【追われる文豪】八九

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解説

カード解説

この国では除夜の鐘もなく、煩悩が消えることもない。
年の瀬迫る洋館で、モダンな服に身を包んだ文豪は一体何から逃れたいのだろうか?
締切、それとも……?

心銃解説:作家の領域-ファンタズマ・ワールド

冷めぬ激情に身を任せ、愛おしき寓話に溺れていたい。
戯れを許さぬ奴等の幻は振り払え。
嗚呼、素晴らしき世界のため……命を……あ~、続きが思いつかねぇ!!

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

 

Ep1. 作家に立ちはだかる壁

夢の印税生活を目指し、
ライトノベルを書くことにした八九と十手。

学園ハーレムものに欠かせない、魅力的な女性キャラクターを、
身近にいる貴銃士たちを女の子に変換して造形するアイディアで、
執筆は順調に進んでいた。

八九うわ、もう日付変わりそうな時間じゃねぇか。
さっさと創作会議始めようぜ。
今日は第2章な。
十手ええっと、カゲローと椿の出会いか……どうしようかねぇ。
まずシャルリーヌの朝の一撃を避けたあとに──
在坂……何をしている?
八九&十手どるぎゃああああああ!?

いつの間にか部屋にいた在坂から隠すように、
2人は慌てて原稿用紙の上に覆いかぶさる。

八九あ、あ、在坂!?
十手あ、あはは、いやぁ、驚いたな。
こんな夜更けにどうしたんだい、在坂君?
八九なんでこんな時間に俺の部屋来てんだよ!
邑田に知られたら俺が怒られるだろ、早く戻れ!
在坂在坂は八九に用があったから来た。
……今、何を隠した?
八九べ、べっつに……ただのレポートだけど。
難しいから、話し合ってただけだ。
……なっ、十手。
在坂…………。
八九(十手、ここは話を合わせろ!)

在坂は慌てる2人を疑うようにジッと見つめている。
八九が在坂から見えない位置で十手の肘をそっとつつくと、
十手はハッとして助け舟を出した。

十手あ、ああ、そうなんだ!
俺1人ではなかなか考えがまとまらないから、
八九君と一緒に頑張れば、なんとか出来上がるかと思ってね。
在坂レポート……確かに、何か文字が書いてあったようだ。
だが……『朝寝坊をしてパンを食べながら走っていたら
角でぶつかる』という文字だった。
八九ぎっくううう!
在坂今出ているのは科学の課題だけだ。
そんな内容にはならない。
八九そ、そ、そんな文字あったか~?
見間違えだろ~。お前、目悪いのな。
在坂…………。
八九(やべぇ、完全に疑ってやがる。
おい、十手! 助けろって……!)

再び八九が、十手を肘でつつく。

十手在坂君!
そういえば、八九君に用があったんだろ?
なんの用で来たのかな?
在坂邑田が八九を呼んでいる。
今日の授業中、薄笑いを浮かべていたことについて
問いただすと行っていた。
八九んなっ!?
八九(しくった……! 授業中はネタにした貴銃士どもと一緒だし、
乱闘も暴言も全部、創作で役立つから最高~とか思ってたけど!
うっかり顔に出ちまってたか……)
在坂在坂も八九が笑っているのを見ていた。
授業が身に入らぬほど、
心ここにあらずになっている理由が知りたい。
八九そ、それはあれだ、新しいゲームがだな……!
てか、授業中に人のこと見てんじゃねーよ!
気味悪ぃな!
在坂気味悪い顔しているのは八九の方だと思う。
とにかく、八九は在坂と共に来い。
八九い……いや、だからぁ!
八九(邑田の部屋に行ったら詰む。
やれあれをしろこれをしろだの、
気が済むまでこき使われるに決まってる……!)

八九は3度めの助け舟を出してもらおうと、肘で十手をつつく。
すると、十手はにっこりと笑顔で八九の背を押して
在坂と共に部屋から出そうとした。

八九な、十手!?
十手邑田君は八九君が心配で仕方ないんだね。
頑張ってきてくれ、八九君……!
俺はレポートを進めておくから!
八九お前、そんなこと言って続きを書きたいだけじゃ……!
在坂八九、邑田が待ってる。
早く行くぞ。
八九ちょっ、ひっぱんな! 腕もげる!!
ちっこいくせになんでそんな力出るんだよ!!
おい、十手! 助けろよおおおおおおおお……!
十手すまない、八九君……!
……やれやれ。
部屋に鍵をつけた方がいいかな……。

Ep2. 視察は天国か地獄か

十手と八九の共作は、あっという間に出版が決定。
発売日を迎えて数日経った12月半ばのある日、
八九は街の本屋へと偵察に行くことにした。

八九あークソ……緊張する……。
やっぱ、十手と来ればよかったか……?
八九(本当は発売日に……って、思ったけど
緊張しすぎて見に行けなさそうだったし……)
八九(つーか、全然売れてなかったらやべーよな。
覗くのが怖ぇ……印税生活の夢破れるのを直視したくねぇ……。
はあぁぁぁ……。いや、気合入れろ! 俺!)
八九よし、ますは街で1番デカい書店から行くか……。

八九えーと、小説コーナーは……っと。
お、あの辺りか……?

小説が並んでいる一角、新刊コーナーの場所に
『地味俺』が並んでいる。

八九ゥヒョッ……。
八九(すげぇ! マジで俺たちの本が並んでる……っ!!)

感動した八九がその場で立ちつくしていると、
『地味俺』コーナーに若い男性が近づいてくる。
八九は咄嗟に、手近な本を手に取って素知らぬ顔をした。

若い男性…………。
八九(おっ、『地味俺』を手に取った……!
うんうん、パラ読みするのは大事だよな……!
読んだら内容の面白さがわかるだろ?)
八九(買え……! 買ってくれ……頼む……!!
本が売れねぇと、俺の夢が……!)

しかし、八九の願いもむなしく
若い男性は本を置いて去ってしまった。

八九くッ……!!
八九(くそ……来るんじゃなかった!
もう帰ろ──)

その時、また新たな客が近づいてきた。

中年男性ふむ……。
八九(へぇ……中年のおっさんでも、
ラノベに興味持ってくれるもんなんだな……)

中年男性もパラパラと本をめくったものの、
やはり『地味俺』を置いて去って行ってしまった。

八九………………。
八九(ダメだ……。編集者は絶賛してくれたけど、
やっぱ俺たちの本は、一般ウケしねぇんだ……)
八九……帰ろ……。

肩を落とし、出入り口へと向かおうと身体の向きを変えた途端、
前から来た客と身体がぶつかってしまう。

八九っと、悪い!
中年男性いや、こちらこそすまないね。
八九(あれ? このおっさん……。さっき、
『地味俺』をパラ読みしてた人だよな? 戻ってきたのか?)

八九が何気なく男性客を目で追うと……。

八九(えっ……? 『地味俺』をまた手に取って……?
そ、そのままレジに向かったーっ!?)
八九(うわ、やべぇ……今、すげぇ嬉しくて叫びそう)
女性客1あ~! あった、あった!
『地味俺』~!
やっぱり大きい書店に来てよかった~!
八九……っ!?
女性客2本当だ! 川向こうの書店じゃ完売しちゃってたもんね。
ダメもとで見に来て正解!
女性客1これ、めっちゃ面白いっていうもんね!
早く帰って読まなくちゃ!
八九(は? なんだこいつら? これは夢か?
俺の願望が作り出した、都合のいい白昼夢?
よし、頬をつねって……)
八九イッテェ!!
……ってことは、現実……?
八九……っ!! うおおお……!
八九(やべぇ、このままじゃニヤニヤした不審者になっちまう。
撤収、撤収だ!!)

八九はそのまま口元に笑みを浮かべながら、
フワフワと夢見心地な足取りで書店の出入り口へと向かう。

書店員ありがとうございましたー。

八九……………………。
…………。
八九最……高……。

Ep3. 邑田の褒美

十手と八九の共著、通称『地味俺』は大人気となったが、
印税はほとんど孤児院へと寄付してしまい、野望は泡と消えた。

それでも晴れ晴れしい気持ちで新年を迎えた八九だったのだが、
邑田に部屋に呼び出され、一気に日常へと引き戻される。

八九(新年早々パシリかよ。
……ったく、餅焼いてくれた時は、
ちょっとイイ奴だと思ったのに……絆された俺が馬鹿だったぜ)
八九おい、んだよ邑田……。
邑田……これは陽炎や。浮気かえ?
八九……は?
八九(ム……ムーラン……?)

邑田から放たれたその言葉は、まさしく、
邑田をモデルにしたムーランのセリフだった。
思わぬ出来事に八九が固まっていると──

在坂芒野、陽炎は椿のものだ。
八九……っ!!!!
八九(い、今のは……在坂をモデルにした椿のセリフ!
これは、確実に…………)
八九(え??? バレた????)
八九……も……。
邑田&在坂も?
八九さ……さーせんっしたぁっ!!
許してください!!
もうしません!!!!

八九は即座に邑田と在坂の前で綺麗な土下座をする。

八九悪気はなかったんです!!!
いい作品を作りたい一心で!!!
邑田…………。
八九マジですんませんっした!!
銃に戻すならひと思いに……っ!!!
邑田…………。
八九(え……? 何もしてこない……?)
邑田顔をあげよ。

恐々と顔をあげると、無表情の邑田と目が合う。
何を考えているかわからないその視線に、八九は硬直した。

八九ひぃっ!?
な、な、なんだよっ! 謝っただろ!
そんな睨まなくてもいいじゃねぇか!!
在坂なぜそんなに怯える?
邑田も在坂も、八九に怒ってはいない。
八九え……?
邑田勝手に登場人物のおなごにされたことは遺憾じゃがのう。
物語自体は面白かったぞ。
何より、在坂が可愛く書けておる。
八九へ?
在坂在坂は金髪ぎゃるの狙撃が成功する場面がよかった。
何度も読んでしまった。
今度、実戦してみたいと思うほどだ。
邑田うむ。あそこは緊迫感の表現がよかったのう。
さすがは戦場に身を置いてきた貴銃士ならではの着眼点じゃ。
八九え……お前ら、もしかして褒めてくれてんの?
マジで言ってる……?
邑田わしが嘘を吐いているとでも言うのか?
八九滅相もございません!!
褒められるとか予想外すぎてよ……。
邑田まぁ、色々と詰めが甘い箇所はあるがのう。
楽しませてもらったことに免じ、今回はお咎めなしじゃ。
八九(はぁ……奇跡だ……!
奇跡的に死亡フラグ回避……!)

八九が心のなかでガッツポーズをしていると、
邑田と在坂が『地味俺』を手にする。

八九もしかして考察が聞きたいとか、質問か?
それなら、十手も交えて話を……。
邑田いや、考察は別の機会でかまわぬ。
面白かったからのう。
褒美として特別に我らが直々に朗読してやろう。
八九な、なんだと……? 目の前で、朗読……?
在坂俺は葉月陽炎。
地味でこれといった特技もない、ただの士官候補生……。
八九ひぃぃぃ……っ!?
邑田これ、八九。静かにせい。
嬉しいからといって、そんな声を出しては、
在坂の愛い声が聞こえぬじゃろうが。
八九いやいやいや……嬉しくないから!
作者の目の前で朗読とか、どう考えても羞恥プレイだよな!?
在坂遅刻、遅刻~っ。俺はパンを口にくわえながら、走る。
角を曲がろうとしたその時……。
八九全部読む気か!?
面白かったとか言っといて、
やっぱり勝手にモデルにしたこと根に持ってるんじゃねぇか!!
邑田わしらの厚意を疑うなど、悲しいのう……。
在坂、どんどん読んでやるがよいぞ。
八九や、やめろォ! やめてくれぇぇ~~~~ッ!

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