これは遠い記憶の欠片。ドイツでの、彼らの物語の前日譚。
ジーグブルートは、行き場のない失望と怒りを胸に独り、街路の夜に吠える。
手を差し伸べる者は、今は居ない。
「あんな人間、知らねぇんだよ。俺は──」
知らなかったんだ。俺は、ちゃんと役に立ちたかっただけなんだ。
──戦場も人生も、結局最後に物を言うのは運である。そして……その銃は、酷く、運が悪かった。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
〇〇が『おじさん』に会うために
ドイツへと向かうことになる数週間前──
連合軍ドイツ支部にて。
召銃されたばかりのジーグブルートは、
ドイツ支部の上層部の人間から、
貴銃士とその任務についての説明を受けていた。
ジーグブルート | アウトレイジャーだかかんだか知らねぇけど、 そいつらを撃ち殺せばいいんだろ? そんなのどうってことねぇよ。楽勝だ。 |
---|---|
中将 | 実に頼もしい。 その様子なら、すぐにでも戦場へ向かえそうだな。 |
ジーグブルート | おう、俺はいつだって戦えるぜ。 早くこの身体で暴れまわりてぇしな。 それで、どこに向かえばいいんだ? |
中将 | 少し待ってくれ。 君が戦線に加わるのは、 彼らとの顔合わせが済んでからだよ。 |
ジーグブルート | あ? “彼ら”? |
中将 | ……ああ、ちょうど来たみたいだね。 早速紹介しよう。 |
ドライゼ | 中将殿、失礼する。 ……ん? 新たな貴銃士か。 |
エルメ | その銃は……DG36。 俺──DG3の後継として作られた銃だね。 |
中将 | ドライゼ君、エルメ君、紹介しよう。 彼はDG36。 コードネームはジーグブルートに決定した。 |
エルメ | よろしくね、ジーグブルート。 改めて、俺はDG3──コードネームはエルメだよ。 そして、こっちがドライゼ。 |
中将 | ドライゼ君は、プロイセンが世界に先駆けて開発した、 後装式ボルトアクション銃だ。 ドイツ帝国統一は、彼なしではならなかっただろう。 |
ジーグブルート | へぇ……そうかよ。 だが、今となっては時代遅れの無用の長物だろ。 図体が立派なだけのでくのぼうだ。 |
ドライゼ | ……! |
中将 | ジーグブルート君、口を慎むように。 ドライゼ君は、師団級の指揮権を持つ特別司令官だ。 君の上官なんだよ。 |
ジーグブルート | はぁ? なんでこいつが俺の上官なんだ。 軍は実力主義であるべきだろ。 俺が役立たず野郎の命令を聞く道理はねぇ。 |
ドライゼ | ──エルメ。 |
エルメ | ああ、はいはい。 ジグ、ちょっと手を出しなさい。 |
ジーグブルート | 手? ……ほらよ。 |
唐突な言葉に戸惑いつつ、
エルメの穏やかな雰囲気に気を緩めて、
ジーグブルートは手を差し出す。
その手首をがっちりと掴んだエルメは、短鞭を取り出すと、
ジーグブルートの手の甲をぴしゃりと鞭打った。
ジーグブルート | ……っ!? 痛ぇな! いきなり何しやがる! |
---|---|
エルメ | ジーグブルート。 ……いや、今の君に、この名前は過分だね。 ジグでいいや。 |
エルメ | 軍についてさっき何か言っていたけれど、 一番大切なことを忘れたのかな? 軍は絶対的縦社会。指揮系統を乱すことは許されない。 |
エルメ | 規律違反をする者は厳しく罰せられる。 今日は、召銃されたばかりだから手加減したけど、 次からはもっと重い罰になるからね。 |
ジーグブルート | いきなりぶっ叩かなくても、それを最初に言えば── |
反発しかけたジーグブルートだったが、
エルメは未だ彼の手を掴んでおり、
反対の手で軽く鞭を振っているのを見て、口を閉じた。
ドライゼ | ……何を喚こうと、貴様が貴銃士になったばかりで、 ドイツ支部の新入りであるという事実は変わらん。 文句は成果を出してから言え。 |
---|---|
ジーグブルート | (こいつら……! 俺をこんな風に扱ったこと、後悔させてやる……!) |
波乱の顔合わせから数日後。
アウトレイジャーによる襲撃の一報を受け、
ジーグブルートは初陣を迎えたのだった。
ドライゼ | 敵陣地はこの先にある。 アウトレイジャーの襲撃も予想されるため、 まずは斥候を── |
---|---|
ジーグブルート | んなチンタラしてられっか。 アウトレイジャーなんか、俺1人で十分だ! |
ドライゼ | おい、待て! ジーグブルート! 単独行動をするな! 奴らは通常の攻撃では── |
ジーグブルート | な……なんだよ、こいつ!? |
アウトレイジャー | 殺ス……殺ス……。 |
ジーグブルート | (撃っても撃っても、手応えがねぇ! 囲まれちまった……このままじゃ──!) |
??? | なんということだ! テストでは優秀だったというのに、 そんな欠陥があるだなんて……何かの間違いだ! |
---|---|
??? | こんな失敗作を相棒に戦地に送り込まれたら、 助かるもんも助からねぇっての……! |
ジーグブルート | ──っ! 俺は失敗作なんかじゃない! 誰にも役立たずだなんて言わせねぇ……! |
---|---|
ジーグブルート | それを証明するためには、 勝って勝って勝ち続けるしかねぇんだ……! |
ジーグブルート | そのためなら……なんだってやってやる! どんな奴だって、踏み台にしてやる! |
ジーグブルート | 俺に、力を……寄越せ! |
ジーグブルート | ──絶対非道! |
アウトレイジャー | グァァァァッ! |
ジーグブルート | ……! ははっ! どうだ、俺の力は……! お前ら全員──始末してやる! |
戦いの後──ジーグブルートは勲章として
アウトレイジャーが消滅したあとに残った、
壊れた銃の一部を持ち、意気揚々と拠点に帰還した。
兵士 | ……! ど、どうぞお先に! |
---|
ジーグブルートの戦果を耳にした兵士らが、
怯えながらさっと道を開けていく。
ジーグブルート | ふん……。 おっ。ここにいたのかよ、ドライゼ。 |
---|---|
ドライゼ | ……! |
ジーグブルート | いいもんやるよ。手を出しな。 |
しぶしぶと差し出されたドライゼの手の上に、
ジーグブルートは“戦利品”
──血や泥で汚れたものもある、銃の破片を乗せた。
ジーグブルート | あいつら、死んだら消えちまってよぉ。 けど、このパーツの数だけ俺がぶっ倒した。 これで俺の優秀さがよくわかっただろ? お前もこれからは── |
---|---|
ドライゼ | ……! 貴様っ……! |
ジーグブルート | がっ……!? |
突如ドライゼに殴られ、
ジーグブルートの身体は壁に叩きつけられた。
ジーグブルート | てめ……いきなり何しやがる! |
---|---|
ドライゼ | 二度とその汚らわしい姿を私に見せるな! いいな!! |
ジーグブルート | …………。 は……? なんだよ、今の……。 ……汚らわしい、だと? この俺が……? |
ジーグブルート | ……っ! なんなんだよ、あいつは! |
ドライゼがジーグブルートに見せた強い拒絶は、
2人の間に決定的な溝を作った。
──それから、少し経った頃。
ジーグブルート | (あーくそっ! どれだけ暴れても気が晴れねぇ……! もっと、もっと俺に戦わせろ……!) |
---|---|
ドライゼ | 本日のアウトレイジャー殲滅における作戦だが、 ジーグブルート、お前には──。 |
ジーグブルート | うるせぇ。 俺に指図するな……! |
ドライゼ | 待て、ジーグブルート! |
ジーグブルートはドライゼの指示を無視して突っ込み、
八つ当たりのように絶対非道の力を振るって
敵を蹴散らしていった。
ドライゼ | 命令を無視するな! |
---|---|
ジーグブルート | ふん。全員ブッ殺せば文句ねぇだろ? |
エルメ | はぁ。君も懲りないね。 |
ジーグブルート | ……うるせぇ。 何かにつけては鞭で打ちやがって…… くそっ、どいつもこいつも、イライラすんだよ……! |
ジーグブルート | どけぇっ! |
アウトレイジャー | 殺ス……撃ツ……。 |
兵士1 | くっ……! |
ジーグブルート | 足止めご苦労だな、サコ盾ども! あとは俺が引き受けてやる! |
ジーグブルート | ──絶対非道! |
兵士1 | ……! さすが貴銃士……! |
兵士2 | ああ、なんて力だ……! |
ジーグブルート | (そうだ、そうやってもっと俺を称えろ。 認め、崇めろ……!) |
アウトレイジャー | ギャァァァァッ! |
ジーグブルート | ハッ、楽勝。 あと数匹で殲滅だな──んっ!? |
ジーグブルート | な、なん……だ……!? |
ジーグブルートは突然、
体から一気に力が抜けるような、奇妙な感覚に襲われた。
ジーグブルート | (身体が……消える……!?) |
---|
ジーグブルート | (ん……? 俺、は……) |
---|---|
??? | …………。 |
目覚めたジーグブルートが周囲を見回すと、
マスターの後ろ姿が目に入った。
ジーグブルート | (……! 思い出した、あのポンコツ……!) |
---|---|
ジーグブルート | おい、てめぇ! さっき、戦いの途中で力の供給を止めやがっただろ! どういうつもりだ! |
青年 | ……! |
肩を掴まれ振り向いた男は、
ジーグブルートが知るマスターの顔ではなかった。
ジーグブルート | ……あ? お前……誰だ。 |
---|---|
青年 | 私は、君の新しいマスターだ。 |
ジーグブルート | は……? 「新しい」? じゃあ、前の奴はどうしたんだよ。クビか? |
ドイツ軍上官 | いや……先ほどまでの君のマスターは、死亡した。 君が銃に戻ってしまったのはそのせいだ。 |
ジーグブルート | ……死んだ? |
ドイツ軍上官 | ああ。彼は最期まで見事に勤めを果たしたよ。 君が大きな戦果を挙げたからには、 彼も1人の軍人として、満足していることだろう。 |
ジーグブルート | (……流れ弾にでも当たったのか? 鈍くせぇやつ) |
ジーグブルート | チッ、使えねぇな……。 |
ジーグブルート | で、お前は前のヤツよりマシなんだろうな? |
青年 | 無論だ。見くびってもらっては困るぞ。 私なら間違いなく、 君が十二分に力を発揮できるように力を尽くせる。 |
ジーグブルート | へぇ、せいぜい頑張れよ。 |
ジーグブルート | (マスターが死のうが変わろうが…… 俺が戦えりゃそれでいい) |
ジーグブルートのマスターが代わってから、
しばらくが経ったころ──。
エルメ | やあ。 今度のマスターとは、上手くいってるみたいだね。 |
---|---|
ジーグブルート | ふん……まぁ、前の奴よりずっといいんじゃねぇか。 前のはあっさり死ぬような、使えねぇ奴だったからな。 |
ジーグブルート | けど、アイツは新米ながらなかなか使えるぜ。 俺の強さを理解してるし、俺の意見を一番に考える。 そういうところも悪くねぇ。 |
ジーグブルート | 俺の力になれるなら命も惜しくない、だとよ。 下僕としてまあまあ有用ってわけだ。 |
エルメ | そう。 ……今度は長続きするといいね。 |
ジーグブルート | ──絶対非道! |
---|---|
ジーグブルート | (……っし! 今日も絶好調だ!) |
アウトレイジャー | 殺ス……。 |
ジーグブルート | てめぇで最後だな。 すぐ楽にしてや──は? |
最後の敵に向かって地を蹴った瞬間、
ジーグブルートは
再び身体の輪郭がぼやけていくのを感じた。
ジーグブルート | (この感覚……またかよ! くそっ……!) |
---|
ジーグブルート | …………。 |
---|---|
ドイツ軍上官 | 目覚めたか。 |
??? | あ、あの……。 |
ジーグブルート | ……あいつは、死んだのか。 |
ドイツ軍上官 | そうだ。以後は彼が新たなマスターになる。 |
新しいマスター | どうぞ、よろしくお願いします……。 |
ジーグブルート | チッ……どいつもこいつも……。 |
ジーグブルート | …………。 |
---|
青年 | 私は、君の新しいマスターだ。 |
---|---|
青年 | ジーグブルート、よくやった……! 君は……私の誇りだ! |
ジーグブルート | …………。 |
---|---|
エルメ | おや。大丈夫かい? またマスターが代わったらしいね。 |
ジーグブルート | ああ。あいつはまあまあ馬が合うし、 見どころがある奴と思ってたんだが…… まさか戦場でコロッと死ぬような男だったとはな。 |
ジーグブルート | 俺も、まだまだ見る目が足りなかったってことか。 次のも次ので、弱そうな奴だしよ……。 |
エルメ | ん? ちょっと待って。 ジグ、君……彼が戦いの中で死んだと思ってたの? |
ジーグブルート | あ? 他にどんな理由があんだよ? |
エルメ | いや、だって──彼を殺したのは君でしょ。 |
ジーグブルート | ……は? 何言って……。 |
エルメ | 絶対非道の力はどこから湧いていると思ってたんだい? 貴銃士自身の力ももちろんあるけど…… その源は、マスターの生命力だ。 |
ジーグブルート | はっ……!? |
エルメ | 貴銃士のマスターの任についたものは、 戦闘で命を落とさないように、 拠点で待機するのが原則になっている。 |
エルメ | それなのに彼が死んだのは、 君が彼の命を食いつくしたからだよ。 絶対非道とは、そういうものなんだ。 |
エルメ | まあ、マスター候補はいくらでもいるみたいだし、 いつどこでどんな死に方をするかわからない、 遺体も回収されるかわからない兵士よりはマシかもね。 |
エルメ | とはいっても、兵の犠牲は少しでも少ない方がいい。 マスター人員の無駄遣いはしないようにね。 それじゃあ。 |
ジーグブルート | (絶対非道の力を使えば使うほど、 マスターの生命力を奪って……) |
ジーグブルート | 俺が、あいつを──。 ……っ! |
ジーグブルート | (……んな重く考える必要ねぇ。……考えるな! あいつらは……マスターは『消耗品』なんだ……) |
ジーグブルート | (エルメの言う通り、この俺が十全に戦えるなら マスターが死のうが構わねぇだろ……) |
ジーグブルート | (考えるな……考えるな……! ……考える、な……) |
時は流れ……
ジーグブルートが士官学校に来てからのこと。
ジーグブルート | (テキトーに歩いてきたが……。 どこにでもあるんだな、こういう場所は) |
---|---|
ジーグブルート | (暗くてじっとりしてて……あいつを思いだす。 ……俺に冷たい目を向けた、あいつを……) |
ジーグブルート | チッ……! |
スケレット | お前と遊ぶの、飽きちったなー。 だってさぁ……。 |
---|---|
スケレット | お前、つまんねぇんだもん。 |
ジーグブルート | ……ッ! |
---|
ジーグブルートは、苛立ちに任せて
路上に落ちていた瓶を蹴り上げる。
その音を合図に、暗がりから男たちが姿を現した。
男1 | へぇ。ガタイがいい兄ちゃんじゃねぇか。 腕っぷしに覚えがありそうだが…… 俺たちのテリトリーになんの用だ? |
---|---|
男2 | うっかり迷い込んだ、なんて言い訳はなしだ。 余所者にずかずか入ってこられると示しがつかねぇ。 悪気がないってんなら、せめて誠意を見せてもらおう。 |
ジーグブルート | ……るせぇな。 てめぇらの相手をしてやる気分じゃねぇんだよ。 失せろ。 |
男1 | は? おいおい、先に掟を破ったのはそっちだろ? その上デカい顔されたら、こっちも黙ってられねぇ。 |
男2 | 穏便に済ませようとしてる間に大人しく従えば、 痛い目見ずに済むのによ。 |
ジーグブルート | …………。 |
男1 | おい、聞いてるのか? 最後のチャンスをやるって言ってんだ。 なんとか言ったらどうなんだ? ああ? |
男2 | なんだぁ? ビビッて口もきけなくなったか。 強そうなのは見掛け倒しか? ハッ、つまんねぇ奴だな。 |
ジーグブルート | ……! てめぇら……調子に乗ってんじゃねぇ。 |
男1 | おお、やっと喋っ……ぐぁっ!! |
男2 | ……! てめぇ──うぐっ!? |
ジーグブルートの拳は、一撃で男たちを沈める。
しかし、ジーグブルートの動きは止まらず、
倒れ込んだ男たちを殴り続ける。
ジーグブルート | さっきなんかうだうだ言ってたけどよォ、 弱すぎんだろ、お前ら。 |
---|---|
男1 | うっ、ぐっ……! |
男2 | こんな、はず……! ごふっ! |
ジーグブルート | ──ザコが。 |
ぐったりとしてぴくりとも動かない男たちを見下ろし、
ジーグブルートは懐から取り出した煙草に火をつけた。
その時、男の1人が、かすれた声で微かに呟く。
男2 | ば、化け物……。 |
---|---|
ジーグブルート | へぇ、俺が? ……ハッ、口だけは一丁前じゃねぇか。 |
ジーグブルート | てめぇの言う通りだ。俺は人間じゃねぇ。 そんな俺に逆らったらどうなるか──。 |
ジーグブルート | その足りない頭に、刻み付けな。 |
男2 | な、何す……やめろっ、やめてくださ……! うわぁぁぁぁっ! |
ジーグブルート | ハハハッ……! |
ジーグブルート | (そうだ……『あいつ』にも思い知らせてやる。 あいつは俺の獲物だ……) |
ジーグブルート | 絶対に殺してやる……覚悟してろよ。 |
ジーグブルート | あ? 誰だ。 |
---|---|
主人公 | 【いるかな】 【今、少し大丈夫?】 |
ジーグブルート | ……? 〇〇か。 まぁ、いいけど。何の用だ。 |
ジーグブルート | ……ん? お前、なんで植木鉢なんて抱えてんだ? |
主人公 | 【これをジーグブルートに託したい】 【しばらく、観葉植物の世話をお願いしたくて】 |
ジーグブルート | は? どういうことだよ。 |
ジーグブルート | ……あ、そういえば、 今日からしばらく任務に行くとか言ってたか。 |
ジーグブルート | 事情はわかったが、なんで俺に任せる。 植物の世話なら、もっとふさわしいヤツがいるだろ。 |
主人公 | 【ジーグブルートはまめだから】 【ちゃんと世話してくれそうだと思って】 |
ジーグブルート | はぁ!? いや、んなこと言われても……。 |
その時、廊下の奥の方から、
任務に同行する貴銃士が〇〇を
呼ぶ声が聞こえた。
主人公 | 【もう時間だ! 行かないと!】 【突然ごめん! あとはよろしく!】 |
---|---|
ジーグブルート | おいコラ! 〇〇! …………。 |
困惑するジーグブルートの手の中には、
〇〇から差し出された
観葉植物が収まっている。
ジーグブルート | どうすんだよ、これ……! |
---|---|
ジーグブルート | (急に押し付けてきやがって…… 俺は何もしねぇからな!) |
──翌日。
ジーグブルート | …………。 |
---|---|
ジーグブルート | あーくそっ! |
ジーグブルートは盛大な溜息とともに立ち上がると、
部屋にあったグラスに水を入れ始めた。
そして、観葉植物に、その水をゆっくりとかけてやる。
ジーグブルート | ……枯れて文句を言われたら、めんどくせぇからだ。 それだけだからな。 |
---|
それから数日後──毎日水をやっていた観葉植物は
なぜか日に日に萎れていってしまった。
ジーグブルート | なんでだ? 水が足りねぇのか? |
---|
さらに水をやるようになった結果──
枯れ果てた鉢植えだけが、
ジーグブルートの手元に残った。
ジーグブルート | (なんでこうなるんだよ……!?) |
---|
〇〇の顔を思い浮かべながら、
ジーグブルートは意味もなく
部屋の中をうろうろし始める。
ジーグブルート | いや……別に今さら…… 他人にどう思われたって構わねぇだろ……。 |
---|---|
ジーグブルート | …………。 そもそも、俺に預けたあいつが悪いんだ……。 |
そうして、日々は過ぎ──
寮へと戻ってきた〇〇に、
ジーグブルートは渋い顔で観葉植物を差し出す。
ジーグブルート | ……ほらよ。 |
---|
すっかりしおれきった観葉植物を見て、
〇〇の表情が陰った。
ジーグブルート | ハッ、なんだよその顔は? 俺に任せるからこうなるんだ、馬鹿が。 |
---|
観葉植物をじっと見つめていた
〇〇の目が、気持ちを切り替えるように
ジーグブルートへと向けられる。
主人公 | 【お世話してくれて、ありがとう】 |
---|---|
ジーグブルート | ──はぁ!? おい、お前これがちゃんと見えてんのか? 枯れてんだぞ!? |
ジーグブルート | ほ、ほんとに世話できてりゃ、 こんな── |
主人公 | 【土が湿ってる】 【ちゃんと水をあげたりしてくれたんだ】 |
ジーグブルート | そんなんじゃねぇ、俺は……。 |
主人公 | 【枯れたのは残念だけど……ありがとう】 |
ジーグブルート | ……!? な、何言ってんだよ……。 |
ジーグブルート | マトモに世話できなかった奴に礼を言うとか…… どうかしてんじゃねぇのか。 |
ジーグブルート | ──出ていけよ。 これ以上お前なんかと、話してられるか。 |
〇〇を追い出し、
ジーグブルートは閉じた扉に拳を打ち付ける。
ジーグブルート | …………。 あんな人間、知らねぇんだよ。 俺は──……。 |
---|
Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.
まだコメントがありません。