ベルギー編:第16話~第20話

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第16話:マチルダの事情

ベルギー支部兵士1報告します。
トルレ・シャフ構成員の捕縛、完了しました!!
ベルギー支部上官ご苦労。

ライク・ツーいたのは3人か。
人数は少ねぇけど、武器の量はかなりのもんだったな。

〇〇たちは、ベルギー支部の兵士たちとともに。
トルレ・シャフのアジト内を見て回る。

マチルダん……? これは……?

マチルダが、街の広場の写真が貼られているボードに目をとめる。
〇〇も見てみると、そこには、使われていない店や
風向きの予報など、いろいろな情報も書き込まれていた。

ライク・ツーなんだこれ。
バツ印に風向き……人が多いところ……。
ファルなるほど……。
こちらに残されている資料も見るに、
どうやら、爆破テロ計画をしていたようですね。
十手なんだって……!?
ライク・ツーけど、計画してた奴らは捕まえたんだから、
そっちももう解決だろ。
ファルそうでしょうか。
主人公【まだ計画は続いていると……?】
【何か気になることが?】
ファルここにある食器、寝具の数、ゴミの量……
どれも、3人のものにしては多すぎると思いませんか?
ファル私の見立てでは……ここには少なくとも、5人はいたかと。
十手何……!?
それじゃあ、まだ2人はどこかで息を潜めていると……?
ファルその可能性は十分にあると思いますよ。
ベルギー支部兵士2ベルギー支部に連中を移送し、急ぎ取り調べを行います。
ファル……お待ちを。
彼らは私が尋問しておきます。
ベルギー支部兵士3じ、尋問ですか……。
ファル爆破テロの可能性があるのです。事は急を要するでしょう。
ここを逃れた彼らの仲間が、
いつ計画を実行に移すかわかりませんよ。
ファルそれとも……市民の安全よりもマニュアルが大事ですか?
ベルギー支部兵士3それは……。
ベルギー支部兵士2で、では、身柄をファル殿に引き渡します。
……ベルギー支部は、本件には以降、一切関与しません。
ファルええ、ご協力感謝します。

軍の車両から3人が下ろされる。

十手……よく見ると、彼らはまだまだ若者じゃないか……。
未来ある青年が、こんなことを企むなんてなぁ……。
ファル……フフッ。
十手ん? 俺、何か変なことを言ったかい?
ファルいえ、別に。
共感性に富んだ方なのだなと思っただけです。
ライク・ツー……ハァ。
十手、こっち来い。
十手え、ああ。

マチルダファル。
こいつらを屋敷に連れて行くわけにはいかない。
彼らへの対処は、近くの施設を使ってくれ。
ファルわかりました。
マチルダそれから、〇〇殿。
今回はご協力感謝する。
今日はもう遅いので、あの屋敷には明日の朝戻るといい。
マチルダ近くに司法機関の施設がある。
少し古いところだが、今日はファルとともにそちらを使ってくれ。
主人公【ありがとうございます】
【そうします】
十手マチルダ殿はどうするんだい?
マチルダ私は他にやることがある。
今回のことの報告を早急に上層部に届けたい。
マチルダそれでは、失礼する。
十手あっ、待ってくれ。
傷を──……って、もう行ってしまった。

マチルダは、十手が呼び止める声にも気づかず、
あっという間にいなくなってしまった。

ファル私も彼らを運ばねばなりませんので、お先に。
宿泊する施設には、そちらのみなさんが送ってくださるかと。
主人公【待って】
【あなたの傷も治した方がいい】

〇〇は、ファルの頬にできた傷を指さした。

ファルああ、先ほどの戦闘で少し怪我をしたんですね。
この程度、どうということはありませんので。
……では。
十手マチルダ殿もファル君も、動きに無駄がないというか。
なんとも心強い2人、ではあるが……。
十手マチルダ殿に、どこか切羽詰まったものを感じるのは
俺だけかな……?
ベルギー支部兵士1皆さん、ご協力ありがとうございました。
今日の滞在場所となる施設へお送りします。
ライク・ツーその前に、1つ聞きたい。
ベルギー支部兵士1……? なんでしょうか。
ライク・ツーマチルダ・ジャンセン……
あいつは、なんであんなに生き急ぐみてぇなことしてるんだ?
ライク・ツー何かわけあり臭いが、俺たちは面倒事に巻き込まれたくねぇ。
厄介ごとは早めに把握しておきてぇんだけど。
ベルギー支部兵士1それは……。
ベルギー支部兵士2あまり詳しくは言えないのですが、
シルヴァスター家の名誉を──
ベルギー支部兵士3おい、あんまり大声で話すことじゃないだろ。
ライク・ツーシルヴァスター家?
ベルギー支部兵士1しーっ、しーっ!
ベルギー支部兵士2まぁ、軍ではわりと知られていることなんですが……。
マチルダ殿のもとの名前は、
マチルダ・シルヴァスターというんです。
ベルギー支部兵士2ご実家は有力な政治家ファミリーでした。
特に、お母上のドリス・シルヴァスターといえば、
つい1年くらい前まではベルギー最大野党の党首だったんです。
ベルギー支部兵士2当時は飛ぶ鳥を落とす勢いで、支持者も多かった。
ですが……。
ベルギー支部兵士1現職の首相との政権をかけた選挙戦の最中に、
とんでもない大スキャンダルが発覚したんです。
ドリス氏の側近の中に、元世界帝府関係者が紛れていたと。
ベルギー支部兵士1選挙戦は現職の首相であったサリバン氏の圧勝。
ドリス氏はそのまま失脚しました。
ベルギー支部兵士2……正直、政治家としては再起不能レベルの痛手です。
今のベルギーはとにかく、世界が我が国に抱いている
世界帝の武器工場というイメージの払拭が必要ですから。
ベルギー支部兵士2かくいう自分も、ドリス氏の支持者だったのですが……。
ライク・ツーなるほどな、それでマチルダも不名誉なイメージのついた
シルヴァスター姓を捨てたってわけか。
ベルギー支部兵士1はい。マチルダ殿は貴銃士のマスターとなる際に、
親戚筋の別姓ジャンセンを名乗るようになりました。
ベルギー支部兵士1もともとは、シルヴァスター家の一員として、
熱心に産業開発分野の勉強をしていたそうなのですが、
政治家として活動するのは難しいでしょうね……。
ベルギー支部兵士1今は、貴銃士のマスターとして国防の前線を担う、
マチルダ・ジャンセン特別執行官として命がけで戦ってます。
十手自分の苗字を捨てるだなんて、どんな思いだったのだろうな……。
十手ん、待てよ。
サリバン氏というと……もしや、シャルロット殿のお父上かい?
ライク・ツー政敵同士ってことだな。
それであいつらもギスギスしてたのか……。
ベルギー支部兵士1ですから、最初の質問への答えですが……。
私が推測するに、ファル殿とともにアウトレイジャーと戦い、
国民の信頼と名声を得たいのだと思います。
ベルギー支部兵士1最終的にはシルヴァスター家の人間だと明かして、
一族とお母上の名誉回復を試みているのでは……という噂です。
ライク・ツー……名誉回復、ね。
それであれだけ必死だったわけか。
十手マチルダ殿も苦労しているのだなぁ……。
十手だが、ファル君が相棒ならば少し安心だね。
彼は物腰が柔らかいし、あの強さだ。
そのうえ、洞察力もある。
十手さっきも捕り物のあとすぐに
残党がいる可能性に気づいていたしね。
信頼できる貴銃士じゃないか!
ライク・ツー……どうだかな。
ライク・ツー引き止めて悪かったな。
とっとと施設とやらに行こうぜ。

第17話:ファルの狂気

──その日の深夜、宿泊施設にて。
〇〇たちは早めに就寝していた。

十手……すぅ……むにゃ。
うぅん、……か、とらりーくん……こうき……ってのは……。
十手……う……ぜったいこうきで……、
ぱんの味を……変えるのは……ぐぅ……、
さす、がに……むりだとおも……ふごっ!?
十手…………っ、うぅん……?
十手(……夢か。えーと、ここは……?
そうだ、今日は捕り物があって……)
十手(……いかん、なんだか目が冴えてしまった)
十手(〇〇君を起こしたくない。
それに、ライク・ツー君も睡眠を邪魔すると怒るし……。
……少し、外の空気でも吸いにいこうかな)

十手はそっと部屋を抜け出した。


十手しまった……迷ってしまった……。
十手うぅむ、こう暗いと自分がどこを歩いているのか
わからなくなってしまうな……。
十手……あ、こっちだな!
この張り紙に見覚えがある。
はぁ、よかったよかった。

十手がしばらく歩いていると、
どこからか微かに声が聞こえてくる。

???……ァァ……ぁー…………。
十手……っ!?
この声は、一体……。
???……──! ……。
十手どこから聞こえてくるんだろう。
こっちの方か……?

微かなうめき声のようなものは、
すぐに聞こえなくなってしまった。

十手聞き間違え……いや、確かに聞こえた。
何かあったのかもしれない……!

十手は急いで部屋に戻ると、
〇〇たちを揺り起こして、
声が聞こえたあたりへと戻った。

ライク・ツーんだよ、何も聞こえねぇじゃねーか……!
よりによって睡眠のゴールデンタイムに起こすな。
十手し、しかし……確かにさっきは聞こえたんだよ。
3人で手分けしたほうがいいと思って……。

もう一度〇〇も耳を澄ましてみるが、
何も聞こえない。

十手こう、うめき声というか、悲鳴みたいなのが……。
主人公【誰かの寝言だったのかも】
【珍しい鳥の鳴き声だったとか】
十手うーん……そうかなぁ……。
でも、あれは確かに──
???……ゥ…………ァ…………!
十手っ、今の声だよ!
ライク・ツー……マジかよ。
主人公【行ってみよう】
【こっちだ】
ライク・ツーああ。
十手おう!

〇〇たちは、声を頼りに施設内を歩く。
声は、地下に続く階段から聞こえているようだった。

ライク・ツー……行くか。

???残念なことに、あまりいい道具がないんですよねぇ、ここ。
???ひっ……。
???なので、手近な道具で工夫しつつやってみましょうか。
カミソリ……は、もう、少し味見してもらいましたし。
次はペンチなんてどうです?
十手この声は……。

暗い階段を進んでいくにつて、
声が鮮明に聞こえてくる。

やがて、裸電球に照らされた、
地下牢のようなものが3人の視界に入った。

粗末な椅子に縛られた男たちの指の爪が、真っ赤に染まっている。
がっくりと項垂れた男たちは、青ざめてひどく憔悴している。

ファルこのペンチは大振りなので、繊細なことはできないのですが。
そうですねぇ……指先から骨を砕くのはできそうでしょうか。
さあ、どの指からがいいか、ご希望はありますか?
テロリストや、やめて……助けてくれ……もう許して……。
十手……っ!!!
ライク・ツー……おい、ファル。
お前、何してんだ。
ファル……あなたたちですか。
どうされました、こんな所に。
十手君こそ何をしているんだい!?
ファル尋問です。
彼ら、口を割らないので仕方なく。
主人公【これは尋問じゃなくて拷問だ】
【禁止条約に違反する!】
ファルおや。
では、やめたら彼らが口を割ってくれるのですか?
ファル甘っちょろい御託なんてどうでもいいんですよ。
ファル……候補生さんは、革命戦争の孤児だとか。
彼らが口を割らなければ、戦争が終わったというのに
あなたのような孤児がまた増えるかもしれませんねぇ。
ファル……ああ、孤児になっても生き残るだけマシでしょうか。
街中で爆破テロが起きれば、子供であろうが命を落としますし。
主人公【…………】
【それでも──】
ライク・ツーファル、お前……!
ファルさて、再開しましょう。
どの指から潰されたいか、決まりましたか?
十手なっ……!?

第18話:眠れぬ夜

ファルさて、再開しましょう。
どの指から潰されたいか、決まりましたか?
テロリスト……っ!!!
テロリストわ、わかった……喋る、仲間の場所も……、
今日が失敗、した時の、バックアッププランも……。
テロリストだから許して、くれ……た、たのむよぉ……!
ライク・ツー……もう口を割ったみたいだが?
ファルそのようですね。
はぁ、もう終わりですか……つまらないですね。

ファルは大きく溜め息をつく。

主人公【彼らを即刻ベルギー支部に引き渡して】
【これ以上続けるなら絶対に止める】
ファル…………。
ファル必要な情報を話していただけるなら、もう用はありませんよ。
尋問も終わりです。

男たちがベルギー支部に引き渡されたのを見届け、
〇〇たちはようやく、部屋に戻ったのだった。


ライク・ツー……いろいろあったけど、まずは休もうぜ。
考えても仕方ねぇし、ファルの野郎は変わらねぇよ。
十手…………。
主人公【大丈夫?】
十手ああ、心配かけてすまない……。
なんというか、驚いてしまって……。
十手〇〇君も大丈夫かい?
ライク・ツー君の言うとおりだ、もう今夜のところは
布団を被って寝るとしよう!

〇〇が自室に戻ると、
ライク・ツーはすぐに眠りについた。

十手(……とは言ったものの。
さすがに眠れそうにないな……。はぁ……)

十手はため息をつき、何度も寝返りを打った。


──地下室にて。

ファル…………。
ファル……クソが……。

──ガン! ガン!

ファルはペンチを拾い上げると、
何度も、何度も、何度も、執拗に机を殴りつける。

──ガン! ガン! ガン!

ファル……ハァ、ハァ……ッ!
せっかくの楽しみを……邪魔しやがって……!

──ガン! ガン! ガン!
──ガン! ガン! ガン!

何度も、何度も、何度も──……。


──その頃、貴銃士の屋敷にて。

ミカエル…………。

月明かりのもと、ミカエルがセレナーデを奏でていた。
近くのソファに座ったカトラリーが、
じっと演奏に耳を傾けている。

ミカエル……きみ。そろそろお眠りよ。
カトラリー……いやだよ。
まだしばらく、ミカエルの演奏を聴かせて……。
ミカエルカトラリー。
カトラリーだって……だって、やなことばっかり思い出して、眠れないんだ。
……天使の調べで、頭をいっぱいにさせて……っ。
ミカエルそう……わかったよ。
カトラリーう……ぐすっ……。

ミカエルがゆったりとした夜想曲を奏でる。
曲が終わるころ、カトラリーの微かな嗚咽は、
静かな寝息へと変わっていた。

カトラリー…………。
ミカエル……ねぇ、ファル。
ミカエル人間はとても弱い生き物だ。
誰かを妬み、恐れ、貶めなければ自己を保てない……。
ミカエル……そして、きみがどんなに否定しようと、
きみの心もまた──……。

ミカエルは窓を開けて、風が運んだ薔薇の香りを深く吸う。

ミカエルきみは、僕が救ってあげる。
きみを苦しめる世界から、救ってあげる。
ミカエルねぇ、ここに、おいで──……。

???──いろいろ調べてみて、やぁーっとわかったで。
???ベルギーにおるKB FALLは……“あの”ファルはんや。
正真正銘、同一の銃……。
???奴らの思惑はわかっている。
俺たちをおびき寄せるために使おうとしているんだろう。
???まったく……酷いことするわ。
ファルちゃんをエサにするなんて。
???ファルは家族……あいつの居場所はここだ。
早々に連れ戻してやろう。
???ウフ……♥ さすがお兄様ね。
かっこいいわぁ……♥
???アインスの兄さんの言う通り……
エサのつもりなんやったら、こっちから食いついたる。
んで……連れ戻したらんとなぁ。
???おう。
……準備を進めるぞ。エフ、ゴースト。
???はぁ~い、アインスお兄様♥
……待っててね、ファルちゃん。
???もうすぐ、迎えに行ったるで……。
ファルはん。

 

第19話:かつての記憶

ファル…………。
ここは……。

──尋問の翌朝。
ファルは荒れ果てた地下室で目を覚ました。

ファルああ、そうか……。
いつの間にか眠っていたようですね。

ファルの周囲には、壊れた椅子や机などが散乱している。
ペンチを叩きつけていた手もぶつけたのか、
鬱血して鈍く痛んでいた。

ファル…………。
ファル(私……何をしているんでしょうね……)

──数ヶ月前。

マチルダ目覚めたか、KB FALL。
マチルダこれからいくつか確認をする。簡潔に答えろ。
ファル…………。
マチルダ『KB FALL、コードネームはファル。
世界帝軍の貴銃士として目覚める』
マチルダ『同じく世界帝軍の貴銃士である……通称「アインス」の
補佐兼世界帝軍現代銃のナンバー2として
世界帝の名のもとに暴虐の限りを尽くす』
マチルダ『レジスタンスに現れたマスター、貴銃士と
幾度も交戦。最終的に本拠地であった
世界帝軍本部・イレーネ城にて激突し、敗北』
マチルダ『世界帝軍敗北後は、他の現代銃ともども回収され
最終的に製造元となった国へ返還された』
ファル……!
マチルダ──以上が、お前の経歴で間違いないな。
ファル……そうですね。
おおよそは私の認識と合致しています。
ただ……最後のことは知りませんでしたが。
ファル成程。我々は、負けたのですね。
マチルダもう7年も昔のことだ。過去を知りたければ
自分で勝手に調べるといい。
ファル(どうして……私だけが召銃された……?)

ファルはその後、エフとアインスの情報を独自に集めた。

ファル(……世界帝軍の貴銃士であった現代銃は、
輸送中に何者かの襲撃を受け収奪された……その後、所在不明)
ファル(これ以上の情報は、集まりそうもありませんね)
ファル(今や、世界帝府の統治時代は過去のもの。
第2代世界帝は既に亡く、彼の貴銃士たちもいない──)
ファル──私は、何をしているんでしょうね。
ファル(私は何を望んでいるのか。
かの時代の復興か? それとも──)
ファル……いや。
武器が物思いに耽るなど、馬鹿らしい。

──ファルは任務に没頭した。

カトラリーちょっと、また任務って。
せわしないにも程があるんじゃない?
ファルマスターの命令ですから。
銃の使命は戦うことでしょう?
何も問題ありませんよ。
ミカエル…………。
ファルそれでは、失礼。

ファル(与えられた任務を淡々とこなす。
銃であることに徹していて、実に結構なことです)
ファル(それなのに……。この違和感はなんでしょうね。
何かが噛み合っていないような……気のせいでしょうが)
ファル(おまけに、記憶を失ったミカエルさんと、
お飾りの哀れなカトラリーさん……。
なぜ彼らは、心配するような眼差しを私へ向けるのか)
ファル(余計な感情などいらない、銃らしく任務を果たす。
……それでいいはずだ。それで──)
ベルギー支部兵士あの、ファル様?
ファル……!
はい。聞いていますよ。
ベルギー支部兵士失礼しました。では、続きまして──
ファル(……ああ、気持ちが悪い。
この身体が、別人のもののような……)
ファル(……以前はもっと、身体が軽かったはず。
イレーネ城にいた頃は……)
ファル(過去に焦がれたところで、無駄なことです。
……銃に感情も、感傷も、必要ない)

──そんなある日。

ミカエル今回のアウトレイジャー退治は大変だったみたいだね。
最後の1体がなかなか捕まらず、
追いかけっこをしていたとか……。
ファルええ、さすがに1人では骨が折れました。
出来の悪い弟とはいえ、
エフでもいればまだマシだったでしょうが……。
ミカエルエフ……?
それは人の名前かな?
ミカエルきみに、一緒に戦うような相手がいたなんて
知らなかったよ。
ファル…………。
いえ、今の言葉は忘れ──
ファル……っ!?

自身の発言を取り消そうとした時、
突如、ファルの心臓が早鐘を打ち始めた。

ミカエル何か……?
ファル…………。
最近、心臓の調子がおかしいようで。
ミカエル──ああ、本当だ。リズムが崩れているね。
変拍子になっている……どういうことだろう。
マスターに相談してみたら?
ファルいえ、
大したことではありませんので。
ファルでは、私はこれで失礼します。
上へ報告に行かねばなりませんので。
ミカエルうん、引き留めて悪かったね。
──ああ、そうだ。そのエフという人、
そのうち僕にも紹介しておくれよ。
ファルふふ。それは難しいでしょう。

ドク、ドクドクッ……。
未だ不規則に鼓動する心音から、
ファルは無理やり意識を引き離す。

ファルなんなんでしょうかね、これは……。

──その後、ファルはこの突如不規則になる鼓動が
落ち着く方法を見つけた。

1つは、任務。無心になって敵を排除すること。
もう1つは──

ファル…………。
マチルダ……ファル。
ファル…………。
……おや、マスター。おはようございます。
マチルダ……なんだ、この有様は……いや、いい。
マチルダ行くぞ。テロリストの残党を捕まえなければ。
ファル……ええ。

マチルダとファルは、軍用車に乗り込んだ。
ファルは窓に映る自分の顔を見て、
頬の傷が治っていることに気がつく。

ファル……おや。そういえば手も……。
マチルダなんだ?
ファルいえ。
それにしても、彼らはいつまでいるんですかねぇ。
マチルダフィルクレヴァートの候補生たちのことか。
ファルはい。正直、目障りでして。
……昨夜も楽しい時間を邪魔されましたし。
マチルダ楽しい?
驚いたな。お前にそんな感情があったとは。
ファルふふ……楽しいですよ、人の悲鳴を聞くのは。
ファルあれを聴いている時だけは、
自分がきちんと貴銃士として機能している気がするんです。
マチルダ……悪趣味な奴め。

第20話:十手の思い

十手……ふぁ。
使用人お帰りなさいませ、〇〇様。
十手様、ライク・ツー様。
……今からお休みになられますか?
十手あ……いや、大丈夫だ。
すまないね、昨日はよく眠れなかったもんで……。
主人公【……無理もない】
【少し部屋で休もうか】
十手〇〇君……。
そうだね。温かい茶でも飲んで、少しゆっくりしようか。
十手まさか、彼があんな……。

ライク・ツーなぁ、あいつのことはどうすんの。
十手あいつ?
ライク・ツー十手のおっさんが受け持ってる、反抗期の生徒。
十手カトラリー君のことも、もちろん忘れてないさ。
昨日は、あんなことになってしまったけど……。

カトラリーうるさい!!
どいつもこいつも、口を開けば絶対高貴、絶対高貴って……
もううんざりだよ!!
カトラリーどうせあいつらから、あれこれ聞いたんでしょ。
僕がシャルロットに見捨てられて可哀想とでも言われた?
カトラリーせっかく召銃したのに役目も果たせない、
役立たずのお人形だって!
カトラリーわかってるよ……!
みんなにどう思われてるかなんて!!

十手……俺、カトラリー君と正面から向き合おうと思う。
主人公【大丈夫?】
【自分も行こうか?】
十手……〇〇君。
ありがとう。
十手昨日は、〇〇君の言葉に甘えてしまったが……。
今回は、俺1人でやりたいんだ。
十手今まで、俺が情けないせいで……。
〇〇君には心配かけることもたくさんあったね。
十手と言うより、心配してもらいっぱなしだったか。
絶対高貴になれずに燻っていた時期も長かったし……。
十手でも、いつまでもそんな俺じゃない。
君やみんなと出会って、俺も少しは成長しているんだ。
十手君の貴銃士として、頼れる存在でありたい……と。
十手だから……大丈夫だよ。
しっかりと踏ん張って、しなやかだけど、強い。
そんな具合にやってみるさ!
主人公【……合点承知!】
十手……ありがとう、〇〇君!
では、行ってくるよ。
ライク・ツー……やっぱ、十手のおっさん変わったな。

──カトラリーの部屋の前に到着した十手は、
深呼吸をしてからドアをノックした。

……しかし、返事はない。

十手カトラリー君?

ドアノブに手をかけてみると、
鍵はかかっておらず、すんなりと開く。

十手失礼するよ。
カトラリー……何しに来たのさ。
十手カトラリー君と、ちゃんと話をしたかったんだ。
十手まずは……昨日のことをきちんと謝らせてくれ。
本当に、すまなかった。
十手この屋敷の人たちとカトラリー君が
何かすれ違っているように思えて、話を聞きに行ったんだが……。
こそこそ嗅ぎまわるのとほとんど変わらなかった。
十手俺の軽率さで、カトラリー君に嫌な思いをさせて、
傷つけてしまった。
本当に……なんと謝ったらいいのか。
カトラリー…………。
十手カトラリー君の知らないところで
君のことを聞いてしまったお詫びになるかはわからないが……
今日は、俺のちょっとした打ち明け話をするよ。
カトラリー…………何それ。
十手いやぁ……すまん。
どうするのがいいのかあれこれ考えたが、
これくらいしか思いつかなかったんだ。
十手まあ、勝手に話してみるから、
ちょいと耳を貸してくれると助かるよ。
十手ええと、どう話したもんか……。
十手そう──俺は、偽物なんだ。

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