【失意の雨】タバティエール

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解説

カード解説

物事がうまくいかない時に限って、追い打ちをかけるように降り出した雨。
どうすればあの二人に気持ちが届くのだろうか。
思考を巡らすために、一人紫煙を燻らせた。

心銃解説:憂いは昇る紫煙のように

煙をくゆらせ、過去を思う。
届かない小鳥に息を吐いて、
……隣のトカゲの不機嫌顔に、噛みつかれてようやく気づくのだ。
お前さんの世話も焼かなきゃな。

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

Ep1. 冷たい再会

フランスにて、タバティエール、シャスポー、グラースが
呼び覚まされてから間もない頃のこと──

タバティエール(召銃されて早々に、あんなことになっちまうなんて……。
あいつにとっちゃ、とんでもない苦痛だよな)
タバティエール(召銃パーティー以降、顔を合わせる機会もないが、
今頃どうしてるんだか……。荒れてなきゃいいんだがな)
タバティエール(……ちょっと、様子を見に行ってみるか)

タバティエールBonjour、マダム。花束を1つ頼むよ。
気分が明るくなりそうな色で、
中くらいの花瓶に合うサイズがいい。
花屋の店主はぁい、ちょっと待ってちょうだいね。
お見舞い? それとも恋人のご機嫌伺いかい?
タバティエールはは……どっちかというとご機嫌伺いかねぇ。
昔の戦友に久々に会うんだが、
気の利いた手土産の1つや2つないと、怒られちまうもんで。
花屋の店主あらあら!
気難しいお友達に気に入ってもらえるように、
花をちょっとサービスしとくわね。
タバティエールMerci.
ああ……そうだ。もしあったら、リボンはトリコロールで頼むよ。
愛国心の強い奴なんだ。
花屋の店主トリコロール柄のはないけど、
青と白と赤のリボンを重ねておくわね。
……はい、完成!

花束の他に、手土産の焼き菓子も購入したあと、
タバティエールはシャスポーがいる屋敷へと向かった。


──ロシニョル家、正門。

ロシニョル家門番……っ!?
あなたは、レザール家のタバティエール様……!
一体なんのご用で当家へいらっしゃったのでしょうか。
タバティエールここの貴銃士に会いに来たんだが……
取り次ぎを頼めるかい?
ロシニョル家門番も、申し訳ありませんが……
お約束のない方は屋敷に入れるなと厳命されております。
貴銃士様であれ、レザール家の方となればなおさらでございます。
タバティエール参ったな……。
そこをなんとか頼むよ。
タバティエールマスターの生家同士は因縁があるかもしれないが、
俺はロシニョル家に対して特に思うところはない。
昔馴染みの顔をちょっと見に来ただけなんだ。
ロシニョル家門番し、しかし、私の一存で決められるようなことでは……。
グラース……おい、騒がしいぞ。
マスターが休んだところなんだ。静かにしてくれないか。
ロシニョル家門番……っ、グラース様!
グラース……お前……。
タバティエール……よう。パーティ以来……だな。
グラース……タバティエール。
レザール家の貴銃士が、何をしにきた。
グラースここはお前が足を踏み入れていい場所ではない。
僕に撃たれる前にさっさと出ていけ!
タバティエールおいおい、それはないだろ。
前線と第二戦で一緒に戦った仲だろうが。
タバティエール召銃の経緯はアレだが、俺はお前と対立する気なんてない。
ただ、お前のことが気にかかって──
グラース黙れ。
僕を憐れみ嘲ろうとして顔を見に来たんだろう!
グラース残念だったな。
僕はこの通り、お前に“ご心配”いただかなくても平気だ。
わかったら、さっさと僕の前から消えろ。
タバティエール……っ、違う、俺はそんなつもりは──!
グラース門を閉じろ。
ロシニョル家門番はっ!
タバティエール待ってくれ、おい!

手を伸ばすタバティエールを拒むように、
門が重い音を立てて閉じられる。

タバティエール…………っ。
タバティエール(あいつと俺は、前線と第二戦で使われた場所は違っても、
同じ時代、同じ戦いを越えた戦友みたいな間柄だ)
タバティエール(多少の憎まれ口を叩かれることは覚悟していたが、
ここまでとは……)

閉じられたもんを前に、タバティエールはうなだれる。
力が抜けてしまった手から、花束と菓子の袋が
冷たい地面へと落ちていった。

Ep2. 行き場のない思い

ロシニョル家を訪れたものの門前払いされたタバティエールは、
他にどうすることもできず、レザール家へと戻った。

タバティエール(はぁ……参ったな。
あの様子だとあいつは「ちょっと気落ちしている」程度じゃない。
相当参ってるのに、俺には何もできない……)
タバティエールくそっ……。
シャスポーあ~、楽しかった。
タバティエール……また出かけてたのか。
シャスポーああ。
パリの劇場で公演している『椿姫』を観てきたんだ。
シャスポー主演女優の評判がかなり良いみたいでさ。
どんなもんかと思って行ってみたら、噂に違わぬいい公演だった。
シャスポーそれに……何より、女優がいい。
ほら、これ見てみろよ。彼女のブロマイド。
シャスポー「また来てね?」ってキスマーク付き。
ふふ……僕、積極的な人間は嫌いじゃないぜ。
シャスポータバティエール。お前はこういう子、どう?
好みなら、今度の公演はお前も連れてって──
タバティエール……悪いが、そういう気分じゃない。

タバティエールは眉根を寄せて、
ブロマイドから視線を背ける。

シャスポーへぇ……?
シャスポーいつもヘラヘラしているお前が不機嫌だなんて、
珍しいこともあるもんだ。
タバティエール……俺だって、虫の居所が悪い時くらいある。
シャスポーふぅん。
腹でも壊したか? それとも、うぶなメイドに振られた?
タバティエールお前には関係ないだろ。
テオドール……シャスポーには無関係でも、私には関係がある。
タバティエール……マスター。
テオドールタバティエール。
私への事前相談もなしに、ロシニョル家を訪れたそうだな。
シャスポーへぇ! はははっ!
それはずいぶんと面白いことをしたな、タバティエール!
シャスポーそれで?
不機嫌ってことは……もしかして、追い払われたとか?
タバティエール…………。
シャスポーまさか! 図星か?
テオドールシャスポー、お前は黙っていろ。
テオドール……タバティエール、考えなしな行動は慎め。
レザール家の貴銃士としての自覚を持って行動しろ。
テオドール当家の貴銃士がロシニョル家で門前払いにされた……
などという話が広まれば、面目が潰れる。
シャスポーあはははっ!
本当に追い払われたのかよ!
はは、あはははっ、こいつは傑作だな!
シャスポーそういえば……
お前は召銃パーティーの日も不機嫌だったな。
いや……僕に怒っていたと言うべきか。
シャスポー……そんなにもあいつが気になるのか。そうだろ?
タバティエール…………。
タバティエール……マスター。少し外を歩いてくる。
屋敷の近くを歩くくらいなら、許可はいらないだろう。
テオドール……ああ。好きにしろ。
シャスポー…………。

 

Ep3. 似て非なる者

──ある日のレザール家にて。

タバティエールマスター、ちょっといいか……って、
ここにもいないのか。
タバティエール……参ったな。
明日のパーティー関係で早めに確認したいことがあるんだが……。
???……クソッ、なんで僕がこんなことを……!
タバティエール……っ、シャス、ポー……?
シャスポーああ、タバティエールか。
なんだよ、幽霊でも見たような顔して。
タバティエールお前……その格好はどうしたんだ?
シャスポーマスターの命令だ。
この格好でロシニョル家に忍び込んでこいだとさ。
一体何を考えてるんだか。
タバティエールそ、そうか……。
あんまりそっくりなもんで、びっくりしたぜ。
シャスポーま、僕らは銃もそっくりだし、貴銃士としての顔もよく似てる。
格好や口調を揃えたら、そうそう見分けがつかないだろうな。
タバティエールああ……。
シャスポーだからこそ、マスターも僕にこんな命令を下したんだろ。
面倒だが……スリルがありそうなことだけは、悪くない。
タバティエール…………。
シャスポー……なんだよ、タバティエール。
僕の変装に不備でもあるか?
タバティエール……いや。
それで、これからどうするんだ?
すぐにロシニョル家に行くのか?
シャスポー急げとは言われていないし、軽く何か食べてからにする。
そうだな……サンドイッチでも頼んでくるか。
タバティエール……待て。
それなら、俺が取りに行く。
シャスポーへぇ、気が利くじゃないか。
ついでに、ローストビーフのサンドも用意してくれよ。
タバティエールいいぜ。
なかったら、パストラミビーフでもいいか?
シャスポーああ。
タバティエール待ってろ。すぐ作ってくる。
シャスポー……ふーん……。
タバティエール……どうした?
シャスポーなるほどな。
やけに甲斐甲斐しいと思ったら、この格好だから……か。
タバティエールなんのことだ。
シャスポーお前は本当は、
僕じゃなくてあいつの世話を焼きたくて堪らないんだろ。
タバティエール俺はただ……
お前がその格好でレザールの屋敷を歩き回ったら目立つから、
部屋で待ってる方がいいと思っただけだ。
シャスポー……そういうことにしといてやる。
サンドイッチ、急げよ。

Ep4. 失意と雨と

タバティエール(多少無理やりにでも、あいつと話す機会を作りたい。
だが、正面から行ってもまた門前払いを喰らうだろうし……)
タバティエール(あいつの部屋に乗り込めば、
さすがに追い出すわけにもいかなくて、話せるか……?)

決意を固めたタバティエールは、
再びロシニョル家を訪れ、
警備が薄い部分の塀を越えて中へと侵入した。

タバティエールさて……問題は、あいつの部屋がどこかだな。
グラース……おい。
どうしてお前がここにいる。
タバティエール……っ!
はは、お前の方から迎えに来てくれるとはな。
探す手間が省けたぜ。
グラース不法侵入とはいい度胸だ。
よくものこのこと……僕に撃たれに来たのか?
タバティエール頼む。話を聞いてくれ。
俺はお前が置かれている状況をなんとかしたい。
ただそれだけなんだ。
グラース……余計なお世話だ。
お前にできることなんて、何もない。
グラースわかったら、使用人たちに見つかる前にさっさと帰れ。
タバティエール…………。

タバティエール(俺にできることは何もない、か……。
あいつの言う通りかもしれない)
タバティエール(あいつが置かれている状況を根本からどうにかするのは、
古銃として褒めそやされても、
実質的権力がない俺には……厳しい、だろうな)
タバティエールはぁ……。

重いため息をついたタバティエールの頬に、
ポツ、ポツ……と雨粒が落ちてくる。

タバティエール……こんな日に雨かよ……。

再びのため息のあと、
タバティエールは雨宿りできそうな場所を探して駆け出した。

タバティエール……ふぅ。
ずいぶん濡れちまった。
タバティエール(こんな雨だと……あいつは体調崩してそうだな。
大丈夫か……って、
俺が心配しても余計に不愉快にさせるだけか)
タバティエール昔は昔で、矢面に立ったのはあいつで……
今も今で、俺は大して助けになれないまま、何も変わらねぇな。
タバティエール……はぁ。
グラースこんなところでシケたため息なんかついて、無様だな。
タバティエール…………。
グラースなんだよ。せっかく僕が追いかけてきてやったのに無視か?
いい御身分だな。
追い返されるとわかってて、なんでまた屋敷に来たんだか。
グラース余所の家の貴銃士に構う時間があれば、
自分のところのお仲間でも構えばいいだろう。
タバティエール…………。
そうかもな。
グラース……おい。それ、寄越せ。
タバティエール煙草か?
やめとけよ。お前、吸ったことないだろ。
グラースうるさいな。僕に指図するな。
煙草ぐらい──
グラースゲホッ、ゲホゴホ……ッ!!
タバティエールほら、言わんこっちゃない。
グラースこ、これくらい平気だ!
タバティエールほら、大人しく返せ。
雨が止んだらレザール家に戻るぞ。
シャスポーレザール家って、お前……気付いてたのかよ!
いつからだ?
タバティエール最初からだ。
シャスポー……チッ。それならそうと早く言えっての。
タバティエール……お、雨が弱まってきた。
やれやれ。やっと帰れそうだな。
シャスポーんじゃ、行こうぜ。
タバティエール……ああ。

Ep5. ブレイクタイム

──ある日の士官学校にて。

タバティエールふぅ……。
主人公【こんなところで煙草?】
【休憩中?】
タバティエールおっと、〇〇ちゃん。
寮の裏手まで来るなんて、どうしたんだい?
タバティエール俺は……実は、シャスポーに追い出されちまってな。
臭いから出て行け、だと。
タバティエール「せっかくの紅茶の香りが台無しになる。
そもそも、ここは学生寮だ!」って。
タバティエールその紅茶を淹れたのは俺なんだが、
まあ、あいつの言うことももっともだしなぁ。
こうして、人気のないところに来たってわけ。
主人公【シャスポーと仲がいいんだね】
タバティエールこれは、仲がいいって言うのかねぇ……?
俺はせいぜい、シャスポーのお世話係ってところさ。
タバティエール主力のシャスポーが最前線で戦って、
二流の俺は、後方支援やら防衛に回る。
それで、上手く回るんだ。
タバティエールあいつは俺よりずっと性能がいいし、
それに甘えずに努力し続けてる。
そんな奴だから、俺はこき使われるくらい構わ──
シャスポーおい、タバティエール!
砂糖が足りないぞ!!

突然、2人の頭上から怒鳴り声が聞こえる。
〇〇が見上げると、
寮の窓から顔を出しているシャスポーと目が合った。

シャスポーわっ! 〇〇っ!?
タバティエールそんなに大声で言わなくても聞こえるって。
それに、〇〇ちゃんが驚いてるぞ。
シャスポーご、ごめんね、〇〇……!

窓から顔を出していたシャスポーが消え、
数分後、慌てた様子で寮の裏に現れた。

シャスポー〇〇、こんなところでどうしたの?
シャスポー景色もよくないこんな場所で、
タバティエールの煙草に付き合ってやるなんて……
君は優しいね。
シャスポー……おい、タバティエール!
〇〇の前で煙草を吸うなよ。
その煙で〇〇の健康が損なわれたらどうするんだ。
タバティエールおっと、それもそうだな。
すまねぇ、〇〇ちゃん。
シャスポー……ふん。
シャスポーああ、そうだ。
〇〇、君も一緒にティータイムにしない?
美味しい焼き菓子があるんだ。君が来てくれたら嬉しいな。
主人公【部屋から砂糖を持っていくよ】
シャスポーうっ……!
〇〇、さっきの僕の醜態は忘れてほしいな。
大声で怒鳴るなんて、みっともないところを見せてしまったね。
シャスポーおい、タバティエール。
煙草の匂いを落としたら、〇〇の分も紅茶を頼む。
シャスポーお前が淹れる紅茶は……美味いからな。
タバティエールそいつはどうも。
褒められたからには、気合入れて淹れないとだな。
タバティエール……そうだ、〇〇ちゃん。
カヌレは食べたことあるかい?
試しに作ってみたんで、君にも味見してほしくてな。
タバティエールシャスポーも気に入ってたみたいだし、
悪くない味だとは思うぜ?
主人公【ありがとう】
【いただきます!】
タバティエールへへっ。いっぱい食べてくれよ。

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