解説

カード解説

アメリカの大地を旅してみたが、絶対高貴を掴めなかった。
しかし、今ならわかる。必要なのは旅に出て見聞を広めることではなく、ただひとすらに強い覚悟を持つことだったのだと。

心銃解説:廻る世界に立って

旅路の果てに見つけたものは、変わらぬフロンティアスピリット。
風よ、大地よ、五十の星よ。どうか見守っていてくれ。
過ぎ去りし、変わり続ける時の中で。

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

Ep1. 特訓の行方

マークスマスター!
マークス今日は合同訓練の日だな。
マスターと一緒の授業を受けられて嬉しい。
マークス俺たちは射撃の訓練だが、
マスターたちは何をするんだ?
ライク・ツー……おい、マークス。
うろちょろして〇〇の訓練の邪魔すんな。
お前もとっとと自分の訓練メニューやれっての。
ライク・ツーそれから、〇〇たちの訓練は匍匐(ほふく)前進だ。
見りゃわかるだろ。
マークス俺たちのクラスとマスターのクラスで合同訓練なんだから、
マスターの相棒である俺がマスターのところにいてもいいだろ。
マスターが見てるんだから、俺の訓練もちゃんとする。
ライク・ツー…………。
マスターのクラス、マスターの相棒、マスターのところ、
3回……いや、最後にもう1マスターで4回か。
マークスは? 何を言って──
生徒1うわ! なんだ、あいつ……! 速っ!
生徒2フォームはめちゃくちゃだが、
ぶっちぎりで1番じゃないか!
ライク・ツー……ん?

にわかに生徒たちがざわつきはじめ、
〇〇たちは声の方へと視線を向ける。
すると、演習場をものすごい速さで匍匐前進している人物がいた。

ペンシルヴァニア……よし、ゴールだ。
主人公【ペンシルヴァニア……!?】
【どうして士官候補生クラスの訓練を!?】
ライク・ツーはぁ……ったく。
あいつも自由すぎるな……。
ライク・ツーおい、ペンシルヴァニア!
そっちの訓練に勝手に混ざるな。
ペンシルヴァニア……混ざっては駄目だったのか? それはすまない。
見ていたら、俺もやってみたくなって……な。
ライク・ツー匍匐前進なんか、だるいし汚れるし、
見ててやりたくはならねぇだろ……。
変わった奴だな。
ペンシルヴァニアそうか……?
身を潜めながら素早く進む技術……面白いじゃないか。
ペンシルヴァニアただ……地面に触れる面積が大きい分、痕跡は残りやすいな。
やはり、森の中を進むには不向きか……。
ゲリラ戦向きの動き方ではないということだな。
ライク・ツーそりゃそうだろ。
世界連合軍がゲリラ戦に持ち込むことはあんまりねぇだろうし。
つーか、なんでゲリラ戦前提で考えてんだよ。
ペンシルヴァニアああ……俺は民兵の銃だったからな。
戦法と言えば、隠れ潜んで狙い撃つ、狙撃と遊撃なんだ。
マークス民兵……?
あんたも、ジョージと一緒にアメリカ軍にいたんじゃないのか?
ペンシルヴァニアアメリカ軍で使われていたのも、間違いじゃない。
だが、民兵──ミリシアは、
国家に忠誠を誓う職業軍人とはまた違う。
ペンシルヴァニア一般市民が、自分たちや国を守るため、
銃を手に取って戦う兵となる……それが民兵だ。
自らの意思による志願兵……つまりはボランティアだな。
ペンシルヴァニア俺は独立戦争当時、アメリカ軍の民兵の持ち物だった。
独立戦争が始まった時は、アメリカにはまだ正規軍がなくて、
民兵隊が集まって軍になったようなものなんだ。
ライク・ツー民兵って……要するに、半分素人みたいなもんだろ?
よくそれで、イギリスの正規軍に対抗できたな。
ペンシルヴァニア民兵たちの多くは、幼い頃から森に入り、狩りをしていた。
狙撃の腕に優れた者が、大勢いたんだ。
ペンシルヴァニアイギリス軍は物量で勝っていたから……。
平地で、マスケット銃での一斉射撃や白兵戦に持ち込まれると、
アメリカ軍は……圧倒的に不利だ。
ペンシルヴァニアだから……民兵たちは、森に潜んでゲリラ戦を行った。
俺たち民兵の狙撃銃は、弾込めに時間がかかるから、
存在に気づかれる前に狙撃を終え……再び森の中へ姿を消す。
ペンシルヴァニアそういう戦い方をしてきたから……だろうか。
ああやって身を潜める動きには、どうにも興味がそそられる。
主人公【じゃあ、一緒に訓練しよう】
【匍匐前進の種類とフォームを教えるよ】
ペンシルヴァニア……いいのか?
マークスマスター! 俺も一緒にやる!

〇〇は、いくつかある匍匐前進の種類と、
基本的なフォームについて、ペンシルヴァニアに伝えた。

ペンシルヴァニア第四匍匐は……ええっと……両肘をついて……。
……右手で銃床、左手で銃身を……。
ライク・ツーおいおい、さっきの勢いはどうしたんだよ?
ペンシルヴァニアいや……この格好だとなかなか動きづらくてな。
肘で上体を支えつつ、交互に前に……こう……か?
足は出した肘と反対を前方に曲げて……。
主人公【右手と右足が一緒に出てるよ】
【かかとは地面につけて!】
ライク・ツーおい、気を付けろ。
銃口が地面に付きかけてるぞ。
ペンシルヴァニアおっと……。
ん……なかなか進みづらいな……。
ライク・ツーそりゃそうだろうな。
現代銃に比べて、お前らの銃ってだいぶ長ぇし。
マークスおい、ぼやいてないで、さっさと前に進め!
マスターの教え方が悪いと思われるだろ!
死ぬ気でやれ!
ペンシルヴァニアやってはみるが……思った以上に難しい。
……くっ……ふっ……。

ペンシルヴァニアへの特訓は続いたが、
匍匐前進の速度は一向に上がらなかったのだった。


──翌朝。

マークスペンシルヴァニア!
ペンシルヴァニアはいないか!?
主人公【どうした?】
【何かあった?】
マークスマスター……!
ペンシルヴァニアを匍匐前進の特訓に連れ出そうとしたら、
部屋にこんな書き置きがあって、いなくなってたんだ!

『地面を這っていたら、大地から水の囁きが聞こえた。
Hot springに入りたくなったので、ちょっと行ってくる』

マークスなんなんだ、あいつは!
マスターの指導を無駄にしやがって……!

Ep2. スナイパーの流儀

恭遠この時間は射撃訓練を行う。
……と言っても、射撃について君たちに教えることはないからな。
各自のやり方で、ある程度自由に訓練を行ってくれ。
恭遠ただし、くれぐれも安全には留意すること!
貴銃士同士での撃ち合い、
校舎や生徒、その他生き物に向けての発砲は厳禁だ!
ペンシルヴァニア生き物への発砲禁止か……。
では、狩りには行けないな。
八九いや、授業中だぞ。
狩りに行こうとすんなよ……。
訓練用の的があるじゃねぇか。
ペンシルヴァニアそうか……。
なら、的を撃つことにしよう。

ペンシルヴァニアは銃を構えると、
1つ目のトリガーにかけた指をゆっくりと動かす。
しかし、銃声は鳴り響かない。

八九……?

集中力をまったく切らすことなく、
ペンシルヴァニアは2つ目のトリガーを引いた。

──パァン!

八九……おお、すげぇ。ど真ん中だ。
古銃でよくやるな。
ペンシルヴァニア俺たちは……ライフリングされているし、銃身も長いからな。
遠距離から獲物を仕留められるくらいには、命中精度が高い。
ペンシルヴァニアもちろん、苦しめずに一発で仕留めるためには、
急所を一発で確実に撃ち抜く腕が不可欠だが……。
でないと、再装填に時間がかかるから、獲物を逃してしまう。
八九へぇ……。なんか、職人技って感じだな。
プロの猟師的な。
八九つーかよ、あんたの銃って、なんで引き金が2つあるんだ?
連射……はできるわけねぇし、
1つ目の時は発射されなかったし、なんなんだ?
ペンシルヴァニアん……? 見たことがないか?
これは、二段式のセット・トリガーだ。
ペンシルヴァニア前方の引き金を押してから、
手前の引き金を引くことで発射できる仕組みだ。
ベルガーんぁ? なんだソレ!
引き金を押すぅ?
八九げ、お前かよ。
お前の鳥頭じゃ理解できねぇ仕組みだろうから、
どっかで大人しくしてろ。
八九んで? なんのために二段式にしてるんだ?
ペンシルヴァニアこうすることで、撃鉄をごく軽い力で落とせるんだ。
銃身のブレもタイムラグも少ない。
つまり……命中率が上がるようになっている。
八九へぇ……よく考えられてるもんだな。
あんたは確か、18世紀の銃っつってたっけ。
百年以上前の技術でそれって、結構すげーな。
ペンシルヴァニアおそらく……生きるための知恵でもあったんだと思う。
弾も火薬も貴重だから、無駄撃ちはできない。
乱射しては、音で獲物が驚き逃げてしまう……。
ペンシルヴァニアだから、森の中に静かに身を潜め、
獲物に気づかれる間を与えず、最小限の発砲で仕留める。
そういう風に作られたのが……俺たちだ。
ベルガーよくわかんねーけどよぉ、
逃げても逃げらんねぇくらいハチの巣にすればいいんじゃねーの?
ベルガーテキトーに撃ってもだいたい当たるんだしよぉ。
ぷくく、あひゃひゃ!
ベルガーこんなカンジで……おらおらァ!
八九お前……!
弾もタダじゃねぇんだから、無駄に撃ちまくるな!
ベルガーキョードーが好きにしろって言ってただろ!
動物もハクセイも撃ってねーし問題ナーシ!
八九はぁ……。銃声と馬鹿の声で耳痛ぇわ。
ペンシルヴァニア……すごいな。
連射の速度も、命中精度も。
さほど狙いを定めているようには見えないが……。
ベルガーほい! 的は~ゲキハ~!
うお……! ゲキハってすげー頭いいな俺!
八九……一周まわって、逆に……
お前の脳味噌レベルだと銃生楽しいかもな……。
ベルガーはぁ~あ、飽きたァ!
プッシー連隊にエサやりしてこよー。
ペンシルヴァニア…………。
八九ん……? どうかしたか?
あの馬鹿の馬鹿さ加減に呆れたか。
ペンシルヴァニアいや……俺が作られてから200年以上経っているから当然だが、
現代銃の技術はすごいなと……驚いていた。
八九まあ……そりゃあな。
200年もあれば、色々変わるだろ。
あんたの狙撃の腕は、それでもすげーと思うぜ。
ペンシルヴァニア……そうか。

ペンシルヴァニアは装填を終えると、
銃を構え、再びトリガーを引いた。
しかし、的に当たった様子はない。

八九どうした?
……あんたでも、外すことがあるのか。
ペンシルヴァニアいや……。

ペンシルヴァニアは的の近くの木に歩み寄ると、
その幹のあたりで何やらゴソゴソしてから戻ってくる。

ペンシルヴァニア……ほら。

ペンシルヴァニアが差し出したのは、1枚の枯れ葉だった。
中央部分には、ぽっかりと穴があいている。

八九は……? まさか、落ちてきた葉っぱを狙って撃ったのか!?
うっそだろ……あんなひらひらしたちっさいもんに、
どうやって当てんだ……。
ペンシルヴァニア時代の流れには勝てないが、それでも……俺は貫ける。
スナイパーとしての信念も……小さく困難な的も、な。

 

Ep3. ポップコーンボックス

──ある日の夕方。

ケンタッキーあっ、マスター!
ただいま戻りましたー!
主人公【おかえり!】
【お疲れ様!】
スプリングフィールドケンタッキー……、おかえり。
ジョージHey! 任務おつかれ~!
ペンシルヴァニアその様子だと……任務は順調だったみたいだな。
ケンタッキーそりゃあな! ったり前だろ!

胸を張ったケンタッキーは、〇〇の方を見ると、
なんだか緊張した様子で、ビシッと背筋を伸ばした。

ケンタッキーえーっとですね、マスター。
あのー……今週末、ご予定はあいているでしょうかっ!
主人公【特に予定はなかったはず】
【あいてるけど、どうかした?】
ケンタッキー【特に予定はなかったはず】
→マジっすか! よっしゃー!
もしよかったら、なんすけど……
一緒に映画見に行きませんか!?

【あいてるけど、どうかした?】
→実は、っすね……。
自分、マスターと映画を見に行きたいなーと思いまして!
ペンシルヴァニア【特に予定はなかったはず】
→ケンタッキーは、映画に興味があったのか……?
知らなかった。
ジョージ【あいてるけど、どうかした?】
→Wow! 映画か~! いいな~!
何か気になるヤツでもあるのか?
ケンタッキーいや……今日の任務の帰り、
ちょっと困ってそうなおばちゃんの手伝いをしたら、
お礼にってチケットをもらってさ。
ケンタッキー5枚あるから、マスターと、俺と……
スーちゃんも行くだろ?
スプリングフィールドえっ……僕も、いいの?
ケンタッキー当たり前だろ!
ジョージ残り2枚だから……オレとペンシルヴァニアも行けるなっ!
ペンシルヴァニア俺も……いいのか?
ジョージおう! みんなで行こうぜ~!
ケンタッキーおい、勝手に決めんなっての!
ジョージえー、なんでだよ!
みんなで行ったほうが楽しいじゃん!
主人公【仲間外れはよくないよ】
【だめかな?】
ケンタッキーうっ……、了解っす。
んじゃ、この5人で行きましょう!
ケンタッキーおい、ペンシルヴァニア!
いきなり旅に出たりすんじゃねぇぞ!
ペンシルヴァニアああ、わかった。
週末だな……楽しみにしている。

──そうして迎えた週末。

ケンタッキー忘れ物ないかー?
準備OKなら出発するぞ。
ジョージ財布OK、水筒OK!
エンフィールドから、ビスケットとキャンディももらったぜ!
ジョージ映画か~!
オレ、映画館行くの初めてだからすっげーワクワクする!
スプリングフィールド僕も、映画なんて初めてで……ドキドキ、します。
主人公【ちょっと待って!】
【ペンシルヴァニアがいない!】
ケンタッキー【ちょっと待って!】
→どうしたんっすか? マスター。
ケンタッキー【ちょっと待って!】
→……って、あいつがいねー!!!
ケンタッキー【ペンシルヴァニアがいない!】
→あ、あいつ……!
寝坊したとかじゃねぇだろうな……!
それか、また勝手に旅に出たとか……!?
ペンシルヴァニア……悪い。少し遅くなってしまった。
ジョージおおっ! ペンシルヴァニア!
いなくなったわけじゃなくてよかったぜ☆
ペンシルヴァニア遅くなったのは、
こいつの紐の長さを調整していたからなんだ。

そう言ったペンシルヴァニアは、
紐がついた長方形の箱のようなものをいくつも持っている。

スプリングフィールドペンシルヴァニアさん……それはなんでしょうか?
ペンシルヴァニアポップコーンボックスだ。
蓋と紐がついているから、落としたり零したりする心配がない。
……映画には、ポップコーンが付きものなんだろう?
ジョージWow……Amazing!
オレのはバーガーのペイントがしてあるっ!
ジョージ〇〇のはバラで……スプリングのはイーグル!
ケンタッキーはワンコだ!
これ、ペンシルヴァニアが作ってくれたのか?
ペンシルヴァニアああ。パッチボックスから思いついたんだ。
ちょっとした荷物をしまえるアイテムがあったら便利だと思って。
スプリングフィールドパッチ……ボックス?
ペンシルヴァニア名前の通り、オイルを染み込ませた布──パッチを入れる場所だ。
ほら……俺やケンタッキーの銃の銃床には、
パッチをしまえる小さなスペースがあるだろう?
ジョージえっ!
銃床のそれって、オシャレな飾りとかじゃなくて、
便利な収納スペースだったのかよ!?
ケンタッキーいや、お前も一応俺らと一緒に独立戦争で戦ったんだから、
そこは知っとけよ!
ジョージHAHAHA☆ 百何十年か越しの発見だな☆
スプリングフィールドペンシルヴァニアさん……ありがとうございます。
ずっと……大事に使いますね。
ケンタッキーまあ……悪くねぇ出来だし、俺ももらっといてやるよ。
ペンシルヴァニアああ。この犬の絵のは、お前のために作ったものだから……
そうしてくれると、嬉しい。
ケンタッキーそ、そうかよ……。
んじゃ、今度こそ出発するぞ!

Ep4. 教室快適化計画

恭遠……よし、今日はみんな揃っているな。授業を始めよう。
まずは、近代史の教科書、134ページを開いてくれ。
ファルすみません。
私、帰っても構いませんか?
恭遠か、帰る……!?
構わないわけがないだろう……。
何かよほどの理由や用事があるなら別だが。
ファルいえ……大したことではないのですが、
近代史の教科書を忘れてきてしまったので。
恭遠なんだ、そんなことか。
それなら予備の教科書があるから、これを使ってくれ。
ファルわかりました。お借りします。
恭遠それじゃあ始めよう。
前回の続きで──
シャスポー……ちょっといいかな。
その、言いにくいんだけど……実は僕も……。
恭遠教科書忘れか?
困ったな……予備は1冊しかないんだ。
恭遠仕方ない、隣のローレンツと机を近づけて、
見せてもらってくれ。
シャスポーなっ……!?
ローレンツにだと?
ローレンツ教科書を忘れた君が、無為に時間を過ごすのは気の毒だ。
Mr.シャスポー。
授業は既に始まっている。さっさと机を寄せるんだな。
シャスポー……ふん。
恭遠えー、今回は近代ヨーロッパの議会について学んでいこう。
教科書134ページの図を見てくれ。
シャスポー図……? どれのことだ?
ローレンツおい、Mr.シャスポー!
これは俺の教科書だぞ。あまり引っ張るな!
俺が読めなくなるだろう。
シャスポーうるさいな……!
もっとしかっり折り目を付けて開いたらいいだろう!
ローレンツああ……っ! なんてことをするんだ!
書物に対する冒涜だぞ!
グラースおい、うるせぇぞ!
シャスポー君の方こそうるさいじゃないか!
ペンシルヴァニア……ふぁあ……。
ん……これはなんの騒ぎだ……?
シャルルヴィルわ! ペンシルヴァニアさん、授業始まったのに寝てたの?
あれはね、シャスポーとローレンツが……
教科書を巡る領地と流儀の問題……?で揉めてるんだ。
シャスポーだから、それじゃあ見えないって言ってるだろう!
ローレンツ見せてもらっている分際で図々しいぞ、Mr.シャスポー!
前言撤回だ! 君は断じて気の毒なんかではない!
君は教科書なしでぼーっと無為な時間を過ごすがいい!
恭遠こら、2人ともやめないか!
恭遠はぁ……。予備の教科書を増やすか……。
教室の棚を増やして、
重い教材を置いておくのもありかもしれないな……。
ペンシルヴァニア……そうか。

──翌日。

恭遠みんな、おはよ──

教室に入った恭遠は、黒板の横にある
大きな木製の棚に目を奪われた。

恭遠えっ……!?
こんなところにいつの間に棚が!?
ペンシルヴァニアああ……おはよう、恭遠。
この棚は俺が作った。
これで、予備の教科書や皆の教材を置けるだろう?
恭遠あ、ありがとう……! 助かるよ。
しかし、1日足らずでこれを作るなんて、君はすごいな……。
グラースへぇ……。装飾はなくてさっぱりしてるけど、
板もいいやつ使ってそうだし、なかなかのもんだな。
そうだ、バーカウンターも作ってくれよ。
邑田ほう……? それならわしは、囲炉裏が欲しいのう。
昼飯に餅を焼いて食うのもよかろう。
ライク・ツー昼寝用のベッドもあったらいいと思うぜ?
適度な仮眠は集中力を向上させる。
興味ねぇ授業の時はぐっすり眠る。
恭遠はは……。
授業中に堂々とベッドで眠られたら困るな……。
冗談はそのあたりにして、今日も授業を始めよう。
ペンシルヴァニア…………。

──翌週。

恭遠な、な、なんだこれは……!?

授業を始めようと教室に入った恭遠は、
様変わりした室内を見て絶句した。

恭遠廊下になんだか香ばしい匂いが漂っていると思ったら、
君か、邑田……! 教室で餅を焼くんじゃない!
そもそもなんで、教室のど真ん中に畳と囲炉裏があるんだ!
邑田おや……恭遠、そなたは餅が嫌いか?
それとも、砂糖醤油派ではないと申すか?
砂糖多めのじゃりっと甘じょっぱいのがよいというに……。
恭遠餅の好みではなく、
教室で餅を焼く行為そのものが問題なんだ……!
恭遠グラース! 君は教室で一体何を飲んでいる……!?
というか、なんでバーカウンターが教室にあるんだ!
ライク・ツー、起きないか! 堂々とベッドを持ち込むな……!
グラースこれに注目するとは、さすがだな。
ブルターニュ産の逸品さ。
ライク・ツー持ち込んだんじゃない……できてたん、だ……。

思い思いに寛いでいる貴銃士たちを前に、
恭遠は頭を抱えた。

ペンシルヴァニア……どうだろう。
教室の仕様が充実して、快適になったな。
恭遠これは……まさか、ペンシルヴァニアが……!?
ペンシルヴァニアああ。
恭遠は……何か欲しいものはあるか?
作れそうなものなら、俺が作っておこう。
恭遠…………。
恭遠ペンシルヴァニア……。
君に悪気がないことはわかっているし、
棚を作ってもらえたのはすごくありがたかった。
恭遠……だがな、ここは教室! 教育の場であって、
なんでもありのレクリエーションルームではないんだ……!
恭遠いいか、みんな。
授業に無関係なものは撤去だっ!!
談話室や、あいている寮の部屋に運ぶぞ!!
貴銃士たちええーっ!?!?!?

その日は授業どころではなくなり、
ペンシルヴァニア作の数々のアイテムを、
寮などへ移動するだけで1日が終わったのだった──。

Ep5. 大空と大地の狭間で

スプリングフィールド着替え、寝袋、歯ブラシ、応急セット……。
弾薬とコンパス、飲料水と非常食……よし。
シャルルヴィルやっほー、スフィー。
野営訓練の準備はカンペキ?
スプリングフィールドあ、シャルル兄さん……!
はい、チェックリストに書いたものは、すべて揃っていました。
シャルルヴィルチェックリスト作ったんだ!
偉いっ! 賢いっ!
それじゃ、集合場所に一緒に行こうか。
スプリングフィールドはい……!

シャルルヴィルよいしょ、っと……!
スプリングフィールドシャルル兄さん……荷物、多いですね。
シャルルヴィルえっ、そうかな?
必要なものを入れてたら、こんな感じになったんだけど……。
ジョージGood morning~!
って、シャルルの荷物デカッ!
そんなんじゃ、山道でへばっちまうぞ?
シャルルヴィルええ~! でも、必要なものしか持ってきてないよ?
帽子、おやつ、櫛、歯ブラシ、あと枕!
着替えと、ポットとカップと、虫よけと……。
スプリングフィールドお、多いですね……。
ペンシルヴァニア……来たか。おはよう。
スプリングフィールドあ、ペンシルヴァニアさん。
おはようございます。
荷物は……どうしたんですか?
ペンシルヴァニア……? 荷物なら、揃っている。
これで全部だ。
シャルルヴィルええっ!? いつもの小さな鞄と銃だけ?
野営訓練なのに、それだけで足りるんですか?
ペンシルヴァニアああ。必要なものは、この鞄に全部……入っている。
あとは、現地調達で事足りるだろう。
ペンシルヴァニア身軽に、いつも通りに、風が導くまま……。
そうすれば、迷わずに行くべきところへ行ける。
シャルルヴィルはぁ……なんか、そういうのってかっこいいなぁ。
ボク、あれもこれもないと不安になっちゃって、
荷物をなかなか減らせないんだよね。
ペンシルヴァニアシャルルヴィルは……あまり、野営に慣れていないだろう。
心細さを感じて、荷物が多少増えるのも……当然だと思う。
無理をして減らす必要はないさ。
ケンタッキー……!
スプリングフィールドあ……ケンタッキー、来てたんだね。
おはよう。
ケンタッキー……お、おう。
ケンタッキー……っと、俺としたことが、
寝袋なんて、余計なもん持ってきちまったぜ。
ちょっとこれ置いてくるわ。
シャルルヴィルえっ?
寝袋は必要でしょ?
ケンタッキーい、いや。いらねぇし!
今の時期なら寝袋なしでも平気だっての。
スプリングフィールド本当に……?

──その日の夜、野営訓練地の山中にて。
訓練1日目を終えた4人は天幕を張り、眠りにつこうとしていた。

シャルルヴィルよーし、完成~!
ボク、歯磨きしてくるね。
スフィーは先に寝てて!
スプリングフィールドはい。
おやすみなさい、シャルル兄さん。
ペンシルヴァニア…………。
スプリングフィールドあの……ペンシルヴァニアさん……?
天幕の下に入らないんですか?
ペンシルヴァニア開拓民は……夜空が屋根代わりなのさ。
星の子守唄で十分だ。
スプリングフィールドえ? ええっと……?
ケンタッキースーちゃん、そいつの言うことは気にす……へっくしゅん!
スプリングフィールドケンタッキー……?
やっぱり、寝袋なしだと寒いんじゃない……?
ケンタッキーいや、別に!
そんなことねぇし……!
ペンシルヴァニア……そうか。
ケンタッキーおう、そうだ! さっさと寝る……っくし!
ペンシルヴァニア…………。
スプリングフィールドあれ……?
ペンシルヴァニアさん、どこに行くんだろう?
ケンタッキーさぁな。
風に誘われでもしたんだろうさ。
あいつは気ままだからな。

ケンタッキー(あー……くそっ! やっぱ寒ィ!
あいつみたいに地面に直で寝転がると、
地面の冷たさが伝わってきてマジ寒い……!)
ケンタッキー(つーか、ペンシルヴァニアは、よくこんなんで眠れるな……。
……いや、俺だって眠れるはずだ!)

ケンタッキーは、目を閉じてどうにか眠ろうとするが、
冷えが邪魔をしてなかなか寝付けない。

その時……ふと、瞼の向こうが明るくなる。
ケンタッキーが目を開けると、
ペンシルヴァニアが火をおこしていた。

ケンタッキー……何してんだ?
ペンシルヴァニア見ての通り、焚き火だ。天幕の下では無理だが……
星空の下、大地のベッドで眠るなら、暖をとるにはこれがいい。
ケンタッキー別に……焚き火がなくても、これくらいの寒さなら眠れるっての。
余計なことすんなよ!
ペンシルヴァニアそうか……。
だが、暖かい方がよく眠れるし、動物除けにもなる。
ケンタッキーそれも……そう、だな……。
明日も早いし、さっさと寝る、ぞ……。

ケンタッキーのまばたきが緩慢になり、
やがて、穏やかな表情で目を閉じる。

ペンシルヴァニア……おやすみ。

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