───これは、まだ世界帝による支配が行われ、
レジスタンスが貴銃士たちとともに
革命戦争の前線に立っていた頃のこと……。
日本生まれの貴銃士である、フルサト、キンベエ、
サカイ、クニトモの4人は、雪が降り積もる地方へ赴いていた。
サカイ | うう……さぶっ。 商売してる店があってほんま助かったわ。 あとちょっとでも外におったら、イケメンの氷像になるとこや。 |
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クニトモ | ほならボクが外に出したるわ。 凍ったら静かになってちょうどええもんなぁ。 |
サカイ | なんやて!? |
クニトモ | あ、おっちゃーん。 熱々のお茶4つ、お願いしますー。 |
湯気が立ち上る紅茶が運ばれてきて、
4人はそれぞれカップに口をつけ、ほっと息をつく。
フルサト | 温まるワ〜! フフ、これでまた頑張れそうネ。 |
---|---|
キンべエ | うむ、そうだのう。 しかし無理は禁物ですぞ、フルサト殿。 |
フルサト | もう! おじいちゃん扱いしないデ! ワタシはまだまだ現役ヨ! |
サカイ | わかっとるって! 雪道一番るんるんで進んどったのフルサトさんやったしな! |
雪道行軍の疲れを癒やすため、休息をとる4人。
次に店があるのはどこかわからないため、
食事も頼んで、心身を温め休めることにする。
サカイ | ───……したら、こいつシラ~っとした顔で流しよって! かぁーっ! 関西銃の風上にも置けんわ。 |
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クニトモ | しょーもないボケやったから呆れただけです〜。 サブすぎ罪で罰金徴収したいくらいやわぁ。 |
サカイ | はぁ〜!? そっちはノリ悪すぎ罪で懲役刑や! |
キンベエ | ……のう、サカイ。 さっきの冗句はどういう意味だったんだ? |
キンべエ | しばらく考えとったんだが、どうもわからんで……。 こりゃ、一番の山を聞き逃したんじゃないかと気になってのう。 |
サカイ | ええーっ、ウッソぉ!? そりゃないでキンべエのおっちゃん! いきなり背中から刺さんといてや! |
クニトモ | ほーら、しょーもなさすぎて通じてへんわ。 責任持って解説してもろてええ? |
サカイ | クニトモォ……!! |
キンベエ | む……そんなにつらいことなら無理にとは言わんさ。 冷めないうちに食べて出発するぞ。 |
サカイ&クニトモ | はぁーい。 |
フルサト | 忘れ物はナイ? 手袋も耳あてもしっかりつけた? |
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サカイ | 大丈夫やで! |
クニトモ | フルサトさんに作ってもろた手袋やさかい、 絶対忘れたりせーへんよ。 |
フルサト | 大事に使ってくれて嬉しいワ。 ワタシも、みんなにもらったマフラー、大事に使うわネ。 |
サカイ | おおきに! |
───またある時、レジスタンス特別支部の基地にて。
フルサト | ……アラ! |
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フルサト | ちょうどお団子ができたところなのヨ。 ユーも一緒に食べましょう。 |
───、……、……!
フルサト | ほら、こっちに来て……マスター。 |
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───ドンドン!
フルサト | ピンク色のはネ、いちごジャムを混ぜて─── |
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───ドンドンドン!
フルサト | ……っ! |
---|---|
フルサト | (ああ……夢、だったのネ……) |
あたたかくて優しい夢は消え去り、
激しいノックが響き渡る現実の世界へと戻ったフルサトは、
ベッドからのろのろと身体を起こした。
スケレット | やぁーっと起きた。 |
---|
既に室内にいたスケレットから顔を覗き込まれ、
フルサトはわずかに眉をひそめた。
フルサト | ノックは入る前にしてチョウダイってお願いしたでしょう? 入ってからしても、意味がないワ。 |
---|---|
スケレット | んー? そういえばそんなこと言ってたっけ。 |
スケレット | ブハハ、いっつもあんたの顔見てから思い出すんだよなァ。 ゴメンゴメン☆ |
フルサト | …………。 |
スケレット | それより、ベイビーが呼んでるよォ、ママ〜。 |
フルサト | ……そんなふうに呼ばないでチョウダイ。 |
フルサト | それに、急に言われても……無理ヨ。 ワタシにも、予定があるノ。 |
スケレット | うわー、カワイソ。 遅くなってもいいから行ってやれよ? |
スケレット | ベイビーはママが来てくれなきゃ死んでやるって言ってたぜ。 どうする? 行かないなら俺からそう伝えてといてあ・げ・る♪ |
フルサト | ……はぁ……。 |
スケレット | オッケー! じゃ、勝手に死ねって言っとくわ! |
フルサト | ヤメテ!! わかったワ! ちゃんと行くから……。 |
スケレット | 最初からそう言えって。 ま、見捨てられないあたりさすがはママだよなァ。ブハハハ! |
フルサト | だから、その呼び方は……! |
フルサト | …………。 |
フルサト | (……ワタシが何を言っても無駄……) |
フルサト | (ああ……また行かなきゃならないのネ。 あの子のところに……) |
フルサト | (また……ワタシの、悪夢のような1日が始まる……) |
7年前───ワタシはレジスタンスの貴銃士だった。
世界帝の居城、イレーネでの最後の戦いが終わって……
マスターの薔薇の傷が完治して力を失ったワタシたち貴銃士は、
銃に戻って、革命の混乱が落ち着くのを待つことになった。
銃のワタシにはっきりとした意識はなかったカラ、
あまり詳しくはわからないけれど……
ワタシ───古銃「フルサト」は日本に返還されることになった。
ワタシや金チャンは、レジスタンスが古銃を手に戦っていると
聞いた日本の有志が、支援としてコッソリ送った銃だから、
期間限定で貸し出されていたようなモノ……。
ダカラ、戦いが終わってワタシたち貴銃士の役目も終わったなら、
在るべきところへ戻るのは当然のコトだって、
ワタシも納得していたワ。
もちろん、ワタシの家族───マスターや貴銃士、
レジスタンスの皆とサヨナラをするのは、
本当に本当に寂しかったケド。
ワタシを送り出してくれた人たちのところに戻って、
安心してもらいたい。そして、銃のワタシだけど、
少しでも皆の励ましや希望になれるなら……!
デモ……。
ワタシたちが返還された頃の日本は、大混乱の真っ最中だった。
世界帝府の統治時代───桜國幕府は存在していたケド、
世界帝府の意向を伝えるダケの傀儡政権だったのですって。
世界帝府が崩壊したあと、国をどう統治していくべキなのか、
いろんな人がいろんな正義を持って、話し合い、戦ったそうヨ。
市民活動家 | 今こそ真の意味で国民に政治を取り戻すのだ!! |
---|
幕臣1 | このままでは国中が大混乱に陥る……! 当面は幕府が引き続き統治を行い、混乱を鎮めるべきであろう。 |
---|---|
幕臣2 | うむ。政治体制の改変はその後だ。 国内の騒乱が続けば、先に体制を立て直した諸外国に 付け入る隙を与えることになる。 |
幕臣3 | しかし、このような状態の日本をまとめ導くのは 至難の業だぞ……。 |
今の桜國幕府の将軍サマが舵を取るようになるまで、
本当に大変な状況だったのですっテ。
だから結局、ワタシが「故郷」───
種子島に送られることになったのは、
ワタシが日本に返還されてから4年もアトだったらしいノ。
銃に戻ったワタシに、周りを見る目はないケレド……
船に揺られる、トッテモ懐かしい感覚があった気がするワ。
ああ、これでようやく種子島に戻って、
きっと、金チャンたちと一緒にまた永く、静かに……。
そうなるハズだったのに───
ワタシが目覚めた時、そこにいたのは……。
フルサト | (……あ、れ……?) |
---|---|
フルサト | (誰かが、ワタシを呼んでる……。 マスター? ユーなの……? でも、何か……) |
召銃の光が収束していき、フルサトは再び貴銃士の姿を取る。
しかし───呼び覚ました『マスター』は、
フルサトが大事に思う、かつてのマスターではなかった。
モーゼル | お久しぶりです、貴銃士フルサト。 イレーネ城での一件以来ですね。 |
---|---|
フルサト | …………え? |
モーゼル | かつては敵対する立場でしたが……。 今は『同じマスター』に仕える貴銃士として、 お互い仲良くしましょう。 |
第二代世界帝として圧政を敷いた、アシュレー・サガン。
レジスタンスが決死の覚悟で戦って玉座から引きずり下ろした男と
その腹心の貴銃士であるモーゼルの2人が、フルサトを見ていた。
フルサト | ど……して……!? |
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フルサト | (何故なの……!? 一体何が起こっているノ……!?) |
モーゼル | 驚くのも無理はありません。 あなたの貴銃士としての最後の記憶は、 イレーネ城の玉座の間でしょうから。 |
モーゼル | 長くなるので詳細は省きますが、 アシュレーはこうして自由の身となり、 再びマスターとしての力を勝ち得ました。 |
フルサト | ……!? |
アシュレーの手には、レジスタンスの貴銃士たちが
たしかに完治させたはずの薔薇の傷が、再び赤々と刻まれている。
フルサト | (そんな……! あれから何年が過ぎて、その間に何があったというノ……!? マスターは……皆は無事なノ……!?) |
---|
───数時間後。
フルサト | …………。 |
---|---|
モーゼル | まったく……少しは落ち着きましたか? |
フルサト | ……ッ! |
モーゼル | 銃本体を破壊しないように気をつけねばならない こちらの身にもなってほしいものです。 |
モーゼル | アシュレーに治療で力を浪費させたことも反省してくださいね。 今回は初日なので大目に見ますが、許すのは今日だけです。 |
フルサト | ……何故ワタシを呼び覚ましたノ。 殺しもせず、壊しもせず、何がしたいノ。 |
モーゼル | ようやく話を聞く気になりましたか。 ふむ……あなたを選んだ理由は違いますが、 あなたが火縄銃でよかったかもしれませんね。 |
フルサト | ……どういうコト。 |
モーゼル | こうして僕たちに理由を問う前に、 自死しない───いや、できないからですよ。 |
モーゼル | ……ああ、勘違いしないでください。 今のは皮肉ではなく賞賛です。 |
モーゼル | 僕は銃としての自分に誇りを持っていますが、 ピストルという特性上、自死にも使いやすい。 |
モーゼル | ……そのことだけは、僕は非常に残念だと思っています。 |
フルサト | ……早く本題に入りなサイ! |
モーゼル | ……僕の要求はシンプルですよ。 あなたはアシュレーの貴銃士になりました。 なったからには、誠心誠意仕えなさい。 |
フルサト | お断りヨ。 |
モーゼル | …………。 程度の差はあれ、我々貴銃士はマスターに逆らえない。 |
モーゼル | あなたも今、感じているはずだ。 『アシュレーに仕えるべきだ』という本能のようなものを。 |
フルサト | …………。 確かにワタシは、あの人を傷つけることはできない。 |
フルサト | でも、何もしないでいることはできるワ。 ワタシを便利に使おうとしても無駄ヨ。 ワタシは絶対に、何もしてあげない。 |
モーゼル | …………。 |
モーゼル | そうですか。 結論を急がずに、こちらを見た方がいいと思いますが。 |
モーゼルがフルサトに見せたのは、
レジスタンスのマスターが写った数枚の写真だった。
遠くから隠し撮りされたのか、どれも目線がずれている。
フルサト | ……ッ! |
---|---|
モーゼル | あなたは目覚めたばかりで状況を知らないでしょうから、 いくつか補足しておきます。 |
モーゼル | 元レジスタンスのマスターは、 返還の必要がない量産銃を所有し、小さな村に隠れ住んでいます。 |
モーゼル | メディックでありながら、貴銃士のマスターとして前線に赴き 大変な苦労を重ねてきたそうですね。 |
モーゼル | 平穏な暮らしを───と願った恭遠・グランバードなどの尽力で かの人物の居場所は厳重に伏せられていましたが……。 |
モーゼル | 頻繁に場所を変えもしないあたり、慢心していたんでしょうか。 あるいは、油断……? いや、点々とするのは『平穏』ではないからかもしれませんね。 |
モーゼル | 甘いことです。自らの力で世界帝の座を掴み、 世界中に目を光らせていたアシュレーと、 彼を支えてきた秘書官である僕から逃れられるはずもないのに。 |
フルサト | ……アナタの言うことを信じろと? |
モーゼル | 無意味な探り合いは面倒です。 信じられないのでしたら、僕と一緒に村へ行ってみますか? |
フルサト | (そこまで言うということは本当なのでしょうネ……。 どうにかして危険を知らせなきゃ。 でも、ワタシはあのコの居場所を知らないし……) |
モーゼル | ああ、それから。 こういうものもあります。 |
次にモーゼルが見せたのは、
フルサトがよく知る一挺の銃の写真だった。
フルサト | 金チャン……! |
---|---|
モーゼル | ええ。 あなたとともに種子島に運ばれていたので、 矢板金兵衛作の銃も当然確保済みです。 |
モーゼル | ……さて、前提条件の確認は済みました。 改めて『話し合い』を始めましょう。 |
フルサト | ワタシの家族を人質にして、『話し合い』? ふざけないでチョウダイ! これはただの脅しヨ! |
モーゼル | 理解が早くて助かります。 |
フルサト | ……っ! |
モーゼル | あなたの大切なものを壊されたくなければ、我々に従いなさい。 我々に従うことで───……あなたの言う『家族』を守れるのです。 |
フルサト | …………。 |
フルサト | ……選択肢なんて、ナイ、じゃない……。 |
モーゼル | 快い協力に感謝しますよ、フルサト。 |
フルサト | (あの日が……ワタシの悪夢の始まり……) |
---|
───それから数年。
フルサトは、新たな「マスター」と
モーゼルの望みに応じて動くことになった。
その中で───監視役であるトルレ・シャフの構成員と共に、
イギリスのとある村を訪れることになる。
そこには、以前モーゼルに見せられた写真と
ほとんど変わらない景色が広がっていた。
フルサト | ……ココが、あのコの今の居場所なのネ。 |
---|
遠くの物陰からひっそりと視線を向け……
許されたごく僅かな時間で、その懐かしい姿を目に焼き付ける。
トルレ・シャフ構成員 | モーゼル様から許可された時間は終わりです。 離脱の準備を。 |
---|---|
フルサト | ……ええ。 |
フルサト | …………。 |
フルサト | (……ごめんネ。 今はマダ、遠くから見つめることしかできないケド……) |
フルサト | (ユーのことは、いつか必ずワタシが助けるワ。 ダカラ、どうか……それまでは何にも気づかず平穏に、 幸せに過ごしていてネ……) |
そして───現在。
フルサトはスケレットとともに、
トルレ・シャフの拠点の中を進んでいた。
フルサト | (そういえば……ワタシ、なんの夢を見てたのカシラ。 目が覚めた瞬間は覚えていたはずなのに、 もう思い出せないワ……) |
---|
ぼんやりしていたフルサトの腕を、スケレットが掴む。
スケレット | おーい、ママぁ。違うって。 こっちこっち。 |
---|---|
フルサト | ……あのコのところに行くんでショ? |
スケレット | あー、それはあとで。 『シェパード』から、ママのこと連れてきてって頼まれててさァ。 今日はそっちが優先なわけ。 |
スケレット | 言ってなかったっけ? ゴメンゴメーン! |
フルサト | …………。 |
フルサト | (ワタシを困らせて楽しむために、 あのコの名前を先に出したのネ) |
スケレット | はい、到着。 シェパードのみなさんにヨロシク♪ |
スケレット | 俺はガールズのとこに行ってくるわ。んじゃ! |
フルサトがシェパード・ルームに入室すると、
そこにはモーゼル、アインス、エフの3人が着席していた。
フルサト | ……ユーたちだけ? |
---|---|
モーゼル | 任務で各地に散っている者もいるので。 今日のメンバーは我々だけです。 |
フルサト | そう……。 |
アインス | ……休めていないのか? 顔色が悪い。 |
エフ | あら、アインスお兄様。 心配してあげてるの……? 優しい♥ |
アインス | フルサトは、俺たちにはできない重要な役割を担っている。 扱いには気を配るべきだろう。 |
エフ | ウフフ……そうね。 |
エフ | それで、どうなの? フルサト。 さっさと答えなさい♥ |
フルサト | ……ダイジョウブ。 |
モーゼル | では、本題に入りましょう。 今日の議題は─── |
トルレ・シャフ構成員 | 失礼いたします! セント・ディース島から緊急の通信が入りました! |
モーゼル | 内容を。 |
トルレ・シャフ構成員 | はっ! 監視につけている者からの連絡で───…… ラブ・ワン様が裏切ったと! |
アインス&エフ | ……! |
アインス | ……ラブ・ワンが……。 |
エフ | ……ラブちゃん……あなたは、そっちを選んだのね……。 |
モーゼル | …………。 |
フルサト | (……ワタシは、彼らとは相容れない……。 ケド、仲間を想う気持ちは、同じようにあるのカシラ……) |
モーゼル | ……急ぎ、ラブ・ワンのマスターと本体をこちらへ。 対処します。 |
トルレ・シャフ構成員 | かしこまりました! |
トルレ・シャフ構成員は、足音も憚らずに駆けていく。
エフ | 本体も、って……。 |
---|---|
モーゼル | 今日の議題にも関わることですから。 ……フルサト。ラブ・ワンのマスターが来たら、 すぐに絶対高貴で傷を消してください。 |
フルサト | ……わかったワ。 |
トルレ・シャフ構成員 | お待たせしました……! 連れてまいりました! |
息を切らして駆け込んできた2人のトルレ・シャフ構成員。
そのうち、手に薔薇の傷がある男に近寄り、
フルサトは手をかざす。
フルサト | ───……絶対高貴。 |
---|
薔薇の傷は蔦を縮め、花びらが散るように小さくなっていき、
やがて完全に消え去った。
モーゼル | ……これで、裏切り者は銃に戻りました。 |
---|---|
アインス&エフ | …………。 |
モーゼル | 本来ならば今日は、ライク・ツーを懐柔し こちらへ引き込む任務の期限を終えたあと、 どういった立場・処遇とするか協議するつもりでした。 |
モーゼル | ですが、こうなった以上議題は変更です。 |
モーゼル | UL85A1─── 我々を裏切った貴銃士ラブ・ワンの処分を決めましょう。 |
ラブ・ワンの本体である銃を前にして
モーゼルたち3人の間に重い沈黙が満ちる。
フルサトも無言で、彼らの様子を見ていた。
モーゼル | ……僕は、裏切り者には相応の罰を与えるべきだと考えています。 |
---|---|
エフ | それって……。 |
モーゼル | UL85A1の銃本体を破壊し、 二度と貴銃士として召銃できないようにするのです。 |
モーゼル | 銃本体を押さえられた上で裏切ったのですから、 ラブ・ワンは破壊を覚悟して動いたのでしょう。 今後の交渉の余地もないと思います。 |
アインス | 確かにそうかもしれない。 だが、結論を急ぐのは危険だ。 ……ファルの例もある。 |
エフ | ええ、そうね……。 ファルちゃんの時みたいに、敵対するつもりはなかったって、 手遅れになったあとでわかるなんて、もう嫌……。 |
フルサト | ファル……? 彼は連合軍側について、決別したと聞いたケド……? |
エフ | ……あなたは知らないのね。 そうじゃなかったのよ……。 |
泣きそうな表情で強く唇を噛むエフを、
フルサトは少し驚きつつ見つめる。
エフ | ファルちゃんは……アタシたちとの会合を密告してなかったの。 でも、それがわかったのは、全てが終わってからだった……。 |
---|---|
エフ | アタシたちが撤収したあと、 ファルちゃんは───炎の中に身を投じたんですって。 |
フルサト | ……! |
アインス | ……俺のせいだ。 |
エフ | 違うわ、アインスお兄様。 アタシも……同じ罪を背負ってる。 |
エフ | アタシ、ファルちゃんの意思を尊重したつもりで…… 本当は、あれ以上ファルちゃんの言葉を聞くのが怖かったの。 |
エフ | 連合軍を引き連れてきたファルちゃんは、 もう、アタシたちのことはどうでもよくて…… もう家族には戻れないんだってはっきりするのが嫌だったの。 |
エフ | だからアタシ、一度も振り返らなかった……。 あの時ファルちゃんが何を言おうとしていたのかも、 どんな顔をしてたのかもわからない……! |
エフ | そして、永遠にわからないままになっちゃったわ。 アタシたちが知るファルちゃんは、 あの日、燃えて消えてしまったから……。 |
モーゼル | ───大損傷と、ほぼ作り替えるような大規模修理の結果、 彼の記憶は失われ、正真正銘連合軍側の貴銃士となりました。 |
モーゼル | ミカエルも経緯こそ多少違いますが、結果は同様です。 これ以上、貴銃士として目覚める素質を持った銃を あちらに渡さぬよう、ラブ・ワンを処分するべきでしょう。 |
アインス | ……ミカエルやファルと違って、 ラブ・ワンは本体を俺たちが保持している。 破壊を急ぐ必要はない。違うか? |
モーゼル | その意見も一理ありますね。 しかし、裏切った銃を残すことに、なんの意味が? |
モーゼル | 現場からの報告を待っても構いませんが…… 裏切りが確実だと判明した時点で破壊に踏み切る。 これが僕の考えです。 |
アインス&エフ | …………。 |
反論の根拠が思い浮かばないのか、アインスとエフは沈黙した。
その表情は沈痛なもので、フルサトは胸がざわつくのを感じる。
フルサト | (彼らは、世界帝軍時代───酷いことをしたワ。 そして今も……恐ろしいことを計画している) |
---|---|
フルサト | (デモ……誰かを想う気持ちはワタシたちと同じようにある。 彼らにとっては、ファルも、ラブ・ワンも、 大事な家族で失いたくないコなのネ) |
フルサト | (ワタシが家族を想う気持ちと彼らの気持ちは、 きっと、スゴク似通ってる……) |
フルサト | (……彼らを許せない気持ちは変わらナイ。 彼らを自分とは違うモンスターだと思った方が楽だと思う。 ケド、それは間違ってるワ) |
フルサト | ……『家族』と二度と会えなくなるのは、 本当に……本当に、つらいことヨ。 |
フルサト | 破壊すれば、取り返しがつかなくなるワ。 それでいいのか……もっと考えてもいいんじゃナイ? |
アインス&エフ | …………。 |
エフ | ねぇ、モーゼルちゃん……。 |
モーゼル | ……わかりました。 このまま議論を続けても、平行線になりそうですね。 |
モーゼル | 我々で意見をまとめてからアシュレーに上奏するつもりでしたが、 意見が割れたことも伝えて、判断を仰ぎましょう。 |
アインス | ああ……あの方の判断ならば、異論はない。 |
モーゼル | では、本日はこれで解散としましょう。 |
アインス | …………。 |
アインス | (……フルサトがこちらに肩入れするとはな。 脅迫され言いなりになっているだけだと思っていたが……) |
何か声をかけるべきか少し考えるアインスだったが、
その袖をエフが軽く引く。
エフ | アインスお兄様……アタシたちも行きましょ。 |
---|---|
アインス | ……ああ。 |
スケレット | お? やぁーっと出てきた。 |
---|---|
フルサト | ……遊びに行ったんじゃなかったノ? |
スケレット | そうなんだけどよ、途中で捕まって色々と伝言頼まれちまった。 中堅実働部隊はこき使われてしんどいなァ〜。 |
フルサト | ……ソウ。それじゃあ─── |
スケレット | はいはい、ストップ、ママ! 今度は『シェパーズ・クルーク』から呼び出しだぜ。 |
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