貴銃士たちとマスターは、ヴァンパイア伝説を巡るホラーツアーへ!
古い館を彷徨う哀しき魂は、永い時を経てようやく朝焼けの空へと昇る。
ミカエルは様々な変化に思いを寄せつつ、『今』を曲へと託すのだった。
人も貴銃士も……思考し、感情がある存在は、変化とは無縁ではいられないのだろうね。
変わった曲も愛せるかどうかは……そう。神のみぞ知るというやつさ。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
カトラリーとミカエル、ファルの3人は、
職業体験で街の高級レストランにやってきた。
レストランオーナー | 職業体験の皆さんですね! 今日はよろしくお願いします。 |
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レストランオーナー | 先生から皆さんについて簡単に伺っていますよ。 ミカエルさんはピアノが得意だそうですね。 当店はピアノの生演奏が売りなので、思う存分に弾いてください。 |
ミカエル | それはいいね。 僕にぴったりの職業体験だ。 |
レストランオーナー | カトラリーさんとファルさんは、 フロアのスタッフとしておもてなしをお願いします。 |
ファル | ええ、わかりました。 |
カトラリー | 了解。 |
カトラリー | (こういう高級店には何回も行ったことあるし、 なんとかなるよね……?) |
ミカエル | いい音色だ。鍵盤も軽やかで指に馴染むね。 |
カトラリー | ふふっ。ミカエルのピアノを聴きながら食事も楽しめるなんて、 今日来るお客さんはラッキーだね。 |
ファル | 演奏なら我々としても特に心配することはありませんし、 気が楽でいいですね。 いつもこういう職業体験だと助かるのですが。 |
──レストランが開店すると、予約客が次々に訪れ始めた。
老婦人 | ……あなた、少しよろしいかしら。 |
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カトラリー | は、はい。 |
カトラリー | (僕が担当したテーブルのマダムだ。 ……何かまずいことしたかな?) |
老婦人 | 普段は見かけない方だけれど、新人さん? |
カトラリー | いえ、士官学校から職業体験で……。 |
老婦人 | そうだったの、士官学校から……。 お若いのに素晴らしい接客だったので、感心していたのよ。 |
老婦人 | さりげなく目配りをして、 私たちが欲しいタイミングでサーブしてくださったわね。 それに、お料理の説明も過不足がなくて、わかりやすかったわ。 |
老婦人 | とても洗練されているのね。 素晴らしかったわ。今日はどうもありがとう。 |
カトラリー | あ……ありがとう、ございます……! |
ファル | 前菜をご用意いたしました。 ハムとチーズの盛り合わせと、 自家製ドライフルーツのオリーブオイル和えです。 |
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ファル | 食前酒がお済みのようですので、 ワインリストをお持ちいたしましょうか? |
男性客 | ……おすすめはあるかな? |
ファル | 本日ご予約いただいているコースですと、 南方産の赤ワインがおすすめです。 |
ファル | イタリア、トスカーナ州の銘柄でよい品が入っております。 バランスのよいミドルボディで、 コースとの心地よいマリアージュを楽しめるかと。 |
男性客 | ほう……では、それを頼むよ。 |
ファル | かしこまりました。 |
男性客 | これは……うん、素晴らしい……! ワイン単体の美味しさもさることながら、 料理との相互作用によって新たな感動もある……! |
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男性客 | 君、ありがとう。 実は、私はワインは好きなのだが詳しくなくてね。 君のような信頼できるソムリエがいて助かったよ。 |
ファル | それは……どうもありがとうございます。 |
女性客 | 今夜のピアニスト、とてもいい演奏ね。 心を揺さぶられるわ……。 |
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女性客 | 曲のリクエストをしてもいいかしら? |
ミカエル | もちろん。 弾くかどうかは別だけれど、リクエストは歓迎するよ。 |
男性客 | はは、ミステリアスなところも魅力的だね。 |
カトラリー | (よかった、ミカエルも問題なさそう) |
──そうして、3人の職業体験は無事終了した。
オーナー | 皆さん、本当に素晴らしい仕事をしてくださいましたね! 体験と言わず正式採用させていただきたいくらいですよ……! ぜひまた来てくださいね。 |
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オーナー | これはお給料です。 それから特別に、このチケットもどうぞ。 |
ファル | やっと帰れますね。 |
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カトラリー | 職業体験であんなに褒められたのって初めてかも……。 トラブルもなかったし、平和でいい職業体験だったね。 |
ミカエル | そうだね。 今日のオーディエンスは音楽に造詣が深い人も多くて、 リクエストや感想も興味深いものだったよ。 |
ミカエル | そういえば、カトラリー…… 君が受け取っていたものはなんだったの? 何かのチケットのように思えたけれど。 |
カトラリー | なんだろうね? 開けちゃおうっと。 |
ミカエル | ……ヴァンパイア伝説を巡る一泊二日のホラーツアー、 特別招待券……だって。 |
カトラリー | え……。 オーナーさん、本当は僕のこと気に入らなかったってこと……? だから怖がらせてやろうと思って……。 |
ファル | それはないのでは? あの称賛は本心からだったと思いますよ。 イギリス人は幽霊好きが多いそうですから、 よかれと思ってくださったのでしょう。 |
カトラリー | そうかなぁ……。 ねぇ、ファル、ミカエル。 チケット、3人分あるんだけど……。 |
ファル | ……ふむ。 怖いなら、ついて行ってさしあげても構いませんよ。 |
カトラリー | ……っ、別に、怖くないし! ただ、人数分チケットをもらったからには、 行った方がいいって思っただけで……! |
ミカエル | ふふ……楽しみだね。 |
ヴァンパイア伝説を巡る恐怖のツアーに参加した一行は、
ヘインズビー男爵の屋敷に宿泊することになった。
カトラリー | 僕、材料いろいろ持ってきたよ。 ニンニクにセージ、オレガノ…… これ使って料理しよう! |
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ファル | ……ヴァンパイアはニンニクやハーブが苦手といいますね。 準備のよろしいことで。 |
カトラリー | 普通に料理用のハーブだよ! 美味しい料理の香りのいいハーブは欠かせないでしょ? |
ファル | そうですか。 では、私も適当に使いますよ。 |
主人公 | 【他に何か食材はないかな】 |
ファル | そういえば、ガイドの方が紙袋を置いていましたよ。 ツアー概要に2食付きと記載がありましたし、 あれが食料かもしれませんね。 |
ミカエル | これだね。 ……随分と質素な献立のようだ。 |
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カトラリー | パンとチーズに缶詰がいくつか……? えっ、これだけ!? |
カトラリー | 何か食べられるもの、ないかな……。 ちょっと探してみない? |
ファル | こういう屋敷なら、ワインセラーもあるでしょうか。 思わぬお宝が見つかるかもしれませんよ。 |
カトラリー | ワインが嬉しいのはファルだけじゃない……? でもまあ、探して見る価値はあるかも。 |
〇〇たちは屋敷内を探索し、
貯蔵庫らしき場所を発見した。
カトラリー | うーん……ずっと人が住んでないんだよね……。 食べられそうなものはなさそう。 |
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ミカエル | これは……なんの樽だろう? 開けてみても構わないかな。 |
ミカエルは、小さな樽を開ける。
明かりで照らしてみると、赤くどろっとした液体が入っていた。
カトラリー | 何これ……まさか、血!? |
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ミカエル | さあ……? でも、この匂い……。 |
ミカエルは液体を少し指につけ、匂いを嗅ぐ。
そして、ぺろりと舐めた。
カトラリー | ちょ!? ミカエル、やめなよ! |
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ミカエル | ……おいしい。 |
カトラリー | 嘘でしょ!? |
ミカエル | これはペッパーソースだよ。 |
ファル | ペッパーソース……いわゆるタバスコですか。 たしかに樽熟成で作るそうですね。 |
ファル | ですが……樽の焼印を見るにかなりの年数、 ここで発酵していたようですよ。大丈夫ですか? |
ミカエル | そうだね、少し……歴史を重ねた重厚なハーモニーが……。 |
エルメ | こっちにも色々と転がっているね。 |
ジャムのようなものが入った瓶、干からびた魚、酒瓶などが
貯蔵庫から発見された。
ミカエルがそれらを観察し、味見をする。
カトラリー | ねぇ、本当に大丈夫なの……!? |
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ミカエル | この魚とジャムは……終わりの響きがする。 |
カトラリー | それって駄目なやつじゃない!? |
ファル | やれやれ……。 まともな食材はありませんでしたね。 |
〇〇たちはキッチンに戻り、
カトラリーが持ってきたハーブやニンニクなどで、
オイルサーディンに味付けをすることにした。
カトラリー | もう、こうなったら少しでも美味しく食べないと気が済まないよ。 ……これ、なんの音? |
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ミカエル | 僕のお腹からキュルキュルと不思議な音色が聞こえるね。 ……そう、複雑な糸がこんがらがったような……。 |
カトラリー | やっぱりさっきの味見が駄目だったんだ……! |
主人公 | 【治療しないと……!】 【大変だ……!】 |
カトラリー | うう……早く帰りたいよ……。 |
ある日、ミカエルを探していた〇〇は、
彼がピアノを弾くでもなく、座っていることに気づいた。
ミカエル | …………。 |
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主人公 | 【弾かないの?】 【何か書いてる……?】 |
ミカエル | ……〇〇。 |
ミカエル | ああ……今日は、曲を作っていたんだ。 今の僕の音色を、楽譜に残しておこうと思って。 |
ミカエル | ……今までは楽譜に書き残すなんて、 興味を持てなかったのだけれど……。 |
主人公 | 【心境の変化があったんだ】 →ミカエル「ああ……そうか。これも変化なのかもしれない。 きみはときどき、鋭いことを言うね。」 【何かきっかけが?】 →ミカエル「そうだね……。」 |
ミカエル | ……この間の旅行で、僕は確信したんだ。 |
ミカエル | エルメは前とは違う音色になってしまった。 きっと、これからも変わっていくだろう。 |
ミカエル | ……僕も変わっていくのかもしれないと思ったんだ。 それで、今の自分を楽譜にして残したいと思ってね。 |
主人公 | 【順調?】 【作曲も得意?】 |
ミカエル | いつも思うままに弾いているから……曲を作るのは問題ないよ。 楽譜の読み方も、ベルギーにいるときに習った。 |
ミカエル | でも、楽譜を書くのは慣れていないんだ。 時間がかかる。 |
ミカエルがゆっくりと、
しかし確実に美しい楽譜を書き上げていく。
最後にタイトルを書き、ペンの動きがぴたりと止まる。
ミカエル | タイトルは……『10月30日、ホラーツアーにて』。 |
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主人公 | 【日記みたいだね】 【それがタイトル?】 |
ミカエル | いいタイトルが思いつかないんだ。 きみ、考えてくれる? 弾いてみるから。 |
ミカエル | 今、弾いてみるから。 |
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ミカエル | ……どう? きみならこの曲に、どんなタイトルをつける? |
主人公 | 【『月明かりの棺』とか?】 【『ハロウィンの朝焼け』はどう?】 |
ミカエル | ……いいタイトルだ。 いいね、そうしよう。 |
主人公 | 【素敵な曲だ】 【また新曲を聴かせて!】 |
ミカエル | ありがとう。 きみも曲を作ってみたら? |
ミカエル | きっと素敵な音色になるはずだよ。 |
〇〇が少し考えて鼻唄を歌う。
ミカエルはじっと耳を傾けてから、鍵盤を叩きはじめた。
ミカエル | ……いい曲だ。 |
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主人公 | 【鼻唄が曲になった!】 【すごい!】 |
ミカエル | これも楽譜に残そう。 ……これが、今のきみの音色だから。 |
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