解説

カード解説

青年は自らの過ちで価値観を書き換えられてしまった。
実験対象を崇拝し、花束を贈る青年は、果たして元に戻れるのだろうか?

心銃解説:憧れの輝きは夜空を照らす

静寂の夜空を彩るは煌めく星々。キラキラと輝く星屑に重ねるは、愛おしいモノらの姿。
舞い落ちる一筋の光を見つめ、守りたいと願いをそっとつぶやく。

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

Ep1. 雨には強く

ある日、任務を終えたカール、ローレンツ、十手の3人は、
フィルクレヴァート連合士官学校への帰路を急いでいた。

十手すっかり暗くなってしまったなぁ。
ローレンツ……まずいな。
十手ん? どうしてだい?
ローレンツなぜなら、今夜の降水確率は90%──……。
カールおや。予報通り降ってきたね。
ローレンツ士官学校まではまだ距離があります。
カール様、どこかで雨宿りしましょう。
カールうむ。そうだねー。この雨では足元も悪いし、
無理をして進み続けるのはやめておこうか。

3人は、洞窟や廃屋など、雨をしのげる場所を探して歩き回る。

ウォーン……

十手オオカミ……いや、野犬かな。
出くわしてしまったら厄介そうだ……。
ローレンツ俺たち貴銃士も、人獣共通感染症にかかるのか……?
実に興味深いテーマだが、実験するのはリスクが大きすぎるな。
十手はは……ローレンツ君の探究心には恐れ入るよ。
十手……おっ! 向こうに建物が見えるぞ。
屋敷の主人がいれば、宿を貸してもらえるかもしれないね。
カール屋敷……というか、廃墟のようだね。
主人がいないのであれば、それはそれで好都合だ。
カールさあ、行くぞ。
ローレンツはっ、カール様!

廃墟の門は鎖と南京錠で閉じられている。
長らく管理されていない様子で、いずれもひどく錆びていた。

十手なんともおどろおどろしい場所だなぁ。
人が入らない建物の劣化のなんと早いことか……。
ローレンツこの有様を見るに、革命戦争の混乱の中で、
管理者や所有者が曖昧になったまま放棄されている可能性もある。
ローレンツもし後日所有者が現れてもトラブルにならないよう、
地図上に屋敷の場所を記して、我々が立ち入ったことを
連合軍に知らせておくとしよう。
カールおや、気が利くね、ローレンツ。頼んだよ。
さてと……僕は、この南京錠を壊すとしようか。
跳弾が当たらないよう、君たちは下がりたまえ。

カールが南京錠に狙いを定めて引き金を引くが、
銃声は響かない。

カールおっと……雨で火薬が駄目になってしまったみたいだな。
ローレンツ。
ローレンツええ。お任せを、カール様。

代わりにローレンツが銃を構えて、南京錠を撃つ。
銃声が鳴り響き、壊れた錠と鎖が地面に落ちた。

十手おお……!
ローレンツさあ、入りましょう。

建物の中で、建物の損傷が少ない部屋を見つけた3人は、
残されていた薪を使い、暖炉で暖まりつつ一休みする。

十手いやぁ、さっきは驚いたなぁ。
ローレンツ君の銃は、雨が降っても平気で使えるとは!
十手俺はこういう天気だと、火薬も火種も湿気てしまって、
傘でも持ってくれている人がいないと駄目なんだ。
ローレンツMr.十手の指火式は、原始的な方法だからな。
フリントロック式や火縄式などでも雨は克服できていないのだし、
いわんや指火式をやというところか。
十手ははは、そうだね。
ローレンツ君も古銃だが、どうして雨が平気なんだい?
ローレンツ俺の銃は、パーカッションロック式だからな。
装填後、ニップルと呼ばれる部分にパーカッションキャップ、
すなわち雷管をつける。
ローレンツそして、引き金を引き撃鉄が落ちると、雷管が発火し、
その火が火薬へ即座に移ることで発射する……
という仕組みになっている。
ローレンツ雷管の燃焼速度が非常に速いために、
火薬への点火の確実性も向上し、
天候にもさほど左右されなくなっているのだ。
ローレンツ雷管の燃焼速度は、発射までのタイムラグ短縮にも役立っている。
フリントロック式などの銃にあった発射までのタイムラグは、
俺の銃ではほとんど感じられないほどだ。
十手ああ……言われてみれば確かに!
ジョージ君たちの場合、撃鉄が落ちてから一拍置いて発射するが、
ローレンツ君の場合はほとんど同時くらいに見えるよ。
十手ぱぁかっしょん、ロック式?というのは、
凄いもんなんだなぁ……!
十手ローレンツ君と近い年代の生まれの銃は、
同じような仕組みが多いのかい?
ローレンツ……うっ。
十手ローレンツ君?
カールローレンツと近い年代か。
戦場で相対した銃といえば、ボルトアクション式の──
カール……ふむ。ここで気絶されても困るし、
名前は出さないでおくとするかねー。
ローレンツ失礼しました、カール様……。
ローレンツあー……ゴホン。
Mr.エンフィールドやMr.スプリングフィールドも、
俺と同じでパーカッションロック式だ。
ローレンツそれから、カール様とともに革命戦争で戦った貴銃士、
Mr.ゲベール、Mr.ヤーゲル、Mr.ミニエーも──

ローレンツが朗々と説明をしていた時、
突然、窓の外が眩く光り、轟音とともに地面が揺れた。

ローレンツひぃいいっ!!
十手うおっ!?
今のは随分と近くに落ちたなぁ……!
屋内に避難しておいてよかったね。
ローレンツあ、あばばばば……!
カールはっはっは! 大丈夫か、ローレンツ。
すごい震え方だが。
ローレンツダッ、だだだ大丈夫です……ッ!
雷とは膨大なエネルギーであり、恐怖は生存本能に基づい──

──ドン!

ローレンツほわぁぁああっ!!
十手ははっ、雨には強くても雷には弱いか。
いやはや。早くこの嵐が過ぎてくれるといいねぇ。

Ep2. ローレンツの手紙

──士官学校の購買にて。

ジョージう~ん……?
何か大事なものを買いにきたはずなんだけど、思い出せねーなぁ。
オレ、何しに購買に来たんだっけ……?

ジョージが購買の前で悩みつつうろうろしていると、
購買のおじさんの元気な声が聞こえてくる。

購買のおじちゃんおっ、いつもの便せんと封筒だね。
仕入先からサンプルをもらったんだが、
気に入ったのがあればいくつか持っていくかい?
ローレンツ……! いいのか?
購買のおじちゃんああ。すっかりお得意さんだからねぇ。
ローレンツ感謝する。
では、ありがたく頂戴しよう。

便せんや封筒をいくつか購入したローレンツは、
ジョージが見ているのには気づかず購買をあとにした。

ジョージローレンツ、あんなにいっぱい便せん買って何に使うんだ?
ジョージあ……! もしかして、誰かと文通でもしてるのか……!?

ジョージなーなー、シャルル。
シャルルだったら誰と文通する?
シャルルヴィルえっ、いきなりだね……?
ボクだったら、気軽には会いに行けない距離にいる、
大切な人とやり取りしたいなぁ。
シャルルヴィルあとは、文通とはちょっと違うけど、
日頃お世話になっている人や大切な人に
日頃の感謝とかの気持ちを伝えたりするのもいいよね。
シャルルヴィル手紙って、直接会って話すのとはまた違って、
ちょっとロマンティックな感じ♪
相手の人柄とか、書いてる時の気持ちが伝わってくる気もするし!
ジョージうーん……
そう考えると、ますます気になってきたぜ……!
シャルルヴィル……? っていうか、なんでいきなり文通の話?
ジョージさっきな、購買でローレンツが、便せんをたくさん買ってたんだ。
ジョージしかも、おじちゃんと話してた感じだと、
今日だけじゃなくてこれまでにも何度も買ってたみたいでさ。
グラースああ……それなら僕も何回か見かけたことあるぜ。
シャルルヴィルグラースも?
ってことは、本当にしょっちゅう買ってるんだね。
一体誰に手紙書いてるんだろう……?
グラースさあな。誰にせよ、あいつの手紙って
無駄に堅苦しくて退屈そうじゃねぇか。
シャルルヴィルそんなこと……ないかもしれないよ?
研究仲間と情報交換とかはあり得そうだけど、
意外とロマンチックなやりとりしてるかも……!
グラースんー……語彙力は無駄なくらいありそうだしな。
そういう意外な一面、ギャップってやつは、
男も女も好きなもんだ。
グラースあいつ……意外とやり手か?
カールなんだか盛り上がっているみたいだね。
なんの話だい?
シャルルヴィルカールさん、ちょうどいいところに!
ボクたち、ローレンツさんの文通相手は誰だろうって話してて。
カールさんは何か知ってる?
カールああ……確かにローレンツはよく手紙を書いているみたいだねー。
だが、誰宛てに書いているかまでは、僕も聞いたことがない。
カールむ……そういえば。
宮殿の使用人たちが、噂しているのを聞いたことがあったな。
ジョージ噂って、どんな!?
カールローレンツが、机の中に手紙を溜め込んでいるというものだ。
使用人たちは、代わりに投函する申し出をしようか、
隠しているようだし放っておくか悩んでいるようだったねー。
ジョージOh……ますます気になるな……!
グラースははっ! 見えてきたぞ、真相がな……!
あいつ、きっと誰かにラブレターを書いてみたけど、
尻込みして出せないでいるんじゃねぇか?
シャルルヴィルええ……!?
でも、気持ちはわかるかな……。
素直に想いを伝えるのって、勇気がいるもんね。
グラースラブレターなんて出してこそ意味があるってのにな。
……ったく。僕が一肌脱いでやるとするか。
グラースあいつの手紙を覗いて、悲惨だったら僕が指導してやる。
及第点ならさっさと出せって背中を押してやる。
よし、早速行くぜ♪
ジョージオレも!
シャルルヴィルちょ、ちょっと! グラース、ジョージ……!!
やめなよ~!!
カールどれ、僕も行ってみるとしようか。

グラース……お。いねぇみたいだな。

ローレンツが滞在している部屋が無人であることを確認し、
4人はそっと中へ入った。

グラースが机の引き出しを開けると、
中に大きめの缶が入っている。

グラースこれか?
ジョージおっ、ビンゴみたいだ!

缶の中には、たくさんの封筒が入っていた。
グラースが、封筒に書かれている宛名を確認する。

グラースえーっと? 『親愛なるMr.マルガリータ』?
マルガリータにMr.はねぇだろ。
それと、『偉大なるMr.レオポルト』か。
シャルルヴィル……!
レジスタンスにいた、カールさんと親しい貴銃士だよ……!
カールははっ……なるほど、そういうことか。

グラースは缶の中を覗き込み、書きかけらしい、
まだ封筒にしまわれていない便せんを見つけて手に取った。

グラースなになに? 『本日もカール様は健やかであらせられました。
陽光が温める談話室のソファで微睡む様子は、
とても穏やかで、私も幸福を噛み締めました』……。
グラース続きも全部、お前のことばっかりだな。
観察日記みてぇじゃねぇか。
ジョージOh……! ローレンツって優しいんだな☆
2人がいつか目覚めた日のために、
こうやって手紙を書いてたんだ……!
シャルルヴィル未来に向けた、優しい親愛の手紙なんだね。
素敵だなぁ……。
グラース…………。
流石に、封を開けるほど僕も野暮じゃねぇよ。
添削はなしだ。元に戻しとくか。
ジョージおう。そうしようぜ。

シャルルヴィルカールさんは、知らないフリしてないとね!
カールはっはっは。これでも腹芸は得意な方だぞー。
いつか、残りの手紙を2人と読むのを楽しみに、
何も見ていないふりを貫くとしよう。
シャルルヴィル……あっ!

4人が談話室へ戻っていると、
前方から本を抱えたローレンツがやって来るところだった。

ジョージローレンツ……!
おまえ、〇〇のことモルモットって呼んだり、
ちょっと危ないヤツかと思ってたけど、いいヤツなんだな……!
シャルルヴィル今度ボクのおすすめの便せんを差し入れするね!
よかったら、使って?
グラースなかなか一途じゃねぇか。ちょっと見直したぜ。
ローレンツは……?
な、なんなんだ、突然……?

 

Ep3. 在坂特製コーヒー

──ある日の任務帰り。

在坂……在坂は、腹が減った。
甘いものが食べたい。
邑田おお、それはよい考えじゃな、在坂や。
わしも小腹が空いたゆえ、どこぞのかふぇーにでも入ろうかの。
在坂カフェならそこにある。
八九え……マジかよ。
なんかすげー洒落てて非リアお断りで~すwみてぇな雰囲気だろ。
邑田何をわけのわからんことを言っておるのじゃ。
早う行くぞ。ほれ、〇〇もじゃ。

〇〇と在坂がショーケースの中のケーキを選ぶ中、
八九と邑田は席へと案内される。

八九(うわ……やっぱり意味わかんねぇやつばっかじゃねぇか。
コン……パナ?それともパネか?
くそっ、読み方すら謎のやつも多い……!)
店員ご注文はお決まりでしょうか?
八九あ……そ、その──。
八九(せっかくだしちょっとは洒落たもん飲みてぇけど、
そういうのはメニュー名読む時点でミスりそうだ……)
八九(……ハッ!
前に日本の雑誌でみたアレ……!
アレならいけるか……!?)
八九ウ、ウィンナーコーヒー、1つ。
店員……?
八九(マジかよ、通じねー!! な、ないのか?
でも、割と定番なんじゃ……あ、発音の問題か?
なら、もう1度──)
八九ウィ、ウィンネァカフィー?
店員ウィネ……?
八九……こ、この店の一番人気のヤツ、で。
店員はい、かしこまりました。
八九(完 全 敗 北……)
八九(くっ……!
無理してシャレたもんなんか頼もうとすんじゃなかった……!)
在坂………………。

──数日後。
談話室で徹夜明けの八九が欠伸をしていると、
在坂がコーヒーカップを持ってやってきた。

在坂八九、これを飲め。
ウィンナーコーヒーだ。
八九えっ……? お、お前が俺のために淹れてくれたのか?
マジで……!?
しかも、ウィンナーコーヒーって……。
在坂ああ。この前のカフェで、八九は
ウィンナーコーヒーが飲みたいと言っていた。
八九あー……注文するの失敗しちまったやつな。
お前、それを見ててわざわざ用意してくれたってことか。
なんかじーんときたわ……。んじゃ、早速──
八九……って、なんだこれ!!
コーヒーの中にウィンナーが浮かんでるんですけど!?!?
在坂ああ。
在坂は、ウィンナーコーヒーを作った。
八九いやいやいや、ベタすぎんだろ!!
ウィンナーコーヒーって……
ウィンナーを入れたコーヒーじゃねぇからな!?
ローレンツな……なんだと!?

談話室で本を読んでいたローレンツが、
突然立ち上がったかと思うと、
ものすごい形相で2人に詰め寄ってくる。

ローレンツごふっ……青年はおぞましい光景に衝撃を受け、よろめいた……。
香り高き黒き泉に浮かぶ圧倒的不協和の物体……
ああ、なんたる冒涜。慈悲深き神すら絶望する嘆きの詩……!
ローレンツぐっ……。

──数分後。ショックから少し復活したローレンツは、
なぜこのようなことになったのか、
八九と在坂の事情聴取をしていた。

八九いや、俺は正しいウィンナーコーヒー知ってるから。
あれだろ、ホイップクリームがウィンナーみたいに
にょろっと入ってるから見た目的にウィンナーって言うだけとか。
在坂む……在坂は、ウィンナーコーヒーとは、
ウィンナーを入れたコーヒーだと思っていた。
ローレンツ違う、違う違う違う!!
……ゴホン。失礼、取り乱してしまった。
ローレンツ俺が正しいウィーン風コーヒー、
すなわちアインシュペナーについて、徹底講義しよう。
八九アインシュペナー……?
ローレンツアインシュペナーとは、
君たちが言うウィンナー・コーヒーの正式名称だ。
八九Mr.八九の説は間違っているが、語源という意味では、
このウィンナーあるいはヴィエナー・ヴルストヒェンも、
ウィンナー・コーヒーも共通している。
ローレンツこのウィンナーは「ウィーン風」という意味であり、
前者は「ウィーン風の小さなソーセージ」
後者は「ウィーン風コーヒー」なのだ。
ローレンツそれを略したことで、あってはならない混同が起き、
この悲劇につながったのである……Q.E.D.
八九マジかよ……俺、ずっとウィンナーコーヒーのこと誤解してたわ。
ウィーンだとホイップ入れてコーヒー飲むのが主流なのか?
ローレンツいいや、そういうわけでもない。
ウィンナー・コーヒー、以降アインシュペナーと呼ぶ──
について、もう少し詳しく説明しよう。
ローレンツ「アインシュペナー」の意味は、「1頭立ての馬車」だ。
これは、戦時中馬が不足していたため、
馬車の馬が1頭だったことからきている。
ローレンツ馬車の御者たちが、次の休憩までに
飲んでいたコーヒーが冷めないよう
クリームでふたをしたのが起源だとされている。
ローレンツ他にも、馬車が揺れても
コーヒーがこぼれないようにふたをしたという説もある。
ローレンツ現代におけるアインシュペナーの定義とは、
深煎りの豆で抽出したコーヒーの上に
ふわふわに泡立てたクリームをトッピングしたものと言えよう。
ローレンツ断じてコーヒーにヴルストヒェンを浮かべたモノではないっ!!
在坂そうだったのか……。在坂は理解した。
ローレンツ理解してくれて何よりだ。
在坂だが……。
在坂ふむ。在坂は、ウィンナーを入れたコーヒーも悪くないと思う。
コーヒーの風味が、肉の脂をスッキリさせておいしい。
八九え? どれどれ?
……お、確かに。
ローレンツそのおぞましいマリアージュを楽しむのを止めたまえ……!
ローレンツくっ……今度、本当にうまいアインシュペナーを提供し
俺が自信を持って推薦する店へ君たちを連れて行く。
だから金輪際、ヴルストヒェンコーヒーは作らないように!!!

Ep4. モルモット3号!?

──ある日の任務中。

アウトレイジャー死、ネ……!
ァアアア……!!
スナイダー騒々しいだけで、俺が戦う相手としては物足りんな。
……失せろ。
スナイダー──絶対非道。
エンフィールド……っ、スナイダー!
スナイダー心銃!
アウトレイジャーギャァアァッ!!
ローレンツ……!!
スナイダー片付いた。先へ進むぞ。
エンフィールドスナイダー!
その力を使うのはよくないって、僕は何度も言ってるだろう?
スナイダーまたそれか。
高貴だろうが非道だろうが、強力な力であれば俺はなんでもいい。
スナイダー〇〇の傷なら──絶対高貴。

スナイダーは、今度は絶対高貴で、
少し悪化していた〇〇の薔薇の傷を、
元通りの状態に戻した。

主人公【ありがとう】
【助かった】
スナイダーこれで文句はないな。
エンフィールド結果としては、そうかもしれない。
だけど、〇〇さんが傷で苦しんだ時間は──
ローレンツす、素晴らしい……!
エンフィールド&スナイダー……!

突然、目を輝かせたローレンツが
スナイダーに駆け寄り手を握ろうとする。
しかし、スナイダーは後ずさりして避けた。

ローレンツ絶対高貴と絶対非道、
両方を使える貴銃士がいるという噂を耳にしたことはあったが、
本当に実在し、この目でその現場を確認できるとは……!!
ローレンツ素晴らしい……これは実に素晴らしい。
Mr.スナイダー。ぜひ俺のモルモット3号になってくれ……!
スナイダー……?
なんだ、おまえは。
騒々しい。寄るな。
ローレンツそう冷たいこと言わないでくれ。
君ほどモルモット3号に相応しい逸材はいないのだ!!
スナイダー…………。
エンフィールドあ、あの……ローレンツさん。
僕が言うのもなんですが、
スナイダーはやめた方がいいと思います……。
ローレンツなぜだ!?
彼には素晴らしいモルモットになる素質が──
スナイダーおい、モルモットとはなんだ。
エンフィールドええっと……ネズミの一種、かな?
大きめで、愛嬌がある感じの。
ローレンツその通り! とても可愛らしいテンジクネズミ科の動物だ。
ビタミンCを体内で生成できないことや、薬物に対する感度が
高いことなどから、実験動物としても重宝されている。
スナイダーほう……?
つまり、おまえは、俺を大ネズミ扱いしようと?
エンフィールド……あっ。
に、逃げてください、ローレンツさん……!!
ローレンツむ……?
スナイダー──絶対非道。
主人公【スナイダー、ストップ!】
→スナイダー「止めるな、〇〇。
あいつが消し飛ぶ様をそこで見ていろ。」

【逃げて、ローレンツ!】

→ローレンツ「くっ……止めてくれるな、モルモット2号。
俺には彼を説得する熱いミッションが──」
スナイダー──心銃。
ローレンツひぃいいいいっ!!
エンフィールドお、落ち着こう、スナイダー……!
……ローレンツさん、僕がスナイダーをなだめますから、
今のうちに……!
ローレンツし、しかし……!!
貴重な例として、是非ともデータを取らないと……!!
主人公【命を大事にしよう!】
【スナイダーはやめておこう!】
エンフィールドデータなら、僕がいくらでも情報提供しますから!
スナイダーの食べるものリストとかどうです?
偏食の傾向を網羅しています!
ローレンツ素晴らしい……! 摂取する栄養の傾向から、
ハイブリッド化の秘密が探れるかもしれない。
是非、その情報をいただこう!
スナイダー……おい。
スナイダーおまえ……わかっているのか?
俺が絶対非道にも絶対高貴にもなれるということは、
おまえなぞ〇〇には不要だ。
ローレンツ……えっ?
エンフィールドちょ……っ! 逃げて、ローレンツさん!
スナイダー──心銃!
ローレンツぎゃぁああああっ!!

スナイダーチッ……逃げ足だけは速い。
エンフィールドスナイダー、1人で勝手に進まない!
ローレンツた、助かった……。
はぁ……勧誘すらも命の危険を伴うとは……。
ローレンツ──青年は恐怖をもって悟った。
彼はモルモットではなく、猛獣だったのだと……。

Ep5. 貴銃士クラスの学級会

──ある日のフィルクレヴァート士官学校
貴銃士特別クラスにて。

恭遠……それでは、第34回学級会を始める。
今回の議題は『花瓶が割れていた件について』だ。
一同………………。
恭遠割ってしまった人、心当たりがある人、
怒らないから名乗って状況を説明してくれないか。
一同………………。
恭遠誰も名乗りを上げない、か……。
シャスポードライゼ、君なんじゃないか?
君の図体の大きさはただでさえ鬱陶しいし、
筋トレの最中にでも倒して、気づかないままだったんだろう。
ドライゼ……なんの根拠もない言いがかりだな。
俺は美化委員として、この教室のみならず
士官学校全体の美化に努めている。
ドライゼ万が一、不注意で花瓶を割ってしまったとしても、
そのまま放置などしない!
エルメドライゼの校内美化に対する努力は報われるべきものだよ。
今日だって階段の手すりに埃が溜まっていることに気づいて
生徒たちを指導していたんだから。
ジーグブルートめんどくせぇ奴らだな……。
恭遠ドライゼの活動については、
教員や美化委員の一般生徒からもいろいろ話を聞いているよ。
いつもありがとう。
恭遠では、話を戻そう。
何か見たり聞いたりした人はいないか?
八九どうせ、ベルガーあたりだろ。
ローレンツうむ……これまでのモルモット1号の行動から、
その可能性は、かなり高いと言えるだろう。
カールで、そのベルガーはどこに?
ローレンツ嘆かわしいことに、サボりのようです。
しかしご安心を。モルモット1号の行動は念入りに計算済みで、
校外に出るルートには罠を仕掛けてありますので。
グラース……つーか、あいつサボりまくってろくに教室にいねぇし、
花瓶を壊すタイミングもなさそうだよな。
十手日頃の行いに難があったとしても、冤罪はあってはいけないね。
ライク・ツーおい、マークス。
お前、匂いでわかんねーのか?
マークス……?
どういうことだ。
ライク・ツーお前、犬みてーだし。
マジでたまに匂いで〇〇の居場所とか探してるだろ。
マークスおい、俺は犬じゃねぇぞ!
エンフィールド……皆さん、お気づきですか?
ここまでで、怪しい言動をした人物がいたことに……。
ジョージええっ? 誰かいたっけ……?
エンフィールドずばり……八九さんです。
アリバイがなく、犯行に及んでもおかしくなさそうな人物に
真っ先に罪をなすりつけようとしましたね。
八九は……はぁ!? 違ぇよ!
あいつならマジでやりかねねぇからってだけで──
恭遠み、みんな、少し落ち着いてくれ……!
ケンタッキーペンシルヴァニアだろ。
あいつ、星が~とか大地が~とか言ってぼやっとしてるしよ。
またどっかふらっと行きやがったし……!!
シャルルヴィル思いっきり私怨みたいな感じだね……。

教室内は、「お前だ」「あいつだ」「違う」「絶対そうだ」など
貴銃士たちの言い合いと小競り合いで大混乱に陥る。

その時──ジャン!ジャン!ジャン!と
激しいクラシック音楽が流れ始めた。

グラースうおっ!?
ミカエルおや。
ヴェルディのレクイエム『怒りの日』か……いいね。
ローレンツ流石はMr.ミカエル。ご明察だ。
この教室にぴったりな曲だろう?
ジーグブルートおい、勝手にBGMみてぇなの付けるんじゃねぇ!
ローレンツはぁ……誤解してほしくないのだが、
俺は面白がってこの曲を流したのではない。
ローレンツ怒りと混沌に呑まれたこの教室の雰囲気を、
客観的に音楽で表現してみただけのことだ。
シャスポー客観的に……そうだな。
認めるのは癪だけれど、さっきまでの教室は確かに、
この荒々しい旋律みたいな状態だったかもしれない。
ドライゼああ……。
多くの者が激情に囚われ、裁きを下そうとしていた。
恭遠ありがとう、ローレンツ。
おかげで、混乱も穏便に鎮められたよ。
ローレンツふっ……礼や称賛は、
ハプスブルク家の知恵へ向けられるべきだろう。
ローレンツ巨大なハプスブルク帝国の首都であったウィーンにおいて、
音楽はさまざまな民族をまとめる重要な役割を担っていたという。
ローレンツ皇帝の宮廷楽団から貴族たちの楽団、そして地方へ。
地方から、再びウィーンへ……。
寄せては返す波のように続き、発展し続け、そしてまとまる。
ローレンツ調和と発展……ああ、素晴らしい流儀だ。
十手……なあ、俺から1つ提案なんだが。
犯人探しはやめにして、再発防止について考えたらどうだい?
十手もしかしたら、うっかり割ってしまって、
本人も気づいていないのかもしれないし。
十手もし心当たりがあっても、衆人環視では名乗りづらいだろう。
心当たりがある人がいれば、恭遠教官にあとで申し出ればいいさ。
恭遠そうだな……。
よし、議題を改めるとしよう。
ドライゼ割れた花瓶については、俺が修復しておく。
預かっても構わないか?
恭遠ああ、もちろんだ。助かるよ。
ジョージはいはーい! 次の議題はオレから提案するぜっ☆
ドライゼ………………。
ドライゼ(……予想外に、大事になってしまったな。
花瓶を処理する前に学級会になってしまうとは……)
ドライゼ(俺に驚いたローレンツが気絶した拍子に割った花瓶を、
あとで片づけようとしたのがまずかった。
いや……介助を優先したのは間違っていないと思いたいが……)
ドライゼ(議論も良い方向に向かってることだ。
割ったのがローレンツだという事実は、
彼の名誉のためにも伏せておくとするか……)

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