨拶はここまでにしよう。 |
マイケル・ダイアモンド | 俺は一応君のマスターだけど、 マスターというよりは友人のような関係になりたい。 ということで、まずは握手だな! |
ペンシルヴァニア | ……ああ! |
アメリカで目覚めた貴銃士と、そのマスター。
彼らが友情を結ぶ瞬間を目の当たりにして、
周囲から大きな歓声が上がる。
大統領 | マスターと貴銃士は篤い友情で結ばれた! ペンシルヴァニアの登場で、アメリカはさらに結束し、 強く偉大な国になるだろう! |
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大統領 | さあ、諸君! グラスは持ったかい? 偉大なるアメリカと、開拓者の銃、 ペンシルヴァニアの目覚めに……Cheers! |
政府高官たち | Cheers!!! |
ペンシルヴァニア | はは……元気な仲間たちだな。 これから楽しくなりそうだ。 |
男性 | Hey! Hey! さっそく質問をしてもいいかい? ペンシルヴァニア君、独立戦争時代のことを教えてほしいよ! |
女性1 | 狩猟用のライフルだった頃の記憶ってあるの!? |
ペンシルヴァニア | おっと……はは。 順番に答えていくから、少し待っていてほしい。 まずは独立戦争なんだが──。 |
大統領 | ……うんうん。 さっそく人気者になったようだな。 素晴らしいことだ。 |
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大統領 | …………。 彼ならば……今度こそ、 アメリカを代表する強い貴銃士となってくれるはずだ……。 |
ペンシルヴァニアがアメリカで召銃され、
しばらく経った頃──。
アメリカ支部兵士 | Hey、ペンシルヴァニア! 今朝の仕事はどうだった? |
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ペンシルヴァニア | ああ……今日はいつも以上に気合が入ったよ。 |
アメリカ支部兵士 | ん? 今日、何かあるのか? |
ペンシルヴァニア | まあ……少しな。 |
アメリカ支部兵士 | ああ、そういえば、ケンタッキー・ライフルの貴銃士が 召銃されたらしいな。 さっき俺たちにも公示されたよ。 |
ペンシルヴァニア | ……! そうか……! |
アメリカ支部兵士 | ははーん。なるほどなるほど。 君が珍しくそわそわしている原因は、新しい貴銃士か。 そんなに仲間が増えるのが楽しみだったのかい? |
ペンシルヴァニア | それもあるが……ケンタッキーは俺の弟分なんだ。 |
ペンシルヴァニア | 大統領……! ケンタッキーに会いにきたんだが……! |
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大統領 | OH! 早かったなぁ、ペンシルヴァニア! |
ケンタッキー | ……っ! |
ペンシルヴァニア | ケンタッキー……! 会えて嬉し── |
弟分の姿を見つけ、
ハグをしようとしたペンシルヴァニアだったが……。
顔をしかめたケンタッキーは、その手を払いのける。
ケンタッキー | べ、べたべた触んじゃねぇ! |
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ペンシルヴァニア | ……っ! |
ケンタッキー | 俺は、一人前のスナイパーだ! いくら兄貴分だからって、余計な真似すんなよ! |
ケンタッキー | 俺は……ぜってーお前には負けねぇからな! |
ペンシルヴァニア | ケンタッキー……? |
突然の宣戦布告から、数日後──。
ケンタッキーはミルクの入った大きめの瓶を
2本持ち、ペンシルヴァニアを睨みつけていた。
ケンタッキー | おい! 今日はミルク早飲み対決で勝負だ! |
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ペンシルヴァニア | またか……。 |
ケンタッキー | なんだよ、その顔は! やる前から怖気づいてんじゃねーだろうな!? |
ペンシルヴァニア | そういうわけじゃないんだが……。 昨日はハンバーガー早食い対決、 その前はベースボール対決だっただろう? |
ペンシルヴァニア | そろそろ、張り合わずに協力していきたいと── |
ケンタッキー | うるせぇ! お前の意見なんか聞いてねぇんだよ! 早くしろ! |
ペンシルヴァニア | はぁ……。 |
ペンシルヴァニア | (まぁ、危険な勝負でもないしな……) |
世界連合職員1 | ──おっ、今日はミルク早飲み対決か。 毎回かわいいことしてるねぇ! |
ケンタッキー | チッ、しょうがねーだろ! 撃ち合いや狩りは上から止められてんだよっ! |
マイケル・ダイアモンド | HAHA、盛り上がってるな! せっかくだし、俺が審判を務めてやろう! |
ペンシルヴァニア | いつの間に、みんな集まって……。 ……まあいい。 マスター、合図を頼む。 |
マイケル・ダイアモンド | ああ。 では、ミルク早飲み対決──スタート! |
ペンシルヴァニア | …………。 |
ひと口ひと口大きく、
安定したペースで飲み進めていくペンシルヴァニア。
ケンタッキー | ………! |
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ケンタッキーは横目でペンシルヴァニアの方を確認し、
自分のペースがやや負けていることに気付いて、
一気にペースを上げたのだが──。
ケンタッキー | ごっふぅ!!! |
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ペンシルヴァニア | ……!? |
飲み終えた──かのように思われた直後、
むせてしまい、勢いよく牛乳を噴射する羽目になる。
世界連合職員2 | あはははははっ! 惜しかったなぁ、ケンタッキー! 口からミルクの噴水を出す勝負なら勝ってたぞ! |
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ケンタッキー | わ、笑うんじゃねー……げほっ、げほっ……! |
ペンシルヴァニア | 大丈夫か……? |
ケンタッキー | 背中さすんのやめろ! 情けなんかいらねぇ! |
ケンタッキー | くっそー……今度こそ…… けほっ……負けねぇからな! |
世界連合職員3 | ケンタッキー、ペンシルヴァニア、ナイスファイト! 楽しかったぞー! |
ケンタッキー | うっせーっ! |
マイケル・ダイアモンド | HAHA! 君たちといると、毎日賑やかで楽しいな。 |
ケンタッキーから一方的にライバル視されていた
ペンシルヴァニアだったが……。
公務の合間におこなわれる
ささやかな対決は、
彼にとって、いい気分転換にもなっていた。
ケンタッキー | ──くそっ! 明日は負けねーからな! |
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マイケル・ダイアモンド | いや~、今日もふたりは白熱していたな。 共にぶつかり合い、高め合うライバル……! いい関係だ! Great!! |
ペンシルヴァニア | はは……だといいんだが。 |
秘書 | 盛り上がっているところ失礼いたします。 そろそろ公務のお時間です。 |
秘書 | 本日は正午より軍の訓練に参加しつつ兵の慰労、 夕方には近隣の街へ向かって国民と交流し、 夜には要人方との会食、となっております。 |
ペンシルヴァニア | それは……みっしりだな……。 |
ペンシルヴァニア | (貴銃士として国に所属する以上、 仕方ないことかもしれないが……) |
マイケル・ダイアモンド | ペンシルヴァニア……? どうしたんだい? |
ペンシルヴァニア | ……いや、なんでもない。 そろそろ移動するか。 |
いささか窮屈さを覚えながらも、
ペンシルヴァニアが公務をこなす日々は続いた。
ペンシルヴァニア | はぁ……。 |
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ペンシルヴァニア | (肩が重いな……。これが肩こり……か) |
ペンシルヴァニア | (今日は朝から事務仕事だったからな……。 窓でも開けて外の空気を取り入れて、 リフレッシュしよう……) |
窓を開けると、爽やかな風が入り込んでくる。
外は晴れて、雲一つない青空だ。ペンシルヴァニアは
そのまましばらく、空を自由に飛ぶ鳥を眺めていた。
ペンシルヴァニア | (今日はいい狩り日和だな……) |
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ペンシルヴァニア | ……! そうだ!! |
ペンシルヴァニア | おぉーい! マイケル! ナンシー!! |
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マイケル・ダイアモンド | おや? どうした、ペンシルヴァニア! |
ペンシルヴァニア | なぁ、時間を作れるか!? 狩りに行きたいんだ! |
マイケル・ダイアモンド | Wow! それはナイスアイディアじゃないか! ぜひとも行きたいな! ナンシー、スケジュールはどうだい? |
秘書 | えっ……狩り、ですか? そうですねぇ……狩りとなると……。 ええと……。 |
秘書のナンシーは、
分厚いスケジュール帳をめくり始める。
秘書 | ──7日後なら空きがございますね。 |
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ペンシルヴァニア | な、7日後……っ!? |
秘書 | はい。 |
ペンシルヴァニア | そんな……。 明日の午後の予定は、確かキャンセルになったと……。 |
秘書 | いえ、その時間は、市街地視察が入ることになりました。 それに……。 |
秘書 | 狩りができるような土地と言いますと、 ここから遠いですし、準備も必要でございますから。 経費と時間が── |
ペンシルヴァニア | …………。 |
ペンシルヴァニア | そうか、わかった……。 ……無理を言って、悪かった。 |
マイケル・ダイアモンド | ペンシルヴァニア……。 |
秘書 | 承知いたしました。 では、マイケル様とペンシルヴァニア様の 本日の予定についてですが……。 |
秘書 | 市民からの手紙に対し、 いくつか返事を書いてあげてください。 民衆の心を掴むのも、貴銃士様の大事な仕事です。 |
秘書 | 手紙は3時間後に取りに伺います。 それでは、またのちほど。 |
ペンシルヴァニア | ……はぁー……。 |
マイケル・ダイアモンド | 狩りか……。 君はもともと猟銃だし、上手いんだろう? 腕前を見たいものだな……! |
ペンシルヴァニア | え……。 |
マイケル・ダイアモンド | 今の時期は……やっぱり、鹿だろうか? 特に今日みたいな快晴だと、 ただ森を歩くだけでも気持ちよさそうだな! |
ペンシルヴァニア | ……! マスターも、そう思うか? |
マイケル・ダイアモンド | もちろんだとも! 俺は釣りくらいしか経験がないんだが、 狩猟だって、君が教えてくれるんだろう? |
ペンシルヴァニア | もちろんだ、任せてくれ! |
そうして──
ペンシルヴァニアとマイケル・ダイアモンドは、
とある決断を下すこととなる。
マイケル・ダイアモンド | ──ペンシルヴァニア。 準備はできたかい? |
---|---|
ペンシルヴァニア | うん。大丈夫だ。 |
マイケル・ダイアモンド | よし、それじゃあ出発だ! 自由の世界へ、いざゆかんっ!! |
ペンシルヴァニア | ──ああ! |
ペンシルヴァニアは、デスクの上に
『広い世界を旅したい』と書いたメモを置く。
ペンシルヴァニア | …………。 あとは、任せたぞ──ケンタッキー。 |
---|
時は流れ……ペンシルヴァニアとケンタッキーが、
士官学校に訪れるようになってからのこと。
マークス | マスター、随分歩いてきたが……疲れてないか? |
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主人公 | 【これくらい平気】 【大丈夫】 |
ペンシルヴァニア | そうか。 ならば……引き続き、慎重に進んでいこう。 |
ペンシルヴァニア | ここはアウトレイジャーだけでなく…… 熊の目撃情報もあったらしいからな。 どちらにもすぐ対応できるよう……警戒してくれ。 |
ジョージ | 熊か~。川でサーモンを素手でバシャッ! って取るとこ、見てみたいな~! |
ケンタッキー | は? いやジョージお前、 熊ってマジで激ヤバなんだからな? 緊張感ねーなぁ……。 |
ケンタッキー | ──ん? |
ケンタッキーが目を細め、マークスが身構える。
次の瞬間、近くの茂みから、
勢いよく熊が飛び出してきた。
熊 | ウゥゥッ……! |
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ペンシルヴァニア | 出たっ……! 全員、このまま熊から目を離さずに── |
アウトレイジャー | ……殺、ス……。 |
ジョージ | えぇぇぇぇっ、ここでアウトレイジャーかよ!? |
ケンタッキー | 最っ悪の挟み撃ちじゃねーか! ……くそっ! |
熊 | グルルルルッ……! |
アウトレイジャー | 殺ス……殺ス……。 |
ジョージ | くっ……このまま戦うのか!? ちょっとこれは……。 |
ペンシルヴァニア | 危険すぎる! 一旦散って、後から合流するぞ……! |
主人公 | 【了解!】 |
マークス | マスターは、俺と一緒に! 手を──。 |
熊 | グアアアアッ! |
マークス | ……うおっ!? |
〇〇へ駆け寄ろうとしたマークスの前に、
熊が立ちはだかる。
ペンシルヴァニア | マスター、こっちへ! 右側から逃げるぞ! ケンタッキーもこっちに来い! |
---|---|
ケンタッキー | 言われなくてもわかってるっての! |
ケンタッキー | ふぅ……マスター、大丈夫っすか!? 怪我とかしてませんか!? |
---|---|
主人公 | 【2人のおかげで無傷で済んだ】 【平気だよ】 |
ケンタッキー | はー……! 良かったぁぁ~……! ひとまず逃げ切れたみたいですし、 これで当分は大丈夫っスね……! |
ケンタッキー | マークスとジョージの野郎? あいつらは気にしなくていいんっすよ! ダテに厳しい訓練積んでないっスから! |
ペンシルヴァニア | だが、すっかり日も暮れてしまったな……。 暗くなった森を不用意に歩くのは危険だから、 今日はここで野営するとしよう。 |
ペンシルヴァニア | 俺は焚き火用の枝を集めてくるから、 ケンタッキーは〇〇の護衛を頼むぞ。 |
ケンタッキー | は? おい、勝手に決めんな。 しかも森の中歩くのは危険だって、 お前が言ったばかりだろうが。 |
ペンシルヴァニア | 俺は山歩きに慣れているし、 遠くには行かないから大丈夫だ。 ……それじゃあ、マスターは頼んだ。 |
ケンタッキー | …………。 |
戻ったペンシルヴァニアは、手際よく火をおこす。
そのまま2人の護衛を申し出ると、
渋るケンタッキーを制して周囲の見回りへと出かけた。
ケンタッキー | ──おい。 お前……さっきから何考えてんだよ。 |
---|---|
ペンシルヴァニア | 何って……別に……。 それより、もう少し休め。 見張りの交代まで、まだ時間があるぞ。 |
ケンタッキー | ……! 薪のときといい、さっきから頼んでもねぇのに 変な気ぃ遣いやがって……! |
ペンシルヴァニア | そんなつもりはない。 俺よりもケンタッキーといる方が、マスターも安心だと── |
ケンタッキー | はぁ……? お前がそんなだから……! |
主人公 | 【喧嘩はやめよう】 【落ち着いて】 |
ケンタッキー | あっ……すんません、マスター。 俺……っ。 ……ちょっと、頭冷やしてくるっす! |
主人公 | 【ケンタッキー】 【待って!】 |
咄嗟に引き留めようとする〇〇だが、
その腕を、ペンシルヴァニアが掴んで止めた。
ペンシルヴァニア | ──後は追うな。 |
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ペンシルヴァニア | 夜の森は危険だ。 マスターを行かせるわけにはいかない。 |
ペンシルヴァニア | ケンタッキーは山を熟知しているし、 野生の勘も働くから心配はいらないさ。 ……大丈夫、必ず無事に帰ってくる。 |
ペンシルヴァニア | あんたの役目は── ここでアイツの帰りを信じて待つことだ。 |
主人公 | 【ペンシルヴァニアがそう言うなら】 【わかった】 |
ペンシルヴァニア | ……ありがとう。 俺たちを信じてくれて。 |
とある昼下がり──〇〇は
ペンシルヴァニアの案内で、
森の中の野いちご群生地へとやって来ていた。
ペンシルヴァニア | お、食べ頃のが結構たくさんあるな。 みんなのお土産にもできそうだ。 さっそく手分けして摘んでいこう。 |
---|---|
ペンシルヴァニア | だが……俺からあまり離れないようにしてくれ。 |
主人公 | 【了解】 【気を付ける】 |
──数十分後。
野いちごを摘むのに集中していた〇〇は、
ふと顔を上げ、木陰に小鹿がいることに気付いた。
主人公 | 【見て、小鹿だ】 【可愛いなぁ】 |
---|
近くにいるはずのペンシルヴァニアに声を掛けるが、
返事がない。慌てて周囲を見回し、最初の地点から
離れてしまったことに、〇〇は気付いた。
ペンシルヴァニア | だが……俺からあまり離れないようにしてくれ。 |
---|
ペンシルヴァニアの言葉が頭をよぎり、
〇〇が急いで戻ろうと踵を返した時──
──ガサッ
主人公 | 【ペンシルヴァニア……?】 |
---|
──ガサガサッ
主人公 | 【あれは……!】 【親鹿……!?】 |
---|
茂みから現れたのは、ペンシルヴァニアではなく、
大きな体躯の鹿だった。
親鹿なのか、小鹿が駆け寄り、足元にじゃれつく。
可愛らしい光景だが、
親鹿が体勢を低くして地面を掻くので、
〇〇は緊張感とともに身構えた。
主人公 | 【(小鹿を害そうとしたと勘違いされたかも)】 【(攻撃されそうだ……)】 |
---|
そして次の瞬間──
猛然と突進してきた親鹿を、〇〇は
間一髪のところで横に飛びのいて避ける。
しかし、親鹿の方もすぐに方向転換し、
再び〇〇へと狙いを定めた。
主人公 | 【(傷つけたくない)】 【(だけど、このままじゃ危ない……)】 |
---|
メスなので角はないが、大きな体躯から繰り出される
突進と体当たりを食らえば、
骨折や内蔵損傷の恐れもある。
山の中では治療を受けられない──
最悪の場合、命にかかわる事態になる可能性もあった。
生きるか死ぬかの瀬戸際で、〇〇は、
唯一持っていた武器であるナイフを強く握りしめる。
その時──
ペンシルヴァニア | 〇〇! |
---|
──パァン!
親鹿 | ……! |
---|
ペンシルヴァニアが威嚇射撃をすると、驚いた親鹿は、
小鹿を引き連れて山の奥へと駆け込んでいった。
ペンシルヴァニア | 離れていたことに気付かず、すまない。 怪我はないか? |
---|---|
ペンシルヴァニア | ほら、掴まってくれ。 |
ペンシルヴァニアの手に掴まり、
〇〇は立ち上がった。
〇〇が無事であることを確認するように
頭から足まで見たペンシルヴァニアは、
大きなため息とともに座り込んだ。
ペンシルヴァニア | はぁぁぁ……。 |
---|---|
主人公 | 【だ、大丈夫!?】 【どこか怪我を!?】 |
ペンシルヴァニア | ……いや、俺は平気だ。 ただ……ほっとして、気が抜けてしまった。 |
ペンシルヴァニア | ……あんたが無事で、よかった。 鹿に襲われてるあんたを見て、心臓が止まるかと……。 |
ペンシルヴァニア | ……すまなかったな、〇〇。 今の時期、山の動物たちは子育てをしている。 親は気が立っていて、遭遇すると危険なんだ。 |
ペンシルヴァニア | だから、俺から離れないように……とだけ 言っていたんだが……。 ちゃんと事前に説明しておくべきだった。 |
主人公 | 【忠告してくれていたのに、ごめん】 【はぐれてしまって、ごめん】 |
ペンシルヴァニア | いや……。 あんたが離れたことに気付かなかった俺にも、責任はある。 |
主人公 | 【ペンシルヴァニアのおかげで助かった】 【助けてくれてありがとう】 |
ペンシルヴァニア | 俺も……ちゃんとマスターを守れて、よかったよ。 さ、野いちごは十分採れたな。 甘くて美味しい……ジャムを作ろう! |
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