〇〇たちは、迷ったものの、
士官学校へ手紙を送ることにした。
事前の取り決めから外れてニュルンベルクへ行く以上、
なんの連絡もなしというわけにはいかない。
緊急事態には応援を呼ぶかもしれないことなどを綴り、
ドイツ支部を介して士官学校へ届けてもらう。
手紙が届くのは、数日後の予定だ。
──翌日。
ライク・ツー | ……これが、ニュルンベルク方面行きの列車か。 |
---|---|
主人公 | 【……人が少ないね】 【……静かだ】 |
ライク・ツー | 当然だろ。 危険地帯にわざわざ突っ込んでいく馬鹿は、 お前くらいしかいねぇよ。 |
ライク・ツー | 革命戦争からまだ10年も経ってないんだ。 人間たちの記憶には、恐怖の感情が深く残ってる。 金稼ぎにだって、行きたくないんじゃないか。 |
ライク・ツー | ま、お前は一応将来士官になる身だったな。 戦場を恐れないのは結構なことだが……。 |
ライク・ツー | ……それより、少し寝とけ。 現地についたら、気を抜けなくなるんだからよ。 見張りなら俺がしとく。 |
主人公 | 【ありがとう】 |
ライク・ツー | ……別に、お前のためじゃない。 どうせ、昨日はよく眠れてないんだろ。 危険地帯でぼーっとされたら俺が困るから、早く寝ろ。 |
ライク・ツー | はぁ……。バカだな、俺も……。 |
ライク・ツー | ──ろ……。おい……! |
---|---|
ライク・ツー | ──〇〇! |
〇〇が目覚めると、
列車はニュルンベルクの手前の駅まで
もうすぐというところだった。しかし──。
主人公 | 【……なんだか様子がおかしい】 【列車が全然減速してない】 |
---|---|
ライク・ツー | ……妙だな。 このままの勢いだと、駅を通り過ぎるぞ。 |
ライク・ツー | なんで止まらない……!? |
ライク・ツーが、
窓の外の様子を確認しようとした途端──
──ダダダダッ!
ライク・ツー | っ! 襲撃か!? |
---|
──バァン!!
ライク・ツー | おい、〇〇、掴まれ……! |
---|
爆発音が鳴り響き、列車が急ブレーキをかける。
なんとか体勢を立て直して外の様子を窺うと、
武装集団が列車に乗り込んでくるのが見えた。
ライク・ツー | チッ……、さっそく厄介事とご対面か。 あー、最高に笑える。 |
---|
文句を言いつつも、ライク・ツーは既に
戦闘準備を整えている。
〇〇も護身用のハンドガンを構え、
身を低くして警戒する。
反乱軍兵士1 | 全員動くな! この列車は我々が制圧した! 貴様らには我々の拠点に来てもらう。 余計な抵抗をした者は殺す! |
---|---|
ライク・ツー | (こいつら、反乱軍……だよな。 拠点っつーとミュンヘンか。 乗客を人質にして、交渉カードにするつもりか?) |
ライク・ツー | (……〇〇の手の傷を見られたら、 俺が貴銃士で、こいつがマスターだと バレるだろうな……) |
ライク・ツー | (よほどのことがない限り殺されはしないだろうが…… 最重要の人質になって、面倒なことになる) |
主人公 | 【捕まるわけにはいかない】 【制圧できる?】 |
ライク・ツー | 当然だろ。 俺を誰だと思ってやがる。 |
ライク・ツー | 雑魚どもは、俺がまとめてぶっ飛ばしてやるよ。 |
ライク・ツー | 〇〇、こっちだ! |
---|
ライク・ツーが、車両に乗り込んできた反乱軍を
素早く制圧して、車両外に脱出する。
しかし──。
ライク・ツー | ……クソッ、援軍か! |
---|---|
反乱軍兵士1 | なっ……客が脱出しているぞ! おい、貴様ら動くな! |
反乱軍兵士2 | あの制服……軍の人間か! 武装しているぞ! 取り囲め! |
反乱軍の増援が次々に現れる。
ぐるりと周囲を取り囲まれ、〇〇と
ライク・ツーは、身動きが取れなくなった。
反乱軍兵士1 | おい、武器を捨てろ! 大人しくすれば、命までは奪わない! |
---|---|
ライク・ツー | チッ……。 |
ライク・ツー | (50人……いや、もっといるな。 反撃を食らう前にこの数を倒すのは、非現実的だ。 となると、一番生存確率が上がるのは……) |
ライク・ツー | ……おい、〇〇。 そのまま聞け。 |
ライク・ツー | こうなっちまった以上、助かる可能性が 一番高い道を選ぶ。 ……俺たちの正体を明かすぞ。 |
ライク・ツー | 捕まったあとで、隙を見て逃げる。 もしくは、救出が来るのを待つ。 いいな? |
主人公 | 【了解】 【……巻き込んでごめん】 |
ライク・ツー | ……ふん。 |
ライク・ツー | ──おい、聞け! 俺は貴銃士、そしてこっちがマスターだ。 |
ライク・ツー | 抵抗はしない。お前たちに従う! だが、この銃は捨てられねぇ。俺の本体だからな。 それでもよけりゃ、マスターと一緒に行ってやるよ。 |
反乱軍兵士1 | なに……!? 貴銃士とマスターだと……! |
反乱軍兵士2 | おい、見ろ! あの手の傷……! 奴らの言っていることは、本当なのでは? |
反乱軍兵士1 | 現代銃の貴銃士ということは……。 |
何事かを囁き合ったあと、
兵士たちは銃を下ろした。
反乱軍兵士2 | そちらの銃は、UL85A2と見受ける。 現代銃の貴銃士ライク・ツー殿と、 そのマスター! |
---|---|
反乱軍兵士1 | あなたたちを、我らがアジトへ招待しよう。 ……大人しくついて来い。 |
ライク・ツーは、銃には触れない約束で
弾薬を反乱軍に渡して武装を解き、
〇〇のハンドガンは没収される。
その後、後ろ手に縛られ、目隠しをされた状態で、
〇〇とライク・ツーは
車に押し込まれた。
反乱軍兵士 | ……ここで大人しくしていろ。 |
---|
アジトに到着すると、目隠しが外され
倉庫のような暗い部屋に閉じ込められる。
〇〇たちを連れてきた兵士は、
奥の方で上官らしき男と何事か話し合っていた。
ライク・ツー | お前、今回の護衛が俺でラッキーだったな。 |
---|---|
主人公 | 【どうして?】 【どういうこと?】 |
ライク・ツー | ドイツ各地で内乱を起こしてるのは、親世界帝派だろ? 世界帝が召銃してたのと同じ型の銃……UL85A2を、 あいつらが簡単に害するとは思えねぇ。 |
ライク・ツー | あわよくば取り込もうとでもするんじゃないか? お前ごと、な。 |
ライク・ツー | それに乗っかるふりをして油断させれば、 逃げるチャンスは必ずやってくるはずだ。 だから、諦めんじゃねえぞ。 |
ライク・ツーの言葉に頷いたあと、
〇〇は俯いた。
主人公 | 【本当にごめん】 【自分のせいだ】 |
---|---|
ライク・ツー | ふん、まったくだな。 おかげでこんなクソ面倒くせぇことに巻き込まれた。 |
ライク・ツー | ……けど、まぁ……。 誰にでも曲げられないことはあるし…… どうしても、何かを貫かなきゃなんねぇ時もある。 |
ライク・ツー | 俺も、その気持ちは……。 ──いや。なんでもない。 |
ライク・ツー | 今回は、ダンローって奴に会いに行くのが、 お前にとっての曲げられないことだったんだろ。 |
ライク・ツー | この場には俺しかいねぇし、 ここまで来させられたからには、 最後まで付き合ってやるよ。仕方なくな! |
主人公 | 【……ありがとう】 |
ライク・ツー | ほら、もう黙れ。 あいつらが戻ってくるぞ。 |
反乱軍幹部 | ──ほう。 士官学校の生徒がマスターになったという話は 耳にしていたが……やはり、若いな。 |
反乱軍幹部 | お前はフィルクレヴァート士官学校の〇〇。 間違いないな。 |
ライク・ツー | …………。 |
反乱軍幹部 | 揃ってだんまりか。 まぁ、それが一番賢い。 |
反乱軍幹部 | 単刀直入に言おう。 お前たちを生かして連れてきた理由は1つだ。 |
反乱軍幹部 | 我々に協力してもらう。 世界帝の治世を取り戻すための、自由の戦いに。 |
反乱軍幹部 | 連合軍などという下らんものへの忠誠を捨て、 偉大なる世界帝の御許に侍れ。 |
主人公 | 【…………】 【考える時間がほしい】 |
反乱軍幹部 | ははっ、すぐには答えないか。それも当然だな。 ここで「御意に」と言われたところで、 我々もお前たちを信用できない。 |
反乱軍幹部 | 時間ならたっぷりくれてやる。 よくよく考えることだ。 |
反乱軍幹部 | ただし……お前たちが拒否したらどうなるか。 それはわかっているだろうな? |
男は拳銃を取り出すと、
銃口を〇〇に突きつける。
ライク・ツー | ……っ! |
---|---|
反乱軍幹部 | どうする、従うか? それとも……ここで死にたいか? |
ライク・ツー | ……はーぁ。 馬鹿馬鹿しいな。 |
---|---|
反乱軍幹部 | ……なんだと? |
ライク・ツー | 聞こえなかったか? 雑魚が喚いて、馬鹿みたいだっつったんだ。 |
ライク・ツー | 世界帝の治世を取り戻す? おいおい、冷静に考えてみろ。無理だろ。 |
ライク・ツー | 世界帝アシュレーはもういない。 そうだろ? |
ライク・ツー | ……誰にでも、曲げられないことはあるよなぁ。 俺にとってのそれは── |
ライク・ツー | ……負け組には手を貸さないってことだ。 |
反乱軍幹部 | ……我々が、負け組だと? |
反乱軍兵士1 | 貴様……自分の立場がわかっているのか! |
ライク・ツー | ぐっ! |
ライク・ツー | 立場がわかっているのか、だって? ……それは、お前の方だろ。 |
その時、部屋の扉が音を立てて開いた。
何者かが侵入すると同時に、銃声が鳴り響く。
反乱軍幹部 | ぐああっ! |
---|---|
反乱軍兵士1 | 司令官っ! |
反乱軍兵士1 | ぎゃああっ!! |
??? | ……おや。 これはこれは、思わぬ収穫だ。 |
反乱軍兵士1 | き、貴様、は……!? |
??? | 君に用はないよ。黙っていてくれるかな。 |
反乱軍兵士1 | ……うっ! |
素早い身のこなしで敵兵を無力化したのは、
戦場にありながら優美さすら漂わせる、
1人の軍人だった。
??? | 隙を作ってくれてありがとう。 ライク・ツー……だっけ。 |
---|---|
ライク・ツー | ああ。 |
主人公 | 【どういうこと?】 【知り合い?】 |
ライク・ツー | ……こいつが扉の向こうから俺に合図してきたんだよ。 突入するって。〇〇は逆向きで 座ってたから見えなかったんだろうが。 |
エルメ | 俺はDG3──コードネームはエルメ。 世界連合軍ドイツ支部に所属する貴銃士だよ。 |
エルメ | そちらは、フィルクレヴァートのマスターと、 その貴銃士ライク・ツーだね。 |
エルメ | 君たちがドイツへ来たという報告は受けていたけれど、 まさかこんなところで捕虜になっているとは、驚いたな。 |
エルメ | さぁ、縄は解けたよ。 さて、安全なところまで戻るために、 もうひと頑張りしないとね。 |
エルメ | ──ついておいで。 |
??? | ──絶対非道ッ! |
---|---|
反乱軍兵士2 | ぐぁっ! |
??? | おうおう、どうした! 張り合いのねぇ奴らばっかりだな。 そんなんじゃあっという間に死んじまうぜ? |
ライク・ツー | あいつは……!? |
エルメ | そんなに警戒しなくても大丈夫。 あれはDG36──ジーグブルート。 ドイツ支部所属の貴銃士で、俺の後継だよ。 |
エルメ | まあまあ出来はいいんだけど、 ちょっとお馬鹿さんな困った子でね。 |
ジーグブルート | ちょこまかと鬱陶しいんだよ。 消えちまいな! |
反乱軍兵士3 | う、うわぁぁあっ! |
反乱軍兵士4 | だめだ、逃げろ! |
ジーグブルート | ん? 弾切れか。 それなら──心銃! |
エルメ | まったく、ジグはまた考えなしに暴れて……。 あとでドライゼにお灸を据えてもらわないとね。 |
絶対非道を乱発して敵兵を蹂躙するジーグブルート。
それを横目に、エルメは表情一つ変えず、足を進める。
ライク・ツー | (……なんなんだ、あいつ。 絶対非道を連発して…… あんなんじゃマスターが持たねぇぞ) |
---|---|
ライク・ツー | (肝心のマスターの姿は見当たらねぇが…… 古銃のドライゼがいるっつってたし、 そいつがマスターの傷を治しつつ戦ってんのか?) |
エルメ | ……何をぼーっとしているの? こっちだよ。 |
エルメ | ドライゼ、戻ったよ。 |
---|---|
ドライゼ | ……エルメ。 その軍服の汚れはなんだ。 |
エルメ | ふふ、当然、全部返り血だよ。 敵のアジトが狭くて、至近距離で撃ったからね。 俺は無傷だから、ご心配なく。 |
ドライゼ | …………。 軍服を汚すな。 拠点に帰還次第、すぐに身だしなみを整えろ。 |
エルメ | 了解。 ああ、そうそう。 ちょっと面白い拾い物をしてきたよ。 |
エルメ | フィルクレヴァートのマスターと UL85A2の貴銃士、ライク・ツー。 |
主人公 | 【救出していただきありがとうございます】 |
ドライゼ | ……反乱軍鎮圧作戦を遂行したまでだ。 お前たちを助けに来たわけではない。 作戦完了まで少し待っていろ。 |
ライク・ツー | なんだよ、あいつ。偉そうだな。 |
エルメ | ふふ、実際偉いからね。 ドライゼは、前線で戦う師団を率いる特別司令官だよ。 そして俺は、その補佐。 |
ライク・ツー | 貴銃士が師団を率いてんのか……。 |
エルメ | ……さて、ほぼ片づいたみたいだね。 |
---|---|
ドライゼ | シュトゥットガルト拠点へ帰還する。 お前たちも同行しろ。 |
ジーグブルート | ……おい、待て。 連中がお出ましだぞ。 |
アウトレイジャー | …………。 |
主人公 | 【アウトレイジャー!?】 【数が多い!】 |
ジーグブルート | くく……そうこねぇとなぁ? ただの弱ぇ人間が相手じゃつまらねぇ。 てめぇらを待ってたんだよ! ははははっ! |
ドライゼ | ……笑うな。ジーグブルート。 貴様の声は不愉快だ。 |
ドライゼ | アウトレイジャーが出現した! 兵士は後方に控え、貴銃士の援護に回れ! |
連合軍兵士たち | Jawohl! |
ドライゼ | エルメ、ジグ。やれ。 |
エルメ | Jawohl。 ……絶対非道! |
ジーグブルート | 絶対非道ォ! |
2人の貴銃士が戦うさまを、ドライゼは静かに
見つめている。そのそばにマスターの姿はなく、
彼が絶対高貴を使う様子もない。
ライク・ツー | (……あいつら、 あんなに絶対非道を使っていいのか?) |
---|---|
主人公 | 【加勢しよう】 【助けてもらったお礼をしないと】 |
ライク・ツー | りょーかい。 ……へたばんなよ、マスター? |
アウトレイジャー | ギャァァアアア!!! |
---|---|
ライク・ツー | ちっ、微妙に撃ち漏らした奴がいるな……! |
ジーグブルート | おーら、消し飛べ! 心銃! |
アウトレイジャー | グァァッ……! |
ジーグブルート | ん? あと1匹しぶてぇのがいるな。 最後に一発、派手にかましてやるか。 |
エルメ | ……ジグ。効率の悪い攻撃はやめるんだ。 じゃないと──。 |
ジーグブルート | ……るせぇな、黙って見てろ。 俺はお前の後継に相応しい、 最高の成功作様なんだからよ! |
ジーグブルート | 心銃──……クソッ! |
エルメ | ……ほらね。 |
ジーグブルート | あと少しだってのに……あいつ、死にやがった! ざけんじゃねぇぞ! |
ジーグブルート | 使えねェ、消耗品がァ……ッ!! ──……! |
ライク・ツー | ……っ、銃に戻った……? |
エルメ | はぁ……まったく。だから止めたのに。 ジグは学ばないね。本当にお馬鹿さんだ。 毎度銃を回収する俺の身になってほしいよ。 |
ライク・ツー | …………。 |
ライク・ツー | (どういうことだ……? 『毎度』って……まさか……!) |
ドライゼ | アウトレイジャーの無力化を確認。 ──総員、帰還せよ! |
ドライゼ | シュトゥットガルトへ急げ! 態勢を立て直すぞ! |
兵士たち | Jawohl! |
ライク・ツー | ……おい、エルメ。 |
エルメ | なんだい? |
ライク・ツー | さっき、ジグって奴が銃に戻る時、 『死にやがった』とか言ってたが……。 |
ライク・ツー | ……まさか、あいつのマスターが、死んだのか? |
エルメ | ああ、そうみたいだね。 ジグはああやって無茶をするから、 マスターがなかなか長持ちしないんだ。 |
エルメ | この戦いの前から、既に結構危うい状態でね。 だから、ジグにはもう少し ペース配分を考えてほしかったんだけど……困った子だよ。 |
まるで天気の話でもするかのような様子のエルメに、
〇〇もライク・ツーも硬直する。
ライク・ツー | おい、死んだのはマスターだぞ。 お前のマスターじゃねぇとは言っても、 もう少し何か思わねぇのかよ。 |
---|---|
エルメ | 何かって……何を? 数多のマスターのうち、1人が戦死した。 戦いの場では、やむを得ないことだろう? |
ライク・ツー | は……? |
エルメ | マスター候補は大勢いるんだから、 戦いに勝つことよりも、 マスターの命を優先する理由がない。 |
ライク・ツー | ……じゃあ、お前はなんであの時、 ジーグブルートを止めたんだよ! |
エルメ | それはね、ジグが銃に戻ったタイミングがまずいんだ。 |
エルメ | アウトレイジャーが残っている状態で、 敵地の真ん中で……って。最悪にもほどがあるでしょ? |
エルメ | 貴銃士になる素質がある希少な銃を、 みすみす敵に渡すようなものだからね。 壊されても困るし。 |
ライク・ツー | ……本当に、 マスターのことはどうでもいいんだな。 |
エルメ | 別に、どうでもよくはないよ。 マスターが優れた軍人なら、 できるだけ長く命が続いてほしいと思うしね。 |
エルメ | でも前線ではみんな、命がけで戦ってる。 俺たちだって、いつ銃本体が壊れて、 消滅してしまうかもわからない。 |
エルメ | 『マスター』という存在が他の兵士と違うのは、 いつ死ぬか、はたまた生き残るかわからない、 完全な運任せじゃないってことくらいじゃないかな? |
エルメ | 緩やかに、だけど確実に死に向かう。 結果がわかっているだけ、 覚悟も決めやすくて結構なことだと思う……かな。 |
エルメ | さて、車両の準備ができたみたいだ。 行こうか。 |
ライク・ツー | あいつら、マジでマスターを消耗品だと思ってんのか……? |
ライク・ツー | ……おい、〇〇。 俺のそばから離れるなよ。 ここから先、マスターの命はずいぶんと軽そうだ。 |
主人公 | 【……わかった】 【……用心しよう】 |
ライク・ツー | 恩人にちょっと会いに行く予定が、 とんでもねぇ方向に狂ってきやがったな……。 |
ドライゼ | さて、聞かせてもらおうか。 フィルクレヴァートの生徒が、 なぜあんな場所にいたのかを。 |
---|---|
ドライゼ | マスターとはいえ、随伴が貴銃士1名だけで、 指令もないまま内乱の最前線へやって来るとは、 理解に苦しむ所業だ。 |
主人公 | 【恩人を探しに来たんです】 【恩人がニュルンベルクに発ったと聞いて……】 |
ドライゼ | ……度しがたい無謀さだな。 そんな個人的な用件でここまで来た挙げ句、 捕虜になっていたのか。 |
ライク・ツー | おい、それより、 この車はどこに向かってんだよ。 |
ライク・ツー | さっきは、シュトゥットガルト?に行くとか 言ってたけど…… 前線はニュルンベルクじゃなかったのか? |
ドライゼ | ……お前たちが先ほどまで囚われていた地点が、 そのニュルンベルクだ。 |
ドライゼ | 今朝、フランクフルトからの増援が来る前に 敵の襲撃があり……大規模戦闘ののちに 我々はシュトゥットガルトへと後退した。 |
エルメ | 兵士たちの一部が捕虜にされたから、 守りが手薄な敵の拠点に攻め込んで、 兵士たちを奪還したのがさっきの作戦だよ。 |
主人公 | 【ダンロー・ユリシーズ少佐の安否は!?】 |
ドライゼ | ……ユリシーズ少佐、だと? |
ライク・ツー | なんか知ってんのか? |
ドライゼ | ……ついて来い。 |
ドライゼ | …………。 |
---|---|
兵士1 | ……! ドライゼ特別司令官がお戻りだ! |
兵士のひと声で、拠点にいた兵士たちが
一斉に左右に分かれて道を作り、敬礼する。
敬礼した彼らは、まるで石像のように微塵も揺らぐことなく、
士官学校の比ではない張り詰めた雰囲気に、
〇〇は息を呑んだ。
ライク・ツー | うお……。 |
---|---|
主人公 | 【すごい士気だ……】 【これが、ドイツ支部……】 |
ライク・ツー | (兵士1人1人が相当鍛え上げられてる。 統率力も申し分ないのに苦戦してるとか…… 反乱軍はどんだけ手強いんだ?) |
ドライゼ | 各隊、報告を。 |
兵士たち | はっ! |
兵士2 | 捕虜となっていた兵士68名中、54名を救出! 生存者は51名、14名は依然安否不明です。 負傷者の手当てを急ぎます! |
兵士3 | 救出作戦に参加した隊は、死者なし! 負傷者は5名でいずれも軽傷です! |
ドライゼ | よくやった。 補給部隊、報告を。 |
兵士たち | はっ! |
兵士3 | フランクフルトから物資が届き、弾薬、医薬品、 各種食料とレーションの補填が完了しました! |
ドライゼ | ご苦労。 ……報告書を見ておこう。ペンを。 |
兵士たち | どうぞ!!! |
ドライゼ | うむ。 |
ライク・ツー | ……なんか……色々とすげぇな……。 |
──30分後。
〇〇たちはドライゼに呼ばれ、
拠点内の一室へと足を踏み入れた。
ドライゼ | 〇〇候補生、入ってくれ。 |
---|---|
ダンロー | …………。 |
室内にはドライゼの他に、50代くらいの男性がいた。
その体つきは軍人らしく鍛え上げられたものだが──
一目でわかるほど、ひどく衰弱していた。
顔色は白く、やつれ果てている。
ドライゼ | 紹介しよう。私とエルメのマスター、 ダンロー・ユリシーズ少佐だ。 |
---|---|
主人公 | 【この方が……!?】 【ダンローおじさんが、マスター!?】 |
〇〇が慌てて彼の手元を見ると、
そこにはくっきりと、赤い薔薇の傷が刻まれている。
薔薇の傷は茨のように伸びており、
手首を越え、腕の方まで続いていることが見て取れた。
エルメ | 数多のマスターのうち、1人が戦死した。 戦いの場では、やむを得ないことだろう? |
---|---|
エルメ | マスター候補は大勢いるんだから、 戦いに勝つことよりも、 マスターの命を優先する理由がない。 |
主人公 | 【(おじさんが会いたがった理由って……)】 【(これが、嫌な予感の正体……)】 |
---|---|
ダンロー | 君が……そうか。 ……会えてよかったよ。 天に感謝しなくてはいけないね。 |
ダンロー | ……私は、ダンロー・ユリシーズ。 世界連合軍ドイツ支部特別司令官補佐── |
ダンロー | ──君と同じ、『マスター』だ。 |
ダンロー | 立派に育った君を一目見たいという 私の我儘な願いは、叶えられた。 |
ダンロー | ……来てくれてありがとう、〇〇。 早く士官学校に帰りなさい。 |
ダンロー | 身体に気を付けて、いつまでも、元気で……。 |
ダンロー | ……話は済んだ。 ドライゼ特別司令官、私はこれにて退出します。 |
ドライゼ | ああ。 |
主人公 | 【待ってください!】 【もっと話を……!】 |
振り返りもせずに、ダンローは会議室をあとにする。
〇〇はその背中を呆然と見送った。
ライク・ツー | おい、大丈夫か。 |
---|---|
エルメ | ……おや、話は済んだみたいだね。 |
ドライゼ | エルメ。 |
エルメ | 君が着替えろってうるさいから、 新しい軍服を下ろしてきたよ。 これで満足かな? |
ドライゼ | ……お前ほどの力量があれば、 無駄に汚れることなく任務を完遂できるはずだ。 |
エルメ | そうは言ってもねぇ。戦場でいちいち 血しぶきを避けて動くなんて、現実的じゃないよ。 |
エルメ | ……ま、君は『司令官』で、返り血とは無縁だから、 ピンとこないかもしれないけれど。 |
ドライゼ | …………。 あとは任せる。 |
エルメ | ふふ……了解。 |
エルメ | ……さて、ドライゼから君たちを任されたわけだけど、 これからどうしようか。 |
ライク・ツー | どうするもこうするも、 用は済んだから俺たちは帰る。 |
エルメ | ところが、残念ながらそうはいかないんだ。 |
エルメ | 今朝も大規模戦闘があったばかりだし、 そこら中をアウトレイジャーが徘徊してる。 君たち2人だけで安全に帰れるとは思えない。 |
エルメ | それに、この拠点は最前線だから、 君たちの護衛に余計な人手を割けないんだよね。 |
エルメ | 明日の朝増援が来て、君たちの護衛を確保できる。 だから、今日はここに滞在することをおすすめするよ。 |
主人公 | 【わかりました……】 【ご迷惑をおかけします】 |
エルメ | 素直なのはいいことだ。 それじゃあ、まずは基地を案内しよう。 ついておいで。 |
エルメの案内で、〇〇たちは
ドイツ支部シュトゥットガルト拠点を見て回った。
中規模の拠点ながら、施設はかなりしっかりしている。
ライク・ツー | あっちに見えるのはなんだ? |
---|---|
エルメ | ああ、あれはチャペルだよ。 毎朝礼拝をやってるから、 君たちも興味があるなら参加するといい。 |
ライク・ツー | へぇ、チャペルねぇ。 ここの雰囲気からすると、なんか意外だな。 |
エルメ | ……雰囲気? 何か変だったかな。 |
主人公 | 【空気が重く張りつめている感じがします】 【皆さんピリピリしている様子で……】 |
エルメ | そう? 普通だと思うけど……。 まぁ、実戦とは無縁の士官学校と前線の拠点じゃ、 緊張感が段違いなのは当然かな。 |
エルメ | それに、屈強な兵士であっても、 生死の垣根がすごく低いここでは、 何か心の拠り所になるものは必要なんだろうね。 |
ライク・ツー | そう言うあんたは、あんまり興味なさそうだな。 |
エルメ | ふふ……そうだね。 俺は信じるものはないかな。 |
エルメ | でも、ドライゼは違う。 彼は革命戦争の英雄、ドライゼを崇拝している。 |
エルメ | 彼のようにあらねばと、敬虔で崇高な意思を持ち、 常に自分を厳しく律しているよ。 |
エルメ | 前線をあずかる特別司令官がそうだから、 兵士たちも自律心が強くて、統率が取れている。 |
エルメ | 俺は召銃されてからドイツを出たことはないけど…… ドライゼが率いるこの軍は、世界的に見ても 相当に優秀だって、自信を持って言えるよ。 |
ライク・ツー | ……だろうな。 ここまでの軍は、そうそうないと思うぜ。 |
ライク・ツー | 兵が有象無象の存在じゃなくて、 1人1人が鍛え上げられてる強兵、 おまけにとんでもなく統率されてる。 |
エルメ | 君、話がわかるね。 ジグも、君くらい思考できるといいんだけど。 俺の後継機だっていうのに……まったく嘆かわしいよ。 |
ライク・ツー | (ジグって…… あのジーグブルートとかいう野郎のことだよな) |
ジーグブルート | あと少しだってのに……あいつ、死にやがった! ざけんじゃねぇぞ! |
---|
ライク・ツー | (いや、あの野郎と比べて頭を褒められても、 嬉しくねーし複雑なだけなんだけど……) |
---|---|
エルメ | ああ、それから、ユリシーズ少佐の存在も大きいね。 |
主人公 | 【ダンローおじさんが……?】 【そういえば、ベルリンでは有名人だとか】 |
エルメ | そう。以前、彼が指揮した作戦で、 死にかけた若い兵士たちの命を救ったことがあったそうでね。 |
エルメ | その美談が広まって、 兵士たちからとても慕われているみたいなんだ。 |
エルメ | 彼は優れた軍人だし、 自分の役目を理解していて、迷いがない。 理想的なマスターだと言えるだろう。 |
エルメ | 軍の上層部としては、兵たちの信頼が厚い少佐を マスター……ある種の人質にすることで、 兵たちを鼓舞しようという考えなのかもね。 |
エルメ | 少佐の命が尽きる前に、この戦いを終わらせるんだ、 ……っていう風にさ。 |
ライク・ツー | そんなマスターを死なせたら、 兵の士気にも関わるんじゃねぇのかよ。 |
エルメ | それは問題ないんじゃないかな。 |
エルメ | 彼自身、そう言っているしね。 死は覚悟の上で、マスターとしてドイツ支部の 大きな力になれることを誇らしく思うって。 |
エルメ | だから、もし彼が戦いの途中で命尽きても、 兵たちは自棄にならずに、彼の遺志を継いで、 より高い士気で任務に当たってくれることだろう。 |
ライク・ツー | ……そいつは、ご立派なことで。 |
主人公 | 【…………】 |
エルメ | さて、案内はこれで十分だね。明日の昼頃には、 君たちを連れてベルリンへ発てるはずだから、 それまで自由に過ごしているといいよ。 |
エルメ | ただし、共有空間では身だしなみを整え、私語は慎むように。 ドライゼ特別司令官は、規律を重んじるからね。 |
主人公 | 【わかりました】 |
エルメ | ……それじゃあ、俺はこれで。 |
ライク・ツー | ……あいつ、ダンローが〇〇の恩人だって わかってるよな? 道具としか思ってないような言い草だった。 |
---|---|
ライク・ツー | ……さて。 気分は悪いが、一応、目的は達成したぜ。 |
ライク・ツー | 明日の昼にはここを出られる。 上手くいけば、俺たちの方が手紙よりも早く 士官学校に着いて、手紙も握りつぶせるだろう。 |
ライク・ツー | そうすれば、俺たちが前線に向かったことは バレずに済む。よかったな、〇〇。 優等生の体面は保てそうだぞ。 |
主人公 | 【…………】 |
ライク・ツー | おい、〇〇? |
主人公 | 【このままだと、おじさんは死んでしまう】 【まだ、帰るわけにはいかない】 |
ライク・ツー | はぁ……? まさか、ここに残るつもりか!? あいつに会ったら帰るって話だっただろうが。 |
ライク・ツー | それに、他でもないあのおっさん自身が、 お前に手紙を出した時点で死ぬつもりで、 最後に一目会いたいって言い出したんだろ。 |
ライク・ツー | おっさんにしても目的は達成できたんだし、 これ以上俺たちがここに残る理由はねぇ。 |
ライク・ツー | ……ま、俺でもここのやり方には思うところがあるし、 恩人がほぼ確実に死ぬことになるお前は、 簡単に引き下がれねぇってのはわかるけどよ。 |
主人公 | 【おじさんを見殺しにできない】 【何か手はあるはず】 |
ライク・ツー | おっさんを死なせずに済む方法っつったら…… 絶対高貴しかねぇな。 |
ライク・ツー | でも、エルメの話だと、ドイツ支部ではこれまでに 何人もマスターが死んでるらしいし……。 |
ライク・ツー | 恐らくドライゼは、絶対高貴になれないんだろうな。 じゃなければ、治療できるはずだ。 |
主人公 | 【士官学校から応援を呼ぼう】 【ラッセル教官に連絡しよう】 |
ライク・ツー | ラッセルやら恭遠に上手いこと根回ししてもらって、 ドイツ支部の応援に、俺たちを捻じ込むか。 |
ライク・ツー | 実際、反乱軍とアウトレイジャーの相手で ドイツ支部は苦戦してるわけだし、 許可も下りるんじゃないか? |
ライク・ツー | お前は腹芸が苦手そうだし、 連絡には俺も立ち会ってやるよ。 |
主人公 | 【……協力してくれるんだ】 【……手伝ってくれて、ありがとう】 |
ライク・ツー | ……ふん。 |
ライク・ツー | 乗り掛かった舟ってやつ。 俺も乗っかった以上沈没するわけにはいかねぇし、 仕方ねぇからジョージたちが来るまでは手伝ってやる。 |
ライク・ツー | ほら、そうと決まれば、 まずはこっちで話をつけるぞ。 肝心のドイツ支部に拒否されたらお終いだからな。 |
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