───オーストリア某所、地下牢にて。
男 | ひぃぃぃっ! |
---|---|
男 | や、やめてくれ……!! やめてくれぇぇッ!!!! |
怯え切った表情をした囚人服の男が、
薬殺刑の執行台のようなべッドにきつく拘束されている。
その手の甲に刻まれているのは───ひどく悪化した薔薇の傷だ。
??? | ……薬の注入を。 |
---|---|
看守 | はっ! |
男 | 嫌だぁ……! やめろ! お願いじまず、やめてくだ……っ!! |
必死に請う男の叫びは、誰にも届かない。
腕に針が刺され、注射器の中の薬剤が注入されていき、
男の目が絶望に染まった。
男 | ひ……っ! ……っ、あ、が……、ああああっ……! |
---|---|
??? | ふ……はははっ……! 苦しみ、喜べ! 下賤なるその身で、 あの御方の気高き犠牲の一端を感じられることを! |
薬剤の影響を受けて、もがき苦しむ男。
薔薇の傷はそのツタをさらに伸ばし、
囚人服に血の染みが広がっていく。
男 | ……っ、ぐぁぁぁぁ……! |
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??? | さぁ……まもなくだ。果実が実るぞ。 |
カール | …………。 すぅ……すぅ……。 |
---|---|
カール | …………。 ……っ、ぅ……。 |
カール | ……う、ぐっ、ウゥ……ッ! |
??? | ……カールちゃん……今、楽にしてあげるワ。 |
看守 | お待ちしておりました。 どうぞこちらへ───フルサト様。 |
フルサト | ……ええ。 |
男 | ぐ……っ、う、がああああ……っ! もう嫌だ、殺してくれ……っ! |
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フルサト | ───絶対高貴。 |
男 | やめろ、やめてくれ……! |
フルサト | …………ッ。 |
絶対高貴により、男の薔薇の傷が癒されてゆく。
眩い光がやんだ時、傷は完全に消え去り、
透明な結晶だけが傍らに残されていた。
??? | ああ、美しい……。 愚者を導き照らす、崇高な輝きだ……。 |
---|---|
男 | …………う、ぅ…………。 |
??? | ……これはもう、消費期限だったな。 処分しておけ。 |
看守 | かしこまりました。 |
看守は、虫の息になった男をどこかへ運び出す。
黒いマント姿の人物は、
透明な結晶を恍惚の表情で眺めた。
??? | くくっ……なんと素晴らしい“死神皇帝”様だ! ふ……ははははっ……! |
---|---|
フルサト | …………。 |
───男の薔薇の傷が消失したのと、時を同じくして。
カール | ……う、ぅ……。 |
---|---|
カール | ……レオ……マルガリータ……。 |
カールの身体は徐々に輪郭を失い、静かに消えていった。
ジョージ | Good Morning〜! 今日の授業はなんだろな〜。調理実習とかいいよなっ! |
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マークス | 俺は、マスターのクラスとの合同授業がいい。 |
十手 | 俺は化学の実験が楽しかったなぁ〜。 薬品を混ぜる瞬間なんて、ドキドキするよ! |
ライク・ツー | 調理実習でもいいけど、ジョージと一緒は勘弁。 大惨事に巻き込まれてたまるか。 |
ジョージ | ええーっ! ヒドイ! |
エンフィールド | 師匠! 料理はもちろん僕にお任せください。 きっと美味しいものを作ってみせますよ。ええ! |
ライク・ツー | ほら。 お前の弟子も、遠回しに「料理すんな」って言ってるぞ。 |
エンフィールド | え、っと……そ、そういうわけでは……。 ……あっ、スナイダー! |
ライク・ツー | わかりやすく逃げたな。 |
エンフィールド | どこに行く気だい? また授業をサボって戦いに行くんじゃないだろうな。 |
スナイダー | くだらん授業に俺の時間をくれてやるつもりはない。 おまえは授業が好きなら受ければいいだろう。 だが、俺にまで同じことを求めるな。 |
エンフィールド | 好きとか嫌いとかそういう問題じゃないよ。 〇〇さんの貴銃士として恥ずかしくない、 知的さと高貴さを身に着けるために─── |
シャスポー | 朝から大声で説教をしておきながら、 知的さや高貴さについて語るのかい? はぁ……頭に響くからやめてもらえないかな。 |
エンフィールド | おや、シャスポーさん。 今日はそんなに湿度が高い感じはしないのですが…… お辛いのなら、医務室へ付き添いますよ。 |
シャスポー | ……はぁっ!? 君、無神経だって言われないか? |
エンフィールド | ええっ!? |
グラース | ……あいつ、優等生っぽいけど絶対腹黒だぜ。 いいぞ、もっとやれ。 |
タバティエール | 悪気があるわけじゃあないと思うけど、 シャスポーとの相性は……ちょっとなぁ。 |
ドライゼ | む……? 騒がしいな。 |
タバティエール | おっ、お2人さん。 こっちに来てたんだな。 |
エルメ | うん、昨日の夜に着いてね。 ドイツの状況は最近ある程度落ち着いているし、 〇〇の貴銃士として、たまには顔を出さないと。 |
エルメ | それで、彼らは何について熱くなっているの? |
グラース | ああ、どっちのアレがでかいかって話だよ。 |
エルメ | ん? 口径のこと? |
グラース | ……さてと。 今日は授業って気分でもねぇし、 僕は事務のメラニーちゃんとお茶でもしようかな。 |
タバティエール | おいおい、事務員さんやら恭遠教官を あんまり困らせてやるなよ? |
ドライゼ | …………。 嘆かわしいほどの、風紀と規律の乱れだな。 コペール中将に意見の申し入れを考えておくか……。 |
恭遠 | みんな、席についてくれ。 |
マークス | マスター! マスターも来たということは、 今日は貴銃士クラスで一緒に授業なのか!? |
主人公 | 【そうではないよ】 【少し用事があって来た】 |
恭遠 | 今日は重要な話があるから、 〇〇君も呼んだんだ。 |
シャルルヴィル | 重要な話って……なんだか怖いなぁ。 いい話? それとも悪い話? |
恭遠 | そうだな……。 いい話でもあり、悪い話でもある。 |
ジョージ | なら、Good Newsから聞くぜ☆ |
恭遠 | 実は……オーストリア政府から君たち貴銃士に、 金鷲(きんわし)勲章授与式典への招待を いただいているんだ。 |
ライク・ツー | 政府からの招待って……その時点でもうBad Newsだろ。 |
マークス | ハッ……! 俺は知っているぞ! 招待状が来ると、ろくなことにならない! |
恭遠 | た、確かに……。 これまでの招待ではいろんなことがあったが……。 |
十手 | ま、まあまあ! 俺は桜國幕府から招待されてよかったよ! お陰で日本に行けていい出会いがあったし、 自分としっかり向き合って、絶対高貴にも目覚められた。 |
ジョージ | うんうん、悪いことばっかりじゃないって☆ |
ジョージ | っていうか、金鷲勲章ってなんなんだ? 金の鷲? って、なんだかCOOLだなっ! |
恭遠 | ああ、様々な分野で功績をあげた人々に、 オーストリア政府からの勲章が贈られるんだ。 |
恭遠 | 貴銃士カールが召銃された年から始まったもので、 今年でまだ2回目なんだが、 カールから勲章が手渡されることもあって世界的に注目度が高い。 |
ライク・ツー | へぇ……。そんなのがあったのか。 |
ジョージ | んで、Bad Newsは? |
恭遠 | 式典には、貴銃士特別クラス全員が参加できるわけではないんだ。 指名招待されているのは、〇〇君と俺の2人。 貴銃士については、古銃と現代銃から1名ずつとなっている。 |
マークス | それで俺を呼びに来たんだな、マスター! もちろん了解だ。 |
ライク・ツー | なるほど。 で、貴銃士の誰を連れてくか決めたいってわけだな。 |
マークス | おい! だから俺だと言っただろう! |
ドライゼ | カール殿は革命戦争を戦い抜き、 レジスタンスのドライゼとも交友があった貴銃士……。 ぜひ一度会って話を聞きたいものだ。 |
エルメ | 俺も、彼には興味があるよ。 現代銃枠で立候補しようかな。 |
シャスポー | 野蛮なプロイセンの銃よりも僕の方が、 〇〇の隣にずっとずーっとふさわしいよ。 |
ドライゼ | ……我が祖国への侮辱を繰り返すか。 |
恭遠 | 君たち、決闘ならやめてくれよ……! |
十手 | あのー、ところで……。 オーストリアは安全なところなのかい? アウトレイジャーの出没状況など気になるなぁ。 |
恭遠 | そうだな……人選を進める前に、 まずはオーストリアについて説明しよう。 |
恭遠 | 今回の行き先であるオーストリアは、 アウトレイジャーの出没報告が少なく、 凶悪犯罪なども少ない、かなり情勢の安定した国だ。 |
---|---|
ジョージ | へぇ〜! それならのんびり観光できそうだな! 貴銃士は、カールっていうやつだけなのか? |
恭遠 | いや。 もう1人、ローレンツ・ライフルの貴銃士が召銃されている。 |
グラース | ……どっちも古銃で、2挺だけか。 ローレンツってのは確か、普墺戦争で使われた銃だな。 |
シャスポー | ふぅん。 君にしてはよく知ってるじゃないか。その通りだよ。 |
マークス | そいつらは、どんな銃なんだ? 嫌な奴じゃないだろうな。 |
恭遠 | 今のローレンツについては、俺もあまり詳しく知らないんだが、 カールはよく知っている。 少年のような見た目とは違って、老成した貴銃士でね。 |
恭遠 | 彼は、神聖ローマ帝国皇帝カール5世のために作られた、 450年以上もの歴史を持つ美しい二連拳銃なんだ。 |
マークス | 450……!? ジョージやシャルルヴィルよりもっとジジイなのか……!? |
シャルルヴィル | ちょっと! ボクたちまだまだ現役なんだからね!? |
ジョージ | そうだそうだー! |
恭遠 | ははっ。銃としては最初期のものに分類されるけれど、 冷静に戦況を読み、大胆に戦う、強くて信頼できる貴銃士だぞ。 |
恭遠 | 俺は革命戦争で、彼と共にレジスタンスで戦ったからな。 彼の強さは、この目で見てきた。 皇帝の名にふさわしい貴銃士だよ。 |
スナイダー | ……ほう? |
スナイダー | おい、〇〇。 オーストリアには俺が行く。 |
エンフィールド | ええっ! なんでいきなりやる気に…… ま、まさか、腕試ししに行く気じゃないだろうな! |
グラース | 古銃枠はそっちで揉めてろ。 僕は現代銃枠に名乗りをあげる。 |
マークス | は……? おいグラース、あんたの出番はない。 マスターと一緒に行くのは俺だからな! つーか、あんたはオーストリア行きにそこまで興味はないだろ! |
グラース | 興味ならあるぜ。 華々しい式典には、僕みたいな華のある貴銃士がふさわしいしな。 |
ドライゼ | いや。 生活態度を鑑みて、エルメの方がよほどふさわしいだろう。 |
エルメ | ふふっ。ありがとう、ドライゼ。 |
グラース | くっ……こうなったら勝負だ! オーストリア行きの切符を奪い合おうじゃねぇか。 |
話し合いではなかなかまとまりそうになく……。
結局最後の手段に選ばれたのは───。
恭遠 | 皆……。 恨みっこなしだぞ! |
---|---|
全員 | ああ!! |
恭遠 | せーの、Rock, paper, scissors! |
グラース | ……チッ! |
エルメ | おっと、残念。 まあ、オーストリアはドイツの隣国だし、 連合軍の任務とかでそのうち行く機会はあるかな。 |
シャルルヴィル | あああ! 勝った! やったぁ! オーストリア、楽しみだな〜♪ |
ジョージ | 負けちまった〜! けど、旅行に行けることになってよかったな、シャルル! |
エンフィールド | シャルルヴィルさんでしたらきっと、 式典のゲストとして素晴らしい貴銃士になりますね! 僕たち留守番組も、安心して送り出せます。 |
エンフィールド | もしもスナイダーが勝ち上がっていたら、 恐ろしいことになるところでした……。 |
スナイダー | つまらんな。 |
マークス | …………。 やはり俺は……選ばれた相棒だ……。 |
主人公 | 【2人ともよろしく】 【オーストリア、楽しみだね】 |
マークス | ああ! |
シャルルヴィル | うん! |
恭遠 | …………。 |
主人公 | 【恭遠教官、どうかしましたか?】 →恭遠「いや……。」 【人選に何か問題が?】 →恭遠「そういうわけではないんだが……。」 |
恭遠 | …………。 さて、これでメンバーは決まりだな。 皆は席について少し待っていてくれ。 |
恭遠 | 〇〇君、見送りがてら、 詳細について少し話そう。 |
〇〇と共に廊下へ出た恭遠は、
ぐっと声を落とす。
恭遠 | …………。 杞憂かもしれないが……一応聞いておいてくれ。 今回の旅は、これまでとは少し違うものになるかもしれない。 |
---|---|
主人公 | 【どういうことでしょうか?】 |
恭遠 | 確信がないから、今は詳しく言えない。 だが……誰に何を話すか、慎重になる必要があるだろうな。 |
恭遠 | 味方というのは敵に紛れているかもしれないし、 敵も味方の中にいて、機を伺っている……そんな状況が……。 |
恭遠 | ……いや、不安にさせてすまない。 だが、ただ1つだけ確かなことがある。 |
恭遠 | それは……。 何があろうと、カールのことは信じていい! ということだ。 |
恭遠 | これだけは、今の段階で断言できる。 君が何か判断に迷うことがあれば、俺の言葉を思い出してくれ。 |
主人公 | 【……わかりました】 【しっかり覚えておきます】 |
恭遠 | ……ありがとう。 |
恭遠 | 今回は俺も同行するし、君には頼もしい貴銃士たちがいる。 1人で悩まずに、俺や貴銃士たちを頼ってくれ。 |
恭遠 | 妙な話をしてしまったが……楽しい旅になることを願おう! |
───オーストリアへの出発当日。
シャルルヴィル | 恭遠教官、遅いね。 ボクたち、集合時間間違えてないよね……? |
---|---|
主人公 | 【合っているはず……】 【時間も場所も間違いないよ】 |
マークス | 恭遠は寝坊でもしたんじゃないのか? もう置いていこう。そのうち追いつくだろう。 |
主人公 | 【それは駄目だよ】 【もう少し待とう】 |
マークス | マスターがそう言うなら……わかった。 |
───〇〇たちが
フィルクレヴァート駅で待つことしばらく。
ラッセル | ……ああ、いた! おーい、君たち! |
---|---|
シャルルヴィル | あれ……? ラッセル教官? |
マークス | なんであんたが来たんだ? |
ラッセル | それが…… 恭遠審議官は、連合本部からの緊急の呼び出しを受けて、 オーストリア行きに同行できなくなってしまったんだ。 |
シャルルヴィル | ええっ……! それで、ラッセル教官が一緒に? |
ラッセル | いいや、私も同行はできない。 すまないが、君たち3人で金鷲勲章授与式典に参加してくれ。 これが招待状だ。 |
ラッセル | シャルルヴィル、式典のような場での振る舞いは、 君が一番心得ていることだろう。 〇〇君とマークスをサポートしてやってくれ。 |
シャルルヴィル | Oui! 〇〇はマナーばっちりだよね。 マークスのことも……頑張るよ! |
ラッセル | ありがとう。 さて、列車が来るまで、改めてオーストリアの説明をしよう。 |
ラッセル | オーストリアにいる貴銃士は2名。 彼らはヴァイスブルク宮殿で暮らしているそうだから、 君たちもそこを訪れることになるだろう。 |
マークス | ヴィーナーシュニッツェル…… これは肉料理だ。食べよう。 |
ラッセル | 君たちも知っての通り、カール閣下は革命戦争の英雄そのもの。 オーストリア国民から絶大な支持があり、敬愛されている存在だ。 くれぐれも失礼のないように……マークス、聞いているかい? |
マークス | グラシュ……カレーみたいだが、名前が違う。 肉がたくさん入っていて美味そうだな……。 マスター、これも食べよう! |
ラッセル | 『オーストリアを満喫するための完全ガイド』 ……わざわざ図書館で借りてきたのか、マークス……。 |
シャルルヴィル | あっ、そちらのレディ! スカーフを落としましたよ。 |
女性 | あら……! 気づかなかったわ。 拾ってくれてありがとう。 あなたたちもこれから旅行なの? |
シャルルヴィル | Oui♪ オーストリアにね! |
男性 | おや、奇遇だね。 僕たちはオーストリアから新婚旅行でイギリスに来たんだ。 |
シャルルヴィル | わぁ……! 結婚おめでとう! 心から祝福するよ! |
ラッセル | 改めて、オーストリアの説明……は、 誰も聞いていないか……。 |
シャルルヴィル | もしよかったら、ウィーンでおすすめのお店を教えてほしいな。 せっかくだから、いっぱい美味しいものを食べたいんだ♪ |
女性 | ガルテンホテル前のレストランは、 シュニッツェルが有名ね。 お隣のカフェは、アプフェル・シュトゥルーデルが絶品なの。 |
シャルルヴィル | Merci♪ それは絶対行かなくちゃ! あ、ボクはロンドンでおすすめのティールームを紹介するね。 |
男性 | ありがとう! 庭園が素敵なところもあるかな? |
シャルルヴィル | それなら───。 |
ラッセル&マークス | …………。 |
マークス | ……あいつの頭の中は、食い物のことしかないのか? |
ラッセル | えっ!? 君もさっきまで ガイドブックのグラシュに釘付けだったのに……!? |
男性 | この時期の旅行なら、金鷲勲章で賑わっているだろうね。 もしかしたら、カール様を一目見られるかも! ひょっとして、それも旅行の目的? |
シャルルヴィル | ふふっ、正解! |
女性 | やっぱり! 革命戦争の英雄が実在して、 今も私たちを守ってくださっているなんて、感激だものね! |
男性 | 隣のドイツでは内戦が続いているし、 各国で武装襲撃が頻発してるって聞くけれど……。 オーストリアは、すごく平和なんだ! |
女性 | きっと、カール様がいらっしゃるからよ。 |
女性 | …………。 だから……もしオーストリアで変な噂を聞いても、 真に受けないでほしいの。 |
シャルルヴィル | ……変な噂? |
男性 | 一部の陰謀論者みたいな連中が、 カール様のことを“死神皇帝”だなんて呼んでいるんだ。 それに、マスターのザラ様も偽物だとかなんとか……。 |
シャルルヴィル | ええっ……? どういうこと……? それに、マスターには薔薇の傷があるからわかるよね。 |
男性 | その通りさ。 噂の出所だって、眉唾物の下らないものだよ。 |
男性 | 繁華街で飲んだくれていた自称映画製作所の男が、 「ザラの薔薇の傷はタトゥーシールだ」 「俺が作った」とか 言いふらしてたらしくてね。 |
男性 | その男が川で溺死したものだから、 暗殺されたんだーって騒ぐ人たちが出てきて。 |
女性 | 亡くなったのは気の毒だけれど、 酔っていたなら、ふらついて川に落ちてしまっただけだと思うの。 |
男性 | 陰謀論が流行ってるのも、平和な証拠だよ。 くだらない噂話に花を咲かせる余裕があるってことだからね。 |
女性 | ……あっ、そろそろパスの時間よ! 9番乗車口に行かないと。 |
男性 | おっと! あれこれ込み入った話までしてごめんね。 カール様のことを誤解されたくなくて、つい。 |
男性 | それじゃあ、旅を楽しんで! |
シャルルヴィル | はい! あなた方も。 |
シャルルヴィル | …………。 |
シャルルヴィル | 親切な人たちだったね。 でも、気になる話もあったな……。 |
---|---|
ラッセル | 君たちに言うべきか迷っていたんだが……。 “死神皇帝”については、私も耳にしていた。 |
マークス | 死神……物騒だな。 どういうことなんだ? |
ラッセル | カール閣下にまつわる─── 彼らが言っていた通り、眉唾物の噂だ。 |
ラッセル | もしも、噂に少しでも事実が混じっていた場合を考えて あらかじめ伝えておくが、この話を聞いたことは、 オーストリアでは口にしないように。 |
ラッセル | いいね、マークス。 〇〇君の立場を悪くしないためにも、約束してくれ。 |
マークス | わかったから、話してくれ。 マスターのために、危険に繋がりそうなことは知っておきたい。 |
ラッセル | 私が聞いたのは、カサリステの研究員の噂話だ。 なんでも、オーストリアの貴銃士2名を呼び覚ましたマスター、 ザラ氏が、偽物ではないかというんだ。 |
シャルルヴィル | 薔薇の傷がタトゥーシールだっていう、 さっきの話と繋がってる感じがするね。 |
ラッセル | ああ。 そして、本物のマスターが何人も死んでいると囁かれている。 表沙汰になっていないのは、死刑囚を使っているからだとか……。 |
ラッセル | 正直なところ、信憑性の低い話だ。 とはいえ、こういう噂が出るからには─── |
ラッセルは周囲に目配せして人気がないのを確認すると、
顔を寄せて小声で話した。
ラッセル | カール閣下には、何か裏があるのだろう。 |
---|---|
主人公 | 【裏……】 【革命戦争の英雄なのにですか……?】 |
ラッセル | ああ。単に金鷲勲章のゲストとして呼ばれただけなのか、 それとも別の狙いがあって招待されたのか……。 オーストリア滞在中、彼には十分に気を付けてくれ。 |
主人公 | 【でも、恭遠教官は……】 【彼だけは信じていいと言われました】 |
〇〇は、「カールは信頼できる」と
恭達から聞いたことを、ラッセルに伝えた。
ラッセル | 私としても、疑いたくはないんだが……。 英雄が必ずしも善人で、正義だとは限らない。 実際に彼と対峙し、君なりの結論を出してみてはどうかな。 |
---|---|
ラッセル | とにかく、噂の件を無視することはできない。 事実が少しでも含まれているのなら、 何が起きているのか慎重に見定めるべきだ。 |
ラッセル | まったくのデタラメであっても、問題が残る。 悪意ある噂を故意に広めている者がいるということだからな……。 |
アナウンス | 『まもなく、2番線の列車が発車します。 ご利用の方は、お早めに席へお座りください』 |
シャルルヴィル | 2番線って、ボクたちが乗る列車だよね。 |
マークス | マスター……出発前から、なんだかきな臭いぞ。 やっぱり、オーストリア行きはやめにしないか? |
主人公 | 【そういうわけにはいかない】 【ドタキャンは国際問題になるかも……】 |
ラッセル | もし、万が一何か異常事態が発生したら、 連合軍に連絡をして、安全を確保してくれ。いいね? |
主人公 | 【イエッサー!】 |
釈然としない気持ちを抱えた〇〇たちを乗せて、
オーストリア行きの列車は出発したのだった。
───ヴァイスブルク宮殿にて。
使用人1 | ……ようこそ、お客様……。 |
---|---|
使用人2 | ようこそいらっしゃいました……。 |
シャルルヴィル&マークス | …………。 |
宮殿内は、異様な静けさに包まれていた。
住む者は誰もいないのではないかという気すら起こさせる。
オーストリア政府職員 | ……ここ、ヴァイスブルク宮殿は、 現在ほとんど、貴銃士様方専用の住居となっております。 |
---|---|
シャルルヴィル | あ……素晴らしい宮殿ですね。 調度品もとても素敵でうっとりします。 |
マークス | ……ずいぶんと人気がないな。 それに、なんだか暗い。 |
主人公 | 【しーっ!】 【マークス!】 |
オーストリア政府職員 | 今回のように、お客様をここでお迎えすることもありますから、 もちろんそれなりに職員もいるのですが…… 皆様方の目に触れる人数は、確かに少ないでしょう。 |
マークス | こんなに広いところに住んでるのが2人だけなのか……? 貴銃士っつーより、王様か何かみてぇだな。 |
オーストリア政府職員 | カール様は、革命戦争の英雄であり、 銃自体も極めて希少な芸術的一品銃です。 閣下に相応しい住まいとして、この宮殿が選定されました。 |
オーストリア政府職員 | ここから先は、案内担当者が変わりますので、 私はこれにて失礼いたします。 |
主人公 | 【ご案内ありがとうございました】 |
政府の担当者が去るのとほとんど同時に、
扉が開いて1人の女性が現れる。
上級使用人 | ヴァイスブルク宮殿へようこそいらっしゃいました。 フィルクレヴァート士官学校の〇〇様、 貴銃士シャルルヴィル様、マークス様。 |
---|---|
上級使用人 | カール様が皆さまとの会談をご希望です。 応接室へご案内いたします。 |
上級使用人 | なお、会談の時間は10分とさせていただきます。 |
シャルルヴィル | えっ、10分だけ……? |
上級使用人 | はい。カール様のお身体に障りますので。 |
マークス | ん……? どういう意味だ。 |
シャルルヴィル | 身体に障るって言うと……体調が悪いとか、そんな感じかな? |
上級使用人 | 詳細はお伝えしかねます。 ……どうぞ、こちらへ。 |
通された大広間には、美しい美術品や、肖像画などが並んでいる。
しかし人の気配はなく、物音1つしないほどに静かだ。
マークス | 人間の絵がたくさんあるな。 あちこちから見られている感じがして、なんだか嫌だ。 |
---|---|
シャルルヴィル | ハプスブルク家に連なる人たちの肖像画みたいだね。 夜に見たら、ちょっと怖いかも……。 |
マークス | その、ハプスブルク家ってのはなんなんだ? |
シャルルヴィル | うそっ、知らない……!? ハプスブルク家っていうのは、ヨーロッパを代表する名家だよ。 |
シャルルヴィル | 神聖ローマ帝国や、オーストリア、ハンガリー、スペイ ン…… いろんな国の王位や皇位について、絶大な権力を誇ったんだ。 |
シャルルヴィル | カールさんは、皇帝カール5世のピストル。 ハプスブルク家の有名人には、マリー・アントワネットの母君、 “女帝”マリア・テレジアとかがいるね。 |
シャルルヴィル | 今のハプスブルク家には、そんなに力がないんだけど…… カールさんは革命戦争の英雄だから、 オーストリアの人たちにとても大切にされてるんだね。 |
マークス | そうか。 |
シャルルヴィル | ねぇ、真面目に聞いてた!? |
マークス | ん……誰か来た。 |
シャルルヴィル | マイペースだなぁ、もうっ! |
応接室の扉が開き、3人の男性が入ってくる。
少年───恭遠の話からして、彼がカールだろう。
彼を先頭にして、銃を持った青年、おそらくローレンツと、
楽器ケースを持ったやや神経質そうな男性が続いた。
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