十手 | ──俺は、偽物なんだ。 |
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十手 | 江戸の町を守る同心が捕り物に使っていた仕込み銃、 正真正銘、実用された本物の十手鉄砲! |
十手 | 俺は、〇〇君と出会った頃、 意気揚々とそう名乗っていたんだ。 |
十手 | だが……本当はそうじゃない。 実際の俺は、元々はごく普通の十手で、 鉄砲に改造されたのはもっとあとのことなんだ。 |
十手 | 江戸の世が終わり、俺は同心の相棒としての役目を終えた。 そうして、いつしか古物商のもとに流れて…… 好事家好みにして高く売るために鉄砲へと改造されたのさ。 |
十手 | そんなんだから、当然…… 十手鉄砲として実用されたなんて事実はない。 |
十手 | 絶対高貴にもなれなければ、銃としても半端物で、 軍用銃のみんなみたいな強さはない。 おなけに、同心愛用の十手としての姿からも遠ざかってしまった。 |
十手 | 〇〇君の役に立てない、役立たずのお荷物…… そういう風に、いつも後ろ向きに考えていたよ。 |
カトラリー | ……! |
十手 | 前にもちょいと話したが、 そんな矢先に不思議な夢を見てね。 |
十手 | ちょうどいいことに日本からの招待もあったもんだから、 よぉし、日本に行って夢の神社を見つけさえすれば、 俺も絶対高貴になれるに違いないと、喜び勇んで行ったんだ。 |
十手 | ところがどっこい。 そこで見つけたのは、自分が道具屋に売られたときの証文だった。 |
十手 | 自分の偽者の出自と向き合わざるを得なくなって、 俺は……絶望したよ。 |
十手 | だから……〇〇君を庇って撃たれた時、 もう俺はこのまま十手鉄砲に戻って、 二度と貴銃士として目覚めない方がいいとまで思ったんだ。 |
カトラリー | …………。 |
十手 | ……それでも、〇〇君は俺を必要としてくれた。 |
キセル | 大事なのはてめェの心だろうが! |
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十手 | 〇〇君……。 俺は……俺の正義を信じてみる。 |
十手 | 頼もしい仲間もたくさんいたし、 ありがたいことに、日本ではキセル君っていう、 立派な奇銃の貴銃士にも出会えた。 |
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十手 | だからこそ、俺は俺なりの高貴さを見つけることができたんだ。 |
十手 | 周りに恵まれて、みんなに助けてもらって、 ……それで、今の俺がある。 |
十手 | だから、あの頃の俺を助けてくれた人と同じように、 今度は俺が誰かの助けになりたい……! |
十手 | だが……やっぱり、キセル君みたいにはうまくやれないなぁ。 思い付きのまま動いて、 カトラリー君につらい思いをさせてしまった。 |
十手 | 申し訳ないし、面目ない……! こんな俺だが、少しでもカトラリー君の支えになりたいんだ。 |
十手 | 俺に、君の心の内を、話してくれないかな。 |
カトラリー | …………。 |
カトラリー | ……なん、で……。 |
カトラリー | なんで、そんなこと言えるの。 そんな話……笑ってできるのさ。 |
カトラリー | 恥ずかしいだろうし、格好つかないし、 本当は知られたくない話なんじゃないの……? |
十手 | ははっ、いいんだよ。 みっともない俺も、悩んだ俺も、 どれもこれも、まるっとすべてが俺だからね。 |
カトラリー | ……っ! |
カトラリー | それに……僕、あんなに酷いこと言ったのに……。 |
十手 | はは……たしかに、グサッとくることも何度かあったね。 |
カトラリー | ……! |
十手 | けど、俺はあんまり気にしていないよ。 ああいう言葉は、カトラリー君の つらさの現れでもあったんじゃないかと思うしね。 |
カトラリー | ……っ、僕……。 |
カトラリー | ……僕は、その。 北海の海賊が使っていた仕込み銃じゃ、ないんだ。 |
十手 | ……! |
カトラリー | シャルロットに呼び覚まされた時、いきなりこう言われたんだ。 あなたは、ベルギーゆかりの古銃の貴銃士だって。 |
カトラリー | でも僕、カリブ海の……船乗りの持ち物だったんだ。 北海の海賊だなんて、真っ赤な嘘。 |
カトラリー | そもそも、ベルギーが本当に召銃したかったのは、 革命戦争のレジスタンスにいたカトラリーだった。 ……でも、それは叶わなかった。 |
カトラリー | だから、よく似た僕を召銃して、お飾りに立てたんだ。 |
カトラリー | 僕が毎日、高級フレンチを食べられるのは何故だと思う? ……出自を偽って北海のカトラリーを演じることへの報酬だよ。 そういう契約にしろって、言ったんだ。 |
カトラリー | ベルギーゆかりの貴銃士様だって、みんなにチヤホヤされてさ。 誰も彼もが、僕の言うことを聞くんだ。 |
カトラリー | だから、最初は勘違いしてたんだ。 古銃の貴銃士である僕が偉いんだって。 |
カトラリー | でも、でも……本当は、誰も僕自身のことなんて見てない。 |
カトラリー | みんなが必要としているのは、僕自身じゃ、なくて。 『レジスタンスの古銃』の栄光だったんだよ……。 |
カトラリー | ましてや、僕は、 『レジスタンスのカトラリー』そのものでもなくって。 機構と素材がよく似ているだけの別銃で……。 |
カトラリー | 僕は、バカだよ。大バカだ。 そんなことも気づかずにチヤホヤされて、いい気になって……! |
十手 | …………。 |
カトラリー | さ、最初は! |
カトラリー | 最初は、僕もシャルロットの屋敷に住んでいたんだ。 でも、いつまで経っても絶対高貴になれないから、 この屋敷に追いやられたんだ……! |
カトラリー | ぼ、く……僕……! マスターに……もういらないって思われたんだよ……。 |
カトラリー | それ、で……悔しくて、悲しくて、寂しくて……! うっ……! くぅ……! |
十手 | ……カトラリー君、つらかったね。 |
十手は、泣きじゃくるカトラリーの背中をそっとさすった。
──やがて、カトラリーはようやく泣き止み、
目元をゴシゴシとこする。
十手 | 落ち着いたかい? よかったら、何か甘いものでも持ってこようか。 |
---|---|
カトラリー | …………。 う…………。 |
落ち着きを取り戻したカトラリーは、
十手を見つめてふと硬直したかと思うと、
その頬をかーっと染めていった。
カトラリー | 今日の家庭教師の時間は終わりでいいから、 出て行ってよ! |
---|---|
十手 | ええっ……!? |
カトラリー | あ、あと……僕が泣いたこと話したら、撃つから! |
十手 | だ、大丈夫だって、話したりしないよ。 それじゃあ、また明日。 それか、ごはんの時に会おう! |
カトラリー | …………。 |
カトラリー | うう……最悪……。あんなに大泣きするなんて……。 だけど……。 |
カトラリー | ……へへ。 |
──翌日。
ライク・ツー | ……うっし、朝のワークアウト終わりっと。 |
---|---|
十手 | は、はぁ……はぁ……。 ら、ライク・ツー君は……毎朝こんなにキツい鍛錬を……、 し、してるのかい……ひぃ……。 |
ライク・ツー | 何へばってんだよ。 お前もやるって言うから、少し軽めにしたんだぞ。 |
十手 | ひぇ……恐れ入ったよ。 俺ももっと、鍛錬を重ねていかないと……! |
──コンコン
十手 | おっと、〇〇君かな。 そろそろ朝食の時間だしね。 |
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十手 | どうぞー! |
カトラリー | …………。 |
十手 | カトラリー君……? |
十手 | こんな早くにどうしたんだい? もしかして、朝食に呼びに来てくれたとか? |
カトラリー | ……えっ……と、その……。 |
カトラリーは服の裾を握り締め、
口を開いては閉じてを繰り返す。
ライク・ツー | なんだよ、もじもじして。 ここはトイレじゃねぇぞ。 |
---|---|
カトラリー | ちがっ……わかってるし、そんなこと! 僕は、えっと……その……。 |
十手 | …………。 ……ふむ。 |
十手 | なぁ、カトラリー君。 よかったら、改めて仲直りをしないかい? |
カトラリー | ……っ! |
カトラリー | な、仲直りって、別に喧嘩したわけじゃないし! それに……元から仲良くもないし。 |
カトラリー | 僕はただ、ちょっと話でもしようかって来ただけで……。 ついでに、まあ、謝ってやらなくもないって思ったけど……。 |
十手 | ははっ、それならやっぱり、仲直りだ。 |
カトラリー | でも、別にそっちは謝ることないでしょ……。 |
十手 | いや。俺は、君のいないところで、 屋敷の人たちから君の話を聞いてしまった。 |
十手 | で、君は……。 そうだなぁ。ちょっと意地悪だったかな、ははっ! |
カトラリー | ……馬鹿じゃないの。 ちょっと意地悪だったって程度じゃなかったでしょ、僕……。 |
ライク・ツー | ああ、すっげぇ感じ悪かったな。 今も大して変わんねぇけど。 |
十手 | ちょっ、ライク・ツー君!? |
カトラリー | ……ほら、やっぱり。 |
カトラリー | ……でも、陰でコソコソ言われるより、 あんたの方が百倍マシ……かな。 |
カトラリー | ……わかったよ。 仲直りってことにしとく。 |
十手 | よしきた! それじゃあ、仲直りの証に、〇〇君も誘って 4人で一緒に美味しいものでも食べよう! |
十手 | 同じ釜の飯を食った仲と言ってね、 生まれや育ちがバラバラだろうが、同じものを食べ、 同じ場所で眠ったなら、それはもう立派な仲間なのさ。 |
カトラリー | ……何それ。 |
十手 | まあまあ。 カトラリー君は、何かみんなで食べたいものはあるかい? 俺は、美味いものならなんでも大歓迎だぞ。 |
カトラリー | 美味しいもの……。 |
カトラリー | ………………。 |
カトラリー | 僕……行きたいところがあるんだけど。 |
カトラリーが3人を連れて行ったのは、
初日に案内された公園だった。
ライク・ツー | んで? ピクニックでもするのか? |
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カトラリー | そうじゃなくて……。 そうと言えるかもしれないけど……。 |
主人公 | 【もしかして、TAI-YAKI?】 |
カトラリー | ……え、と……う、うん。 |
カトラリー | この公園、公務で街に出る時、 いつも目に入って……気になってたんだ。 |
カトラリー | ここにいる人たちは、すごく楽しそうで…… たいしたもの食べてるわけでもないのに、 すっごく美味しそうにしてるから。 |
カトラリー | この間、十手と〇〇が屋台で買って食べてるの、 その……本当は、いいなって……思って……。 |
ライク・ツー | はぁ? なら、食べたいって言えばよかったじゃねぇか。 |
ライク・ツー | ……あ。あん時グチグチ言ってたのって、 羨ましいけど素直になれなくて食えないのに苛ついてたわけ? |
カトラリー | ち、違っ……! 調子乗らないでよ、僕が羨ましいわけ……。 |
カトラリー | …………。 ……言われてみれば、その、少しだけ……羨ましかったかも。 |
十手 | うんうん、素直なのはいいことだ! |
カトラリー | う、うるさいなぁ! |
ちょっとした言い合いをしながら、
4人はたい焼きの屋台の行列に並んだ。
カトラリー | これがメニュー? フィリングの種類が、こんなにたくさんあるって……。 どれにしよう……。 |
---|---|
十手 | 気になる味がたくさんあるなら、こういうのはどうだい? みんなそれぞれ違うものを頼んで、分け合うんだ。 |
カトラリー | 分け合うって……。 |
十手 | 一口齧ったり、一口分ちぎってあげたりね。 |
カトラリー | えっ!? 何それ……そんなのナシでしょ!? |
ライク・ツー | 買い食いにマナーもクソもあるか。 |
十手 | ほら、俺たちの番が来たぞ! 選ぼう! |
カトラリー | えっと……。 おすすめのストロベリーカスタードは押さえたいし…… ピスタチオもよさそう。あ、チョコレートも……。 |
カトラリー | ど、どうしよう……。 こんなに種類あったら、4つにすら絞り込めないんだけど。 それに、十手はアンコってやつでしょ。 |
十手 | おっ、俺のおすすめを覚えていてくれたのか! これは嬉しいねぇ。 |
十手 | だが、心配はいらないぞ~。 たくさん買ってお土産にするのもいいからね。 温めてからチン!とひと焼きすれば、また出来立ての美味しささ。 |
カトラリー | えっ、そうなんだ。 だったら……プレミアムカスタードも追加しようかな。 |
ライク・ツー | お、新商品でプロテインシリーズがあるじゃん。 俺はプロテインバニラで。 |
主人公 | 【(プロテインなんてあるんだ……)】 【(ライク・ツーらしい……)】 |
ライク・ツー | んだよ、文句ねぇだろ。 |
十手 | 俺は……そうだなぁ、やっぱり粒あんと、 お土産用にこしあんと鶯あんもお願いするよ! |
カトラリー | その、“アン”ってつくのは全部、甘く煮た豆なわけ? 日本ってどんだけ豆にバリエーションをつけるのさ。 |
十手 | ははは、そう言わずに、あとで1口食べてみるといいよ。 |
たい焼き屋の店員 | ──はい、以上で10点ですね! 大変お待たせいたしました! どうぞ! |
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ライク・ツー | 結局、全種類買ってやがる……。 |
十手 | ありがとう! では、さっそくいただこうかな。 さ、カトラリー君もぱくっと! |
カトラリー | ……わ、わかった……。 |
カトラリーは、恐る恐るたい焼きをかじった。
カトラリー | ……っ! |
---|---|
十手 | うん、美味~いっ! どうだい、カトラリー君。そっちの味は。 |
カトラリー | …………。 |
カトラリー | …………おい、しい……。 |
カトラリーは信じられない、というように呟き、
それから1口、もう1口と食べ進めていく。
〇〇たちは、それを見守った。
カトラリー | ……立ち食いなんてマナー違反だし、 高級でもなんでもないのに……。 すごく……美味しい。 |
---|---|
主人公 | 【こっちも食べてみて!】 【1口ちょうだい!】 |
カトラリー | えっ……えっ!? |
ライク・ツー | これも悪くねぇぞ、ほら。 |
十手 | 俺の粒あんとこしあんの食べ比べもしてみるかい? 鶯あんもまた違って美味いぞぉ~。 |
カトラリー | そ、そんなに食べられないって! |
カトラリー | ふふ……えへへ……。 |
たい焼きを満喫したカトラリーは、
もう一度、屋台の行列に並び始めた。
十手 | おや、カトラリー君……! |
---|---|
ライク・ツー | なんだよ、まだ食うのか? |
カトラリー | な、何さ。 屋敷のみんなに、お土産をって思っただけだよ。 ……ニヤニヤするなってば! |
十手 | ……きっと、屋敷のみんなも喜ぶよ! |
カトラリー | あ、当たり前でしょ! この僕が買って帰るんだもん……喜んで、くれるよね? |
十手 | ああ、きっとね。 よーし、たくさん買って帰ろう! |
カトラリー | ……うん! |
店主 | 20個以上お買い上げのお客さんには、 風船のプレゼントがありますよ! たくさん食べてくださいね~! |
カトラリーは両手いっぱいにたい焼きの紙袋を抱えて歩く。
周囲の市民たちも、微笑ましそうにそれを見守っていた。
市民1 | あれって古銃のカトラリー様じゃないか? タイヤキをあんなにたくさん……ふふ、いいなぁ! |
---|---|
市民2 | ねぇ、私たちも買って帰らない? 貴銃士様と同じものを食べられるって、ラッキーかも♪ |
市民1 | いいね、それ。行こう! |
カトラリー | …………っ! |
十手 | そういえば、カトラリー君! さっき食べたあんこはどうだったかな? |
カトラリー | ……甘い豆なんて信じられない。 って、思ったけど……意外と、悪くなかったよ。 |
十手 | そうか、それはよかった。 饅頭や大福、それに最中なんかも、いつか食べてみてほしいなぁ。 |
カトラリー | マンジュー……モナカ……? まあ、楽しみにしておいてあげる。 |
4人は、たい焼きを持って貴銃士の屋敷に戻った。
十手 | む……? 声が聞こえるね。庭園の方からかな。 |
---|---|
ライク・ツー | あいつ……ファルが戻って来たのかもな。 |
十手 | ……! |
ファル | さて、再開しましょう。 どの指から潰されたいか、決まりましたか? |
---|
カトラリー | チーズ味もあるし、ファルもたい焼き食べるかな。 食べてくれるよね……。 |
---|---|
十手 | カトラリー君……。 |
ライク・ツー | ……俺たちも行くか。 |
庭園では、ファルが薔薇を摘もうとしていた。
ミカエル | ファル、今日は花を飾るのはおよしよ。 ……ほら、酷いリズムになってしまっている。 |
---|---|
ファル | ……お気遣いなく。 |
主人公 | 【(この間も、薔薇を摘んでいたっけ)】 【(酷いリズム……?)】 |
ライク・ツー | (赤い薔薇、なぁ……) |
ミカエル | おや……きみたち、帰ってきたんだね。 |
ファル | 皆様おそろいで、ずいぶん賑やかなことですね。 |
カトラリー | 別に、賑やかでいてほしいほどでもないけど。 今日は公園に行ってきたんだ。 |
ミカエル | きみが、彼らと……? |
カトラリー | うん。お土産あるから、食べない? |
ミカエル | ふむ。いただこうかな。 しかし、これは……? |
カトラリー | 日本で生まれたおやつで、タイヤキって言うんだって。 Fish Cakeって呼んでる人もいたよ。 |
ミカエル | Fish Cakeか。 日本の海には、お菓子の魚が泳いでいるのかな。 |
ミカエル | それは……なんとも面白いね。 愉快な音楽ができそうだ。 |
ファル | ずいぶんと楽しまれたようで。 お友達になってくれる奇特な方たちでよかったですね。 |
カトラリー | はぁ……? そんなこと言うなら、ファルのお土産はなしだよ。 |
ファル | ええ、いりません。 |
カトラリー | ……っ、僕がせっかく買ってきてやったのに……! |
十手 | ええと……ファル君。 今はお腹が空いていないなら、とりあえずもらっておいて、 あとで食べるのもいいんじゃないかな。 |
十手 | 味はカトラリー君のお墨付きさ。 美味しいよ。 |
ファル | ……ッ! |
??? | ここのステーキは、エフも気に入っていた。 ワインにも合って美味いぞ。 |
---|---|
ファル | おやまあ。 ステーキもワインも、随分と揃えたものですねぇ。 |
??? | お前にはいつも世話になってるからな。 これくらい、大したものじゃない。 |
ファル | ふふ……お褒めにあずかり光栄です。 では、いただくとしましょう。 |
??? | ファル、ここにいたのか。 ちょっと来てみろ。 |
---|---|
ファル | おや、また何か任務でしょうか。 |
??? | いいや。お前がそろそろ咲きそうだと言っていた薔薇が、 見事に咲いていてな。 |
ファル | それで呼びに来てくださったんですか。 ありがとうございます。行きましょう。 |
??? | ね~ぇ、ファルちゃん。 今日のアタシ、どうかしら? |
---|---|
ファル | どう、とは? いつもと何も変わりませんが。 |
??? | んもうっ、失礼しちゃう! ほら、新しい香水を試したのよ。 どうどう? いい香りじゃなぁい? |
??? | ウフフ……♥ アインスお兄様も気に入ってくださるかしら。 |
ファル | さあ、どうでしょう。 あなたの香水は薔薇が多くて、代わり映えしませんから。 |
??? | ファルちゃんったら、わかってないわ……! 同じ薔薇でも全然違うじゃない! |
ファル | はぁ……そういうものですかねぇ。 |
ファル | ……っく……。 |
---|---|
カトラリー | ファル? ねぇ、どうしたの……? |
ファル | …………チッ。 |
ファルは、カトラリーを押しのけて足早に立ち去ってしまった。
カトラリー | うわっ。 |
---|---|
十手 | カトラリー君、大丈夫かい? |
カトラリー | 平気。だけど……なんなの、あいつ。 |
十手 | ファル君は……体調が悪いのかな。 顔色も優れなかったし……。 |
十手 | …………。 |
ミカエル | …………。 |
──その日の夜。
十手 | うーん……。 |
---|---|
ライク・ツー | ……おい、十手。うるさい。 |
十手 | はっ……! すまん、ライク・ツー君。 どうしても、昨夜のことが引っ掛かって……。 |
十手 | あの様子だと、ファル君はまた同じことをしそうだろう? 一度ちゃんと話して、ああいうことはだめだって きちんと納得してもらわないといけないと思うんだ。 |
ライク・ツー | 納得は……あんまり期待しない方がいいんじゃねぇか? けどまあ、お前がどうしても行くっていうんなら、 俺もついていくぜ。 |
ライク・ツー | (あいつに関しては……気になることもあるしな) |
十手 | よし、善は急げ! さっそく向かおう! |
〇〇たち3人は、ファルの部屋を訪ねたが、
ノックをしても返事はなかった。
十手 | おや……? 寝るにはまだ早い時間だし、部屋にはいないのかな。 |
---|---|
主人公 | 【食堂にいるとか?】 【庭園にいるかも?】 |
十手 | そうだね。 一通り探してみようか。 |
ファルを探しつつ、3人が屋敷の中を歩いていると──。
──ガシャン!
十手 | 今の音は……? 行ってみよう。 |
---|
音が聞こえる方に走った3人の目に飛び込んできたのは、
応接室にあるものを手あたり次第に破壊している
ファルの異常な姿だった。
ファル | ……うるさい。黙れ、黙れ、黙れ……! |
---|---|
十手 | なっ……! |
ライク・ツー | うわ……。 |
食器を床に叩きつけたり、家具を蹴飛ばしたりしていたファルは、
破壊できる手近なものがなくなるとナイフを手に取り、
ソファに勢いよく突き立てた。
──ザクッ、ザクッ!
ファル | 黙れ……黙れ……ッ! うるさい、うるさい……うるさい……! |
---|
うわ言のように呟きながら、
ソファにナイフを突き立てるファル。
もう片方の手では、苦しげに胸元を押さえている。
主人公 | 【(……酷い顔色をしている)】 【(何かに苦しんでいる……?)】 |
---|---|
ミカエル | ……きみたち。 |
ライク・ツー | うおっ、いつの間に!? |
ミカエル | 秘密を覗き見するのは無粋だよ。 |
ライク・ツー | 覗き見っつーか……。 |
ミカエル | ……ファル。 |
十手 | あ……っ、よすんだ! 危ない──! |
十手の静止も聞かずに、
ミカエルはためらいなくファルへと近づいた。
ミカエル | ……ファル、およしよ。 |
---|---|
ファル | …………ッ! |
ミカエル | 何かを傷つける時、傷つくのは自分だよ。 だから、もうおよし。 |
ファル | ……るさい、うるさい、黙れ黙れ黙れ──! |
ミカエル | ほら、音が乱れている。 ──彼らのことは、思い出さない方がいい。 |
ライク・ツー | …………。 |
ライク・ツー | (「彼ら」……) |
主人公 | 【一緒に止めよう!】 【ミカエルを手伝おう】 |
ライク・ツー | は!? おい待て! あれはどう考えてもヤバいだろ。 俺たちの手に負えるかよ。 |
ミカエルにならめられながらも、
ファルはソファを刺し続けていたが、
やがて、その動きが鈍っていく。
ファル | 黙れ……消えろ……。 ………………。 |
---|---|
ミカエル | よしよし……うん。 いいね、音が綺麗になってきた。 |
ファルは胸を押さえていた手をそっと下ろした。
ナイフが、からんと乾いた音を立てて床に落ちる。
ミカエル | ああ……澄んだ音だね。 僕は、きみの音が好きだよ。 |
---|---|
ミカエル | ……ファル。 どうか、このままでいて。 綺麗な音を濁らせないで──それが、きみの幸いだよ。 |
ライク・ツー | なんなんだ、あいつら……。 わけわかんねぇな。 |
十手 | …………。 今は、話せそうにないな……。 ファル君には休息が必要だろう。 |
ライク・ツー | ああ。とりあえず、俺たちは一旦引くぞ。 |
十手 | …………。 |
十手 | (昨日の酷い尋問には、正直驚いたし落胆もした。 どんな理由があれ、止めないとと思ったし、 今もそれは変わらないが……) |
十手 | (……ファル君、何かに苦しんでいる。 あんなになるほどに……。 何が、彼を歪めてしまっているのか……?) |
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