解説

カード解説

小夜啼鳥の貴銃士は、一人、夜闇に嘆く。
「僕がもっと傍にいれば」
「僕がもっと疑っていれば」
疑い、惑い、誰も信じられなくなったその先に、彼は小さく笑みを浮かべた。

心銃解説:贖罪に添う己の十字

この名と銃床に染みた血は、
この身と歴史が負った業は、
僕の在り方を確かに狂い堕とす。
もし、もしも次にまたそう成り果てたなら、いっそこの手で──

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

Ep1. 優美であれ!

シャスポーふんふん……♪
十手やあ、シャスポー君。銃のお手入れ中かい?
シャスポーそうだよ。
こまめに磨いてメンテナンスをしないと、
この美しい白銀の見た目を保てないからね。
十手なるほどなぁ。
銃身がこんなに白くて綺麗なのは、
シャスポー君の日々の努力の賜物なんだ。
シャスポー……わかってるじゃないか。
ふふ、君、なかなか見る目があるね。
せっかくだから、僕について少し教えてあげよう。
シャスポーそもそも、シャスポー銃が白いのは、
フランスで流行した
「白磨き」という手法が用いられているからなんだ。
十手白磨き?
聞いたことがないなぁ……。
シャスポー多くの銃には、一般的に鋼を
黒錆で保護する「黒染め」という処理が施されている。
シャスポーしかしフランスの人々は、
あえて「黒染め」をせず、
白銀の美しさを活かすことを選んだんだよ。
シャスポー美しい白磨きの銃は、
多くの収集家達が、こぞって手に入れようとするほど、
今でも根強い人気を誇っているんだ。
十手へぇ……戦場で使うものにも優美さを求めるなんて、
フランスの人たちは、なかなか粋だったんだなぁ。
十手昔の日本の武将達も、
戦場で華やかな衣装を身にまとっていたんだ。
なんだか、それと通じる美学を感じるね。
シャスポーふふ、君は僕の素晴らしさを理解できているようだね。
正しい感性の持ち主に会えて、僕も嬉しいよ。
エンフィールド──おや。
何やら楽しそうな声がすると思ったら、
あなたたちでしたか。
シャスポーああ、エンフィールドか。
すまない、うるさかったかな?
エンフィールドいえ、気にするほどではありませんよ。
僕がたまたま近くにいたから聞こえただけです。
エンフィールドそれで、お2人は何を話されていたんです?
十手シャスポー君から白磨きについて聞いていたんだ。
とても興味深い話で、いい勉強になったよ。
エンフィールドそうでしたか。
確かにフランス銃は、
いつ見ても白銀に輝いていて綺麗ですよね。
シャスポーへぇ、君も意外と話がわかるみたいだな。
エンフィールドええ。
とても美しくて──戦場でも光が反射して
ものすごく目立つので、いい的だったそうですね。
十手えっ。
シャスポー……っ!
エンフィールド僕としては、実用性より見た目を取る考えは
よくわかりませんが……。
まぁ、フランス人の考えることですからねぇ……。
シャスポー……君、僕たちフランス銃をバカにしているのか……?
エンフィールドえっ? どうしてそうなるんですか?
僕は事実と、一般的な見解を語っただけで……。
シャスポー何が事実だ!
君の発言は、僕とフランスの美意識に対する侮辱だぞ!!
エンフィールドあの……そんなに怒ることでしょうか?
エンフィールド美意識を優先して戦争に負けていては
意味がないとは思いませんか?
エンフィールド当時のフランス軍の軍服も、
色鮮やかすぎて
隠密行動が非常に難しかったそうですし……。
エンフィールド理想はどうあれ、事実は事実です。
欠点を認めることも大切だと思いますよ。
シャスポーい、言わせておけば……!
そこになおれ、エンフィールド!
僕とフランスを侮辱した罪、その身で償わせてやる!
十手だ、駄目だよシャスポー君! 銃を下ろして!
エンフィールド君もきっと悪気はないんだよ!
……たぶん!
シャスポー余計にタチが悪い!!
エンフィールドふふ、お2人は仲がよろしいんですね。
交友関係が広いのはいいことだと思います。
十手君は呑気だな……!
頼むから、ちょっとは空気を読んでくれ!
シャスポー離せ十手! こいつには指導が必要だ……!
十手だから落ち着けって……!
おーい! 誰かー!!
手を貸してくれ~~!

Ep2. 往年のライバル

恭遠これから先日の小テストを返却する。
名前を呼ばれた者から取りに来るように。
タバティエールよう、シャスポー。今回のテストはどうだった?
シャスポー9割、といったところだな。
勉強の成果が出たみたいだ。
タバティエールへぇ、さっすがシャスポー。
シャスポー当然だ。
出題範囲は網羅したからね。
ドライゼ…………。
シャスポー(……あいつ、さては……)
シャスポーおい! ドライゼ!
ドライゼ……なんだシャスポーか。何か用か。
シャスポーずいぶんと辛気臭い顔をしているね。
よほどテストの結果が芳しくなかったのかな?
ドライゼ……お前の言う通りだ。
シャスポーやはりそうか……。
ははっ、哀れだね。型落ちのドライゼ銃では、
テストでもまともな点数が取れないのか。
シャスポー……それで、いったい何点だったんだ?
ドライゼ気になるなら自分の目で確かめるといい。
ほら。
シャスポーどれどれ……。
……!?
シャスポーきゅ、98点!?
間違えたのは、たった1問だけ!?
ドライゼああ。ケアレスミスでな。
本当に、その1問を逃したのが悔やまれる。
時間切れの前に見直しさえできていれば……。
シャスポーそ、そんな……ありえない!!
僕よりもプロイセン銃の方が点数が高いなんて!
君、いったいどんな卑怯な手を使ったんだ!?
ドライゼ失礼な。俺は至極真面目に勉学に励んだだけだ。
シャスポーう、ウソだ! プロイセンの奴らは、
勝つためなら卑怯な真似も平然とできるじゃないか!
今回もそうやって点を取ったに違いない……!
ドライゼ言いがかりはよしてもらおう。
俺は誓って、恥じるようなことなどしていない。
ドライゼ授業中の教官の言動や、他の生徒から集めた情報から
過去のテストでの出題傾向を割り出し、
範囲から問題を推測して重点的に学んだだけのこと。
ドライゼそう──この点数は、
誰よりも事前準備に力を入れた結果なのだ。
シャスポー……な、なんだその言い方は!
それじゃあ、まるで
僕が何も準備をしていなかったみたいじゃないか!
シャスポー認めない……僕は絶対に認めないぞ!
そもそもこの僕が、
君ごときに負けるわけがないんだ!
シャスポー有効射程は圧倒的に勝っているし、
君が抱えているガス漏れという欠点は対策済み。
撃針の燃焼だって君と違って起こらない!
シャスポーそうだ、性能で圧倒的に劣る君なんかに、
僕が学力で負けるわけが……!
ドライゼ……銃の性能では、確かに俺はお前に劣るだろう。
だが、勉強というのは、
性能によって大きな違いが出るものではない。
ドライゼ効率によって、天と地ほどの違いを生み出すのだ。
シャスポー……は? 効率?
ドライゼそうだ。
お前自身が言うように、お前は非常に優秀だ。
シャスポーは、はぁ!?
いきなり媚を売られても嬉しくなんか……。
ドライゼ……だが、いかんせん
勉強方法が非効率的だ。
ドライゼ範囲のすべてを端から端まで見直し
ひたすら復習するなど……
俺からすれば、時間の無駄遣いと言わざるを得ん。
シャスポーなっ……!?
ドライゼずっと、もったいないと思っていたのだ。
お前ならば、もっと高得点を狙えるだろうに、と。
ドライゼ──だから今後は、
俺がお前専用の学習メニューを作ってやろう。
シャスポー…………うん?
ドライゼそうすれば、お前は成績トップを確実に狙えるはずだ。
俺には及ばない可能性はあるが、俺が考えた最高効率の
勉強方法を実践するのだから、結果は保証する。
シャスポーえ、えっと……?
ドライゼもともと俺は、シャスポー銃の性能には
一目置いていたのだ。
ドライゼ……しかし、貴国の戦術や運用は甘いという他ない。
あれでは、せっかくの優れた武器も台無しだ。
ドライゼゆえに、お前は我が祖国の薫陶を受けるべきである。
そうすればお前も、我が祖国の精神から大いに学んだ
素晴らしい銃に生まれ変わることだろう。
シャスポー…………。
ドライゼどうした? 感動で声も出ないか?
シャスポーふ……ふざけたことを言うな!
僕は死んでもお前の国に染まったりはしない!
誇り高く美しきフランスを侮辱するな!
ドライゼむ、俺の指導を受けないつもりか?
それこそ愚かな選択であることが──
タバティエールはいはい、そこまで!
喧嘩になったらみんなに迷惑かかるからやめとこうぜ?
な?
シャスポー……ふんっ。
まったく、ドライゼのせいで
僕の貴重な時間が無駄になってしまったな。
ドライゼそれはこちらのセリフだ。
せっかくの成績向上の機会をふいにするとは……
まったく、フランス銃は度し難い。
タバティエールやれやれ……お互い昔のことさえ引っ張り出さなけりゃ
仲良くなれそうな気もするんだがなぁ……。
ま、あいつらに「仲良く」なんて、無理な話か。

 

Ep3. シャスポーの天敵

シャスポー…………。
十手……シャスポー君、大丈夫かい?
なんだか顔色が悪いみたいだけど……。
シャスポーああ、十手か。大したことはないさ。
僕は他よりちょっとだけ湿気に弱くてね……
普段よりほんの少し、体調が優れないだけだよ。
十手そうなんだ……俺にとっては
過ごしやすいくらいなんだけどなぁ。
シャスポーこの湿度で過ごしやすいなんて、信じられないな……。
十手いやぁ、日本の梅雨や夏に比べたらずっとマシだよ。
君がもし日本に来たら、
ずっと体調を崩していそうだなぁ。
シャスポーああ……確かに、日本の湿気には苦戦させられたよ。
まあ、それでも僕は立派に活躍したけどね。
十手あれ、シャスポー君って、
日本にいたことがあったのか?
シャスポー君、知らなかったのかい?
なら仕方ないね、特別に教えてあげよう。
シャスポーシャスポー銃は、ナポレオン3世から幕府へ
2000挺近くも提供されたんだ。
シャスポーその後も、幕府が1000挺ほど注文して
最新鋭の武器として地方領主たちに売られてね。
十手合計3000挺!? それはすごいな……!
シャスポーだろう? 湿気で多少性能が下がろうとも、
僕は人気の銃だったということさ!
十手へぇ~……!
エンフィールドおや、またお会いしましたね。
今日もお2人でご歓談ですか?
シャスポー……エンフィールド……。
十手シャ、シャスポー君、そんなあからさまに
イヤそうな顔をしない方がいいと思うぞ……?
エンフィールドふう……しかし、今日は湿度が高いですね。
ジメジメしていて……とても不愉快です。
十手エンフィールド君も湿気は苦手なんだね。
シャスポー君も、湿度が高くて困ってるみたいで。
エンフィールドああ、確かにシャスポーさんにとって
湿気は天敵ですよね。
シャスポー…………。
十手それでも、日本に3000挺近く持ち込まれて
活躍してたっていうんだから、本当に優秀な銃だよなぁ。
エンフィールド……おや? 僕の知ってる話とは違いますね?
十手え? どういうことだい?
シャスポーエ、エンフィールド! ちょっと待っ……。
エンフィールドシャスポー銃には、フランスでしか作られていない
専用の弾が必須だったそうですね。
銃弾を輸入に頼るとコストの問題がありますし……。
エンフィールドおまけに、湿気に弱い薬莢の構造と
日本の気候との相性が最悪で、
不発が頻発したと聞いています。
エンフィールド一説では
江戸城の蔵に手つかずで放置されていたとか。
つまり、使い物にならなかったのではないでしょうか?
十手……えっ! そ、そうなのかい……?
エンフィールドはい。役に立たなかったシャスポーさんとは違って、
僕やスナイダーは、
日本の多くの戦場で活躍しましたよ、ええ!
十手あ、ちょっ……! そんなふうに言ったら──。
シャスポーまた……また僕を侮辱するのかエンフィールド!!
エンフィールドえっ? いきなり大声を出してどうしたんです?
体調不良はつらいでしょうが、
人に当たるのはどうかと……。
シャスポー君のせいだよ!
胸に手を当ててよーく考えて、そして反省しろ!
エンフィールド反省しろと言われても、
心当たりがないのですが……。
シャスポーお前という奴は~……!!
十手ふ、2人ともケンカしないで!
まったく……なんで君たちは仲良くできないんだい……?
シャスポーエンフィールドが悪い!!
エンフィールド僕たち、別に特別仲が悪いとは思いませんよ?
十手はぁ……なるほどなぁ。これはダメだ……。

Ep4. 食堂という戦場

シャスポー……やれやれ、士官学校の食堂は
いつも混雑しているな……。
生徒数に対して座席が少ないんじゃないのか……?
シャスポー……ん? 向こうの席が1つ空いているな。

シャスポー……くっ。

シャスポーは、空いている席の横に座っているのが
ローレンツだとわかると、
トレーを持ったまま固まった。

シャスポー(よりによってこの腹立たしい旧式の隣……!
しかし、立ち食いなんて野蛮な真似はできないし、
昼食を抜いて授業中に腹が鳴るなんて屈辱は御免だ!)
シャスポー(背に腹は代えられない、か……)
シャスポーゴホン、失礼するよ。
ローレンツ……おや、Mr.シャスポー。
悪いが、あと3cmほどトレーを離してくれないか。
シャスポー……はぁ?
ローレンツやれやれ……嘆かわしい察しの悪さだ。
いいかい? このテーブルは幅360cm、奥行き90cmで
片側6人の12人掛けだ。
ローレンツつまり、1人あたり幅60cm、奥行き45cm
使用していいことになる。
ローレンツだが、君は俺のスペースを約3cm侵犯しており、
ついでに言えば、君が置いた教材は、
向かい側の生徒のスペースに約6cmはみ出ている。
シャスポー……っ、いちいち細かく小うるさい奴だ。
仕切り板で分けられているわけでもない以上、
ある程度自由に使用スペースを決めてもいいだろう!
シャスポーまったく。これだから君の隣は嫌だったんだ。
せっかくの昼食が台無しになりそうだよ。

苛立ちを滲ませつつ、シャスポーは
パスタにタバスコをかけようとしたが、
なかなか出てこない。

シャスポーん……? 詰まっているのか?
ふんっ!!!

思いっきり瓶を振ると──
勢いよく飛んでいったタバスコは、
ローレンツが食べていたカレーに入った。

ローレンツうわっ! 何をするんだ!
シャスポーなんだよ、カレーにタバスコが少しかかったくらいで
大騒ぎするな。多少ピリ辛さが増しただけだろう。
それとも、辛いのが苦手なのか?
ローレンツそういう問題ではない。
料理は完成された味付けで提供されているんだ。
それに余計なものを加える行為が気に食わない!
ローレンツ君の雑な味覚と一緒にしないでくれたまえ。
シャスポー雑な味覚だと?
僕はフランスが誇る高性能な銃だ。味覚も優れている。
シャスポーフランス料理の繊細な味付けを理解し
咀嚼するに足る、優雅で上品な味覚だ!
ローレンツそんな奴が、パシャパシャとタバスコをかけるのか!?
シャスポーう、うるさいな! このパスタは、
タバスコを適量加えることで完成するんだ!
それもわからないのか、この旧式が!
ローレンツ……ふん。Mr.シャスポーは確かに高性能だが、
その高性能さをまったく生かせずに敗戦しただろう。
まったく、お粗末なものだ。味覚も同様にな!
シャスポーなんだと……!

2人の間に火花が散る。
向かいに座っていた生徒はいたたまれなくなったのか、
残りの食事を勢いよく平らげると揃って席を立った。

エルメ……あ、ドライゼ。そこの席が空いたみたいだよ。
ドライゼうむ。
シャスポーくっ……ドライゼまで来るとは、
今日の昼食は本当に最悪だよ……!
ローレンツヒェッ!
シャスポー……おい、ローレンツ?
ローレンツ…………。
エルメおや。彼、また気絶しちゃったの?
シャスポーまた……? 気絶?
ドライゼ……ローレンツはどうやら、
昔の敗戦が相当なトラウマになっているようでな。
エルメ不意打ちでドライゼが近くに来ると、
こうやって気絶しちゃうんだよねぇ。
毎度毎度、器用なものだよ。
シャスポーふ、あははは……!
口だけは達者なようだけど、所詮は旧式。
僕の敵ではないということだね。
シャスポーはぁ、少しすっきりした。
冷めないうちにパスタを食べてしまおう。うん。

Ep5. 迫る足音

シャスポー──このっ!
アウトレイジャー……敵、殺ス……。
タバティエール……っ!
あいつら、〇〇ちゃんを狙って……!?
シャスポーさせない!
シャスポー(不発!? よりによってこのタイミングで……!)
アウトレイジャー──死ネ。
シャスポーマスター!!
グラース──させねぇよ。
グラース絶対非道!!
シャスポー…………!
グラースふん。
お前らごときが、こいつに手を出せるわけがねぇだろ。
シャスポー……礼は言わないよ。
君に手を出されなくても、僕がマスターを助けられた。
グラース……はっ。相変わらず口「だけ」はご立派だな。
シャスポーなっ……!
グラースそういうセリフは
湿気で不発を起こさないようになってから言えよ、役立たず。
シャスポーお前!! この僕になんてことを!!
グラース図星だからってキレるなよ。
悔しかったら、僕みたいに有能になってみな。
……型落ちのお兄ちゃん?
シャスポー……っ。

シャスポー……はぁ。
タバティエールずいぶん大きなため息だな、シャスポー。
シャスポータバティエール……。
タバティエール昼間のこと気にしてるのか?
不発やジャムは最新の現代銃にも起きうることだ。
あまり気に病むなよ。
シャスポー……お前に言われなくてもわかってる。
だけど……あの時のグラースの言葉が、
頭から離れないんだ。
タバティエールシャスポー……。
シャスポー僕は確かに素晴らしい性能を持っているけれど、
あいつはそんな僕を
さらに改良して生み出された銃だ。
シャスポー……当然、僕よりも多くの面で優れている。
シャスポー……正直に言えば、僕の中には、
そんなグラースをうらやましいと思う気持ちが、確かにあるんだ。
タバティエール…………。
シャスポー〇〇の貴銃士は、どんどん増えている。
僕は……このままじゃ、ダメだ。
シャスポーフランスの第一線で活躍してきた僕が、
貴銃士としての戦いで役に立てないなんて許されない。
マスターの役に立たない僕なんて、本当の僕じゃない。
シャスポー多種多様な銃がいる中で
よりマスターの役に立つためには、
もっともっと強くならないといけない。
シャスポーそのために……たとえば、性能を上げる、とか……。
湿気への弱さを克服して……。
タバティエール湿気の克服って……
まさか、金属薬莢を装填できるように
銃を改造したいってことか?
シャスポー……わからない……。
シャスポー改造すれば、間違いなく僕は強くなる。
でもそうしたら、それはもう「シャスポー銃」じゃなくて──
「グラース銃」だろう?
シャスポーそうなったら、今の僕はどうなる?
もしかして……
僕は、僕でなくなってしまうんじゃないか?
タバティエール…………。
シャスポーそんな事が頭をよぎって……
結局、いまだに決断できないでいるんだ。
……ふふ、情けないな。
タバティエールそんなことはない。
自分を自分でなくする可能性がある行為を恐れるのは、
銃としても貴銃士としても当然なんじゃないか?
シャスポー…………そう、なのかな。
タバティエールああ。
……俺は、改造するかどうか迷うのなら、
今のままで強くなる方法を模索するべきだと思う。
シャスポー……!
タバティエール一朝一夕でどうにかなるようなもんじゃないだろうが、
考えて試行錯誤し続ければ、
いつか答えが見つかるかもしれないし。
タバティエールそれに何より──
お前までグラースみたいになっちまったら、
俺も〇〇ちゃんもてんてこ舞いだよ。
シャスポー……ははっ。
そうだな……僕もあんなふうになるのは嫌だね。

シャスポー自分がどうなりたいのか、どうなるべきなのか……
もう少し考えてみないと……。
タバティエール(シャスポーのやつ……
思い詰めて変なことしないといいんだが……)

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