胸の奥に、血に飢えた獣がいる。その影を、恐れ怯える自分がいる。
哀れな恥ずべき本心を、鉄の意志で、ただ無心に塗りつぶした。
それだけのこと──と男は言った。けれど、確かにこれは、彼だけが至った領域だ。
殺せ。獣が私に囁く。──違う、私だ。
肉を裂き血を啜り、殺戮の衝動に溺れたいのは、私だ。
……血の衝動を鉄の意志で封じ、獣は独り、金色の月に吠える。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
ある日の授業中──。
教官 | 次、10m後進。 準備ができた者から射撃を開始しよう! |
---|---|
ドライゼ | ……なんとか当たったか。 |
シャスポー | フン、これくらい当たって当然さ。 それはそうと…… なんで君と隣り合わせで、演習なんてしなきゃいけないんだ? |
シャスポー | 銃を構えるたびに視界に入ってきて、 実に目ざわりだよ。 |
ドライゼ | おい。演習中に無駄口を叩くな。 次も10m後進だ。 |
シャスポー | 言われなくてもわかってる。 |
10m後ろに下がり、ドライゼは再び銃を構える。
しかし──
ドライゼ | ………っ! |
---|---|
シャスポー | ははっ! なんだい、今のは? 的にかすりもしなかったじゃないか。 |
弾は的を外し、背後のバックストップにめり込んだ。
シャスポー | 仕方ないな。僕がお手本を見せてあげよう。 |
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ドライゼ | ……命中だな。 |
シャスポー | 言っただろ、これくらい当然だって。 ほら、また10m下がれだとさ。 |
ドライゼ | ……くっ! |
シャスポー | この距離でも的まで届かないなんてね。 ま、旧式のドライゼ銃の射程距離はそんなものか。 |
ドライゼ | …………。 |
ジーグブルート | ……お。 |
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ドライゼ | 貴様……また授業をサボっただろう。 時間を浪費するな。 俺たちは常に研鑽を重ねるべきだ。 |
ドライゼ | 今回の訓練は、 自身の射程距離を再確認する重要なもので──。 |
ジーグブルート | 俺がその訓練とやらに出ようと出まいと、 てめぇに関係あるか? ねぇよな。 |
ドライゼ | いや。お前の自堕落さは、 全体の士気の低下につながる可能性がある。 それに──。 |
シャスポー | おや、まだここにいたのかい? もしかして……居残り練習でもするつもり? 僕に負けて、相当悔しかったのかな。 |
ジーグブルート | は……? |
シャスポー | ああ、ジーグブルート。君もいたのか。 さっきの訓練でね、 僕とドライゼの性能の差を改めて実感したのさ。 |
シャスポー | ドライゼ銃の射程距離といったら、 僕の半分もないんだ。 |
ドライゼ | 確かにそうだな。 知ってはいたが、今日改めて目の当たりにした。 |
シャスポー | ああ、実に愉快だったよ。 これで身の程をわきまえられたなら、何よりだね。 |
シャスポー | 君と僕とじゃ性能が違いすぎるんだから、 肩を並べて授業だなんて、土台無理な話だよね。 |
シャスポー | そもそも、野蛮で無骨……優雅さのかけらもない輩と 同じ空間に長時間いること自体、我慢ならない。 クラスを別にしてもらおうかな。 |
ドライゼ | 黙って聞いていれば、貴様── |
ジーグブルート | おい、フランス銃。 優雅さっつーのは、戦場で必要なのか? あ? |
ドライゼ | ……っ、ジーグブルート? |
ジーグブルート | ドライゼ銃は、銃身後端の閉鎖が堅牢にできてない。 だから、高い腔圧には耐えられない。 |
ジーグブルート | それで使用できる黒色火薬の量が 少なく設定されてっから、 射程距離も短くなっちまうんだよ。 |
ジーグブルート | だがな、雷管の固定がしっかりしてる。 てめえのほうが不発は多いって話だぜ。 ドライゼのパクリ銃さん。 |
シャスポー | ッ! なんだと!? |
ドライゼ | おい、ジーグブルート。 なぜお前が反論する? |
ジーグブルート | フン。てめぇのザコ射程が原因で、 俺みたいな優秀なドイツ銃までまとめてこき下ろされるのは 我慢ならねーからな。 |
シャスポー | 貴様! もう一回言ってみろ! 誰が誰のパクリだって!? |
ジーグブルート | チッ。めんどくせぇ……。 |
シャスポー | おい待てこの野郎!! |
ドライゼ | ……? 俺の性能について、ああも詳細に把握しているとは……。 わからん奴だ。 |
ジョージ | Hey、マークス! |
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マークス | …………。 |
ジョージ | ん? 勉強してんのか。 おまえってマジメだよなぁ。 |
マークス | 本を読んでるだけだけどな。 |
ジョージ | それでもマジメだって! オレも、たまにはキョーカショでも見よっかな~。 |
ジョージ | それより、ここ寒くねーか? なぁ、なんか燃やせるものない? |
マークス | 薪でも取りに行けばいいだろ。 |
ジョージ | お、そうしよ! 適当にどっかから薪もらってきて、 でっかいキャンプファイヤーみたいなのしようぜ! |
マークス | キャンプファイヤーか。 それならすぐに暖まりそうだな。 |
ドライゼ | 何をバカなことを……。 部屋でキャンプファイヤーなんぞしたら火事になる。 暖炉を使え、暖炉を。 |
ジョージ | あっ、確かに! すぐそこにあるし! |
ドライゼ | どいていろ。今、火をつけてやる。 |
ドライゼは胸ポケットからマッチを取り出すと、
手慣れた様子で暖炉の火をつけた。
マークス | お、火が付いた。 |
---|---|
ジョージ | おおー! Thanks! |
ドライゼ | いや、大したことはしていない。 |
ジョージ&マークス | ……!? |
ジョージ | マ、マッチの火を……えええっ!? |
マークス | 今……あんた、火を指で消したのか!? |
ドライゼ | ……? だからなんだ? |
ジョージ | すっげーよ! 簡単にできるもんなのか!? |
マークス | そんなにあっさりできるってことは…… マッチの火って、そこまで熱くないのか? |
ドライゼ | いや、それは……。 |
ジョージ | マークス、オレたちもやってみよう! マッチ借りるぜ! いくぞー……。 |
ジョージ | あっちいいいいいいいっ! |
マークス | おい、何やってんだ……。 たぶんもうちょっと素早くすれば──って、 あっっっっっつ! |
ドライゼ | だからお前たちは、なぜそんな無鉄砲に……。 ほら、すぐに冷やせ。 やけどは素早い対処が重要だ。 |
ドライゼ | ──よし、これでいいだろう。 念のため2、3日後にも経過を見せろ。 |
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ジョージ | おお、痛みがちょっと引いた……。 Thank you! |
マークス | やけどの処置、慣れてるんだな。 |
ドライゼ | ああ。ドライゼ銃にはやけどが付き物だからな。 構造的に、ガス漏れが発生しやすいんだ。 |
ドライゼ | 紙製薬莢に使用されていた黒色火薬と 雷管に使われる起爆剤の燃焼ガスは、 共に腐食性が高い。 |
ドライゼ | それゆえに手入れを怠れば、 銃身とボルトの嵌合(かんごう)部がすぐに腐食してしまい、 ガスが漏れてやけどの原因になる。 |
マークス | ふーん。 それで、やけどの処置も火の扱いも お手の物ってわけか。 |
ジョージ | なるほどな~。 指で火を消すの、かっこいいから オレもできるようになりたい! |
ドライゼ | ふむ……ならばコツを教えよう。 今まで意識していなかった分、 上手くできるかはわからないが。 |
ジョージ | Really!? オレ、がんばってみるよ! |
マークス | 俺はもうやめておく……。 第一、そんなことできたって、なんの役にも立たないし。 |
ジョージ | 役に立たなくたっていいんだよ! とにかく、かっこいいんだから! じゃ、指導頼んだぜ! |
ジョージ | はぁ、はぁ……。 こ、これで何回目……? ううっ……! |
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ドライゼ | 消す速度が重要だ! ……いや、遅い! もっと素早く、躊躇せずにいけ! もう一回やってみろ! |
ジョージ | ひぃぃっ! もうオレ、やだ! 助けて~! 〇〇~! |
マークス | ……思い付きで行動すると、 ろくなことにならないな。 |
ジョージ | よーし、掃除おーわりっと! |
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グラース | はぁ……お前が水をまき散らしたせいで、 無駄に時間が掛かっちまっただろうが。 僕の時間を無駄にするんじゃねぇよ。 |
ジョージ | でも楽しかっただろ~? ……ん? |
ローレンツ | ──塵一つない廊下は陽光を受けて輝き、 まるで未来を照らしているかのようであった。 青年はその美しさに感嘆した。 |
ドライゼ | 実に素晴らしい出来だ。 窓拭き用洗剤の必要性について、エルメとの議論が 白熱したが、彼の言うことは正しかった。 |
ドライゼ | 一度拭きでも澄み渡るこの透明感。 専用洗剤だからこその出来栄えだろう……。 そして、廊下の方も完璧だ。ローレン── |
ローレンツ | ヒッ! と、当然であろうと青年は頷いた。 そして、名前を呼ばれては気が遠くなりそうなので、 やめるようにと切実に心の中で祈るのであった──。 |
ドライゼ | そ、そうか。すまない。 |
ローレンツ | や、やめてくれ! |
グラース | ……あいつら、何やってんだ? 背中合わせに話してるぜ。演劇か? |
ジョージ | 独り言なのか会話してんのかよくわかんねぇなぁ。 話すなら、ちゃんと相手の目を見ればいいのに! |
カール | はっはっは。 それは、ローレンツにはあまりにも酷だ。 |
カール | しかし、なるほどねー。 彼はああいう打開策を見出したというわけか。 |
グラース | ん? どういうことだ? |
~1週間前~
ドライゼ | ……ローレンツ。少しいいか。 |
---|---|
ローレンツ | ビョッ! |
ドライゼ | ビョ……? 先日の授業の件で、恭遠教官が──。 |
ローレンツ | …………。 |
ドライゼ | おい、ローレンツ? ローレンツ、しっかりしろ! |
ローレンツ | ん……、俺は、一体……? |
ドライゼ | ああ、よかった。気が付いた── |
ローレンツ | ギャヒッ!! |
ドライゼ | ローレンツ──!!! |
ドライゼ | な、なんなんだ、今の鳴き声のようなものは。 何か重大な病か!? だ、誰か! 助けてくれ! |
カール | ……おや? |
エルメ | ドライゼ、ローレンツはどうしたんだい? 廊下の真ん中で寝るなんて、優等生の彼らしくもない。 |
ドライゼ | そ、それが……いきなり倒れて、 一瞬意識を取り戻したんだがまた気絶したんだ。 |
エルメ | どこか具合が悪いのかな? とりあえず、ベッドに運ぼうか。 |
ドライゼ | ああ……! |
ローレンツ | ん……あれ、ここは……? 俺は、何か恐ろしい夢を見ていたような……。 |
---|---|
カール | お、ようやくお目覚めだねー。 やれやれ、このまま夜まで眠る気かと思ったよ。 |
ローレンツ | カール様……一体何があったんでしょうか? 昼頃からの記憶がないのですが……。 |
カール | 君は廊下でいきなり倒れたんだ。 校医の見立てでは特に異常はないそうだが…… どこかに違和感や痛みは? |
ローレンツ | い、いえ、特には……。 |
ドライゼ | ……失礼する。 |
ドライゼ | おお、ローレンツ、気が付いたのか。 |
ローレンツ | ピギャッ! |
エルメ | あれ。彼、また気絶したの? |
カール | なるほど……そういうことか。 彼はどうやら、かつての戦争で君に大敗したことが よほどのトラウマになっているらしいねー。 |
ドライゼ | む……? どういうことだ。 |
カール | 君を見ると恐怖のあまり気絶して、 ついでに記憶も飛ばしてしまうようだ。 |
エルメ | へぇ。彼、器用だね。 |
ドライゼ | では、俺の見舞いは逆効果だな。 すまなかった。俺たちはこれで失礼する。 |
──10分後。
目覚めたローレンツは、
事の次第をカールから聞くと、がっくりと肩を落とした。
ローレンツ | あの、カール様…… レジスタンスにいた民間工場製の俺も こうだったのでしょうか……? |
---|---|
カール | いや、彼もドライゼやシャスポーに対しての 苦手意識はあったようだが、 気絶するほどの恐怖心は抱いていなかったよ。 |
ローレンツ | くっ、俺は官営工場製なのに、情けない……! |
項垂れるローレンツの耳に、穏やかな旋律が届く。
顔を上げると、カールが蓄音機の前に立っていた。
ローレンツ | この曲は……。 |
---|---|
カール | 美しく青きドナウ。敗戦で失意の底にあった ウィーンの市民を慰めるために作られた曲だ。 君の支えにもなるかもしれないねー。 |
ローレンツ | カール様……! 俺は必ず、Mr.ドライゼに対する恐怖を克服してみせます!! |
カール | ……ということがあってねー。 |
---|---|
カール | 普墺戦争では、前装式のローレンツライフルを装備した オーストリア軍を、後装式ボルトアクション銃の ドライゼを装備したプロイセン軍が圧倒しただろう? |
カール | 戦場は酷い有様だったようだし、 ローレンツにもその時の恐怖が 色濃く残っているようでね。 |
ジョージ | それで、ああやって背中を向けて、 独り言みたいな感じでうっすら会話してんのか! |
グラース | んなことするくらいなら、 話さねぇ、近づかねぇ方が楽だろ。 |
カール | はっはっは。確かにそうかもしれない。 だが、恐怖から逃げず、諦めずに粘るというのは、 ローレンツ・ライフルに共通する美点なのかもしれないねー。 |
カール | そして、それに付き合ってやるドライゼも、 “彼”とは違えど、似通った部分があるものだ。 はっはっは! |
??? | ふむ……。 そろそろだな。 |
---|---|
??? | ああ、そうだね。 じゃあ、今夜あたりどう? |
??? | 問題ない。では、また後ほど。 |
ライク・ツー | ん? 暖炉が綺麗になってるな。 誰か掃除したのか……? |
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ジョージ | ああ! 煙突掃除屋の仕業だぞ! |
ライク・ツー | ……は? なんだそれ。 |
ジョージ | ふふん、オレが教えてやるよ。 ここの暖炉は、誰も掃除してないはずなんだけど……。 |
ジョージ | なぜか、汚れてきた頃になると、 いつの間にかぴっかぴかになってるんだ! |
ジョージ | 誰が掃除をしてるかはわかんねーけど、 イケメン2人組の掃除屋がやってるらしいって噂になってるぜ! |
ライク・ツー | なんでイケメン2人ってわかってんだよ……。 しょーもない噂だな。 |
ジョージ | いやいや、それだけじゃないんだ。 その掃除屋を捕まえると、 幸運が舞い込むって話もあって! |
ライク・ツー | やっぱ、くだらねー噂じゃねぇか……。 |
ジョージ | でもほんとだったら、夢があっていいよな! 今度、張り込みでもしてみよっかな~。 |
ライク・ツー | はぁ? そこまでするか? お前、物好きだな。 |
ライク・ツー | どうだっていいだろ、そんなもの。 俺は興味ねぇな。 |
1ヶ月後──。
ライク・ツー | ふぁ~……。 変な時間に起きちまったな。 水飲んだら、もうひと眠りするか……。 |
---|---|
ライク・ツー | ……っ!? 敵かっ!? |
ジョージ | ……ぐぅ。 |
ライク・ツー | はぁ!? おい、なんでそんなとこで寝てんだ! 起きろ! |
ジョージ | んー……? あ、ライク・ツー……何やってるんだー? |
ライク・ツー | いや、こっちが聞きてぇよ。 お前が廊下に倒れてきたんだけど。 |
ジョージ | え……はっ! 寝てた! |
ジョージ | いやー、眠気の限界だったみたいだ。 ここ数日、夜はずっと張り込みだったからさ。 |
ライク・ツー | は? なんでそんなこと……? って、まさかお前……。 |
ジョージ | もちろん、掃除屋を探しにきたんだよ! あれからずっと気になっててさー! |
ライク・ツー | アホか……。 |
ライク・ツー | ま、俺には関係ねぇ。 じゃあ── |
ジョージ | ……しっ! 動くな! |
ライク・ツー | なっ!? おい……!? |
ジョージ | 誰か来る……! こっちに隠れるぞ! |
ライク・ツー | ……! |
??? | さて、始めるか。 |
??? | うん。 今回は、このブラシを使おうと思うんだよね。 |
??? | なるほど、新作か。 興味深い。 |
ライク・ツー | あ? この声って……。 |
ジョージ | や、やっぱり2人組の掃除屋はいたんだ! よしっ……! 絶対に正体を暴いてやるっ! |
ライク・ツー | 待て、そいつらは……。 |
ジョージ | 覚悟──っ! 逃げても無駄だぞ! ……あ、あれ? |
エルメ | おやおや。どうしたんだい? |
ドライゼ | 一体なんだ。騒がしい。 |
ライク・ツー | あー、やっぱな。 |
ジョージ | え、ええ~っ!? 掃除屋は、ドライゼとエルメ!? |
エルメ | 掃除屋? よくわからないけど、 暖炉の掃除をしていたのは、確かに俺たちだよ。 ススがどうしても気になってね。 |
ドライゼ | 銃のスス掃除も、 こまめにしなければあとが大変だろう。 それと同じように、ここも掃除しておきたくてな。 |
ドライゼ | 昼間は多くの人が談話室を使用している。 だから、こうして誰もいない夜中にやっていた。 |
ジョージ | HAHA、そうだったんだ! でも、そんなに気を使わなくてもいいんじゃないかー? 次は昼間にみんなでやろうぜ! |
ドライゼ | それもそうだな。 俺たちの掃除テクニックを披露するとしよう。 |
ライク・ツー | はぁ……。 さっさと寝よ。 |
ドライゼ | 99……100……っ! |
---|---|
キセル | おっ、はかどってるねェ。 ははっ、汗がまぶしいぜ。 |
ドライゼ | ……この程度の鍛錬ならば、造作もない。 |
キセル | この程度、か。 けどさっきまで、射撃の自主練習もしてたよな? |
キセル | 前の休日も、図書館で一日中技術書を 読んでたって聞いたぜ? ここ最近、ちゃんと休んでねェんじゃないか? |
ドライゼ | 何もしない方が落ち着かないのでな。 自分を鍛えるのは、いくらやっても足りないくらいだ。 備えはあるに越したことはない。 |
キセル | 息抜きも、たまには必要だと思うがねェ。 俺みてぇに、煙管でもふかしてさ……ん? |
ドライゼ | マッチを切らしているのか? 使いかけでよければ、これをやる。 |
キセル | 有難ェ──けど、 それじゃああんたがマッチを使うとき困るだろ。 |
ドライゼ | いや、予備にもう2箱保持している。 問題ない。 |
キセル | へぇ、それじゃもらうぜ。 ふぅー……。 |
キセル | ……そういうタチは、 「ドライゼ」に共通してるモンなのかねェ。 |
ドライゼ | ……と言うと? |
キセル | いや。レジスタンスにいたドライゼも、 そりゃあもう準備が良くてな。撃針がなんとかで、 予備をいくつも持つのが当然って言ってたっけなァ。 |
ドライゼ | ああ……ドライゼ銃は構造上、 細くて長い撃針が、発射時に高温・高圧に晒される。 |
ドライゼ | 200発も撃つと撃針が脆く折れやすくなるから、 ボルトを分解して撃針を交換しなければならない。 |
ドライゼ | ゆえに、ドライゼ銃を扱う兵士には 予備の撃針が2本支給されていた……。 予備を持つのは、俺たちにとって必須なんだ。 |
キセル | なるほどなァ。 備えのよさは銃の構造由来ってワケか。 |
ドライゼ | それもあるが……。 徹底して備えを怠らない姿勢は、 レジスタンスのドライゼを見習ったものだ。 |
キセル | ……! そうなのか? |
ドライゼ | ああ。俺は絶対高貴になろうと、 革命戦争の英雄について数多く調べてきた。 |
ドライゼ | その中で彼のモットーを知り……感銘を受けたんだ。 |
ドライゼ | 以降はそれを見習い、常時携帯するようなものには 予備と、予備の予備も用意することにしている。 |
キセル | ヘェ、そうかい……。 お前さんはあいつの考えを、 しっかり引き継いでくれてたんだなァ……。 |
ドライゼ | そこまで大仰なことではない。 ドイツ軍の銃として、手間の短縮と安全の確保を考えた上で、 効率的だと判断したまでだ。 |
ドライゼ | 俺は、英雄である彼そのものにはなれない。 だが……少しでも、彼のような存在に近づきたいと思っている。 |
ドライゼ | そのためならば、猿真似だと言われようとも、 有効な手段を選び続ける。 |
キセル | そうかい……ははっ! |
キセル | “ドライゼ”にも、会わせてやりてぇもんだなァ。 このマジメな男を、さ……。 |
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