クリスマスマーケットで会ったおじいさんの落とし物──それは、開く者の願いを映す
不思議な木箱。
ケビンとの思い出の写真に魅入られる在坂だが、決断の時を迎える。
大切なものは、ずっと心の中にあるのだ。
在坂は知らなかった。
自分の奥底にあった願いを。
だが、形には残っていなくても、
思い出は在坂を支えてくれる。
これまでも、これからも。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
とある休日。
在坂は邑田と八九とともに、クリスマスマーケットを訪れていた。
八九 | うお……すげー賑わってんな。 こっちのクリスマスは家族と過ごすモンって感じなんだっけか。 日本のよりマシだけど……やっぱ落ち着かねぇな。 |
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邑田 | きょろきょろするでないわ、八九。 警戒はそうと悟られぬようにするものじゃ。 |
八九 | いや、別に警戒してるわけじゃねぇけど……。 つーか、在坂はなんか目的でもあんのか? |
在坂 | 在坂は、特にこれといった目的はない。 ただ、まだ見ていない通りがあったし、 邑田と八九と来るのもいいだろうと思っただけだ。 |
邑田 | 在坂は優しい子じゃのう! |
在坂 | あ……あの人形……。 歴史の教科書に出てきた兵隊の格好をしている。 口が大きくて面白い……在坂は気に入った。 |
八九 | あー、くるみ割り人形か。 実用性あっていいんじゃね? |
邑田 | 在坂が気に入ったのならば、わしが買ってやるぞ! |
在坂 | ……! いいのか? |
邑田 | うむ、無論じゃ。 ちょうど職業体験の給金が入って懐も潤っておるしの。 遠慮はいらぬよ。 |
在坂 | ありがとう、邑田。 |
八九 | ……ちなみに、俺にも何かあったり……? |
邑田 | そんなものないわい。 ……と言いたいところじゃが、日頃の茶の礼くらいはせねばの。 |
邑田 | ほれ、これで菓子でも買ってくるといい。 |
八九 | 500UC!? 遠足のおやつ代かよ!! |
邑田 | 何か文句でもあるのかえ? |
在坂 | …………。 |
在坂 | (あれは……ヤドリギの木の飾り、か) |
ヤドリギの下には若い男女がいて、
幸せそうに笑い合いながらそっとキスをしていた。
在坂 | ……! |
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ケビン | 俺とエミリーとクリスマスマーケットにでかけた時に、 彼女がヤドリギの下に立って……2人で笑って、キスした。 ロマンチックだと思わない? |
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在坂 | (……あんなふうに、ケビンとエミリーも結ばれたんだな) |
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八九 | 在坂、ぼーっとして何見て……── |
八九 | って、うわっ!? 人前でよくイチャつけるな……! |
在坂 | …………。 |
在坂 | ……在坂は、そういうことを言うから八九はモテないのだと思う。 |
八九 | ぐっ!? |
邑田 | まったく。 勝手に周囲と己を比べて僻んで文句をつけるでないわ。 |
邑田 | 恋に愛、人が人と思い合うのは自然なことである。 だのに恋仲を特別特殊なものであるかのように捉えるから、 そなたは挙動不審になるのじゃ。 |
八九 | ふぉごっ……オーバーキルが過ぎるだろ……!! |
在坂 | ここにいる人たちは、みんな幸せそうだ。 在坂は、クリスマスが大好きだ。 |
邑田 | ほっほっほ。 穏やかな人の営みとはよいものよのう。 わしもくりすますが好きじゃ! |
八九 | (こいつら、いつの間にかクリスマス耐性身についてやがる……! ちくしょう……!) |
──クリスマスの翌日。
在坂たちは、サンタクロースからもらったソリで遊んでいた。
スプリングフィールド | この坂の上からなら滑れそうですね。 |
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在坂 | ああ。一緒に行こう、スプリングフィールド。 |
スプリングフィールド | はい! それじゃあ……せーのっ! |
スプリングフィールドがソリを押して勢いをつけてから、
2人乗りのうしろ部分に飛び乗る。
順当に滑り出したソリだったが、
少しずつ左に逸れ、眼前に木が迫った。
スプリングフィールド | あ、危ない……! |
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在坂 | 右だ、スプリングフィールド! 面舵いっぱい! |
スプリングフィールド | 曲がれーっ!! |
2人が乗るソリはなんとか木を避けられたものの、
急に曲がったためにバランスを崩して横転してしまった。
スプリングフィールド | うわーっ!? |
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在坂 | ふふっ……失敗だな。 |
スプリングフィールド | 失敗しちゃったけど……ふふっ。楽しかったです! |
在坂 | ああ。また後でリベンジしよう。 次は、〇〇と一緒に行ってくる。 |
2人でソリを押して斜面の上まで戻り、
今度は在坂と〇〇の2人で挑戦することになった。
在坂 | 準備はいいだろうか。 |
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主人公 | 【ばっちりだよ!】 【もちろん! 楽しみだね】 |
在坂 | 行こう。 |
2人が乗ったソリは、速度を上げながら斜面を滑っていく。
在坂 | 少し右だ。 |
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主人公 | 【了解!】 |
在坂 | ……! 次は左だ……! |
上手く避けられたかと思いきや、
ソリの側面が木にぶつかって横転し、さらにはその衝撃で、
木から雪がどさっと2人めがけて降ってくる。
スプリングフィールド | わっ! 大丈夫ですか!? |
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主人公 | 【大丈夫だよ】 【雪まみれになったけど平気】 |
在坂 | ふふっ……冷たい。 今度は雪まみれだ。 |
ひとしきり遊んで休憩する間、
〇〇はソリをまじまじと眺めていた。
主人公 | 【こんなに丈夫なソリがあるなんて】 【こんな立派なソリで遊ぶのは初めてだ】 |
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在坂 | 確かに、このソリはすごい。 豪華だし、頑丈だ。 |
在坂 | 普通のソリは違うのだろうと、在坂は思う。 〇〇が使ったことがあるのはどんなものだった? |
主人公 | 【自分が昔遊んだのは……】 |
〇〇は、自分が子供の頃遊んだソリについて話した。
廃材や、加工の余りなどの粗末な木材を
紐などで括って作ったもので、すぐに壊れてしまったこと……。
そのため、2人乗ってもびくともせず、
心ゆくまで遊べる初めての体験がとても楽しいこと。
在坂 | (初めて、か……) |
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邑田 | おお、皆戻ったか。 ソリ遊びは楽しかったかえ? |
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在坂 | ああ。在坂たちは皆とても楽しんだ。 ……最高だった。 |
スプリングフィールド | はい……! |
邑田 | ほっほっほ。それはよかったのう。 動き回っていたとはいえ身体が冷えたじゃろう。 甘酒を用意しておる。好きなだけお飲み。 |
主人公 | 【ありがとう!】 |
在坂 | ……〇〇。 在坂はさっき、不思議な気持ちになった。 |
在坂 | その気持ちの正体について考えていて……今わかった。 在坂にとって初めてのことでも、 マスターはそうではないことが多い。 |
在坂 | だから、〇〇と初めてを一緒に体験できて 嬉しかった……のだと思う。 |
主人公 | 【それはよかった!】 【これからも、いろんな初めてを楽しもう】 |
在坂 | ああ。 これからも、一緒にだ。 |
──ある日の談話室にて。
在坂 | …………。 |
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心から欲しいもの──在坂にとっては『ケビンとの思い出の写真』
が入っているように見える不思議な箱を返してから、
在坂は1人物思いに耽ることが増えていた。
八九 | ……なあ、在坂。 |
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八九 | お前はすげーと思うぜ。 手放したらもう二度とゲットできねぇ激レアで、 思い出補正までかかってるモンを諦めるとか、なかなかできねぇ。 |
在坂 | ……そうか。 |
八九 | ……それでさ。 代わりになるかわからねぇけど……作ってやろうか? |
在坂 | 作る……? |
八九 | アルバムにあるケビンの写真を使って、合成写真を作るんだよ。 自衛軍で撮影処理やってる知り合いに頼めば、 かなりリアルなのができるはずだ。 |
在坂 | ……いや、いい。 |
八九 | そ、そうか……。 ま、気が変わったらいつでも言えよ。 |
邑田 | (在坂……あの顔はケビンのことを考えておるな) |
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邑田 | (在坂を悲しませるなど……いや、あやつは悪くないのじゃが。 わしにできることは何か……) |
邑田 | ……おお、そうじゃ。 在坂や。 |
邑田 | わしが、ケビンと在坂の絵を描くのはどうじゃ? |
在坂 | ……いや、いい。 |
邑田 | ……! そうか……わかった。 |
在坂 | …………。 |
数日後。
在坂はメモリアルウォールにヤドリギの飾りを手向けた。
在坂 | ……ケビン。 在坂は、1つわかったことがある。 |
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在坂 | あの写真を見て……ケビンとの思い出が形になって 残っていればよかったと思った。 |
在坂 | だが、まやかしはいらない。 思い出は全部、心の中にあるから。 |
その時。
優しい風が、在坂の頬を撫でた。
在坂 | ……! |
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同時に、在坂はケビンの言葉を思い出す。
ケビン | 『在坂! もうわかっただろ?』 |
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ケビン | 『今の気持ちを、ちゃんと言葉で伝えてやれよ~! 俺みたいに、直接会って言えなくなったら大変だからさ!』 |
在坂 | ……そうだな。 |
在坂 | 邑田にも八九にも、たまには伝えないとな。 |
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