解説

カード解説

軍銃一定の祖たる貴銃士は、欺瞞を悟りつつ公儀の行く末を見定める。
少壮が牙を向き暴走すれど揺らがず、月明かり照らす柳下にて迎え撃つのみ。
……傷つけて、傷つく必要はないのだから。

心銃解説:威光を守護せし鬼神

助力を請われたならば応じるのが貴銃士たるものの努めじゃろう。
されど無理はならぬ。さて若人よ
そなたは我らを委ねるに足るか…その力、とくと見せるがよい。

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

Ep1. 記名は忘れずに

──ある日の談話室にて。
邑田が何かを腿の上に乗せ、真剣な表情でペンを持ち、
ぶつぶつと小声で呟いている場面に八九が遭遇した。

邑田……在坂……在坂……あ、り、さ、か……と。
八九(な、何やってんだ、あいつ……。
あれか? 好きな子の名前をノートにびっちり書く的な……?)
八九お、おい……邑田?

八九は恐る恐る邑田に近づく。
そこで、邑田が手にしているのが、色鉛筆セットだと気づいた。

八九……何してんだ?
邑田む? 八九か。
色鉛筆に在坂の名前を書いておったのじゃよ。
紛失してしまってはいかんからの。
八九え……それ、100色色鉛筆だろ?
まさか、1本1本全部に書いてんのか……!?
邑田左様。当然じゃろう。
八九当然なのかよ!?
邑田当然ではないのかえ?
わしは自分の持ち物にも名前を書いておるぞ。
銃のすべてにも、名前ではないが番号が書かれておる。
八九あー、そういや靴下とかにもチマチマ刺繍してたな……。
八九つーか、銃の『すべて』ってどういうことだ?
邑田すべてはすべてじゃ。
わしの銃には、部品の1つ、ネジ1つに至るまですべてに、
年式と製造番号が刻印されておるぞ。
八九うぇ!?
シリアルナンバーが、マジで全部品についてるってことか!?
邑田おお、『しりあるなんばぁ』、それじゃ!
十三年式、十八年式ごとに番号が刻まれておる。
邑田十三年式邑田銃、最後の通し番号は5万8千あまり。
おおむね6万挺が作られたということになるの。
邑田十八年式はおよそ8万挺がつくられた。
そして、1つとして同じ番号の銃はないのである。
八九1挺1挺にシリアルナンバーがあんのはわかるけどよ、
ネジにまでつける必要なくねぇか……?
邑田邑田銃は日ノ本初の制式銃……
同じ規格で大量に作られた量産銃じゃが、
最終工程は手練の仕上げ工らが手作業で仕上げておった。
邑田機関部が滑らかに動くよう、1挺ずつヤスリがけをしての。
ゆえに、1つ1つ少しずつ違っておるのじゃろう。
邑田仕上げられた時の部品でなければ、
きちんと動作しなくなる可能性もあっての。
邑田分解して手入れしたとして、
別個の邑田銃の部品と混ざってしまってはならん。
識別のためにも、番号は重要なものなのである。
八九へぇ……工業製品と職人の手工業の中間みてぇな感じだな。
けど、銃はそうでも、持ち物くらい多少混ざってもいいだろ。
邑田何を言う。
異物が混ざってはもぞもぞするであろう?
邑田わしを見習い、そなたも名前を書くことじゃ。
教科書、筆、湯呑、手入れ用具にふんどし!
八九いや、書かねぇよ。
幼稚園児か小学生みてぇで恥ずいだろ……。
八九……ま、在坂の名前書き頑張れよ。

──数日後。

八九(なんだ……? あそこの席、なんかあんのか?
やたら人が集まってっけど……)
生徒1ここ座っていいのかな……?
本人はいないみたいだけど……。
生徒2いや、やめとけって。
理事長殴って懲罰房に入れられたって噂だよ。
生徒1ええっ?
優しそうな感じなのに意外と怖いんだ……!
八九(懲罰房……って、邑田のことだよな、間違いなく)

八九は、人だかりに近づいて、何があるのかを見る。
そこには、毛筆で『邑田』と大きく書かれている
食堂のテーブルと椅子があった。

八九なんだこりゃ!?
邑田む……? 八九、そこはわしの席じゃ。
ほれ、しっかり名を書いておるのに、見えんのかえ?
恭遠……なんの騒ぎかと思って来てみたら……。
恭遠邑田。食堂は学生・教職員、みんなの共用の場所だ。
専有はできないから、お気に入りの席だろうが名前は消すように!
邑田なんと……!
八九(どんだけ名前書いても、ネジがぶっ飛んでちゃ意味ねぇな……)

Ep2. アンガーマネジメント

恭遠みんな、聞いてくれ。
先週から伝えていたように、今日は特別授業だ。
恭遠アンガーマネジメントについて学んでみよう。
ベルガーあんがぁー?
十手まねじめんと?
エンフィールド僕がご説明しましょう!
アンガーマネジメントというのは、
怒りを適切に制御することです。
エンフィールド怒りのまま……たとえば、物に当たったり、
暴力をふるったり、暴言を吐いたりするのは紳士ではありません。
エンフィールド不必要な怒りは抑え、怒って然るべき時は、
相手に対して適切な伝え方をできるようになる──
怒りに支配されず、自分を保つための手法なのです!
マークスふぅん……どんな時も平静を保つトレーニングってことか。
射撃の精度を上げるのにも役立ちそうだな。
恭遠ああ、アンガーマネジメントは、日常生活だけでなく、
いろんな場面で役立つはずだ。
恭遠円滑な士官学校生活のためにも、
授業を真剣に聞いて、役立ててくれ。
在坂……邑田。
在坂は、邑田が特に学ぶべきものだと思う。
在坂邑田は、短気を少しは直した方がいい。
邑田む……しかしのう……。
薩摩男児たるもの、即断即決、攻撃は電光石火であらねば。
八九イギリスで薩摩男児への風評被害出たらどうすんだよ……。
つーかマジでセーフティ実装してくれ。
物理は無理でも精神的に……!
邑田何をブツブツ言っておるのじゃ、八九。
八九ほら、拳握るな!
恭遠あー……授業を始めるぞ。
まずは、怒りの特性を知ろう。
恭遠強い怒りは、6秒程度がピークだと言われている。
それを利用して、6秒我慢することで少し冷静になれ、
衝動的な言動を控えられるというテクニックがあるんだ。
ベルガー6秒な! 俺が試してやるよぉ!
ベルガーおい、アホ毛!
ベルガーヘンテコ眉毛!
八九(うーわ、こいつ懲りねぇな……)
邑田……なんと?
在坂邑田、6秒だ。
恭遠深呼吸をしながら、カウントダウンしていくのも効果的だ。
さあ、6、5、4……。
邑田…………。
ベルガーあっひゃっひゃっひゃ!
ろっくびょー! ろっくびょー!
恭遠こら、ベルガー、邪魔をしない!
3、2、1……。
邑田……零。
ベルガーへぶっ!!
在坂ああ……。

邑田の拳が、目にも止まらぬ速さで振り抜かれた。
アッパーが顎を捕らえ、
ベルガーは美しい放物線を描いて吹っ飛んでいく。

邑田ふんっ!
シャルルヴィルひゃあっ……!?
人体ってパンチであんなに吹き飛ぶの!?
ジョージうう……痛そうなナイスパンチだな……。
っていうか、6秒数えてたのに全然ダメじゃん!?
邑田いいや。駄目ではないぞ。
邑田眉唾もののやり方じゃと思っておったが、試した価値はあった。
6秒とはなかなかに有用じゃな。
八九どこがだよ!?
邑田あの阿呆のどこをどう殴ればよいか、
たっぷり6秒かけて冷静に考えることができたからの。
ほっほっほ!
八九いや、冷静に暴力のこと考えてるなっての!
6秒で怒りが殺意に変わってんじゃねぇか!!
在坂……邑田の短気を直すのは諦めた方がいいかもしれない……。

 

Ep3. ビリヤード勝負の行方

──ある日、暇を持て余した邑田と在坂は、
何か面白いものはないかと、寮の遊戯室へ向かった。

在坂……? カツカツと音がする。
なんの音だろうか。
邑田見てみるとしようかの。
グラース…………。

遊戯室では、グラースが1人でビリヤードをしていた。
キューで球を突くと、小気味のいい音とともに
いくつもの球がポケットインしていく。

邑田ほう、撞球(どうきゅう)か!
在坂…………!
グラースはビリヤードができるか。
しかも上手い……意外だ。在坂は驚いた。
グラースふふん♪

ギャラリーに気づいたグラースは、
またも華麗にショットを決める。
在坂はますます目を輝かせた。

邑田(むむ……!
グラース、あやつ……これみよがしに……!)
邑田在坂や。撞球ならわしもできるぞ!
在坂そうなのか?
在坂は、邑田がビリヤードをしているのを見たことがないが。
邑田ふっふっふ。案ずるなかれ。
何を隠そう、わしを開発した邑田経芳は撞球が趣味での。
しかるに、わしも多少の心得があるはずじゃ。
在坂……そういうものだろうか?
グラースお、なんだ?
僕にビリヤード勝負を挑もうってか?
いいぜ、相手になってやるよ。
邑田望むところじゃ!

こうして、グラースと邑田のビリヤード対決の火蓋が切られた。
念のための仲裁係兼審判として、〇〇と、
シャスポー、八九が呼ばれる。

主人公【じゃあ、始め!】
【正々堂々戦おう!】
グラースふふっ……〇〇、そこで僕の勝利を見ていろよ。
グラースさて、さくっと勝負するには……
スピードエイトボールがいいな。異論は?
邑田……?
手早く済むならそれでよかろう。
先行はそなたに譲ってやるとしようか。
グラースそれじゃあいくぜ。
ブレイクは派手に華々しく……ふっ!

グラースのショットが、
並べられた球をビリヤード台の上に散らした。

邑田よし、次はわしじゃ。
こうして……?

邑田は、グラースがしていたのと同じようにキューを構え、
狙いを定めて球をつく。
力強く打ち出された球が、宙を舞った。

邑田……おっと!

そして……グラースの額を直撃する。

グラースいってぇ!!
てめぇ、何しやがる!!
邑田おお、すまぬな。
ちぃと力加減を間違えてしまったようじゃ。
八九(あれで『ちょっと』か……?)

気を取り直し、グラースは2打目に挑む。
一気に2つの球が見事にポケットに入った。

在坂おお……すごい……!
邑田ぐぬ……見ておれ。わしも今に……!
せいっ!

邑田が打ち出した球は再び宙を舞い、
グラースのみぞおちを直撃する。

グラースぎゃあ!
てめぇ、またやりやがったな……!
邑田む……随分と軽い球じゃの。
しかし、もう加減はわかった。弾道も低くなったであろう?
次こそ決めてやるわ。
グラースチッ……!
こうなりゃさっさと勝負を決めて終わらせてやる。
グラース見ろ、僕の華麗なマッセを!

グラースはキューをほとんど垂直に構え、
真上からつき下ろすようにする。

すると、手球はぎゅっと角度をつけて曲がり、
狙っていた球を見事にポケットに落とした。

在坂わぁ……!
シャスポーへぇ、やるじゃないか。
邑田わしとて負けぬ……! ちぇすとぉ!

低く鋭い軌道で飛んでいった球は──

グラースの股間を直撃した。

グラース……ッ!!
シャスポー&在坂う……っ!
八九うおっ……見てるだけで痛ぇ……。
邑田なんと……これはすまぬ!

へなへなと倒れ込んだグラースに、
〇〇たちが駆け寄った。

主人公【治療してみようか!?】
【大変なことに……】
グラースい、いや……これ、くらい……。
在坂無理をしてはいけないと在坂は思う。
今のは、球の当たりどころが悪かった。
シャスポーああ。まさか球が──……。
邑田うむ。玉に……ふっ。
八九……く、……っ。
グラースてめぇぇぇ……!
絶対許さねぇ!!

なんとか復活したグラースは、
キューを剣のように構えて邑田を狙った。

邑田む? チャンバラで勝負か?
いいじゃろう、玉撞きよりも手っ取り早い!!
八九あーあ……。
シャスポーやめるんだ、グラース。野蛮だぞ!
シャスポー〇〇、危ないから君はこっちに来て。
巻き込まれてしまう。
在坂……在坂は、すべて邑田が悪いと思う。
八九同感。でも、こうなったら止めらんねぇよな……。

──翌日。

恭遠君たち……職員会議で処分が決まった。
邑田、グラース両名、遊戯室は当分出禁だ!
グラースはぁ!? なんで僕まで!?
クソ、とんだとばっちりだ!!

Ep4. 美味い米のために

──ある日、貴銃士特別クラスは、
マスターである〇〇と合同で野営訓練を行っていた。

ライク・ツーはぁ……暑いな。
野営地近くに綺麗な水場があればいいけど、
あんま期待しない方がいいか……。
十手ああ……お風呂は帰るまでお預けかもしれないね。
十手でも、今回は食料の持参が許可されているから、
夕食の楽しみがあるよ。頑張ろう!
邑田うむ、まこと夕飯が楽しみである。
……八九、瓶は持ってきたかえ?
八九ああ……持ってきてるぜ。
口が大きめで透明の瓶だろ。なんに使うんだ?
邑田これを入れるのじゃ。

邑田は、薄茶色の米を瓶の中に入れた。

八九……古い米か? そんなの入れてどうすんだよ。
邑田なんと……これは古米ではないわ!
日本より取り寄せた上等の新米じゃ。
八九でも、茶色いし……あ、玄米か。
栄養的にはいいんだろうが、せっかくの新米なら、
ツヤツヤの白米で食いてぇよ。
邑田無論じゃ。ゆえに、これから精米をする。
八九はい?
邑田米はつきたてが一番うまい。
極上の新米ともなればなおさらであろうな。
いやぁ、まこと楽しみじゃ!
主人公【どうやって精米するの?】
【精米マシンなんて山の中にはないけど……】
邑田なに、これを使えばよいだけのこと。
カトラリーえ……銃剣?
邑田これで……こうじゃ!

邑田は自分の銃剣を使い、
瓶に入れた玄米をザクザクとつき始めた。

ローレンツ……!?
Mr.邑田、何をしているのだ……!?
邑田見ればわかるじゃろう。精米である。
ローレンツそ、それがか……!?
信じがたい銃剣の用途だ……。
邑田何を言う。
銃剣は何かと便利なものであろうが。
邑田こうして米をつくもよし。
おお、そうじゃ。芋掘りにも使われたのじゃぞ?
八九あー……まあ、銃剣って確かに便利道具扱いだよな。
栓抜きにされたりとか。
カトラリーええっ、危なくない……?
それに、そんなので本当に精米できるの?
お米が傷つくだけな気がするけど。
邑田なに、見ておれ。

米をつきながら歩くことしばらく──
瓶の底に、茶色いカスのようなものが少し溜まり始めた。

カトラリーあ、なんか剥げてきてる……?
邑田うむ、これが米ぬかである。
無事に精米できている証左じゃ。

その後も邑田はコツコツと銃剣で米をつき続け──

邑田……ふぅ。
ほれ、八九。そなたの番じゃ。
八九え?
邑田ちらちらとこちらを見ておったではないか。
代わってやろう。……はぁ。
八九いや、ふぅとかはぁとか言ってるし、
お前が疲れただけだろ!?
邑田わしはそこまで軟弱ではないわ。
ちぃとばかし飽きただけじゃ。
ほれ、キビキビ歩いてコツコツつくがよい!
八九チッ……!
十手八九君、あとで俺も代わるよ。
みんなで順番にやれば負担も少ないさ。
在坂在坂も手伝う。
働かざる者、食うべからずだ。
カトラリーえっ、それやらないと食べられないってこと……?
在坂この米についてはそうだろう。
カトラリーもあとで米つきをするといい。
カトラリーえっ……。
まあ、コツコツするくらいだし、やってもいいけど……。

──4時間後。
一同は無事にキャンプ予定地にたどり着いた。

八九はぁ、はぁ……!
ついた……普通に歩くのの数倍キツいぞ……!
邑田ふむ……ぬかもかなり溜まっておるな。
どれ、そこの川でといでみるとするか。

邑田が川で米をとぐのを、全員が固唾をのんで見守る。
ザルに入れて清流で軽く洗うと、米は白く輝きだした。

一同おおお……!!
十手これは美味いだろうなぁ……!
さっそく炊いてみよう!

一同いただきます!
十手うっ!
八九うめぇ……!!
カトラリーリゾットとかに調理されてないのに、
旨味があって美味しい……!
ローレンツ──青年は、銃剣の無限の可能性に宇宙を感じた……。
邑田ほっほっほ。
どうじゃ。美味いであろう!
邑田在坂や、おこげの部分もどうじゃ?
在坂もらおう……!

──それから新米がなくなるまで、
野営での精米ブームは続いたのだった……。

Ep5. 邑田流!?精神修行術

恭遠〇〇君、ちょっといいかい?
古銃コレクターから、士官学校に火縄銃が寄贈されたんだ。
その寄贈主が、ぜひ召銃を試みてほしいと言っていてね。
恭遠貴銃士になる銃は希少だから確率は低いが、
もしかしたら、新しい貴銃士との出会いがあるかもしれない。
〇〇君、やってみてくれるか?
主人公【わかりました】
【もちろんです】

日本出身の貴銃士たちが見守る中、
〇〇は薔薇の傷が刻まれた手で銃に触れる。
しかし、その火縄銃から貴銃士を召銃することはできなかった。

十手……何も起きない、か……。
八九めんどくせぇジジイとかが出てこなかっただけ
マシだったかもしれないぜ。
在坂……在坂は少し残念に思う。
だが、仕方のないことだともわかる……。
恭遠ああ。貴銃士との出会いは奇跡のようなものだからね。
とにかく、これで寄贈主も満足だろう。
予定通り、資料室に保管をお願いしよう。
邑田資料室に入れて飾ってしまうのかえ?
それは勿体なし。少し待ってはくれぬか。
邑田わしによい考えがあるのじゃ。
その火縄銃、しばしわしに預けよ。
恭遠丁重に扱ってくれるなら構わないが……。
どうするんだい?
邑田精神修行に使うのじゃ!

邑田の呼びかけで、談話室に貴銃士のみが集められた。

八九言われた通り、手の空いてる奴らを呼んできたぞ。
精神修行って、何するんだよ。
つーか、在坂は呼ばなくていいのか?
邑田在坂にこの鍛錬は必要なし。
十二分に肝は座っておるし、愛(う)いからのう。
部屋で特上おむらいすを食べるよう言っておいたわ。
十手それで、俺たちはここで食事を……?
邑田うむ。食堂かららんちぷれぇとの出前をしてもらったのじゃ。
ほれ、はよう座れ。
ドライゼ待ってくれ。
天井からぶら下がっているのは、古式の銃ではないか?
八九……さっきの火縄銃じゃねぇか。

天井に取り付けられたフックから、
ロープを使って火縄銃が吊り下げられており、
それを取り囲むように円形にランチプレートが置いてある。

ライク・ツー火縄銃を眺めながらメシを食うのか?
どこが精神修行なんだよ。
邑田まあ、冷めぬうちに食べておれ。
支度はわしが責任持って請け負うゆえ。

貴銃士たちが席につくと、
邑田は火縄銃を回転させ、ロープを限界までねじり上げる。
手を離すと、火縄銃がくるくると高速で回りだした。

ジーグブルートおい、何して……って、焦げ臭くねぇか?
……火ィついてるじゃねぇか!!
十手ええっ……!?
そんな、それじゃあまさか……!
八九回ってる間に発射されるってことかよ!
何考えてんだ!
邑田これぞ薩摩に伝わる精神修行、肝練りじゃ。
いつどこに向かって弾が発射されるかわからぬこの中で、
平然と飯を食らうことで肝が据わるのである。ほっほっほ!

邑田は悠然と座り、何事もなかったように食事を始めた。

ライク・ツーいやいやいや!
いくら俺らが貴銃士だからって、これはねぇだろ!!
シャルルヴィル……ひぇっ……。
十手シャルルヴィル君、しっかり!
いや、この場合は気絶して倒れている方が安全かも……!?
ドライゼ極限状態でも逃げることなく平静であれ……か。
確かに、とてつもない精神修行になるな。
ジーグブルートハハッ! いいぜ、やってやるよ。
八九なんでこの状況でメシ食えるんだ、お前ら……!
ベルガーぷくく……あっひゃっひゃ!
銃がブンブンぐーるぐる回ってんのウケるぅ~!
ローレンツ笑っている場合ではないぞ、モルモット1号……!
ライク・ツー止めないとやべぇだろ……!
ライク・ツー……ックソ、うおおおおおおぉぉ!!!

意を決したライク・ツーが、高速回転する火縄銃に突っ込む。
むんずと掴んで銃口を天井に向けた瞬間、弾が発射された。

ライク・ツー…………っ!
あっぶねぇっ……!!
恭遠おい、今の音は……って、なんだこれは……!?

事情を聞いた恭遠は愕然とし、
火縄銃を没収した上で邑田に懲罰房行きを告げた。


邑田まったく……軟弱者ばかりで話にならぬわ。
これでは立派な薩摩隼人にはなれんぞ!
八九なろうとしてねぇから……。
はぁぁ……。

コメントを書き込む


Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

まだコメントがありません。

×