南仏の穏やかな風が駆け抜ける海辺の別荘で、シャルルヴィルは元マスターのことを思う。
その心は、今日の海と同じように凪いでいた。
前にロジェさんと、この海に来た時はね。
まだ色々大変な頃で……ビーチでも、結局一人ぼっちで。
だけど今は、もう一人じゃない。それが、本当にうれしいんだ。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
──南フランスにあるリリエンフェルト家別荘にて。
シャルルヴィルたちはバカンスを過ごしていた。
| シャルルヴィル | …………。 |
|---|---|
| シャルルヴィル | (ボク、カトラリーくんとあんまり話したことないんだよね……。 どういう風に話しかけようかな……。 まずは、無難な声かけがいいよね) |
| シャルルヴィル | カトラリーくん、楽しめてる? |
| シャルルヴィル | 目の前はプライベートビーチだし、ここも貸し切りだから、 人の目とか気にしないで、のんびり過ごしてね。 |
| カトラリー | ……どうも。 |
| カトラリー | あんたはリリエンフェルト家のおかげで、 今も豪勢な生活ができてるんだ? よかったね。 |
| シャルルヴィル | えっ……と、別にそういうわけでもないけど……。 いろいろあったから、ロジェさんなりに──って、 こういう話はよくって……! |
| シャルルヴィル | カトラリーくんは、ベルギー生まれなんだよね。 ベルギーってワッフルとかチョコレートとか、 美味しいものいっぱいでいいよね! |
| シャルルヴィル | ボク、スイーツ大好きなんだ。 今度食べに行ってみたいな~! |
| カトラリー | 美味しいお菓子くらい、フランスにたくさんあるでしょ。 わざわざベルギーに来るほどでもないんじゃない? |
| シャルルヴィル | そ、そうかな……? |
| カトラリー | …………。 |
| シャルルヴィル | …………。 |
| シャルルヴィル | (き、気まずい……! こうなったら……) |
| シャルルヴィル | ……ね! ちょっと、ドリンクでもどうかな。ついて来て! |
| カトラリー | は? 急になんなの? |
| シャルルヴィル | ほら、〇〇もローレンツさんも! |
シャルルヴィルが全員を連れてやってきたのは、
落ち着いた内装のバーだった。
| バーテンダー | いらっしゃいませ、シャルルヴィル様。 ご学友の皆様方。 |
|---|---|
| シャルルヴィル | Bonjour♪ みんなにドリンクお願いしてもいいかな? 学生さんもいるからノンアルコールで。 |
| バーテンダー | かしこまりました。 |
| ローレンツ | ……馴染みの店のようだな。 |
| シャルルヴィル | 南フランスに来たときは寄ってるんだ。 店長さんがいい人だし、何より美味しいんだ♪ |
| 主人公 | 【バーが行きつけなのは意外だ】 【実はお酒が好き?】 |
| シャルルヴィル | ふふっ、ここはノンアルコールのドリンクもたくさんあるんだよ。 それに、甘いのからビターなのまで、 いろんなチョコレートも取り揃えてあるんだ。 |
| ローレンツ | ふむ……Mr.シャルルヴィルにとって、 半ばカフェのようなくつろぎの場ということか。 |
| シャルルヴィル | そういう感じ。 あとね、イメージドリンクっていうのかな? |
| シャルルヴィル | 店長さんが、一人ひとりのイメージに合わせた オリジナルドリンクを作ってくれるから…… それもあって通ってるんだ。 |
| 主人公 | 【面白そう!】 |
| ローレンツ | 興味深いシステムだ。 しかし、「それもあって」とは? 一度来れば、自分のイメージドリンクはわかるだろう。 |
| シャルルヴィル | そ、そこは気にしなくていいでしょ! 店長さん、今日も素敵なカクテルをお願い! |
| バーテンダー | はい。 お任せください。 |
| バーテンダー | まずはローレンツ様に、こちらを。 知的さを感じるブルーキュラソーシロップに、 トニックウォーターとライムジュースを合わせました。 |
| ローレンツ | おお……素晴らしい! 弾ける青き知性の輝き! まるで幻想のドナウ川のようだ……。 |
| バーテンダー | 次に〇〇様へ、こちらを。 オレンジジュースをベースに、グレナデンシロップを加え ローズペタルを散らしました。勇気と優しさを表現しております。 |
| 主人公 | 【ありがとうございます】 【美味しそう!!】 |
| シャルルヴィル | 知的さに、勇気と優しさかぁ。 ローレンツと〇〇にぴったりだね。 |
| バーテンダー | カトラリー様へはこちらを。 そこにある優しさを感じるマスカットと、 それを覆い隠すヨーグルトドリンクを合わせました。 |
| カトラリー | ……どういうこと? 優しさとか隠すとか……意味わかんないんだけど。 |
| シャルルヴィル | 店長さんの人を見る目は確かだよ。 カトラリーくんは……本当は優しいのに、 それを酸味で隠しちゃってるってことなのかな。 |
| カトラリー | べ、別に……そんなことしてないから。 |
| シャルルヴィル | ええーっ、本当に? |
| カトラリー | うるさいなぁ! |
| バーテンダー | ふふっ。皆さん仲がよろしいのですね。 最後に、今日のシャルルヴィル様にはこちらを。 |
| シャルルヴィル | 今日のボク? このドリンク、初めて出されたけど……。 |
| バーテンダー | これは、「心のぶきっちょさん」というドリンクです。 華やかな花の底にある、繊細で不器用な心を表しました。 |
| シャルルヴィル | ぶきっちょ……!? |
| ローレンツ | ぶきっちょとは手先が器用でないこと。 また、物事の処理が下手という意味だな。 |
| バーテンダー | 手先や物理的なこと以外にも使いまして…… たとえば、友人関係とか。 |
| シャルルヴィル | も、もう、店長さんってば! あんまりからかわないでよ。 |
| カトラリー | ……器用そうなのに。 |
| バーテンダー | ふふっ、人間は見た目通りではないからこそ楽しいのです。 奥にある本質を知ると、印象は時に180度変わるでしょう。 |
| バーテンダー | さあ……どうぞ、召し上がれ。 |
| カトラリー | あ……美味しい。 |
| シャルルヴィル | ボクのも。 カトラリーくん、このチョコレートも食べてみてよ。 ボクのおすすめ、すっごく美味しいんだ。 |
| カトラリー | ふぅん……それなら、まあ。食べてみるけど。 |
| シャルルヴィル | (人は見た目通りじゃないから楽しい、か……) |
──昼食をとるため、〇〇たちが
別荘からビーチハウスへ移動していると、
シャルルヴィルの足元にボールが転がってくる。
| シャルルヴィル | あれ? どこから飛んできたんだろう。 |
|---|---|
| 青年1 | おーい、こっちこっち~! |
| ローレンツ | なるほど、状況は理解した。 向こうにいる4人の若者が球技をやっており、 そのボールが勢い余ってこちらへ転がってきたと。 |
| カトラリー | こんな暑い中で球技なんて、物好きだね。 |
| シャルルヴィル | よーし、このボールを向こうに飛ばせばいいんだね。 |
| シャルルヴィル | それっ! |
| 青年2 | ナイスショット! いいサーブだったぜ! |
| シャルルヴィル | えっ? そ、そうかな? よくわかんないからなんとなくでやってみたんだけど……。 |
| 青年3 | マジで? ホントいい腕してるよ! ……ってか、そっちも4人いるじゃん。 せっかくだし、試合しようぜ! |
| シャルルヴィル | え、試合!? で、でも……。 |
| 青年2 | ルールとかは教えるしさ。 今のお兄さんのサーブ見て、燃えてきちまった! なぁ、頼むよ。1回だけ! |
| シャルルヴィル | そう……? じゃあ、みんなで参加しようか。 やろうよ! ね! |
| ローレンツ | ……球の形状および、あちらに見えるネットの形状から 『ビーチバレー』という種目だと考えられる。 |
| ローレンツ | 競技ルールについては書物で読んだことがある。 しかし、個人的な実践研究はまだであり……。 |
| シャルルヴィル | まあまあ。遊びだし、気楽にやろうよ。 それに、ルールを知ってるなら大丈夫だって! |
| カトラリー | やったことないから嫌だよ。 僕たちなんかが参加しても、負けるだけじゃん。 |
| シャルルヴィル | でも、初心者なんだから負けても恥ずかしくないよ。 思い出作りだと思ってさ、やってみない? |
| 主人公 | 【食事前の運動にちょうどよさそう】 【みんなでやれば楽しそう】 |
| ローレンツ | う、うむ、そこまで言うなら……。 |
| カトラリー | 参加してあげなくも、ないけど……。 |
| 青年4 | じゃ、決まりだな。 行くぜっ! |
| カトラリー | うわっ! |
| シャルルヴィル | よっ、と! |
| 青年1 | ヘイ、パス! |
| 青年2 | OK~! |
最初は手加減していた青年たちだが、
だんだん熱が入ってきて、抜群の連携から
攻撃を繰り出すようになっていく。
| ローレンツ | ボールの軌道を読み、速度から最適な位置について── |
|---|---|
| ローレンツ | うぐぉっ!! |
| シャルルヴィル | ローレンツさん! |
| カトラリー | うわっ、思いっきり顔でボール受けちゃった。 痛そう……。 |
| カトラリー | ねぇ、もうやめない? 勝てっこないし、あいつらなんかやる気出しちゃってるし。 |
| シャルルヴィル | いや、ダメだよ。 ここで諦めちゃ、ダメなんだ……! |
| シャルルヴィル | ボクだってビーチバレーができるって、信じたい……! |
シャルルヴィルは汗をぬぐって立ち上がると、
どこに打とうがまた返ってくるボールを
諦めずに何度も何度も拾い続ける。
| カトラリー | シャルルヴィル……! あんたがそこまでやるなら、僕も諦められないじゃん……。 |
|---|
カトラリーもまた、コートの端に飛んできたボールを
滑り込むようにしてなんとか拾った。
転んで顔に砂がついても、怯まずに反撃を続ける。
| カトラリー | このボールは、必ず僕が取る! 石にかじりついても取るんだ! |
|---|---|
| ローレンツ | なら俺は全力で珠の動きを追い、 我々が勝利できると証明してみせる! |
| シャルルヴィル | カトラリーくん、ローレンツさん、〇〇! 次の一撃で決めるよ! |
| 主人公 | 【イエッサー!】 【シャルルヴィル、任せた!】 |
全員が全力で繋いだラリーの末にチャンスが巡ってくる。
〇〇はシャルルヴィルにトスを上げた。
| シャルルヴィル | 〇〇……! ボクは、ボクを信じる。 |
|---|---|
| シャルルヴィル | 高貴を!!! |
| 青年たち | うわぁぁあっ!! |
シャルルヴィルのスパイクが見事に決まり、
貴銃士チームは初めて得点を果たしたのだった。
| 青年1 | ふぅ……まさか最後に逆転されるとはな……! すげーいい試合だったぜ! |
|---|---|
| シャルルヴィル | ……ボクたち、本当に勝ったの? |
| カトラリー | かっ、勝った……! 勝ったんだ! |
| ローレンツ | Mr.シャルルヴィル! これにてQ.E.D.……我々の力が証明されたぞ! |
| シャルルヴィル | みんな……ありがとう! やったー!! |
貴銃士チーム全員が喜び合い、ハイタッチを交わす。
その直後──
| シャルルヴィル | う……も、もう……。 |
|---|---|
| ローレンツ&カトラリー | 限、界…………。 |
| 主人公 | 【だ、大丈夫……!?】 【自分も駄目だ……】 |
| 青年たち | わわわわっ! 大丈夫ですかー!? |
疲労困憊で倒れたことも含め、
夏のいい思い出になったのだった──。
シャルルヴィルたちが南フランスで思い出を作り、
士官学校に戻って来てからのこと……。
| シャスポー | ちょっと焼けたんじゃないですか? |
|---|---|
| シャルルヴィル | えっ、そうかな。ビーチバレーとかしたし、そのせいかも。 ま、バカンスに行ってきた証って感じで悪くないよね♪ |
| グラース | ビーチバレーか。 僕ならそんなことに労力使わずに、アバンチュールを楽しむね。 |
| ジーグブルート | おい、シャルルヴィル! |
| シャスポー | いきなり何だい……!? |
| ジーグブルート | てめぇは呼んでねぇ。 俺はシャルルヴィルに用がある。 |
| ジーグブルート | 放課後、アレ、忘れてねぇだろうな。 |
| シャルルヴィル | ……ああ、うん! もちろん! |
| ジーグブルート | そうかよ。じゃあな。 |
| グラース | な、なんだよ、今の……。 |
| シャスポー | ……シャルルヴィル先輩。 もしかしてあいつに強請られてるんですか? 助けが欲しいなら、助けないこともないですよ。 |
| 恭遠 | 君と彼が揉めるとは考えづらいが…… 何かトラブルがあったなら、俺にも相談してくれ。 |
| シャルルヴィル | ふふっ、大丈夫だって! 心配ないから。 |
| シャスポー&グラース | …………?? |
| シャルルヴィル | ジグさん、来たよ~! |
|---|---|
| ジーグブルート | おう。 待ってろ、あと少しで焼けるところだ。 |
| シャルルヴィル | やった~! もういい匂いがしてて楽しみだな~。 |
| シャルルヴィル | でも、さっきは一瞬「アレってどれだっけ?」って考えちゃった。 もう少しわかりやすく言ってくれればいいのに。 |
| ジーグブルート | あ? 「今日はふわふわチーズスフレを作る日だぞ。食べに来い」 ってか? んなこと教室で言うわけねぇだろ、馬鹿が。 |
| シャルルヴィル | 別に言ってもいいと思うけどなぁ。 ジグさんって結構恥ずかしがりや? |
| ジーグブルート | うっせぇ!! |
| ジーグブルート | おら、焼けたぞ。 無駄口叩いてねぇで、焼き立てでもとっとと食え。 |
ジーグブルートがオーブンを開けると甘い匂いが漂う。
| シャルルヴィル | わぁ~、ふわっふわ! おいしそ~!! |
|---|---|
| シャルルヴィル | この前のメレンゲクッキーも最高だったけど、 こういうのをさくっと作れるって、やっぱり天才だよ~! |
| ジーグブルート | 当然だろ。俺は成功作様だからな。 紅茶ももう蒸らし終わるぜ。 ハッ……完璧なタイミングだな。 |
| ジーグブルート | つーか、てめぇ、節制だのなんだの言ってるくせに、 俺が何か作ると必ず来るじゃねぇか。 |
| シャルルヴィル | だって、ジグさんが作るお菓子って、 タバティさんとはまた違った感じですっごく美味しいんだもん。 |
| シャルルヴィル | それじゃ、いただきまーす。 ん~~~っ、最高!! |
| ジーグブルート | ふん……悪くねぇが、 これからの時期だともう少しさっぱりさせるのもいいな。 サワークリームを増やして……土台にレモンピールを混ぜるか。 |
| シャルルヴィル | うわぁ~、それもまた美味しそう! |
| グラース | ここだ! |
| シャスポー | シャルルヴィルせんぱ……い……? 何してるんですか。 |
| シャルルヴィル | わっ!? 何って……2人の方こそ何してるの? |
| グラース | くそっ。助けてやろうと思って来てやったんだろうが……! いいもん食わされてんじゃねぇ! 僕にもよこせ! |
| ジーグブルート | なんだてめぇら。 勝手に入ってくんじゃねぇよ。 |
| シャスポー | 君、お菓子作りが趣味なんだって? フランスが誇る高性能な僕が品定めしてあげるよ。 |
| ジーグブルート | はぁ? お前の評価なんざいるか。 |
| グラース | いいから1口よこせって。 |
| ジーグブルート | あっ、勝手に食うなコラ! |
| シャルルヴィル | あははっ。 じゃあボクは、みんなの分の紅茶を淹れるよ。 みんなで食べるともっと美味しいもんね♪ |
| ジーグブルート | はぁ……。好きにしやがれ。 |
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