第1話:百合の記憶

???これが、私の貴銃士……。
???ああ、なんて……
なんて、美しいんだ……!

目覚めて最初に見た光景は、
ボクのマスターになった人──ロジェ様の、
屈託のない笑顔だった。

優しく穏やかで、
眩しいものを見るような彼の表情を、
ボクは今でも鮮やかに思い出す。

ロジェシャルルヴィル、こちらへおいで。
ロジェ昔々、リリエンフェルト家は、その名の通り
一面に百合が咲き誇る美しい谷にあったそうだ。
ロジェ君の銃に刻まれている百合の紋章。
美しく気高い君の姿……運命を感じるだろう?
シャルルヴィルふふっ……はい、ロジェ様。

ロジェ様は、ボクを真綿で包むように、
とても大切にしてくれた。
ボクはそれを、誇らしく感じていた。

──だから。
その期待に、優しさに、応えたいと思っていた。

ロジェシャルルヴィル、君も早く絶対高貴になってくれ。
ロジェイギリスのブラウン・ベスのように、
その高貴さでこのフランスに貢献しておくれ。
シャルルヴィル……はい。

──絶対高貴に、なりたかった。


ロジェ貴様……シャルルヴィル!
ふざけるなッ!!
シャルルヴィルうっ……!
ロジェおい、誰が膝をついていいと言った。立て!
この程度の命令すら聞けないというのか!?
シャルルヴィルい、いえ……!
今……いま、立ちます……っ。
リリエンフェルト家重鎮シャルルヴィル。
君は、自分が何をしでかしたか、
理解しているのかね。
シャルルヴィルそ、れは……。

シャルルヴィル……ど、毒マカロンも、召銃パーティーも、
どちらも裏で糸を引いていたのは……っ。
シャルルヴィル裏で、糸を引いてたのは……
リリエンフェルト家、なんです。

リリエンフェルト家重鎮レザール家とロシニョル家の対立を煽る工作は、
リリエンフェルト家のなかでも重鎮しか知らない
最重要機密だったのだ。
リリエンフェルト家重鎮フランス筆頭貴族としての当家の権力を
確固たるものとするために、
あの2家には対立してもらわねば困るのだよ。
ロジェそれを、貴様が……っ! 2家の揃う場で……ッ!
それもよりによって、士官学校のマスターと
貴銃士にまで情報を漏らしたのだぞ!
シャルルヴィルぐっ……!
ご、ごめんなさい……っ!
ロジェ貴様の安い謝罪で済むような問題ではないっ!
シャルルヴィル……ごめん、なさい……。
リリエンフェルト家重鎮士官学校は、連合軍の機関。
──当然連合軍にも、話が上がっていることだろう。
リリエンフェルト家重鎮こうなればもはや、
リリエンフェルト家の威光は、失墜を免れない!
7世紀にも渡って紡いできた家系を……ッ!
ロジェすべて貴様のせいだ、シャルルヴィル!
貴様の、貴様の浅慮のせいで……ッ!
シャルルヴィル痛っ! う、ぅ……ッ……!
シャルルヴィルお、お願いです、ロジェ様っ……!
やめ……っ、ぐっ……!
ロジェうるさい! 黙れ、黙れ黙れ黙れ!!!
シャルルヴィルうぅっ……誰か、たす、け……。
リリエンフェルト家重鎮たち…………。

ロジェいいか、シャルルヴィル。
“癒やし”の仕事以外でこの部屋から一歩も出るな。
ロジェ必要なものがあれば使用人に言え。
勝手に出歩いたりしたら……わかっているだろうな。
シャルルヴィル……はい、ロジェ様。
シャルルヴィル……もう、嫌だ……。
シャルルヴィル〇〇も、ボクは間違ってないって
言ってくれた……。
ボクは、正しいことをしたんだ……。
シャルルヴィルだけど、こんなの……ッ。
シャルルヴィルボク、これから壊れるまでずっと、
こうして過ごすのかな……?
シャルルヴィルそんなのは嫌だ、けど……。
シャルルヴィルもう……どうしたらいいかわからないよ……
ベス、くん……。

第2話:手紙1

ある日の貴銃士特別クラスにて──

マークスおい、早く授業を進めてくれ。
この内容は狙撃の時の演算に使えそうだ。
ジョージマークスって、数学は得意だよなー!
マークス……ふん、当然だ。
スナイパーには高度な計算能力が大事だからな。
マークス銃弾が標的に当たるまでの数秒間──
その間に受ける風の影響、地球の自転、気候条件……
すべてを計算に入れる必要がある。
恭遠古典の授業でも、それくらいのやる気を
見せてくれると助かるんだが……。
シャスポー……おい、グラース。
僕の椅子を蹴るのはやめろ。鬱陶しい……!
グラースふん。僕の脚が長くて、
つい、うっかり、ぶつかってしまうだけだ。
シャスポー……とか言って、今また蹴っただろう!
グラース今日が曇りで湿気が多いからって、カリカリするなよ。
湿気に弱~い、旧式のお兄様?
シャスポーお前……! もう我慢の限界だっ!
上下関係というものを叩き込んでやる!
グラースふっ……返り討ちにしても構わないだろうな?
タバティエールおいおい、2人とも喧嘩はよせ。
エンフィールドタバティエールさんの言う通りですよ。
あちらで素晴らしい集中力を発揮している、
十手さんを見習ってはいかがですか?
十手…………。
十手できた! 数学のほーてーしきだのはよくわからんが、
こういうのを作るのは割と得意なのかもしれないなぁ。
十手忍びの者たちが使ったという煙玉……
困った時の目くらましに役立ちそうだ。
シャスポー&グラース…………。
シャスポー授業と全然関係ないことをしてるじゃないか。
グラースああいうのを“内職”と言うらしいぞ。
エンフィールドええっ!?
ジョージおーい、エンフィールド!
ちょっとわかんねぇとこあるんだ。教えてくれ!
エンフィールドジョージ師匠! ええ、喜んで!
スナイダー……エンフィールドは相変わらず、
他の銃どもの世話を焼くのに忙しいようだな。
スナイダーそんな暇があるなら、
絶対非道に目覚められるよう励めばいいものを……。
やはり、俺に改造してやろうか。
エンフィールドうう……っ! なんだか寒気が……。
ライク・ツーはぁ……っるせぇな。
昼寝もできやしねぇ……。
ライク・ツー……ぐぅ。
恭遠おーい、皆、静かに!
恭遠やれやれ……仲間が増えたのは喜ばしいけれど、
騒々しいくらいに賑やかだな……。
恭遠困ったものだが……。
レジスタンス基地の喧騒を思い出して……懐かしいな。

タバティエールよう、〇〇ちゃん、いるかい?
主人公【どうしたの?】
タバティエールちょっと〇〇ちゃんを呼ぶように
頼まれちまってね。
授業の合間に悪いが、一緒に来てくれ。

タバティエール待たせたな。
〇〇ちゃんを連れてきたぜ。
ラッセルご苦労だった、タバティエール。
〇〇君、君にお客人だ。
テオドール久しぶりだな、〇〇。
あの時は本当に世話になった。
主人公【テオさん!】
【どうしてここに?】
テオドール実は、あなたへ内密に渡したいものがあってね。
……この手紙を、受け取ってほしい。
主人公【もしかして、カトリーヌさんから?】
【結婚式の招待状?】
テオドールははは、挙式はまだ先だよ。
社交界というのは、色々と段取りが面倒でね。
テオドール実は……
それは、シャルルヴィル殿からの手紙なんだ。
タバティエールへぇ……しっかし、いくらリリエンフェルト家の
貴銃士からの手紙でも、
あんたが郵便配達人みたいな真似をするなんて……。
テオドール……これくらい、して当然なんだ。
私たちには、彼に助けてもらった恩義と……
彼を追い詰めてしまった責任がある。
主人公【追い詰めた……?】
【責任……?】
テオドール〇〇さんも知っての通り、
我がレザール家とロシニョル家の間の因縁は、
リリエンフェルト家が仕組んだものだった。
テオドール衆目の前で、シャルルヴィル殿が
リリエンフェルト家の陰謀を明らかにしたことで、
2家のわだかまりは解消することになったが……。
テオドールリリエンフェルト家が、
あの告発を見過ごすはずもない。
テオドール……シャルルヴィル殿は今、極めて危うい立場にある。
社交の場に顔を出すこともほとんどなくて……
おそらく、行動を厳しく制限されている。
タバティエール要するに……軟禁状態ってことか?
テオドールおそらく。先日ようやく、
ある晩餐会で彼に会うことができたんだが……。

テオドールシャルルヴィル殿……。
シャルルヴィル……っ。ああ、テオさん。
久しぶり、だね……。
テオドール随分とやつれている様子だが……
少し休まれた方がいいのでは?
シャルルヴィルだ、大丈夫だよ!
ちょっと……その、ダイエットしてるだけ。
美味しいお菓子も食べ過ぎはよくないもんね♪
テオドール…………。
テオドールシャルルヴィル殿。あなたは、私たちの恩人だ。
あなたの証言のお陰で、私は愛する人と結婚できる。
この恩に、なんとしても報いたい。
シャルルヴィルあ、あはは……そんな、大げさだなぁ……。
テオドール私は本気だ。
私で何か助けになれることがあるなら、
なんでも言ってほしい。
シャルルヴィルテオさん……。
シャルルヴィル……少し、待っててほしい。
シャルルヴィルこの手紙を、ベスく──じゃなくて、
貴銃士ジョージと、そのマスターに届けてほしい。
シャルルヴィルできれば、でいいから……。
テオドールテオドール・ド・レザールの名にかけて、
必ずお2人のもとへ届けると誓う。
シャルルヴィル……ありがとう。

テオドール……という経緯で、この手紙を預かったんだ。
ジョージくんと一緒に、中をあらためてくれ。
主人公【確かに受け取りました】
【ありがとうございます】
テオドールそれでは、私はこれで。

第3話:手紙2

タバティエール……ただの手紙、ってことはなさそうだよなぁ。
ラッセル救援要請という可能性もあるが、
リリエンフェルト家は世界連合に
多額の出資をしている、重要なパトロンでもある……。
ラッセル連合軍や士官学校側としては、
おおっぴらに動けない可能性もあることを、
理解しておいてくれ。
主人公【……はい】
ラッセルただ……仮に助けを求める内容だったとしたら。
どうにか抜け道を探して動けないか、
私の方で道を探ってみる。
タバティエール……本当か!?
ラッセルああ。どんな内容だったにしても、
私にあとで報告を入れるように。
主人公【ありがとうございます!】
【イエッサー!】

ジョージ──んで、これがシャルルからの手紙か。
開けてみるな!
ジョージ『Binjour! 僕、今とっても暇してるから
よかったら遊びにきてよ。お茶会をしよう!』
ジョージ『マカロンもガレットもたっぷり用意して待ってるね。
シャルルヴィルより』
ライク・ツー……なんだこれ?
マークス普通に元気そうじゃねぇか。
マスターが心配する必要はないんじゃないか?
タバティエールだがなぁ……。
テオドールからの話を聞く限り、
シャルルくんが置かれている状況はかなり深刻だぞ。
シャスポー…………。
シャスポーこの手紙がマスターたちではなく、
シャルルヴィルにとって望ましくない者の手に
渡った時の保険なんじゃないか?
シャスポーもし外部に助けを求めたことが露見すれば、
余計に立場が悪くなるだろう。
ライク・ツー確かに、その線はありそうだな。
ジョージとにかく、オレは行くつもりだよ。
なぁ、マスターもオレと一緒に行くだろ?
主人公【もちろん】
【一緒に行こう】
マークスマスターが行くなら、俺も同行する。
シャスポー……僕も行くよ。
シャスポーどんな状況なのか気になるし、
シャルルヴィルは、カトリーヌたちの恩人だ。
僕にとっても、他人事じゃないからね。

ラッセル──君たち4人に、外出許可を?
ラッセルうーむ……それは許可できないな。
マークスはぁ? なんでだよ。
ラッセルいいかい、リリエンフェルト家がシャルルヴィルを
軟禁しているのが本当なら、そのきっかけとなった
君たちのことを、よく思っているはずがない。
ラッセルそれに、君たち貴銃士は、大きな『戦力』なんだ。
ラッセル大勢の貴銃士を引き連れて〇〇君が
リリエンフェルト家を訪れるとなると……
下手をすれば、諍いの火種になるかもしれない。
シャスポーそれは……、確かにそうだけど……。
ラッセルシャルルヴィルの招待を受けているのは、
ジョージと、〇〇君だ。
ラッセル道中の用心やアウトレイジャー討伐に備えて、
どういうことで、あと1人は加わってもいいが、
3人が上限だと考えておいてくれ。
ラッセル現地で様子を伺って、きな臭いようだったら、
追加で応援の人員を呼ぶようにしよう。
それでいいかな、〇〇君。
主人公【わかりました】
【問題ありません】
マークス……っ、マスター!
マークスいや……マスターがそう言うなら仕方ない。
護衛はもちろん俺が務める。
シャスポーはぁっ!?
君はいつも〇〇にくっついてるだろ!?
シャスポー今回は場所がフランスなんだから、僕に譲るのが筋だ!
いいか、僕が行く。君は留守番だ。
マークス俺はマスターの愛銃で相棒だ。
マスターから離れることはありえない。
シャスポー聞き分けの悪いやつだな……!
無関係な君より、誇り高きフランスの貴銃士である
この僕が行くのが自然で当然だっ!
ライク・ツー……何もめてんだ?
ジョージ3人しか行けないって言われて、
残り1枠の争奪戦になってんだ。
ジョージなぁ、〇〇。
決着がつくのを待ってたら日が暮れそうだし、
オレは先に行くな!
ジョージ護衛役と一緒にあとで合流しようぜ!
んじゃ!
主人公【えっ、ちょっと!】
【ジョージ!?】
ライク・ツー……行っちまった。
あいつもあいつで勝手だな……。
ライク・ツージョージの奴を1人で行かせると、
ロクなことにならない気がする。
ライク・ツー……おい、〇〇。
仕方ねぇから、護衛役は俺が務めてやる。
おら、さっさと行くぞ!

 

第4話:仮初の希望

──リリエンフェルト家にて。

シャルルヴィルは湯船に浸かり、
ぼんやりと虚空を眺めていた。

シャルルヴィル(……どうして、
こんなことになってしまったんだろう)
シャルルヴィル(リリエンフェルト家──
ロジェ様のもとに召銃されたことを、
ボクは誇らしく、嬉しく思っていた)
シャルルヴィル(ボクを美しいと言って大切にしてくれるマスター。
いくらでも贅沢が許される、恵まれた環境)
シャルルヴィル(みんなの期待に応えたかった。
絶対高貴になりたいって、ずっと願ってた。
それなのに、ボクはいつまでも、何もできないまま)
シャルルヴィル……ボクは、どこで間違えたんだろう。
シャルルヴィルどうして、こうなっちゃったんだろう……。

ロジェ……シャルルヴィル。
君を召銃して、もう何ヶ月になるだろうね。
ロジェ聞いたかい?
イギリス王室が召銃したブラウン・ベスは、
既に絶対高貴に目覚めているそうだよ。
シャルルヴィルそう、なんですね……。
ロジェ9月には、当家主催のパーティーがあるんだ。
そこで、君が絶対高貴に目覚めたと公表する。
シャルルヴィル……っ、でも、ボクはまだ……!
ロジェ大丈夫だよ。君は絶対高貴になれる。
必ず、パーティーの日までに目覚めるんだ。
これは決定事項だよ。……いいね?
シャルルヴィルは、はい……。

──9月、リリエンフェルト家主催のパーティーにて。

紳士さすが、リリエンフェルト家のパーティーは
格が違いますなぁ。
貴婦人……あら、シャルルヴィル様。
ロジェ様からお話は伺いましたよ。
おめでとうございます。
シャルルヴィルえっ……? おめでとうって、何が?
貴婦人何って、絶対高貴に決まっているではありませんの。
わたくしもこの目で見てみたいものです。
紳士フランスにとっても喜ばしい知らせですなぁ。
はっはっは!
シャルルヴィル絶対高貴、って……
そんな、僕は……!
ロジェ──シャルルヴィル。
紳士おや、噂をすればロジェ様!
絶対高貴とはどのようなものなのか、
ぜひ我々にお聞かせ願いたいものです。
ロジェ絶対高貴は──それはそれは、美しいものでした。
初めて目にした時、私は感激のあまり震えましたよ。
シャルルヴィル……っ、ロジェ、様……?
ロジェ皆さんにも、
いずれお披露目する機会が来ることでしょう。
貴婦人それは楽しみですわ。
シャルルヴィル様はフランスの誇りです!
シャルルヴィル…………。

シャルルヴィルロジェ様! どうして、僕が絶対高貴になれるなんて
あんな嘘をついたんですか!?
ボクは、まだ……!
ロジェうるさいッ!
お前がいつまで経っても絶対高貴になれないからだ!
シャルルヴィルロ、ロジェ様……!?
ロジェお前にどれだけ時間を与えたと思っている!
これ以上待ってはいられない。
絶対高貴を披露する準備も既に進めている。
ロジェお膳立ては私がする。
お前は絶対高貴になれるふりをしていればいい、
それくらいはお前でもできるだろう!?
シャルルヴィル……っ、そんな……!

シャルルヴィル──絶対高貴。
貴婦人まぁ……!
なんて温かい光……!
貴婦人ああ、胸の痛みが消えていく……。
これが、絶対高貴。
素晴らしい奇跡の力だわ……!
貴婦人シャルルヴィル様……
本当に、本当にありがとうございます。
シャルルヴィル……いえ、マダム。
僕は、大したことをしていませんから。
本当に……。
貴婦人ふふ……ご謙遜を。
シャルルヴィル様は控えめな方ですのね。
ロジェ…………。

ロジェシャルルヴィル!
今日のアレは一体何のつもりだ!
シャルルヴィル……っ、ごめんなさい……!
ロジェ絶対高貴になれない貴銃士など、なんの価値もない!
せめて演じるくらいは、まともにやってみせろ!
いいな!
シャルルヴィルは、はい……っ。

フランス市民すごい、これが絶対高貴……。
身体が楽になりました……!
ありがとうございます、シャルルヴィル様!
ロジェ…………。

──あんなに優しかったロジェ様は、
すっかり変わってしまった。
ううん……ボクが、変えてしまったのかもしれない。

彼はいつも、ボクの言動を監視するように、
じっとこちらを睨みつけ見るようになった。

シャルルヴィル…………。Merci♪
良くなってよかったよ。でも、油断しないで。
よく寝てしっかりごはんを食べるんだよ。
フランス市民はいっ!
フランス市民なんて高貴なお姿……。
麗しきフランスの貴銃士、万歳!
フランス市民シャルルヴィル様は、我々の恩人です!

──感謝の言葉を聞く度に、
心の奥が、重く沈んでいく。

でも、絶対高貴になれない役立たずのボクは、
こうやって仮初の希望になることしかできない。

……こうするしかないんだ。
だってこれが、ボクが役に立てる、唯一の道だから。

第5話:壊された思い出

──ボクとブラウン・ベスが出会ったのは、
そんなある日のことだった。

ロジェ……あれがブラウン・ベスか。
ロジェブラウン・ベスは絶対高貴になれるというが、
お前と一体何が違うというんだ……。
シャルルヴィル…………。
ロジェおい、シャルルヴィル。
くれぐれも粗相のないようにするんだぞ。
今夜はイギリスの女王陛下を招いての晩餐会だ。
ロジェブラウン・ベスとの接触には最新の注意を払え。
向こうは絶対高貴になれるんだ。
ささいな違いに気づくかもしれない……!
シャルルヴィル……はい。
ブラウン・ベス…………。
シャルルヴィル(彼がブラウン・ベス……。
ロジェ様はいつも、彼とボクを比べてる……)
シャルルヴィル(嫌だな。なるべく喋りたくないけど、
避けるわけにもいかないし……)
マーガレット女王まぁ、あなたがリリエンフェルト家のロジェ殿ね。
マーガレット女王あなたも貴銃士を召喚したと聞きましたわ。
確か……シャルルヴィル。
ロジェ女王陛下、お会いできて光栄です。
ロジェ改めて自己紹介を……。
私はロジェ・ド・リリエンフェルト。
そしてこちらが、貴銃士のシャルルヴィルです。
シャルルヴィルはじめまして。シャルルヴィルです。
マーガレット女王さぁ、ブラウン・ベス。私の騎士。
あなたもお2人にご挨拶を。
ブラウン・ベス……ブラウン・ベスだ。
ブラウン・ベス…………。
シャルルヴィル(なんだよ、目も合わせてくれない!
さすがにボクのこと、馬鹿にしすぎじゃない!?
そっちがその気なら……!)
シャルルヴィル……よ、よろしくね、ブラウン・ベスくん!
貴銃士同士、仲良くしてよねっ。
シャルルヴィルほら、戦友だった時期もあるしさ~。
アメリカ独立戦争の時とか!
ブラウン・ベス……俺は大英帝国が誇る銃だ。
フランス銃のおまえと戦友であった時期などない。
シャルルヴィルなっ……!
ブラウン・ベス……ふん。
シャルルヴィル(なんて嫌なやつ!)

──出会いは最悪だった。

まさかボクたちが、
このあと奇妙な友人関係を築くことになるなんて、
この時は思いもしなかったんだ──。


ライク・ツー……ふぅ。ようやく着いたな。
相変わらず馬鹿でかい屋敷だ。
ジョージぶぇっくしょい! うう、さみぃ~!
いきなり雨降るから濡れちまったな。
ジョージここの風呂でかそうだし、
シャワー浴びさせてもらおうぜ! ふんふーん♪
ライク・ツーびっくりするほど図々しいな、お前……。
ライク・ツー……お、誰か出てきたぞ。
リリエンフェルト家使用人あなた方は……フィルクレヴァート士官学校の
マスター様と貴銃士様ですね。
リリエンフェルト家使用人この度は当家にどういったご用向で……?
ジョージシャルルからお茶会の招待状が届いたんだ!
ほら、これ。
リリエンフェルト家使用人……確かに、シャルルヴィル様の招待のようですね。
かしこまりました。中へご案内いたします。

ロジェ……シャルルヴィルッ!
シャルルヴィルロジェ様……っ!?
い、一体どうしましたか……?
ロジェとぼけるな!
士官学校のマスターと貴銃士に招待状を出しただろう!?
ロジェ現代銃と、ジョージとかいう
あの忌々しいブラウン・ベスの人格違いが来ているぞ。
お前に会いたいと言ってな!
シャルルヴィル……っ。本当に、来てくれたんだ……!
ロジェ貴様は何を考えている!
勝手なことをするな!
シャルルヴィルうっ……ごめんなさい……!
ロジェ……奴らが来てしまった以上仕方がない。
面会は特別に許してやろう。
……会わせずに不審がられても面倒だからな。
ロジェだが……何か余計なことを言ってみろ。
シャルルヴィルう、……く、るし……!
ロジェ……死んだほうがマシだと思うような目に
遭わせてやる。
シャルルヴィルは、い……。
ロジェわかったなら、そのみっともない顔をどうにかして、
奴らに会う支度をしろ。
これ以上私に恥をかかせるなよ。

──カシャンッ……

ロジェ……ん? なんだこれは。
羅針盤か?
シャルルヴィルあっ、それは……!

ブラウン・ベス……これ、おまえにやるよ。

シャルルヴィルか、返してください!
ロジェむきになってどうした。
……そもそも、なぜお前がこんなものを持っている。
誰かにもらったのか?
シャルルヴィル…………。
ロジェ……まさか、ブラウン・ベスではないだろうな?
シャルルヴィル……っ!
ロジェやはりか……!
ロジェ世界に先駆けて貴銃士として目覚め、
栄光の只中にありながら──
ロジェ愚かにもアウトレイジャーと成り果てて、
女王と共にクーデターを企んだ、
破滅の貴銃士……!
ロジェそんな奴からの贈り物を後生大事にとっておくなど……
貴様、さては……ブラウン・ベスと同じように
アウトレイジャー化して、俺を貶める気だな!?
シャルルヴィルそんな、ボクはっ……!
それに、ベスくんだって……!
ロジェ黙れ! お前の言葉など何一つ信用に値しない!
ああ、汚らわしいッ! こんなもの……!
シャルルヴィル……っ、やめて!!
ロジェこんなもの、こんなもの……ッ!
シャルルヴィル嫌だっ! やめて、お願い、やめてくださいっ!
ロジェ……ふん。これでいいだろう。
あの忌々しい貴銃士のことなど、金輪際思い出すな。
シャルルヴィルあ、ああ……羅針盤が……。
シャルルヴィルベスくん……。

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