これは遠い記憶の欠片。フランスでの、彼らの物語の前日譚。
シャルルヴィルは、秘密の庭で、『彼』との旅を夢想する。
「辛い思い出の方が多くなっちゃったけど…あの頃にできた大事な思い出もあったんだ」
ね。ベスくん。
ボク、あれからいろんな国を調べたよ。地図と本で、いっぱい。
君と旅に出るために。だから……どうか、諦めさせないで。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
シャルルヴィルがリリエンフェルト家に召銃されて、
しばらく経ったある日のこと──。
シャルルヴィル | (今日も夜会かぁ……。 パーティーは嫌いじゃないけど、 また“あのこと”を聞かれると思ったら……) |
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シャルルヴィル | はぁ……。 |
ブラウン・ベス | ──ああ、そうだな。 公務の一環で女王陛下と行った時は……。 |
シャルルヴィル | (……あ、あいつ……!) |
シャルルヴィル | (なんだよ。普通に話せるんじゃない。 ボクに対しては、あんな態度だったのに……!) |
ブラウン・ベス | ……俺は大英帝国が誇る銃だ。 フランス銃のおまえと戦友であった時間などない。 |
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シャルルヴィル | (今思い出しても、ムカつく……!) |
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女性1 | まぁ、シャルルヴィル様! |
シャルルヴィル | あ……。 やあ、こんばんは。いい夜だね、レディたち。 |
女性1 | お会いできて光栄ですわ。 今、フランスはあなた様が絶対高貴に目覚められた話題で 持ち切りなんですよ。 |
女性2 | ねぇ、シャルルヴィル様。 わたくしたちにもっと、高貴なる力について 教えてくださいませんか? |
シャルルヴィル | …………。 |
シャルルヴィル | ……もちろん♪ 僕の場合はね── |
女性1 | ──ああ、本当に素晴らしいですわ……! わたくしもいつか体験してみたいものですが、 真に癒しの力を必要としている方が優先ですものね。 |
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女性2 | またこうしてお話できる日を、 楽しみにしておりますわ。 |
シャルルヴィル | 僕もだよ。 ……それじゃ、夜会を最後まで楽しんでいってね。 |
シャルルヴィル | ……ふぅ……。 |
??? | ……おい。 |
シャルルヴィル | えっ? |
ブラウン・ベス | …………。 |
シャルルヴィル | ブ、ブラウン・ベス……! ……こほん、ボクになんの用? |
ブラウン・ベス | ……女王陛下に、貴銃士同士仲良くしろと言われてな。 |
シャルルヴィル | (謝りに来たなら許してやってもいいって思ったけど、 女王様に言われて渋々来ただけかよ……!) |
シャルルヴィル | ふぅん……そうなんだ。 せっかくの機会だし、仲良くしないとね♪ |
ブラウン・ベス | そうか。 |
ブラウン・ベス | ……おまえのことを戦友などと思ったことはないが、 思い返してみれば、確かに俺たちの付き合いは長い。 |
ブラウン・ベス | オーストリア継承戦争、フレンチ・インディアン戦争、 7年戦争……。 |
ブラウン・ベス | だが、どれも敵として戦場にあっただけだ。 友情など生まれるはずもない。 強いて言うなら、戦場限定の腐れ縁か。 |
シャルルヴィル | 君さぁ……。こんな華やかなパーティで、 大昔の戦争の話をするのは野暮だと思わない? それに、腐れ縁って……。 |
シャルルヴィル | もっとこの場にふさわしい話をしようよ。 ほら、たとえば……美味しいフランス料理のこととか。 |
シャルルヴィル | 君の好きな料理は見つかった? ボクはスイーツが好きだから、このマカロンとか── |
ブラウン・ベス | ……ふん。試しに口にはしたが、 フランス料理はバターを使いすぎだ。 こんなのを毎日食ってたら、見る間にブクブク太るぞ。 |
シャルルヴィル | なっ……!? |
シャルルヴィル | ちょっと、その言い方はないんじゃない? それを言うならイギリス料理なんて、 馬のエサみたいじゃないか! |
シャルルヴィル | 大味なものばっかり食べてるから、 繊細で美味しいフランス料理の良さがわからないんだよ! |
ブラウン・ベス | ……は? |
シャルルヴィル | 残念な味覚をしてるんだね。 あーあ、かわいそうに。 |
ブラウン・ベス | 大英帝国を侮辱するな。 それに、粗食でも高い士気を失わないからこそ、 大英帝国の兵士は強く、優れていたんだ。 |
ブラウン・ベス | フランスの奴らなんかどうせ、 兵糧がまずいだのなんだの泣き言を言って、 さっさと国に帰りたがってたに違いない。 |
シャルルヴィル | そ、そんなことはないさ! ……たぶん! |
シャルルヴィル&ブラウン・ベス | …………。 |
シャルルヴィル&ブラウン・ベス | ……ふん! |
ロジェ | シャルルヴィル、君にお客様だ。 こちらへ。 |
女王 | ブラウン・ベス、いらっしゃいな。 |
シャルルヴィル&ブラウン・ベス | はい、ただいま! |
ブラウン・ベス | ……まったく、女王陛下の命令で歩み寄ってやったが、 とんだ時間の無駄だった。 |
シャルルヴィル | ……ふん、こっちこそ! さようなら! もう二度と会うことがありませんように! |
シャルルヴィル | (く~っ! やっぱりボク、あいつ嫌いっ!) |
最悪な出会いからしばらく──。
秘密を共有したことによってわだかまりがなくなり、
シャルルヴィルとブラウン・ベスは打ち解けていた。
シャルルヴィル | ベスくん! もう健診終わったの? |
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ブラウン・ベス | ああ。 ……それより、その呼び方はやめろって言っただろ。 |
シャルルヴィル | ええ~、結構いいと思うんだけどなぁ。 |
ブラウン・ベス | どこがだ……。 |
シャルルヴィル | ところで、ベスくん! 健康診断って、どんなことするの? |
シャルルヴィル | 検査なんて初めてだし、なんだかソワソワしちゃって! 痛いことされるのは嫌だな~。 |
ブラウン・ベス | ……縛られたあと、針を刺して血を抜かれたぞ。 |
シャルルヴィル | ひぇっ!? |
ブラウン・ベス | 太い針で、中に穴が開いているのもはっきり見えたな。 ほら、ここに針の跡が── |
シャルルヴィル | …………! やだやだ! そんなの絶対やだ~! |
ブラウン・ベス | おまえは騒がしいから、 少し血を抜かれて大人しくなったくらいで ちょうどいいかもな。 |
ブラウン・ベス | しかし……俺はあれくらいなんてことないが、 おまえは気絶するんじゃないか? |
シャルルヴィル | えっ、そんなに痛いの……? やだよ~! 今から頑張って気絶するから、 眠ってるうちに済ませてもらえないかな……。 |
ブラウン・ベス | ぷっ……ははっ! |
シャルルヴィル | あーっ! ちょっとベスくん、話盛ったでしょ!? 実はそんなことされないんだよねっ! うんうん、そうに決まって── |
研究者 | シャルルヴィル様、こちらにいらっしゃいましたか。 検診のお時間です。お部屋にご案内します。 |
シャルルヴィル | ……! |
シャルルヴィル | ……それじゃあ、ブラウン・ベス。 僕はここで失礼するよ。 |
ブラウン・ベス | ああ。 |
研究者 | ……お2人で何を話されていたのですか? |
シャルルヴィル | たまたま会ったから、挨拶をしてただけだよ。 |
シャルルヴィル | さ、行こう。 |
シャルルヴィル | (……針刺されるとか、 きっとベスくんの冗談、だよね……?) |
シャルルヴィル | この部屋の北側は……こっち! ふふ、羅針盤って面白いなぁ。 本当に、どこにいても北を指すんだ。 |
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シャルルヴィル | (気に入ってたみたいなのに、 ボクにこの羅針盤を譲ってくれたベスくんって…… 結構優しいところあるよね) |
シャルルヴィル | (いつかこの羅針盤を持って、 自由になる旅へ出られたらいいな……) |
ロジェ | ──入るぞ。 |
シャルルヴィル | ……っ! ロジェ様……!? |
シャルルヴィルは咄嗟に、
羅針盤を枕の下へと隠していた。
シャルルヴィル | ど、どうしてんですか? |
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ロジェ | 今度の夜会について知らせるついでに来ただけだが…… 何を慌てている? |
シャルルヴィル | いえ、あの……すみません。 |
ロジェ | …………。 ところで、最近の様子はどうなんだ? |
シャルルヴィル | えっと……特に変わりはありません。 |
ロジェ | 絶対高貴には、まだなれそうにないのか。 |
シャルルヴィル | そ、それは、まだ……。 でも、きっと目覚めてみせるので……! |
ロジェ | ああ、そうしてくれ。 話は以上だ。 夜会については、この封書の中に書いてある。 |
シャルルヴィル | わかりました。 ……あの、ロジェ様! |
ロジェ | なんだ? |
シャルルヴィル | その……地図が見たいんですが、 どこで見られますか? |
ロジェ | 地図? 何の地図だ。 |
シャルルヴィル | 世界地図です。あらゆる国の地形や山、川、 首都、街……色々な情報が載っているものです。 |
ロジェ | …………。 それは、必要なことなのか? |
シャルルヴィル | ……はい! えっと……貴銃士として活躍するために、 もっといろんなことを知りたいんです。 |
シャルルヴィル | それで……まずは地理を理解して、 文化の繋がりや歴史について、改めて学ぼうと……。 |
シャルルヴィル | そうすれば、社交の場での立ち回りにも、 役に立つと思いますし……。 |
ロジェ | ふむ……。 確かに、パーティーには各地の有力者が集まる。 その土地の知識があれば相手も喜ぶだろう。 |
ロジェ | ……3階の書庫に行くといい。 地理や歴史の本、貴族名鑑など、 役立つ本が一通り揃っているはずだ。 |
シャルルヴィル | ……! はい、ありがとうございます……! |
ロジェ | …………。 |
シャルルヴィル | ……ふぅ。 羅針盤が見つからなくてよかった。 それに……。 |
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シャルルヴィル | 地図が、見れるんだ……! やった……! |
シャルルヴィル | (毎日が辛くても、いつか旅に出る日のことを思えば、 ボクはきっと頑張れる……。 広い世界のことを、今のうちに調べておくんだ……!) |
シャルルヴィル | ふんふん、ふ~ん♪ |
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使用人 | シャルルヴィル様、今日はずいぶんご機嫌ですね。 何か良いことがあったのですか? |
シャルルヴィル | ……そうかな? 今からこの地図で、地理を学ぼうと思ってね。 |
シャルルヴィル | ロジェ様に持ち出しの許可をもらえたから、 つい、少し浮かれちゃったみたいだ。 |
使用人 | 左様でございましたか。 シャルルヴィル様は勉強熱心で、素晴らしいですね。 |
シャルルヴィル | ありがとう。 |
シャルルヴィル | ……そういうわけだから、 しばらく勉強に集中したくてさ。 夜まで、部屋には誰も近づけないでくれるかな? |
使用人 | かしこまりました。 他の者にも、そう伝えておきましょう。 |
シャルルヴィル | ありがとう。よろしくね。 |
シャルルヴィル | (よし……。 これで、ボクだけの秘密の庭へ行けるぞ……!) |
シャルルヴィル | ──ふぅ、着いたー! |
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シャルルヴィル | (誰にも見つからずに、 屋敷を抜け出せてよかった……) |
シャルルヴィル | 今日はどこの地図を見ようかな~。 まずは……ヨーロッパ! |
シャルルヴィル | へぇ……あっちに見える山って、 国境を越えて続いてるんだ。 すごく大きいんだなぁ……。 |
シャルルヴィル | でも、ボクに山歩きは厳しいし、 綺麗なビーチとか散歩してみたいなぁ。 |
シャルルヴィル | ……あ、イギリス発見! ロンドン……ここにベスくんがいるんだよね。 今、何してるのかな? |
シャルルヴィル | いつか突然会いに行って、 ベスくんを驚かせてみるのもいいかも。ふふっ♪ |
シャルルヴィル | ……わっ! もうこんな時間!? |
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シャルルヴィル | 屋敷にいないことがバレたら、 ロジェ様に怒られちゃう! |
シャルルヴィル | 続きはまた今度……! この時間を奪われないようにしないと、ね。 |
──シャルルヴィルが
〇〇の貴銃士になってしばらく経った、
ある日の士官学校にて。
シャルルヴィル | あっ、〇〇! 今からどこに行くの? |
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シャルルヴィル | もし暇だったら、一緒にお茶しない? ボク、君と一緒に食べたいスイーツがあるんだ! |
主人公 | 【いいね】 【そうしよう】 |
シャルルヴィル | やったー! 今日のスイーツはね、ボク一押しの── |
教官 | お前たち! 自分が何をしたかわかっているのか!!! |
シャルルヴィル | ……っ!? |
生徒たち | す、すみませんでした……! |
シャルルヴィル | あ……。 ボクのことじゃ……ない……。そうだよね。 |
シャルルヴィル | そっか……よかった……。 |
主人公 | 【大丈夫?】 【顔色が悪い】 |
シャルルヴィル | ああ、うん……大丈夫だよ。 心配かけてごめんね。 |
シャルルヴィル | その……今の怒鳴り声、ロジェさんに似てたから。 ちょっと、リリエンフェルト家にいた頃を思い出して、 ビックリしちゃって……。 |
シャルルヴィル | ……初めて会ったころ、 ロジェさんってすごく優しい人だったんだ。 |
シャルルヴィル | つらい思い出の方が多くなっちゃったけど…… それでも、あの頃にできた大事な思い出もあったんだ。 |
シャルルヴィル | 全部が全部忘れたい記憶じゃないし、 大事な友達にも会えたしね。 だから……ボクは、ちゃんと前に進めるはず。 |
主人公 | 【シャルルヴィルなら大丈夫】 【ゆっくり前に進もう】 |
シャルルヴィル | うん。 ……ありがとう、〇〇。 |
シャルルヴィル | ……あの頃に思い描いていた形とは違うけど、 ボクの世界は、君たちのおかげですごく変わったよ。 |
シャルルヴィル | いつかまた、あの友達に会える日が来たら…… ボクは自由で幸せだよって、思いっきり自慢してやるんだ! |
主人公 | 【きっと、彼も喜ぶ】 【早く伝えられるといいね】 |
シャルルヴィル | 【きっと、彼も喜ぶ】 →あははっ、そうかな? 憎まれ口を叩きそうだけどね。 【早く伝えられるといいね】 →ふふ……うん、そうだね。 |
シャルルヴィル | 未来のことをこんなに楽しく考えられる日が来るなんて 自分でもなんだか信じられない気分だよ。 |
シャルルヴィル | 本当に……ありがとね、〇〇! |
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