フランス編:第26話~第30話

コメント(0)

第26話:鳥籠の秘密1

瓜二つの貴銃士2人が、静かににらみ合う。
異様な雰囲気の中で、マークスは、
自分が連れてきた方のグラースに詰め寄った。

マークスあんたのことはわかってる。
あんたは、ロシニョル家じゃなくて、
レザール家の貴銃士なんだろ。
グラース(?)…………。
グラース(?)チッ……ああ、そうだよ。
僕はテオドール・ド・レザールに召銃された
シャスポーだ。
シャスポーカトリーヌは部屋からあまり出られないし、
手紙のやり取りすら継母に監視されてる。
グラースも、現代銃だから気楽に外を出歩けない。
シャスポーだから僕が、彼女専用の郵便配達人をしてたのさ。
こうやって、グラースのふりをしてね。
シャスポー……さ、認めてやったんだから、これで満足だろ?
僕は、カトリーヌに手紙を届けに行かないと。
いい加減解放してくれないかな。
マークスいや、まだだ。
マークス……あんたは、偽物だろう?
シャスポー(?)…………。
どういうことかな。
主人公【あなたは、シャスポーじゃない】
【本当の名前は、グラースでは?】
シャスポー(?)……変なことを言わないでくれるかな。
僕はシャスポー。誉れ高き古銃の貴銃士だよ。
マークスあんたがいくらそう言ったところで、信じられないな。
俺たちが言っていることが事実だということは、
あんたのマスターの傷が証明している。
マークス俺たちが知る限りでも2度、
グラースは絶対非道を使っている。
マークスなのに……グラースのマスターであるはずの
カトリーヌの薔薇の傷は、
パーティーの夜以降、あまり悪化していない。
マークスその代わり、急激の薔薇の傷が悪化した人間がいる。
……あんたのマスター、テオドールだ。
シャスポー(?)…………。
マークス考えうる中で、1番論理的な答えは……
あんたこそが現代銃の貴銃士グラースだということだ。
マークスそうだろ? グラース。
グラース…………。
マークスふん。さすがにここまで言えば、
反論の言葉も出てこねぇみたいだな。
マークスそれで、もう1つ疑問なんだが……。
あんたは何者なんだ? カトリーヌの貴銃士。
グラース(?)…………。
マークスあんたも同じくグラースである可能性も考えた。
だが、あんたら2人は、見た目はよく似てるけど、
性格はかなり違う。正反対なくらいだ。
マークス個体ごとに多少の差はあったとしても、
まったく同じモデルの軍用銃なのに、
共通する芯の部分もないくらいに差が出るものか?
マークス……あんた、本当は、シャスポーだろ。
グラース(?)…………。

小さくため息を付いた彼は、
やがて、ゆっくりと頷いた。

シャスポー……君たちの言う通りだ。
僕の本当の名は、シャスポー。古銃の貴銃士だよ。
主人公【なぜこんなことに?】
【どうして2人が入れ替わってる?】
マークスあんたらは、召銃パーティーってので、
大勢の人間の前で呼び覚まされたはずだろ?
マークスなのになんで、シャスポーがグラース、
グラースがシャスポーだって認識されてるんだ。
シャスポー……大勢の前で召銃されたからこそ、だよ。
シャスポーあの日……僕がシャスポーだと名乗るより先に、
そいつがシャスポーを名乗った。
そして僕のことを、グラースだと言ったんだ。
シャスポーだから、僕がグラースで、
そいつがシャスポーになった。
マークスは……?
意味がわからない。
マークスグラース、あんたはなんで偽の名前を名乗ったんだ?
それに、大勢いたのになんで誰も気づかない……?
マークスいや、そもそも……シャスポー、
あんたが訂正すればよかっただけの話じゃないのか?
シャスポーそんなに単純な話じゃない。
シャスポー君たちは、召銃パーティーについて
どこまで知ってるんだ?
マークス確か……リリエンフェルトが主催したんだったよな。
レザールとロシニョルも貴銃士を呼び覚まして、
フランスを盛り上げようとかなんとかで。
シャスポーそう、それが表向きの理由。
シャスポーだけど、本当は……毒マカロン事件の手打ちとして
提案されたものだったらしい。
シャスポー名士たちの前で二家が競うように召銃し、
レザールの1人勝ちにすることで、
溜飲を下げてはどうか、ってね。
シャスポーロシニョル侯爵は、毒なんて盛っていないって
ずっと否定し続けていたけれど、
社交界でそれを信じる人はほとんどいなかった。
シャスポーレザール侯爵の怒りが少しでも静まれば、
ロシニョル家に対する風当たりも多少は弱まって、
針のむしろのような状態から解放されるかもしれない。
シャスポーだから……ロシニョル家は、その提案を呑んだ。
シャスポーそして、年代物の古銃に見える、
精巧なレプリカを用意したんだ。
……間違っても、何も召銃しないようにね。
マークスレプリカだと……?
でも、あんたは本物だろ?
模造品なんかじゃないはずだ。
シャスポーああ。僕はまぎれもなく、本物のシャスポー銃だよ。
戦場でも使われた、フランス生まれの名銃だ。
シャスポーだから、なおさらわからないんだ。
なぜ、レプリカしかないはずのロシニョル家の側に、
本物の古銃である僕が混ざっていたのか。
グラース僕が召銃されたことも、謎の1つだな。
グラース……古銃だけを用意するはずが、
なんで現代銃の僕が混ざってたんだか。
グラースレザール家がわざわざグラース銃……
現代銃を準備するだなんて、絶対にあり得ない。
お前らにもわかるだろ? フランスを見てたらさ。
マークス……ああ。
シャスポー召銃パーティーには、不可解なことが多い。
だけど、僕たちがあの場で召銃されたことは、
変えようのない事実なんだ……。

第27話:鳥籠の秘密2

──リリエンフェルト家、
召銃パーティーの会場にて。

司会者皆様、お待たせいたしました。
テオドール様およびカトリーヌ様、
両名のご準備が整ったようです。
司会者それでは、まずは1挺目──……!

テオドールとカトリーヌの両名は、
同時にゆっくりと銃へ手を伸ばすが、何も変化はない。

男性11挺目はハズレか。
まぁ、貴銃士に目覚める銃は稀だそうだからな。

その後も何も起こらないまま、
2人が4挺目へ触れた時だった。

テオドール……っ!!
男性2この光は……!
女性1まさか、本当に貴銃士様が……!?

会場がどよめきに包まれる中、
まばゆい光とともに、薔薇の花びらの幻影が舞う。
その中から、人影が現れた。

???……よう、俺を呼んだかい?
テオドール君は……。
タバティエール俺は、タバティエール。
フランス生まれの後装式ライフルさ。
タバティエール薬室の形が嗅ぎ煙草入れに似てるからこんな名前なんだ。
前線向きじゃねぇが、後方支援なら任せてくれ。
よろしく頼むぜ、マスター。
女性2まぁ……! 奇跡だわ……!
男性1召銃の瞬間をこの目で見られるとは!
ああ、寿命が伸びそうな気分だ……!
男性2しかし、カトリーヌ嬢の方はまだ0か。
……無理もないことかもしれんが。
カトリーヌ…………。
司会テオドール様がめでたく貴銃士を呼び覚まされました!
しかし、古銃はまだまだございます。
次へと参りましょう!
タバティエール……? なんだ、これ。
テオドール説明はあとでする。
この会が終わるまで、少し待っていてくれ。
タバティエール……へいへい。

その後も2人は、次々に銃へ触れていくが、
タバティエール以降、貴銃士になる銃はない。

司会者ついに、残るは1挺となりました。
皆様、どうか最後の瞬間までお見届けください!
テオドール&カトリーヌ…………。

2人がそれぞれ、最後の銃に触れる。
その瞬間、たちまち眩い光が溢れ出し、会場を包んだ。

テオドールなっ……!?
カトリーヌそんな、どうして……!
???…………。
???…………。
男性1おお……! 両家とも召銃したぞ!
女性1銃も見た目もそっくりな貴銃士様方ですわね!
一体どの銃の貴銃士様なのでしょう……?
男性2フランスでボルトアクション式の古銃というと……
シャスポー様ではないか?
男性3というと、どちらもシャスポー様なのかね!?
女性2しかし、よく似ているとはいえ
別の貴銃士様のように見えますわ。
シャスポー様に似ている銃はありますの?
男性2モデルになったのはドライゼ銃だが、
今回集められたのはフランスの古銃だけのはず……。
男性3……っ、まさか……!
シャスポー銃を金属薬莢に対応するよう改造した、
現代銃のグラース銃が混ざっていたのではないか!?
女性1現代銃ですって!? 恐ろしい……!
男性1確かに、シャスポー銃とグラース銃の差は
素人には判別がつかないからな……。
男性3で、一体どちらがシャスポー様で、
どちらが現代銃なんだ!?
シャスポー僕は、シャ──
グラースBonjour、皆さん。僕はシャスポー。
フランスが生んだ、古銃の傑作です。
シャスポーは……? 君、一体何を──
グラースそして、向こうにいるのがグラース。
僕をもとにして作られた──現代銃です。
女性2きゃあっ! 現代銃だなんて、おぞましい!
男性1グラース銃を混ぜるだなんて、
ロシニョル家は一体何を考えているんだ!?
シャスポーち、違う、僕は──!

戸惑い、否定しようとするシャスポーの声は、
悲鳴にも似た声が次々と上がり混乱する会場の中で、
誰にも届くことなく消えていく。

そんな中、ロシニョル侯爵が
シャスポーとカトリーヌへと近づいた。

ロシニョル侯爵静かに。小声で話すんだ……。
カトリーヌお父様……!
わ、わたくし……一体どうしてこんなことに……!
わたくしが触れたのは、すべてレプリカのはずです!
ロシニョル侯爵私にも、何が起きているのかわからない。
当家が用意したのは、すべて間違いなくレプリカだ。
本物の銃を混ぜるなど……!
ロシニョル侯爵それに、君は……。
君こそが、シャスポーなのでは?
シャスポーああ、その通りだよ。
僕はシャスポー銃、あいつは弟のグラースさ。
シャスポーこの騒ぎはなんなんだい?
皆は一体、何を揉めている?
古銃だとか、現代銃だとか……。
ロシニョル侯爵…………。
シャスポーとにかく、早く訂正してもらえないかな。
偽りの名前で認識されるなんて、
僕はそんなのごめんだよ。
ロシニョル侯爵……すまないが、それはできない。
シャスポーえっ……?
カトリーヌお父様……?
ロシニョル侯爵シャスポー君、カトリーヌ、本当にすまない。
ただ、事が起きてしまった以上、
グラースが言った嘘をそのまま通すのが最善だ。
シャスポーなんだって!?
ロシニョル侯爵本来この場で、カトリーヌは貴銃士を呼び覚ませず、
レザール家の倅に花を持たせることで、
先日の件を水に流すはずだった……。
ロシニョル侯爵それが、カトリーヌが英雄シャスポーを召銃し、
テオドールがグラースを召銃したとなると……。
カトリーヌ……! また、ロシニョル家の仕業だと、
身に覚えのない中傷を受けることになる……。
ロシニョル侯爵その通りだ。こちらの貴銃士がシャスポーだと
明らかにすれば、人々からの尊敬は集められるだろう。
ロシニョル侯爵だが、この場を取り持ったリリエンフェルト家の
面目は丸潰れになる上、レザール家はロシニョル家が
仕組んだと言いふらすに違いない。
ロシニョル侯爵そうなれば、ロシニョル家の立場は、
これまで以上に悪化する……。
フランスに居場所がなくなる可能性すらある。
ロシニョル侯爵だが、ここで君がグラースだということで通せば、
リリエンフェルト家とレザール家に対し、
ロシニョル家の潔白を暗に示すことになる。
ロシニョル侯爵レザール家も、禍根は残るとはいえ、
あまり強く出ることはできなくなるはずだ。
カトリーヌ…………。
カトリーヌ……シャスポー。
あなたに、酷いお願いをします。
カトリーヌどうか、“グラース”として振る舞ってください……。
シャスポーマスター……。

第28話:鳥籠の秘密3

シャスポーあの時は、断片にしか状況がわからなかったけど、
他でもないマスターの切実な願いを無視できなかった。
だから、あの場での訂正はやめることにしたんだ。
シャスポーロシニョル家とレザール家の事情を知ってからは、
侯爵の言葉の意味がよくわかったから、
なおさら否定する気はなくなったよ。
シャスポー……不本意ではあったけどね。
グラースへぇ。目覚めたばかりとはいえ、
やけにしおらしいと思ったら、そういうことだったのか。
グラースま、おかげで僕は助かったけどな。
主人公【シャスポーの事情はわかったけど……】
【グラースの行動の理由がわからない】
マークス……グラース。あんたはなんで、シャスポーを名乗った?
自分を示す名前を、なぜそんなに簡単に捨て去れる?
誇りはないのかよ。
グラース誇り……ねぇ。
僕はちっぽけな誇りよりも、
この時代のフランスでの栄誉を選んだのさ。
グラース目覚めてすぐ、パーティーにいた連中の様子を見て、
僕は悟ったよ。
グラース「現代銃は、まったくもって歓迎されていない。
栄誉を手に入れられるのは、古銃のシャスポーだ」ってね。
グラースだから僕は、「シャスポー」という名前を奪った。
それだけのことだ。
グラースとっさの判断だったけど、結局のところ、
僕のおかげですべてうまくいっただろ?
グラースもしもあの場で僕がグラースだと正直に言っていたら、
レザール家だけでなく、仲裁をふいにされた
リリエンフェルト家も激怒したはずだ。
グラース最悪の場合、フランス政府に働きかけて、
ロシニョル家の侯爵家の地位を剥奪したかもしれねぇ。
グラースだけど、僕の機転によって
なんとかレザール家の面目は保たれて、
ロシニョル家は弁明の機会を得られた……。
グラースそして僕は、グラース銃としての強さと、
古銃のシャスポー銃としての名声、
両方を手に入れたわけ。ああ、めでたしめでたし。
シャスポーシャスポー銃の名声……だと?
僕に、本当の意味で名声があるとでも思っているのか?
グラースはぁ? 当然だろ。
古銃をやたらとありがたがっているフランスで、
革命戦争でも活躍したシャスポー銃だぞ。
グラース名声以外に何があるって言うんだよ。
シャスポー君ってヤツは、本当に……。
シャスポー現代銃──……
グラースだと勘違いされて人々に忌避されても、
心のどこかで安堵した僕の気持ちが、君にわかるか?
グラースそんなもん、わかるわけないだろ。
あんな扱いを受けて、なんでホッとできるんだよ。
シャスポー……僕が忌避される理由が、
「現代銃だから」という、ただ1点だけだからだ。
シャスポーそこには、僕が何者であるとか、
僕がかつて何をしたかとか、
そういうことは一切関係ない。
シャスポーフランスを守るために生まれたはずの僕が、
おびただしい数のパリの人々を惨殺した──
あの忌まわしい悪夢を……ッ!
シャスポー自分の名前とともに、
思い出さずに済むんだからな……!
シャスポーグラースと呼ばれ、忌み嫌われることすら……
シャスポーとしてあの罪と向き合うより、
僕にとっては、ずっとずっと楽な道だった。
マークス……惨殺? 罪……?
何の話をしている?
グラース──「血の一週間」。
マークスなんだ、それは。
シャスポー…………。
グラースずっと昔、シャスポー銃が現役で使われてた頃のことだ。
普仏戦争での敗戦に端を発して、フランス人同士で、
血で血を洗うような争いをする羽目になったのさ。
グラースその騒乱で使われたのが、こいつ、シャスポー銃。
そりゃあもう、酷い有様だったらしいぜ。
グラース男も女も、老人も、子供も関係ナシ。
おびただしい死体が転がって、セーヌ河の水が、
血で染まるほどだったってさ。
シャスポー……ッ。僕、僕は……っうぅ──!
グラースハッ。くだらねぇ!
歴史を引きずってなんになるっていうんだよ!
グラースお前が惨めったらしく思う歴史なんか、
僕にはどうだっていい。
グラース確かに命を奪った手段は銃だが、
銃が勝手に人を撃つか? 撃たないだろ。
「人間が」「銃を使って」殺したんだ。
グラース人間の勝手のことを申し訳なく思うなんて、
まったく……バカなんじゃないか。
シャスポー黙れ! 何も知らないくせにッ!
シャスポー……僕は、覚えてる。
銃の身だったけれど……文字通り、染みついてるんだ。
シャスポー人々が流した血が……あの悲鳴が……!
この銃に……っ!!

シャスポーは、震える手で自分の銃を握りしめる。
その銃床には、わずかに血の跡のような
汚れが染み付いていた。

グラースハッ、くだらねぇ。
シャスポー……貴様!!

激昂したシャスポーが、グラースの胸倉を掴む。

グラース……ッに、すんだ!! 離せよ!!
マークスやめろ、落ち着け!
グラースチッ……この型落ち風情が……!
シャスポーそれ以上口を利いてみろ!
僕のすべてを賭してお前を破壊してやる!!

マークスに引き離されてもなお、
シャスポーとグラースは一触即発の雰囲気で、
睨み合いを続けた。

 

第29話:鳥籠の秘密4

グラース……もう帰っていいか? 僕は忙しいんだ。
こんなところで無為な時間を使いたくねぇ。
主人公【黒幕は誰?】
【テオドールが仕組んだのでは?】
グラースさぁね。僕はこの真相を追求する気はないからな。
現状で満足してるんだ。
シャスポー……色々考えたけれど、
納得のいく答えは見つかっていない。
シャスポーレザール家が黒幕なら、ロシニョル家のテーブルに
現代銃を仕込めばよかったんだ。
シャスポーカトリーヌが現代銃を召銃すれば、
よりロシニョル家の権威が失墜する原因に
なるだろうからね。
シャスポーだけど……実際にあったのはその逆の、古銃だ。
ロシニョル家の方に本物の古銃を混ぜても、
レザール家にメリットはない……。
主人公【誰か、得をした人間は?】
【2家以外の策略なのでは?】
グラースさぁ……心当たりはないな。
レザール家に恨みがあるのはロシニョル家くらいだ。
シャスポーロシニョル家を恨んでるのも、レザール家くらいだよ。
マークスだが、誰か仕組んだ人間がいるはずだ。
シャスポーあんた、このままでいいのか?
マークス古銃として、あんたのマスターと
平穏にやっていけた方がいいだろう?
主人公【歪みを正そう】
【一緒に解決しよう】
シャスポー…………。
グラースははっ、冗談はよせよ。
グラース僕の嘘がバレたら、名声がパァだ。
現代銃ってだけでも散々なのに、
これまで騙してたのかって、罵られるだろ。
グラースそんなの、まっぴら御免だね。
マークスグラース、てめぇは黙ってろ。
シャスポー…………僕も、断る。
マークスッ、はぁ!?
マークスなんでだよ。
あんたがシャスポーだってわかれば、
あんたのマスターの境遇だってマシになるだろ!?
シャスポー君の考えは、短絡的だよ。
僕が古銃、シャスポーだって明らかにすれば、
僕自身への対応は、180度変わるだろう。
シャスポー高貴な古銃の貴銃士様、ってね。
これまでのことは都合よく忘れて、
ちやほやし始めるに決まってる。
シャスポー……けど、マスターは?
シャスポー怒ったレザール家とリリエンフェルト家が、
召銃パーティーの裏の意図を明らかにすれば、
ロシニョル家はおしまいだ。
シャスポーレザール家から受けた恩を、
毒入りのマカロンという仇で返し──
シャスポーさらには、公爵家が仲裁に入ったのに、
それすらも台無しにした究極の恩知らず。
そう言われることになるだろう。
シャスポーせっかく立て直しが進んでる事業も
悪評でダメになるかもしれないし、
マスターは今以上に辛い立場に置かれる。
シャスポー今だって、酷いものだけど……。
それでも、まだマシなんだ。
シャスポー君が、カトリーヌや僕のことを思ってくれるなら、
そっとしておいてくれ。
主人公【そんな……】
【シャスポーは、本当にそれでいいの?】
シャスポー……仕方ないんだ。
現状が最善ではないけれど、これ以上どうしようもない。
現状維持が、一番なんだ……。
マークスなんだよ、それ……。

第30話:中立

〇〇とマークスが2人のもとを
去ったあと──。

グラースはぁ、やっと無駄な時間が終わった。
僕も帰る。じゃあな、“グラース”。
シャスポー…………。
グラース……あ、そういえば。
グラース歪みを正す──って、テオも言ってたかもしんねぇな。
シャスポー……なんだと? どういうことだ。
グラースさぁな。僕は何も知らねぇよ。
本人に聞けば? Au revoir!
シャスポー……!?

マークスマスター、これからどうする?
マークス2人とも入れ替わりをやめる気はなさそうだし、
シャスポーの話を聞いてたら、
そうするしかないんだってのもわかった。
マークスでも……なんだか、すっげーモヤモヤする。
主人公【1つ、考えがある】
【……行こう】
マークスどういうことだ、マスター?
マークス……よくわからないが、
とりあえず俺は、マスターについていく!

リリエンフェルト家使用人〇〇様とマークス様ですね。
こちらでしばらくお待ちください。
マークス一体どこにいくのかと思ったら、
リリエンフェルト家だったのか。
主人公【リリエンフェルト家の力を借りたい】
【シャルルヴィルを頼ってみようかと……】
マークスそうか……フランスでの出来事だし、
リリエンフェルトに頼るのが一番かもしれないな。
マークス入れ替わりをどうしようもできなくても、
フランスでの現代銃の扱いがマシになれば、
あいつらだって少しは助かるだろう。
マークス問題は……シャルルヴィルが役に立つかだが。
シャルルヴィルやぁ、お待たせ。
シャルルヴィル急に2人が来たって聞いてびっくりしたよ。
ふぁぁ……っと、ゴメン。
マークスあんた……もしかして寝てたのか?
昼過ぎだってのに、ずいぶんと呑気なもんだな。
シャルルヴィルちょっ……違うよ、いつもはちゃんと朝起きてるって。
昨日は夜遅くまで調べものしてて、
朝方にやっと寝たからさぁ……。
マークスどこまで本当なんだか。
あんたのことだ、ふらふら遊んでたんじゃないのか?
シャルルヴィル失礼しちゃうなぁ、もう。
ボクなりに、ジョージの行方について調べてたんだよ?
シャルルヴィルロジェ様が知らないって言うから、
なんだかちょっとだけ、嫌な予感がして……。
シャルルヴィルでも、一番怪しかったフランス国内の名士は、
みんなシロだったんだよね。
シャルルヴィルだから本当に、超!極秘の任務なんだと思う。
それがわかって、やっとゆっくり眠れたんだ。
主人公【心配してくれてたんだ……】
【調べてくれてありがとう】
シャルルヴィルどういたしまして。
ま、結局ボクの杞憂だったみたいだけどね。
シャルルヴィルそれで、今日はどうしたの?
ボクにどんな用事?
マークスまずは、一応確認する。
あんたは、シャスポーとグラースの入れ替わりを
知ってるんだよな?
シャルルヴィル…………。
マークス……その顔が答えだな。
主人公【リリエンフェルト家の力を借りたい】
【シャスポーたちの立場を回復させたい】
シャルルヴィル君たちの気持ちは、よくわかるよ。
でも……残念だけど、ボクには何もできない。
マークス何もできないってことはないだろ。
あんたはフランスで一番くらいに影響がある、
リリエンフェルト家の貴銃士で──
シャルルヴィルうん。ボクは、貴銃士。
リリエンフェルト家の当主でも後継ぎでもない。
それが、どういうことかわかる?
マークス……?
シャルルヴィル貴銃士ってのはね、ただのお飾りなんだよ。
象徴であって、権力はないんだ。
シャルルヴィルいくら皆から、貴銃士様ーってちやほやされても、
ボクにリリエンフェルト自体を動かす力はないし、
ロジェ様に口添えはできるけど、指示はできない。
シャルルヴィルロシニョルとレザールの関係には、
根が深いいろんな問題が絡んでるから、
ロジェ様だって易々とは手を出せないよ。
シャルルヴィルだから……ごめんね。
主人公【そんな……】
【見て見ぬふりはできない】
シャルルヴィルこれが現実なんだ。
それに、君たちが何かしようとしても無駄だよ。
シャルルヴィルいくら、複数の貴銃士を呼び覚ましてるマスターでも、
君は一介の士官候補生に過ぎない。
シャルルヴィル連合軍に多額の出資をしてるリリエンフェルト家と君と
どちらが有利かは、考えるまでもないよね?
シャルルヴィルだから……早めに諦めるのが賢い選択ってものだよ。
マークスハナから諦めてかかるのが「賢い」だと?
「みっともない」の間違いじゃないのか。
シャルルヴィル……なんだって?
マークスあんたは、何もできない自分に
そうやって言い訳してるだけだろ。
シャルルヴィル……っ!
シャルルヴィル……出て行って。話はもう終わりだよ。
主人公【シャルルヴィル……】
【……マークス、行こう】
シャルルヴィル…………。
主人公【……お邪魔しました】
マークスマスター……。

コメントを書き込む


Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

まだコメントがありません。

×