軍銃一定の祖たる貴銃士は、欺瞞を悟りつつ公儀の行く末を見定める。
少壮が牙を向き暴走すれど揺らがず、月明かり照らす柳下にて迎え撃つのみ。
……傷つけて、傷つく必要はないのだから。
助力を請われたならば応じるのが貴銃士たるものの努めじゃろう。
されど無理はならぬ。さて若人よ
そなたは我らを委ねるに足るか…その力、とくと見せるがよい。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
──ある日の談話室にて。
邑田が何かを腿の上に乗せ、真剣な表情でペンを持ち、
ぶつぶつと小声で呟いている場面に八九が遭遇した。
邑田 | ……在坂……在坂……あ、り、さ、か……と。 |
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八九 | (な、何やってんだ、あいつ……。 あれか? 好きな子の名前をノートにびっちり書く的な……?) |
八九 | お、おい……邑田? |
八九は恐る恐る邑田に近づく。
そこで、邑田が手にしているのが、色鉛筆セットだと気づいた。
八九 | ……何してんだ? |
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邑田 | む? 八九か。 色鉛筆に在坂の名前を書いておったのじゃよ。 紛失してしまってはいかんからの。 |
八九 | え……それ、100色色鉛筆だろ? まさか、1本1本全部に書いてんのか……!? |
邑田 | 左様。当然じゃろう。 |
八九 | 当然なのかよ!? |
邑田 | 当然ではないのかえ? わしは自分の持ち物にも名前を書いておるぞ。 銃のすべてにも、名前ではないが番号が書かれておる。 |
八九 | あー、そういや靴下とかにもチマチマ刺繍してたな……。 |
八九 | つーか、銃の『すべて』ってどういうことだ? |
邑田 | すべてはすべてじゃ。 わしの銃には、部品の1つ、ネジ1つに至るまですべてに、 年式と製造番号が刻印されておるぞ。 |
八九 | うぇ!? シリアルナンバーが、マジで全部品についてるってことか!? |
邑田 | おお、『しりあるなんばぁ』、それじゃ! 十三年式、十八年式ごとに番号が刻まれておる。 |
邑田 | 十三年式邑田銃、最後の通し番号は5万8千あまり。 おおむね6万挺が作られたということになるの。 |
邑田 | 十八年式はおよそ8万挺がつくられた。 そして、1つとして同じ番号の銃はないのである。 |
八九 | 1挺1挺にシリアルナンバーがあんのはわかるけどよ、 ネジにまでつける必要なくねぇか……? |
邑田 | 邑田銃は日ノ本初の制式銃…… 同じ規格で大量に作られた量産銃じゃが、 最終工程は手練の仕上げ工らが手作業で仕上げておった。 |
邑田 | 機関部が滑らかに動くよう、1挺ずつヤスリがけをしての。 ゆえに、1つ1つ少しずつ違っておるのじゃろう。 |
邑田 | 仕上げられた時の部品でなければ、 きちんと動作しなくなる可能性もあっての。 |
邑田 | 分解して手入れしたとして、 別個の邑田銃の部品と混ざってしまってはならん。 識別のためにも、番号は重要なものなのである。 |
八九 | へぇ……工業製品と職人の手工業の中間みてぇな感じだな。 けど、銃はそうでも、持ち物くらい多少混ざってもいいだろ。 |
邑田 | 何を言う。 異物が混ざってはもぞもぞするであろう? |
邑田 | わしを見習い、そなたも名前を書くことじゃ。 教科書、筆、湯呑、手入れ用具にふんどし! |
八九 | いや、書かねぇよ。 幼稚園児か小学生みてぇで恥ずいだろ……。 |
八九 | ……ま、在坂の名前書き頑張れよ。 |
──数日後。
八九 | (なんだ……? あそこの席、なんかあんのか? やたら人が集まってっけど……) |
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生徒1 | ここ座っていいのかな……? 本人はいないみたいだけど……。 |
生徒2 | いや、やめとけって。 理事長殴って懲罰房に入れられたって噂だよ。 |
生徒1 | ええっ? 優しそうな感じなのに意外と怖いんだ……! |
八九 | (懲罰房……って、邑田のことだよな、間違いなく) |
八九は、人だかりに近づいて、何があるのかを見る。
そこには、毛筆で『邑田』と大きく書かれている
食堂のテーブルと椅子があった。
八九 | なんだこりゃ!? |
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邑田 | む……? 八九、そこはわしの席じゃ。 ほれ、しっかり名を書いておるのに、見えんのかえ? |
恭遠 | ……なんの騒ぎかと思って来てみたら……。 |
恭遠 | 邑田。食堂は学生・教職員、みんなの共用の場所だ。 専有はできないから、お気に入りの席だろうが名前は消すように! |
邑田 | なんと……! |
八九 | (どんだけ名前書いても、ネジがぶっ飛んでちゃ意味ねぇな……) |
恭遠 | みんな、聞いてくれ。 先週から伝えていたように、今日は特別授業だ。 |
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恭遠 | アンガーマネジメントについて学んでみよう。 |
ベルガー | あんがぁー? |
十手 | まねじめんと? |
エンフィールド | 僕がご説明しましょう! アンガーマネジメントというのは、 怒りを適切に制御することです。 |
エンフィールド | 怒りのまま……たとえば、物に当たったり、 暴力をふるったり、暴言を吐いたりするのは紳士ではありません。 |
エンフィールド | 不必要な怒りは抑え、怒って然るべき時は、 相手に対して適切な伝え方をできるようになる── 怒りに支配されず、自分を保つための手法なのです! |
マークス | ふぅん……どんな時も平静を保つトレーニングってことか。 射撃の精度を上げるのにも役立ちそうだな。 |
恭遠 | ああ、アンガーマネジメントは、日常生活だけでなく、 いろんな場面で役立つはずだ。 |
恭遠 | 円滑な士官学校生活のためにも、 授業を真剣に聞いて、役立ててくれ。 |
在坂 | ……邑田。 在坂は、邑田が特に学ぶべきものだと思う。 |
在坂 | 邑田は、短気を少しは直した方がいい。 |
邑田 | む……しかしのう……。 薩摩男児たるもの、即断即決、攻撃は電光石火であらねば。 |
八九 | イギリスで薩摩男児への風評被害出たらどうすんだよ……。 つーかマジでセーフティ実装してくれ。 物理は無理でも精神的に……! |
邑田 | 何をブツブツ言っておるのじゃ、八九。 |
八九 | ほら、拳握るな! |
恭遠 | あー……授業を始めるぞ。 まずは、怒りの特性を知ろう。 |
恭遠 | 強い怒りは、6秒程度がピークだと言われている。 それを利用して、6秒我慢することで少し冷静になれ、 衝動的な言動を控えられるというテクニックがあるんだ。 |
ベルガー | 6秒な! 俺が試してやるよぉ! |
ベルガー | おい、アホ毛! |
ベルガー | ヘンテコ眉毛! |
八九 | (うーわ、こいつ懲りねぇな……) |
邑田 | ……なんと? |
在坂 | 邑田、6秒だ。 |
恭遠 | 深呼吸をしながら、カウントダウンしていくのも効果的だ。 さあ、6、5、4……。 |
邑田 | …………。 |
ベルガー | あっひゃっひゃっひゃ! ろっくびょー! ろっくびょー! |
恭遠 | こら、ベルガー、邪魔をしない! 3、2、1……。 |
邑田 | ……零。 |
ベルガー | へぶっ!! |
在坂 | ああ……。 |
邑田の拳が、目にも止まらぬ速さで振り抜かれた。
アッパーが顎を捕らえ、
ベルガーは美しい放物線を描いて吹っ飛んでいく。
邑田 | ふんっ! |
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シャルルヴィル | ひゃあっ……!? 人体ってパンチであんなに吹き飛ぶの!? |
ジョージ | うう……痛そうなナイスパンチだな……。 っていうか、6秒数えてたのに全然ダメじゃん!? |
邑田 | いいや。駄目ではないぞ。 |
邑田 | 眉唾もののやり方じゃと思っておったが、試した価値はあった。 6秒とはなかなかに有用じゃな。 |
八九 | どこがだよ!? |
邑田 | あの阿呆のどこをどう殴ればよいか、 たっぷり6秒かけて冷静に考えることができたからの。 ほっほっほ! |
八九 | いや、冷静に暴力のこと考えてるなっての! 6秒で怒りが殺意に変わってんじゃねぇか!! |
在坂 | ……邑田の短気を直すのは諦めた方がいいかもしれない……。 |
──ある日、暇を持て余した邑田と在坂は、
何か面白いものはないかと、寮の遊戯室へ向かった。
在坂 | ……? カツカツと音がする。 なんの音だろうか。 |
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邑田 | 見てみるとしようかの。 |
グラース | …………。 |
遊戯室では、グラースが1人でビリヤードをしていた。
キューで球を突くと、小気味のいい音とともに
いくつもの球がポケットインしていく。
邑田 | ほう、撞球(どうきゅう)か! |
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在坂 | …………! グラースはビリヤードができるか。 しかも上手い……意外だ。在坂は驚いた。 |
グラース | ふふん♪ |
ギャラリーに気づいたグラースは、
またも華麗にショットを決める。
在坂はますます目を輝かせた。
邑田 | (むむ……! グラース、あやつ……これみよがしに……!) |
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邑田 | 在坂や。撞球ならわしもできるぞ! |
在坂 | そうなのか? 在坂は、邑田がビリヤードをしているのを見たことがないが。 |
邑田 | ふっふっふ。案ずるなかれ。 何を隠そう、わしを開発した邑田経芳は撞球が趣味での。 しかるに、わしも多少の心得があるはずじゃ。 |
在坂 | ……そういうものだろうか? |
グラース | お、なんだ? 僕にビリヤード勝負を挑もうってか? いいぜ、相手になってやるよ。 |
邑田 | 望むところじゃ! |
こうして、グラースと邑田のビリヤード対決の火蓋が切られた。
念のための仲裁係兼審判として、〇〇と、
シャスポー、八九が呼ばれる。
主人公 | 【じゃあ、始め!】 【正々堂々戦おう!】 |
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グラース | ふふっ……〇〇、そこで僕の勝利を見ていろよ。 |
グラース | さて、さくっと勝負するには…… スピードエイトボールがいいな。異論は? |
邑田 | ……? 手早く済むならそれでよかろう。 先行はそなたに譲ってやるとしようか。 |
グラース | それじゃあいくぜ。 ブレイクは派手に華々しく……ふっ! |
グラースのショットが、
並べられた球をビリヤード台の上に散らした。
邑田 | よし、次はわしじゃ。 こうして……? |
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邑田は、グラースがしていたのと同じようにキューを構え、
狙いを定めて球をつく。
力強く打ち出された球が、宙を舞った。
邑田 | ……おっと! |
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そして……グラースの額を直撃する。
グラース | いってぇ!! てめぇ、何しやがる!! |
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邑田 | おお、すまぬな。 ちぃと力加減を間違えてしまったようじゃ。 |
八九 | (あれで『ちょっと』か……?) |
気を取り直し、グラースは2打目に挑む。
一気に2つの球が見事にポケットに入った。
在坂 | おお……すごい……! |
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邑田 | ぐぬ……見ておれ。わしも今に……! せいっ! |
邑田が打ち出した球は再び宙を舞い、
グラースのみぞおちを直撃する。
グラース | ぎゃあ! てめぇ、またやりやがったな……! |
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邑田 | む……随分と軽い球じゃの。 しかし、もう加減はわかった。弾道も低くなったであろう? 次こそ決めてやるわ。 |
グラース | チッ……! こうなりゃさっさと勝負を決めて終わらせてやる。 |
グラース | 見ろ、僕の華麗なマッセを! |
グラースはキューをほとんど垂直に構え、
真上からつき下ろすようにする。
すると、手球はぎゅっと角度をつけて曲がり、
狙っていた球を見事にポケットに落とした。
在坂 | わぁ……! |
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シャスポー | へぇ、やるじゃないか。 |
邑田 | わしとて負けぬ……! ちぇすとぉ! |
低く鋭い軌道で飛んでいった球は──
グラースの股間を直撃した。
グラース | ……ッ!! |
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シャスポー&在坂 | う……っ! |
八九 | うおっ……見てるだけで痛ぇ……。 |
邑田 | なんと……これはすまぬ! |
へなへなと倒れ込んだグラースに、
〇〇たちが駆け寄った。
主人公 | 【治療してみようか!?】 【大変なことに……】 |
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グラース | い、いや……これ、くらい……。 |
在坂 | 無理をしてはいけないと在坂は思う。 今のは、球の当たりどころが悪かった。 |
シャスポー | ああ。まさか球が──……。 |
邑田 | うむ。玉に……ふっ。 |
八九 | ……く、……っ。 |
グラース | てめぇぇぇ……! 絶対許さねぇ!! |
なんとか復活したグラースは、
キューを剣のように構えて邑田を狙った。
邑田 | む? チャンバラで勝負か? いいじゃろう、玉撞きよりも手っ取り早い!! |
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八九 | あーあ……。 |
シャスポー | やめるんだ、グラース。野蛮だぞ! |
シャスポー | 〇〇、危ないから君はこっちに来て。 巻き込まれてしまう。 |
在坂 | ……在坂は、すべて邑田が悪いと思う。 |
八九 | 同感。でも、こうなったら止めらんねぇよな……。 |
──翌日。
恭遠 | 君たち……職員会議で処分が決まった。 邑田、グラース両名、遊戯室は当分出禁だ! |
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グラース | はぁ!? なんで僕まで!? クソ、とんだとばっちりだ!! |
──ある日、貴銃士特別クラスは、
マスターである〇〇と合同で野営訓練を行っていた。
ライク・ツー | はぁ……暑いな。 野営地近くに綺麗な水場があればいいけど、 あんま期待しない方がいいか……。 |
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十手 | ああ……お風呂は帰るまでお預けかもしれないね。 |
十手 | でも、今回は食料の持参が許可されているから、 夕食の楽しみがあるよ。頑張ろう! |
邑田 | うむ、まこと夕飯が楽しみである。 ……八九、瓶は持ってきたかえ? |
八九 | ああ……持ってきてるぜ。 口が大きめで透明の瓶だろ。なんに使うんだ? |
邑田 | これを入れるのじゃ。 |
邑田は、薄茶色の米を瓶の中に入れた。
八九 | ……古い米か? そんなの入れてどうすんだよ。 |
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邑田 | なんと……これは古米ではないわ! 日本より取り寄せた上等の新米じゃ。 |
八九 | でも、茶色いし……あ、玄米か。 栄養的にはいいんだろうが、せっかくの新米なら、 ツヤツヤの白米で食いてぇよ。 |
邑田 | 無論じゃ。ゆえに、これから精米をする。 |
八九 | はい? |
邑田 | 米はつきたてが一番うまい。 極上の新米ともなればなおさらであろうな。 いやぁ、まこと楽しみじゃ! |
主人公 | 【どうやって精米するの?】 【精米マシンなんて山の中にはないけど……】 |
邑田 | なに、これを使えばよいだけのこと。 |
カトラリー | え……銃剣? |
邑田 | これで……こうじゃ! |
邑田は自分の銃剣を使い、
瓶に入れた玄米をザクザクとつき始めた。
ローレンツ | ……!? Mr.邑田、何をしているのだ……!? |
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邑田 | 見ればわかるじゃろう。精米である。 |
ローレンツ | そ、それがか……!? 信じがたい銃剣の用途だ……。 |
邑田 | 何を言う。 銃剣は何かと便利なものであろうが。 |
邑田 | こうして米をつくもよし。 おお、そうじゃ。芋掘りにも使われたのじゃぞ? |
八九 | あー……まあ、銃剣って確かに便利道具扱いだよな。 栓抜きにされたりとか。 |
カトラリー | ええっ、危なくない……? それに、そんなので本当に精米できるの? お米が傷つくだけな気がするけど。 |
邑田 | なに、見ておれ。 |
米をつきながら歩くことしばらく──
瓶の底に、茶色いカスのようなものが少し溜まり始めた。
カトラリー | あ、なんか剥げてきてる……? |
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邑田 | うむ、これが米ぬかである。 無事に精米できている証左じゃ。 |
その後も邑田はコツコツと銃剣で米をつき続け──
邑田 | ……ふぅ。 ほれ、八九。そなたの番じゃ。 |
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八九 | え? |
邑田 | ちらちらとこちらを見ておったではないか。 代わってやろう。……はぁ。 |
八九 | いや、ふぅとかはぁとか言ってるし、 お前が疲れただけだろ!? |
邑田 | わしはそこまで軟弱ではないわ。 ちぃとばかし飽きただけじゃ。 ほれ、キビキビ歩いてコツコツつくがよい! |
八九 | チッ……! |
十手 | 八九君、あとで俺も代わるよ。 みんなで順番にやれば負担も少ないさ。 |
在坂 | 在坂も手伝う。 働かざる者、食うべからずだ。 |
カトラリー | えっ、それやらないと食べられないってこと……? |
在坂 | この米についてはそうだろう。 カトラリーもあとで米つきをするといい。 |
カトラリー | えっ……。 まあ、コツコツするくらいだし、やってもいいけど……。 |
──4時間後。
一同は無事にキャンプ予定地にたどり着いた。
八九 | はぁ、はぁ……! ついた……普通に歩くのの数倍キツいぞ……! |
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邑田 | ふむ……ぬかもかなり溜まっておるな。 どれ、そこの川でといでみるとするか。 |
邑田が川で米をとぐのを、全員が固唾をのんで見守る。
ザルに入れて清流で軽く洗うと、米は白く輝きだした。
一同 | おおお……!! |
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十手 | これは美味いだろうなぁ……! さっそく炊いてみよう! |
一同 | いただきます! |
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十手 | うっ! |
八九 | うめぇ……!! |
カトラリー | リゾットとかに調理されてないのに、 旨味があって美味しい……! |
ローレンツ | ──青年は、銃剣の無限の可能性に宇宙を感じた……。 |
邑田 | ほっほっほ。 どうじゃ。美味いであろう! |
邑田 | 在坂や、おこげの部分もどうじゃ? |
在坂 | もらおう……! |
──それから新米がなくなるまで、
野営での精米ブームは続いたのだった……。
恭遠 | 〇〇君、ちょっといいかい? 古銃コレクターから、士官学校に火縄銃が寄贈されたんだ。 その寄贈主が、ぜひ召銃を試みてほしいと言っていてね。 |
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恭遠 | 貴銃士になる銃は希少だから確率は低いが、 もしかしたら、新しい貴銃士との出会いがあるかもしれない。 〇〇君、やってみてくれるか? |
主人公 | 【わかりました】 【もちろんです】 |
日本出身の貴銃士たちが見守る中、
〇〇は薔薇の傷が刻まれた手で銃に触れる。
しかし、その火縄銃から貴銃士を召銃することはできなかった。
十手 | ……何も起きない、か……。 |
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八九 | めんどくせぇジジイとかが出てこなかっただけ マシだったかもしれないぜ。 |
在坂 | ……在坂は少し残念に思う。 だが、仕方のないことだともわかる……。 |
恭遠 | ああ。貴銃士との出会いは奇跡のようなものだからね。 とにかく、これで寄贈主も満足だろう。 予定通り、資料室に保管をお願いしよう。 |
邑田 | 資料室に入れて飾ってしまうのかえ? それは勿体なし。少し待ってはくれぬか。 |
邑田 | わしによい考えがあるのじゃ。 その火縄銃、しばしわしに預けよ。 |
恭遠 | 丁重に扱ってくれるなら構わないが……。 どうするんだい? |
邑田 | 精神修行に使うのじゃ! |
邑田の呼びかけで、談話室に貴銃士のみが集められた。
八九 | 言われた通り、手の空いてる奴らを呼んできたぞ。 精神修行って、何するんだよ。 つーか、在坂は呼ばなくていいのか? |
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邑田 | 在坂にこの鍛錬は必要なし。 十二分に肝は座っておるし、愛(う)いからのう。 部屋で特上おむらいすを食べるよう言っておいたわ。 |
十手 | それで、俺たちはここで食事を……? |
邑田 | うむ。食堂かららんちぷれぇとの出前をしてもらったのじゃ。 ほれ、はよう座れ。 |
ドライゼ | 待ってくれ。 天井からぶら下がっているのは、古式の銃ではないか? |
八九 | ……さっきの火縄銃じゃねぇか。 |
天井に取り付けられたフックから、
ロープを使って火縄銃が吊り下げられており、
それを取り囲むように円形にランチプレートが置いてある。
ライク・ツー | 火縄銃を眺めながらメシを食うのか? どこが精神修行なんだよ。 |
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邑田 | まあ、冷めぬうちに食べておれ。 支度はわしが責任持って請け負うゆえ。 |
貴銃士たちが席につくと、
邑田は火縄銃を回転させ、ロープを限界までねじり上げる。
手を離すと、火縄銃がくるくると高速で回りだした。
ジーグブルート | おい、何して……って、焦げ臭くねぇか? ……火ィついてるじゃねぇか!! |
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十手 | ええっ……!? そんな、それじゃあまさか……! |
八九 | 回ってる間に発射されるってことかよ! 何考えてんだ! |
邑田 | これぞ薩摩に伝わる精神修行、肝練りじゃ。 いつどこに向かって弾が発射されるかわからぬこの中で、 平然と飯を食らうことで肝が据わるのである。ほっほっほ! |
邑田は悠然と座り、何事もなかったように食事を始めた。
ライク・ツー | いやいやいや! いくら俺らが貴銃士だからって、これはねぇだろ!! |
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シャルルヴィル | ……ひぇっ……。 |
十手 | シャルルヴィル君、しっかり! いや、この場合は気絶して倒れている方が安全かも……!? |
ドライゼ | 極限状態でも逃げることなく平静であれ……か。 確かに、とてつもない精神修行になるな。 |
ジーグブルート | ハハッ! いいぜ、やってやるよ。 |
八九 | なんでこの状況でメシ食えるんだ、お前ら……! |
ベルガー | ぷくく……あっひゃっひゃ! 銃がブンブンぐーるぐる回ってんのウケるぅ~! |
ローレンツ | 笑っている場合ではないぞ、モルモット1号……! |
ライク・ツー | 止めないとやべぇだろ……! |
ライク・ツー | ……ックソ、うおおおおおおぉぉ!!! |
意を決したライク・ツーが、高速回転する火縄銃に突っ込む。
むんずと掴んで銃口を天井に向けた瞬間、弾が発射された。
ライク・ツー | …………っ! あっぶねぇっ……!! |
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恭遠 | おい、今の音は……って、なんだこれは……!? |
事情を聞いた恭遠は愕然とし、
火縄銃を没収した上で邑田に懲罰房行きを告げた。
邑田 | まったく……軟弱者ばかりで話にならぬわ。 これでは立派な薩摩隼人にはなれんぞ! |
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八九 | なろうとしてねぇから……。 はぁぁ……。 |
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