──とある休日。
4人の貴銃士が、買い物のため街に出ていた。
シャスポー | メモにあるものは全部買えたな。 |
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ジョージ | Yeah! っていうか、シャスポーと買い物ってなんだか新鮮だなー! おまえ、何か欲しいものがあったのか? |
シャスポー | ああ。 ガラスにも使える画材がお目当てでね。 さっき寄った文具屋で見つけて購入済みだよ。 |
十手 | ほほう……硝子に何か絵を描くのかい? |
シャスポー | そう、いつもはキャンバスに描いているんだけど、 〇〇を描くなら ステンドグラスみたいな仕上がりにするのもいいかと思って。 |
ライク・ツー | うわ……〇〇を崇める協会でも作る気かよ……。 |
ジョージ | Wow! マークスが毎日来てくれそうだな☆ |
シャスポー | ちょっ……違う、そういうことじゃない! せっかく〇〇にあげるなら、 いろんなテイストのものがあった方がいいかと思って──…… |
ライク・ツー | はいはい。 |
シャスポー | 真面目に聞け! |
??? | …………。 |
??? | ……ライたん? |
ライク・ツー | (……え?) |
ライク・ツーは、背後からかけられた声に反応し、立ち止まる。
ライク・ツー | (……この声、呼び方…… まさか……) |
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ライク・ツー | (……いや、待て。 ありえねぇよ、“あいつ”がこんなとこにいるなんて…… だって、いろいろ調べたけど、所在不明ってことしか……) |
ライク・ツー | (わからねぇけど……冷静になれ……! 変に反応して、今、こいつらの前で疑われるわけには……) |
背後から呼びかける声 | おおーい? ライたぁーん? もしもーし、ライたんってば~! |
十手 | む……? 俺たちに何か御用かな。 |
ジョージ | ライたんって……もしかしてライク・ツーのこと? |
ライク・ツー | …………。 |
派手な男 | ああ~っ、やっぱりライたんじゃん! お・ひ・さ★ 会いたかったよぉ~ん!! |
ライク・ツー | …………ッ! |
ライク・ツー | (お兄──) |
シャスポー | ……知り合いか? |
ライク・ツー | ……! いや……俺は、知らねぇ……。 誰だ、お前。初対面で変な呼び方すんな。 |
派手な男 | がぁーん! ちょちょちょ、それはショックすぎるんだけど!? おいらのこと覚えてないとか、冗談きついっしょライたぁん……。 |
派手な男 | っていうか、イメチェンしたんだ? バッサリいったねぇ! フゥ! ショートのライたんもナイスゥ! |
シャスポー | 妙な奴だな……。 なんなんだ、君は。 |
ラブ・ワン | え、おいら? おいらはラブ・ワン。 UL85A1の貴銃士って言った方がいいかな? UL85A2──ライたんの…… |
ラブ・ワン | お兄ちゃんだよーん★ |
3人 | えっ! |
ライク・ツー | ………………。 |
ジョージ | えええーっ! お兄ちゃんだったのか! |
ジョージ | Nice to meet you! オレたちみんな、ライク・ツーの仲間だぜ☆ |
ジョージ | 兄ちゃんに会えてよかったな、ライク・ツー! 仲良さそうに、ライたんって呼んでくれてるし☆ スターサングラスもNice! |
ラブ・ワン | みんな、ライたんを大事にしてくれてありがとね~! ライたんの友達はおいらの友達ってコトで、 おいらとも仲良くしてくれるかな~? |
十手 | ああ、もちろんだとも! 弟としてのライク・ツー君について、色々聞かせてほしいな。 |
ラブ・ワン | オッケ~イ★ みんなは士官学校にいるんだっけ? 今度おいらも遊びに行っていい? |
ジョージ | おう! |
シャスポー | 勝手に返事をしていいのか? |
ジョージ | だって、ライク・ツーの兄ちゃんなら大歓迎だろ? 〇〇だって会いたがるはずだし! |
シャスポー | そうかもしれないけど……。 君のマスターは、連合軍の所属なのか? それとも、イギリス政府関係者あたりか? |
ラブ・ワン | 残念、どっちも不正解★ おいらはぁ…… |
ラブ・ワン | トルレ・シャフのラブ・ワンだよーん。 |
ライク・ツー&シャスポー | ……は? |
ジョージ&十手 | え……? |
ラブ・ワン | あれ? みんな、石になっちゃった! カチンコチン★ フゥ~!! |
シャスポー | ど、どういうことだ……トルレ・シャフって── |
ライク・ツー | …………はは。 おかしいだろ、こいつ。 関わるだけ無駄だし、さっさと帰るぞ。 |
十手 | だ、だが、ライク・ツー君のお兄さんだと── |
ライク・ツー | UL85A1持ってるだけの不審者だろ、どう見ても。 あれが俺の兄銃なわけねぇっつーの。 貴銃士のフリしてるただのイカレ野郎だよ。 |
シャスポー | 確かに、君とは見た目も性格も似ていないが…… トルレ・シャフを名乗ってるのに放置でいいのか? |
ライク・ツー | 実害出てねぇのに、虚言癖の不審者を相手にするほど 俺らも軍も暇じゃない。 |
ライク・ツー | ほら、行くぞ。 |
シャスポー | あ、ああ……? |
十手&ジョージ | …………。 |
ライク・ツーはさっさと立ち去ってしまう。
十手とジョージは、笑顔のまま手を振る自称ラブ・ワンと、
ライク・ツーの背中を交互に見つめる。
ラブ・ワン | まったね~★ |
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ジョージ | ライク・ツーが兄ちゃんと会えたかと思ったのになぁ……。 |
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十手 | 悪い御仁には見えなかったが……うーん、 悪気はなくとも善人とは限らないということだろうか。 たちの悪い冗談は感心しないよ……。 |
ライク・ツー | …………。 |
ライク・ツー | (……どうして、あんな……。 あいつは、本当に俺の……? それとも……) |
ラッセル | 〇〇君、報告書の作成ご苦労だったね。 早速確認を始めたんだが…… なんというか、驚くべき内容だらけだな。 |
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ラッセル | 特に、オーストリアでの報告は示唆に富んでいる。 毒物らしきものを投与された囚人の例から窺える 薔薇の傷と生命力の関係性……。 |
ラッセル | いや、最も重要なのは間違いなく── アリノミウム結晶が2種類存在するという説だな。 人工のものと、そうでないもの──本物がある、か……。 |
ラッセル | カール閣下曰く、人工結晶によってマスターとなった者に 召銃された貴銃士は、絶対高貴に目覚めることができないとか。 |
ラッセル | レジスタンスのマスター、ヨナス氏、数多の死刑囚、 そして〇〇君と、様々なマスターに召銃された カール閣下の言だ。信憑性は高いと考えるべきだろうな……。 |
恭遠 | 実際に、〇〇君が召銃した直後、 カールは再び絶対高貴の力に目覚めています。 |
恭遠 | 他にも似たような例はありますし、 貴銃士自身の資質や心持ちのみではどうしようもない差異が、 マスター後からの根源である結晶にあると考えるべきでしょう。 |
ラッセル | ええ……。 もう1つ気になるのは、ロジェ・ド・リリエンフェルト氏や、 オットーヨナス氏に現れたという精神異常です。 |
恭遠 | 幻聴や幻覚、被害妄想や攻撃性……。 それも、かなり激しい症状のようですね。 |
恭遠 | ジョージがリリエンフェルト氏の薔薇の傷を治療したところ、 憑き物が取れたかのように以前の穏やかな彼に戻ったという シャルルヴィルの証言もあります。 |
恭遠 | なんらかの病気ではありえない治り方ですから…… やはり、薔薇の傷の影響によるものと考えるべきでしょうね。 |
ラッセル | ……〇〇君。 君にはそういった兆候はまったくないのかい? |
主人公 | 【ありません】 【平気です】 |
ラッセル | ふむ……。 となるとやはり、君が触れた結晶は『本物』だったということか。 |
ラッセル | …………。 |
ラッセル | しかしなぜ、人工結晶なんてものが流通しているのか……。 この報告を見る限り、人工結晶を使ってマスターとなるメリットは まったくないように思えるのだが……うーむ……。 |
恭遠 | ……革命戦争時代に得た情報のままであれば、ですが。 真のアリノミウム結晶は、非常に危険な代物です。 |
ラッセル | ……? どういうことでしょうか。 |
恭遠 | レジスタンスの諜報員などが得た情報によると、 アリノミウム結晶に触れた人間はことごとく、 全身から血を吹き出して絶命する……ということでした。 |
マークス | ……っ、なんだって!? |
ラッセル | し、しかし……! 〇〇君はこうして無事ですし、 レジスタンスのマスターが触れたのも真の結晶ではないのですか? |
恭遠 | ええ。 結晶に触れても生き残ることができた、稀有な人物── それこそが、真の意味でのマスターなのかもしれません。 |
恭遠 | 実際に確かめる術などなかったので、 どこまでが事実なのかは今でも不明ですが……。 |
恭遠 | 当時得た情報が正しいとすれば…… 〇〇君が無事だったのは、奇跡のようなものです。 |
ガスマスクの男 | 殺スッ! |
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主人公 | 【……っ!】 |
マークス | マスター……。 マスターが結晶に打ち勝てていなかったら、今頃……。 |
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主人公 | 【マークスが助けてくれたから今がある】 【マークスがいなければどのみち駄目だった】 |
マークス | マスター……! |
ラッセル | そうなると気になるのは、フランスとオーストリアで現れたという 謎の貴銃士のことですね。 |
ラッセル | 彼もまた絶対高貴を使えた……ということは、仮説通りの場合、 彼のマスターも真の結晶でマスターになった人物ですから。 |
恭遠 | …………。 ……そうですね。 |
ラッセル | 〇〇君。 謎の貴銃士の動向については、今後も注意してくれ。 |
主人公 | 【イエッサー!】 |
ラッセル | ああ……謎といえば、透明な結晶の問題もあったね。 高価で貴重なはずのアリノミウム結晶を浪費してまで、 トルレ・シャフが得ようとしていた可能性もあると……。 |
ラッセル | ……ん? 『透明な結晶についての特別報告事項』? |
ラッセル | こ、これは……私の読み間違えか……? |
報告書の最後のページを見たラッセルは、目をこする。
恭遠 | えーっと……? 『ヴァイスブルク宮殿の地下室で発見したという 2つの透明な結晶を持って、貴銃士カールが来校』 |
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恭遠 | 『1つはカールが持ち帰り、 もう1つは〇〇候補生が預かっていたが、 提出前にアクシデントにより損壊』……? |
ラッセル | ……そ、損壊……。 |
主人公 | 【すみません!!!】 【ごめんなさい!!!】 |
ラッセル | ど、どういうことなんだ、〇〇君! これは大変な事態だぞ……! |
ドライゼ | ……失礼する。 |
恭遠 | ドライゼ? |
ドライゼ | 申し訳ない!!!! |
ドライゼ | 透明な結晶の破損は、俺のせいなのだ……! |
恭遠 | 何があったのか聞かせてくれ……。 |
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ドライゼ | 無論だ。 |
ドライゼ | あの日──マスターは、カール閣下より透明な結晶を預かった。 しかし既に遅い時間だったため報告書とまとめて 翌日に提出しようと、寮の自室で一時保管していたそうだ。 |
ドライゼ | そこへ俺が、ドイツ行きのスケジュールについて 話をしに行ったのだが……。 |
主人公 | 【自分がうっかり結晶を落として……】 |
ドライゼ | それを……俺が踏んでしまったのだ。 |
ドライゼ | 俺の不注意が招いた事態であり、 マスターの責ではない! |
ドライゼ | 貴重なサンプルを破壊してしまい……本当に申し訳ないッ! |
恭遠 | 頭を上げてくれ、ドライゼ。 起きてしまったことはどうしようもない。 |
恭遠 | それに、砕けただけで、破片は残っているんだろう? |
ドライゼ | それが……その場で消滅してしまった。 |
恭遠&ラッセル | 消滅!? |
ラッセル | き……消えた? 結晶が消えるというのは……? カサリステからそういった報告は上がっていないが……? |
恭遠 | ……確か、アリノミウム結晶で薔薇の傷跡を得る際、 結晶は砕け、蒸発するように消えるという話が あったように思います。 |
ラッセル | なるほど……すでに、例の透明な結晶にはアリノミウム結晶との 類似点があると判明していますが…… そういうことでしょうか……。 |
ラッセル | あの結晶が一体なんなのか、何かしらの作用を持つものなのか その一切が現時点では不明だが……。 |
ラッセル | 特に、マスターである君が触れた場合には、 特殊な反応を起こす可能性も考えられる。 今後、透明な結晶の取り扱いには、十分に注意するように。 |
主人公 | 【イエッサー】 【重々に気をつけます】 |
恭遠 | 今のところ、アリノミウム結晶とは違って 素手で触れても問題は起きていないということだったが…… 念のため、直接触れないようにした方がいいかもしれないな。 |
マークス | わかった。 マスターが危なくないように、俺が代わりに持つ! |
恭遠 | いや、貴銃士だからといって、 触れて悪影響がないとは言い切れない。 君たちも、〇〇君と同様に気をつけてくれよ。 |
ドライゼ | 承知した。 他の貴銃士にも伝えておこう。では。 |
恭遠 | …………。 |
ラッセル | ……恭遠審議官? 何か気になることが……? |
恭遠 | いえ……人工結晶の出どころや、 透明な結晶は一体なんなのかを考えていました。 |
恭遠 | 革命戦争時代…… 世界帝軍は、アリノミウム結晶を大々的に捜索し、 極秘で研究を行っているようでした。 |
恭遠 | 世界帝軍が保持していた大量殺戮兵器ミルラには、 アリノミウム元素が利用されていたので、 研究はミルラ関連だと思っていたのですが……。 |
主人公 | 【ミルラ……。】 |
大量殺戮兵器、ミルラ。
世界帝支配時代を生きた者なら
誰もがその名を知っている、おぞましい兵器。
その正体は、アリノミウム元素を利用して開発された新型爆弾だ。
広範囲・高威力の攻撃力を誇るが、
旧来の核爆弾とは異なり
投下地域が放射線によって汚染されることはない。
そのため、投下後速やかに現地支配が可能だったことから……
旧世界帝によって、反逆国家やレジスタンスに対する粛清のために
積極的に使用された。
ミルラが透過された後、数時間に渡ってみられる
特徴的な赤いオーロラは……
世界帝支配時代の人々にとって、恐怖の象徴だった。
恭遠 | ……もちろん、それも研究目的の1つではあったでしょうが。 今現在、人工と思しきアリノミウム結晶が出回っていることから、 もしかすると、目的は「それだけ」ではなかったのではないかと。 |
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ラッセル | と、すると……世界帝府は、その頃から 人工の結晶を作ろうとしていたということですか!? |
恭遠 | わかりません。人工結晶の製造が目的だったわけではなく、 軍事研究の副産物として生まれた可能性もありますしね。 |
恭遠 | 世界帝府とはまったく無関係で、 リスクを抑えてマスターになれるように作られたもの…… という線もあります。 |
ラッセル | うーむ……今はまだわからないことが多すぎますね。 |
ラッセル | トルレ・シャフ構成員の中には、 ミルラを復活させようと目論む過激派もいるとか……。 |
ラッセル | 透明な結晶も、アリノミウム結晶となんらかの関係がある以上、 トルレ・シャフの手に渡らせるのは危険でしょう。 |
恭遠 | ええ。オーストリアでのトルレ・シャフの動きから考えて、 透明な結晶に関してなんらかの実験を行っていたか、 あるいは結晶を収集していたと考えられます。 |
恭遠 | あの結晶について我々が知らない情報を、 トルレ・シャフが既に得ている可能性は高い……。 動向を注視すべきですね。 |
ラッセル | そういうわけで……〇〇君。 引き続き、透明な結晶が発生する状況の報告と結晶の回収を頼む。 |
主人公 | 【イエッサー!】 |
マークス | んー……。……はぁ。 |
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主人公 | 【お疲れ様】 【少し疲れた?】 |
マークス | いや、マスターの方が疲れただろう。 俺はついていっただけで…… だが、わからないことが増えて大変だとは思う……。 |
マークス | アリノミウム結晶に、人工結晶に、透明な結晶……結晶だらけだ。 透明な結晶のことはほとんど何もわかっていないし、 トルレ・シャフが何をしてぇのかもよくわからない。 |
主人公 | 【透明な結晶……】 【…………】 |
マークス | マスター? 何か気になることがあるのか? |
マークス | 的がなんなのかよくわからなくて、 あまり力になれないかもしれないが…… いや、どうにかしてマスターを助けたい。 |
マークス | 俺に話してみてくれ。 |
マークスに促されて、〇〇は
結晶が砕けた時の話を始めた。
カールから預かった透明な結晶を翌朝まで寮の自室で
一時保管することにし、レポートを作成していたところ──
〇〇はいつの間にか机でうたた寝をしていた。
ヴィヴィアン | 〇〇……? ど、うして、ここに……。 |
---|---|
ヴィヴィアン | お願、い…… たすけ、て……。 |
主人公 | 【ヴィヴィアン!!】 【嫌だ、行かないで!!】 |
倒れたヴィヴィアンへ、
〇〇は叫びながら手を伸ばす。
主人公 | 【……!】 【夢、か……】 |
---|
重い身体を机から起こした〇〇は、
カールから預かった結晶を引き出しから取り出した。
主人公 | 【この結晶は一体なんなんだろう】 【トルレ・シャフはこれを集めている……?】 |
---|
各地で起きた様々な出来事。
“鞭”やスケレットとの邂逅もあったオーストリアでは、
トルレ・シャフがこの透明な結晶を集めている可能性も見えた。
主人公 | 【ヴィヴィアンはどこで本物の結晶を……?】 【ヴィヴィアンの死の真相は……】 |
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ドライゼ | マスター、夜分にすまない。 少しいいだろうか。 |
主人公 | 【どうぞ】 |
ドライゼ | 俺とエルメのドイツ行きスケジュールについてなのだが……。 |
ドライゼ | …………。 |
ドライゼが、〇〇の手元をじっと見つめた。
視線の先には、〇〇が握っている結晶がある。
次の瞬間──……
主人公 | 【……!?】 【結晶が、光った?】 |
---|
一瞬、結晶が白い光を発したように見えた。
しかし、まばたきをする間にその光は消え、
〇〇は目の錯覚だろうかと首をかしげる。
ドライゼ | ……マスター。 |
---|---|
ドライゼ | ヴィヴィアン・リントンロッジの件を教えてくれ。 |
主人公 | 【どうしてヴィヴィアンのことを?】 【ドイツ行きについての話は……?】 |
ドライゼ | いいから、教えてくれ! 知らなければならないのだ。 あの日ヴィヴィアン・リントンロッジに何が起きたのかを……! |
ドライゼは、〇〇の肩を掴んで、
真剣な表情で詰め寄ってくる。
驚いた〇〇の手から、結晶が転げ落ちた。
ドライゼ | マスター、教えてくれ! |
---|
また一歩詰め寄ったドライゼ。
その大きな足が──……落ちた結晶を、思い切り踏んづけた。
主人公 | 【ああーっ!!!】 |
---|---|
ドライゼ | む……? |
主人公 | 【ドライゼ、足を上げて!!】 【結晶が……!!】 |
ドライゼ | ぬっ!? |
ドライゼが飛び退くが、踏みつけられた結晶は粉々に砕け、
蒸発するように空気中に消え去った。
主人公 | 【(あれ、なんだか色が違った……?)】 【(結晶が黄色っぽく見えたような)】 |
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ドライゼ | なっ……今のは、一体……!? |
主人公 | 【カサリステが研究対象にしてる結晶だよ】 【謎だけど重要そうな結晶だったんだ】 |
ドライゼ | ど、どう詫びればいいのか……! とにかく、このことであなたが咎められないよう、 コペール中将やブルースマイル曹長には俺から話をする。 |
ドライゼ | 本当にすまなかった……! |
ドライゼ | ドイツ行きについてはまた改めて話そう。 この件で予定を変更する必要があるかもしれないしな……。 |
部屋を出ていこうとしたドライゼを、
〇〇は慌てて呼び止める。
主人公 | 【ヴィヴィアンの話は?】 【ヴィヴィアンについて知りたかったのでは?】 |
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ドライゼ | ……? ヴィヴィアン……? |
ドライゼ | ああ、そういえば……? しかし、彼女に何があったのかは、報告書を読んで把握している。 改めてあなたに聞き、辛い記憶を呼び覚ます必要はないだろう。 |
ドライゼ | では……俺は失礼する。 おやすみ、マスター。 |
マークス | ……よくわからないな。 ドライゼはどこか故障していたのか? |
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マークス | 知りたいと言ったり、 聞かなくてもいいと言ったり、意味がわからないな。 それに、結晶が光った……? あの透明な石は光るものなのか。 |
主人公 | 【寝ぼけていたのかも】 【気のせいかもしれない】 |
マークス | いや……マスターが言うんだから、 見間違いじゃないと俺は思う。 |
ラッセル | ──君! 〇〇君! |
ラッセル | 実は、君に会いたいという人が来校された。 ……一緒に来てくれ。 |
シャスポー | なあ。君の兄は本当にあんな感じの貴銃士なのか? |
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ライク・ツー | 知らねぇよ。貴銃士の姿で会ったことなんてないのに。 あの不審者のシュミだっただけじゃねーの? |
シャスポー | あまりいいセンスとは言えないね。 まあ……貴銃士を騙るような奴だから当然か。 |
ライク・ツー | …………。 |
ライク・ツー | (あれは一体何者だった? ……間違いなく、UL85A1の貴銃士ではあった。 俺が見間違えるはずはない……。) |
ライク・ツー | (「輸送中に奪われた本物」の個体? ……それとも、別の個体? 別の個体なら、どういう意図をもって俺の前に現れた……?) |
ライク・ツー | (あの時、どうしておくのが正解だった……?) |
十手 | おや? ラッセル教官と〇〇君だ。 |
ジョージ | なーんかマジメな顔してるし、任務かな? |
ラッセル | ……! 君たち、戻ったのか。 |
主人公 | 【ライク・ツーも来た方がいいのでは?】 |
ライク・ツー | ん? 任務か? それなら行くけど。 |
ラッセル | いや、任務ではなくて…… 実は、ヴィヴィアン君の父君が来校しているんだ。 |
ライク・ツー | はぁ!? |
ライク・ツー | (次から次へと……なんなんだよ、今日は) |
ライク・ツー | それで、俺も来いってか……。 けど、リントンロッジ家には俺のこと、どう伝えてあるんだよ。 お前宛の遺言の内容を、あっちはどこまで知ってる? |
ラッセル | ヴィヴィアン君が亡くなった経緯や、ライク・ツーについては、 機密情報にあたるため、リントンロッジ夫妻に開示していない。 |
ラッセル | 生前の彼女の意向で、校内墓地に埋葬することになった…… と伝えてあるだけだ。 |
ライク・ツー | だったら、俺が行くのはおかしくないか。 |
ライク・ツー | 俺に関係ある話だったらあとで教えろ。 それでいいだろ? |
主人公 | 【……そうだね】 【そうするよ】 |
ラッセル | では……〇〇君、行こうか。 |
ラッセル | お待たせしました。ヴィヴィアンさんのクラスの 担当教官を務めていました、ラッセル・ブルースマイルです。 こちらは、〇〇候補生です。 |
---|---|
デレク | ああ、君が娘の親友だった〇〇君か……。 娘からの手紙でよく名前を見ていましたよ。 |
デレク | ……君に娘のことで質問したい。 答えてくれるかい? |
主人公 | 【もちろんです】 【自分に答えられることでしたら】 |
デレク | ありがとう。 ……私は昔、軍にいてね。UL85A2を愛用していたんだ。 あれは、いいアサルトライフルだ。 |
デレク | だから、フィルクレヴァートに入学する娘にも同じ銃を持たせた。 ……娘は銃について何か話していたか? 何か気がついたこと、印象に残っていることはあるだろうか? |
主人公 | 【(ヴィヴィアンではなく、銃のことを?)】 【(どうしてそんなことを聞くんだろう?)】 |
ラッセル | 〇〇君? |
〇〇は不思議に思いながらも、
ヴィヴィアンが銃について話していた内容を思い出す。
主人公 | 【UL85A2は苦手だと……】 【あまり好きではないと……】 |
---|
〇〇は、ヴィヴィアンの言葉が気になっていた。
苦手だと言っていたUL85A2を、
なぜ自分と一緒に埋葬してほしいと遺言に残したのかも。
デレク | ……やはり……? |
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デレク | それで、そのUL85A2は今どこに? 返還された遺品の中になかったからには、 士官学校にあるのでは? |
答えていいのかわからず、
〇〇はラッセルへと視線を向ける。
ラッセル | UL85A2については、彼女の遺言に従い、 彼女とともに校内墓地に埋葬しています。 |
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デレク | 墓か! |
デレク | そうか……ヴィヴィアン、お前というやつは……! |
デレクは立ち上がると、足早に応接室から出て行った。
ラッセル | あっ……! ど、どこへ? お待ちください! |
---|
ラッセルと〇〇は、
デレクを追いかけて応接室を出る。
すると、廊下にはライク・ツーが立っていた。
ラッセル | ライク・ツー……。 |
---|---|
ライク・ツー | ちょっと気になって来ただけだ。 つーか、さっき出ていったおっさんが? |
ラッセル | ああ。ヴィヴィアン君の父君のデレク氏だ。 彼はどっちに? |
ライク・ツー | 血相変えてあっちに行ったぜ。 |
デレク | 墓か! |
---|
やや血走った目を見開いていたデレクを思い出し、
〇〇は不安に駆られる。
主人公 | 【まさか……?】 【校内墓地に行かないと……!】 |
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ライク・ツー | は……? おい待て、〇〇! |
〇〇たち3人が校内墓地へ走っていくと、
その一角──まだ新しい墓碑の前に、デレクが佇んでいた。
彼は、どこから持ち出したのか、シャベルを手にしている。
ライク・ツー | おいおい、嘘だろ……! |
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ラッセル | リントンロッジさん、一体何を……!? |
デレクは、ヴィヴィアンが眠っている場所に、
ザクッとシャベルを突き立てた。
ラッセル | ……っ!! |
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ライク・ツー | ……おいおい、正気かよ……! |
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ラッセル | リントンロッジさん! 何をしているんです!? |
主人公 | 【やめてください!】 |
ラッセルと〇〇がデレクの腕を掴むが、
彼は強い力で2人を振り払った。
デレク | 止めるな!! |
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デレク | ここを掘ったら、UL85A2があるのだろう!? ならば、娘も私のことを許すはずだ! |
デレク | あの銃は、葬り去られるべきものではないのだ……! すぐに掘り起こさねば……っ!! |
目を血走らせ、再びシャベルを手にするデレク。
まともではない彼の様子に慄きながら、
なんとか暴挙を止めようと、〇〇は叫んだ。
主人公 | 【掘っても無駄だ!】 【銃はそこにはない!】 |
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デレク | なんだと……? どういうことだね!? |
ラッセル | ……! |
ラッセル | 銃、ですから……。 安全上の都合で、遺言通りの処理はできませんでした。 |
デレク | では、UL85A2はどこに──…… |
デレクの視線がライク・ツーに向けられ、
ピタリと止まった。
デレク | その銃は、UL85A2……? お姿はまるで違うが……いや、髪の色は変わっていない……。 |
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デレク | あっ……あなたこそが、ライク・ツー様ですね! |
デレクは、ライク・ツーの前に跪いた。
ライク・ツー | は……? 確かに、俺はUL85A2、ライク・ツーだけど。 |
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デレク | 私のことを覚えていらっしゃるでしょうか。 陥落したイレーネ城から、あなた様をお救いしたのですが……! |
主人公 | 【イレーネ城……?】 【お救い……?】 |
デレク | 私はしがない末端の兵士でした。 しかしあの戦いを生き延び、銃に戻られたあなた様を見つけ、 レジスタンスどもが城を占拠する前に密かに持ち出したのです。 |
デレク | 私ごときがライク・ツー様を手にするなど、 おこがましいとは思いましたが、 あのままでは賊共に破壊されると思い……。 |
デレク | いつか時が満ち、偉大なる世界帝の世が戻るまで、 あなた様をお守りすると誓ったのです。 |
デレク | ……まさか、献上の機会を前にして、 娘からの妨害は入るとは夢にも思わず…… 誠に申し訳ありません。 |
突然始まったデレクの演説じみた言葉に、
3人は呆然として固まる。
ライク・ツー | お前……さっきから何、わけわかんねぇこと言ってんだ……? |
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デレク | ああ、恐れる必要などありません、ライク・ツー様。 |
デレク | 世界帝の復権を掲げるトルレ・シャフが勢力を増し、 私は時が近づいていることを感じて 彼らにコンタクトを取りました。 |
デレク | 世界帝軍の貴銃士であったライク・ツー様を、 世界帝復活の旗印として召銃していただくために……! |
デレク | しかし──献上したUL85A2が、 まったくの別個体であると判明したのです。 |
デレク | そんなことはありえない……。 私が持ち出したのは、間違いなくライク・ツー様です。 何が起きたのかと考え……私は娘のことを思い出しました。 |
デレク | おい、ヴィヴィアン! これは一体なんだ!! |
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ヴィヴィアン | 私のノート……! 勝手に引き出しを漁ったわけ!? 最低……返してよ!! |
デレク | こんなものは処分だ! あの偉大なるお方の治世を愚弄する下劣な記事ばかり集めて…… お前はなぜ道を踏み外す!! |
ヴィヴィアン | 偉大? 馬鹿なこと言わないでよ! 世界帝軍が何したか、お父さんだって知ってるでしょ! 虐殺、拷問、重税……何が治世よ、ただの圧政じゃない! |
デレク | ヴィヴィアン、お前……! 世界連合の洗脳教育に染まったか! 我が娘がここまで愚かとは……。 |
ヴィヴィアン | 洗脳されてるのはお父さんとお母さんの方でしょ! 世界帝が間違ってないっていうなら…… エマは何か重罪を犯したの!? それを証明できるの!? |
ヴィヴィアン | 世界帝軍は、あの子の親がレジスタンスかもしれないってだけで、 エマまで捕まえて……。 あの子は二度と戻ってこなかった!! |
ヴィヴィアン | 世界帝のどこが偉大なのよ……! あんなヤツ、差別主義者の殺戮者、殺人鬼よ!! |
デレク | ヴィヴィアン!! |
デレク | あまり家に寄り付かなかったが、何度かは家に帰ってきていた…… その時にこっそり、あなた様を自分の銃とすり替え、 士官学校へ持ち去っていたのでしょう。そうとしか考えられない! |
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デレク | あの子は、私と妻の忠誠心を理解できないままでしたから。 だからこそ、命を落とすことになったのでしょう。 |
主人公 | 【……!!】 |
デレク | さあ、ライク・ツー様! |
デレク | ともに参りましょう、トルレ・シャフへ! 哀れなる羊たちを導いてくださいませ。 |
ラッセル | トルレ・シャフ……! |
デレクが恭しくライク・ツーの手を取ろうとする。
が、ライク・ツーがその手をはねのけた。
ライク・ツー | 行くわけねぇだろ。 |
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ライク・ツー | ……俺はすり替えられてなんかいない。 入学した時から、あいつの……ヴィヴィアンの銃だった。 イレーネ城とやらも知らないな。 |
ライク・ツー | お前の言ってることは、全部妄想だ。 そもそも、お前が城から持ち去ったっていう銃自体、 世界帝軍にいたUL85A2とは違うやつだったんじゃねーの? |
デレク | そんなはずは……。 |
ライク・ツー | さっさと気づけよ、狂信者。 てめぇのやったことは、全部無駄だったんだってな。 |
デレク | そ、そんな……そんな……。 あ……う……尊きUL85A2はどこに……。 |
デレクは、幽鬼のようによろよろと歩き始める。
彼の手をラッセルが掴み、拘束した。
ラッセル | トルレ・シャフとの関係の自白を聞いた以上、 このままお帰りいただくわけにはいきません。 連合軍で取り調べを受けていただきます。 |
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デレク | ああ、ライク・ツー様……。 |
ラッセルがデレクを連れていき、
墓地には〇〇とライク・ツーだけが残された。
ライク・ツー | はぁ……最っ悪なおっさんだったな。 そりゃヴィヴィアンも、あんな親父がいるんなら 家なんか帰りたくねーわ。 |
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ライク・ツー | ……おい、〇〇。 あいつが言ってたこと、全部嘘だからな。 |
主人公 | 【(何かが、引っかかる……)】 【(ヴィヴィアンが言ってた……)】 |
ヴィヴィアン | 私、実は……自分の銃のこと…… このUL85A2のことが、苦手なの。 |
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「このUL85A2」が苦手だと言っていたヴィヴィアン。
なぜ彼女がそう思っていたのか、ずっと謎だった。
そして、苦手だという銃を一緒に埋葬してほしいという遺言も。
しかし……もしも、デレクの言う通りだとしたら、
世界帝の銃だった個体を父親やトルレ・シャフが悪用しないよう、
自分とともに永遠に葬るつもりだったのではないか……。
主人公 | 【(……納得はできてしまう)】 【(辻褄が合ってしまう……)】 |
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ライク・ツー | ……〇〇……? |
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