解説

カード解説

「大きくなったらパパと結婚する!」
少女の夢は、父親の突然の死で叶わぬものとなる。
ジーグブルートは落ち込む少女を励ますため
奮闘!そして、自分がこれから先長い時を共に歩むことになるマスターへ想いを馳せる。

心銃解説:ただ一人へ捧げる誓い

オママゴトみてぇなもんだろうが
他でもない俺が必要で力になれるなら、手を貸してやりてぇだろ。
貴銃士としての俺のことは、お前が必要としてくれりゃいい。

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

Ep1. 少女の願い

任務で多忙を極めた日々が落ち着いたある日、
〇〇の部屋を訪ねてきたジーグブルートが、
神妙な顔で切り出した。

ジーグブルートあのよ……結婚式に出てほしいんだ。
主人公【ええっ!? お、おめでとう!?】
【誰と結婚するの!?】
ジーグブルート……あ? ち、違ぇよ!
俺の結婚式じゃねぇって!

フィルクレヴァートの街の一角にある赤い屋根の店ーー
「クーヘン・ハイム」は本場のドイツ菓子店だ。
ドイツ出身の夫婦が経営している。

ジーグブルートは菓子作りの参考として
店へ通ううちに店主と懇意になり、
時にはレシピについて語り合う仲になっていた。

ジーグブルート(最近任務で慌ただしかったし、
この店に顔を出すのも久しぶりだな)
ジーグブルートん? 「休業中」……?
ジーグブルートチッ、仕方ねぇ。
また出直して……。

ジーグブルートが帰ろうとしたその時、
菓子店の女性が息を切らして帰ってきた。

女性……っ、ハァ、ハァ……ッ!
ジーグブルート……?
どうしたんだよ、そんな慌てて。
女性娘が……! クラーラが……っ!
ちょっと目を離した隙に、いなくなってしまったの……!
ジーグブルートさん、娘を見かけなかった?
ジーグブルートいや、見てねぇぞ。
どこに行ったか心当たりはねぇのか?
女性いつもの公園にはいなかったの。
お気に入りの花屋さんにも……。
あとは……ああ、もしかしたら……。

女性とジーグブルートは、小高い丘の上へと向かった。
丘の上には『鳴らすと幸せになれる鐘』が有名な墓地公園がある。

ジーグブルートたちが、二手に分かれて探していると──

クラーラ…………。
ジーグブルート……クラーラ?
クラーラパパ!!
クラーラあ……ジグお兄ちゃん……。
ジーグブルートはぁ……! ったく。
こんなとこに子供が1人でいたら危ねぇだろ!
女性クラーラ! あぁ、よかった!
さぁ、一緒に帰りま──
クラーラいや、帰らない!
ジーグブルートは? なんでだ?
クラーラパパは約束してくれたの!
クラーラが大きくなったら、けっこんするって。
クラーラパパ……約束したのに……っ。
うわぁぁぁあん……!
ジーグブルート……っ!? まさか……。
女性実は……夫は2か月ほど前に、急な事故で……。
ジーグブルート……まじかよ。
だから休業の札がかかってたのか。
女性ええ……。
それに、この子はパパのことが大好きだったから……。

クラーラパパ、バターサンド! バターサンドつくって!
女性ふふっ、クラーラはバターサンドが大好きね!
クラーラふつうのバターサンドが好きなんじゃないよ。
パパの作るバターサンドがだーいすきなの!
クラーラパパ、大好き!
クラーラ、大きくなったらパパとけっこんする!
店主の男性ははっ、パパも大好きだよ!
クラーラとずっと一緒にいられるんだな。
パパは最高に幸せだ!

ジーグブルート(確か、クラーラは5歳くらいだったか……?
あれだけ仲のいい親子だったんだ。
ショックで父親の死を受け止められねぇんだろう……)
女性もうパパはいないのよ……。
クラーラ、わかってちょうだい……!
クラーラいや!
パパ……ふえええ……ええええん……っ!
女性ジーグブルートさん、迷惑をかけてごめんなさいね。
娘を一緒に探してくれてありがとう。
……さあ、行くわよ、クラーラ……。
ジーグブルート……待ってくれ。

ジーグブルートは、クラーラの前にしゃがみ込む。

ジーグブルートクラーラ、お前の願いは俺が叶えてやる。
クラーラジグお兄ちゃん……?

Ep2. ポルターアーベント

ジーグブルート……っつーわけだ。
それで結婚式に参列してくれる奴を探してる。
主人公【ジーグブルートが結婚するのかと思った】
ジーグブルートだから、違ぇって!
俺の結婚式なわけがねぇだろ!
ジーグブルートいや、俺が新郎側に立つには立つんだが……。
主人公【どういうこと?】
【説明してほしい】
ジーグブルート俺が父親の役になって、クラーラと結婚式をするんだ。
俺の身長や体格が、父親とよく似てるんだと。
ジーグブルートもちろん、本当の結婚式じゃなく真似事に過ぎねぇ。
けど……真似事でも、ちょっとでも救いになるならよ。
クラーラの願いを叶えてやりてぇんだ。
主人公【そういうことなら協力する!】
【素敵な結婚式にしよう!】
ジーグブルートそうか……悪いな。
感謝、するぜ。

こうして〇〇は介添え人として、
結婚式の進行補助をすることになった。


〇〇とジーグブルートは、
結婚式のことを他の貴銃士にも話し、協力を募ることにした。

ケンタッキーくっ……うぐぅっ! 泣ける話じゃ、ねぇか……!
衣装は俺に任せろよ!
世界一ハッピーな礼装作ってやらぁ!
カトラリー結婚式ならさ、ブーケやフラワーシャワーが必要でしょ?
園芸部のみんなにお願いして、花を持っていくよ。
あっ、ミカエルにピアノを弾いてもらったら?
ミカエル……結婚式のピアノ伴奏か。
いいね……愛溢れる曲を考えておくよ。
タバティエール結婚式のごちそうは、俺に任せてくれ!
ドイツ風の定番料理を調べてみるかな。
ローレンツ真似事とはいえ、
聖職者がいないと場が締まらないだろう。
必要ならば、この俺がその役を引き受けよう。
ジーグブルート……ったく。
お前ら、揃いも揃って暇人すぎだろうが。
エルメねぇ、ドライゼ見て。
あのジグが……人のために何かをしようと自ら行動してる。
立派になって……。
ドライゼああ、成長したな……!
ライク・ツー……こいつらはジーグブルートの両親役にぴったりだな。
ジーグブルートはぁ……ここはお節介の集まりか?
……でも、手伝ってくれてありがとうよ。
ジョージNo problem!
困った時は助け合いだろ!
他のやつらもゲストとして祝いに来てくれるってさ。
ライク・ツー他に当日までに用意することとかあるんだろ?
手伝えそうなことは協力するぜ。
ジーグブルートそうだな……まずは、古い皿を集めてくれ。
全員お、お皿……??

──式の前日。
〇〇は、ジーグブルートたちと共に店を訪れていた。

ジーグブルートおい、タバティエール。
こいつを冷蔵庫に入れといてくれ。
タバティエールおう……って、ずいぶん大きな包みだな!
なんだいこりゃ? パーティー用の食材か?
ジーグブルートあとでわかる。

ジーグブルートは先に料理の手伝いに来ていた
タバティエールに袋を渡すと、クラーラと母親に
〇〇たちを紹介する。

ジーグブルートクラーラ、こいつらは俺の身内みたいなもんだ。
式の準備を手伝ってくれる。
エルメはじめまして、ジグの兄だよ。
俺はエルメ、こっちはドライゼ。
で、こちらは俺たちのマスター。
主人公【はじめまして】
【よろしくね】
クラーラ……わ……。
女性クラーラ、ゆっくりでいいのよ。
クラーラは、はじめまして。クラーラよ……です!
ママと弟のフィンもい……ます。
ほら、フィンもみんなにあいさつ……!
フィンぼく、フィン! 3さい!
主人公【上手に言えたね】
【えらい!】
女性みなさん、娘のためにありがとう……。
ジーグブルート礼を言うのは早いぜ。式はこれからだろ。
ポルターアーベントの準備を始めるぞ。
クラーラぽるたー……?
ジグお兄ちゃん、それってなーに?
ジーグブルートああ、ドイツで結婚式前夜にやる風習のことだ。
結婚する2人で古い皿を割ると、悪い気や悪魔を遠ざけて、
幸せになれるんだとよ。
クラーラパパとママも一緒にお皿を割ったの?
女性ええ、もちろん。
たーっくさん、パパとお皿やカップを割ったわ。
クラーラそうだったんだね……!
クラーラもやる!
ジグお兄ちゃん、はやくはやく!!

ジーグブルートたちが外へと出ると、
ちょうど他の貴銃士たちがやってきたところだった。

ジョージおーい!
頼まれてた古い皿とか持って来たぞ~!
主人公【すごいたくさん!】
→ジョージ「HAHAHA!
寮のやつらに聞いて回ったら、増えてったんだ。」

【そんなに持ってきたの?】

→ライク・ツー「文句ならジョージに言え。
俺はそんなにいらねぇって止めたからな。」
ジーグブルートまあ、少ないよりは多い方がめでたくていいか。
クラーラ、全部割るぞ!
クラーラうん! それじゃあ、いくよー!
えいっ!
ジーグブルートいい投げっぷりだ。
俺も負けてらんねぇな……っ!
ジョージいいぞ~! 割れ割れー!

──数十分後。
クーヘンハイム前の道路には、皿の破片が散乱していた。

ジーグブルート……さて、これを結婚する2人で片付ける。
とはいえ、危ねぇから俺がやる。
怪我されると面倒だ。お前は無理するなよ、クラーラ。
クラーラで、できるもん……わわっ!
主人公【危ないよ!】
【一緒にやろう?】
フィンぼくもおてつだい、したい!
ママ、いいでしょ?
女性そうねぇ、ママも一緒ならいいわよ。
ジーグブルート……まあ、いいけどよ。
怪我しそうな鋭い破片には絶対触れるんじゃねぇぞ。
全員はーい!

〇〇はジーグブルートたちと協力し、
皿の破片を片付けていった。

ジーグブルート……よし、これで終わりだ。
クラーラふぅー! ジグお兄ちゃん、やったね!
ジーグブルートおう、よく頑張ったな。

ジーグブルートとクラーラがハイタッチする。

タバティエールお疲れさん! 腹は減ってないかい?
軽食ができたんだ。皆で食べようぜ。

 

Ep3. 2人の共同作業

クラーラわあ~っ! 美味しそう!
ドライゼカリーヴルスト、ポメス、レバーケーゼサンド……。
どれもドイツの家庭料理だな。
タバティエールが作ったのか?
タバティエールああ、軽食ばかりだが店のキッチンを借りてね。
調理台も道具もピカピカで、大切に使われているのがわかった。
いいキッチンってのは、わくわくするもんだ。
タバティエールそういえば、道具の中で気になるものがあったんだが。
この花の模様がついている麺棒は、どうやって使うんだ?
もしかして料理道具じゃなくて、インテリアとか……?
女性ふふ、これは麺棒じゃなくてクッキーローラー。
クッキーの生地に模様をつける道具なの。
女性家族でスウェーデンに行った時に見かけて、
一目ぼれして買ってきたのよ。
タバティエールへぇ! なるほど、洒落てるな。
こいつで作ったクッキーを食べてみたいもんだ。
女性そうね……でも、今は……。
ジーグブルート……軽食だけじゃ物足りねぇだろ。
俺からのプレゼントはこれだ。

ジーグブルートがテーブルの上に大きな包みを置く。
結び目を解くと、現れたのは大きな切り株だった。

全員切り株!?
ライク・ツーどういうことだ?
ドイツじゃ切り株をプレゼントするのか……?
クラーラあれ? でもこの切り株、甘い匂いがするよ?
ジョージじゃあ、オレが一口、指で……。
フィンわわっ! なめるの!?
ジョージうっ……美味い!!
ケーキだこれ!
ドライゼ……なるほど、結婚式の恒例の丸太切りか。
よく考えたな。
ジーグブルート堅物のてめぇも結婚式の風習くらい知ってんだな。
丸太をのこぎりで切るのは、クラーラには難しい。
だから食べられる丸太にしたっつーわけ。
ジーグブルートクラーラ、ケーキ用のナイフでこの丸太を切るぞ。
ジーグブルート年輪のように、幸せを重ねていけるように……。
心の中で言いながら切るんだ。
クラーラはーい!

ジーグブルートはクラーラと一緒に
切り株の形をしたケーキを切り分けていく。

ジーグブルートよし、いいぞ。
上出来じゃねぇか。
クラーラわーい、いただきまーす!
ジグお兄ちゃん、とっても美味しいよ!
ジーグブルートそうか。よかったな。
フィンおねえちゃんのケーキのほうが大きいね?
いいな~ジグお兄ちゃん、フィンともけっこんして!
もっと大きいケーキつくって!!
クラーラだめ! ジグお兄ちゃんはクラーラとけっこんするの!
クラーラにだけ、ケーキをつくってくれるんだから!
エルメふふ、ジグがモテモテだ。
ジョージHAHA! ジーグブルートでも照れるんだな!
ジーグブルート……っ、うるせぇ!
黙ってケーキを食え!

女性今日は片付けまでしてもらってしまって……。
本当にありがとうございました。
あの子たち、はしゃぎ疲れて寝てしまったわ。
ジーグブルート俺たちが勝手に押しかけてやってることだ。
礼なんていらねぇよ。
女性あの……これ、明日クラーラにつけてあげてくれる?
おもちゃの指輪だけど……
前にあの人があげた、娘お気に入りの指輪なの。
ジーグブルート……わかった。明日まで大切に預からせてもらう。
俺はおもちゃの指輪はさすがに入らねぇからな。
借りてきた指輪をつけるぜ。
女性指輪も用意してくださったの?
……本当に、ありがとうございます。
明日はよろしくお願いします。
主人公【楽しみだね!】
【いい式にしようね】
ジーグブルート……ああ。

Ep4. ささやかな結婚式

そうして迎えた当日──。
クラーラと、父親代理のジーグブルートの『結婚式』は、
街はずれの小さな教会で行われた。

ローレンツ新郎、ジーグブルート。
あなたは、任務で団体行動を乱さず、むしゃくしゃしても
人に当たらず、品行方正になると誓いますか?
ジーグブルートはぁ!? そんな誓いの言葉があるか!
やり直せ!!
ローレンツお静かに! 結婚式だぞ。
……もう1度問おう。
新郎、ジーグブルート。誓いますか?
ジーグブルートぐっ……誓います。
貴銃士たちあははっ!
ローレンツよろしい。
では、次は新婦、クラーラ。
クラーラはーい!
ローレンツパパを大好きな気持ちを忘れず、これからも家族を助けて
毎日、元気に過ごすことを誓いますか?
クラーラはい、誓います!
ローレンツ誓いの言葉により、2人は絆を深めました。
それでは、指輪の交換を。

ジーグブルートはしゃがみこみ、
クラーラの右手をとって、おもちゃの指輪をはめた。
クラーラも真似をしてジーグブルートに指輪をはめる。

クラーラあ……パパからもらった指輪……!
ジーグブルートああ、これでずっとパパと一緒だな。
ローレンツ──最後に、誓いのキスを。
ジーグブルートおい、それはさすがに……!

ジーグブルートが止めようとする前に、
クラーラが頬にキスをした。

ジーグブルート……っ!?
クラーラえへへ、ちゅーっしちゃった!
ジグお兄ちゃんも、クラーラにちゅってして!
ジーグブルートったく……おい、クラーラ。
ジーグブルート大事なキスは、将来にとっておけ。
俺からは……これで十分だろ。

ジーグブルートがクラーラの額にキスをする。
クラーラは少しだけ驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑った。

ローレンツみなさんが見守る中、2人は固い親愛で結ばれました!
温かな拍手で門出を祝福しましょう!

ジョージHEY! クラーラ、こっちこっち!
家族で記念写真を撮ろうぜ~!
クラーラきれいなお花がいっぱいかざってある~!
あっ、パパの写真!!
女性パパが一番、クラーラの晴れ姿を見たいはずだもの。
天国からきっと見ていてくれているわね。
ジーグブルート…………。
主人公【写真は?】
【一緒に映らないの?】
ジーグブルート……俺はあくまで代理だからな。
家族写真に割り込むのは、違うだろ。
ジーグブルートそれより、〇〇。
フラワーシャワーの花かごが見当たらねぇが、
どこにあるんだ?
主人公【教会の中だ!】
【取ってくるね!】
ジーグブルート1人で持つのは大変だろ? 手伝うぜ。

Ep5. しあわせな鐘の音

ジーグブルートと〇〇は、教会内へと戻った。

ジーグブルートなあ、〇〇……。
ついこの間まで、俺は結婚式なんかくだらねぇと思ってた。
ジーグブルート結婚すんなら、勝手にすりゃいいじゃねぇか。
人前で誓ったりなんかこっぱずかしいだけだろ……ってよ。
ジーグブルートだが、クラーラとか母ちゃんの喜びっぷりを見て、
ちょっと納得したぜ……人間にとって特別なもんなんだな。
お前も憧れたりすんのか?
主人公【そうかも】
→ジーグブルート「へぇ、やっぱりそうなのか。
夢見んのも必要だもんな。」

【自分は別に……】

→ジーグブルート「だな。俺も自分がやりたいとは思わねぇよ。」
ジーグブルートま……クラーラたちが喜んでたし、悪くねぇとは思ったぜ。
教会の中を歩いてると、不思議と身が締まる気がしたしな。
ジーグブルートなあ、知ってるか?
この道……アイルっつったか。これは人生を示してるらしい。
これから一緒に長い人生を歩いていくことの象徴なのかもな。
ジーグブルート長い人生を一緒に歩く相手、か……。
ジーグブルート……考えてみりゃ、俺にとってはお前が最後のマスターだ。
なあ、似たようなもんだと思わねぇか。
ジーグブルートおい、ちょっとやってみようぜ、〇〇。

ジーグブルートは〇〇に手を差し出す。

ジーグブルート──なんてな。冗談だ。
ジーグブルートまあ……その、なんだ。
お前の貴銃士として一緒に生きていくのは、
悪くねぇ……とは思ってる。
ジーグブルートこれからも……末永く頼むぜ、マスター。
頼むから、お前はくたばるんじゃねぇぞ。
ジョージジーグブルート! 〇〇!
みんなで写真撮るぞー!
ジーグブルートおう、今行く!

全員で記念写真を撮ったあと、
最後の儀式である、ハートの形くぐりが行われた。

カトラリーそれじゃあ、僕の合図で始めてね。
布をハートの形になるように切るんだよ。
ジーグブルートは左から、クラーラは右からだからね。
クラーラジグお兄ちゃん、クラーラ、まけないからね!
ジーグブルートおう、俺も本気出していくぜ。
カトラリー3、2、1……スタート!
ジーグブルートあ? なんだこのハサミ!
全然切れねぇぞ!!
クラーラきゃはは!
クラーラのハサミ、チョキチョキはやーい!
ケンタッキークラーラには俺が使ってる裁ちバサミ、
ジーグブルートには工作ハサミを渡したかいあったぜ!
ハサミってのは、用途が違うと勝手が悪いからな!
ジーグブルートおい、不公平だろ!
カトラリーほら、もうクラーラが切り終わっちゃうよ。
ジーグブルートが切り終わらないと、
ハートくぐりができないじゃん。
ジーグブルートチッ……クラーラ、切り終わったらハサミを貸せ。
クラーラうん、いいよ!

ジーグブルートもクラーラから借りたハサミで切り終わり、
クラーラを抱えてハートの穴をくぐった瞬間──

リンゴーン……

クラーラあ……。
ジーグブルート鐘の音?
丘の上から聞こえるな……誰かが鳴らしたのか?
クラーラいま……今、パパの声が聞こえた。
クラーラは幸せになれるよ、って……。
クラーラパパ……ありがとう。
女性……鳴らすと幸せになれる鐘……。
あの人が眠っている、あの丘の……!
女性ちょっとママは先に帰るわ!
みんな、ゆっくりお店に帰ってきてね!

Ep6. 幸運のケーキ

ジーグブルートたちは結婚式の片づけを終え、
クラーラと共に「クーヘン・ハイム」に帰ってきた。

タバティエール……なんか甘い匂いがしないか?
ジーグブルートああ。この匂い……ケーキか?
女性お帰りなさい!
ちょうどイメ、グリュックスクーヘンが焼きあがったところなの。
ジョージグリュ……なんだって?
ドライゼドイツ語でグリュックスは「幸運の」、
クーヘンは「ケーキ」という意味だ。
すなわち、幸運のケーキだな。
エンフィールドなるほど。
だからケーキの飾りに馬蹄型のチョコが乗っているんですね!
エンフィールド上向きの馬蹄は、幸運を呼び込み受け止めてくれるという、
ポピュラーなラッキーアイテムなんですよ!
ケンタッキーあー、そういえばアクセサリーとかでも
馬蹄モチーフのヤツが結構あるもんな。
女性あの人を失ってから、お菓子作りに向き合えずにいたの。
けれど、さっきあの鐘の音を聞いて……。
女性彼と作ったこのお店のお菓子で、幸せを感じてほしい。
彼が残してくれたレシピがお客さんを笑顔にするところを
もっともっと見たいっていう気持ちが湧いてきたの。
ジーグブルート……そうか。
これでクーヘン・ハイムも復活だな。
女性ええ、明日からお店を開けるわ!
女性さあ、遠慮はいらないからたくさん食べてね!
足りなかったらいくらでもケーキを焼くわよ。
全員やったー! いただきます!

──その日遅くまで、ケーキパーティーは続いたのだった。


結婚式から、少し経ったある日。
ジーグブルートの元へクラーラから手紙が届いた。

ジーグブルートミミズみてぇな字だな。
なんて書いてあるのか読めねぇよ……。
ジョージどれどれ?
オレが読んでやろっか!
ジーグブルートいや、この俺が読めねぇのに、てめぇが読めるわけ……。
ジョージえーと……。
『ジグお兄ちゃん、けっこんしきありがとう』
ジーグブルートおい、マジで読めるのか!?
ジョージだから言ったろ~?
ジーグブルート……続き、読んでくれ。
ジョージ『……パパとの約束、かなったみたいだったよ。
パパのぶんまで、ママのおてつだいをして、
おいしいおかしをつくるね。またお店にきてね』
ジョージ……だってさ。
ジーグブルート……あいつ、強いな。
あんな小せぇガキのくせに。
主人公【ジーグブルートのおかげだ】
ジーグブルートいや、俺は手を貸しただけだ。
あいつが自分で父親のことを乗り越えて、成長したんだ。
タバティエール手紙と一緒にママさんから箱も届いてるらしいぜ。
〇〇ちゃんと、俺たちへって書いてあるが……。
ジーグブルート開けてみるか。

ジーグブルートが箱を開けると、
クッキーがぎっしりと詰め込まれていた。

タバティエールこれ、あのクッキーローラーの花柄……!
へぇ、焼きあがるとこんな感じになるんだな。
いい匂いだ……早速、コーヒーでも淹れてくるか。
エンフィールドええ、いいですね!
それでは僕は、紅茶を用意します。
ちょうど、良い茶葉を仕入れたところなので!
ジョージオレも一緒に手伝う!
ジーグブルートお前ら、ありがとな。

ジーグブルートは3人を見送ると、
クッキーを1枚箱から取り出してじっと眺めてから、囓った。

ジーグブルート……ん、あの店の味だ。
やっぱ、美味いな。

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