仲直りのために、慣れない作業に苦戦するパリジャン。
普段何気なく差し出される、友のお手製スイーツたちは、こんな細かな行程の上に成り立っていたのだと、見直すのだった。
華やかなところばかりに目が眩んで。
チャラチャラほっつき歩いては品性を疑うような言動ばかり。
あいつと手を組むなんて冗談じゃないね。
……でも今回だけ。今回だけだからな!
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
フィルクレヴァートの街で開催される
「アプリコット・フェスティバル」にて、
タバティエールたちはマカロンを販売することになった。
しかし、グラースとの喧嘩をきっかけに、シャスポーは
タバティエール、グラース両方と絶交状態になっており、
関係改善の糸口が掴めないまま任務に赴いていた──。
シャスポー | ……よし、任務完了だな。 |
---|---|
シャルルヴィル | お疲れ様! 予想よりも早く終わって嬉しいな~。 |
ライク・ツー | ああ、こんな場所に長居は無用だ。 帰るぞ。 |
シャスポー | …………。 |
シャルルヴィル | シャスポー、どうしたの? 体調でも悪い? |
シャスポー | 別に……ただ、士官学校に帰る気分になれないなと。 フェスティバルの準備だかで、 いつにも増して騒がしいんですから。 |
シャルルヴィル | あー……えっと……。 |
ライク・ツー | そういえば、なんか揉めてんだっけ。 |
シャルルヴィル | ……っ! |
ライク・ツー | つーか、これ見よがしにむくれた雰囲気出してんの うぜーんだよ。 さっさと謝るなり仲間に入れてもらうなりしろ。 |
シャスポー | はぁ!? 何か勘違いしてないかい? なんで僕があいつらに謝る必要があるんだ! |
シャルルヴィル | あ、あのさ……っ! ボク、ちょっと行きたいお店があるんだよね。 シャスポー、時間があるなら付き合ってよ。 |
シャスポー | ……別に構わないですけど。 |
シャルルヴィル | ライク・ツー、任務完了の報告はお願いしてもいい? |
ライク・ツー | ……ま、受けてやる。 |
シャルルヴィル | んん~! おいし~い♪ 早く終わった任務のあとに食べるスイーツって、 最高だよねっ! |
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シャスポー、 | ……そうですか。 |
シャルルヴィル | オリジナルブレンドの紅茶も、香り高くていい感じだよ! シャスポーが飲んでるのはどう? |
シャスポー | まぁ……それなりに飲めるかと。 |
シャルルヴィル | そ、そっか……。 あ! お茶のおかわり注文しようか? |
シャスポー | いえ、結構です。 |
シャルルヴィル | そう? さっきから何杯も飲んでるもんね。 ボクもお腹いっぱいになってきちゃったかも。 あははは……。 |
シャスポー | …………。 |
シャルルヴィル | (美味しいもので機嫌を直してくれたらなって思って 連れ出してみたけど……) |
シャルルヴィル | (効果ナシ、だよね……。 全然会話が続かないし、お会計もそろそろヤバい気がする……) |
シャルルヴィル | そ、そろそろ帰ろうか……? 門限もあるし。 |
シャスポー | ……はい。 |
──カフェを出た2人は、
士官学校へ歩き始める。
シャルルヴィル | ……あのさ、シャスポー。 マカロン作りのことなんだけど……。 |
---|---|
シャルルヴィル | タバティさんも、君の手を借りたいと思ってるはずだよ。 帰ったらタバティさんを手伝ってあげたら? |
シャスポー | いきなり何を言い出すかと思えば……。 あいつには別の助手がいるでしょう。 僕が手伝ってやる義理はありません。 |
シャルルヴィル | で、でもさ……考えてみてよ。 グラースが真面目に手伝ってると思う? |
シャスポー | ……たしかに信用はできないですね。 ええ、まったく。 |
シャルルヴィル | うん、疑うわけじゃないけどね。 ボク、1人でマカロン屋さんの準備してるタバティさんの姿が 目に浮かぶ気がするよ。 |
シャスポー | ……それが言いたくて、カフェに誘ったんですか。 |
シャルルヴィル | ……あ! うん、そうなんだ。実は……。 さっきは言い出せなかったけど……アハハ。 |
シャスポー | ……はぁ。 |
シャスポー | (……仕方ない。 明日の任務が終わったら、タバティエールを手伝ってやるか……) |
──タバティエールの手伝いに行ったはずが、
グラースとのアクシデントにより、
試作マカロンを駄目にしてしまったシャスポー。
落ち込み、手ぶらでは謝りに行けないと言うシャスポーに、
シャルルヴィルはマカロン作りを提案した。
シャルルヴィル | それじゃあ、マカロン作り開始~! あ、レシピ本はこれね! タバティさんが読んでたのを借りてきたんだ。 |
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シャスポー | まずは読んでみるか……。 ええと……イタリアンメレンゲ? スケッパーでマカロナージュして……乾燥!? |
シャスポー | 工程が多いし長いな……。 マカロンを作るのって、こんなに難しかったのか……。 |
シャスポー | いや! タバティエールにできて、 高性能な僕にできないわけがない。 始めてみればすぐにコツを掴めるはず……! |
シャルルヴィル | うんうん! メレンゲ作りとマカロナージュのコツさえ押さえれば、 安定して成功するってタバティさんも言ってたよ。 |
シャスポー | よし……まずはアプリコットのピューレとやらを作ります。 まずは、皮を剥いて……。 |
シャスポー | ──あっ! |
シャルルヴィル | ひぃっ!! |
シャスポー | ……チッ。 この実、思ったよりも滑りやすいな……。 |
シャルルヴィル | シャスポー! ち、血が出てるよ……! 絆創膏持ってくるから、ちょっと待って! |
怪我をした指をシャルルヴィルに手当てされ、
絆創膏を貼った手にビニール袋を装着してから、
ようやくマカロン作りを再開する。
シャルルヴィル | 気を取り直して……次はメレンゲ作りだね。 まず、卵を卵黄と卵白に分けるところからだ。 |
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シャスポー | 卵って分けられるのか……? |
シャルルヴィル | 卵を半分に割って、白身だけボウルに落とすんだ。 シャスポーならできるって! |
シャスポー | はい……とりあえずやってみます。 |
シャルルヴィルから手渡された卵を
シャスポーがボウルの縁に当てた瞬間──。
シャスポー | ……っ!? なんで卵が粉砕するんだ……! |
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シャルルヴィル | あちゃあ……、それはもうダメだね。 卵黄と卵白が混ざっちゃったもの。 |
シャルルヴィル | まだ卵はあるから! 大丈夫大丈夫、これは殻を取って スクランブルエッグか何かにすればいいよ! |
シャルルヴィル | それに、普通に割ったあと、 スプーンで黄身を取るやり方もあるから! そっちの方でトライしてみる? |
シャルルヴィル | ボクが1度やってみせるね。 ボウルの中に卵を割って入れたら、 スプーンで卵黄だけすくって……っと、できた! |
シャスポー | な……簡単じゃないですか! 先にこちらを教えてくれれば、 卵を無駄にせずにすんだのでは? |
シャルルヴィル | ごめんごめん。 でも、何事も経験だって。ほら、次は頑張って! |
シャスポー | ん……さすがにこれは失敗しな── |
シャルルヴィル | ……あ。 |
シャルルヴィルの教えもむなしく、
またもや卵が粉砕し、卵黄が潰れて白身と混ざってしまった。
シャスポー | くっ……! なんて脆いんだ……!! 次こそ、完璧に分けてみせる……っ! |
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シャルルヴィル | もっと弱い力で、そっと……! |
シャスポー | あ……っ、また……! い、いや……まだだ、まだ、僕は……っ! |
躍起になったシャスポーが次々と卵を割り、
無惨な姿になった卵が増えていく。
シャルルヴィル | わー……。 ……卵料理にして、みんなで消費しないとなぁ……。 |
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──アプリコット・フェスティバル直前。
タバティエールが風邪で倒れてしまった。
マカロンの販売は絶望的かと思われたが……
シャスポーとグラースは和解して、
協力してマカロンを作ることになったのだった。
シャスポー | いいか? グラース。 残された時間はあまりない。 作業を分担してどんどん作るぞ。 |
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グラース | お前に指図されなくてもわかってるっての。 僕は、タバティエールがマカロンを作るのを散々見てたしな。 |
シャスポー | ……フン。 なら当然、黄身と白身を分けられるな? |
グラース | ……? 言われてみれば、そんなことしてたか……? |
シャスポー | はぁ……全然見てなかったんじゃないか。 |
シャスポー | 仕方ない。僕が手本を見せてやる。 まず、こうやって殻を半分に割って……。 |
シャスポー | それから殻をうまく使って、 こう……白身と卵黄を分ける。 フッ。どうだ? |
グラース | チッ、ムカつく顔しやがって……。 僕にだってできるに決まってるだろ。 |
シャスポー | どうだか。 君の練習に付き合っている時間が惜しいから、 君みたいな初心者は、このスプーンを使うといい。 |
シャスポー | これがあれば、いくらグラースでも 簡単に卵が分けられるはずだ。 これも手本を見せようか? |
グラース | 「いくら」だと? ……バカにしやがって。 僕に性能で劣るお前ができるんだ。 こんなもん、1発でモノにしてやるよ。 |
シャスポー | へぇ……。 見ててあげるから、やってごらんよ。 |
グラース | ……っ! あっ……! |
慎重に卵を割ろうとしたグラースだったが、
殻の鋭い部分が卵黄に当たり、潰れてしまった。
グラース | くそっ……! こんなもん……! |
---|---|
シャルルヴィル | グラース、そんなに気にしなくていいよ。 シャスポーもこの間は全然できなくて、 卵をいくつも粉々にしてたんだから。 |
グラース | ん……? おい、シャスポー。どういうことだよ、今の話。 |
シャスポー | ……っ、シャルルヴィル先輩! 余計なことを言わないでください! |
シャルルヴィル | あはははっ! ごめんね。 シャスポーがちょっと意地悪してたから、つい。 |
シャスポー | うっ……。 |
グラース | つーか、2人で卵割りをする必要もねぇだろ。 メレンゲはシャスポーに任せて、僕は違う作業をする。 |
シャルルヴィル | じゃあ、グラースにはガナッシュを作ってもらおうかな。 |
グラース | ……試作の時から思ってたんだけどよ、 薫り高いアルコールの風味が効いててもいいんじゃないか? |
シャスポー | ちょっ……! 勝手にブランデーを入れるな! そんなに入れたら風味どころじゃないだろうが! |
グラース | そんなキレなくてもいいだろうが。 たくさん入れた方が美味いに決まってる。 |
シャスポー | 君みたいな雑な味覚の奴にとってはな! フェスティバルには未成年のお客さんもいるし、 アルコールが苦手な人だっているんだぞ。 |
グラース | ……っ! うら若き麗人が寄り付かなくなったら悲劇だ……。 |
シャルルヴィル | ……やれやれ。 本当、仲がいいのか悪いのか……。 わからない2人だよねぇ……。 |
──その日の夜。
在坂 | ……オムライス……美味い……美味い……。 むぐ……在坂はおかわりを所望する。 |
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八九 | ちょっ……! なんだこの大量の皿!! |
邑田 | ほわっ!? あ……在坂や。 もしやこのおびただしき数の皿、すべておむらいすか? |
在坂 | そうだ。 事情は知らないが、卵がたくさんある。 傷まないうちに使いたいらしい。 |
邑田 | ふむ。ならば、わしもいただこうかのう。 このままでは在坂が食べすぎで腹を壊してしまいかねん……。 |
シャスポー&グラース | …………。 |
在坂 | オムライスがたくさん食べられて、在坂は嬉しい。 おかわりはあるのか? |
シャルルヴィル | まだまだ卵あるからね! いくらでもおかわりして大丈夫だよ~♪ |
シャスポー&グラース | シャルルヴィル……っ、先輩!! |
シャルルヴィル | あはははっ、ごめんごめん。 ほら、君たちもオムライスどんどん食べてよね。 オムレツやスクランブルエッグもあるよ。 |
シャスポー | ……うっ。 しばらく……卵料理は見たくないな……。 |
グラース | ああ……。 |
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