【墓標に眠る】カール

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解説

カード解説

これは遠い記憶の欠片。オーストリアでの、彼らの物語の前日譚。
孤独な小さな皇帝は、銀杏の花言葉に抱かれて墓標に誓う。
「なあ、君。僕の仮説を聞いてくれ」
「どうやら僕は──消えた方がよさそうだ」

心銃解説:我 隣人を忘れること無し

墓場に立つのは、僕だけでいい。
僕が知る二人は優しすぎるから、ここにいるのは、僕だけでいい。
それでも、孤独な皇帝は、時折何かを確かめるように振り返る。

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

Ep1. 退屈の終焉

これは〇〇たちが
オーストリアを訪れる前──
カールが召銃されてから、まだ数日の頃。

一級の調度品が揃えられた豪奢な私室で、
カールの優雅なティータイムが始まろうとしていた。

メイド本日は、アッサムとウバのブレンドで、
ミルクティーにいたしました。
メイドクッキーはテーベッカライなど3種類。
カール様はチョコレートがお好きだと伺いましたので、
そちらも各種ご用意しております。
カールうんうん、君はなかなか目利きらしい。
これはいいマリアージュが楽しめそうだねー。
メイドもったいないお言葉でございます。
カールさて、早速いただくとしよう。
思考するには糖分補給が必要だからねー。
カールはむ、もぐ……。
……む、これは実に美味いな! 期待以上だ!
メイドお口に合って幸いでございます。
メイドこちらは、わが国で最も歴史を持つ
チョコレート専門店のものでございまして……
創業は16世紀半ば、王室御用達の名店です。
カールほう……16世紀の創業というと、
レオやマルガリータのかつての持ち主たる皇帝夫妻も、
もしかすると口にしていたのかもしれないな……。
メイド……次回のティータイム用に、
また手配させていただきます。
カールうむ。頼んだぞ。君はもう下がりたまえ。
おかわりが必要な時は、呼び鈴を鳴らす。
メイドかしこまりました。
カール……うん、こっちも美味い。
この華やかで芳醇な香り……
ハプスブルクの栄光の歴史すら感じられそうだ。
カールしかし……こう毎日最高級のものばかり食べていると、
あっという間にありがたみが薄れてしまうな。
カールレジスタンスにいた頃は、高級チョコレートなどは
なかなか手に入らず……。
戦いの後に食べるステーキほど格別なものはなかった。

思いを馳せるように目を細め、
カールはショーケースに収められている、銃のままの
マルガリータとレオポルトに微笑みかけた。

カールマルガリータには、この暮らしは退屈だろう。
退屈どころか不快で、あっという間に逃げ出すかもだ。
それはそれで、騒ぎになって面白そうだがねー。
カールやれやれ……君たちを呼び覚ませるのは、
一体いつになることやら。

カール──なぜ、マルガリータとレオポルトを召銃しない?
政府高官我が国が誇る英雄たちに相応しいマスターとなりますと、
各種の厳しい条件を満たす人物でなくてはなりませんから……。
政府高官現在、厳正な選定を行っている最中です。
決まり次第召銃を行う予定ですから、
もう少々お待ちいただけますと……。

カールレオ、マルガリータ……
早く君たちと話がしたいものだ……。
カール2人がいれば、なぜ僕が絶対高貴になれないのか……
その糸口が掴めるかもしれん。
カールあるいは、君たち2人も、
僕と同じような状態になってしまうのか……。

考え込むカールを現実に引き戻したのは、
部屋の外から漏れ聞こえてくる騒ぎ声だった。
厳かな宮殿に似つかわしくない、下品な言葉も混じっている。

カールむ? なんだ、この騒ぎは……。
カールああ……そういえば今日は、
アレが宮殿に届く日だったか。
軍人──失礼いたします。カール様、たった今……。
カールわかっている。
アレが届いたのだろう。
カール地下室の準備はできているか?
軍人はい、既に整っております!
カール(待っていたぞ、“ベルガー”……)

貴婦人なんですって!?
『Belger OAUG』が、返還される……?
紳士1あれは忌まわしい世界帝の貴銃士だった個体ではありませんか!
即刻処分すべきです!
紳士2お気持ちはわかりますが……
カール様、いかがいたしましょう?
カール無論、召銃するべきだ。
紳士1……!
ですが、あまりに危険すぎます!
もし召銃後、暴動など起こされでもしたら……!
カール危険性など承知の上さ。
紳士2……何かお考えが?
カールはっはっは。あの世界帝の貴銃士だったのだぞ?
興味を引かれない方がどうかしていると思うがねー!
貴婦人さ、左様ですか。しかし……
カール様の御身に何かあったら大変ですわ。
紳士2確かに……。
リスクは最小限に抑えるべきかと……。
カールはぁ……まったくお堅くてつまらないね、君たちは。
ならば召銃後、首輪と手錠でもして厳重に檻へと閉じ込めよう。
それならば構わないね?
貴婦人え、ええ……それでしたら……。

カール……ようやく、この退屈な日々もお終いかな。

カールは、最後のチョコレートを口に放り込む。

カール期待しているよ、ベルガー。

Ep2. 狂気

宮殿の地下牢にて、
ベルガーが召銃されてからしばらく……。

カール『絶対非道』──現代銃に限られた力、か……。
カールこの力の存在を知ることができただけでも、
ベルガーを召銃した甲斐はあったかな。
カール(絶対高貴の対のような力なのだろうか。
具体的な違いは、まだわからんな……)
カールさて、どうしたものか……。
……おや?
???口を慎め!
カール今の声は……。

カールが廊下に顔を出してみると、
マスターであるオットー・ヨナスが、
メイドを怒鳴りつけていた。

オットー貴様ら下級国民が、
この私にそのような口をきいていいと思っているのか!
メイド1い、いえ……あの……っ!
メイド2わたくし共は、その……!
カール……?
何事だ。
オットー……! ああ、カール様!
こやつらが、私を侮辱したのです!
オットー目が合った瞬間に、顔をそむけたのですよ!?
まるで私など見たくないというかのように!
オットーしかも私がそのことを指摘すると、
「そんなことは考えていない」などと虚偽を口にした!
オットー自身を守るために、
私を悪者に仕立て上げようとしているのです!
カール……少し落ち着いたらどうだ?
そんなに興奮するなど、君らしく──
オットー……っ!?
そっちのメイド! 貴様、何をしようとした!?
メイド2な、何も……!
オットーしらばっくれるなっ!
オットーカール様、あなたもご覧になられたでしょう!?
あのメイドが今、私に何かを投げつけようとしたのを!
オットーカール様の前で、私を貶めようとしたのです!
カール……!?

蒼白になって震えるメイドの手には、何も握られていない。
明らかに、オットーの言葉は常軌を逸していた。

オットーこの下民が!
私にたてつくとどうなるか、わからせてや──
オットーガハッ!
メイド1ひっ……!?

突然吐血し、
オットーは苦しみもがきつつ床へと倒れ込む。

オットーうぅ……!!
カールオットー!? 大丈夫か!
……っ、これは……!

カールがオットーの上体を起こしてみると──
茨のように蔦を伸ばし、彼の首元にまで侵食している
薔薇の傷が襟元から覗いていた。

カールおい、君は人を呼んでこい。オットーを運ぶぞ!
君は医者を呼べ!
メイドたちはいっ!

メイド1……あの、カール様。
オットー様は自室でお休みになられました。
カールああ……ご苦労だった。
カール……なぁ。さっき彼が言っていた、
「侮辱した」というのは……?
メイド1あの時のメイドは、
誓ってそのようなことはしておりません……!
メイド2ええ、私も見ておりましたが、
彼女はオットー様がいらしたので、
一礼をしただけなのです。
カールそうか……。
あの様子からしてそうだろうと思ったが、
あれはやはり彼の妄言だったというわけだ。
カール(しかし……彼はどうしてしまったんだ?
この僕のマスターとして政府が選出しただけあって、
オットーは優秀で品もよく、前途洋々な好青年だ)
カール(ああやって狂ったように、
人を怒鳴りつける男ではなかった……)
カールそれが、なぜ……。

ふとカールが壁際に目を向けると、ガラスケースの
中に入っているマルガリータとレオポルトの銃が
酷く傷つけられ、血にまみれた状態で放置されていた。

カールなっ……なんだこれは!
誰がレオたちを傷つけ汚した!?
なぜ誰も気づかない! お前たちは何をしている!!
メイド2ひっ……!?
お、恐れながら、傷などどこにも……。
カールそんなわけが──!

再びカールがケースへと視線を戻すと
そこには傷1つない2挺の銃が並んでいる。

カール……っ!?
カール(これは……!?
さっき僕が見たのは、幻覚か何かか……?)
カール(それに……さっきの一瞬、
瞬間的に抑えきれないほどの怒りが沸き上がって、
理性も何もなく怒鳴ってしまった。僕らしくない……)
カール(何が起こっている……?
まるで、僕が僕でなくなるような……)
メイド1カ、カール様……?
カールははっ、いやぁ、すまないねー。
疲れのせいか、起きながら半分眠っていたみたいだ。
さっきのは気にしないでくれ。
カール(貴銃士は、マスターから少なからず影響を受ける。
これは……オットーの状態が悪いからだろう。
きっと、そうだ……)

 

Ep3. カールの答え

オットー・ヨナスの異変から数日、
日々の公務をこなす合間に、
カールは考えを巡らせ続けていた。

カール…………。
カール……イギリスのブラウン・ベスと面会したい。
都合をつけてくれ。
側近え……は、はい!
カール様のお望みとあらば、急ぎ会合の用意をいたします。
カールうむ。決まり次第報告を。
カール…………。

カールは、再び机に向かいながら、
貴銃士を呼び覚ました各国の情報について
詳細にまとめられた資料に視線を落とす。

カール(イギリスのブラウン・ベスと
フランスのシャルルヴィルは
絶対高貴に目覚めたと報告がある。けれど……)
カール僕の推測が正しければ……。

──数日後。
ブラウン・ベスとの会合当日。
政府関係者などが同席する中、2人は対面する。

メイドブラウン・ベス様がご到着されました。
ブラウン・ベスこの度は会合の場を設けてもらい、感謝する。
実に光栄だ。
カール(ん……?)
ブラウン・ベス……?
カール……いや、そういう形式張った話はなしにしよう!
紅茶でも飲んで、気を楽にするといい。
カールところで最近、君の妖精はどうだ?
ブラウン・ベス妖精……? ああ、イギリスの……。
彼女たちなら今日も城の中でよく働いていた、かと。
ふっ……妖精の生態に興味でも?
カール(……! なるほど……)
ブラウン・ベスん……?
どうかしたか……?
カールいや、大したことではない。
では、僕はもう帰るとしよう。用は済んだ。
ブラウン・ベスなっ……!?
紳士カール様!?
貴婦人あの……お言葉ですが、それはあまりにも……。
ブラウン・ベスおい、待──

側近カール様!
本当にお帰りになられるのですか?
カールああ。
言っただろう、もう用は済んだと。
僕の時間は貴重だからねー、無駄にしてはいられない。
カールそれと……至急諜報班を呼んで、
僕の執務室に来させるように。
側近……?
は、はい……。

──数日後。

カールは、諜報班から上がってきた報告書に目を通す。

カールやはり、僕の思った通りだったか……。

『女王とブラウン・ベス、突然の反乱』
『謎の強兵を撃破すると、壊れた銃のみが残る』
並べられた文面に、カールは顔をしかめる。

カールつまりあのブラウン・ベスは……、
そして、絶対高貴に目覚めなかった者の行く末は──
カール(オーストリア政府は、
このことを知っていて僕を召銃したのか?)
???知っていたに決まっている。
情報を隠して、お前を嘲笑っていたんだ!
???裏切り者には死を!
マルガリータやレオが破壊されるぞ……!
カール(──ッ!?
今、僕は何を考えて……!)
カールくっ……!

どこからともなく湧き上がってくる、
憎悪や猜疑心、それらをカールが抑え込んでいると、
突然、執務室の扉が激しく叩かれた。

オットーカール様! この王宮は、陰謀にまみれている!
ここにいれはいけません!
私と外へ逃げましょう!
カールオットー……。
……それも、いいかもしれないな。
だが……。
オットーぐはぁっ……!

オットーは血を吐き、体をふらつかせる。
いつの間にか頬にまで、
薔薇の傷がその茨を伸ばしていた。

カール……!
これも、絶対高貴に至れない貴銃士を抱えた代償か……。
ならば、ここから逃げたところで君は……。
オットーカール様……はやく、行きましょう……!
カール……待て。
その前に、ひとつ聞きたまえ、オットー。
オットー……?
カールどうやら僕は──消えた方がよさそうなのだよ。

その日……
オーストリアの王宮に、一発の銃声が響き渡った。

Ep4. 秋晴れと過去

──ブラウン・ベスとの会合から、数カ月後。

木々が黄金色に染まる秋のとある日、
カールは花束を抱えて、郊外の墓地を歩いていた。

カール…………。

やがて立ち止まり、しゃがんで地面へと手を伸ばす。
地面を覆っている落ち葉を払いのけると、
まだ新しい墓碑が現れた。

そこには「Otto Jonas」と名前が刻まれている。

カール…………。
君には、悪いことをした。
カール僕が消えれば、君は戻れると思ったが……。
薔薇の傷は君の命を食い尽くしたか。
カール…………。
カール果たして、僕は今、正常なのだろうか。
……レオとマルガリータがいたら、教えてくれただろうな。
カールだが、彼らはここには来させない。
……絶対に、呼び出させたりするものか。
カール僕は──1人で戦う。
カール…………。
カール……っ、おっと……。

カールが立ち上がろうとした瞬間、
不意に足元がおぼつかなくなり、大きくよろめく。

カール(また、か……)
カール(近頃、やけに眠りが深くなった……。
僕の身体が、エネルギーをなるべく消費しないように
そうしているのか?)
カール(でも、戦ってもいないし、
食事なら十二分に取れている。
夜にもチョコレートを食べているのに……)
カールまだ、参らなくてはいけない墓が、
残っている、ん、だが……。

足に力が入らなくなり、
カールは墓標の上へと倒れ込む。

カール……眠っている間の僕は、
ちゃんと僕、なんだろうか……?
カール…………。

初秋の暖かな日差しを受けながら、
カールは眠りに落ちた。

手にしていた花束から、風に乗って花びらが舞い、
周囲を色づけてゆく。

カール……すぅ……すぅ……。

穏やかな陽光とそよ風だけが、
小さな皇帝の眠りを見守るのだった──。

Ep5. 頼もしい協力者

時は流れ──カールが士官学校とオーストリアを
行き来するようになってからのこと。

カール来たか。入っていいぞー。
主人公【お邪魔します】

〇〇が室内に入ると、
テーブルに広げられた美しいティーセットを前に、
カールが待ち構えていた。

カールよく来たな。さあ、座りたまえ!
カール……誰にも知られなかっただろうな?
この前みたいに邪魔が入っては困るぞ。
君の犬は警戒心が強く、誰にでも吠えるのだから。
主人公【大丈夫、誰にも教えてない】
【見つからないように、こっそり移動してきた】
カールそうか……ならいいんだ。
とりあえず、君の言葉を信じておこう。
カール──それでは、今日はまず、
君とヴィヴィアンの関係について、改めて教えてくれないか。
主人公【彼女とは、士官学校の入学式の時に──】

ヴィヴィアンとの関係から、
自分がマスターとして目覚めた経緯。

そしてマークス、ライク・ツー、ジョージ、十手との
出会いまでを、〇〇は丁寧に話していく。

カールふむ。なかなか有用な情報がいくつかあったな。
やはり事件の中心にいる者の話は、気づきが多い。
カールご苦労だった。
今日のところは、真面目な話はここまでとしておこう。
カール協力者という関係を継続するためにも、
たまには親交を深めておかねばならないしな。

上質な箱に収められたチョコレートを
〇〇の前に置き、
カールはカップに紅茶を注いだ。

カール……レオが淹れてくれる紅茶が一番美味いんだがね。
こればかりは仕方ない。
カールま、僕も最近、なかなか上手くなってきたよ。
これは、7年前と比べても進歩だねー。ははっ!
そもそもあの頃は、自分で淹れていなかったんだが。
カールさてと……親睦を深める、という目的を考えると、
君ばかりに話をさせるのも考え物だね。
僕の話もしておこうか。
カール……前から感じていたのだがね、君を見ていると、
不思議とレジスタンスのマスターを思い出すよ。
カールこの士官学校にも、絶対高貴になれない古銃が
幾ばくかいるようだが──
レジスタンスも、同じような状況だった。
カールおまけにあの頃は、現代銃を持っているのは世界帝軍だけ。
絶対高貴になれない古銃では、戦力としても致命的でね。
カールけれど、かのマスターは、
そんな貴銃士すらも見捨てず……。
カールいつかは皆、絶対高貴になれると信じて、
甲斐甲斐しく世話をしていたものだ。
僕は、そんなのは無駄な労力だと思っていたが……。
カール最初は頼りなかった連中も、
のちに大輪の花を──
絶対高貴という強大な力を開花させたのだよ。

滑らかに語っていたカールは、
ふと話を止めると、〇〇をじっと見つめる。

カール……君を、かつてのマスターと比べる気はないよ。
そんなことをしても、不毛でしかないからねー。
カールただ……僕は少しだけ、楽しみなんだ。
再び、真にマスターと呼べる人物が現れることが。
その期待を、裏切らないでくれよ?
主人公【もちろん!】
【最大限努力します!】
カールはっはっは! いい返事だ!
それでこそ僕の協力者だな。
さあ、もっとお茶を飲め! はっはっは!

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