ライク・ツー | ……はぁぁ……。 |
---|---|
ライク・ツー | クソッ……。 |
人目を避けて木立の中に入ったライク・ツーは、
苛立ちにまかせて岩を強く蹴る。
そして、深い溜息とともに座り込んだ。
ライク・ツー | (何もかもがごっちゃごちゃだ。 どこまでが本当で、どこからが嘘なのか…… わけがわかんねぇよ……) |
---|---|
ライク・ツー | (でも、確かなのは……) |
ライク・ツー | (俺が、元世界帝軍のUL85A2だってこと……!) |
ライク・ツー | (そして、あいつも──) |
──世界帝軍の居城、イレーネにて。
UL85A2 | コードネーム? |
---|---|
モーゼル | はい。あなた方自身で自由に決めて構いません。 特に希望がないなら適当につけます。 ……では。 |
UL85A1 | え~、適当はやだよねぇ。 |
UL85A2 | 僕たち、ほぼ名前同じだし…… 1と2から何かつけるとか? |
UL85A2 | あとは、U、L、Aの何か使って…… なんかいい感じの言葉ないかな。 |
UL85A1 | おっ! おいら、いいの思いついたよん★ LといえばLOVE! |
ラブ★ワン | ってわけでぇ、おいらがラブ★ワンで、 そっちはラブ・ツー! どうよ? |
UL85A2 | ええ~、ラブはなんかヤダ。 お兄ちゃんとお揃いも却下。 |
ラブ★ワン | あっふぅ! それなら何がいいのぉ? 兄弟だし、おいらとしては、ノリは揃えたいんだけどなぁ! |
ライク♥ツー | じゃあ……ライク。 僕のコードネームはライク♥ツーにする。 |
ラブ★ワン | おっ! それ、ナイスゥ! 長いから、ライたんって呼ぼーっと★ |
ライク♥ツー | それ、コードネーム決めた意味なくない? |
ライク・ツー | ……あの時、モーゼルはもうあの人のとこに戻ってた。 話してたのは俺たちだけ……。 |
---|
ラブ・ワン | メンテは大歓迎だからね、ラブ♥ツーたん! |
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ライク・ツー | ……ボツにしたコードネームを知ってるのは、 お兄ちゃんしかいない……。 |
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ライク・ツー | あいつは……正真正銘、世界帝軍にいたUL85A1だ……。 銃が違うのは意味わかんねぇけど……間違いねぇ。 |
ライク・ツー | ……あいつは、僕がずっと探してた…… ずっとずっと、もう一度会いたいと思ってた…… |
ライク・ツー | ……本物の、僕のお兄ちゃん。 |
ラブ・ワン | だから……ライたんもトルレ・シャフにおいでよ。 また一緒に、楽しくやろうぜ。 |
---|
ライク・ツー | ……うるさい、うるさいっ! うるさい……っ! 僕はもう── |
---|---|
ライク・ツー | 負け犬には絶対ならないって、決めたんだ! |
──あの頃、僕たちは最強だった。
何もかもが手に入る、何もかもが思い通りになる。
世界はあの人のもので、僕たちのものだった。
ライク♥ツー | おはよーございまーす。 |
---|---|
ラブ★ワン | ライたん、今日はなんかご機嫌? |
ライク♥ツー | あ、わかる? 帝都で人気の調香師に特注してた香水が届いたんだ~。 やっぱ、いいもの身につけてるとテンション上がるよね。 |
ライク♥ツー | よぉーし、13連勤目だけど頑張ろー! |
ラブ★ワン | フゥ! 今日も撃って撃って撃ちまくろうぜぇ~~い★ |
ラブ★ワン | おっ、ライたん! 今日も筋トレ頑張ってんね~。 ヒュ~! 腹筋バッキバキー★ |
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ライク♥ツー | 当然でしょ、僕ら軍人だし。 お兄ちゃんも一緒にどう? 鍛えたら、ジャムる癖も直るかもよ。 |
ラブ★ワン | おおっと! 弟が今日も手厳し~い! |
忙しいけれど贅沢三昧で、
いろんな貴銃士がいて、
たまにドジするお兄ちゃんはウザいけど大切で──。
ライク・ツー | (俺は……“僕”は、何がしたかったんだろう。 あの頃はただ必死で……ひとつだけ確かなのは、 奇妙な夢で見たみたいな現実は、まっぴらごめんだったってこと) |
---|
ライク・ツー | (そう……奇妙な夢) |
---|---|
ライク・ツー | (あの頃、世界帝軍特別幹部として、 忙しいけれど充実した毎日を送っていた僕は、 ある時、奇妙な白昼夢を見た) |
ライク・ツー | (薄暗い独房に、あの人── 僕のマスターが、引っ立てられていく夢) |
看守 | ここが貴様の独房だ。 さぁ、入れ! |
アシュレー | ……この私に手荒な真似をするとはな。 名はなんというんだ? 覚えておいてやろう。 |
アシュレー | そして喜びたまえ。 近い将来、君と君の一族は皆、安らかな眠りにつくことになる。 |
看守 | ふざけたことを言うな! 貴様は世界帝に危害を加えた重罪人! 何があろうと未来永劫許されることはない! |
ライク♥ツー | は……? お前こそ何ふざけたこと言っちゃってんの? この人が誰だか、知らないわけないでしょ? おい! |
アシュレー | ふ……。永劫となると暇だな。 本を持ってきてくれ。ありったけのな。 |
ライク♥ツー | ちょっと、マスターまで何言って── っていうかさっきからなんで僕のこと無視するわけ!? |
ライク・ツー | (……あまりにも奇妙で、怖い夢で…… 誰かに笑い飛ばしてもらいたくって、 特別幹部の仲間に、雑談として話してみたんだ) |
---|---|
ライク♥ツー | 絶対ありえないことだけど── マスターが牢屋に入れられるところを見たんだ。 |
アインス | ……! なん、だと……? |
ライク♥ツー | ……え、だからたぶん、ただの夢だって。 マスターが帝都の地下牢に繋がれててさぁ、 兵士が“貴様は罪人だ”とか生意気な口叩くわけ。 |
ライク♥ツー | しかも、“世界帝に危害を加えた”とか! 自分で自分に危害って、ナニソレ?って感じじゃない? |
アインス | …………! |
ライク♥ツー | ……ちょ、アインスさん……? |
モーゼル | ──ライク・ツー。 |
ライク♥ツー | わっ! びっくりしたぁ。 モーゼル、いつからいたの? |
モーゼル | ライク・ツー、それはただの悪い夢です。 あなたは何も見なかった。 夢のことは忘れなさい。いいですね? |
ライク♥ツー | ……あの夢、なんだったんだろう。 本当に夢だったのかな……。 現実みたいにリアルだったし、モーゼルのあの言い方……。 |
---|---|
ライク♥ツー | 僕が見た光景って、まさか、本当にあったことなわけ……? でも、世界帝はこの世界の支配者で、 誰よりも偉いんじゃないの……!? |
ライク♥ツー | それとも未来……? レジスタンスに負ける未来…… そんなものがあるっていうわけ!? |
ライク♥ツー | ……そんなの、ありえない……!! 僕は……敗者になんて、絶対なりたくないっ!! |
ライク・ツー | (〇〇に召銃されたあと、調べてみてわかった。 あの日見た光景はやっぱり、実際にあったことだったって) |
---|
──初代世界帝は、息子アシュレーが過激な思想に走り、
大量殺戮兵器ミルラを生み出したことを危険視。
暗殺を試みるも、失敗する。
逆上したアシュレーは、父・世界帝暗殺を目論むが、それも失敗。
大罪人として捕らえられるも、召銃していたモーゼルの手を借り
世界帝をはじめ各国の重要人物が集っていた城ごと爆破した。
そして──第2代世界帝として自らが君臨したのだ。
ライク・ツー | (あの光景は……ある意味、未来でもあった。 イレーネ城は落ちて、あの人は罪人として捕らえられたんだから) |
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──革命戦争の最終局面。
世界帝の居城、イレーネにて。
ラブ★ワン | おおっと、ヤる気じゃーん! んじゃ、おいらもどかーんと──って、アレ? |
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ラブ★ワン | あっちゃ~! ジャムるなんてツイてないっ! |
ライク♥ツー | ちょ……っ! お兄ちゃん、こんな時にウソでしょ!? |
レジスタンスの貴銃士たちの攻撃を受け、
ラブ★ワンは貴銃士としての実体を失い、銃に戻る。
ライク♥ツー | ……っく! 痛……ッ! |
---|
負傷したライク・ツーに、
オスマン出身の貴銃士たちが迫った。
レジスタンスの貴銃士 アリ・パシャ | あの時言ったことを覚えているだろうな。 世界帝の世はいずれ終わる、と。 今がその時だ。 |
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ライク♥ツー | そ……そんなことない! 黙れよ! |
レジスタンスの貴銃士 エセン | 実際、僕たちがここまで攻め入ってますし。 ……アリ・パシャ様の言う通りだと、 あなたもわかっているのでは? |
ライク♥ツー | そ、れは……! |
レジスタンスの貴銃士 アリ・パシャ | さあ、どうする? 犯罪者として捕らえられる世界帝とともに、 お前も牢に繋がれて惨めに過ごすか? |
ライク♥ツー | (……あの、夢で見たみたいに……? そうしたら僕らも犯罪者で、ジメジメした牢に繋がれて……。 ううん、それだけじゃない) |
ライク♥ツー | (お兄ちゃんはもう戦えない。逃げられない。 このまま負けて捕まったら、僕たちは壊される……! 負け犬で……それどころか、スクラップだ。ゴミにされるんだ) |
ライク・ツーは、銃に戻ったラブ★ワンをじっと見つめてから、
アリ・パシャを見据える。
ライク♥ツー | と、取引しよう……! |
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ライク♥ツー | ここだよ。この扉の先の玉座に、あの人がいる。 ……これでいいでしょ? |
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ライク♥ツー | モーゼルにバレたらやばいし、僕はあっちにいるから。 あとは勝手にやって── |
ライク♥ツー | あ……え…………? |
──ドサッ!
モーゼル | アシュレーが無理を押して呼び覚ましたというのに、 その報いがこれですか。 |
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モーゼル | ……あなたはもう不要です、ライク・ツー。 |
ライク♥ツー | (僕……何やってるんだろう。 僕がしたことはなんだったんだろう) |
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ライク♥ツー | (僕まで銃に戻っちゃって…… お兄ちゃん、さっきの場所に落ちたままなのに) |
ライク♥ツー | (敗者はザコ。負け犬はみすぼらしいゴミ。 呼び覚まされて貴銃士になってから、16連勤だって頑張った。 なのに、惨めに落ちぶれるなんておかしい。嫌だ) |
ライク♥ツー | (お兄ちゃんが壊されるのも、僕が壊されるのも許せない。 だから、あの人を裏切ってまで逃げる道を選んだのに…… 結局、ぜーんぶ無駄だったんだ) |
ライク♥ツー | (僕って……UL85A2って、なんだったんだろう。 僕の貴銃士としての一生って、これで終わりなんだよね。 あーあ、格好悪い。最悪中のサイアク) |
ライク♥ツー | (こんなのが、世界帝軍のUL85A2の歴史になるなんてさ。 どっちつかずの半端者。モーゼルに、いない方がマシって。 不要だって言われて、撃たれてオシマイ) |
ライク♥ツー | …………。 ………………。 |
ライク♥ツー | (……いや、『不要です』ってなんだよ。 なんかだんだんムカついてきた。 お前何様だよ、モーゼル!!) |
ライク♥ツー | (ふざけんな、ふっざけんな! 僕は優秀なんだぞ!? 使えない兵士どものケツ叩いて、 どんだけ戦果あげてるか知らないのかよ!) |
ライク♥ツー | (僕は……たぶん、いろんなところで間違った。 あちこちで、大事な選択肢を間違えて、 破滅の道を選んじゃった) |
ライク♥ツー | (もし……もしも、次があるなら! ああ、神様! 次があるのなら!) |
ライク♥ツー | (その時は、間違えない。 世界帝に呼び覚まされたし、世界は思うがまま! ……なんて、自惚れない) |
ライク♥ツー | (次にチャンスを掴んだら…… 自分自身の力で、ちゃんと選んだ道で、勝者になりたい!) |
ライク♥ツー | (世界帝の下僕で裏切りの銃、UL85A2── そんな過去の出来事、馬鹿馬鹿しいって思われるくらい、 世界中の認識を変えてやる……) |
ライク♥ツー | (僕が壊して地の底に落としたUL85A2の名前や名誉を、 僕自身の手で絶対に、挽回するんだ……!) |
マークス | ……マー、クス。 |
---|---|
マークス | マークス。 今から俺の名前は、マークスだ。 |
マークス | ありがとう、マスター。 |
ラッセル | 君の方はどうする? |
ラッセル | UL85A2は先の革命戦争中には、 「ライク・ツー」と呼ばれていたそうだが……。 |
ラッセル | 世界帝軍の貴銃士と同じというのは、 さすがに縁起が悪い。 別の名前に変えた方がいいな。 |
UL85A2 | ……いや。 そのままの方が、都合がいい。 |
UL85A2 | トルレ・シャフってのは世界帝派の組織なんだろ? 俺の名前を──「ライク・ツー」の名前を聞いて、 向こうから接触してくるかもしれない。 |
UL85A2 | まあ、ノコノコやってきたところを、 ボッコボコにしてやるけどな。 |
ライク・ツー | (……別の名前じゃ意味がない。 UL85A2──ライク・ツーの汚名を晴らすんだ。 正しく、強い貴銃士として……) |
ライク・ツー | (──そうだ) |
---|---|
ライク・ツー | (──世界帝は、絶対にまた復活する。 あの人がレジスタンスに抱いていたのは、異常な執着と憎悪。 信奉者は熱狂的だ。絶対、簡単に処刑なんかされない) |
ライク・ツー | (きっと、どんな手を使っても生き延びてるはずだ。 じゃなきゃ、革命後の世界で、トルレ・シャフなんていう 親世界帝派組織が幅を利かせるほど求心力を持ってないだろう) |
ライク・ツー | (今度の俺がなすべきことは…… 元世界帝、アシュレー・サガンの完全なる排除) |
ライク・ツー | (世界を再び脅かそうとしてるトルレ・シャフと、 その裏にいるあの人を打倒する……!) |
ライク・ツー | (俺は、世界的な脅威に立ち向かった貴銃士として、 歴史と人々の記憶に、正しく、鮮烈に──刻まれ直すんだ!) |
ライク・ツー | ……はは、お兄ちゃんが現れたからって、何混乱してんだ。 俺がやるべきことは決まってる。 自分で決めた。そのためにはなんだってするって。 |
ライク・ツー | (……だから、俺は〇〇に嘘をついた。 同じ目的を持ってるって信じさせて……取り入った) |
ライク・ツー | (まあ、途中で目的は重なるかもしれねぇけど……。 いずれあの人と対峙する日が来た時のために、 〇〇や他の貴銃士にも厳しくして鍛えてきた) |
ライク・ツー | (当然、俺自身もだ。 今の俺は、昔の“僕”よりもっと強いって断言できる) |
ライク・ツー | だから……ここで曲げるわけにはいかねぇんだよ。 たとえ、お兄ちゃんと敵になったとしても──! |
──数日後。
〇〇と、士官学校にいた7人の貴銃士たち、
そしてエヴァンズとラブ・ワンが密かに招集された。
十手 | 結構な大人数だが……この面々で任務かい? |
---|---|
ラッセル | ……ああ。 恭遠審議官と私も同行する。 |
シャルルヴィル | それは……大掛かりな任務になりそうだね。 |
ファル | それで、どこに向かえばいいんです? |
ラッセル | イギリス海峡──ダンジネス近くに浮かぶセント・ディース島だ。 先日、海峡を越えようとする不審な船舶を、 セント・ディース島基地の兵士が発見して捕らえた。 |
ラッセル | 乗組員は3名で、トルレ・シャフの構成員…… 例の透明な結晶とよく似たものを、複数所持していたそうだ。 |
ラッセル | カサリステが回収に向かうまで、 基地内で厳重に結晶を保管するよう伝えてあり、 明日が回収予定日だったのだが……。 |
ラッセル | 今日になって、セント・ディース島との連絡が途絶えた。 何が起きているのか、一切わかっていない。 |
シャルルヴィル | えっ……? |
スプリングフィールド | 通信機器の故障……でしょうか。 |
ラッセル | その可能性は高いだろうな。 謎の結晶については気がかりだが、約60人駐在している基地だ。 たった3人のトルレ・シャフがどうこうできるとは思えない。 |
ファル | では、予定通りの日時に行けばいいのでは? もしくは、付近の支部から事前に人を送るとか。 |
ラッセル | そうするべきとの意見も出たようだが、 結晶絡みで何かが起きていた場合、それは機密情報にあたる。 迂闊に、何も知らない兵士を派遣することはできないんだ。 |
ラブ・ワン | なるほどねん。 つまり、島で何が起きてるかを確認するには、 謎結晶について知ってるこのメンツが都合がいいってことだ。 |
ラブ・ワン | カサリステの研究員じゃぁ…… もし島でドンパチやばいことが起きてた場合、 対処できないしね〜。 |
ラッセル | ああ、そういうわけなんだ。 |
ラッセル | もちろん、セント・ディース島の調査は極秘任務にあたる。 誰かに任務について聞かれても、一切を明かさないように。 速やかに準備を整え、集合してくれ。 |
主人公 | 【イエッサー!】 |
──準備を終えた一行は、
すぐさまセント・ディース島へ向けて出発した。
3時間後──船着き場に到着するが、
人の気配がなく、島内はしーんと静まり返っている。
恭遠 | ……どうも様子がおかしい。 |
---|---|
マークス | ……おい、恭遠。 あっちから……血の匂いがする。 |
恭遠 | ……! ……ここから先は、細心の注意を払って進もう。 |
やがて、塀に囲まれた基地が見えてくる。
しかしそこも、不気味なほどの静けさに包まれていた。
ファル | ……入ってみますか。 |
---|
一行は周囲を警戒しつつ、慎重に進んでいく。
基地の門が間近に迫ると──風に乗って、
生臭く重苦しい匂いが〇〇たちに届いた。
それぞれに銃を構え、ゆっくりと門を開けていく──。
エヴァンズ | ……っ、これは! なんということだ……。 |
---|---|
十手 | ……〇〇君、君は見ない方がいい! |
マークス | ああ。それに、嫌な予感がする。 マスターは入らないでくれ……! |
主人公 | 【大丈夫だから】 【ちゃんと現場を確認しないと】 |
エヴァンズ | ……っ、これは! なんということだ……。 |
十手 | ……〇〇君、君は見ない方がいい! |
マークス | ああ。それに、嫌な予感がする。 マスターは入らないでくれ……! |
主人公 | 【大丈夫だから】 【ちゃんと現場を確認しないと】 |
十手とマークスがあるを庇うように前に立ち、
視界を遮ろうとしてくる。
しかし、〇〇は2人の脇をすり抜けて前へ出た。
主人公 | 【……っ!】 【……酷い……】 |
---|
基地の敷地内には、十数人の兵士が倒れていた。
地面のあちこちに血溜まりができており、
その中に、一目で落命しているとわかる兵士たちが沈んでいる。
ラッセル | う、嘘だろう……。一体何があったんだ……? |
---|---|
ファル | 基地には約60人がいると言っていましたね。 基地は塀で囲まれていますし、防衛機能はそこそこ。 |
ファル | 外部から攻め入ってこれだけの損害を与えるには、 少なくとも倍程度の攻撃能力が必要でしょうか。 |
ファル | しかし、それだけの人数が上陸しようとすれば、 当然見張りの兵士が気づく……。 それに、死体の分布や構成も妙です。 |
シャルルヴィル | ……どういうこと? |
ファル | 単純な話ですよ。 基地内に入るまで、血痕の1つも見当たらなかったでしょう。 |
スプリングフィールド | あ……侵入した敵に攻撃されたなら、 連合軍の人たちの反撃を受けて、 基地周辺にも死傷者が出ているはず……。 |
ファル | そういうことです。 |
恭遠 | なんらかの手段で敵に侵入された──という線も薄いか。 見る限り……亡くなっているのは、連合軍の兵士だけだ。 |
ライク・ツー | こいつら全員、本当に連合軍の兵士なのか? 兵士に化けて侵入したやつも紛れてるかもしれねぇぞ。 |
ラッセル | セント・ディース基地の資料は持ってきている。 名前を確認してみよう。 |
ラッセルは、亡くなっている兵士たちの検分を始めた。
識別票のネックレスや顔と、駐在兵士のリストを見比べ、
やがて、重々しく頷いた。
ラッセル | 今確認した5人は……間違いなく、連合軍の兵士だ。 |
---|---|
ジョージ | じゃあ……みんな、一方的にやられちまったってことか? くそっ……誰が、なんで、こんな酷いことすんだよ……! |
ライク・ツー | 生きてるやつが見つからねぇことには、 何が起きたのか、まるでわからない……。 |
ファル | そうですね。 生存者を探しますか。 |
一行は基地の中を進み、倒れている兵士の生死や、
間違いなく連合軍の兵士か否かを確認する。
十手 | ……っ、みんな、来てくれ! 息がある御仁がいる!! |
---|---|
負傷兵 | ああ、助かっ……げほっ……。 |
恭遠 | すぐに止血をする……! 無理はしなくていい。だが、話せそうなら教えてくれ。 ここで何があったのか……。 |
負傷兵 | ……仲間に、撃た、れて……。 |
ファル | おや……やはりそうでしたか。 見つかる死体はすべてこの基地の兵士。 同士討ちの可能性が高いとは思っていましたが、理由が謎ですね。 |
負傷兵 | 僕にも、何がな、んだか……。 みんな、いきなり、おかしくなって…… 僕ら、を、仲間なのに、敵だ、ころせ、と──……。 |
エヴァンズ | ……トルレ・シャフに寝返った、 あるいは、奴らの手先が兵士として基地に潜り込んでいた、 ということか。 |
ラブ・ワン&ライク・ツー | …………。 |
負傷兵 | あいつらは、そんな、ん、じゃ……っ! 同室の、アンディとリオンが……撃ち合ったんだ……! 兄弟みたいに、仲よかった、2人が……っ!! |
負傷兵 | うっ……ゲホッ、ゴハッ……! |
恭遠 | 叫んでは駄目だ……! 傷に障ってしまう。 |
恭遠 | 話してくれてありがとう。 救援が来るまで、あと少しの辛抱だ。 大丈夫、もう血は止まり始めているからな。 |
負傷兵 | は、い……。 |
十手 | ……突然の同士討ちとは……。 ますますわからなくなってきたぞ……。 |
ファル | しかし、これではっきりしましたね。 基地内で出くわす兵士には警戒すべき……と。 |
様子がおかしい兵士1 | 敵……敵、だ……。 |
様子がおかしい兵士2 | 敵は……殺せ……! |
ライク・ツー | 言ったそばからかよ! |
主人公 | 【殺さないで確保!】 【取り押さえて事情を聞く!】 |
マークス | マスターの命令なら……了解した! |
ジョージ | ──絶対高貴! |
---|---|
ラブ・ワン | んじゃ、おいらも★ 絶対非道ッ! |
兵士たち | ううっ……。 |
エヴァンズ | うぐっ……傷が……! |
貴銃士たちの力を浴びせられた兵士たちと、
ラブ・ワンが絶対非道を使ったことで傷に蝕まれたエヴァンズが、
次々に膝をつく。
主人公 | 【エヴァンズ教官!】 【大丈夫ですか?】 |
---|
〇〇は慌てて駆け寄り、
エヴァンズの傷の具合を確認した。
しかし、彼の傷は一輪の薔薇の形のままで、特に変化はない。
主人公 | 【(あれ……?)】 【(痛みだけが強い……?)】 |
---|---|
エヴァンズ | ぐっ……これしき、平気だ。 建物内も調べるぞ。 |
基地の建物内にも死傷者があちこちに転がっていた。
凄惨な光景に奥歯を噛み締めつつ、
〇〇は足を進めていく。
兵士3 | ……誰だ! |
---|---|
ラッセル | 我々は連合軍イギリス支部の先遣隊だ。 この基地からの連絡が途絶えたので様子を見に来た。 銃を下ろしてくれ! |
兵士4 | イギリス支部……! よかった、助かった……! 俺たちは地獄を生き延びたんだ……! |
安堵したようにへたり込んだり、抱き合ったりする兵士たち。
彼らは、様子がおかしくなった一団ではなさそうだとわかり、
一行もやや肩の力を抜く。
──その時だった。
マークス | おい、あのローブ……! |
---|---|
ジョージ | トルレ・シャフだ……! |
捕らえられていたトルレ・シャフ構成員らしき3人は、
廊下を駆けていき、あっという間にどこかへ消える。
兵士3 | あいつら……! |
---|---|
兵士5 | あいつらが来てから、全部おかしくなったんだ……! |
エヴァンズ | 追うぞ、ラブ・ワン! |
ラブ・ワン | アイアイサー★ |
兵士4 | 自分たちも行きます! |
兵士たちとともに、一行は逃げたトルレ・シャフ構成員を追う。
しかし──廊下の角を曲がった時、
数人の兵士たちが立ちふさがった。
様子がおかしい兵士3 | 敵は……殺す……。 |
---|---|
様子がおかしい兵士4 | 敵多数……排除せよ……。 |
ライク・ツー | クソッ、またかよ! |
貴銃士たちが捕縛に動くなか、
同行した兵士たちは逃げるトルレ・シャフの姿を捉え、
猛然と追跡を始める。
兵士3 | 待てっ!! |
---|---|
エヴァンズ | ……君たち! 単独行動はよさないか! |
ラブ・ワン | ちょちょっ、エヴァちん速いってぇ!! |
兵士たちとエヴァンズに迫られたトルレ・シャフ構成員は、
ローブの下から袋を取り出すと、紐を開く。
中にあるのは、怪しげな紫色とかすかな光を帯びた結晶だった。
トルレ・シャフの男が掲げた結晶は、
一瞬、白い閃光を放つ。
エヴァンズ | ……っ! |
---|---|
兵士たち | う……!? |
エヴァンズと兵士たちが光を目にした直後──
結晶は光を失った。
トルレ・シャフ | ……導きの光が途絶えたか……。 |
---|
ラッセル | エヴァンズ教官! こちらですか!? |
---|
ラッセルと〇〇たちは、
先行してトルレ・シャフを追ったエヴァンズと兵士たちを
追いかける。
しかし──廊下の角を曲がった先で、
床に倒れている彼らを発見した。
ライク・ツー | おい、なんでいきなり倒れてんだよ……! |
---|---|
ファル | 外傷はありませんし無事でしょう。 奴らを追いますよ。 |
主人公 | 【ラッセル教官と3人は先へ!】 【自分は彼らを治療します】 |
ライク・ツー&シャルル&ファル | 了解! |
スプリングフィールド | 大丈夫ですか……!? |
---|---|
ラブ・ワン | ヘイヘイ! エヴァちん、しっかりしろってぇ〜。 |
兵士たち | ……敵……。 |
スプリングフィールド | えっ……? |
エヴァンズ | 連合軍……敵……殺さねば……。 |
十手 | そんな……みんな、どうしてしまったんだ……!? |
どこか虚ろな目をしたエヴァンズや兵士たちは、
〇〇たちや貴銃士へと銃を向ける。
マークス | てめぇ……マスターに何しやがんだ!! |
---|---|
主人公 | 【(なんで……どうして、いきなり……?)】 【(まるで……操られてるみたいだ)】 |
十手 | 撃たれてた兵士が伝えてくれたのは、 こういうことか……! |
ジョージ | 絶対高貴でどかーんとやって、気絶させるっ! 行くぞ、十手! |
十手 | 合点承知! |
ジョージ&十手 | ──絶対高貴! |
──その頃、ラッセルと3人の貴銃士は、
トルレ・シャフ構成員を追い詰めていた。
ファル | さて……手荒いのがお好みですか? でしたら遠慮なく。 |
---|---|
トルレ・シャフ1 | おい、他の結晶は──。 |
トルレ・シャフ2 | ない! 見つからなかっただろう!? |
ライク・ツー | ごちゃごちゃうっせぇなぁ……。 ──絶対非道! |
トルレ・シャフ構成員たち | うぐああああっ!! |
ライク・ツーの攻撃がかすめ、トルレ・シャフ構成員たちは
腰を抜かして座り込む。
その拍子に、ローブから白い布袋と、紫色の結晶が転がり落ちた。
ファル |
おやおや、堪え性がありませんねぇ。 これではあまり楽しめなさそうで残念ですが…… ひとまず、気絶していただきましょうか。 |
---|---|
ファル | ──絶対非道。 |
トルレ・シャフ構成員たち | うぎゃあっ!! |
半ば脅しの攻撃は、トルレ・シャフ構成員たちに大きな傷を
与えはしなかったが、床に落ちた紫色の結晶を直撃する。
結晶は粉々に砕かれ、風に吹かれた砂のように消え去った。
トルレ・シャフ1 | ……っ、しまった……、完全結晶が……! |
---|
──トルレ・シャフ構成員が持っていた、
紫色の結晶が砕け散った直後。
兵士3 | あ、れ……? |
---|---|
兵士4 | 私たちは、何を……? |
マークス | ……! まともに戻った、のか……? |
十手 | 君たちに何が起きていたんだい……!? |
兵士5 | よく……わかりません。奴らを追い詰めて── そうしたら、1人が袋から紫色の石を取り出したんです。 それが……光って……。 |
兵士3 | ああ……そうだった。 そこからはぼんやりしてるんですが……。 連合軍は悪で、倒さないとと思っていたような……。 |
兵士4 | たしかに、そんなことを思っていた気がする……。 ……自分で自分がわからない。 私たちこそが連合軍なのに、倒すべき存在だと思うなんて……。 |
ライク・ツー | ──おい、そっちは無事か? |
ラブ・ワン | あっ、お疲れい★ エヴァちんはまだ気絶してるけど……みんな無事だよん。 |
合流した一行は、何が起きたのか情報共有をした。
〇〇は、
ドライゼが透明な結晶を踏むに至った経緯を話した。
結晶が一瞬光ったような気がして──
その直後に、ドライゼが突然、
ヴィヴィアンについて知りたいと鬼気迫る様子で言ってきたこと。
ドライゼが結晶を踏み砕く前、
透明だったはずの結晶が、黄色がかって見えたこと。
さらに……結晶が砕けたあと、
ドライゼはヴィヴィアンについて聞くのをパタリとやめ、
もともと聞くつもりもなさそうで不思議だったこと……。
主人公 | 【……不確実な情報でも、報告すべきでした】 【一応報告すべきかと迷ったのですが……】 |
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ラッセル | そういえば……報告書の提出があった日は、 リントンロッジ氏が来校した日だったな……。 |
ラッセル | あんな出来事があって動転していただろうし、 よくわからない件についての報告を失念したのも無理はない。 |
ラブ・ワン | たしかにね〜。 親友のお墓を、そのパピーが荒らしに来たわけでしょ? ドラちんのヘンテコ行動も吹き飛ぶ衝撃だよねぇ。 |
ライク・ツー | けど……その、夢だか寝ぼけて見た幻だかみてぇな出来事が、 かなり重要な情報を含んでたってわけか。 |
恭遠 | ヴィヴィアン君について聞きたがるドライゼと、 基地内での同士討ち……起きた出来事はまったく違うが、 驚くほど類似点があるな。 |
恭遠 | 彼らの証言からして、 結晶の光を見ることで強力な暗示にかかるんだろうか。 |
恭遠 | 〇〇君が持っていた結晶では、 ヴィヴィアン君について知りたいという気持ちになり……。 |
恭遠 | トルレ・シャフが持っていた結晶では、 連合軍は倒すべき敵だと思わされた。 |
ファル | ふむ……所有者の感情や意志に、 光を見た者を同調させるんでしょうか。 ……同調と言うには、いささか度が過ぎていますが。 |
シャルルヴィル | ドライゼさんも影響を受けたってことは、 ボクたち貴銃士にも有効なのかな。 それとも、相手がマスターだったから? |
十手 | うーん……今の情報だと、 そこまではわからないね。 |
ラッセル | とにかく、この基地で何が起きたのかはこれではっきりした。 にわかには信じがたいが……。 |
ラッセル | 謎の結晶が発する光によって強力な暗示にかかった兵士と、 その他の兵士の間で同士討ちが発生── 基地は瞬く間に大混乱に陥り、多大な犠牲者が出た。 |
ラッセル | ……という主旨の報告で問題ないでしょうか、 恭遠審議官。 |
恭遠 | ええ……馬鹿げた話だと言われるかもしれませんが、 事実である以上そう報告するしかないでしょうね。 |
恭遠 | そもそも、マスターや貴銃士の存在自体も、 昔であればおとぎ話に思われるようなものですし……。 |
ラッセル | たしかに、そうですね……。 |
ラッセル | とはいえ……はぁ。 これからの報告のことを思うと胃が痛いですよ。 |
ラッセル | 取り急ぎ、イギリス支部とコンタクトを試みます。 脅威は去りましたし、応援が入っても問題ないでしょう。 負傷した兵士の救護も頼まねば……。 |
一旦外に出たラッセルが戻るまでの間、
ライク・ツーは数日前のやり取りを思い出していた。
ライク・ツー | …………。 |
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ラブ・ワン |
先においらから情報あげちゃう。 ……トルレ・シャフは、秘密の最終兵器を持ってるんだよ。 |
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ライク・ツー | 最終兵器……? ミルラか? |
ラブ・ワン | ノンノン。あれはもう時代にそぐわないっしょ? 詳しくは内緒だけど、ここだけの話…… 親世界帝派が勢力を拡大してるのにも、大きく関わってる。 |
ラブ・ワン | ライたんの目的も、秘密兵器があれば簡単に叶うかもよ? |
ライク・ツー | (秘密兵器って……まさか、この結晶のこと……?) |
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