??? | これが、私の貴銃士……。 |
---|---|
??? | ああ、なんて…… なんて、美しいんだ……! |
目覚めて最初に見た光景は、
ボクのマスターになった人──ロジェ様の、
屈託のない笑顔だった。
優しく穏やかで、
眩しいものを見るような彼の表情を、
ボクは今でも鮮やかに思い出す。
ロジェ | シャルルヴィル、こちらへおいで。 |
---|---|
ロジェ | 昔々、リリエンフェルト家は、その名の通り 一面に百合が咲き誇る美しい谷にあったそうだ。 |
ロジェ | 君の銃に刻まれている百合の紋章。 美しく気高い君の姿……運命を感じるだろう? |
シャルルヴィル | ふふっ……はい、ロジェ様。 |
ロジェ様は、ボクを真綿で包むように、
とても大切にしてくれた。
ボクはそれを、誇らしく感じていた。
──だから。
その期待に、優しさに、応えたいと思っていた。
ロジェ | シャルルヴィル、君も早く絶対高貴になってくれ。 |
---|---|
ロジェ | イギリスのブラウン・ベスのように、 その高貴さでこのフランスに貢献しておくれ。 |
シャルルヴィル | ……はい。 |
──絶対高貴に、なりたかった。
ロジェ | 貴様……シャルルヴィル! ふざけるなッ!! |
---|---|
シャルルヴィル | うっ……! |
ロジェ | おい、誰が膝をついていいと言った。立て! この程度の命令すら聞けないというのか!? |
シャルルヴィル | い、いえ……! 今……いま、立ちます……っ。 |
リリエンフェルト家重鎮 | シャルルヴィル。 君は、自分が何をしでかしたか、 理解しているのかね。 |
シャルルヴィル | そ、れは……。 |
シャルルヴィル | ……ど、毒マカロンも、召銃パーティーも、 どちらも裏で糸を引いていたのは……っ。 |
---|---|
シャルルヴィル | 裏で、糸を引いてたのは…… リリエンフェルト家、なんです。 |
リリエンフェルト家重鎮 | レザール家とロシニョル家の対立を煽る工作は、 リリエンフェルト家のなかでも重鎮しか知らない 最重要機密だったのだ。 |
---|---|
リリエンフェルト家重鎮 | フランス筆頭貴族としての当家の権力を 確固たるものとするために、 あの2家には対立してもらわねば困るのだよ。 |
ロジェ | それを、貴様が……っ! 2家の揃う場で……ッ! それもよりによって、士官学校のマスターと 貴銃士にまで情報を漏らしたのだぞ! |
シャルルヴィル | ぐっ……! ご、ごめんなさい……っ! |
ロジェ | 貴様の安い謝罪で済むような問題ではないっ! |
シャルルヴィル | ……ごめん、なさい……。 |
リリエンフェルト家重鎮 | 士官学校は、連合軍の機関。 ──当然連合軍にも、話が上がっていることだろう。 |
リリエンフェルト家重鎮 | こうなればもはや、 リリエンフェルト家の威光は、失墜を免れない! 7世紀にも渡って紡いできた家系を……ッ! |
ロジェ | すべて貴様のせいだ、シャルルヴィル! 貴様の、貴様の浅慮のせいで……ッ! |
シャルルヴィル | 痛っ! う、ぅ……ッ……! |
シャルルヴィル | お、お願いです、ロジェ様っ……! やめ……っ、ぐっ……! |
ロジェ | うるさい! 黙れ、黙れ黙れ黙れ!!! |
シャルルヴィル | うぅっ……誰か、たす、け……。 |
リリエンフェルト家重鎮たち | …………。 |
ロジェ | いいか、シャルルヴィル。 “癒やし”の仕事以外でこの部屋から一歩も出るな。 |
---|---|
ロジェ | 必要なものがあれば使用人に言え。 勝手に出歩いたりしたら……わかっているだろうな。 |
シャルルヴィル | ……はい、ロジェ様。 |
シャルルヴィル | ……もう、嫌だ……。 |
シャルルヴィル | 〇〇も、ボクは間違ってないって 言ってくれた……。 ボクは、正しいことをしたんだ……。 |
シャルルヴィル | だけど、こんなの……ッ。 |
シャルルヴィル | ボク、これから壊れるまでずっと、 こうして過ごすのかな……? |
シャルルヴィル | そんなのは嫌だ、けど……。 |
シャルルヴィル | もう……どうしたらいいかわからないよ…… ベス、くん……。 |
ある日の貴銃士特別クラスにて──
マークス | おい、早く授業を進めてくれ。 この内容は狙撃の時の演算に使えそうだ。 |
---|---|
ジョージ | マークスって、数学は得意だよなー! |
マークス | ……ふん、当然だ。 スナイパーには高度な計算能力が大事だからな。 |
マークス | 銃弾が標的に当たるまでの数秒間── その間に受ける風の影響、地球の自転、気候条件…… すべてを計算に入れる必要がある。 |
恭遠 | 古典の授業でも、それくらいのやる気を 見せてくれると助かるんだが……。 |
シャスポー | ……おい、グラース。 僕の椅子を蹴るのはやめろ。鬱陶しい……! |
グラース | ふん。僕の脚が長くて、 つい、うっかり、ぶつかってしまうだけだ。 |
シャスポー | ……とか言って、今また蹴っただろう! |
グラース | 今日が曇りで湿気が多いからって、カリカリするなよ。 湿気に弱~い、旧式のお兄様? |
シャスポー | お前……! もう我慢の限界だっ! 上下関係というものを叩き込んでやる! |
グラース | ふっ……返り討ちにしても構わないだろうな? |
タバティエール | おいおい、2人とも喧嘩はよせ。 |
エンフィールド | タバティエールさんの言う通りですよ。 あちらで素晴らしい集中力を発揮している、 十手さんを見習ってはいかがですか? |
十手 | …………。 |
十手 | できた! 数学のほーてーしきだのはよくわからんが、 こういうのを作るのは割と得意なのかもしれないなぁ。 |
十手 | 忍びの者たちが使ったという煙玉…… 困った時の目くらましに役立ちそうだ。 |
シャスポー&グラース | …………。 |
シャスポー | 授業と全然関係ないことをしてるじゃないか。 |
グラース | ああいうのを“内職”と言うらしいぞ。 |
エンフィールド | ええっ!? |
ジョージ | おーい、エンフィールド! ちょっとわかんねぇとこあるんだ。教えてくれ! |
エンフィールド | ジョージ師匠! ええ、喜んで! |
スナイダー | ……エンフィールドは相変わらず、 他の銃どもの世話を焼くのに忙しいようだな。 |
スナイダー | そんな暇があるなら、 絶対非道に目覚められるよう励めばいいものを……。 やはり、俺に改造してやろうか。 |
エンフィールド | うう……っ! なんだか寒気が……。 |
ライク・ツー | はぁ……っるせぇな。 昼寝もできやしねぇ……。 |
ライク・ツー | ……ぐぅ。 |
恭遠 | おーい、皆、静かに! |
恭遠 | やれやれ……仲間が増えたのは喜ばしいけれど、 騒々しいくらいに賑やかだな……。 |
恭遠 | 困ったものだが……。 レジスタンス基地の喧騒を思い出して……懐かしいな。 |
タバティエール | よう、〇〇ちゃん、いるかい? |
---|---|
主人公 | 【どうしたの?】 |
タバティエール | ちょっと〇〇ちゃんを呼ぶように 頼まれちまってね。 授業の合間に悪いが、一緒に来てくれ。 |
タバティエール | 待たせたな。 〇〇ちゃんを連れてきたぜ。 |
---|---|
ラッセル | ご苦労だった、タバティエール。 〇〇君、君にお客人だ。 |
テオドール | 久しぶりだな、〇〇。 あの時は本当に世話になった。 |
主人公 | 【テオさん!】 【どうしてここに?】 |
テオドール | 実は、あなたへ内密に渡したいものがあってね。 ……この手紙を、受け取ってほしい。 |
主人公 | 【もしかして、カトリーヌさんから?】 【結婚式の招待状?】 |
テオドール | ははは、挙式はまだ先だよ。 社交界というのは、色々と段取りが面倒でね。 |
テオドール | 実は…… それは、シャルルヴィル殿からの手紙なんだ。 |
タバティエール | へぇ……しっかし、いくらリリエンフェルト家の 貴銃士からの手紙でも、 あんたが郵便配達人みたいな真似をするなんて……。 |
テオドール | ……これくらい、して当然なんだ。 私たちには、彼に助けてもらった恩義と…… 彼を追い詰めてしまった責任がある。 |
主人公 | 【追い詰めた……?】 【責任……?】 |
テオドール | 〇〇さんも知っての通り、 我がレザール家とロシニョル家の間の因縁は、 リリエンフェルト家が仕組んだものだった。 |
テオドール | 衆目の前で、シャルルヴィル殿が リリエンフェルト家の陰謀を明らかにしたことで、 2家のわだかまりは解消することになったが……。 |
テオドール | リリエンフェルト家が、 あの告発を見過ごすはずもない。 |
テオドール | ……シャルルヴィル殿は今、極めて危うい立場にある。 社交の場に顔を出すこともほとんどなくて…… おそらく、行動を厳しく制限されている。 |
タバティエール | 要するに……軟禁状態ってことか? |
テオドール | おそらく。先日ようやく、 ある晩餐会で彼に会うことができたんだが……。 |
テオドール | シャルルヴィル殿……。 |
---|---|
シャルルヴィル | ……っ。ああ、テオさん。 久しぶり、だね……。 |
テオドール | 随分とやつれている様子だが…… 少し休まれた方がいいのでは? |
シャルルヴィル | だ、大丈夫だよ! ちょっと……その、ダイエットしてるだけ。 美味しいお菓子も食べ過ぎはよくないもんね♪ |
テオドール | …………。 |
テオドール | シャルルヴィル殿。あなたは、私たちの恩人だ。 あなたの証言のお陰で、私は愛する人と結婚できる。 この恩に、なんとしても報いたい。 |
シャルルヴィル | あ、あはは……そんな、大げさだなぁ……。 |
テオドール | 私は本気だ。 私で何か助けになれることがあるなら、 なんでも言ってほしい。 |
シャルルヴィル | テオさん……。 |
シャルルヴィル | ……少し、待っててほしい。 |
シャルルヴィル | この手紙を、ベスく──じゃなくて、 貴銃士ジョージと、そのマスターに届けてほしい。 |
シャルルヴィル | できれば、でいいから……。 |
テオドール | テオドール・ド・レザールの名にかけて、 必ずお2人のもとへ届けると誓う。 |
シャルルヴィル | ……ありがとう。 |
テオドール | ……という経緯で、この手紙を預かったんだ。 ジョージくんと一緒に、中をあらためてくれ。 |
---|---|
主人公 | 【確かに受け取りました】 【ありがとうございます】 |
テオドール | それでは、私はこれで。 |
タバティエール | ……ただの手紙、ってことはなさそうだよなぁ。 |
---|---|
ラッセル | 救援要請という可能性もあるが、 リリエンフェルト家は世界連合に 多額の出資をしている、重要なパトロンでもある……。 |
ラッセル | 連合軍や士官学校側としては、 おおっぴらに動けない可能性もあることを、 理解しておいてくれ。 |
主人公 | 【……はい】 |
ラッセル | ただ……仮に助けを求める内容だったとしたら。 どうにか抜け道を探して動けないか、 私の方で道を探ってみる。 |
タバティエール | ……本当か!? |
ラッセル | ああ。どんな内容だったにしても、 私にあとで報告を入れるように。 |
主人公 | 【ありがとうございます!】 【イエッサー!】 |
ジョージ | ──んで、これがシャルルからの手紙か。 開けてみるな! |
---|---|
ジョージ | 『Binjour! 僕、今とっても暇してるから よかったら遊びにきてよ。お茶会をしよう!』 |
ジョージ | 『マカロンもガレットもたっぷり用意して待ってるね。 シャルルヴィルより』 |
ライク・ツー | ……なんだこれ? |
マークス | 普通に元気そうじゃねぇか。 マスターが心配する必要はないんじゃないか? |
タバティエール | だがなぁ……。 テオドールからの話を聞く限り、 シャルルくんが置かれている状況はかなり深刻だぞ。 |
シャスポー | …………。 |
シャスポー | この手紙がマスターたちではなく、 シャルルヴィルにとって望ましくない者の手に 渡った時の保険なんじゃないか? |
シャスポー | もし外部に助けを求めたことが露見すれば、 余計に立場が悪くなるだろう。 |
ライク・ツー | 確かに、その線はありそうだな。 |
ジョージ | とにかく、オレは行くつもりだよ。 なぁ、マスターもオレと一緒に行くだろ? |
主人公 | 【もちろん】 【一緒に行こう】 |
マークス | マスターが行くなら、俺も同行する。 |
シャスポー | ……僕も行くよ。 |
シャスポー | どんな状況なのか気になるし、 シャルルヴィルは、カトリーヌたちの恩人だ。 僕にとっても、他人事じゃないからね。 |
ラッセル | ──君たち4人に、外出許可を? |
---|---|
ラッセル | うーむ……それは許可できないな。 |
マークス | はぁ? なんでだよ。 |
ラッセル | いいかい、リリエンフェルト家がシャルルヴィルを 軟禁しているのが本当なら、そのきっかけとなった 君たちのことを、よく思っているはずがない。 |
ラッセル | それに、君たち貴銃士は、大きな『戦力』なんだ。 |
ラッセル | 大勢の貴銃士を引き連れて〇〇君が リリエンフェルト家を訪れるとなると…… 下手をすれば、諍いの火種になるかもしれない。 |
シャスポー | それは……、確かにそうだけど……。 |
ラッセル | シャルルヴィルの招待を受けているのは、 ジョージと、〇〇君だ。 |
ラッセル | 道中の用心やアウトレイジャー討伐に備えて、 どういうことで、あと1人は加わってもいいが、 3人が上限だと考えておいてくれ。 |
ラッセル | 現地で様子を伺って、きな臭いようだったら、 追加で応援の人員を呼ぶようにしよう。 それでいいかな、〇〇君。 |
主人公 | 【わかりました】 【問題ありません】 |
マークス | ……っ、マスター! |
マークス | いや……マスターがそう言うなら仕方ない。 護衛はもちろん俺が務める。 |
シャスポー | はぁっ!? 君はいつも〇〇にくっついてるだろ!? |
シャスポー | 今回は場所がフランスなんだから、僕に譲るのが筋だ! いいか、僕が行く。君は留守番だ。 |
マークス | 俺はマスターの愛銃で相棒だ。 マスターから離れることはありえない。 |
シャスポー | 聞き分けの悪いやつだな……! 無関係な君より、誇り高きフランスの貴銃士である この僕が行くのが自然で当然だっ! |
ライク・ツー | ……何もめてんだ? |
ジョージ | 3人しか行けないって言われて、 残り1枠の争奪戦になってんだ。 |
ジョージ | なぁ、〇〇。 決着がつくのを待ってたら日が暮れそうだし、 オレは先に行くな! |
ジョージ | 護衛役と一緒にあとで合流しようぜ! んじゃ! |
主人公 | 【えっ、ちょっと!】 【ジョージ!?】 |
ライク・ツー | ……行っちまった。 あいつもあいつで勝手だな……。 |
ライク・ツー | ジョージの奴を1人で行かせると、 ロクなことにならない気がする。 |
ライク・ツー | ……おい、〇〇。 仕方ねぇから、護衛役は俺が務めてやる。 おら、さっさと行くぞ! |
──リリエンフェルト家にて。
シャルルヴィルは湯船に浸かり、
ぼんやりと虚空を眺めていた。
シャルルヴィル | (……どうして、 こんなことになってしまったんだろう) |
---|---|
シャルルヴィル | (リリエンフェルト家── ロジェ様のもとに召銃されたことを、 ボクは誇らしく、嬉しく思っていた) |
シャルルヴィル | (ボクを美しいと言って大切にしてくれるマスター。 いくらでも贅沢が許される、恵まれた環境) |
シャルルヴィル | (みんなの期待に応えたかった。 絶対高貴になりたいって、ずっと願ってた。 それなのに、ボクはいつまでも、何もできないまま) |
シャルルヴィル | ……ボクは、どこで間違えたんだろう。 |
シャルルヴィル | どうして、こうなっちゃったんだろう……。 |
ロジェ | ……シャルルヴィル。 君を召銃して、もう何ヶ月になるだろうね。 |
---|---|
ロジェ | 聞いたかい? イギリス王室が召銃したブラウン・ベスは、 既に絶対高貴に目覚めているそうだよ。 |
シャルルヴィル | そう、なんですね……。 |
ロジェ | 9月には、当家主催のパーティーがあるんだ。 そこで、君が絶対高貴に目覚めたと公表する。 |
シャルルヴィル | ……っ、でも、ボクはまだ……! |
ロジェ | 大丈夫だよ。君は絶対高貴になれる。 必ず、パーティーの日までに目覚めるんだ。 これは決定事項だよ。……いいね? |
シャルルヴィル | は、はい……。 |
──9月、リリエンフェルト家主催のパーティーにて。
紳士 | さすが、リリエンフェルト家のパーティーは 格が違いますなぁ。 |
---|---|
貴婦人 | ……あら、シャルルヴィル様。 ロジェ様からお話は伺いましたよ。 おめでとうございます。 |
シャルルヴィル | えっ……? おめでとうって、何が? |
貴婦人 | 何って、絶対高貴に決まっているではありませんの。 わたくしもこの目で見てみたいものです。 |
紳士 | フランスにとっても喜ばしい知らせですなぁ。 はっはっは! |
シャルルヴィル | 絶対高貴、って…… そんな、僕は……! |
ロジェ | ──シャルルヴィル。 |
紳士 | おや、噂をすればロジェ様! 絶対高貴とはどのようなものなのか、 ぜひ我々にお聞かせ願いたいものです。 |
ロジェ | 絶対高貴は──それはそれは、美しいものでした。 初めて目にした時、私は感激のあまり震えましたよ。 |
シャルルヴィル | ……っ、ロジェ、様……? |
ロジェ | 皆さんにも、 いずれお披露目する機会が来ることでしょう。 |
貴婦人 | それは楽しみですわ。 シャルルヴィル様はフランスの誇りです! |
シャルルヴィル | …………。 |
シャルルヴィル | ロジェ様! どうして、僕が絶対高貴になれるなんて あんな嘘をついたんですか!? ボクは、まだ……! |
---|---|
ロジェ | うるさいッ! お前がいつまで経っても絶対高貴になれないからだ! |
シャルルヴィル | ロ、ロジェ様……!? |
ロジェ | お前にどれだけ時間を与えたと思っている! これ以上待ってはいられない。 絶対高貴を披露する準備も既に進めている。 |
ロジェ | お膳立ては私がする。 お前は絶対高貴になれるふりをしていればいい、 それくらいはお前でもできるだろう!? |
シャルルヴィル | ……っ、そんな……! |
シャルルヴィル | ──絶対高貴。 |
---|---|
貴婦人 | まぁ……! なんて温かい光……! |
貴婦人 | ああ、胸の痛みが消えていく……。 これが、絶対高貴。 素晴らしい奇跡の力だわ……! |
貴婦人 | シャルルヴィル様…… 本当に、本当にありがとうございます。 |
シャルルヴィル | ……いえ、マダム。 僕は、大したことをしていませんから。 本当に……。 |
貴婦人 | ふふ……ご謙遜を。 シャルルヴィル様は控えめな方ですのね。 |
ロジェ | …………。 |
ロジェ | シャルルヴィル! 今日のアレは一体何のつもりだ! |
---|---|
シャルルヴィル | ……っ、ごめんなさい……! |
ロジェ | 絶対高貴になれない貴銃士など、なんの価値もない! せめて演じるくらいは、まともにやってみせろ! いいな! |
シャルルヴィル | は、はい……っ。 |
フランス市民 | すごい、これが絶対高貴……。 身体が楽になりました……! ありがとうございます、シャルルヴィル様! |
---|---|
ロジェ | …………。 |
──あんなに優しかったロジェ様は、
すっかり変わってしまった。
ううん……ボクが、変えてしまったのかもしれない。
彼はいつも、ボクの言動を監視するように、
じっとこちらを睨みつけ見るようになった。
シャルルヴィル | …………。Merci♪ 良くなってよかったよ。でも、油断しないで。 よく寝てしっかりごはんを食べるんだよ。 |
---|---|
フランス市民 | はいっ! |
フランス市民 | なんて高貴なお姿……。 麗しきフランスの貴銃士、万歳! |
フランス市民 | シャルルヴィル様は、我々の恩人です! |
──感謝の言葉を聞く度に、
心の奥が、重く沈んでいく。
でも、絶対高貴になれない役立たずのボクは、
こうやって仮初の希望になることしかできない。
……こうするしかないんだ。
だってこれが、ボクが役に立てる、唯一の道だから。
──ボクとブラウン・ベスが出会ったのは、
そんなある日のことだった。
ロジェ | ……あれがブラウン・ベスか。 |
---|---|
ロジェ | ブラウン・ベスは絶対高貴になれるというが、 お前と一体何が違うというんだ……。 |
シャルルヴィル | …………。 |
ロジェ | おい、シャルルヴィル。 くれぐれも粗相のないようにするんだぞ。 今夜はイギリスの女王陛下を招いての晩餐会だ。 |
ロジェ | ブラウン・ベスとの接触には最新の注意を払え。 向こうは絶対高貴になれるんだ。 ささいな違いに気づくかもしれない……! |
シャルルヴィル | ……はい。 |
ブラウン・ベス | …………。 |
シャルルヴィル | (彼がブラウン・ベス……。 ロジェ様はいつも、彼とボクを比べてる……) |
シャルルヴィル | (嫌だな。なるべく喋りたくないけど、 避けるわけにもいかないし……) |
マーガレット女王 | まぁ、あなたがリリエンフェルト家のロジェ殿ね。 |
マーガレット女王 | あなたも貴銃士を召喚したと聞きましたわ。 確か……シャルルヴィル。 |
ロジェ | 女王陛下、お会いできて光栄です。 |
ロジェ | 改めて自己紹介を……。 私はロジェ・ド・リリエンフェルト。 そしてこちらが、貴銃士のシャルルヴィルです。 |
シャルルヴィル | はじめまして。シャルルヴィルです。 |
マーガレット女王 | さぁ、ブラウン・ベス。私の騎士。 あなたもお2人にご挨拶を。 |
ブラウン・ベス | ……ブラウン・ベスだ。 |
ブラウン・ベス | …………。 |
シャルルヴィル | (なんだよ、目も合わせてくれない! さすがにボクのこと、馬鹿にしすぎじゃない!? そっちがその気なら……!) |
シャルルヴィル | ……よ、よろしくね、ブラウン・ベスくん! 貴銃士同士、仲良くしてよねっ。 |
シャルルヴィル | ほら、戦友だった時期もあるしさ~。 アメリカ独立戦争の時とか! |
ブラウン・ベス | ……俺は大英帝国が誇る銃だ。 フランス銃のおまえと戦友であった時期などない。 |
シャルルヴィル | なっ……! |
ブラウン・ベス | ……ふん。 |
シャルルヴィル | (なんて嫌なやつ!) |
──出会いは最悪だった。
まさかボクたちが、
このあと奇妙な友人関係を築くことになるなんて、
この時は思いもしなかったんだ──。
ライク・ツー | ……ふぅ。ようやく着いたな。 相変わらず馬鹿でかい屋敷だ。 |
---|---|
ジョージ | ぶぇっくしょい! うう、さみぃ~! いきなり雨降るから濡れちまったな。 |
ジョージ | ここの風呂でかそうだし、 シャワー浴びさせてもらおうぜ! ふんふーん♪ |
ライク・ツー | びっくりするほど図々しいな、お前……。 |
ライク・ツー | ……お、誰か出てきたぞ。 |
リリエンフェルト家使用人 | あなた方は……フィルクレヴァート士官学校の マスター様と貴銃士様ですね。 |
リリエンフェルト家使用人 | この度は当家にどういったご用向で……? |
ジョージ | シャルルからお茶会の招待状が届いたんだ! ほら、これ。 |
リリエンフェルト家使用人 | ……確かに、シャルルヴィル様の招待のようですね。 かしこまりました。中へご案内いたします。 |
ロジェ | ……シャルルヴィルッ! |
---|---|
シャルルヴィル | ロジェ様……っ!? い、一体どうしましたか……? |
ロジェ | とぼけるな! 士官学校のマスターと貴銃士に招待状を出しただろう!? |
ロジェ | 現代銃と、ジョージとかいう あの忌々しいブラウン・ベスの人格違いが来ているぞ。 お前に会いたいと言ってな! |
シャルルヴィル | ……っ。本当に、来てくれたんだ……! |
ロジェ | 貴様は何を考えている! 勝手なことをするな! |
シャルルヴィル | うっ……ごめんなさい……! |
ロジェ | ……奴らが来てしまった以上仕方がない。 面会は特別に許してやろう。 ……会わせずに不審がられても面倒だからな。 |
ロジェ | だが……何か余計なことを言ってみろ。 |
シャルルヴィル | う、……く、るし……! |
ロジェ | ……死んだほうがマシだと思うような目に 遭わせてやる。 |
シャルルヴィル | は、い……。 |
ロジェ | わかったなら、そのみっともない顔をどうにかして、 奴らに会う支度をしろ。 これ以上私に恥をかかせるなよ。 |
──カシャンッ……
ロジェ | ……ん? なんだこれは。 羅針盤か? |
---|---|
シャルルヴィル | あっ、それは……! |
ブラウン・ベス | ……これ、おまえにやるよ。 |
---|
シャルルヴィル | か、返してください! |
---|---|
ロジェ | むきになってどうした。 ……そもそも、なぜお前がこんなものを持っている。 誰かにもらったのか? |
シャルルヴィル | …………。 |
ロジェ | ……まさか、ブラウン・ベスではないだろうな? |
シャルルヴィル | ……っ! |
ロジェ | やはりか……! |
ロジェ | 世界に先駆けて貴銃士として目覚め、 栄光の只中にありながら── |
ロジェ | 愚かにもアウトレイジャーと成り果てて、 女王と共にクーデターを企んだ、 破滅の貴銃士……! |
ロジェ | そんな奴からの贈り物を後生大事にとっておくなど…… 貴様、さては……ブラウン・ベスと同じように アウトレイジャー化して、俺を貶める気だな!? |
シャルルヴィル | そんな、ボクはっ……! それに、ベスくんだって……! |
ロジェ | 黙れ! お前の言葉など何一つ信用に値しない! ああ、汚らわしいッ! こんなもの……! |
シャルルヴィル | ……っ、やめて!! |
ロジェ | こんなもの、こんなもの……ッ! |
シャルルヴィル | 嫌だっ! やめて、お願い、やめてくださいっ! |
ロジェ | ……ふん。これでいいだろう。 あの忌々しい貴銃士のことなど、金輪際思い出すな。 |
シャルルヴィル | あ、ああ……羅針盤が……。 |
シャルルヴィル | ベスくん……。 |
Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.
まだコメントがありません。