青年は自らの過ちで価値観を書き換えられてしまった。
実験対象を崇拝し、花束を贈る青年は、果たして元に戻れるのだろうか?
静寂の夜空を彩るは煌めく星々。キラキラと輝く星屑に重ねるは、愛おしいモノらの姿。
舞い落ちる一筋の光を見つめ、守りたいと願いをそっとつぶやく。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
ある日、任務を終えたカール、ローレンツ、十手の3人は、
フィルクレヴァート連合士官学校への帰路を急いでいた。
十手 | すっかり暗くなってしまったなぁ。 |
---|---|
ローレンツ | ……まずいな。 |
十手 | ん? どうしてだい? |
ローレンツ | なぜなら、今夜の降水確率は90%──……。 |
カール | おや。予報通り降ってきたね。 |
ローレンツ | 士官学校まではまだ距離があります。 カール様、どこかで雨宿りしましょう。 |
カール | うむ。そうだねー。この雨では足元も悪いし、 無理をして進み続けるのはやめておこうか。 |
3人は、洞窟や廃屋など、雨をしのげる場所を探して歩き回る。
ウォーン……
十手 | オオカミ……いや、野犬かな。 出くわしてしまったら厄介そうだ……。 |
---|---|
ローレンツ | 俺たち貴銃士も、人獣共通感染症にかかるのか……? 実に興味深いテーマだが、実験するのはリスクが大きすぎるな。 |
十手 | はは……ローレンツ君の探究心には恐れ入るよ。 |
十手 | ……おっ! 向こうに建物が見えるぞ。 屋敷の主人がいれば、宿を貸してもらえるかもしれないね。 |
カール | 屋敷……というか、廃墟のようだね。 主人がいないのであれば、それはそれで好都合だ。 |
カール | さあ、行くぞ。 |
ローレンツ | はっ、カール様! |
廃墟の門は鎖と南京錠で閉じられている。
長らく管理されていない様子で、いずれもひどく錆びていた。
十手 | なんともおどろおどろしい場所だなぁ。 人が入らない建物の劣化のなんと早いことか……。 |
---|---|
ローレンツ | この有様を見るに、革命戦争の混乱の中で、 管理者や所有者が曖昧になったまま放棄されている可能性もある。 |
ローレンツ | もし後日所有者が現れてもトラブルにならないよう、 地図上に屋敷の場所を記して、我々が立ち入ったことを 連合軍に知らせておくとしよう。 |
カール | おや、気が利くね、ローレンツ。頼んだよ。 さてと……僕は、この南京錠を壊すとしようか。 跳弾が当たらないよう、君たちは下がりたまえ。 |
カールが南京錠に狙いを定めて引き金を引くが、
銃声は響かない。
カール | おっと……雨で火薬が駄目になってしまったみたいだな。 ローレンツ。 |
---|---|
ローレンツ | ええ。お任せを、カール様。 |
代わりにローレンツが銃を構えて、南京錠を撃つ。
銃声が鳴り響き、壊れた錠と鎖が地面に落ちた。
十手 | おお……! |
---|---|
ローレンツ | さあ、入りましょう。 |
建物の中で、建物の損傷が少ない部屋を見つけた3人は、
残されていた薪を使い、暖炉で暖まりつつ一休みする。
十手 | いやぁ、さっきは驚いたなぁ。 ローレンツ君の銃は、雨が降っても平気で使えるとは! |
---|---|
十手 | 俺はこういう天気だと、火薬も火種も湿気てしまって、 傘でも持ってくれている人がいないと駄目なんだ。 |
ローレンツ | Mr.十手の指火式は、原始的な方法だからな。 フリントロック式や火縄式などでも雨は克服できていないのだし、 いわんや指火式をやというところか。 |
十手 | ははは、そうだね。 ローレンツ君も古銃だが、どうして雨が平気なんだい? |
ローレンツ | 俺の銃は、パーカッションロック式だからな。 装填後、ニップルと呼ばれる部分にパーカッションキャップ、 すなわち雷管をつける。 |
ローレンツ | そして、引き金を引き撃鉄が落ちると、雷管が発火し、 その火が火薬へ即座に移ることで発射する…… という仕組みになっている。 |
ローレンツ | 雷管の燃焼速度が非常に速いために、 火薬への点火の確実性も向上し、 天候にもさほど左右されなくなっているのだ。 |
ローレンツ | 雷管の燃焼速度は、発射までのタイムラグ短縮にも役立っている。 フリントロック式などの銃にあった発射までのタイムラグは、 俺の銃ではほとんど感じられないほどだ。 |
十手 | ああ……言われてみれば確かに! ジョージ君たちの場合、撃鉄が落ちてから一拍置いて発射するが、 ローレンツ君の場合はほとんど同時くらいに見えるよ。 |
十手 | ぱぁかっしょん、ロック式?というのは、 凄いもんなんだなぁ……! |
十手 | ローレンツ君と近い年代の生まれの銃は、 同じような仕組みが多いのかい? |
ローレンツ | ……うっ。 |
十手 | ローレンツ君? |
カール | ローレンツと近い年代か。 戦場で相対した銃といえば、ボルトアクション式の── |
カール | ……ふむ。ここで気絶されても困るし、 名前は出さないでおくとするかねー。 |
ローレンツ | 失礼しました、カール様……。 |
ローレンツ | あー……ゴホン。 Mr.エンフィールドやMr.スプリングフィールドも、 俺と同じでパーカッションロック式だ。 |
ローレンツ | それから、カール様とともに革命戦争で戦った貴銃士、 Mr.ゲベール、Mr.ヤーゲル、Mr.ミニエーも── |
ローレンツが朗々と説明をしていた時、
突然、窓の外が眩く光り、轟音とともに地面が揺れた。
ローレンツ | ひぃいいっ!! |
---|---|
十手 | うおっ!? 今のは随分と近くに落ちたなぁ……! 屋内に避難しておいてよかったね。 |
ローレンツ | あ、あばばばば……! |
カール | はっはっは! 大丈夫か、ローレンツ。 すごい震え方だが。 |
ローレンツ | ダッ、だだだ大丈夫です……ッ! 雷とは膨大なエネルギーであり、恐怖は生存本能に基づい── |
──ドン!
ローレンツ | ほわぁぁああっ!! |
---|---|
十手 | ははっ、雨には強くても雷には弱いか。 いやはや。早くこの嵐が過ぎてくれるといいねぇ。 |
──士官学校の購買にて。
ジョージ | う~ん……? 何か大事なものを買いにきたはずなんだけど、思い出せねーなぁ。 オレ、何しに購買に来たんだっけ……? |
---|
ジョージが購買の前で悩みつつうろうろしていると、
購買のおじさんの元気な声が聞こえてくる。
購買のおじちゃん | おっ、いつもの便せんと封筒だね。 仕入先からサンプルをもらったんだが、 気に入ったのがあればいくつか持っていくかい? |
---|---|
ローレンツ | ……! いいのか? |
購買のおじちゃん | ああ。すっかりお得意さんだからねぇ。 |
ローレンツ | 感謝する。 では、ありがたく頂戴しよう。 |
便せんや封筒をいくつか購入したローレンツは、
ジョージが見ているのには気づかず購買をあとにした。
ジョージ | ローレンツ、あんなにいっぱい便せん買って何に使うんだ? |
---|---|
ジョージ | あ……! もしかして、誰かと文通でもしてるのか……!? |
ジョージ | なーなー、シャルル。 シャルルだったら誰と文通する? |
---|---|
シャルルヴィル | えっ、いきなりだね……? ボクだったら、気軽には会いに行けない距離にいる、 大切な人とやり取りしたいなぁ。 |
シャルルヴィル | あとは、文通とはちょっと違うけど、 日頃お世話になっている人や大切な人に 日頃の感謝とかの気持ちを伝えたりするのもいいよね。 |
シャルルヴィル | 手紙って、直接会って話すのとはまた違って、 ちょっとロマンティックな感じ♪ 相手の人柄とか、書いてる時の気持ちが伝わってくる気もするし! |
ジョージ | うーん…… そう考えると、ますます気になってきたぜ……! |
シャルルヴィル | ……? っていうか、なんでいきなり文通の話? |
ジョージ | さっきな、購買でローレンツが、便せんをたくさん買ってたんだ。 |
ジョージ | しかも、おじちゃんと話してた感じだと、 今日だけじゃなくてこれまでにも何度も買ってたみたいでさ。 |
グラース | ああ……それなら僕も何回か見かけたことあるぜ。 |
シャルルヴィル | グラースも? ってことは、本当にしょっちゅう買ってるんだね。 一体誰に手紙書いてるんだろう……? |
グラース | さあな。誰にせよ、あいつの手紙って 無駄に堅苦しくて退屈そうじゃねぇか。 |
シャルルヴィル | そんなこと……ないかもしれないよ? 研究仲間と情報交換とかはあり得そうだけど、 意外とロマンチックなやりとりしてるかも……! |
グラース | んー……語彙力は無駄なくらいありそうだしな。 そういう意外な一面、ギャップってやつは、 男も女も好きなもんだ。 |
グラース | あいつ……意外とやり手か? |
カール | なんだか盛り上がっているみたいだね。 なんの話だい? |
シャルルヴィル | カールさん、ちょうどいいところに! ボクたち、ローレンツさんの文通相手は誰だろうって話してて。 カールさんは何か知ってる? |
カール | ああ……確かにローレンツはよく手紙を書いているみたいだねー。 だが、誰宛てに書いているかまでは、僕も聞いたことがない。 |
カール | む……そういえば。 宮殿の使用人たちが、噂しているのを聞いたことがあったな。 |
ジョージ | 噂って、どんな!? |
カール | ローレンツが、机の中に手紙を溜め込んでいるというものだ。 使用人たちは、代わりに投函する申し出をしようか、 隠しているようだし放っておくか悩んでいるようだったねー。 |
ジョージ | Oh……ますます気になるな……! |
グラース | ははっ! 見えてきたぞ、真相がな……! あいつ、きっと誰かにラブレターを書いてみたけど、 尻込みして出せないでいるんじゃねぇか? |
シャルルヴィル | ええ……!? でも、気持ちはわかるかな……。 素直に想いを伝えるのって、勇気がいるもんね。 |
グラース | ラブレターなんて出してこそ意味があるってのにな。 ……ったく。僕が一肌脱いでやるとするか。 |
グラース | あいつの手紙を覗いて、悲惨だったら僕が指導してやる。 及第点ならさっさと出せって背中を押してやる。 よし、早速行くぜ♪ |
ジョージ | オレも! |
シャルルヴィル | ちょ、ちょっと! グラース、ジョージ……!! やめなよ~!! |
カール | どれ、僕も行ってみるとしようか。 |
グラース | ……お。いねぇみたいだな。 |
---|
ローレンツが滞在している部屋が無人であることを確認し、
4人はそっと中へ入った。
グラースが机の引き出しを開けると、
中に大きめの缶が入っている。
グラース | これか? |
---|---|
ジョージ | おっ、ビンゴみたいだ! |
缶の中には、たくさんの封筒が入っていた。
グラースが、封筒に書かれている宛名を確認する。
グラース | えーっと? 『親愛なるMr.マルガリータ』? マルガリータにMr.はねぇだろ。 それと、『偉大なるMr.レオポルト』か。 |
---|---|
シャルルヴィル | ……! レジスタンスにいた、カールさんと親しい貴銃士だよ……! |
カール | ははっ……なるほど、そういうことか。 |
グラースは缶の中を覗き込み、書きかけらしい、
まだ封筒にしまわれていない便せんを見つけて手に取った。
グラース | なになに? 『本日もカール様は健やかであらせられました。 陽光が温める談話室のソファで微睡む様子は、 とても穏やかで、私も幸福を噛み締めました』……。 |
---|---|
グラース | 続きも全部、お前のことばっかりだな。 観察日記みてぇじゃねぇか。 |
ジョージ | Oh……! ローレンツって優しいんだな☆ 2人がいつか目覚めた日のために、 こうやって手紙を書いてたんだ……! |
シャルルヴィル | 未来に向けた、優しい親愛の手紙なんだね。 素敵だなぁ……。 |
グラース | …………。 流石に、封を開けるほど僕も野暮じゃねぇよ。 添削はなしだ。元に戻しとくか。 |
ジョージ | おう。そうしようぜ。 |
シャルルヴィル | カールさんは、知らないフリしてないとね! |
---|---|
カール | はっはっは。これでも腹芸は得意な方だぞー。 いつか、残りの手紙を2人と読むのを楽しみに、 何も見ていないふりを貫くとしよう。 |
シャルルヴィル | ……あっ! |
4人が談話室へ戻っていると、
前方から本を抱えたローレンツがやって来るところだった。
ジョージ | ローレンツ……! おまえ、〇〇のことモルモットって呼んだり、 ちょっと危ないヤツかと思ってたけど、いいヤツなんだな……! |
---|---|
シャルルヴィル | 今度ボクのおすすめの便せんを差し入れするね! よかったら、使って? |
グラース | なかなか一途じゃねぇか。ちょっと見直したぜ。 |
ローレンツ | は……? な、なんなんだ、突然……? |
──ある日の任務帰り。
在坂 | ……在坂は、腹が減った。 甘いものが食べたい。 |
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邑田 | おお、それはよい考えじゃな、在坂や。 わしも小腹が空いたゆえ、どこぞのかふぇーにでも入ろうかの。 |
在坂 | カフェならそこにある。 |
八九 | え……マジかよ。 なんかすげー洒落てて非リアお断りで~すwみてぇな雰囲気だろ。 |
邑田 | 何をわけのわからんことを言っておるのじゃ。 早う行くぞ。ほれ、〇〇もじゃ。 |
〇〇と在坂がショーケースの中のケーキを選ぶ中、
八九と邑田は席へと案内される。
八九 | (うわ……やっぱり意味わかんねぇやつばっかじゃねぇか。 コン……パナ?それともパネか? くそっ、読み方すら謎のやつも多い……!) |
---|---|
店員 | ご注文はお決まりでしょうか? |
八九 | あ……そ、その──。 |
八九 | (せっかくだしちょっとは洒落たもん飲みてぇけど、 そういうのはメニュー名読む時点でミスりそうだ……) |
八九 | (……ハッ! 前に日本の雑誌でみたアレ……! アレならいけるか……!?) |
八九 | ウ、ウィンナーコーヒー、1つ。 |
店員 | ……? |
八九 | (マジかよ、通じねー!! な、ないのか? でも、割と定番なんじゃ……あ、発音の問題か? なら、もう1度──) |
八九 | ウィ、ウィンネァカフィー? |
店員 | ウィネ……? |
八九 | ……こ、この店の一番人気のヤツ、で。 |
店員 | はい、かしこまりました。 |
八九 | (完 全 敗 北……) |
八九 | (くっ……! 無理してシャレたもんなんか頼もうとすんじゃなかった……!) |
在坂 | ………………。 |
──数日後。
談話室で徹夜明けの八九が欠伸をしていると、
在坂がコーヒーカップを持ってやってきた。
在坂 | 八九、これを飲め。 ウィンナーコーヒーだ。 |
---|---|
八九 | えっ……? お、お前が俺のために淹れてくれたのか? マジで……!? しかも、ウィンナーコーヒーって……。 |
在坂 | ああ。この前のカフェで、八九は ウィンナーコーヒーが飲みたいと言っていた。 |
八九 | あー……注文するの失敗しちまったやつな。 お前、それを見ててわざわざ用意してくれたってことか。 なんかじーんときたわ……。んじゃ、早速── |
八九 | ……って、なんだこれ!! コーヒーの中にウィンナーが浮かんでるんですけど!?!? |
在坂 | ああ。 在坂は、ウィンナーコーヒーを作った。 |
八九 | いやいやいや、ベタすぎんだろ!! ウィンナーコーヒーって…… ウィンナーを入れたコーヒーじゃねぇからな!? |
ローレンツ | な……なんだと!? |
談話室で本を読んでいたローレンツが、
突然立ち上がったかと思うと、
ものすごい形相で2人に詰め寄ってくる。
ローレンツ | ごふっ……青年はおぞましい光景に衝撃を受け、よろめいた……。 香り高き黒き泉に浮かぶ圧倒的不協和の物体…… ああ、なんたる冒涜。慈悲深き神すら絶望する嘆きの詩……! |
---|---|
ローレンツ | ぐっ……。 |
──数分後。ショックから少し復活したローレンツは、
なぜこのようなことになったのか、
八九と在坂の事情聴取をしていた。
八九 | いや、俺は正しいウィンナーコーヒー知ってるから。 あれだろ、ホイップクリームがウィンナーみたいに にょろっと入ってるから見た目的にウィンナーって言うだけとか。 |
---|---|
在坂 | む……在坂は、ウィンナーコーヒーとは、 ウィンナーを入れたコーヒーだと思っていた。 |
ローレンツ | 違う、違う違う違う!! ……ゴホン。失礼、取り乱してしまった。 |
ローレンツ | 俺が正しいウィーン風コーヒー、 すなわちアインシュペナーについて、徹底講義しよう。 |
八九 | アインシュペナー……? |
ローレンツ | アインシュペナーとは、 君たちが言うウィンナー・コーヒーの正式名称だ。 |
八九 | Mr.八九の説は間違っているが、語源という意味では、 このウィンナーあるいはヴィエナー・ヴルストヒェンも、 ウィンナー・コーヒーも共通している。 |
ローレンツ | このウィンナーは「ウィーン風」という意味であり、 前者は「ウィーン風の小さなソーセージ」 後者は「ウィーン風コーヒー」なのだ。 |
ローレンツ | それを略したことで、あってはならない混同が起き、 この悲劇につながったのである……Q.E.D. |
八九 | マジかよ……俺、ずっとウィンナーコーヒーのこと誤解してたわ。 ウィーンだとホイップ入れてコーヒー飲むのが主流なのか? |
ローレンツ | いいや、そういうわけでもない。 ウィンナー・コーヒー、以降アインシュペナーと呼ぶ── について、もう少し詳しく説明しよう。 |
ローレンツ | 「アインシュペナー」の意味は、「1頭立ての馬車」だ。 これは、戦時中馬が不足していたため、 馬車の馬が1頭だったことからきている。 |
ローレンツ | 馬車の御者たちが、次の休憩までに 飲んでいたコーヒーが冷めないよう クリームでふたをしたのが起源だとされている。 |
ローレンツ | 他にも、馬車が揺れても コーヒーがこぼれないようにふたをしたという説もある。 |
ローレンツ | 現代におけるアインシュペナーの定義とは、 深煎りの豆で抽出したコーヒーの上に ふわふわに泡立てたクリームをトッピングしたものと言えよう。 |
ローレンツ | 断じてコーヒーにヴルストヒェンを浮かべたモノではないっ!! |
在坂 | そうだったのか……。在坂は理解した。 |
ローレンツ | 理解してくれて何よりだ。 |
在坂 | だが……。 |
在坂 | ふむ。在坂は、ウィンナーを入れたコーヒーも悪くないと思う。 コーヒーの風味が、肉の脂をスッキリさせておいしい。 |
八九 | え? どれどれ? ……お、確かに。 |
ローレンツ | そのおぞましいマリアージュを楽しむのを止めたまえ……! |
ローレンツ | くっ……今度、本当にうまいアインシュペナーを提供し 俺が自信を持って推薦する店へ君たちを連れて行く。 だから金輪際、ヴルストヒェンコーヒーは作らないように!!! |
──ある日の任務中。
アウトレイジャー | 死、ネ……! ァアアア……!! |
---|---|
スナイダー | 騒々しいだけで、俺が戦う相手としては物足りんな。 ……失せろ。 |
スナイダー | ──絶対非道。 |
エンフィールド | ……っ、スナイダー! |
スナイダー | 心銃! |
アウトレイジャー | ギャァアァッ!! |
ローレンツ | ……!! |
スナイダー | 片付いた。先へ進むぞ。 |
エンフィールド | スナイダー! その力を使うのはよくないって、僕は何度も言ってるだろう? |
スナイダー | またそれか。 高貴だろうが非道だろうが、強力な力であれば俺はなんでもいい。 |
スナイダー | 〇〇の傷なら──絶対高貴。 |
スナイダーは、今度は絶対高貴で、
少し悪化していた〇〇の薔薇の傷を、
元通りの状態に戻した。
主人公 | 【ありがとう】 【助かった】 |
---|---|
スナイダー | これで文句はないな。 |
エンフィールド | 結果としては、そうかもしれない。 だけど、〇〇さんが傷で苦しんだ時間は── |
ローレンツ | す、素晴らしい……! |
エンフィールド&スナイダー | ……! |
突然、目を輝かせたローレンツが
スナイダーに駆け寄り手を握ろうとする。
しかし、スナイダーは後ずさりして避けた。
ローレンツ | 絶対高貴と絶対非道、 両方を使える貴銃士がいるという噂を耳にしたことはあったが、 本当に実在し、この目でその現場を確認できるとは……!! |
---|---|
ローレンツ | 素晴らしい……これは実に素晴らしい。 Mr.スナイダー。ぜひ俺のモルモット3号になってくれ……! |
スナイダー | ……? なんだ、おまえは。 騒々しい。寄るな。 |
ローレンツ | そう冷たいこと言わないでくれ。 君ほどモルモット3号に相応しい逸材はいないのだ!! |
スナイダー | …………。 |
エンフィールド | あ、あの……ローレンツさん。 僕が言うのもなんですが、 スナイダーはやめた方がいいと思います……。 |
ローレンツ | なぜだ!? 彼には素晴らしいモルモットになる素質が── |
スナイダー | おい、モルモットとはなんだ。 |
エンフィールド | ええっと……ネズミの一種、かな? 大きめで、愛嬌がある感じの。 |
ローレンツ | その通り! とても可愛らしいテンジクネズミ科の動物だ。 ビタミンCを体内で生成できないことや、薬物に対する感度が 高いことなどから、実験動物としても重宝されている。 |
スナイダー | ほう……? つまり、おまえは、俺を大ネズミ扱いしようと? |
エンフィールド | ……あっ。 に、逃げてください、ローレンツさん……!! |
ローレンツ | む……? |
スナイダー | ──絶対非道。 |
主人公 | 【スナイダー、ストップ!】 →スナイダー「止めるな、〇〇。 あいつが消し飛ぶ様をそこで見ていろ。」 【逃げて、ローレンツ!】 →ローレンツ「くっ……止めてくれるな、モルモット2号。 俺には彼を説得する熱いミッションが──」 |
スナイダー | ──心銃。 |
ローレンツ | ひぃいいいいっ!! |
エンフィールド | お、落ち着こう、スナイダー……! ……ローレンツさん、僕がスナイダーをなだめますから、 今のうちに……! |
ローレンツ | し、しかし……!! 貴重な例として、是非ともデータを取らないと……!! |
主人公 | 【命を大事にしよう!】 【スナイダーはやめておこう!】 |
エンフィールド | データなら、僕がいくらでも情報提供しますから! スナイダーの食べるものリストとかどうです? 偏食の傾向を網羅しています! |
ローレンツ | 素晴らしい……! 摂取する栄養の傾向から、 ハイブリッド化の秘密が探れるかもしれない。 是非、その情報をいただこう! |
スナイダー | ……おい。 |
スナイダー | おまえ……わかっているのか? 俺が絶対非道にも絶対高貴にもなれるということは、 おまえなぞ〇〇には不要だ。 |
ローレンツ | ……えっ? |
エンフィールド | ちょ……っ! 逃げて、ローレンツさん! |
スナイダー | ──心銃! |
ローレンツ | ぎゃぁああああっ!! |
スナイダー | チッ……逃げ足だけは速い。 |
---|---|
エンフィールド | スナイダー、1人で勝手に進まない! |
ローレンツ | た、助かった……。 はぁ……勧誘すらも命の危険を伴うとは……。 |
ローレンツ | ──青年は恐怖をもって悟った。 彼はモルモットではなく、猛獣だったのだと……。 |
──ある日のフィルクレヴァート士官学校
貴銃士特別クラスにて。
恭遠 | ……それでは、第34回学級会を始める。 今回の議題は『花瓶が割れていた件について』だ。 |
---|---|
一同 | ………………。 |
恭遠 | 割ってしまった人、心当たりがある人、 怒らないから名乗って状況を説明してくれないか。 |
一同 | ………………。 |
恭遠 | 誰も名乗りを上げない、か……。 |
シャスポー | ドライゼ、君なんじゃないか? 君の図体の大きさはただでさえ鬱陶しいし、 筋トレの最中にでも倒して、気づかないままだったんだろう。 |
ドライゼ | ……なんの根拠もない言いがかりだな。 俺は美化委員として、この教室のみならず 士官学校全体の美化に努めている。 |
ドライゼ | 万が一、不注意で花瓶を割ってしまったとしても、 そのまま放置などしない! |
エルメ | ドライゼの校内美化に対する努力は報われるべきものだよ。 今日だって階段の手すりに埃が溜まっていることに気づいて 生徒たちを指導していたんだから。 |
ジーグブルート | めんどくせぇ奴らだな……。 |
恭遠 | ドライゼの活動については、 教員や美化委員の一般生徒からもいろいろ話を聞いているよ。 いつもありがとう。 |
恭遠 | では、話を戻そう。 何か見たり聞いたりした人はいないか? |
八九 | どうせ、ベルガーあたりだろ。 |
ローレンツ | うむ……これまでのモルモット1号の行動から、 その可能性は、かなり高いと言えるだろう。 |
カール | で、そのベルガーはどこに? |
ローレンツ | 嘆かわしいことに、サボりのようです。 しかしご安心を。モルモット1号の行動は念入りに計算済みで、 校外に出るルートには罠を仕掛けてありますので。 |
グラース | ……つーか、あいつサボりまくってろくに教室にいねぇし、 花瓶を壊すタイミングもなさそうだよな。 |
十手 | 日頃の行いに難があったとしても、冤罪はあってはいけないね。 |
ライク・ツー | おい、マークス。 お前、匂いでわかんねーのか? |
マークス | ……? どういうことだ。 |
ライク・ツー | お前、犬みてーだし。 マジでたまに匂いで〇〇の居場所とか探してるだろ。 |
マークス | おい、俺は犬じゃねぇぞ! |
エンフィールド | ……皆さん、お気づきですか? ここまでで、怪しい言動をした人物がいたことに……。 |
ジョージ | ええっ? 誰かいたっけ……? |
エンフィールド | ずばり……八九さんです。 アリバイがなく、犯行に及んでもおかしくなさそうな人物に 真っ先に罪をなすりつけようとしましたね。 |
八九 | は……はぁ!? 違ぇよ! あいつならマジでやりかねねぇからってだけで── |
恭遠 | み、みんな、少し落ち着いてくれ……! |
ケンタッキー | ペンシルヴァニアだろ。 あいつ、星が~とか大地が~とか言ってぼやっとしてるしよ。 またどっかふらっと行きやがったし……!! |
シャルルヴィル | 思いっきり私怨みたいな感じだね……。 |
教室内は、「お前だ」「あいつだ」「違う」「絶対そうだ」など
貴銃士たちの言い合いと小競り合いで大混乱に陥る。
その時──ジャン!ジャン!ジャン!と
激しいクラシック音楽が流れ始めた。
グラース | うおっ!? |
---|---|
ミカエル | おや。 ヴェルディのレクイエム『怒りの日』か……いいね。 |
ローレンツ | 流石はMr.ミカエル。ご明察だ。 この教室にぴったりな曲だろう? |
ジーグブルート | おい、勝手にBGMみてぇなの付けるんじゃねぇ! |
ローレンツ | はぁ……誤解してほしくないのだが、 俺は面白がってこの曲を流したのではない。 |
ローレンツ | 怒りと混沌に呑まれたこの教室の雰囲気を、 客観的に音楽で表現してみただけのことだ。 |
シャスポー | 客観的に……そうだな。 認めるのは癪だけれど、さっきまでの教室は確かに、 この荒々しい旋律みたいな状態だったかもしれない。 |
ドライゼ | ああ……。 多くの者が激情に囚われ、裁きを下そうとしていた。 |
恭遠 | ありがとう、ローレンツ。 おかげで、混乱も穏便に鎮められたよ。 |
ローレンツ | ふっ……礼や称賛は、 ハプスブルク家の知恵へ向けられるべきだろう。 |
ローレンツ | 巨大なハプスブルク帝国の首都であったウィーンにおいて、 音楽はさまざまな民族をまとめる重要な役割を担っていたという。 |
ローレンツ | 皇帝の宮廷楽団から貴族たちの楽団、そして地方へ。 地方から、再びウィーンへ……。 寄せては返す波のように続き、発展し続け、そしてまとまる。 |
ローレンツ | 調和と発展……ああ、素晴らしい流儀だ。 |
十手 | ……なあ、俺から1つ提案なんだが。 犯人探しはやめにして、再発防止について考えたらどうだい? |
十手 | もしかしたら、うっかり割ってしまって、 本人も気づいていないのかもしれないし。 |
十手 | もし心当たりがあっても、衆人環視では名乗りづらいだろう。 心当たりがある人がいれば、恭遠教官にあとで申し出ればいいさ。 |
恭遠 | そうだな……。 よし、議題を改めるとしよう。 |
ドライゼ | 割れた花瓶については、俺が修復しておく。 預かっても構わないか? |
恭遠 | ああ、もちろんだ。助かるよ。 |
ジョージ | はいはーい! 次の議題はオレから提案するぜっ☆ |
ドライゼ | ………………。 |
ドライゼ | (……予想外に、大事になってしまったな。 花瓶を処理する前に学級会になってしまうとは……) |
ドライゼ | (俺に驚いたローレンツが気絶した拍子に割った花瓶を、 あとで片づけようとしたのがまずかった。 いや……介助を優先したのは間違っていないと思いたいが……) |
ドライゼ | (議論も良い方向に向かってることだ。 割ったのがローレンツだという事実は、 彼の名誉のためにも伏せておくとするか……) |
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