解説

カード解説

春の陽気の中、主人に忠誠を誓う彼は静かに微睡む。
穏やかな日ばかりではなく、雨の日も風の日も、嵐の日もあったけれど……。
待ちわびた主人の帰りを、夢の中で一足先に体験するのだった。

心銃解説:ドリーミング・ドッグは主を待つ

ここで君を待つ。
冷たい雨に吹き荒れる嵐。雪が解けてまた花が咲いて。
姿が変わってしまっても、君を待ち続ける。
もう一度だけでもいい。君に逢いたい。

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

 

Ep1. 耳寄り情報

──春のある日のこと。
突然周囲から本物の犬扱いをされ始めたマークスは、
逃げ出した先で負傷し、動物病院で休んでいた。

色気のある猫シャーッ!
おい、お前。僕の毛並みに変な癖をつけたな!
気品のある猫はぁ? 雑な寝方をしたせいで寝癖がついたんだろ。
自分の粗相を人のせいにするなんて、野蛮にもほどがある。
マークス……うるさいな。
なんなんだ、あいつら?

ケージの中で目覚めたマークスが、院内の様子を窺っていると、
隣のケージの老犬も目を覚ました。

老犬やれやれ……またあの猫たちか。
昼寝時じゃというのに、毎度騒がしくて参ってしまうわい。
マークスあいつらは、よく来るのか?
老犬うむ。あの通り気性が荒くてのう。
おまけに相性も悪いようじゃから、
よく喧嘩をしては、連れてこられておるわ。
シャルルヴィルこらこら。
シャスポーもグラースも大人しくして!
喧嘩しちゃ駄目でしょ?
シャスポー&グラースシャーッ!!!
シャルルヴィルぎゃあっ! ボクにまで威嚇しないでよ!
一応飼い主なんだからさ……!
マークス(シャルルヴィル……!?
あいつは飼い猫に、シャスポーとグラースの名前を付けたのか?
たしかに、あいつらが猫だったらあんな感じかもしれないが……)
マークスあいつら……あまり暴れていると、
さっきの俺みたいに、エルメの野郎に何かされるんじゃないか?
マークス傷みがあったのは一瞬で、今も身体に不具合はないが……
あの、針がついた武器はなんだったんだ。
早くマスターのところへ行きたいのに、エルメめ……!
老犬はっはっは。確かにエルメ先生は、
群れのボスのような威厳あるお人じゃがのう、
ドライヤーの手つきが最高で、みーんなとろけてしまうのじゃよ。
マークスん……?
ドライヤーは、誰かにされると気持ちがいいものなのか?
老犬誰でもではないぞ。上手い人であれば、じゃ。
風が熱すぎてはいかん。程よい距離と風量と温度が大事での。
エルメ先生は、すべてが完璧なのじゃよ……!
マークスそういうものなのか……。ふむ。
ドライゼまずは診察をしましょう。
猫たちを診察台の上に乗せてください。
シャスポー&グラースシャーッ!!!

診察台の上に乗せられてすぐ、
2匹の猫は飛び降りて、診察室内を走り回る。

グラース僕が捕まるかっての!
シャスポー君に診察される謂れなんてないね!
ドライゼくっ……!
逃げ足の速い……!
マークス本当に騒がしいな……。
ドライゼも、たった2匹のターゲットに手間取る程度で、
獣医が務まるのか?
シャム猫心配ご無用よん。
ドライゼ先生の治療は、すっごく的確なんだから。
それにね、ブラッシングの腕が最高なの……♪
マークスブラッシングの腕?
それは……重要なことなのか?
シャム猫や~ねぇ、当たり前じゃない。
下手くそなやつのブラッシングは痛いし、
毛並みもいまいち整わないから、断固お断りよ。
シャム猫でも、上手な人のブラッシングはね……
「ほわわ~ん」ってしちゃうの……♪
マークスふむ……ドライヤーにブラッシング……。
マスターの疲れを癒すためにも、習得する必要がありそうだ。
老犬何を言っているんじゃ?
おぬしは犬じゃろう。
シャム猫そ~よ。
犬はドライヤーとブラッシングをしてもらう方でしょ?
犬にはできないのよん。
マークス俺は犬じゃないっ!

マークスが吠えた直後、暴れまわる猫たちがケージにぶつかり、
その衝撃でケージの鍵が開く。

マークス(檻が開いた……! これでマスターのところへ行ける!!)

マークスはケージを鼻で開け、
制止するドライゼの声を無視して、外へと駆け出した。

ドライゼあっ! 待て、ファングツァーン号!
シャスポー&グラース隙あり!
ドライゼんぐはッ!!!
シャム猫……行っちゃったわぁ。
あの子、大丈夫かしらね?
自分のことを人間だと思ってたみたいだけど……。
老犬うーむ……変わった犬もいるもんじゃのう……。

Ep2. 夢のような世界

──マークスは、見渡す限り広がる花畑を、
〇〇と並んで歩いていた。

マークスこの前見つけた花畑だ。
どうだ、マスター?
マスター(?)わぁ、とても素敵だね……!
ありがとう、気に入ったよ!
マークスそうか……!
よかった。マスターが喜んでくれて嬉しい。
マークス向こうに、とてもいい匂いのする花が咲いているんだ。
ついてきてくれ、マスター。
マスター(?)もちろん!
マークストならどこにでも、どこまでも行くよ。
マークスマスター……!
マークスあっ。見てくれ。蝶がいる。
捕まえてくるから見ていてくれ。マスター!
マスター(?)一緒に行こう。
だって、マークスと自分は相棒だからね!
マークスマ、マスター……!
ああ! 俺はいつだってマスターと一緒だ! 相棒だからな!!!

マークスと〇〇が蝶を追いかけていると、
不機嫌そうな冷たい声が聞こえてくる。

ライク・ツー(?)おい、何してんだ。
遊んでないでトレーニングするぞ、〇〇。
マークスライク・ツー……!
マスターを横取りしにきたのか。
ライク・ツー(?)んだよ、お前もいたのか。
お前はここで虫でも追っかけてろ。
〇〇は俺とトレーニングするんだからな。
マークスあんたはそう言ってマスターをいじめる気だろう!
安心してくれ、マスター。
マスターは、相棒の俺が守る!!
ライク・ツー(?)うわっ!
マークスふん。トレーニングが必要なのはあんただけみたいだな。
ライク・ツー(?)くっ……! こいつ、強ぇ……!
今の俺は雑魚だ、全然敵わねぇ……!
ライク・ツー(?)お、覚えてろよ……!
マークスどうだ、マスター!
俺たちの時間を邪魔するヤツを追い払ったぞ!
マスター(?)マークスはすごいね。世界一だ!
マークスマスターも世界一だ!
マークスハッ……! マスターも俺も世界一なら、
俺たち……相棒ペアには、誰も敵わないということだな……!
マスター(?)そうに決まってるよ、相棒!
マークスわっ……!
マスターに撫でられるのは嬉しいが、少し、恥ずかしいな。
マークスいや、でも、それ以上にもっともっと幸せだ。
マスター……もっともっと撫でてくれ……!
マークスふ……あはは……!

マークスふふ……むふふ……。
……ん?
ケンタッキーよーしよしよし! よーしよしよしよし!
うはは! なんだ、思ったより素直じゃねぇか。
ケンタッキー構内に凶暴な犬が座り込んでるって噂になってたけど、
わりと大人しいな。
これだけモフり放題なら今度はスーちゃんも連れてきて──
マークス……おい、てめぇかよ!? 何しやがる!!
ケンタッキーうわっ!?
怒るなよ! さっきまで幸せそうな顔してたじゃねぇか!
マークスそれは、マスターが俺を褒めてくれたからだ!!
ケンタッキーわかったっての!
俺はもうどっか行くから、そんなに吠えんな!
はぁ……こんなに気難しい犬、なかなかいねーぞ。
マークス……ふん。
マークス…………。
……さっきのは、夢だったのか……。
マークス……マスターに……早く会いたい……。

マークスはその後も、
校門前でマスターを待ち続けるのだった。

Ep3. 夢から醒めても

──マークスが、授業中の居眠りで、
「犬になった夢」を見てから数日。

マークスはぁ……あんな変な夢を見るなんてな。
俺のことを犬みてぇだとか言うやつらのせいだ。
マークス……マスターは、そろそろ部屋から出てくるころだろうか。

──〇〇の部屋にて。

主人公【課題は終わったし、少し休憩しよう】
【談話室にでも行こうかな】

立ち上がった〇〇は、
部屋を出ようと、ドアを開けた。

マークスマスター!!

〇〇の部屋の前に座っていたマークスが、
勢いよく立ち上がって、ずいっと迫ってくる。

主人公【……!?】
【(なんで部屋の前に座ってたんだろう……)】
マークスどうした、マスター?
俺の顔か何かに変なところがあっただろうか……?
主人公【変なところはない……かな】
【大丈夫だよ】
マークスそうか! なら、散歩に行こう。
こっちだ、マスター。俺が案内する!

マークスが〇〇の手を引いて歩き出し、
2人は士官学校内の散歩を始めた。


マークス……今度こそ本当に、マスターと散歩している……!
最高の気分だ。
マークスなぁ、マスター。
今度は花畑に行かないか?
いや、あの花畑が本当にあるのかはわからないが……。
主人公【……?】
【どういうこと?】
ライク・ツー〇〇、こんなとこにいたのか。
探したぞ。
マークスライク・ツー……!
マスターをトレーニングに連れていくつもりか?
ライク・ツーは? 今日はそういう予定ねぇけど。
マークス……ふん、どうだか。
ライク・ツー意味わかんねぇ奴だな。
で、〇〇。
この前話してたコンテストの締め切りっていつだったっけ。
主人公【少し待って、確認する】
ライク・ツーおう。
マークスわかったぞ、マスター!

マークスは、その場に座ってぴたりと動かなくなった。

ライク・ツー…………。
こいつ、何やってんだ……?
ライク・ツー……ま、マークスがおかしいのはいつものことか。
で、こっちが頼まれてた、俺特別仕様のプロテイン・シェイクな。
マークス「シェイク」……こうだ!

プロテインを受け取ろうとして、
〇〇が差し出していた手に、
マークスは自分の手を乗せた。

ライク・ツー……はぁ?
何やってんだよ。お前、さっきからいつも以上に変だぞ。
ライク・ツーなんでプロテイン・シェイクで──……あ。
……わかったぞ、そういうことか。
主人公【どういうこと?】
【何がわかった?】
ライク・ツーおい、〇〇。
もう面倒くせぇから詳細は省くけど、俺の言う通りにしろ。

ライク・ツーは、マークスに聞こえないように、
〇〇へ近づいてから耳打ちした。

ライク・ツーマークスに、「ハウス」って言ってみろ。
主人公【ハウス……?】
マークス了解だ、マスター!
うおおぉぉぉぉ……!

全速力で、寮の方向に走り去っていくマークス。
〇〇が呆然とその背中を見つめていると、
ライク・ツーが堪えかねたように笑い始めた。

ライク・ツーぶっ、あっはっはっはっは!
マジかよ、あいつ、いよいよ犬じゃねえか……!

「待て」「シェイク(お手)」「ハウス」……
マークスの奇行の引き金となったワードの共通点がわかり、
〇〇は慌てて叫ぶ。

主人公【マーーークスーー!!!】
【今のナシーーーー!!!】

──その後もしばらく、突然座ったり寝転んだり、
動かなくなったりといったマークスの奇行は続いたのだった。

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