貴銃士は考える鉄である。人のように振る舞うが故に、恐れ惑い、判断を謝る者も見る。
彼らは愛しくも愚かである。硝煙と血の香り溢れる戦場で、その振る舞いは無為だ。
我らは考える鉄である。惑わず進み執行せよ。
俺たちは考える鉄だ。
情を捨てろ。それは邪魔だ。
捨てずにいた男はどうなった?
そう。だから俺は鉄であるべきで──それが、我らが誇りの在処。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
エルメ | …………。 |
---|---|
グラース | ……ん? |
グラース | なんだ、あいつ? 教室の入口にぼーっとつっ立って、邪魔だな。 |
タバティエール | あれはドイツのエルメだな。 何か考え事でもしてるんじゃないか? |
タバティエール | ……って、おい。妙なこと考えるなよ。 士官学校では面倒ごとは避けようぜ。 |
グラース | 心配すんなって。 ちょっと挨拶してやるだけだよ! |
タバティエール | あ……おい! |
グラース | やあ、エルメ! |
---|---|
エルメ | ん……? ああ、何か? |
グラース | ドイツの軍人さんは、 物思いにふける立ち姿も威風堂々としていらっしゃる。 |
グラース | まるでドアの前で立ちはだかる門番のようで、実に頼もしいよ。 ──Dégage(どきやがれ)! |
タバティエール | おい、グラース。 |
エルメ | ……ふぅん。 ご丁寧に、ありがとう。 |
グラース | ……ははっ! どういたしまして。 |
エルメ | では、俺からはこう返しておこうかな。 ──Ferme ta gueule.(汚い口を塞いでろ) |
グラース | なっ……!? |
グラース | お、お前! 僕をバカにしやがったな……!? |
タバティエール | 最初に喧嘩を売ったのはお前だろうが。 あんな言葉、いきなり人に言うもんじゃないぞ。 やり返されても自業自得ってやつだ。 |
グラース | ……っ。 ──フン! |
シャスポー | へぇ……。 エルメ、君、フランス語がわかるのかい? |
エルメ | うん。 昔、フランスにもいたことがあるから、ある程度は。 |
シャスポー | フランス『にも』? |
エルメ | 俺は、完成までに紆余曲折あって…… 『機材06』だった頃から、 色んな開発チームを渡り歩いてたんだ。 |
エルメ | 最初は、ドイツのマザー社。 ドイツが敗戦して、次はフランスに。 それからスペインに移って──。 |
エルメ | 最終的にはドイツのKK社へ。 ……って感じで、かなり放浪してきたんだ。 そのたびに、いろんな名前に変わりながらね。 |
タバティエール | へぇ。そいつは大変だったな。 それじゃあ、スペイン語もわかるのか? |
エルメ | ネイティブほどではないだろうけど、 まあまあわかると思うよ。 貴銃士になってからも、少し勉強したしね。 |
シャスポー | 君に、そんな特技があったとは驚いたな。 君の知性の欠片くらいでも、 グラースに分けてやってほしいよ。 |
エルメ | ふふ、彼に分けたら せっかくの知性も台無しになりそうだ。 |
グラース | なんだと! |
エルメ | それじゃあ、俺はこれで。 あ、そうそう……。 |
グラース | な、なんだよ……。 |
エルメ | Adieu. Espèce d’idiot.(※) |
グラース | ……ッ!!! |
シャスポー | ……ふふっ。 |
グラース | こ、この僕に対して、 な、な、な……なんだとぉ!? 僕は馬鹿じゃねぇ! おい!! |
タバティエール | 撃たれなかっただけマシじゃないか? この世とのお別れにならずに済んだだろ。 |
グラース | ……う、うるせぇ! あいつ、絶対許さねぇからな~~~! |
※ボイスでは「お馬鹿さん」と言っている。
エルメ | ……うん、いい出来だ。 |
---|---|
ジョージ | ん~、いい匂いがする! Hey! そのコーヒー、エルメが淹れたのか!? |
エルメ | うん、ちょっと頭をすっきりさせたくてね。 君もコーヒーを飲むの? |
ジョージ | おう! 淹れたてのコーヒーって美味いよな~! ま、オレは面倒だからインスタントが多いけど! |
エルメ | ……せっかく飲むなら、完璧なものの方がいい。 俺のを分けるから、君も豆を挽くところから コーヒーを淹れてみたらどうだい? |
ジョージ | おっ、たまにはそういうのもいいな! Thanks! さっそくやってみるよ。 |
ジョージ | ふんふふふ~ん♪ まずはこれに豆を入れてっと……。 |
エルメ | ……うん、ここまでは悪くない。 少し仕草が雑だけど。 |
ジョージ | チャラチャチャッチャ~♪ |
エルメ | ……ん? …………。 |
ジョージ | こんな感じか~? よーし、完成! それじゃあ、早速いっただっきまー…… |
エルメ | なんという、不完全な……! |
エルメはジョージのカップを奪い取ると、
中身をシンクに流してしまう。
ジョージ | えっ……あーっ!? 何するんだ! せっかく作ったのに! |
---|---|
エルメ | あ……つい。 君の淹れ方があまりに悲惨で。 |
ジョージ | そうかぁ? ちゃんとコーヒーの色してたしOKだと思うんだけど。 |
エルメ | ……雑すぎる……。 これは見過ごせないな。 |
エルメ | いいかい? コーヒーは淹れ方によって、完成度が大きく変わるんだ。 |
エルメ | 君がきちんと理論を押さえて 完璧にコーヒーを淹れられるようにする。いいね? |
ジョージ | お、おおーっ! |
エルメ | まずは豆を中細挽きにする。 使う豆の量は適量があって、 計量用のスプーンを使えば問題ないだろう。 |
エルメ | 抽出の際は、まず、中央に少量のお湯を注ぎ、 全体がお湯を含むようにして蒸らす。 すると……ほら。 |
ジョージ | おお~! モコモコ膨らんできた! |
エルメ | 豆が膨らむのは、炭酸ガスが放出されるからだ。 蒸らす工程でこうしてガスを抜くことで、 よりコーヒーの成分を引き出すことができる。 |
エルメ | お湯の温度は95度くらい。 中央に小さく円を描くようにして、 3回に分けて少しずつお湯を注ぐ。 |
エルメ | 抽出が終わった後は、 温めておいたカップにコーヒーを注ぎ入れる。 これで完成だ。 |
ジョージ | 色々こだわってるんだな~。 見てる分には楽しいけど、 毎回こんなことすんの面倒じゃないか? |
エルメ | 面倒、か……。 それは、俺にとっては大した障壁にはならないね。 だって、俺自身も面倒な銃だし。 |
ジョージ | そうなのか? 完璧主義ってカンジだけど、 別にそんな面倒臭いヤツだとは思わないぞ? |
エルメ | ふふ。性格じゃなくて、銃の構造の話だよ。 |
エルメ | 俺の銃は、性能がいい分、構造がちょっと複雑でね。 扱いには色々と注意が必要なんだ。 掃除もこまめにしないといけないし。 |
エルメ | それを面倒だと言う人も多いけれど、 完璧を求めて作られた俺の性能ゆえだから、 そこの手間は惜しむべきではないと思うよ。 |
エルメ | だから、良いもののためには、俺も手間を惜しまない。 時間がかかろうと、より完璧な仕上がりになるなら、 ひと手間かける方を迷いなく選ぶね。 |
ジョージ | ふんふん。エルメってすげーな! そもそも知識がねーと、 ひと手間とか工夫とかもできないと思うし! |
エルメ | 確かにそうかもね。 ……それはそうと、コーヒーを飲んでみて。 そろそろ飲みやすい温度になっていると思うよ。 |
ジョージ | お、そうだった! いただきまーす! |
ジョージ | んん……うまい! |
エルメ | そう。ならよかった。 実を言うと、俺は味に疎いんだけど…… 完璧な淹れ方をした方が、やっぱり美味しく── |
ジョージ | 違いはよくわかんねぇけど! |
エルメ | は……? |
ジョージ | オレ、インスタントでも いっつも「うまい!」って思うもんなー。 |
ジョージ | いつものコーヒーとはまたちょっと違ってて、 こっちも美味い! ありがとな、エルメ! |
エルメ | …………。 ど、どういたしまして……。 |
ファル | ──偵察は進んでいますか? |
---|---|
エルメ | ああ。予想通り、アウトレイジャーの数は、 そこまで多くなさそうだね。 |
ファル | こちらも同様です。 しかし、あちこちに散らばっているのが面倒ですね。 やるなら一気に片付けたいものですが。 |
ファル | 彼ら、まともな意思疎通が図れないとはいえ、 戦闘できる以上、物音や人には反応するんですよね? それなら──。 |
エルメ | ……どこかに爆薬を仕掛けて、 それを囮にアウトレイジャーを集める? |
ファル | ええ、それがいいと思います。 ふふっ……あなたとは意外に、気が合いますね。 |
エルメ | うん……確かにそうかもね。 |
エルメ | さてと。作戦はこれで問題ないかな? |
---|---|
ファル | ええ、万全です。 |
エルメ | それはよかった。 しかし……まさか、君と一緒に戦う日が来るとはね。 |
エルメ | ファル。 君がドイツ軍で先に採用されていたら…… 俺は存在していなかったかもしれない。 |
ファル | …………。 仮定の話をしたところで、無益でしょう。 現にあなたは、こうして私の目の前にいる。 |
エルメ | ああ。だけどふと、考えてしまったんだ。 僕はある意味で君に恩があり…… だけど同時に、君は俺の驚異でもあったんだ、って。 |
エルメ | だから、君と組んで戦うというのは、 不思議な感じがするよ。 なんだか因縁じみているというか……。 |
ファル | そうですか? 因縁なんて……人間の考えたこじつけです。 私たちに、そういったものは無縁では? |
エルメ | ……! |
エルメ | ……ははっ。そうだね、君の言う通りだ。 俺は貴銃士、考える鉄。 なのにいつの間にか、毒されていたみたいだ。 |
エルメ | ……うん。 やっぱり君とは、仲良くやれそうな気がするよ。 |
ファル | おかしなことを言いますねぇ。 銃が仲良くなっても、なんの意味もないでしょう。 |
エルメ | そうだね、ふふっ……。 |
エルメ | それじゃあ、 そろそろ『銃』の仕事に取り掛かろうか。 |
ファル | ええ。 武器としての本領発揮と参りましょう。 |
エルメ | (ん? あれは……) |
---|---|
ジーグブルート | おい、まだかよ。 |
ゴースト | もうすぐ、できる……。 |
ジーグブルート | はぁ? 遅すぎねーか? お前、ちゃんと手動かしてんのかよ。 |
ゴースト | …………。 |
エルメ | 何を作ってるんだい? |
ゴースト | ジグがヴルストを持ってきた……から、 カリーヴルストでも作ろう、と思って……。 |
エルメ | ああ、どいつの大衆食の定番だね。 ザワークラウトで野菜が摂れるし、 マッシュポテトは炭水化物。 |
エルメ | ファストフードとはいえ、 栄養バランス的には悪くない。 だからこそ人々に親しまれているのかな。 |
ジーグブルート | 御託はどうでもいい。 俺は腹が減ってんだよ。 さっさと皿に盛れ。 |
ゴースト | はい……できた。これでいい、だろ。 |
ジーグブルート | おう、美味そうじゃねぇか。 |
エルメ | ……待って。 カリーヴルスト単体で食べる気? |
ゴースト | それは……。 |
ジーグブルート | カリーヴルストなんだからよ、 カリーヴルストがありゃ十分だろうが。 |
エルメ | まったく……ジグは本当にお馬鹿さんだね。 付け合せはただの飾りじゃないんだよ。 意味があって、一緒に食べる文化が根付いているんだ。 |
エルメ | ……仕方ない。俺も手伝うから、 ヴルストが冷めないうちに用意するよ。 |
エルメ | まずはザワークラウト。 冷蔵庫に入っているから持ってきて、ゴースト。 |
ゴースト | あ、ああ……わかった。 |
ジーグブルート | はぁ? どうでもいいから、 さっさと作って食わせろよ……。 |
エルメ | 文句言ってないで、ジグはパンを切る。 マッシュポテトを作る時間はないから、 炭水化物はパンで代用しよう。 |
エルメ | ところで……ジグがヴルストを持ってきたと言っていたけど、 どこで入手したんだい? |
ジーグブルート | あ? ドライゼの野郎が 部屋にしこたま溜め込んでたのをかっぱらってきた。 |
エルメ | ……えっ。 |
ゴースト | 何しと……してるんだ、あんた……。 |
ドライゼ | ジーグブルート! どこにいる!? |
ゴースト | あーあ……。 |
ジーグブルート | けっ。 だからさっさと食って証拠隠滅したかったのによ……! |
エルメ | はぁ……。 本当に、救いようのないお馬鹿さんだね……。 |
エルメ | ──それじゃあ、ドライゼ。 いただきます。 |
---|---|
ドライゼ | ……ああ。 |
エルメ | そうだ、乾杯もしておこう。 〇〇はオレンジのソーダだね。 今日はドライゼの奢りだから、どんどん食べるといい。 |
主人公 | 【自分まで申し訳ない】 【本当にいいの?】 |
ドライゼ | 気にするな。実技訓練体力三番勝負の敗者が 勝者に食事をおごると決めたのは俺とエルメだ。 正々堂々と競って破れた以上、文句はない。 |
エルメ | さすがドライゼ、潔いね。 |
ドライゼ | それに、勝ち誇ったエルメの面を眺めながら 食事をするより、あなたが同席してくれた方が、 俺としても気が休まるというものだ。 |
エルメ | だそうだよ。 お金のことなら心配要らない。 俺たちはドイツ支部で役職についてるからね。 |
ドライゼ | ……うまい。 ビールもヴルストも種類が多くて飽きないな。 いくらでも腹に入りそうだ。 |
---|---|
エルメ | 俺には細かな違いはよくわからないけど…… ドライゼは食べ比べ飲み比べができて楽しそうだね。 |
ドライゼ | ん……? エルメ、ジョッキが空だぞ。 |
エルメ | ドライゼこそ。 そろそろ次を頼んだ方がいいんじゃないかい? |
主人公 | 【ほ、ほどほどにした方が……】 【そんなに飲んで大丈夫?】 |
エルメ | これくらい平気だよ。 |
エルメ | ……あれ。お店の奥は舞台になってるんだ。 ちょうどパフォーマンスが始まるみたいだね。 あの格好は……フラメンコかな。 |
ドライゼ | ……行くとしよう。 |
主人公 | 【……!?】 |
ドライゼ | 混ぜてくれ。 |
---|---|
ダンサー | え……? |
演奏者もダンサーも店の客も、
突然の乱入に困惑の表情を浮かべる。
しかし──。
ドライゼ | オ・レィ!! |
---|---|
ダンサー | ああ! なんて激しい情熱なの! 踊りが止まらないわっ!! |
ドライゼが華麗にフラメンコを踊り始めると、
店内は一気に盛り上がりを見せた。
客の男性1 | なんだあの兄ちゃん! ただもんじゃねぇな! |
---|---|
客の男性2 | ヒュ~! いいぞいいぞー! |
主人公 | 【止めた方がいいのかな……】 【プロのダンサーみたいだ……】 |
エルメ | ふふ、今回も楽しそうに踊ってるね。 |
エルメ | それにしても……ぷふっ。 面白い歌詞だな……。 |
主人公 | 【歌詞……?】 【なんて言ってる?】 |
エルメ | 「筋骨隆々の乱入者よ、 ああ素晴らしき軽やかなステップだ。 俺たちの仲間にならないか?」だって。 |
エルメ | フラメンコって、曲はある程度定番があるんだけど、 歌詞はその日その場の即興で 適当なことを歌うことも多いんだ。 |
エルメ | 今回は、ドライゼへ向けた熱烈な勧誘ソングだね。 |
客の女性 | お兄さん、スペイン語がわかるんだ。 歌詞を聞き取れるなんてすごい! |
エルメ | それはどうも。 |
主人公 | 【……!】 |
エルメ | なに、マスターまでそんなに驚いた顔をして。 俺が昔、スペインにいた時期もあるって話は、 したことがなかったっけ? |
エルメ | ああ、そういえば、 俺のコードネームの由来もスペイン語なんだよ。 |
エルメ | DG3の参考になった「シトメ・ライフル」のシトメ、 スペイン語で鉄を意味する「hierro」…… これを合わせてイエロメ、エルメってね。 |
主人公 | 【そうだったんだ】 【教えてくれてありがとう】 |
エルメ | どういたしまして。 |
エルメ | ……ん? |
客の男性1 | おおーいっ! 兄ちゃん、どうした!? |
ドライゼ | …………。 |
エルメ | まさか、踊り狂ったあげく舞台上で寝るとは。 いやぁ、相変わらずドライゼの酒癖は面白いね。 ははっ! |
エルメ | さてと。十分堪能したことだし、 困った酔っぱらいを抱えて帰ろうか。 |
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