ベルギー編:第21話~第25話

コメント(0)

第21話:カトラリーの真実

十手──俺は、偽物なんだ。
十手江戸の町を守る同心が捕り物に使っていた仕込み銃、
正真正銘、実用された本物の十手鉄砲!
十手俺は、〇〇君と出会った頃、
意気揚々とそう名乗っていたんだ。
十手だが……本当はそうじゃない。
実際の俺は、元々はごく普通の十手で、
鉄砲に改造されたのはもっとあとのことなんだ。
十手江戸の世が終わり、俺は同心の相棒としての役目を終えた。
そうして、いつしか古物商のもとに流れて……
好事家好みにして高く売るために鉄砲へと改造されたのさ。
十手そんなんだから、当然……
十手鉄砲として実用されたなんて事実はない。
十手絶対高貴にもなれなければ、銃としても半端物で、
軍用銃のみんなみたいな強さはない。
おなけに、同心愛用の十手としての姿からも遠ざかってしまった。
十手〇〇君の役に立てない、役立たずのお荷物……
そういう風に、いつも後ろ向きに考えていたよ。
カトラリー……!
十手前にもちょいと話したが、
そんな矢先に不思議な夢を見てね。
十手ちょうどいいことに日本からの招待もあったもんだから、
よぉし、日本に行って夢の神社を見つけさえすれば、
俺も絶対高貴になれるに違いないと、喜び勇んで行ったんだ。
十手ところがどっこい。
そこで見つけたのは、自分が道具屋に売られたときの証文だった。
十手自分の偽者の出自と向き合わざるを得なくなって、
俺は……絶望したよ。
十手だから……〇〇君を庇って撃たれた時、
もう俺はこのまま十手鉄砲に戻って、
二度と貴銃士として目覚めない方がいいとまで思ったんだ。
カトラリー…………。
十手……それでも、〇〇君は俺を必要としてくれた。

キセル大事なのはてめェの心だろうが!
十手〇〇君……。
俺は……俺の正義を信じてみる。

十手頼もしい仲間もたくさんいたし、
ありがたいことに、日本ではキセル君っていう、
立派な奇銃の貴銃士にも出会えた。
十手だからこそ、俺は俺なりの高貴さを見つけることができたんだ。
十手周りに恵まれて、みんなに助けてもらって、
……それで、今の俺がある。
十手だから、あの頃の俺を助けてくれた人と同じように、
今度は俺が誰かの助けになりたい……!
十手だが……やっぱり、キセル君みたいにはうまくやれないなぁ。
思い付きのまま動いて、
カトラリー君につらい思いをさせてしまった。
十手申し訳ないし、面目ない……!
こんな俺だが、少しでもカトラリー君の支えになりたいんだ。
十手俺に、君の心の内を、話してくれないかな。
カトラリー…………。
カトラリー……なん、で……。
カトラリーなんで、そんなこと言えるの。
そんな話……笑ってできるのさ。
カトラリー恥ずかしいだろうし、格好つかないし、
本当は知られたくない話なんじゃないの……?
十手ははっ、いいんだよ。
みっともない俺も、悩んだ俺も、
どれもこれも、まるっとすべてが俺だからね。
カトラリー……っ!
カトラリーそれに……僕、あんなに酷いこと言ったのに……。
十手はは……たしかに、グサッとくることも何度かあったね。
カトラリー……!
十手けど、俺はあんまり気にしていないよ。
ああいう言葉は、カトラリー君の
つらさの現れでもあったんじゃないかと思うしね。
カトラリー……っ、僕……。
カトラリー……僕は、その。
北海の海賊が使っていた仕込み銃じゃ、ないんだ。
十手……!
カトラリーシャルロットに呼び覚まされた時、いきなりこう言われたんだ。
あなたは、ベルギーゆかりの古銃の貴銃士だって。
カトラリーでも僕、カリブ海の……船乗りの持ち物だったんだ。
北海の海賊だなんて、真っ赤な嘘。
カトラリーそもそも、ベルギーが本当に召銃したかったのは、
革命戦争のレジスタンスにいたカトラリーだった。
……でも、それは叶わなかった。
カトラリーだから、よく似た僕を召銃して、お飾りに立てたんだ。
カトラリー僕が毎日、高級フレンチを食べられるのは何故だと思う?
……出自を偽って北海のカトラリーを演じることへの報酬だよ。
そういう契約にしろって、言ったんだ。
カトラリーベルギーゆかりの貴銃士様だって、みんなにチヤホヤされてさ。
誰も彼もが、僕の言うことを聞くんだ。
カトラリーだから、最初は勘違いしてたんだ。
古銃の貴銃士である僕が偉いんだって。
カトラリーでも、でも……本当は、誰も僕自身のことなんて見てない。
カトラリーみんなが必要としているのは、僕自身じゃ、なくて。
『レジスタンスの古銃』の栄光だったんだよ……。
カトラリーましてや、僕は、
『レジスタンスのカトラリー』そのものでもなくって。
機構と素材がよく似ているだけの別銃で……。
カトラリー僕は、バカだよ。大バカだ。
そんなことも気づかずにチヤホヤされて、いい気になって……!
十手…………。
カトラリーさ、最初は!
カトラリー最初は、僕もシャルロットの屋敷に住んでいたんだ。
でも、いつまで経っても絶対高貴になれないから、
この屋敷に追いやられたんだ……!
カトラリーぼ、く……僕……!
マスターに……もういらないって思われたんだよ……。
カトラリーそれ、で……悔しくて、悲しくて、寂しくて……!
うっ……! くぅ……!
十手……カトラリー君、つらかったね。

十手は、泣きじゃくるカトラリーの背中をそっとさすった。


──やがて、カトラリーはようやく泣き止み、
目元をゴシゴシとこする。

十手落ち着いたかい?
よかったら、何か甘いものでも持ってこようか。
カトラリー…………。
う…………。

落ち着きを取り戻したカトラリーは、
十手を見つめてふと硬直したかと思うと、
その頬をかーっと染めていった。

カトラリー今日の家庭教師の時間は終わりでいいから、
出て行ってよ!
十手ええっ……!?
カトラリーあ、あと……僕が泣いたこと話したら、撃つから!
十手だ、大丈夫だって、話したりしないよ。
それじゃあ、また明日。
それか、ごはんの時に会おう!
カトラリー…………。
カトラリーうう……最悪……。あんなに大泣きするなんて……。
だけど……。
カトラリー……へへ。

第22話:仲直りのFish Cake 1

──翌日。

ライク・ツー……うっし、朝のワークアウト終わりっと。
十手は、はぁ……はぁ……。
ら、ライク・ツー君は……毎朝こんなにキツい鍛錬を……、
し、してるのかい……ひぃ……。
ライク・ツー何へばってんだよ。
お前もやるって言うから、少し軽めにしたんだぞ。
十手ひぇ……恐れ入ったよ。
俺ももっと、鍛錬を重ねていかないと……!

──コンコン

十手おっと、〇〇君かな。
そろそろ朝食の時間だしね。
十手どうぞー!
カトラリー…………。
十手カトラリー君……?
十手こんな早くにどうしたんだい?
もしかして、朝食に呼びに来てくれたとか?
カトラリー……えっ……と、その……。

カトラリーは服の裾を握り締め、
口を開いては閉じてを繰り返す。

ライク・ツーなんだよ、もじもじして。
ここはトイレじゃねぇぞ。
カトラリーちがっ……わかってるし、そんなこと!
僕は、えっと……その……。
十手…………。
……ふむ。
十手なぁ、カトラリー君。
よかったら、改めて仲直りをしないかい?
カトラリー……っ!
カトラリーな、仲直りって、別に喧嘩したわけじゃないし!
それに……元から仲良くもないし。
カトラリー僕はただ、ちょっと話でもしようかって来ただけで……。
ついでに、まあ、謝ってやらなくもないって思ったけど……。
十手ははっ、それならやっぱり、仲直りだ。
カトラリーでも、別にそっちは謝ることないでしょ……。
十手いや。俺は、君のいないところで、
屋敷の人たちから君の話を聞いてしまった。
十手で、君は……。
そうだなぁ。ちょっと意地悪だったかな、ははっ!
カトラリー……馬鹿じゃないの。
ちょっと意地悪だったって程度じゃなかったでしょ、僕……。
ライク・ツーああ、すっげぇ感じ悪かったな。
今も大して変わんねぇけど。
十手ちょっ、ライク・ツー君!?
カトラリー……ほら、やっぱり。
カトラリー……でも、陰でコソコソ言われるより、
あんたの方が百倍マシ……かな。
カトラリー……わかったよ。
仲直りってことにしとく。
十手よしきた!
それじゃあ、仲直りの証に、〇〇君も誘って
4人で一緒に美味しいものでも食べよう!
十手同じ釜の飯を食った仲と言ってね、
生まれや育ちがバラバラだろうが、同じものを食べ、
同じ場所で眠ったなら、それはもう立派な仲間なのさ。
カトラリー……何それ。
十手まあまあ。
カトラリー君は、何かみんなで食べたいものはあるかい?
俺は、美味いものならなんでも大歓迎だぞ。
カトラリー美味しいもの……。
カトラリー………………。
カトラリー僕……行きたいところがあるんだけど。

第23話:仲直りのFish Cake 2

カトラリーが3人を連れて行ったのは、
初日に案内された公園だった。

ライク・ツーんで? ピクニックでもするのか?
カトラリーそうじゃなくて……。
そうと言えるかもしれないけど……。
主人公【もしかして、TAI-YAKI?】
カトラリー……え、と……う、うん。
カトラリーこの公園、公務で街に出る時、
いつも目に入って……気になってたんだ。
カトラリーここにいる人たちは、すごく楽しそうで……
たいしたもの食べてるわけでもないのに、
すっごく美味しそうにしてるから。
カトラリーこの間、十手と〇〇が屋台で買って食べてるの、
その……本当は、いいなって……思って……。
ライク・ツーはぁ?
なら、食べたいって言えばよかったじゃねぇか。
ライク・ツー……あ。あん時グチグチ言ってたのって、
羨ましいけど素直になれなくて食えないのに苛ついてたわけ?
カトラリーち、違っ……!
調子乗らないでよ、僕が羨ましいわけ……。
カトラリー…………。
……言われてみれば、その、少しだけ……羨ましかったかも。
十手うんうん、素直なのはいいことだ!
カトラリーう、うるさいなぁ!

ちょっとした言い合いをしながら、
4人はたい焼きの屋台の行列に並んだ。

カトラリーこれがメニュー?
フィリングの種類が、こんなにたくさんあるって……。
どれにしよう……。
十手気になる味がたくさんあるなら、こういうのはどうだい?
みんなそれぞれ違うものを頼んで、分け合うんだ。
カトラリー分け合うって……。
十手一口齧ったり、一口分ちぎってあげたりね。
カトラリーえっ!?
何それ……そんなのナシでしょ!?
ライク・ツー買い食いにマナーもクソもあるか。
十手ほら、俺たちの番が来たぞ!
選ぼう!
カトラリーえっと……。
おすすめのストロベリーカスタードは押さえたいし……
ピスタチオもよさそう。あ、チョコレートも……。
カトラリーど、どうしよう……。
こんなに種類あったら、4つにすら絞り込めないんだけど。
それに、十手はアンコってやつでしょ。
十手おっ、俺のおすすめを覚えていてくれたのか!
これは嬉しいねぇ。
十手だが、心配はいらないぞ~。
たくさん買ってお土産にするのもいいからね。
温めてからチン!とひと焼きすれば、また出来立ての美味しささ。
カトラリーえっ、そうなんだ。
だったら……プレミアムカスタードも追加しようかな。
ライク・ツーお、新商品でプロテインシリーズがあるじゃん。
俺はプロテインバニラで。
主人公【(プロテインなんてあるんだ……)】
【(ライク・ツーらしい……)】
ライク・ツーんだよ、文句ねぇだろ。
十手俺は……そうだなぁ、やっぱり粒あんと、
お土産用にこしあんと鶯あんもお願いするよ!
カトラリーその、“アン”ってつくのは全部、甘く煮た豆なわけ?
日本ってどんだけ豆にバリエーションをつけるのさ。
十手ははは、そう言わずに、あとで1口食べてみるといいよ。

たい焼き屋の店員──はい、以上で10点ですね!
大変お待たせいたしました! どうぞ!
ライク・ツー結局、全種類買ってやがる……。
十手ありがとう!
では、さっそくいただこうかな。
さ、カトラリー君もぱくっと!
カトラリー……わ、わかった……。

カトラリーは、恐る恐るたい焼きをかじった。

カトラリー……っ!
十手うん、美味~いっ!
どうだい、カトラリー君。そっちの味は。
カトラリー…………。
カトラリー…………おい、しい……。

カトラリーは信じられない、というように呟き、
それから1口、もう1口と食べ進めていく。
〇〇たちは、それを見守った。

カトラリー……立ち食いなんてマナー違反だし、
高級でもなんでもないのに……。
すごく……美味しい。
主人公【こっちも食べてみて!】
【1口ちょうだい!】
カトラリーえっ……えっ!?
ライク・ツーこれも悪くねぇぞ、ほら。
十手俺の粒あんとこしあんの食べ比べもしてみるかい?
鶯あんもまた違って美味いぞぉ~。
カトラリーそ、そんなに食べられないって!
カトラリーふふ……えへへ……。

たい焼きを満喫したカトラリーは、
もう一度、屋台の行列に並び始めた。

十手おや、カトラリー君……!
ライク・ツーなんだよ、まだ食うのか?
カトラリーな、何さ。
屋敷のみんなに、お土産をって思っただけだよ。
……ニヤニヤするなってば!
十手……きっと、屋敷のみんなも喜ぶよ!
カトラリーあ、当たり前でしょ!
この僕が買って帰るんだもん……喜んで、くれるよね?
十手ああ、きっとね。
よーし、たくさん買って帰ろう!
カトラリー……うん!
店主20個以上お買い上げのお客さんには、
風船のプレゼントがありますよ!
たくさん食べてくださいね~!

カトラリーは両手いっぱいにたい焼きの紙袋を抱えて歩く。
周囲の市民たちも、微笑ましそうにそれを見守っていた。

市民1あれって古銃のカトラリー様じゃないか?
タイヤキをあんなにたくさん……ふふ、いいなぁ!
市民2ねぇ、私たちも買って帰らない?
貴銃士様と同じものを食べられるって、ラッキーかも♪
市民1いいね、それ。行こう!
カトラリー…………っ!
十手そういえば、カトラリー君!
さっき食べたあんこはどうだったかな?
カトラリー……甘い豆なんて信じられない。
って、思ったけど……意外と、悪くなかったよ。
十手そうか、それはよかった。
饅頭や大福、それに最中なんかも、いつか食べてみてほしいなぁ。
カトラリーマンジュー……モナカ……?
まあ、楽しみにしておいてあげる。

 

第24話:ファルの異変1

4人は、たい焼きを持って貴銃士の屋敷に戻った。

十手む……?
声が聞こえるね。庭園の方からかな。
ライク・ツーあいつ……ファルが戻って来たのかもな。
十手……!

ファルさて、再開しましょう。
どの指から潰されたいか、決まりましたか?

カトラリーチーズ味もあるし、ファルもたい焼き食べるかな。
食べてくれるよね……。
十手カトラリー君……。
ライク・ツー……俺たちも行くか。

庭園では、ファルが薔薇を摘もうとしていた。

ミカエルファル、今日は花を飾るのはおよしよ。
……ほら、酷いリズムになってしまっている。
ファル……お気遣いなく。
主人公【(この間も、薔薇を摘んでいたっけ)】
【(酷いリズム……?)】
ライク・ツー(赤い薔薇、なぁ……)
ミカエルおや……きみたち、帰ってきたんだね。
ファル皆様おそろいで、ずいぶん賑やかなことですね。
カトラリー別に、賑やかでいてほしいほどでもないけど。
今日は公園に行ってきたんだ。
ミカエルきみが、彼らと……?
カトラリーうん。お土産あるから、食べない?
ミカエルふむ。いただこうかな。
しかし、これは……?
カトラリー日本で生まれたおやつで、タイヤキって言うんだって。
Fish Cakeって呼んでる人もいたよ。
ミカエルFish Cakeか。
日本の海には、お菓子の魚が泳いでいるのかな。
ミカエルそれは……なんとも面白いね。
愉快な音楽ができそうだ。
ファルずいぶんと楽しまれたようで。
お友達になってくれる奇特な方たちでよかったですね。
カトラリーはぁ……?
そんなこと言うなら、ファルのお土産はなしだよ。
ファルええ、いりません。
カトラリー……っ、僕がせっかく買ってきてやったのに……!
十手ええと……ファル君。
今はお腹が空いていないなら、とりあえずもらっておいて、
あとで食べるのもいいんじゃないかな。
十手味はカトラリー君のお墨付きさ。
美味しいよ。
ファル……ッ!

???ここのステーキは、エフも気に入っていた。
ワインにも合って美味いぞ。
ファルおやまあ。
ステーキもワインも、随分と揃えたものですねぇ。
???お前にはいつも世話になってるからな。
これくらい、大したものじゃない。
ファルふふ……お褒めにあずかり光栄です。
では、いただくとしましょう。

???ファル、ここにいたのか。
ちょっと来てみろ。
ファルおや、また何か任務でしょうか。
???いいや。お前がそろそろ咲きそうだと言っていた薔薇が、
見事に咲いていてな。
ファルそれで呼びに来てくださったんですか。
ありがとうございます。行きましょう。

???ね~ぇ、ファルちゃん。
今日のアタシ、どうかしら?
ファルどう、とは?
いつもと何も変わりませんが。
???んもうっ、失礼しちゃう!
ほら、新しい香水を試したのよ。
どうどう? いい香りじゃなぁい?
???ウフフ……♥
アインスお兄様も気に入ってくださるかしら。
ファルさあ、どうでしょう。
あなたの香水は薔薇が多くて、代わり映えしませんから。
???ファルちゃんったら、わかってないわ……!
同じ薔薇でも全然違うじゃない!
ファルはぁ……そういうものですかねぇ。

ファル……っく……。
カトラリーファル?
ねぇ、どうしたの……?
ファル…………チッ。

ファルは、カトラリーを押しのけて足早に立ち去ってしまった。

カトラリーうわっ。
十手カトラリー君、大丈夫かい?
カトラリー平気。だけど……なんなの、あいつ。
十手ファル君は……体調が悪いのかな。
顔色も優れなかったし……。
十手…………。
ミカエル…………。

第25話:ファルの異変2

──その日の夜。

十手うーん……。
ライク・ツー……おい、十手。うるさい。
十手はっ……! すまん、ライク・ツー君。
どうしても、昨夜のことが引っ掛かって……。
十手あの様子だと、ファル君はまた同じことをしそうだろう?
一度ちゃんと話して、ああいうことはだめだって
きちんと納得してもらわないといけないと思うんだ。
ライク・ツー納得は……あんまり期待しない方がいいんじゃねぇか?
けどまあ、お前がどうしても行くっていうんなら、
俺もついていくぜ。
ライク・ツー(あいつに関しては……気になることもあるしな)
十手よし、善は急げ! さっそく向かおう!

〇〇たち3人は、ファルの部屋を訪ねたが、
ノックをしても返事はなかった。

十手おや……?
寝るにはまだ早い時間だし、部屋にはいないのかな。
主人公【食堂にいるとか?】
【庭園にいるかも?】
十手そうだね。
一通り探してみようか。

ファルを探しつつ、3人が屋敷の中を歩いていると──。

──ガシャン!

十手今の音は……? 行ってみよう。

音が聞こえる方に走った3人の目に飛び込んできたのは、
応接室にあるものを手あたり次第に破壊している
ファルの異常な姿だった。

ファル……うるさい。黙れ、黙れ、黙れ……!
十手なっ……!
ライク・ツーうわ……。

食器を床に叩きつけたり、家具を蹴飛ばしたりしていたファルは、
破壊できる手近なものがなくなるとナイフを手に取り、
ソファに勢いよく突き立てた。

──ザクッ、ザクッ!

ファル黙れ……黙れ……ッ!
うるさい、うるさい……うるさい……!

うわ言のように呟きながら、
ソファにナイフを突き立てるファル。
もう片方の手では、苦しげに胸元を押さえている。

主人公【(……酷い顔色をしている)】
【(何かに苦しんでいる……?)】
ミカエル……きみたち。
ライク・ツーうおっ、いつの間に!?
ミカエル秘密を覗き見するのは無粋だよ。
ライク・ツー覗き見っつーか……。
ミカエル……ファル。
十手あ……っ、よすんだ!
危ない──!

十手の静止も聞かずに、
ミカエルはためらいなくファルへと近づいた。

ミカエル……ファル、およしよ。
ファル…………ッ!
ミカエル何かを傷つける時、傷つくのは自分だよ。
だから、もうおよし。
ファル……るさい、うるさい、黙れ黙れ黙れ──!
ミカエルほら、音が乱れている。
──彼らのことは、思い出さない方がいい。
ライク・ツー…………。
ライク・ツー(「彼ら」……)
主人公【一緒に止めよう!】
【ミカエルを手伝おう】
ライク・ツーは!? おい待て!
あれはどう考えてもヤバいだろ。
俺たちの手に負えるかよ。

ミカエルにならめられながらも、
ファルはソファを刺し続けていたが、
やがて、その動きが鈍っていく。

ファル黙れ……消えろ……。
………………。
ミカエルよしよし……うん。
いいね、音が綺麗になってきた。

ファルは胸を押さえていた手をそっと下ろした。
ナイフが、からんと乾いた音を立てて床に落ちる。

ミカエルああ……澄んだ音だね。
僕は、きみの音が好きだよ。
ミカエル……ファル。
どうか、このままでいて。
綺麗な音を濁らせないで──それが、きみの幸いだよ。
ライク・ツーなんなんだ、あいつら……。
わけわかんねぇな。
十手…………。
今は、話せそうにないな……。
ファル君には休息が必要だろう。
ライク・ツーああ。とりあえず、俺たちは一旦引くぞ。
十手…………。
十手(昨日の酷い尋問には、正直驚いたし落胆もした。
どんな理由があれ、止めないとと思ったし、
今もそれは変わらないが……)
十手(……ファル君、何かに苦しんでいる。
あんなになるほどに……。
何が、彼を歪めてしまっているのか……?)

コメントを書き込む


Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

まだコメントがありません。

×