小さな皇帝は、夜毎悪夢に魘される。暗い夢の中で死者たちの声に惑わされ、その目は赤く濁っていく──。
甘美な罠に誘われ、籠の中のガラクタは夢を見る。
狂気の笑顔を浮かべ、彷徨い続ける歪んだ幻。
懐かしき声が聞こえては消えていく。
悪夢と共に闇に消えていく。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
カール | やあ。久しいね、〇〇。 |
---|---|
ローレンツ | 会いたかったぞ、モルモット2号……! |
オーストリアから士官学校へ2人がやってくるという連絡があり、
〇〇はエントランス前で2人を出迎えた。
主人公 | 【長旅お疲れ様】 【部屋に案内するよ】 |
---|---|
カール | ああ。 しばらく世話になる。よろしく頼むよー。 |
ローレンツ | カール様。紅茶をお淹れします。 本日の茶葉は何がよろしいでしょうか。 |
---|---|
カール | ふむ…… ダージリンのファーストフラッシュにしようか。 |
カール | 少しさっぱりとしたい気分だしね。 銃のメンテナンスのお供にちょうどよさそうだ。 |
ローレンツ | はっ、かしこまりました。 |
ローレンツが紅茶の用意を始める一方、
カールは荷物から道具を取り出して、
銃のメンテナンスを始めた。
〇〇は、興味を引かれて
その様子をじっと見る。
カール | 〇〇。 僕の銃がそんなに物珍しいかい? |
---|---|
主人公 | 【とても綺麗だから気になって】 【どういう構造なのか気になって】 |
ローレンツ | そうだろう!! |
ローレンツ | カール様の銃は、世界最古に数えられる 美麗なホイールロック式二連拳銃……! |
ローレンツ | 本来ならばガラス越しにしかお目にかかれないような 希少で貴重な銃であり、 輝かんばかりに高貴な銃なのだから……! |
カール | ふむ……。〇〇。 そういえば君には、 僕の銃について詳しく説明したことがなかったね。 |
カール | いい機会だから、我がマスターに 特別講義をするとしようか。 |
ローレンツ | カ、カール様の講義……! ドナウ川よりも大きな心の広さに感激いたします……! |
主人公 | 【お願いします!】 【楽しみ!】 |
カール | では、まずは基本的な構造についてだ。 僕の銃に採用されているホイールロック式の機構は、 その名の通りホイールロック、鋼輪によって点火する仕組みだ。 |
カール | 正確な発祥は定かでないが、15世紀末から16世紀初頭に、 イタリアかドイツで発明されたと言われている。 最初の全自動点火システムさ。 |
カール | 引き金を引くとホイールロックが回転して、 アームの先に取り付けた火打ち石と摩擦が生じ、火花が出る。 これによって点火し、弾が発射されるというわけだ。 |
カール | 安全装置として、火縄銃と同様に火蓋がある。 これは、点火薬を入れる火皿を保護して、 予期せぬ発射を防ぐためのものだ。 |
カール | そういえば、以前イエヤスに聞いたんだが、 日本には「戦いの火蓋を切る」という慣用句があるそうだよ。 |
カール | 火縄銃やホイールロック式の時代から 今にまで言葉が残り伝わっているとは、 なんとも面白いものだねー。はっはっは。 |
ローレンツ | さささ、流石はカール様……! 東洋の慣用句にまで精通していらっしゃるとは! |
主人公 | 【火縄銃と共通点があるんだ】 【フリントロック式とも少し似てるんだ】 |
カール | いかにも。 ホイールロック式は、火縄銃──マッチロック式の次に生まれ、 あとにはフリントロック式が続いた銃だからねー。 |
カール | マッチロック式やフリントロック式に比べ、 僕のようなホイールロック式の銃は珍しいものと言えるだろう。 その理由がわかるかい? |
カール | ヒントは……僕の銃の見た目かなー。 |
主人公 | 【高価だから?】 →カール「その通り。 ホイールロック式は構造が複雑でね。ゆえに高価なのさ。」 【軍用に向かないから?】 →カール「正解と言えるね。ホイールロック式は、 きちんと作動すれば不発が少ないという利点があるが、 いかんせん構造が複雑繊細で、高価なものだ。」 カール「だから、軍隊の統一装備として歩兵に持たせるのは難しい。 ホイールロック式の銃を愛用できるのは、 王侯貴族のような富裕層くらいのものだったのさ。」 |
ローレンツ | カール様はもはや銃の枠組みを越えた、 一級品の芸術品ですからね……! |
主人公 | 【二連になっているのもすごい】 |
カール | 確かに、16世紀の銃で二連ピストルはなかなかなさそうだ。 僕を作ったのは、時計職人でもあった人物だから、 繊細で独創的な機構を組み上げられたのかもしれないねー。 |
カール | さて、僕の銃についてはこれで十分わかったかな。 |
主人公 | 【よくわかった】 【解説ありがとう】 |
カール | 最後に1つ付け加えておこう。 僕の銃は歴史的にも非常に価値があることは間違いないが、 時の流れとともに人の技術は発展を続けている。 |
カール | 19世紀には、ローレンツ・ライフルのような、 優れた性能の軍用銃もオーストリアに誕生している。 |
ローレンツ | ……! カ、カ、カール様が!! 俺を褒めて……!? これは夢か幻か……っ!? |
ローレンツ | ──青年は、歓喜に震えた。 心臓は破裂寸前にまで高まり……。 |
ローレンツ | ……ウウッ! |
カール | よし、静かになったな。 ローレンツが起きる前に、手入れを終わらせるとするかねー。 |
ケンタッキー | おい、いいか? ペンシルヴァニア。 メシ食い終わったら、今度こそ勝負だからな!! |
---|---|
ペンシルヴァニア | またか、ケンタッキー。 勝負じゃなくて、昼寝でもいいと思うんだが……。 |
ケンタッキー | ああ? 仲良く昼寝しろってか!? |
ペンシルヴァニア | ……ん? |
ケンタッキー | おい、聞いてんのか、ペンシルヴァ……って、なんだあれ? |
立ち止まったペンシルヴァニアにケンタッキーが文句を言うが、
すぐに、前方の不思議な光景に気づいて言葉が止まる。
食堂前の廊下で生徒たちが誰からともなく
左右に分かれて道を開けていた。
ケンタッキー | 誰かVIPでも来てんのか? |
---|---|
ペンシルヴァニア | さあ……。 |
2人が不思議に思いつつ近づくと、
生徒たちの間をカールが悠然と歩いてくる。
カール | ローレンツ。今日のランチメニューは? |
---|---|
ローレンツ | カール様御用達のステーキ店シェフが出張し、 特上牛フィレ肉のステーキを用意しております。 |
カール | おお、それはいいねー。 午後もいい気分で過ごせそうだ。 |
女子生徒1 | とても美しい銃ね……。 はぁ……見惚れちゃう。 |
男子生徒1 | ああ、なんという威厳……! |
男子生徒2 | オーストリアではお目にかかれなかったけど、 まさか士官学校で間近でお姿を見られるなんて……! |
ケンタッキー | すげー人気だな……。 |
ペンシルヴァニア | ……変わった形の銃だな。 彼は……カールだったか。 |
ケンタッキー | おう。 世界最古の部類に入る、ホイールロック式の二連拳銃だってよ。 知らねぇのか? |
ケンタッキーとペンシルヴァニアの会話が耳に届いたのか、
カールが足を止め、振り返る。
カール | やあ。僕のことを呼んだかい? |
---|---|
ペンシルヴァニア | ああ……。 呼んではいないが、あんたの銃の話をしていた。 |
ペンシルヴァニア | 変わった形をしているし……遠目にも、装飾の見事さがわかる。 ……よかったら、よく見せてくれないか? |
ケンタッキー | ちょっ……おい、ペンシルヴァニア! んな、突然……! |
カール | ああ、構わないよ。 |
ケンタッキー | いいのかよ!? |
ペンシルヴァニアは、カールから銃を手渡され、
ケンタッキーと一緒にまじまじと見始める。
ペンシルヴァニア | ふむ……。近くで見ると、なおさら美しいな。 |
---|---|
ケンタッキー | うおお……すっげぇ細かい装飾……! 木の深い色味と、金の色味がシブいな……! |
ケンタッキー | 作った職人の気合とこだわりがビシバシ伝わってくるぜ……。 つーか、歴史と銃自体のすごさでどんだけ価値があるんだ……? |
ケンタッキー | ペ……ペンシルヴァニア……! お前、ぜってー落とすんじゃねぇぞ! |
ペンシルヴァニア | わかっているさ。 |
ペンシルヴァニア | ……鹿と、それを追う猟犬……。 後方に馬に乗った人間……。これは狩りの様子だな。 |
カール | うむ。狩りの様子が象嵌(ぞうがん)されている。 撃鉄側には「双頭の鷲」と「ヘラクレスの柱」の彫金があるぞ。 |
ケンタッキー | なんか文字が書かれてんな。 プラス……ウルトラ? |
カール | ラテン語で「プルス・ウルトラ」 カール5世のモットーさ。 |
ペンシルヴァニア | ……どこもかしこも見事なものだな。 これを彫った職人は、相当に腕がよかったのだろう。 |
ケンタッキー | すげーけど……戦場に持ってくにはおっかねぇよな。 俺がこの銃をオーダーしたヤツだったら、 銃に傷がつかねぇかヒヤヒヤして戦いどころじゃなくなるぜ……。 |
カール | はっはっは。 装飾というと、君たちの銃にもいろいろと施されているが、 日常の中にあるこだわりの品と僕とは、また性質が違うからねー。 |
カール | ホイールロック式の銃を買うのは王侯貴族が中心…… 彼らがオーダーするからには、生半可な品にはならない。 |
カール | まあ、一種のステータスシンボルとも言えるだろう。 |
ペンシルヴァニア | ……貴重な銃を見せてくれてありがとう。 |
ペンシルヴァニアが銃を差し出し、
カールが受け取ろうとしたその時。
カール | おおっと。 |
---|---|
ペンシルヴァニア&ケンタッキー | あっ!!! |
落ちそうになった銃を守ろうと、
ペンシルヴァニアとケンタッキーが同時にスライディングする。
カール | あっはっはっ、今のは冗談だよー。 |
---|---|
ケンタッキー | うぉい!! 笑えねぇジョークだぞ! |
ペンシルヴァニア | 心臓が止まるかと思った……。 |
カール | ははは、すまなかったねー。 さて、君たちもこれから昼食なら、ステーキはどうだい? 驚かしてしまった詫びにご馳走しよう。 |
とある休日、カールは街の食堂を訪れていた。
カール | (おや? あれは……) |
---|---|
ジーグブルート | チッ……! |
ジーグブルート | ドライゼの野郎、また俺に指図しやがって……! エルメもなんであの古臭ぇ銃の言うことを大人しく聞いてんだよ。 クソが……! |
カール | (おやおや、ずいぶんと荒れているようだねー。 ふむ……) |
カールは、酒を煽るジーグブルートの席へと向かった。
カール | やあ、いい飲みっぷりだね。 |
---|---|
ジーグブルート | ああ? |
ジーグブルート | ……てめぇか、なんの用だ。 また気まぐれかよ。 |
カール | そこの君。彼にこの店で一番いい肉を。 |
店員 | は、はい……! |
ジーグブルート | んだよ。礼なら言わねぇぞ。 |
カール | なに。僕が勝手にやったことだ。 そもそも求めてなどいないさ。 |
カール | 君の飲みっぷりが気に入ったからねー。 美味い酒には美味い料理がつきもの。 肉もたっぷり食べるといいよ。 |
ジーグブルート | …………。 そうかよ。 |
カール | さて、僕も何か食べようかな。 |
カールが注文した肉料理を待つ間も、
ジーグブルートはビールと料理をどんどん飲み食いする。
ジーグブルート | ……うめぇな、この肉。 |
---|---|
カール | ははっ、それはよかったねー。 |
カール | ……ところで君、痛風って知ってるかい? |
ジーグブルート | ツーフゥ? なんだそれ。 |
カール | 風が吹くだけでも痛いと言われる病気さ。 僕の名の由来になった持ち主……。 カール5世は若い時から大食漢でねー。 |
カール | 牛、イノシシ、キジなどの鳥だけではなく、 カエルの肉なども大好物だったそうだ。 |
カール | そして、寒い冬でもビールを大量に飲むのを好んでいた……。 |
ジーグブルート | ……なんでそんな話を俺にすんだよ。 |
カール | いや。 痛風はビールの飲みすぎが原因の1つだと言われていてねー。 君の飲みっぷりを見ていて、ふと思い出したのさ。 |
カール | 風すらも激痛に感じるとは、どんな感じなのだろうねー? |
ジーグブルート | ……ッ、それを早く言えよ! |
ジーグブルートは慌てて、
ほとんど空になったビールジョッキを置いた。
ジーグブルート | はぁーあ……。 んなこと言われたら、飲む気が削がれちまったじゃねぇか。 |
---|---|
カール | あははっ! 君は見かけによらず、意外と用心深いな。 |
ジーグブルート | はぁ……? そんなんじゃねぇが……今日はもう茶に切り替える。 |
カール | うむうむ、そうしておきたまえー。 ストレスも痛風になる原因の一環らしいからね。 リラックスできるお茶を頼んであげよう。 |
ジーグブルート | チッ……! 余計なお世話だ! |
ジーグブルート | 頼むんなら、一番美味い茶にしろ。 てめぇのせいで酒がまずくなったんだからな。 |
カール | 任せておきたまえ。 これでもお茶にはこだわりがある方でねー。 今日は、楽しいお茶会といこうか。はっはっは! |
ある休日のこと。
カールと〇〇が談話室でくつろいでいると、
紙袋を抱えた十手と在坂がやって来た。
十手 | 在坂君と有名なパン屋に行って来たんだ。 〇〇君にもお土産があるよ。 |
---|---|
在坂 | 十手と一緒に選んだ。 在坂は腹ペコだ。早く食べよう。 |
主人公 | 【2人ともありがとう】 【いい匂い!】 |
カール | これはまたずいぶんとたくさん買ってきたようだねー。 バターの香りが食欲をそそって……腹の虫が鳴きそうだ。 |
ローレンツ | なっ! カール様を空腹になどしておけません! 今すぐ軽食をご用意いたします。少々お待ちを! |
十手 | ローレンツ君、ちょっと待った。 わざわざ用意しなくても、 俺たちが買ってきたパンを一緒に食べないかい? |
カール | おや、いいのかい? |
在坂 | たくさんあるから、在坂は構わないと思う。 食べたいものを皆で食べればいい。 |
十手 | うんうん。 みんなで食べた方がきっと、美味しく感じるだろうしね! |
ローレンツ | それで、どんなパンを買ってきたのだ? |
十手 | お店にあったパンをほとんど全種類買ってきたよ。 ただ、1つ気になるものがあってね。 |
十手が取り出したのは、
形が違う2つのクロワッサンだった。
十手 | ほら、こっちは三日月のような形をしているだろう? で、こっちもくろわっさんというパンなのに、形が違うんだ。 |
---|
十手が指し示したもう1つは、まっすぐな形をしている。
カール | ああ……確かにこの2つは、 同じ「クロワッサン」だが、違うものでもあるねー。 |
---|---|
十手 | むむ……? どういうことなんだい? |
カール | クロワッサンは、フランス語で「三日月」を意味する。 元はすべて三日月形だったんだよ。 |
カール | 初期のクロワッサンはマーガリンを使っていたのだが、 のちにバターを使った高級品が誕生したから、 区別するために2通りの形があるのではなかったかな。 |
ローレンツ | パンのことにまでお詳しいとは……! 新たなカール様の一面を知られて、感激です……! |
十手 | ほほう……! 原材料で形が違うとは面白いね。 それで、まっすぐな方が少し高かったのか。謎が解けたよ! |
在坂 | ……在坂は不思議だ。 これを最初に作った人は、月が好きだったのだろうか。 |
カール | それについては、諸説ある。 特に有名な説を1つ話すとしようか。 |
カール | クロワッサンは、オーストリアやドイツの キッフェルンという三日月形のパンが原型だとも言われていてね。 |
カール | 17世紀、攻め入ってきたオスマントルコ軍を、 ハプスブルク家の守備隊が、撃退した記念に、 オスマントルコの象徴である三日月を模して作り……。 |
カール | その後、ルイ16世に嫁いだマリー・アントワネットによって フランスへ伝えられ、20世紀初頭に今のような生地になって フランスを代表するパンになった……というものだ。 |
カール | ま、これ以外にもいろいろな説があって、 今となっては何が本当かわからないのだがねー。 |
十手 | 銃に歴史があるように、パンにも歴史あり、か……。 不詳な部分も含めて奥深く感じるね。 |
在坂 | オスマン……在坂は、授業で聞いたことがある。 レジスタンスの活動についての話で出てきた名だ。 |
十手 | おお! 俺も覚えがあるぞ! 3人の貴銃士がいたと、恭遠教官が話していたね。 |
カール | ああ。 マフムト、アリ・パシャ、エセンの3人だね。 |
十手 | カール君は……はぷすぶるく家と因縁深いようだし、 複雑な関係だったんだろうか……? |
カール | ははっ。 まあ、仲良しこよしというわけではなかったかな。 彼ら3人も、独特な関係性でねー。 |
カール | 野心家のアリ・パシャ…… エセンは自他ともにその部下だと認めていたけれど、 彼はマフムトにもいたく気に入られていた。 |
カール | マフムトは宝石をポロポロと出す不思議な貴銃士で、 のんびりと穏やかな性格だが、強い力があったよ。 いやぁ、面白いバランスの3人組だったなー。 |
十手 | ほ、宝石……!? なんとも気になる御仁だなぁ。 |
十手 | いつか俺も、彼らに会ってみたいものだよ。 カール君、とても興味深い話をありがとう。 |
在坂 | …………。 |
カール | いや、これくらい構わないよー。 ……ところで、在坂。 君、ずっと食べているが、苦しくないのかい? |
十手 | え……? あれっ!? |
在坂 | もぐもぐ……。 |
主人公 | 【パンがかなり減ってる!】 |
在坂 | 在坂はクロワッサンが気に入った。 さくさくでパリパリだ。 どちらの形が美味しいか食べ比べていたら、減ってしまった。 |
カール | あっはっはっ! そんなに美味いクロワッサンなら 食べないと損だねー。 よし、僕も食べるとしよう。 |
在坂に負けじとカールもパンを食べ始める。
少なくなったパンを皆で分け合いながら食べ、
しばしの楽しい時間を過ごしたのだった。
──ある日の士官学校にて。
昼食をとる生徒で賑わっている食堂で、
ベルガーが椅子を3席分占領して寝ていた。
ベルガー | ……ぐー……むにゃむにゃ……。 ……もう食えねぇって……。 |
---|---|
ローレンツ | 起きろ、モルモット1号! |
ベルガー | うおおっ!? んだよ、うるせーなぁ。せっかくきもちよーく寝てたのによぉ。 |
ベルガー | ……って、クソメガネ!? |
ローレンツ | カール様に席を譲るんだ、モルモット1号。 |
ベルガー | はァ~? なんで俺が席を譲らなきゃなんねーんだよ。 空いてる席探せばいいだろ! ないならオメーが床で食べろ。 |
ローレンツ | ……ほう。 |
ローレンツ | モルモット1号には、 俺の背後に立つ高貴な御方の姿が見えないとでも言うのか? |
ベルガー | んぁ? 誰がいるって? |
カール | やあ、ベルガー。 すいぶんと豪快に寝ていたねー。 |
ベルガー | あ? あー……なんだ、こいつか。 |
ローレンツ | なんだとはなんだ!! 口の利き方に気をつけろ! カール様は450年以上の歴史を持つ偉大なる御方で……。 |
ベルガー | よんひゃくぅ!? ジジイじゃん! あっひゃっひゃ! |
ローレンツ | ……っ!! 貴様……っ! |
シェフ | 失礼いたします。 カール様、ステーキをお持ちいたしました。 |
カール | うん……いい香りだ。 冷めてしまう前に、一刻も早くいただくとしよう。 |
ベルガー | ちょ~っと待った! |
カール | む……? |
ベルガー | ジジイはそんな分厚い肉食ったら、 喉に詰まってあぶねーんじゃね? これは俺が食ってやっから、野菜食っとけよ! |
ベルガーは、カールの目の前から、
極上のステーキ肉が乗った皿を横取りする。
カール | …………。 |
---|---|
ローレンツ | モッ……! モモモ、モ……! |
ベルガー | ん? なんかみょ~に寒ィような……。 レーボーってヤツのせいか? |
ベルガー | まあいいや。それより肉肉~♪ なんだこれ!!! すっげーうめぇ!! |
カール | …………。 |
ローレンツ | (あ、あばばばば…… カール様が、本気で怒っていらっしゃる……!) |
ベルガー | お……? 黙っちまってどーした? 怒ったのかよ。 ジジイらしく労ってやろーか? そうだ! 肩たたきしてやんよ~。 |
ベルガーは、カールの肩をバシバシと叩いた。
ローレンツ | あ、あわわわわ……! |
---|---|
ベルガー | ほらよ! 肩叩きしてやったぜ! 金払えよ! あっ、コークでもいいぜ? この分厚い肉に合うしな~! ぎゃははははっ!! |
カール | …………。 |
食堂に入る誰もがカールの静かな怒りを感じ、静まりかえる。
そして……。
カール | ──心銃。 |
---|
同時刻、食堂の屋根の上でスナイダーが寝ていると……。
スナイダー | ……っ!? 何だ、この殺気は……。 |
---|
スナイダーが起きて身構えた直後、
轟音と共に、すぐ近くの屋根が下からの衝撃でぶち破られた。
スナイダー | これは、心銃か……? これほどの力の主……戦い甲斐がありそうだな。 |
---|
食堂では、心銃攻撃を受けたベルガーが倒れていた。
ベルガー | あ、が、が……。 |
---|---|
カール | ……おや? |
カール | ベルガー以外の者は無事みたいだねー。 力のコントロールに成功したぞ。実にいい精度だ! |
生徒1 | な、なんだ今の……!? |
生徒2 | や、屋根が……! 大変だ、すぐに教官を呼ばないと……!! |
ローレンツ | カール様…… 素晴らしい一点集中の強力な心銃でした!! 日頃のトレーニングがこの結果に繋がったのですね……! |
ローレンツ | 強大なお力をお持ちでありながら、 さらに鍛錬を重ねるその姿勢……俺の永遠の目標で道しるべです! |
カール | さて。 これでようやく肉に集中できるね。 シェフ、もう一度用意してくれるかい? |
シェフ | もちろんですとも! |
カール | 生徒諸君。君たちを驚かせてしまったね。 今日の食事代は、屋根の修繕費とともに僕が持とう。 なんでも好きなものを存分に食べるといい。 |
生徒たち | うおおお!! |
生徒たち | ありがとうございます!! |
その日の食堂は、いろんな意味で大いに賑わったのであった──。
Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.
まだコメントがありません。