ベルギー支部兵士1 | 報告します。 トルレ・シャフ構成員の捕縛、完了しました!! |
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ベルギー支部上官 | ご苦労。 |
ライク・ツー | いたのは3人か。 人数は少ねぇけど、武器の量はかなりのもんだったな。 |
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〇〇たちは、ベルギー支部の兵士たちとともに。
トルレ・シャフのアジト内を見て回る。
マチルダ | ん……? これは……? |
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マチルダが、街の広場の写真が貼られているボードに目をとめる。
〇〇も見てみると、そこには、使われていない店や
風向きの予報など、いろいろな情報も書き込まれていた。
ライク・ツー | なんだこれ。 バツ印に風向き……人が多いところ……。 |
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ファル | なるほど……。 こちらに残されている資料も見るに、 どうやら、爆破テロ計画をしていたようですね。 |
十手 | なんだって……!? |
ライク・ツー | けど、計画してた奴らは捕まえたんだから、 そっちももう解決だろ。 |
ファル | そうでしょうか。 |
主人公 | 【まだ計画は続いていると……?】 【何か気になることが?】 |
ファル | ここにある食器、寝具の数、ゴミの量…… どれも、3人のものにしては多すぎると思いませんか? |
ファル | 私の見立てでは……ここには少なくとも、5人はいたかと。 |
十手 | 何……!? それじゃあ、まだ2人はどこかで息を潜めていると……? |
ファル | その可能性は十分にあると思いますよ。 |
ベルギー支部兵士2 | ベルギー支部に連中を移送し、急ぎ取り調べを行います。 |
ファル | ……お待ちを。 彼らは私が尋問しておきます。 |
ベルギー支部兵士3 | じ、尋問ですか……。 |
ファル | 爆破テロの可能性があるのです。事は急を要するでしょう。 ここを逃れた彼らの仲間が、 いつ計画を実行に移すかわかりませんよ。 |
ファル | それとも……市民の安全よりもマニュアルが大事ですか? |
ベルギー支部兵士3 | それは……。 |
ベルギー支部兵士2 | で、では、身柄をファル殿に引き渡します。 ……ベルギー支部は、本件には以降、一切関与しません。 |
ファル | ええ、ご協力感謝します。 |
軍の車両から3人が下ろされる。
十手 | ……よく見ると、彼らはまだまだ若者じゃないか……。 未来ある青年が、こんなことを企むなんてなぁ……。 |
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ファル | ……フフッ。 |
十手 | ん? 俺、何か変なことを言ったかい? |
ファル | いえ、別に。 共感性に富んだ方なのだなと思っただけです。 |
ライク・ツー | ……ハァ。 十手、こっち来い。 |
十手 | え、ああ。 |
マチルダ | ファル。 こいつらを屋敷に連れて行くわけにはいかない。 彼らへの対処は、近くの施設を使ってくれ。 |
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ファル | わかりました。 |
マチルダ | それから、〇〇殿。 今回はご協力感謝する。 今日はもう遅いので、あの屋敷には明日の朝戻るといい。 |
マチルダ | 近くに司法機関の施設がある。 少し古いところだが、今日はファルとともにそちらを使ってくれ。 |
主人公 | 【ありがとうございます】 【そうします】 |
十手 | マチルダ殿はどうするんだい? |
マチルダ | 私は他にやることがある。 今回のことの報告を早急に上層部に届けたい。 |
マチルダ | それでは、失礼する。 |
十手 | あっ、待ってくれ。 傷を──……って、もう行ってしまった。 |
マチルダは、十手が呼び止める声にも気づかず、
あっという間にいなくなってしまった。
ファル | 私も彼らを運ばねばなりませんので、お先に。 宿泊する施設には、そちらのみなさんが送ってくださるかと。 |
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主人公 | 【待って】 【あなたの傷も治した方がいい】 |
〇〇は、ファルの頬にできた傷を指さした。
ファル | ああ、先ほどの戦闘で少し怪我をしたんですね。 この程度、どうということはありませんので。 ……では。 |
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十手 | マチルダ殿もファル君も、動きに無駄がないというか。 なんとも心強い2人、ではあるが……。 |
十手 | マチルダ殿に、どこか切羽詰まったものを感じるのは 俺だけかな……? |
ベルギー支部兵士1 | 皆さん、ご協力ありがとうございました。 今日の滞在場所となる施設へお送りします。 |
ライク・ツー | その前に、1つ聞きたい。 |
ベルギー支部兵士1 | ……? なんでしょうか。 |
ライク・ツー | マチルダ・ジャンセン…… あいつは、なんであんなに生き急ぐみてぇなことしてるんだ? |
ライク・ツー | 何かわけあり臭いが、俺たちは面倒事に巻き込まれたくねぇ。 厄介ごとは早めに把握しておきてぇんだけど。 |
ベルギー支部兵士1 | それは……。 |
ベルギー支部兵士2 | あまり詳しくは言えないのですが、 シルヴァスター家の名誉を── |
ベルギー支部兵士3 | おい、あんまり大声で話すことじゃないだろ。 |
ライク・ツー | シルヴァスター家? |
ベルギー支部兵士1 | しーっ、しーっ! |
ベルギー支部兵士2 | まぁ、軍ではわりと知られていることなんですが……。 マチルダ殿のもとの名前は、 マチルダ・シルヴァスターというんです。 |
ベルギー支部兵士2 | ご実家は有力な政治家ファミリーでした。 特に、お母上のドリス・シルヴァスターといえば、 つい1年くらい前まではベルギー最大野党の党首だったんです。 |
ベルギー支部兵士2 | 当時は飛ぶ鳥を落とす勢いで、支持者も多かった。 ですが……。 |
ベルギー支部兵士1 | 現職の首相との政権をかけた選挙戦の最中に、 とんでもない大スキャンダルが発覚したんです。 ドリス氏の側近の中に、元世界帝府関係者が紛れていたと。 |
ベルギー支部兵士1 | 選挙戦は現職の首相であったサリバン氏の圧勝。 ドリス氏はそのまま失脚しました。 |
ベルギー支部兵士2 | ……正直、政治家としては再起不能レベルの痛手です。 今のベルギーはとにかく、世界が我が国に抱いている 世界帝の武器工場というイメージの払拭が必要ですから。 |
ベルギー支部兵士2 | かくいう自分も、ドリス氏の支持者だったのですが……。 |
ライク・ツー | なるほどな、それでマチルダも不名誉なイメージのついた シルヴァスター姓を捨てたってわけか。 |
ベルギー支部兵士1 | はい。マチルダ殿は貴銃士のマスターとなる際に、 親戚筋の別姓ジャンセンを名乗るようになりました。 |
ベルギー支部兵士1 | もともとは、シルヴァスター家の一員として、 熱心に産業開発分野の勉強をしていたそうなのですが、 政治家として活動するのは難しいでしょうね……。 |
ベルギー支部兵士1 | 今は、貴銃士のマスターとして国防の前線を担う、 マチルダ・ジャンセン特別執行官として命がけで戦ってます。 |
十手 | 自分の苗字を捨てるだなんて、どんな思いだったのだろうな……。 |
十手 | ん、待てよ。 サリバン氏というと……もしや、シャルロット殿のお父上かい? |
ライク・ツー | 政敵同士ってことだな。 それであいつらもギスギスしてたのか……。 |
ベルギー支部兵士1 | ですから、最初の質問への答えですが……。 私が推測するに、ファル殿とともにアウトレイジャーと戦い、 国民の信頼と名声を得たいのだと思います。 |
ベルギー支部兵士1 | 最終的にはシルヴァスター家の人間だと明かして、 一族とお母上の名誉回復を試みているのでは……という噂です。 |
ライク・ツー | ……名誉回復、ね。 それであれだけ必死だったわけか。 |
十手 | マチルダ殿も苦労しているのだなぁ……。 |
十手 | だが、ファル君が相棒ならば少し安心だね。 彼は物腰が柔らかいし、あの強さだ。 そのうえ、洞察力もある。 |
十手 | さっきも捕り物のあとすぐに 残党がいる可能性に気づいていたしね。 信頼できる貴銃士じゃないか! |
ライク・ツー | ……どうだかな。 |
ライク・ツー | 引き止めて悪かったな。 とっとと施設とやらに行こうぜ。 |
──その日の深夜、宿泊施設にて。
〇〇たちは早めに就寝していた。
十手 | ……すぅ……むにゃ。 うぅん、……か、とらりーくん……こうき……ってのは……。 |
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十手 | ……う……ぜったいこうきで……、 ぱんの味を……変えるのは……ぐぅ……、 さす、がに……むりだとおも……ふごっ!? |
十手 | …………っ、うぅん……? |
十手 | (……夢か。えーと、ここは……? そうだ、今日は捕り物があって……) |
十手 | (……いかん、なんだか目が冴えてしまった) |
十手 | (〇〇君を起こしたくない。 それに、ライク・ツー君も睡眠を邪魔すると怒るし……。 ……少し、外の空気でも吸いにいこうかな) |
十手はそっと部屋を抜け出した。
十手 | しまった……迷ってしまった……。 |
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十手 | うぅむ、こう暗いと自分がどこを歩いているのか わからなくなってしまうな……。 |
十手 | ……あ、こっちだな! この張り紙に見覚えがある。 はぁ、よかったよかった。 |
十手がしばらく歩いていると、
どこからか微かに声が聞こえてくる。
??? | ……ァァ……ぁー…………。 |
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十手 | ……っ!? この声は、一体……。 |
??? | ……──! ……。 |
十手 | どこから聞こえてくるんだろう。 こっちの方か……? |
微かなうめき声のようなものは、
すぐに聞こえなくなってしまった。
十手 | 聞き間違え……いや、確かに聞こえた。 何かあったのかもしれない……! |
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十手は急いで部屋に戻ると、
〇〇たちを揺り起こして、
声が聞こえたあたりへと戻った。
ライク・ツー | んだよ、何も聞こえねぇじゃねーか……! よりによって睡眠のゴールデンタイムに起こすな。 |
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十手 | し、しかし……確かにさっきは聞こえたんだよ。 3人で手分けしたほうがいいと思って……。 |
もう一度〇〇も耳を澄ましてみるが、
何も聞こえない。
十手 | こう、うめき声というか、悲鳴みたいなのが……。 |
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主人公 | 【誰かの寝言だったのかも】 【珍しい鳥の鳴き声だったとか】 |
十手 | うーん……そうかなぁ……。 でも、あれは確かに── |
??? | ……ゥ…………ァ…………! |
十手 | っ、今の声だよ! |
ライク・ツー | ……マジかよ。 |
主人公 | 【行ってみよう】 【こっちだ】 |
ライク・ツー | ああ。 |
十手 | おう! |
〇〇たちは、声を頼りに施設内を歩く。
声は、地下に続く階段から聞こえているようだった。
ライク・ツー | ……行くか。 |
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??? | 残念なことに、あまりいい道具がないんですよねぇ、ここ。 |
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??? | ひっ……。 |
??? | なので、手近な道具で工夫しつつやってみましょうか。 カミソリ……は、もう、少し味見してもらいましたし。 次はペンチなんてどうです? |
十手 | この声は……。 |
暗い階段を進んでいくにつて、
声が鮮明に聞こえてくる。
やがて、裸電球に照らされた、
地下牢のようなものが3人の視界に入った。
粗末な椅子に縛られた男たちの指の爪が、真っ赤に染まっている。
がっくりと項垂れた男たちは、青ざめてひどく憔悴している。
ファル | このペンチは大振りなので、繊細なことはできないのですが。 そうですねぇ……指先から骨を砕くのはできそうでしょうか。 さあ、どの指からがいいか、ご希望はありますか? |
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テロリスト | や、やめて……助けてくれ……もう許して……。 |
十手 | ……っ!!! |
ライク・ツー | ……おい、ファル。 お前、何してんだ。 |
ファル | ……あなたたちですか。 どうされました、こんな所に。 |
十手 | 君こそ何をしているんだい!? |
ファル | 尋問です。 彼ら、口を割らないので仕方なく。 |
主人公 | 【これは尋問じゃなくて拷問だ】 【禁止条約に違反する!】 |
ファル | おや。 では、やめたら彼らが口を割ってくれるのですか? |
ファル | 甘っちょろい御託なんてどうでもいいんですよ。 |
ファル | ……候補生さんは、革命戦争の孤児だとか。 彼らが口を割らなければ、戦争が終わったというのに あなたのような孤児がまた増えるかもしれませんねぇ。 |
ファル | ……ああ、孤児になっても生き残るだけマシでしょうか。 街中で爆破テロが起きれば、子供であろうが命を落としますし。 |
主人公 | 【…………】 【それでも──】 |
ライク・ツー | ファル、お前……! |
ファル | さて、再開しましょう。 どの指から潰されたいか、決まりましたか? |
十手 | なっ……!? |
ファル | さて、再開しましょう。 どの指から潰されたいか、決まりましたか? |
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テロリスト | ……っ!!! |
テロリスト | わ、わかった……喋る、仲間の場所も……、 今日が失敗、した時の、バックアッププランも……。 |
テロリスト | だから許して、くれ……た、たのむよぉ……! |
ライク・ツー | ……もう口を割ったみたいだが? |
ファル | そのようですね。 はぁ、もう終わりですか……つまらないですね。 |
ファルは大きく溜め息をつく。
主人公 | 【彼らを即刻ベルギー支部に引き渡して】 【これ以上続けるなら絶対に止める】 |
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ファル | …………。 |
ファル | 必要な情報を話していただけるなら、もう用はありませんよ。 尋問も終わりです。 |
男たちがベルギー支部に引き渡されたのを見届け、
〇〇たちはようやく、部屋に戻ったのだった。
ライク・ツー | ……いろいろあったけど、まずは休もうぜ。 考えても仕方ねぇし、ファルの野郎は変わらねぇよ。 |
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十手 | …………。 |
主人公 | 【大丈夫?】 |
十手 | ああ、心配かけてすまない……。 なんというか、驚いてしまって……。 |
十手 | 〇〇君も大丈夫かい? ライク・ツー君の言うとおりだ、もう今夜のところは 布団を被って寝るとしよう! |
〇〇が自室に戻ると、
ライク・ツーはすぐに眠りについた。
十手 | (……とは言ったものの。 さすがに眠れそうにないな……。はぁ……) |
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十手はため息をつき、何度も寝返りを打った。
──地下室にて。
ファル | …………。 |
---|---|
ファル | ……クソが……。 |
──ガン! ガン!
ファルはペンチを拾い上げると、
何度も、何度も、何度も、執拗に机を殴りつける。
──ガン! ガン! ガン!
ファル | ……ハァ、ハァ……ッ! せっかくの楽しみを……邪魔しやがって……! |
---|
──ガン! ガン! ガン!
──ガン! ガン! ガン!
何度も、何度も、何度も──……。
──その頃、貴銃士の屋敷にて。
ミカエル | …………。 |
---|
月明かりのもと、ミカエルがセレナーデを奏でていた。
近くのソファに座ったカトラリーが、
じっと演奏に耳を傾けている。
ミカエル | ……きみ。そろそろお眠りよ。 |
---|---|
カトラリー | ……いやだよ。 まだしばらく、ミカエルの演奏を聴かせて……。 |
ミカエル | カトラリー。 |
カトラリー | だって……だって、やなことばっかり思い出して、眠れないんだ。 ……天使の調べで、頭をいっぱいにさせて……っ。 |
ミカエル | そう……わかったよ。 |
カトラリー | う……ぐすっ……。 |
ミカエルがゆったりとした夜想曲を奏でる。
曲が終わるころ、カトラリーの微かな嗚咽は、
静かな寝息へと変わっていた。
カトラリー | …………。 |
---|---|
ミカエル | ……ねぇ、ファル。 |
ミカエル | 人間はとても弱い生き物だ。 誰かを妬み、恐れ、貶めなければ自己を保てない……。 |
ミカエル | ……そして、きみがどんなに否定しようと、 きみの心もまた──……。 |
ミカエルは窓を開けて、風が運んだ薔薇の香りを深く吸う。
ミカエル | きみは、僕が救ってあげる。 きみを苦しめる世界から、救ってあげる。 |
---|---|
ミカエル | ねぇ、ここに、おいで──……。 |
??? | ──いろいろ調べてみて、やぁーっとわかったで。 |
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??? | ベルギーにおるKB FALLは……“あの”ファルはんや。 正真正銘、同一の銃……。 |
??? | 奴らの思惑はわかっている。 俺たちをおびき寄せるために使おうとしているんだろう。 |
??? | まったく……酷いことするわ。 ファルちゃんをエサにするなんて。 |
??? | ファルは家族……あいつの居場所はここだ。 早々に連れ戻してやろう。 |
??? | ウフ……♥ さすがお兄様ね。 かっこいいわぁ……♥ |
??? | アインスの兄さんの言う通り…… エサのつもりなんやったら、こっちから食いついたる。 んで……連れ戻したらんとなぁ。 |
??? | おう。 ……準備を進めるぞ。エフ、ゴースト。 |
??? | はぁ~い、アインスお兄様♥ ……待っててね、ファルちゃん。 |
??? | もうすぐ、迎えに行ったるで……。 ファルはん。 |
ファル | …………。 ここは……。 |
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──尋問の翌朝。
ファルは荒れ果てた地下室で目を覚ました。
ファル | ああ、そうか……。 いつの間にか眠っていたようですね。 |
---|
ファルの周囲には、壊れた椅子や机などが散乱している。
ペンチを叩きつけていた手もぶつけたのか、
鬱血して鈍く痛んでいた。
ファル | …………。 |
---|---|
ファル | (私……何をしているんでしょうね……) |
──数ヶ月前。
マチルダ | 目覚めたか、KB FALL。 |
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マチルダ | これからいくつか確認をする。簡潔に答えろ。 |
ファル | …………。 |
マチルダ | 『KB FALL、コードネームはファル。 世界帝軍の貴銃士として目覚める』 |
マチルダ | 『同じく世界帝軍の貴銃士である……通称「アインス」の 補佐兼世界帝軍現代銃のナンバー2として 世界帝の名のもとに暴虐の限りを尽くす』 |
マチルダ | 『レジスタンスに現れたマスター、貴銃士と 幾度も交戦。最終的に本拠地であった 世界帝軍本部・イレーネ城にて激突し、敗北』 |
マチルダ | 『世界帝軍敗北後は、他の現代銃ともども回収され 最終的に製造元となった国へ返還された』 |
ファル | ……! |
マチルダ | ──以上が、お前の経歴で間違いないな。 |
ファル | ……そうですね。 おおよそは私の認識と合致しています。 ただ……最後のことは知りませんでしたが。 |
ファル | 成程。我々は、負けたのですね。 |
マチルダ | もう7年も昔のことだ。過去を知りたければ 自分で勝手に調べるといい。 |
ファル | (どうして……私だけが召銃された……?) |
ファルはその後、エフとアインスの情報を独自に集めた。
ファル | (……世界帝軍の貴銃士であった現代銃は、 輸送中に何者かの襲撃を受け収奪された……その後、所在不明) |
---|---|
ファル | (これ以上の情報は、集まりそうもありませんね) |
ファル | (今や、世界帝府の統治時代は過去のもの。 第2代世界帝は既に亡く、彼の貴銃士たちもいない──) |
ファル | ──私は、何をしているんでしょうね。 |
ファル | (私は何を望んでいるのか。 かの時代の復興か? それとも──) |
ファル | ……いや。 武器が物思いに耽るなど、馬鹿らしい。 |
──ファルは任務に没頭した。
カトラリー | ちょっと、また任務って。 せわしないにも程があるんじゃない? |
---|---|
ファル | マスターの命令ですから。 銃の使命は戦うことでしょう? 何も問題ありませんよ。 |
ミカエル | …………。 |
ファル | それでは、失礼。 |
ファル | (与えられた任務を淡々とこなす。 銃であることに徹していて、実に結構なことです) |
---|---|
ファル | (それなのに……。この違和感はなんでしょうね。 何かが噛み合っていないような……気のせいでしょうが) |
ファル | (おまけに、記憶を失ったミカエルさんと、 お飾りの哀れなカトラリーさん……。 なぜ彼らは、心配するような眼差しを私へ向けるのか) |
ファル | (余計な感情などいらない、銃らしく任務を果たす。 ……それでいいはずだ。それで──) |
ベルギー支部兵士 | あの、ファル様? |
ファル | ……! はい。聞いていますよ。 |
ベルギー支部兵士 | 失礼しました。では、続きまして── |
ファル | (……ああ、気持ちが悪い。 この身体が、別人のもののような……) |
ファル | (……以前はもっと、身体が軽かったはず。 イレーネ城にいた頃は……) |
ファル | (過去に焦がれたところで、無駄なことです。 ……銃に感情も、感傷も、必要ない) |
──そんなある日。
ミカエル | 今回のアウトレイジャー退治は大変だったみたいだね。 最後の1体がなかなか捕まらず、 追いかけっこをしていたとか……。 |
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ファル | ええ、さすがに1人では骨が折れました。 出来の悪い弟とはいえ、 エフでもいればまだマシだったでしょうが……。 |
ミカエル | エフ……? それは人の名前かな? |
ミカエル | きみに、一緒に戦うような相手がいたなんて 知らなかったよ。 |
ファル | …………。 いえ、今の言葉は忘れ── |
ファル | ……っ!? |
自身の発言を取り消そうとした時、
突如、ファルの心臓が早鐘を打ち始めた。
ミカエル | 何か……? |
---|---|
ファル | …………。 最近、心臓の調子がおかしいようで。 |
ミカエル | ──ああ、本当だ。リズムが崩れているね。 変拍子になっている……どういうことだろう。 マスターに相談してみたら? |
ファル | いえ、 大したことではありませんので。 |
ファル | では、私はこれで失礼します。 上へ報告に行かねばなりませんので。 |
ミカエル | うん、引き留めて悪かったね。 ──ああ、そうだ。そのエフという人、 そのうち僕にも紹介しておくれよ。 |
ファル | ふふ。それは難しいでしょう。 |
ドク、ドクドクッ……。
未だ不規則に鼓動する心音から、
ファルは無理やり意識を引き離す。
ファル | なんなんでしょうかね、これは……。 |
---|
──その後、ファルはこの突如不規則になる鼓動が
落ち着く方法を見つけた。
1つは、任務。無心になって敵を排除すること。
もう1つは──
ファル | …………。 |
---|---|
マチルダ | ……ファル。 |
ファル | …………。 ……おや、マスター。おはようございます。 |
マチルダ | ……なんだ、この有様は……いや、いい。 |
マチルダ | 行くぞ。テロリストの残党を捕まえなければ。 |
ファル | ……ええ。 |
マチルダとファルは、軍用車に乗り込んだ。
ファルは窓に映る自分の顔を見て、
頬の傷が治っていることに気がつく。
ファル | ……おや。そういえば手も……。 |
---|---|
マチルダ | なんだ? |
ファル | いえ。 それにしても、彼らはいつまでいるんですかねぇ。 |
マチルダ | フィルクレヴァートの候補生たちのことか。 |
ファル | はい。正直、目障りでして。 ……昨夜も楽しい時間を邪魔されましたし。 |
マチルダ | 楽しい? 驚いたな。お前にそんな感情があったとは。 |
ファル | ふふ……楽しいですよ、人の悲鳴を聞くのは。 |
ファル | あれを聴いている時だけは、 自分がきちんと貴銃士として機能している気がするんです。 |
マチルダ | ……悪趣味な奴め。 |
十手 | ……ふぁ。 |
---|---|
使用人 | お帰りなさいませ、〇〇様。 十手様、ライク・ツー様。 ……今からお休みになられますか? |
十手 | あ……いや、大丈夫だ。 すまないね、昨日はよく眠れなかったもんで……。 |
主人公 | 【……無理もない】 【少し部屋で休もうか】 |
十手 | 〇〇君……。 そうだね。温かい茶でも飲んで、少しゆっくりしようか。 |
十手 | まさか、彼があんな……。 |
ライク・ツー | なぁ、あいつのことはどうすんの。 |
---|---|
十手 | あいつ? |
ライク・ツー | 十手のおっさんが受け持ってる、反抗期の生徒。 |
十手 | カトラリー君のことも、もちろん忘れてないさ。 昨日は、あんなことになってしまったけど……。 |
カトラリー | うるさい!! どいつもこいつも、口を開けば絶対高貴、絶対高貴って…… もううんざりだよ!! |
---|---|
カトラリー | どうせあいつらから、あれこれ聞いたんでしょ。 僕がシャルロットに見捨てられて可哀想とでも言われた? |
カトラリー | せっかく召銃したのに役目も果たせない、 役立たずのお人形だって! |
カトラリー | わかってるよ……! みんなにどう思われてるかなんて!! |
十手 | ……俺、カトラリー君と正面から向き合おうと思う。 |
---|---|
主人公 | 【大丈夫?】 【自分も行こうか?】 |
十手 | ……〇〇君。 ありがとう。 |
十手 | 昨日は、〇〇君の言葉に甘えてしまったが……。 今回は、俺1人でやりたいんだ。 |
十手 | 今まで、俺が情けないせいで……。 〇〇君には心配かけることもたくさんあったね。 |
十手 | と言うより、心配してもらいっぱなしだったか。 絶対高貴になれずに燻っていた時期も長かったし……。 |
十手 | でも、いつまでもそんな俺じゃない。 君やみんなと出会って、俺も少しは成長しているんだ。 |
十手 | 君の貴銃士として、頼れる存在でありたい……と。 |
十手 | だから……大丈夫だよ。 しっかりと踏ん張って、しなやかだけど、強い。 そんな具合にやってみるさ! |
主人公 | 【……合点承知!】 |
十手 | ……ありがとう、〇〇君! では、行ってくるよ。 |
ライク・ツー | ……やっぱ、十手のおっさん変わったな。 |
──カトラリーの部屋の前に到着した十手は、
深呼吸をしてからドアをノックした。
……しかし、返事はない。
十手 | カトラリー君? |
---|
ドアノブに手をかけてみると、
鍵はかかっておらず、すんなりと開く。
十手 | 失礼するよ。 |
---|---|
カトラリー | ……何しに来たのさ。 |
十手 | カトラリー君と、ちゃんと話をしたかったんだ。 |
十手 | まずは……昨日のことをきちんと謝らせてくれ。 本当に、すまなかった。 |
十手 | この屋敷の人たちとカトラリー君が 何かすれ違っているように思えて、話を聞きに行ったんだが……。 こそこそ嗅ぎまわるのとほとんど変わらなかった。 |
十手 | 俺の軽率さで、カトラリー君に嫌な思いをさせて、 傷つけてしまった。 本当に……なんと謝ったらいいのか。 |
カトラリー | …………。 |
十手 | カトラリー君の知らないところで 君のことを聞いてしまったお詫びになるかはわからないが…… 今日は、俺のちょっとした打ち明け話をするよ。 |
カトラリー | …………何それ。 |
十手 | いやぁ……すまん。 どうするのがいいのかあれこれ考えたが、 これくらいしか思いつかなかったんだ。 |
十手 | まあ、勝手に話してみるから、 ちょいと耳を貸してくれると助かるよ。 |
十手 | ええと、どう話したもんか……。 |
十手 | そう──俺は、偽物なんだ。 |
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