第6話:新しい弟

ケンタッキーの後を追いかけて建物の外に出ると、
2人の男がこちらに歩いてくるところだった。

マークス……ん? あいつは、さっきの……。
???ああ……。奇遇だな。
こんなところで何してるんだ?
ケンタッキーお前こそ……何しに来やがった!
ペンシルヴァニア……!!
マークスえ、あんたがペンシルヴァニアなのか……?
ペンシルヴァニア……そういえば、名乗っていなかったか。
ペンシルヴァニア俺は貴銃士、ペンシルヴァニア。
開拓者たちの相棒として、アメリカの大地で過ごしていた。
ペンシルヴァニアライフリングが刻まれているから、狙撃が得意で……
ケンタッキーは……弟分だな。
ケンタッキーうるせぇ! お前の弟分とか言われたくねぇんだよ!
今さらどの面下げて───
???待て、待ってくれ!
すまなかった、ケンタッキー。
ケンタッキーマ、マスター……!
ジョージなぁ、あのおっさんは誰なんだ?
ジュディス彼はマイケル・ダイアモンド。
ケンタッキーさんとペンシルヴァニアさんのマスターでーす!
マイケル聞いてくれ、ケンタッキー。
俺たちは、絶対高貴になるためのヒントを求めて
アメリカ各地を旅してまわっていたんだ!
ケンタッキーえ……ってことはまさか、
ペンシルヴァニアはなれたんっすか……?
マイケルいや……それは、まだなんだが……。
ペンシルヴァニア……旅の途中で仲間が増えたんだ。
お前に紹介したいと思って……それで、戻ってきた。
新しい弟分だぞ、ケンタッキー。
ケンタッキーは、はぁ!?
ペンシルヴァニアお前も……名前はよく知っているはずの銃だ。
白い軍服の少年…………。

ペンシルヴァニアの陰に隠れていた少年は、
ほとんど無に近い暗い表情で俯き、黙ったままだ。
ケンタッキーとは、目を合わせようともしない。

ジョージ……あれ? あいつって……。
ペンシルヴァニア紹介する。
俺たちの新しい仲間……スプリングフィールドだ。
スプリングフィールド…………。
ケンタッキーえっ……!
ジュディス……スプリングフィールド……?
ケンタッキーおい、お前、本当にスプリングフィールドなのか!?

駆け寄ったケンタッキーは、スプリングフィールドの肩を掴み、
顔を覗き込んで視線を合わせる。
しかし、スプリングフィールドは、固い表情で目を逸らした。

ケンタッキー(……ビビってんのか?
つーか、コイツの銃……)
スプリングフィールド…………。
ケンタッキー……おい。ペンシルヴァニア。
ケンタッキー……こいつは、
俺が知ってるスプリングフィールドじゃねぇだろ。
主人公【どういうこと……?】
→ケンタッキー「スプリングフィールドには、
最初の1795年製のやつからすげー最近のまで、
いろんなモデルがあるんで。」

【そういえば、スプリングフィールドって……】

→ケンタッキー「うす。
スプリングフィールドってのは造兵廠(ぞうへいしょう)の
名前なんで。そこで作られた銃は、
だいたいがスプリングフィールドって名前なんっす。」
ケンタッキー同じ“スプリングフィールド”でも、
18世紀の古銃もありゃ、割と最近の現代銃もある……
昔のと新しいのじゃ、完全に別物の銃っすよ。
ケンタッキー俺の戦友だったのは、スプリングフィールドA1795。
フランスのシャルルヴィルをモデルにして作られた、
アメリカ初の国産軍用銃で、米英戦争で使われた銃っす。
ケンタッキーこいつは……俺が知ってるスプリングフィールドじゃねぇな。
んー……めちゃくちゃ新しいってわけでもねぇし、
南北戦争あたりとかか……? お前、モデルは?
スプリングフィールド……っ。
ケンタッキーあ? 無視かよ。……感じ悪ィな!
ペンシルヴァニアケンタッキー……たとえモデルは違っても、
アメリカのために生まれた銃で、ゆかりはあるだろう?
ペンシルヴァニア後輩……いや、弟分だ。
3人で仲良くやっていこう。
ケンタッキー…………。
……っ。仲良く、だと……?
ケンタッキー……ふっざけんなよ!!!
スプリングフィールド……っ。
ケンタッキー仕事丸ごとほっぽり出して、マスターまで巻き込んで
勝手に旅に出て今さら帰ってきたあげく、
ろくに知らねぇ“弟分”ともども仲良くだと!?
ケンタッキー自分勝手なことほざくのもいい加減にしろ!!
ケンタッキーどうせてめぇは、こいつの世話を好き勝手焼いたあと
また仕事みてぇに放り出すんだろう!?
ペンシルヴァニア……ケンタッキー……!
スプリングフィールド…………。
マイケルケンタッキー、違う。
それは……!
ケンタッキー何が違うって言うんすか、マスター!
こいつのせいで、俺がどんな思いを───……。
大統領Hey!
大統領そこにいるのは、ペンシルヴァニアじゃないか!
マイケルも、いつの間に戻っていたんだ!
マイケルMr. President! ついさっきですよ。
大統領Wow! そうだったのかい。
いやぁ、久しぶりに会えて嬉しいよ。
大統領おや、そっちにいるのは……
その制服は、フィルクレヴァート士官学校の?
もしかしてYouが、〇〇君かい?
主人公【はい、〇〇です!】
【はじめまして、Mr. President】
大統領Nice to meet you!
イギリスからはるばるよく来てくれたね、〇〇君。
そして、貴銃士たちにMr.グランバード! ラッセル曹長!
大統領キミたちを心から歓迎するよ!
そして……そこの見慣れない少年は?
マイケル紹介します。
偉大なる合衆国の新たな貴銃士、スプリングフィールドです!
大統領……スプリングフィールド?
大統領……HAHA!
そうか、ずいぶん大人しいから驚いた!
ようこそ、スプリングフィールド!
大統領イギリスからの素敵なお客人に、
我が国の新しい貴銃士のおでましか!
これは……こんなところでグズグズしちゃいられないな?
大統領ふむ……11時過ぎか。
キミたち、ランチはまだだろう?
ケンタッキー……ランチどころか、3日も寝てねぇっす。
どっかの自己チュー野郎のせいで。
大統領HAHAHA! では移動中に仮眠をとるといい!
今日の公務はキャンセルだ。
私から秘書官に言っておこう!
ケンタッキーえ?
大統領仲良くなるには、まず握手! 笑顔!!
そして……Wonderfulな食事だ! OK!?
大統領というわけで、いざ……ビーチへ、Let’s Go☆
ジョージ&マークスビ、ビーチ!?

第7話:BBQ ビーチ ボーイズ

リムジンに乗り込んで1時間───。
一行が到着したのは、資産家でもあるという大統領が保有する
プライベートビーチだった。

そこには既に、巨大な薪コンロやスモークグリル、
肉を中心とするたくさんの食材が用意されている。

職員たちイェーイ! 皆さん、ようこそ!
一緒にBBQを楽しみましょう!
ジョージやった〜〜〜! BBQ!!
オレ、すっげー肉食いたい気分だったんだ!
マークスこれが本場のBBQか……! すっげぇ!
大統領やあ! みんな、イギリスからのお客人と、
新たな貴銃士を紹介するよ。

大統領が、恭遠や〇〇、貴銃士を紹介するごとに、
スターズハウスの職員たちだという参加者が、
わっと拍手をし、歓声をあげた。

ケンタッキーは移動中に車内で眠ってしまい、
そのまま仮眠をとっているようで姿が見えない。

大統領さぁ、楽しんでくれ!
我が家に伝わるジャークチキンやポークチョップ、
それからビーフパテもあるぞ。
マークス……っ!
さっきのステーキ屋のが戦車なら……これは戦艦だ……!
ジョージすっげぇ〜!
あのTank Steakの10倍くらいある!

ずらりと並ぶ肉は、どれもスケールが違う。
1ブロックで数キロはありそうな骨付き肉に、
よく肥えた丸鶏まであった。

職員このスモーカーグリルでじっくり火を通すのよ!
完成まで6時間!
ジョージ&マークスろ、6時間!?
ジョージそんなぁ〜!
待ってる間に腹ペコで死んじまうよ〜。
職員あははっ、安心して。冗談よ!
朝から仕込みをしておいてもらってるの。
もうすぐ焼き上がるから楽しみにしていてね!
ジョージよかった〜!
でもオレ、もう1分も待てないよっ!
なぁ、すぐ食える肉とかないのか〜!?
大統領リブやバラの塊肉を、大きなスモーカーグリルで
じっくりゆっくり焼き上げる……。
ワイルドさと繊細さが、アメリカンBBQの真髄なんだけどね。
大統領小さな肉をみんなで焼きながら食べるのも、
楽しいコミュニケーションに繋がっていいものさ☆
というわけで、まずはそちらを楽しもう!
マークスこの鉄の串に刺さっている肉だな。
マスター、焼き加減は俺に任せてくれ。

オープングリルで焼かれている肉を、
マークスは時々動かしながら、真剣に睨んでいる。

ペンシルヴァニアよし……そろそろ食べ頃だぞ。
マークスいや、まだだ!
生焼けだと腹が痛くなるんだ……!
俺は何度か酷い目に遭っている。
恭遠マークス……!
生肉の危険性を覚えたのか。素晴らしいな。
マークス俺は、マスターに治療してもらえたらなんとかなるが……
マスターの場合は、そうはいかない。
あの苦しい思いを味あわせないように、よーく焼かねぇと……!

───十数分後。

マイケルOh……こいつは……。
マークスそんな……黒焦げだ……。
マスター、すまない……こんなはずじゃなかったのに……。
主人公【大丈夫、まだ食べられる】
【香ばしくて、これはこれで……】
マークスくっ……俺のために無理をしないでくれ、マスター……!
次こそ上手くやる、待っていてくれ。
ジョージなぁ、マークス!
このポークチョップってやつ、すげー美味いぞ!
〇〇も食ってみろって。
マークスぐっ……!
いや、俺はマスターに完璧な肉を焼くまで食わん。
マイケルその意気だ、マークス!
トライ&エラーを繰り返して人は成長していく。
諦めないチャレンジ精神がNiceだ!
大統領……おや、マスター同士すっかり仲良くなったようだね。
大統領どうだい?
アメリカ滞在は楽しめそうかな。
主人公【はい!】
【既にとても楽しんでいます】
大統領それはよかった!
我々がMr.グランバードに協力を要請したせいで、
キミたちの夏休みの予定がパーになったと聞いてね。
大統領アメリカ支部のアウトレイジャー対策について、
実際に見てもらったうえで、彼の意見が欲しくて……
協力要請は取り消せないが、代わりにとキミたちも呼んだのさ☆
大統領キミたちには、この近くに五つ星ホテルを用意した。
オーシャンビューの素晴らしい部屋だよ、楽しんで!
主人公【ありがとうございます!】
【目一杯楽しみます!】
ケンタッキーあー、俺も改めて挨拶、いいっすか?
ケンタッキーアメリカの貴銃士、ケンタッキーっす。
……さっきは、イラついてて
みっともないとこ見せてすんませんっした。
ケンタッキーちょっと仮眠取って、頭冷やしました。
ジョージ気にすんなって、ケンタッキー!
3日もロクに寝てなかったんだぜ? 無理もないって!
ケンタッキー……サンキュ、ジョージ。
ペンシルヴァニアおーい、ジャークチキンが焼けたぞ。
どんどん取ってくれ。
大統領Hi、ペンシルヴァニア!
旅はどうだった? 絶対高貴にはなれたかい!?
ペンシルヴァニアMr. President……
いや、それがまだなんだ。
大統領Oh……そうだったのか。

ペンシルヴァニアとマイケルが、
大統領と旅の道中の話を始める。

ジョージ話盛り上がってるな〜。
けど、チキンが冷めちまう!
ケンタッキーふん、ペンシルヴァニアの野郎が喋ってる間に、
美味そうなヤツは全部食ってやる……!
ケンタッキー……ん?
ケンタッキー(スプリングフィールドの奴、いねぇと思ったら……。
あんなとこで何やってんだ……?)

スプリングフィールドは、
BBQの輪から外れたところにポツンと立っている。

スプリングフィールド…………。

警戒するように周囲を見回したスプリングフィールドは、
BBQのゴミが集められている袋の中から、
スペアリブの骨をいくつか拾い上げた。

ケンタッキー……?
ジョージん? どうしたんだ、ケンタッキー。
肉、食べないのか?
ケンタッキーいや、あれ……。
ジョージん……? スプリングフィールド?
あんなとこで何してるんだろう……?

ゴミ袋から取ったスペアリブの残骸を持ち、
スプリングフィールドは岩陰に消えていく。

ジョージ&ケンタッキー……?

ケンタッキーとジョージは顔を見合わせたあと、
その背中を追いかけた。

第8話:路地裏の貴銃士

ケンタッキーあいつ、何してんだ……?
野良犬にでも残飯やるつもりか?
ジョージさぁ……?
それか、サメを集めて遊ぶとか!
ケンタッキーあいつにそんな度胸あるようには見えねーけど……。

やがて、岩陰でスプリングフィールドが屈み込む。
何をしているのかとそーっと様子を窺った2人は、
信じられない光景を目にして絶句した。

───スプリングフィールドは、
食べ残しの骨についた、わずかな肉を齧っていたのだ。

ケンタッキーお前、何やってんだ!
ジョージそれ、ゴミ袋に入ってたヤツだろ!?
マークスみたいに腹壊すぞ!? やめろって!
スプリングフィールドご、ごめんなさい……っ!
ケンタッキー謝る必要はねぇけどさ! 何してんだよ!
そんなもんコソコソ食わなくても、
肉なら焼き立ての美味いやつが山ほどあるだろうが!
スプリングフィールドごめ、んなさっ……すみません……!
ケンタッキーだから、謝らなくていいって言ってんだろ!
意味わかんねぇな、お前。
スプリングフィールドす、すみま……。

波の音に紛れてもなお隠し切れないほど、
大きくお腹が鳴る音が、スプリングフィールドから響く。

ジョージあれっ?
おまえ、もしかして何も食べてないのか?
ケンタッキーはぁ? なんで腹減ってんのにゴミなんか……。
とりあえずこれ、食えよ!

ケンタッキーは不可解な行動に眉をひそめながらも、
自分が持っている皿を、スプリングフィールドへ差し出した。

スプリングフィールド…………。

スプリングフィールドは、無言で首を振る。

ケンタッキーおい……俺の肉は食えねぇっつーのかよ!?
スプリングフィールド……ない、ので……。
ケンタッキーあ?
スプリングフィールドマスターの指示が、ないので……。
ケンタッキーは? メシひとつ食うのにも指示待ちとか、
マスターもめんどくせぇだろ、そんなの。
いいから食え!
スプリングフィールドむぐっ……。

ケンタッキーがスプリングフィールドの口へ、
強引に肉を押し込む。すると、スプリングフィールドは、
ためらうようにゆっくりと咀嚼しはじめた。

スプリングフィールド……っ!

もぐ、もぐと数口噛んだ次の瞬間───
スプリングフィールドは目を大きく見開き、
勢いよくもぐもぐと噛んで、ごくりと肉を飲み込む。

ジョージな、美味かっただろ!?
スプリングフィールド……あ、ごめんなさ……。
ケンタッキーああ? 美味い肉に謝ったら逆に失礼だろ。
美味いなら美味そうな顔して食え。
スプリングフィールド…………。
ケンタッキーなんだよ、食いてぇならそう言えっての。
……ほら、全部やるから、とにかく食え!

ケンタッキーが差し出した皿を受け取ると、
スプリングフィールドは何も言わずに
肉をばくばくと食べ続けた。

ジョージおおっ……!
いい食べっぷりだな!
ジョージオレのもいるか?
そっちのとは別の肉もあるぜ☆
スプリングフィールド……っ、……!
…………!

スプリングフィールドは一心に食べ続ける。
その姿を見て、ケンタッキーは不思議な既視感を覚えた。

ケンタッキー(こいつの、この目……
どこかで見たことがあるような……)
ケンタッキー(……そうだ、思い出した。
これは、前に治安の悪い地区で見た、
飢えたガキどもの目とそっくりなんだ……)
ケンタッキー(あの時も、やせ細ったガキんちょに持ってた食べ物をやったら、
こんな風に貪るようにして食ってた……)
ケンタッキー(貴銃士でこんな風になるって……
こいつ、ただの無気力根暗野郎じゃないのか……?)
ペンシルヴァニア……みんな、ここにいたんだな。
ジョージあっ、ペンシルヴァニア! 〇〇!
それにマイケルも!
主人公【どうしてこんなところに?】
【3人で何をしてた?】
ジョージえーっと……
スプリングフィールドと肉食ってたんだ!
ジョージって、マークスは?
〇〇と一緒じゃないなんて珍しいな。
主人公【まだ肉と格闘してる】
【肉から目が離せないみたい】
ジョージHAHAHA!
マークスのヤツ、すっかりBBQにハマったんだな!
マイケルスプリングフィールド、姿が見当たらないから心配したぞ。
だが、ケンタッキーとジョージと親睦を深めていたんだな。
それならよかった。
スプリングフィールドい、いえ……。
そういう、わけでは……。
ケンタッキーこいつが腹減ってんのに何も食わねーから、
肉を食わせてたんっすよ。
ジョージスプリングフィールドの食べっぷりがすごかったんだぜ☆
ペンシルヴァニアああ……なるほど。
そういうことだったのか。
ペンシルヴァニアケンタッキー、ジョージ。
スプリングフィールドを気にかけてやってくれて
……ありがとう。
ケンタッキーあの一……。
こいつ、マスターの指示がなんとかって言ってたんスけど。
ケンタッキーマスターは、よしって言うまで飯食うなとか、
そんな意味わかんねぇこと言うはずねぇし……
なんなんっすか、こいつ。
マイケルああ……すまない。
確かに俺がそう指示したんだ。
ケンタッキーえっ……!?
ペンシルヴァニア……スプリングがもう少し落ち着いたら、
改めて話そうと思っていたんだが……。
ケンタッキーにも、知っておいてもらった方がいいかもしれない。
マイケル……スプリング。
キミのことを、彼らに話してもいいかな。
スプリングフィールドあ……。
マスターが、お望みでしたら……。

スプリングフィールドには追加の肉や野菜を渡し、
マイケル、ペンシルヴァニア、ケンタッキー、ジョージ、
そして〇〇の5人は、少し場所を移した。

ペンシルヴァニア俺たちとスプリングフィールドが出会ったのは、
復興の進みが鈍い地域の、ある路地裏だった……。

ペンシルヴァニアここに化け物が出ると聞いたが……。
アウトレイジャーらしき気配はないな。
???う、うぅっ……!
ペンシルヴァニアアウトレイジャー、なのか……?
……にしては、大人しいが……。
???あぁ……グッ……!
げほっ、ごほっ……!
???いや、だ……いや、だ……!
あ……あ……っ!!

アウトレイジャー化しているように見えるが、
その影が積極的に襲ってくる様子はない。

血を吐きながら、暴走する己を抑え込むように胸をかきむしり、
地面をのたうち回る。
その赤い目が、ペンシルヴァニアの姿を捉えた。

???……た、すけ……て……。
ペンシルヴァニア……!

ペンシルヴァニアそのまま……そいつは、力尽きて銃に戻った。
ペンシルヴァニア俺は、必死で助けを求めてきた顔が忘れられなくて……
その銃───A1865を、マイケルのところへ持ち帰ったんだ。
ペンシルヴァニア……スプリングは、過去を喋らない。
だが……相当ひどい目に遭っていたのは、間違いない。
マイケル彼のマスターは、まともに食べ物を与えなかったんだろう。
俺が召銃し直した後も、ゴミをよく漁っていたようだ。
……それに気づけず、一度は酷い腹痛で倒れたことがあってね。
マイケル医者に見せてみたら、傷んだものを食べたことによる食中毒。
おまけに腹の中は寄生虫だらけだと聞いて、
俺まで卒倒しそうになったよ。
ケンタッキーなんスか……それ……。
マイケルもちろん、今は処置済みで、健康体になっている。
しかし、また同じようなことが起きかねない。
ペンシルヴァニアだから……勝手に食べ物を取ってくることを禁じたんだ。
ちゃんとしたものを食べるように、
マスターの許しがあるものだけを食べるように、と……。
ジョージそういうことかぁ……。
スプリングを思っての指示だったんだな……。
ペンシルヴァニアスプリングフィールドは……ずっと、囚われている。
目に見えない鎖に縛られて、身動きが取れないんだ。
だから、心も感情も動かない……。
ペンシルヴァニア俺は、スプリングフィールドに自由を知ってほしい。
思うがままに、やりたいことをやったらいい。
なんでも、気の向くままに……! 自由に!
ペンシルヴァニアそうしたら、心から笑える日が来るんじゃないかと思う。
俺は、その日まで見届けたい。
……そう、決めたんだ。
ペンシルヴァニアケンタッキー。
お前にも……手伝ってほしい。
ケンタッキー…………。

 

第9話:ケンタッキーの葛藤

ケンタッキー手伝ってほしい、だと……?
ペンシルヴァニアああ。
スプリングフィールドが新しい生活に慣れるまでは、
時間がかかる。
ケンタッキーはっ……どの面下げてンなこと頼んでんだよ。
お前が、何もかも放り出して丸投げしていって、
その尻拭いを必死こいてやらされてた、この俺に……!
ペンシルヴァニア……ケンタッキー……。
ペンシルヴァニア俺のことは……恨んでも仕方がない、と思う……。
お前なら大丈夫だと思って、勝手なことをした。
だが、スプリングのことは……お前も気にかけてやってほしい。
ケンタッキー……っ!
お前はなんで、いつも、そう……!
ペンシルヴァニアケンタッキー……?
ケンタッキーっ……! もういい。
ケンタッキー……おい、スプリングフィールド!
お前もお前だ。 いちいちビクついてんじゃねーよ!
スプリングフィールド……!
ごっ、ごめん、なさ……。
ペンシルヴァニアっ、おい……!
ケンタッキーお前がひどい環境にいたってのはわかった!
けどよ、前のマスターの言いなりなってただけかよ!
ケンタッキー腹減ってんなら、腹減った! って言えばいいだろ。
それでもゴミ漁らせるようなヤツは、銃をまともに使う気がねぇ。
そんなひでぇマスターなら、逃げちまってもよかっただろうが!
スプリングフィールドごめん、なさい、ごめんなさい……!
全部、僕が悪い……です……。
ケンタッキー謝れって言ってんじゃねーんだよ。
俺は……!
ペンシルヴァニア……やめろ、ケンタッキー。

スプリングフィールドをかばうように、
ペンシルヴァニアが間に入る。
その様子を見て、ケンタッキーはギリッと奥歯を噛み締めた。

ケンタッキー……っ! てめぇは、いかにもウジウジ
弱っちく振る舞ってるヤツばっかり守るのかよ!
俺は、てめぇの勝手を必死で……っ! チッ、クソが!
ケンタッキー仕事放り投げて勝手に旅に出て、
絶対高貴になるヒントも見つけられずに突然帰ってきてこれか!?
なんなんだよ!!
ケンタッキーとにかく、俺はそいつのことなんざ知らねぇからな!
そいつの世話を焼きたきゃ好きにしろ。
ケンタッキーアメリカの貴銃士は俺1人でいい。
もう帰ってくんな! 勝手にやってろ!
ペンシルヴァニアケンタッキー……。
主人公【一旦、深呼吸しよう】
【落ち着いて、ちゃんと話し合った方が……】
ケンタッキー止めないでください!
俺は前から、こいつのことが……!
ジョージヘイヘイヘイ! 落ち着けって。
勢いでヒドイこと言っても、
あとでおまえが凹んじまうだろ? なっ?
ペンシルヴァニア……スプリングフィールド、戻ろうか。
もっと野菜も食わないとな。
スプリングフィールド…………。
ケンタッキー……くそっ……。

スプリングフィールドの背中を押して、
ペンシルヴァニアは去っていく。
2人の姿を、ケンタッキーはやりきれない表情で見つめていた。

第10話:すれ違いの来訪者

その日の夜───。
〇〇はマークス、ジョージと共に
宿泊先のホテルにいた。

マークス安心、してくれ、マスター……。
ジョージは寝てしまったが、
見張りの役割は、俺が完璧に果たす……うぷっ。
主人公【大丈夫?】
【無理しないで、休もう】
マークス大丈夫だ……。
す、少しだけ、トイレに行ってくる。
すぐに戻るからな……!

〇〇が、眠っているジョージに
毛布をかけていると、窓を叩く音が聞こえた。

ペンシルヴァニア……遅くにすまないな。
少し、話がしたい。
主人公【どうやって来た!?】
【ここ、ホテルの高層階だけど!?】
ペンシルヴァニアコツを掴めば、なんということはない。
……それより。
今日は、ケンタッキーのことで……世話をかけたな。
ペンシルヴァニア俺たちがあんな調子だから……
フィルクレヴァートから来たあんたたちは、驚いただろう。
だから……少し、俺たちの話をしておこうかと思って。

窓際のソファに腰掛けたペンシルヴァニアは、
言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。

ペンシルヴァニアケンタッキーは……アメリカのために、一生懸命頑張ってる。
……あいつの生まれのことは、あんたも知ってるか?
主人公【ペンシルヴァニアを改良して作られた】
【米英戦争で使われた】
ペンシルヴァニアああ。その通りだ。
ペンシルヴァニアあいつは、俺……ペンシルヴァニア・ライフルが
ケンタッキー州に持ち込まれて改良され、できた銃なんだ。
ペンシルヴァニアそして、米英戦争中の有名な戦いで、
ケンタッキー連隊が大活躍して、その名を轟かせた。
ペンシルヴァニアそういう生まれだから、
俺はあいつの兄貴分にあたるわけだが……。
ペンシルヴァニアだからこそ、俺を超えることが、
絶対高貴に近づく道だと……そう考えているようだ。
ペンシルヴァニアそれで、旅に出る前は
毎日のようにいろんな勝負を挑まれてな……。

ケンタッキー今日という今日はお前に勝つからな!
ペンシルヴァニア!
ペンシルヴァニア……なぁ、ケンタッキー。
たまには徒競走より、散歩でもしないか?
ケンタッキー余裕かましていられるのも今のうちだけだ!
早くスタート位置につきやがれ!

ケンタッキーお前、まだ5枚しかサインできてないのかよ。
ハッ、俺はもう10枚できたぜ!
ペンシルヴァニア……これも、勝負なのか……?

ケンタッキーおい、今日は射撃勝負だ! あの缶を撃て!
ケンタッキー……おら、早くしろ!

ペンシルヴァニア思い返すと、目の敵にされて勝負ばかりの日々だったが……
あいつと一緒に過ごせたことは……
兄貴分として、とても嬉しかった。
ペンシルヴァニアだがある日……。
俺は気づいてしまったんだ。
公務の中で……一番大事なことを見失ってしまっていたことに。
主人公【一番大事なこと……?】
ペンシルヴァニアそれは……自由のマインドだ。
ペンシルヴァニア俺は……開拓民の銃だ。
森を駆け、獲物を狩り……大地をベッドに、星空の下眠る。
そういう在り方から、遠く離れてしまっていた……。
ペンシルヴァニア……広い世界を、旅したくなった。
本来の在り方に戻ることで、絶対高貴に近づけるかもとも思った。
それで……マスターと共に、旅に出たんだ。
ペンシルヴァニア責任感の強いあいつからすれば……
俺は、仕事を放り出して、勝手に逃げたようなもんだろう。
俺のことを許せないのも、当然だ……。
ペンシルヴァニア……俺は、あいつの言う通り、
帰ってくるべきじゃなかった……。
主人公【本当に、そうかな】
【ケンタッキーの本心を確かめてみては?】
ペンシルヴァニア…………。
あいつは、何かを胸の内に抱えていたところで、
俺にはそれを明かさない……そう思う。
ペンシルヴァニア話すにしても……もう少し、時間を置いた方がいいだろう。
それに俺は……絶対高貴の糸口も、掴めていない。
スプリングフィールドに何をしてやればいいのかも……。
ペンシルヴァニアただ、ケンタッキーなら……あいつなら、
スプリングフィールドを笑顔にできるような気がしたんだ。
ペンシルヴァニアそれで、気が急いて……
ケンタッキーの気持ちを考えず、帰ってきてしまった。
あいつの言う通り、身勝手で……最低な男だ。
ペンシルヴァニア……〇〇、だったな。
あんたには何か……不思議な力を感じる。
運命の女神の護り……かな。
ペンシルヴァニアケンタッキーを、よろしく頼む。
それじゃあ……おやすみ。Sweet dreams.

そう言うと、ペンシルヴァニアは
颯爽と窓から出て行ってしまった。

主人公【あっ!?】
【だからここ、高層階……!】
ジョージふわぁ〜……。
Sorry……いつの間にか眠っちまってたぜ。
ジョージ〇〇〜!
そういや、ケンタッキーが夜に遊びに来るって言ってたけど、
もう来た?
主人公【ケンタッキーが?】
【まだ来てないけど……】
ジョージんん……?
今、廊下から、何か聞こえなかったか?

ジョージが部屋の扉を開けて、廊下を覗き込む。
しかし、そこには誰もいなかった。

ジョージおかしいな……。
聞き間違いだったかな?
ケンタッキーかと思ったのに。

ジョージが部屋の扉を閉めた後───
廊下の陰に隠れていたケンタッキーは、
静かに拳を握りしめていた。

ケンタッキー……わかってんじゃねーか。
ペンシルヴァニア。
ケンタッキーそうだ……許せるわけがねぇ。
あいつなんて……あいつ、なんて……!

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