水族館での職業体験に挑むことになったエンフィールドとローレンツ。
その最中、ローレンツは自分によく似た幻影に悩まされる。
途切れる記憶、惑う心。『正しい』ローレンツの行方を、誰も知らない。
貴銃士の良し悪しは、銃の性能だけでは語れないのだろう。
優れた官製の俺は、求められる俺ではない。
それでも、エーデルワイスを抱えて進んでいくのだ。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
ある日。
ローレンツは校内掲示板にある貼り紙を眺めていた。
ローレンツ | 「水族館、夏季限定スタッフ」か。 |
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ローレンツ | 俺にとっては未知の領域だ。 ぜひ応募したいところだが……。 |
ローレンツ | (しかし、通常の職業体験と違って長期での就労となる。 その間、カール様のおそばを離れることになってしまう) |
ローレンツ | (そういうわけにはいくまい……) |
カール | …………。 |
ローレンツ | カール様、こちらが本日届いた書簡です。 |
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カール | ありがとう。あとで確認するとしよう。 |
カール | ところで君、あれは出したのかい? |
ローレンツ | ……? あれ、とは……? |
カール | 掲示板にあった、水族館の職業体験募集だよ。 応募したのではないのかい? |
ローレンツ | ……! お気づきだったのですか……! |
ローレンツ | カール様のおそばを離れるわけにはいかないと思い、 応募しませんでしたが……。 |
カール | やめる必要はないさ。行ってきたまえ。 |
カール | 君が新たな知識を得て帰ってくるのを楽しみに待っているよ。 |
ローレンツ | カール様……! なんと寛大なお言葉……! |
ローレンツ | 背中を押していただいたからには、 採用試験に必ず合格してみせます! |
カール | おや、試験があるのかい? |
ローレンツ | ええ、調べたところ……。早速試験対策をします。 まずは傾向を掴み、科目ごとに分析! 学習! やるぞ……ふははははっ! |
カール | ……なんだか、燃えてるねー。 |
──その後。
猛勉強の末に水族館の採用試験を受験したローレンツは、
カールと共に結果発表を見にやってきた。
ローレンツ | (やれることはすべてやった! 手応えも確かにあった!) |
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ローレンツ | (俺は絶対に合格している……!) |
カール | あそこに合格者の番号が掲示されているね。 君、受験番号は何番だったかね? |
ローレンツ | ……104番です。 |
ローレンツ | 99、101、103……。 |
ローレンツ | 105、106……。 …………な、ない! |
ローレンツ | (……不合格、なのか……!?) |
水族館のスタッフ1 | あ、いたいた! あの方です! |
ローレンツ | ……!? |
水族館のスタッフ2 | 貴銃士のローレンツさんですよね? |
水族館のスタッフ2 | 一般向けの正規採用試験を受けていただいたところ、 恐縮なのですが……。 |
水族館のスタッフ2 | 職業体験の貴銃士さんは筆記試験は免除で、 面接で問題がなければ採用です! 気づくのが遅れてしまって、すみません。 |
ローレンツ | ……! 俺は勘違いで試験を受けてしまったのか……! |
カール | ふむ、なるほど。 それで受験番号がなかったわけか。 |
ローレンツ | ち、ちなみに、俺の試験の結果は……? |
水族館のスタッフ1 | ああ、それはもう。 一般採用の合格者、上位1割に食い込む成績でした! 素晴らしいです! |
ローレンツ | そ、そうか……。 合格……だったのだな。 |
カール | ははは! 楽しい経験ができたよ。 番号が見つからなかった時は僕もさすがにハラハラした。。 |
カール | 君にとっては職業体験だが、僕にとっては 受験生の親体験になったねー。 |
ローレンツ | ううっ……試験は、しばらくこりごりです……。 |
──水族館での職業体験中、ローレンツが誤って
ペンギンの水槽に転落するアクシデントがあった。
ローレンツ | ……はぁ。 |
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エンフィールド | ローレンツさん、大丈夫ですか? そんなに落ち込まないでください。 |
エンフィールド | ペンギンたちからは離れた場所だったので、 影響はありませんでしたし……。 |
エンフィールド | 次に同じことが起きないように 気をつければいいじゃないですか。 |
ローレンツ | …………Mr.エンフィールド。 |
ローレンツ | 君はレジスタンスにいたエンフィールドと自分を比べたり、 彼がどんな貴銃士だったか気になったりすることはないか? |
エンフィールド | ……? レジスタンスにいたエンフィールドのことですか? |
エンフィールド | そうですね……今はあまり、気になりません。 絶対高貴になれなかった頃はかなり気にしていましたが。 |
エンフィールド | ローレンツさんは、気になるんですか? |
ローレンツ | 実は……あの時、レジスタンスの…… 民間工場製ローレンツが、 水中に見えた気がしたのだ。 |
ローレンツ | それで動揺して、足を滑らせて……。 |
エンフィールド | ……そうでしたか。 |
エンフィールド | 僕は恭遠教官から、レジスタンスにいた エンフィールドの話を聞いたことがあるんです。 |
エンフィールド | 彼は、僕とあまり変わらない気がしました。 スナイダーに改造されることに怯えていたという共通点は、 あまり嬉しくありませんでしたが。 |
エンフィールド | 今の僕は僕で、過去の彼は彼。 それ以上でもそれ以下でもありません。 |
エンフィールド | 同一ではないけれど、同じ種類の銃なので 根は一緒でしょうし、話は合いそうだなと思います。 |
ローレンツ | …………。 |
エンフィールド | 何を悩むことがあるんですか? |
エンフィールド | 官営製のローレンツさんの方が銃の性能がよくて、 絶対高貴にもなれているのですから、 何も引け目を感じる必要はないと思いますが。 |
ローレンツ | …………そう、その通りだ。 何も気に病む必要は……ない。 |
自分に言い聞かせるように呟いてから、
ローレンツはふと顔を上げた。
ローレンツ | っ……!? |
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ローレンツ | (ゴミ箱に、俺がサインしたあのノートのページが 捨てられている……!) |
ローレンツ | (やはり……あいつより優れているはずなのに、 求められているのは俺じゃ、ない……) |
エンフィールド | 大丈夫ですかっ!? ふらついていますが……? |
ローレンツ | あ、ああ……。 |
エンフィールド | ……? あのゴミ箱が、どうかしましたか? |
エンフィールドは不思議に思いゴミ箱を見る。
そこには紙コップやティッシュなどが入っているだけで、
特に変わったものはない。
ローレンツ | …………。 い、いや。見間違えだったようだ……。 |
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水族館での職業体験が無事に終わったあとのとある休日、
〇〇はローレンツを誘って、
発明科学館を訪れていた。
人類史上に名を残す様々な発明がずらりと並んでいる。
ローレンツ | これはすごいな……! 世紀の大発見とも言うべき研究結果がこんなにも……! |
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ローレンツ | 常々思っていたのだが、電話の発明で知られる グラハム・ベルの探究心は驚異的だ。 |
ローレンツ | 彼は家族の病や最愛の人との別れなど、 自らの葛藤と戦いながら一心不乱に発明を続けた。 |
主人公 | 【諦めなかった先に大きな成果を得たんだね】 【失敗があるからこその成功だね】 |
ローレンツ | 本当に、その通りだ。 |
ローレンツ | 試行錯誤を重ね、仮説を立てては 何度も実験し、証明していく。 それらはやがて、1本の道へとつながっていくのだろう……! |
主人公 | 【少しは元気出た?】 【楽しんでもらえてよかった】 |
ローレンツ | 〇〇……! もしや、君はこのために……? |
ローレンツ | …………随分、心配をかけてしまったようだ。 |
ローレンツ | 君はマスターとして多忙な中でも 多くの貴銃士に目を向けている。 ……俺のことも、見ていたのだな。 |
ローレンツ | ……ありがとう。 気にかけてくれたことは、嬉しい。 |
主人公 | 【1人で辛いことを抱えないでほしい】 【ローレンツの力になりたかった】 |
ローレンツ | ……先日、俺はカール様にみっともない気持ちを ぶつけてしまったのだ。 |
ローレンツ | しかしカール様は俺を見捨てることなく、 励ましの言葉をたくさん下さった。 |
ローレンツ | 嬉しかった。 だが同時に、自分の不甲斐なさに落ち込んでもいた。 |
ローレンツ | 今も、同じ思いだ。 |
主人公 | 【ローレンツは不甲斐なくなんかない】 【自分やみんながいるから大丈夫】 |
ローレンツ | ……モルモット2号。 そうだな、君にも感謝している。 だが、いつまでもカール様や君に甘えていられない。 |
ローレンツ | 頼れる臣下として、君の貴銃士として、 これからも邁進していくことを改めて誓おう。 |
ローレンツ | 不甲斐ないローレンツは、今日でおしまいだ! |
ローレンツ | (…………言えない。言えるわけがない) |
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ローレンツ | (〇〇には知られたくない。 俺の中に渦巻く、あの汚れた感情を) |
──数日後。
ローレンツ | 待て! 止まるんだ、モルモット1号! |
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ベルガー | バァーーーカ! 誰が止まるかよキモメガネ!! |
ローレンツ | これは脳の記憶領域に適切な電気刺激を与えることで、 君の学習能力を飛躍的に向上させる機械だ。 |
ローレンツ | この発明が成功すれば、君はすべての試験をクリアできる! 補習や追試からも解放されるんだぞ? |
ベルガー | デンキ!? シゲキ!? ぎゃー、やめろ!! |
ベルガー | 売店で新作のポテチ食うんだっつーの!! 追いかけてくるんじゃねー!! |
カール | おや、また新たな実験が始まったようだねー。 元の調子を取り戻したのならいいが。 |
主人公 | 【いつもの感じだね】 【元気になってよかった】 |
ローレンツ | ふむ。ポテチがあれば君は止まるのか? ならばコーラもセットでつけてやろう。 |
ベルガー | 止まるわけねーだろ! ぶっひゃひゃひゃっ! |
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