これは彼がまだ目覚める前と、目覚めた後の日常譚。
主人の信頼に報いたいのに、残念な失態を犯したマークス。
仲間の『助言』で真理に気付き、彼は首輪を入手して──?
「マスター! こうすればずっと一緒だ!」
リードの長さをrと置く。
首輪をつけた俺が、マスターから距離rの円周上を永遠にぐるぐる回る点Pになれれば……
うん、ナイスアイデアだ。ワン。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
マークス | 目的地はこの川沿いを進んだ先だ。 マスター、疲れてないか? |
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主人公 | 【大丈夫】 【まだまだ行ける】 |
マークス | そうか。じゃあ、行こ── |
マークス | ……うおっ!? |
濡れた地面に足を取られ、
マークスの身体が川の方へと投げ出される。
主人公 | 【危ない!】 |
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マークス | ──ッ!! |
??? | ラッセル教官……! |
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??? | 大変です! 〇〇が川に……! |
マークス | ──大丈夫か!? マスター!! |
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主人公 | 【ゲホッ、ゴホッ!】 【だ、大丈夫……!】 |
マークス | 俺を庇って、川に落ちるなんて……! |
マークス | 落ち着いて、ゆっくり深呼吸してくれ。 |
咳き込む〇〇の背中を、
マークスが優しくさする。
マークス | …………。 この状況、なぜか覚えがある……。 |
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マークス | いつか、前にも……。 ……そうだ……! あれは……。 |
それは、マークスがまだ
貴銃士として目覚める前のこと──。
生徒1 | ふぅ……。 今日の訓練もハードだなぁ……。 |
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主人公 | 【あと少しで終わりかな】 【最後まで頑張ろう!】 |
生徒1 | ああ、そうだな。 毎日頑張ってる分、力もつくはずだし……あっ!? |
躓いてよろめいた同期の士官候補生の体が、
図らずも〇〇にぶつかり、
川の方へと投げ出されてしまう。
主人公 | 【……うわっ!!】 |
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その時とっさに〇〇がとった行動は……
手に持っていたUL96A1を、
地上へ向かって投げ飛ばすことだった。
マークス | 思い出したぞ……! あの時マスターは、 俺が川に落ちないように、かばってくれた……! 今と同じように……。 |
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マークス | こうして、俺が人の形を得ても…… マスターは迷わず助けようとしてくれるんだな。 |
マークス | ……心臓のあたりが、なんだかぽかぽかする……。 これが、嬉しいという気持ちなんだろうか。 |
マークス | だが……。 |
マークス | 銃を庇ってマスターが傷つくのは、本末転倒だ。 万が一マスターがいなくなってしまったら、俺は……。 |
マークス | 今は、あの時とは違う。 俺は使われるだけの銃じゃなくて、 腕も足も動かせる貴銃士になったんだ。 |
マークス | 川へ落ちたとしても、自分で泳いで 浮かび上がることもできるようになった。 |
マークス | だから…… マスターが危険な目に遭う必要はないんだ。 |
主人公 | 【ごめん】 【わかった】 |
マークス | ……ああ。 覚えておいてくれ。 |
マークス | そして……いつまでも、俺と共にいてくれ。 マスター。 |
マークス | マスター、今日の合同訓練だが…… 俺と組んで、スポッター役をしてくれないか? |
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主人公 | 【もちろん!】 【任せて】 |
マークス | ……ありがとう。 気を引き締めて頑張る……! 今回はスナイパーが任務成功の要だからな。 |
マークス | 俺の背中は、マスターに任せるぞ。 |
マークス | …………。 そろそろ、他のチームの司令官が こちらに……来たか! |
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主人公 | 【標的までの距離と角度を測定!】 【風向きと風速を確認!】 |
マークス | 了解。 狙撃のタイミングを合図してくれ。 |
マークス | …………。 |
主人公 | 【撃て!】 |
マークス | ……! |
主人公 | 【お疲れ様!】 |
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マークス | 無事に訓練目標を達成できたのは、マスターのおかげだ。 一緒に組めて、誇らしく思う。ありがとう。 |
マークス | まぁ、スナイパーとしても優秀なスナイパーが スポッターをしてくれたんだから、成功するのは必然だよな。 |
マークス | ……なぁ、マスター。 俺は、1つ気になっていたことがある。 |
マークス | 世界中に、スナイパーライフルはいくつもあるだろう。 どうして俺を……UL96A1を選んだんだ? |
主人公 | 【それは……】 |
ある日、士官学校への入学を控えている〇〇の元へ、
正体不明の支援者である『おじさん』から、
手紙と大きな包みが届いた。
厳重な包みを開封すると、
中にはイギリスの狙撃銃、UL96A1が入っている。
そして、同封の手紙には、こう書かれていた。
『スナイパーを目指したいと以前の手紙にあったので、
入学祝いにこれを贈る。スナイパーは厳しい道だが、
君がその夢を叶えられることを祈っている』と。
〇〇は手紙とUL96A1を胸に、
おじさんとこの銃に恥じないスナイパーになれるよう、
努力し続けることを誓ったのだった。
マークス | そうだったのか……。 俺は、マスターの支援者からの贈り物だったんだな。 |
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マークス | マスターのもとに来られて、よかった……。 その援護者にも礼を言ってやりたいものだ。 |
マークス | だが……マスターは知ってるのか? スナイパーは、特殊で──危険な立場だ。 |
マークス | スナイパーは遠くに潜み、ターゲットを密かに狙い、撃つ。 だから恐れられるし、憎まれ、恨まれる。 |
マークス | 捕捉されれば真っ先に狙われ、 捕まっても捕虜としての適切な扱いを受けず即刻処刑になったり、 惨たらしく殺されることもあると、本で読んだ。 |
主人公 | 【……知ってるよ】 【わかってる】 |
マークス | …………。 マスターは、それほどまでに、この世界を……。 |
マークス | ……いや、なんでもない。 |
マークス | もう帰ろう。夕飯が待っている。 |
マークス | (俺は……マスターにはできるだけ安全でいてほしい。 だからできれば……士官学校を卒業したあと…… スナイパーには、ならないでほしい) |
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マークス | (でも、俺をいつまでもマスターに使ってもらいたいし、 ずっと一緒に戦いたいとも思う……) |
マークス | (一方と一方が折り合わない…… これはムジュン、というやつだ) |
マークス | ……感情って、不便だな。 |
連合軍の任務で、ある村へ偵察にやってきた
〇〇、マークス、ライク・ツーの3人。
ここの村人がトルレ・シャフの構成員だという噂があり、
その真偽を確かめることが目的だった。
マークス | …………。 遠目からだと、普通の村にしか思えないな。 |
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ライク・ツー | そりゃそうだろ。 ぱっと見ただけで分かるようなら、苦労はしねぇよ。 |
マークス | マスター、ここは旅人を装うとかして村を見て回って、 真偽を確かめた方がいいと思う。 |
ライク・ツー | 行くなら1人だな。 急に3人で押しかけたら、目立つだろ。 |
主人公 | 【自分が行く】 |
マークス | なっ……! マスターにそんな危ないことをさせられるわけないだろう! |
ライク・ツー | じゃお前が行ってこい。 はい決定、ヨロシク。 |
マークス | ……はぁ? なんでそうなる。 俺には、マスターを守るという使命が── |
ライク・ツー | 1人じゃ偵察もできないって言うなら、 俺が行ってきてやってもいいけど? |
マークス | そういうことじゃない! |
主人公 | 【やっぱり自分が……】 【2人はここで待ってて】 |
マークス | ……! いや、マスターはここにいてくれ。 |
マークス | おい、ライク・ツー。 俺が戻ってくるまでに、もしマスターに何かあったら……。 |
ライク・ツー | いいから、さっさと行け! |
マークス | (くまなく見てまわったが……。 どこも怪しい気配はない。 あの噂は、デマだったようだな) |
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マークス | (よし、早くマスターのところに戻ろう) |
ライク・ツー | …………。 |
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ライク・ツー | …………。 |
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ライク・ツー | …………。 |
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ライク・ツー | おっせぇなあいつ!! 偵察にどんだけ時間食ってんだよ!! |
主人公 | 【探しに行こう】 【何かあったのかも】 |
ライク・ツー | ったく、使えねぇ奴。 見つけたらタダじゃおかねぇ……。 |
マークス | うぅ……うぅ……。 |
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マークス | ここは、どこだっ……! |
マークス | 少し近道しようとしただけなのに……! この森、方向感覚を狂わせる罠でもあるに違いない……! |
マークス | はぁ……マスター……。 きっと今頃、心配してるだろうな……。 |
マークス | (…………。 このまま帰れなかったら、どうすれば……) |
??? | おい!! |
マークス | ……!? |
ライク・ツー | チッ……おい、マークスがいたぞ、〇〇。 |
主人公 | 【大丈夫!?】 |
マークス | マスター……。 本当に、すまなかった……。 |
ライク・ツー | ったく、偵察に行って迷子になるとか、 お前は何歳児だよ……。 無駄な手間かけさせやがって。 |
ライク・ツー | もうこれからはいっそ、迷子紐とかリードでもつけて マスターに持っててもらえよ! お前、犬みてぇだしな。ハッ。 |
マークス | …………。 リード、か……。 |
マークスの迷子騒動から数日──。
〇〇は、放課後に
貴銃士たちの教室へと顔を出していた。
ライク・ツー | ……〇〇? どうしたんだ? |
主人公 | 【マークスはいる?】 【呼ばれて来たんだけど……】 |
マークス | 来てくれたのか、マスター! |
マークス | マスターに、見てもらいたいものがあるんだ。 ほら、これだ! |
ライク・ツー | く、首輪と……リード……!? |
マークス | 俺は首輪をつけるから、 マスターはこのリードを持ってくれるか? |
ライク・ツー | ま、待て! まさかお前、あのときの言葉を真に受けて……? |
マークス | ああ、あんたの言う通りにするのは癪だが、 いい意見だと思ってな。 |
マークス | ペンシルヴァニアに作ってもらった 特製の首輪とリードなんだ。 かなり頑丈だぞ。 |
マークス | こうすればもう、マスターと離れることはない。 いつでもそばにいて、守ることができる……! |
ライク・ツー | マ、マジかよ……。 |
主人公 | 【えーっと……】 【どうしよう……】 |
十手 | あ、あれ……? 俺、疲れているのかな……。 どうもマークス君が、 首輪と紐を持ってるように見えるんだが……。 |
ジョージ | いや、オレにも見えるぞ! マークス……いよいよ犬になるのか?? |
ライク・ツー | おい、〇〇。 このままだとほんとに、リード持たされんぞ……。 |
マークス | どうした、マスター? |
主人公 | 【……リードでも、離れる時はある】 【マークスをそういう風に扱うのは……】 |
マークス | ……? どういう意味だ? |
マークス | 俺は絶対にマスターの元に帰ってくるし、 マスターになら、どんな扱いをされても平気だ! |
主人公 | 【(どうしようか……)】 【(う、受け取るべき……!?)】 |
ライク・ツー | ……クソ、仕方ねーなぁ……。 こうなってんのも半分は俺のせいだし……。 |
ライク・ツー | マークス、あのなぁ──! |
その後、〇〇とライク・ツーがマークスを説得し、
首輪とリードの使用を諦めさせるまで、
3時間かかったのだった──。
マークス | ──マスター、今、いいか? 一息つけるよう、茶を用意したんだが……。 |
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主人公 | 【ありがとう】 【どうぞ、入って】 |
マークス | ああ……。 |
マークス | その……薬草園で俺が育てていた薬草を収穫したんだ。 マスターに、最初に口にしてもらえたらと思って、 ハーブティーをブレンドしてみた。 |
マークス | ……飲んでもらえるだろうか? |
主人公 | 【喜んで】 【どんなハーブティーか楽しみ】 |
マークス | ……ああ! 疲れに効いて、リラックス効果もあるんだ。 いつも懸命なマスターを癒すことができるはずだ! |
説明とともにカップに注がれたハーブティーは──
異臭を放ち、ドブのように濁った色をしていた。
主人公 | 【……!?】 【こ、これは……】 |
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マークス | ちょっと癖のあるハーブだが、薬効は保証する。 さぁ、遠慮なく飲んでくれ! |
主人公 | 【(……奇跡的に、美味しい可能性も……?)】 【い、いただきます】 |
勢いよく一口飲んだ途端、
〇〇は口元を押さえる。
主人公 | 【うぐっ……!?】 |
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マークス | どうだ、マスター? 疲れは取れ──マ、マスター!? |
主人公 | 【あれ……?】 【ここは……?】 |
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マークス | マスター! 気が付いたのか……! |
マークス | 大丈夫か? 気分はどうだ? |
ライク・ツー | コイツが騒ぐから何かと思えば…… 〇〇が青ざめて倒れてて。 |
ライク・ツー | その原因が── 手作りのハーブティーとはな! |
マークス | うぅ……っ!! |
ライク・ツー | 体にいいかどうかの前に、 人間には味覚ってのがあるんだよ馬鹿が! 不味いモン食って平然としてられるヤツは、人間じゃねぇ。 |
マークス | 本当に……すまない……。 マスター…… 俺は、マスターに元気になってほしくて……。 |
主人公 | 【気にしないで】 【大丈夫だよ】 |
マークス | マスター……こんな目に遭わせたのに、 俺に優しくしてくれるのか……。 |
マークス | ……よし! 次からは必ず、まずは自分の口で確認してから マスターに渡すことにする……! |
主人公 | 【次は美味しいのを期待してる】 【また一緒にお茶しよう】 |
マークス | ああ、任せてくれ! 今日から早速ハーブの研究だ! |
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