──どこまで行っても白い壁、白い天井が続く地下施設の中。
誰にも見つからないように、青年は息をひそめて走る。
??? | はぁっ、はぁっ……。 |
---|---|
??? | ──で、分析の──。 |
??? | (……っ!) |
進行方向から話し声が聞こえてきて、青年は足を止める。
そして、近くにあったボイラー室へと駆け込んだ。
??? | (……ここは……) |
---|
青年が見渡した先に、はしごがあった。
はしごの先は見えないが、上へと長く続いている。
??? | (……外に通じてる、のか……?) |
---|
青年は、無我夢中ではしごへと手をかけた。
床に置いてあった荷物に足がぶつかり、工具が転がり落ちる。
??? | (……っ、しまった……!) |
---|---|
??? | おい、今何か音がしなかったか? |
??? | ボイラーの音か、振動で何かが落ちたか……。 とにかく確認しよう。 |
??? | (こっちに来る……!) |
青年は、物音を立てないように注意しつつ、
急いではしごを上っていく。
??? | (もう少し上がれば、 僕の姿は死角に入って見えないはず……!) |
---|---|
??? | (トーマスさん……僕は、負けません……! 第95連隊の誇りは……今もこの胸にあるから……!) |
はしごを上がりきった先には、重そうな金属製の蓋があった。
開けようと手を伸ばした時、すぐ下から足音が聞こえ、
青年は硬直する。
しかし、先程の声の主たちは、
室内を軽く点検し異変はないと判断したらしい。
しばらくして、ドアが閉まる音が聞こえてくる。
??? | (行ったか……) |
---|
青年は、慎重に金属製の蓋を押し開けた。
その途端──白く強い光が射し込み、思わず目を閉じる。
??? | ……! そ、と……外、だ……。 |
---|
木々の間を通り抜ける風の音、かすかな花の香り。
小鳥たちの囀り……無機質な地下室とは全く異なる情報の洪水に、
青年は呆然として、しばらくの間固まっていた。
しかしやがて、ゆっくりと外の世界へ一歩を踏み出す。
??? | 見つけた……これなら脱出ルートに使える……。 けど、ここはどのあたりなんだ……? |
---|
しばらく歩くと、周囲をぐるりと囲む古びた門に突き当たった。
門は固く閉じられており、押してもびくともしない。
??? | ────くそっ!! |
---|---|
??? | (いや、大丈夫だ。 森の方へ逃げるんだ。外に出られただけでも大収穫だろう!) |
??? | (あまり長時間戻らないと勘づかれかねない……。 今日はここまでにして──) |
??? | ……ん? 誰かいるのか? |
??? | ……っ!! |
──フィルクレヴァート士官学校、第二医務室。
普段は使われていない予備の医務室は、
目下、カウンセリングルームとして開放されている。
臨床心理士のフェデリコ・ロッシは、
招いた〇〇とやや斜めに向かい合い、
〇〇の話へと静かに耳を傾けていた。
ロッシ | そうか……判断ミスをしてしまった。 自分が悪いんじゃないか。そう思ってしまうんだね。 |
---|---|
主人公 | 【……止められたはずなんです】 【通信機を拾っていなければ、教官は……】 |
ロッシ | ……〇〇君。 君はきっと、授業でサバイバーズ・ギルトについて習っただろう。 |
ロッシ | 戦争や災害など、危険な状況で 奇跡的に生還した者が抱く罪悪感のことだ。 |
ロッシ | でも……現象を理解していたところで、 簡単に気持ちの整理はつかないよね。 |
ロッシ | どうしたって……生き残った者は考えてしまう。後悔してしまう。 もっと何かできたはずだ、助けられたんじゃないかと……。 |
〇〇は、ロッシの静かな声とともに、
セント・ディース島へ赴いた日のことを思い返していた。
謎の結晶、トルレ・シャフ、操られた兵士、そして……爆発。
──セント・ディース基地での事件から数日。
未だに被害の全容解明や被害者の身元確認が終わらない中、
捜索を妨げるような大雨が降っていた。
恭遠 | ──〇〇君。少しいいか? |
---|---|
恭遠 | 今しがた……イギリス支部の事後調査班から連絡があった。 先日の事件は犠牲者が多く、 爆発もあったせいで身元の特定が難航していたが……。 |
恭遠 | DNA鑑定の結果……ラッセル教官も、 犠牲者として認定されたそうだ。 |
恭遠の、慎重に〇〇のことを慮った言葉から、
爆発後の建物の捜索、身元確認作業がどれほど壮絶か悟り、
〇〇は唇を噛み締めた。
『遺体が発見された』──そう言えず、DNA鑑定が行われて、
犠牲になったものと判断されたからには……
きっと、ごく一部しか見つからなかったのだろう。
主人公 | 【(ラッセル教官が、亡くなった……)】 【(また、身近な人を喪ってしまった……)】 |
---|---|
恭遠 | 〇〇君……。 |
恭遠が慰めるように、
〇〇の肩を引き寄せる。
2人はしばらく、そのまま動けずにいた。
──その後、貴銃士たちにも、ラッセルの死が伝えられた。
恭遠 | ラッセル教官──ラッセル・ブルースマイル上級曹長の葬儀は、 近縁者がいないため、近日中に士官学校で行われるそうだ。 |
---|---|
ファル | 棺はほぼ空の状態で、ですか。 |
シャルルヴィル | それでも……みんなで、教官を偲ぶことに意味があるはずだよ。 きっと……。 |
マークス | マスター……。 |
ライク・ツー | …………。 |
恭遠 | 〇〇君や、 あの現場にいた貴銃士の皆は特に、心身の休養が必要だ。 |
恭遠 | しばらくは任務を入れないことでコペール中将とも合意している。 連合軍も、結晶の件や今回の事件で混乱しているし、 何より教官として、医師の承諾が出るまで任務はさせられない。 |
恭遠 | ……今は静かに、故人に思いを馳せよう。 |
ロッシ | ……彼の死をはっきりと認識した今、悲しみだけでなく、 罪悪感にも苛まれて苦しいだろう……。 |
---|---|
ロッシ | 無理はしなくていい。 少しずつ少しずつ、受け入れて、また一歩進めるように…… 私もできる限り力を尽くすよ。 |
主人公 | 【ですが……】 【不安、なんです】 |
ロッシ | うん、ゆっくり話してごらん。 |
〇〇は今までの出来事を思い返す。
マスターになったあの夜から、何度も危機を乗り越えてきた。
時には命の危険もあったけれど、なんとか無事やり遂げてきた。
それは……自分自身のこれまでの訓練の成果でもあり、
心強い貴銃士や、支えてくれる人たちのおかげだと思っていた。
だが……ひとつ、重要な要素のことを失念していた。
それは──運だ。
主人公 | 【これまでが幸運すぎたのかもしれません】 【きっと大丈夫だと油断したのかもしれません】 |
---|
何事にも絶対なんてないことを、
改めて思い知った〇〇は、無力感に肩を落とした。
ロッシ | ……〇〇君。 私の見解を伝えても構わないかな。 |
---|---|
主人公 | 【はい】 |
ロッシ | あの日、君がセント・ディース基地で目にしたのは、 想像を絶するような悲惨な光景だった。 |
ロッシ | ……私も、カサリステの一員だからね。 “完全結晶”と呼ばれていた結晶が引き起こした事象も含め、 報告書を見て一通り知っているよ。 |
ロッシ | 写真と文章ですら、寒気がするような現場だった。 私は元軍医で、酷い現場は数多く見てきたけれど、 それでも眉をひそめてしまうものだったよ。 |
ロッシ | 意図しない同士討ちにより死傷者多数、さらに爆発も…… そんな凄惨な現場は、熟練の兵士でもそう遭遇することはない。 まして、君はまだ学生。士官候補生なんだ。 |
ロッシ | そんな状況下で、ラブ・ワン、そしてライク・ツーのこともあり、 とても平静ではいられなかったはずだ。 それは当然のことで、恥ずべきことはないんだよ。 |
主人公 | 【ですが……】 【それでも……】 |
ロッシ | あの場には大人たちもいた。ラッセル教官も、その1人だ。 指揮系統から言えば、君に責任はない。 これは、はっきりしている。 |
ロッシ | 一生徒である君が、教官である彼を本当に止められたのか? 押し問答をしているうちに、全員が爆発に巻き込まれた…… そういう可能性もあるのではないか? |
ロッシ | 選択次第で、様々な未来があり得た分岐の瞬間だ。 だから、無数のIFを考えて後悔してしまうのも仕方がない。 それを責める気はないよ。 |
ロッシ | けれどね、ただ1つ確かなことがある。 ……ラッセル教官は、大切な生徒である君が傷つくのを 望まなかっただろうということだ。 |
主人公 | 【そう……ですね、きっと】 【はい……生徒想いの教官でしたから】 |
ロッシ | うん。 そうやって、彼に思いを馳せることも大切だよ。 |
ロッシ | 大事な人を亡くすのは、本当につらいことだ。 打ちひしがれて、殻に閉じこもりたくなる時もあるけれど…… 心の中の故人に語りかけると、答えがもらえたりするしね。 |
主人公 | 【フェデリコ先生もそうするんですか?】 【フェデリコ先生にもそういう経験が……?】 |
ロッシ | そうだね……。 今は随分と情勢が落ち着いてきたし、退役したから多くはない。 けれど、数年前は──珍しいことではなかった。 |
ロッシ | 特に、世界帝府が崩壊したあとの混乱期は大変なものだったよ。 発足したばかりの連合軍と、世界帝府の残党や支持者が 各地で何度も戦うことになってね。 |
---|---|
ロッシ | 私は世界帝府の統治時代、 イレーネ城近くの大学病院に勤めていて、 革命戦争後は連合軍に軍医として加わったんだ。 |
ロッシ | その頃は、昨夜未来を語り合った友が、 翌日に遺体となって私のところへ運ばれてくる…… そういうことも幾度か経験したよ。 |
ロッシ | 何もかも嫌になって投げ出したくなる時、 「あの人だったらどうするか?」を考えてみるんだ。 |
---|---|
ロッシ | そうすると、彼だったら、彼女だったら、 今の私を見てこう言うだろう……という言葉がわかる。 |
ロッシ | 「俺のことでいつまでもうじうじしてるなよ!」 「先生ならきっと多くの人の助けになれるわ」とか。 私の希望も混じっているかもしれないけれどね。 |
ロッシ | 生き残った私は、先に逝ってしまった彼らに 誇れるような人生を送ろうと思ったものだよ。 |
ロッシ | だから……そうだね、 今日はラッセル教官のことを想ってみよう。 彼は君にとってどんな教官だった? |
〇〇は、ラッセルとのこれまでのことを思い出す。
親しみやすいながらも締めるところは締め、
生徒から慕われている、頼れる教官。
貴銃士が来てからは振り回されることも多く、
新たな一面を見る機会も増えたように思う。
アメリカでは、政府を敵に回しかねない危険な賭けに、
〇〇と貴銃士たちとともに加わってくれた。
次々と思い浮かぶ出来事を話して聞かせると、
ロッシは優しく目を細める。
ロッシ | ……ふふ。 彼は、いい教官になったのだね。 |
---|---|
主人公 | 【ラッセル教官と面識が……?】 【ラッセル教官をご存知なんですか?】 |
ロッシ | さっき、私は連合軍で軍医をしていたと話したね。 革命戦争後の大混乱が少し落ち着いた頃…… 私は、イギリス支部で臨床心理士に転身したんだ。 |
ロッシ | その頃に、ラッセル君が患者として来たのが出会いだよ。 彼の右目については知っているかな。 戦場での負傷が原因で、視力がほとんど失われているんだが……。 |
---|---|
ロッシ | 怪我して間もないころ、彼がカウンセリングにやってきた。 兵士としてのキャリアは絶たれたようなもので、 ひどくショックを受けていたからね。 |
ロッシ | カウンセリングを重ねる中で、 彼は少しずつ現実を受け入れ、前向きになっていったよ。 士官学校の教官という新しい道を見出したのも大きかった。 |
ロッシ | …………。 |
---|
かつてのことを思い出したのか、柔らかな表情だったロッシは、
やがて沈黙し、表情を曇らせる。
ロッシ | 〇〇君や、彼の死を悼む生徒たちの様子を見れば、 ラッセル君が素晴らしい教官になったことはわかる。 ……神は、残酷だ。 |
---|
〇〇はふと、ヴィヴィアンの葬儀で見かけた、
彼女の母のことを思い出していた。
主人公 | 【(これ以上の悲しみは御免だ)】 【(どうすれば犠牲をなくせるんだろう)】 |
---|---|
ロッシ | ……革命戦争が終結して、紆余曲折を経ながら、 世界全体の情勢はずいぶんと落ち着いてきたね。 |
ロッシ | けれど……連合軍と、トルレ・シャフをはじめとする親世界帝派、 その他の勢力の衝突は今でも続いている。 そして、これからも犠牲は出続ける……。 |
ロッシ | 争いのない世界を──これは、多くの人の願いであるはずなのに、 なかなかどうして遠い目標だ。 |
ロッシ | ……っと、すまない。 君のカウンセリングなのに、私がすっかり話し込んでしまった。 |
主人公 | 【いえ、貴重なお話が聞けました】 【1人で話すより気が楽です】 |
ロッシ | それならよかったよ。 ……さて、今日のカウンセリングはここまでにしよう。 |
ロッシ | 話すことも大事だけれど、 休養はそれ以上に大切だからね。 |
主人公 | 【完全結晶については何かわかりましたか?】 |
ロッシ | ああ、カサリステ研究員が引き続き研究を進めているよ。 私も臨床心理士として時折見解を求められているけれど、 セント・ディース基地の現物が消滅してしまっているからね……。 |
ロッシ | 〇〇君が見たという黄色がかったものと、 トルレ・シャフ構成員が所持していた紫色のものが同一なのか、 なぜそういった差異が現れたのか……。 |
ロッシ | 透明な結晶が色づく条件や、 色を帯びた、彼らが“完全結晶”と呼んでいた物体の効果、 解明すべきことは山ほどあるが、慎重にならざるをえない。 |
ロッシ | セント・ディース基地の事例などからして、 あの結晶に人のみならず貴銃士をも操る力があるのはほぼ確実。 使い方次第ではとんでもない危険物質だ。 |
ロッシ | トルレ・シャフに利用された、 エヴァンズ教官の二の舞になってはいけないからね……。 |
主人公 | 【エヴァンズ教官は……】 |
エヴァンズは、爆発を起こした連合軍基地からの帰還後、
行方がわからなくなっている。
ロッシ | 連合軍が行方を探しているけれど、今のところは何も……。 誇り高い人だったそうだから、 操られたことを恥じて遁走したという見方が強いみたいだね。 |
---|---|
ロッシ | あるいは……という声もあるが……。 何かわかれば、君にもすぐ伝えよう。 |
──コンコン
ロッシ | ……どうぞ。 |
---|---|
恭遠 | 失礼します、フェデリコ先生。 〇〇君に用がありまして。 カウンセリングは── |
ロッシ | ちょうど終わったところですよ。 |
恭遠 | では……。 |
手招きされて、〇〇は恭遠のところへ行く。
恭遠 | ドイツから、彼が来たんだ。 |
---|
ゴースト | ふふ……転入初日のコーディネートはこうでねーと。 |
---|---|
主人公 | 【ゴースト!】 【その格好は……?】 |
ゴースト | まあまあ久しぶり、だな……。 |
ゴースト | 第一印象が大事……だろうと、思って……。 こんだけ派手な帽子とフサフサヒゲがあれば…… インパクトがあって、気づかれんことはない、だろ……。 |
再び赴いたドイツでいろいろとあったのち、
〇〇の貴銃士となったジーグブルートとゴースト。
ゴーストは用事を残しているため、
片づき次第士官学校に向かうという話だった。
恭遠 | と……とりあえず、貴銃士特別クラスに案内するよ。 事情を皆にも伝えないとな。 |
---|
ゴースト | どうも……! |
---|---|
シャルルヴィル&シャスポー | ……!? |
ファル&ミカエル | …………。 |
マークス&十手 | …………。 |
ゴースト | ……う……っ。 |
ゴースト | ……ダダ滑り……。 いっそ、存在に気づかれない方がマシ、だった、か……? |
ジョージ | えっと、面白いと思うぜ、うん! |
恭遠 | すまないな……。 皆、まだなかなか、そういう空気には……いや……。 |
ゴースト | なら……これ、だ……。 |
ゴーストは鞄から袋を取り出した。
中にはパンがたくさん入っている。
ゴースト | これ……お土産のパン。 みんなで食べようと思ってたくさん持ってきたん、だけど……。 この袋── |
---|---|
タバティエール | ……? |
ゴースト | パンでパンパン、だ……! |
カトラリー | …………。 |
ゴースト | ん、1つだけ形の違うパンがある。 これは……カニだよな? カニがいるよな……? |
マークス | それがどうした。 |
ゴースト | 蟹がいる……よな? |
十手 | はっ……! た……『たしカニ』……!? |
ゴースト | そう……それそれ! |
ゴーストが嬉しそうに拍手をする。
ジョージ | ……ぷっ! |
---|---|
スプリングフィールド | ふ、ふふ……。 |
教室内から小さな笑い声があがる。
このところ続いていた重苦しい空気が、少しだけ和らいだ。
シャスポー | はぁ……こんなしょうもないことで笑うなんて……。 いや、しょうもなさすぎて笑うしかないのか……? |
---|---|
ジョージ | オレ、腹減っちゃった! パンくれよ、ゴースト! |
ゴースト | うん……。 |
恭遠 | さて、改めて紹介しよう。 彼はゴースト。ドイツ生まれ、DG11の貴銃士だ。 |
恭遠 | ドイツでは親世界帝派との局地的な内乱が続いていたが、 完全鎮圧も目前という状態まできている。 |
恭遠 | アウトレイジャーの出現数も減っているため、 貴銃士は最前線から退き、 ドイツ支部の兵士を中心に対応にあたっているそうだ。 |
ゴースト | ああ……ドライゼとエルメの兄さんは、 指揮官でもあるから……まだ時々しか顔出せ……ないけど。 俺は、ぼちぼち暇だから……こっちに来てみた。 |
恭遠 | ……ということだ。 今後の任務を手伝ってもらうことになる。 みんな、仲良くしてくれ。 |
マークス | ──と言っても、今は任務がないだろう。 |
恭遠 | そうだな。 当面は君たちと同じように学校生活を送ってもらうから、 ゴーストの席を決めてくれ。 |
ゴースト | ……なあ。ライク・ツーはいないのか? |
恭遠 | ああ……ライク・ツーは、今日は休みみたいだな。 彼にもいろいろあったから…… 今は、時間が必要なんだろう。 |
ゴースト | へぇ……。 |
ライク・ツー | …………。 |
---|
恭遠 | ライク・ツー。 君の過去について、セント・ディース基地で明かされたことは あの場にいた生存者の中だけで秘匿することとする。 |
---|---|
ライク・ツー | ……いいのか……それで。 |
恭遠 | 君が元世界帝軍の貴銃士だったことは、ひどく衝撃を受けたよ。 だが、過去を隠してきた理由、その目的、それらを聞いて、 〇〇君も私も、偽りはないと判断した。 |
恭遠 | しかし、元世界帝軍の貴銃士ということで、 連合軍内には拒絶する者もいるだろう。 君に危険が及ぶ可能性も考えられる。 |
恭遠 | 君は対外的にはこれまで通り、世界帝軍とは関係のない銃で、 変わらず〇〇君の貴銃士だ。 〇〇君と共に、これからも任務に当たってほしい。 |
主人公 | 【今度こそ本当に仲間だ】 【本当のライク・ツーを知れて良かった】 |
ライク・ツー | 〇〇……。 |
ライク・ツー | ……俺にできることが、まだあるかはわからないけど……。 やるよ。お前が折れない限り、俺も折れない。 |
ライク・ツーと〇〇は握手を交わす。
しかし、ライク・ツーの手はどこか弱々しかった。
ライク・ツー | そうだ。ヴィヴィアンの父親は? あいつは俺が元世界帝軍の貴銃士だって暴露してたろ。 |
---|---|
恭遠 | リントンロッジ氏については……。 家宅捜索の結果トルレ・シャフとの関係が確認され、 勾留されている。 |
恭遠 | ただ、半狂乱状態のため、 証言の信憑性については疑念を持たれている。 |
ライク・ツー | なら放っておいていいか。 ……ラブ・ワンは? |
恭遠 | 彼については庇いようがない。 トルレ・シャフの貴銃士が、スパイとして入り込んでおり、 我々で対処した──そのように報告するよ。 |
ライク・ツー | ……っ……そう、だな……。 |
ライク・ツー | 僕は、諦めない……。 だけど、少しだけ……立ち止まっても、いいかな……。 |
---|---|
ライク・ツー | お兄ちゃん……。 |
恭遠 | 君たち、〇〇君を見なかったか? |
---|---|
ミカエル | さぁ……どうだったかな。 |
ファル | 見ていませんね。 |
カトラリー | 談話室とか寮の部屋は? |
恭遠 | もう見たけれど、いなかったんだ。 どうしようか……緊急で連合本部に戻らないといけなくて、 出立前に一言かけておきたいんだが……。 |
恭遠 | ……ん? 今のは……〇〇君の声か? |
だんだんと大きくなっていく声は、
何かを言い争っているような調子だ。
恭遠は急いで声の方へと向かった。
ロッシ | 駄目だよ、〇〇君。 私はまだ任務復帰の許可を与えていない。 |
---|---|
主人公 | 【自分はもう大丈夫です】 【任務に行かせてください】 |
恭遠 | 〇〇君、フェデリコ先生……! 一体どうしたんです? |
ロッシ | 恭遠審議官……。 実は、アウトレイジャー討伐任務への応援要請が来ていまして。 |
ロッシ | ですがまだ、〇〇君は全快とは言えません。 今回は休養を優先して、 要請は断るべきだと言っているのですが……。 |
主人公 | 【助けが必要なら行くべきです】 【自分は健康で、任務に支障はありません】 |
ロッシ | 確かに肉体的には健康かもしれない。 だが、あんなことがあったばかりなのに、 また過酷な任務に行くなど……! |
ロッシ | 〇〇君。 前にも言ったけれど、君はまだ学生なんだ。 少しは自分のことを優先しなさい。 |
ゴースト | …………。 |
主人公 | 【……もう誰かが傷つくのは見たくありません】 【誰かが傷つくより自分が傷つく方がいいです】 |
ロッシ | 世界の銃、そして盾となれ──その精神は立派だけれども。 あまり無茶をするものではないよ。 君は1人しかいないんだ。 |
主人公 | 【すべての人がそうです】 【でも、見捨てることはできません】 |
ロッシ | 〇〇君……。 やれやれ。噂に聞いていた通り、こうと決めると君は頑固だね。 |
ロッシ | それとも……忙しく動いていた方が、 気が紛れて楽になれるかい? |
主人公 | 【……!】 |
ゴースト | ……行ったら、いいんじゃないか? |
恭遠 | ゴースト? いつの間に……。 |
ゴースト | 応援要請の内容……ちょろっと聞いてたん、だけど……。 アウトレイジャーの数はそこまで多くない…… 普通の任務みたいだった。 |
ゴースト | いずれ、任務に復帰するんだったら…… こういうのから、調子を戻していか……ないと いけないんじゃないか……? |
恭遠 | …………。 そうだな……ゴーストの意見も一理ある。 |
恭遠 | それに……フェデリコ先生。 〇〇君にとって、任務があることを知った上で 何もせずにいることは、ストレスになるかと思います。 |
ロッシ | ……確かにそうですね……。 ですがやはり、単独での任務は認められません。 |
ロッシ | なので……私が同行しましょう。 |
恭遠 | フェデリコ先生が? |
ロッシ | はい。私はラッセル教官に代わり、 カサリステと〇〇君を繋ぎ、指揮をする立場です。 それに、不測の事態が起きた時の助けにもなるでしょう。 |
ロッシ | 今は臨床心理士としての仕事を主にしていますが、 私は医師ですし、連合軍で軍医の経験もありますからね。 |
恭遠 | ふむ……。 確かに、フェデリコ先生は適任ですね。 |
恭遠 | 〇〇君、任務中はフェデリコ先生の指示に従い、 無理はしないこと。いいね。 |
主人公 | 【わかりました】 【イエッサー!】 |
ロッシ | それでは、〇〇君。 君は、参加する貴銃士の選定を頼むよ。 集合は明朝7時、正門だ。 |
ゴースト | ……俺も、行っていい、か……? メンバーに、立候補する。 |
主人公 | 【ありがとう!】 【頑張ろう】 |
ゴースト | ……初任務、だ……。気合い、入れなきゃな……。 あ、そうだ……その前に……。 |
──メモリアルウォールにて。
ヴィヴィアン・リントンロッジの名前の下に、
ラッセル・ブルースマイルの名前が新しく彫られている。
ライク・ツー | …………。 |
---|
──セント・ディース基地での事件の翌日。
ライク・ツーは1人ひっそりと、教官居住区を訪れていた。
教官居住区は士官学校の所有地内にあるが
教官の家族である民間人も過ごすため、学校を囲む塀の外にあり、
一見すると普通の住宅地のようだ。
ライク・ツー | (……あの日ヴィヴィアンが結晶を盗んだのには、 ラッセルが何かしら関係してる。 あの時はまだ銃だったから、はっきりはわからねぇけど……) |
---|---|
ライク・ツー | (ラッセルはヴィヴィアンに何をさせようとしてた? 爆発のタイミング的に、ただの事故じゃない可能性もある。 〇〇に話す前に、もっと情報が欲しい……) |
ライク・ツー | (ん……先客か?) |
ライク・ツーの視線の先では、連合軍の兵士が数人、
ラッセルの家からダンボールを運び出していた。
ライク・ツー | (……カサリステの差し金か? 誰かに見られる前に、機密関係の資料がないか 確認と回収に来た……?) |
---|---|
ライク・ツー | (けど……動きが早すぎる気がする。 まだ安否不明なのに……死んだって確証があるのか? それとも他に何か理由が……?) |
ライク・ツーは、連合軍兵士が去ったのを確認して、
ラッセルの家に忍び込んだ。
ライク・ツー | ……荒らされてるわけじゃなさそうだな。 |
---|
質素な部屋には、動物の絵はがきが入った写真立てや、
マトリョーシカなどが置かれている。
ライク・ツー | なんだこりゃ……ああ、十手のおっさんと〇〇が 日本に行った時の土産の……たしか、ダルマだったか。 |
---|
室内を見回したライク・ツーは、
ふと、タータンチェックの壁掛けに目を留めた。
ライク・ツー | あいつ、こういうのが趣味だったのか? |
---|
ふと壁掛けを外してみるが、ただの壁があるだけだ。
しかし何かが気になり軽くノックをしてみると、
周囲の壁と異なり、音が響くことに気づく。
ライク・ツー | ……空間がある。 |
---|
机にあったペーパーナイフを手に取ったライク・ツーは、
慎重に羽目板を外す。
すると、小さな隠しスペースが現れた。
中にはただ一枚、古びた写真だけが入っている。
そこには、肩を組んだ少年と少女が写っていた。
ライク・ツー | 写真……? この顔立ち……もしかしてラッセルか? もう1人は……ラッセルに微妙に似てる気もするけど、 よくわかんねぇな。兄妹か、友達か……。 |
---|
裏返すと、かすれた文字でメッセージが書き込まれていた。
──”I always hope your happiness.”
ライク・ツー | (あの写真、ラッセルが隠してたのも気になるし、 とりあえず持ってきちまったけど……) |
---|
ライク・ツーは、写真を入れている
内ポケットのあたりに手を当てる。
それから、メモリアルウォールへと手を伸ばした。
ラッセル・ブルースマイルの名前の上にある、
ヴィヴィアン・リントンロッジと彫られた部分に触れる。
ライク・ツー | なあ、お前はどう思う? あいつにも何か事情があるのか……? |
---|---|
ゴースト | 独り言、か……? |
ライク・ツー | ……っ!! |
ゴースト | それとも、幽霊の友達でもいたりして……。 |
ライク・ツー | ……幽霊はそっちだろ、存在感ねぇやつだな。 つーか、いつからいたんだよ!! |
ゴースト | ひどっ! |
ゴースト | ……けっこう前からいた、けど。 |
ライク・ツー | あっそ。 ……こんなとこになんの用事だ? |
ゴースト | ラッセル教官のことは……ドイツで聞いた。 士官学校に来たからには…… ここにも来とこうと思って、な……。 |
ゴースト | あんまり知ら……ない人、だけど。 〇〇やらみんなに慕われてたってのは、わかる。 |
ゴースト | ……だから、来てみた。 |
ライク・ツー | ……そうか。 |
ゴーストはメモリアルウォールに刻まれたラッセルの名前を、
じっと見つめた。
ゴースト | 大事な人がいなくなるってのは……つらいこと、だ。 |
---|---|
ゴースト | ……あんたも大変だったみたい、だな。 |
ライク・ツー | ……っ! |
ゴースト |
前の「転入生」のことも、聞いた…… UL85A1……ラブ・ワン。 漢気のある、いいやつだったんだな。 |
---|---|
ゴースト | 自分が消える──いや、消される、か。 そうわかってて、あんたに何も言わずに、 大切なあんたの意思を尊重して……消えてった。 |
ライク・ツー | …………。 |
ゴースト | 立派なやつ……だと思う。 自分のことより、誰かを想えるなんて……な。 |
ラブ・ワン | おいらは……どのみち終わりが決まってるなら、 最期にライたんの本心を知りたかった。 |
---|---|
ラブ・ワン | わがままなお兄ちゃんでごめんね、ライたん。 ライたんは諦めないでさ、やっちゃいなよ、名誉挽回。 |
ライク・ツー | めちゃくちゃにしといて……っ、 何馬鹿なこと言ってんだよ……。 |
ラブ・ワン | いや、ほんとゴメンッ! でも……応援してるよ。 |
ラブ・ワン | おいら……他のどのUL85A2でもない、 “ライたん”が弟で、本当に楽しかった。 |
ライク・ツー | ……っ、待って……! |
ラブ・ワン | じゃあね。Bye〜★ |
ライク・ツーは、強く拳を握りしめる。
ゴースト | いや……本当に、すごいよなぁ……。 俺は……エルメの義兄さんのために、そこまでできるか…… たぶん、できないと思う……。 |
---|---|
ゴースト | それに、兄ちゃんと天秤にかけても譲れ……ないくらいの 強い思いがあるあんたも、すごい……。 |
ライク・ツー | (……黙れ、違う。 俺は天秤にかけたんじゃない。 俺は、天秤があることすら知らなかったようなもんだ) |
ゴースト | 消えちゃった兄ちゃんのためにも…… あんたのやりたいこと、絶対やり遂げないと、だな……。 |
ライク・ツー | …………。 話はそれだけか。 |
ゴースト | ……そう、だな……。 俺たちは、明日任務に発つ……。 |
ライク・ツー | 任務に? あいつ、もう立ち直ったのか……。 |
ゴースト | 授業、休んでないで出ろよ……。 じゃあな。 |
ゴーストが立ち去ると、
ライク・ツーはため息とともにその場にしゃがみ込む。
ライク・ツー | クソ……。 |
---|
ラブ・ワン | じゃあね。Bye〜★ |
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ライク・ツー | (1人で勝手に覚悟決めて、笑顔で綺麗に消えやがって……。 未練なんて何もねぇみたいに……! せめて、本体を握られてるって知ってれば……!) |
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ライク・ツー | (……いや。 だけど、あの時俺が言ったのは本心だ。 トルレ・シャフ側に行くつもりはねぇ) |
ライク・ツー | (だったら、結末はどのみち同じだったのか……? でも、もっと何かできたかもしれねぇだろ) |
ライク・ツー | (……後悔したって、何もかもが手遅れだ。 壊れたものは完全に元通りにはならない。 死んだ人間も蘇らない) |
ライク・ツー | ……はぁ……。 |
翌日。〇〇と5人の貴銃士──
マークス、十手、タバティエール、カトラリー、ゴースト、
そしてロッシの総勢7人で任務に向かうことになった。
アウトレイジャー討伐を要請してきたという
山間部のプラトー村へ向けて進んでいた一行は、
出発から2時間ほどで早速数体のアウトレイジャーと遭遇した。
アウトレイジャー | ウウウ……。 |
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十手 | やれるかい、カトラリー君! |
カトラリー | 当たり前でしょ。さっさと合わせて。 |
十手&カトラリー | ──絶対高貴! |
アウトレイジャー | グァァアア……! |
タバティエール | お疲れさん、2人とも。 |
十手 | ありがとう。 カトラリー君がどんどん強くなっていて頼もしいよ。 これは俺も負けてられないなぁ! |
カトラリー | 別に……これくらい普通でしょ。 っていうか、みんなもっと働きなよ。 |
マークス | …………。 |
タバティエール | マークスくん? |
周囲へ鋭い視線を向けていたマークスは、
やがてゆっくりと息をついた。
マークス | 近くに他のアウトレイジャーの気配はなさそうだ。 だが、引き続き警戒する。お前らも気を抜くな。 |
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カトラリー | 別に……気なんか抜いてないけど。 |
カトラリー | (マークス……ずっとピリピリしてる。 あんなことがあったあとだし、無理もないけど) |
マークス | マスターも……俺のそばから離れないでくれ。 |
しばらく進んだ一行は、一度休憩を取ることにした。
ゴースト | 俺は……少し、周りを見てくる。 |
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ロッシ | では、私も行こう。 その……用もあるから。 |
ゴースト | 用……?……ああ、用を足す用、か。 |
ロッシ | ゴホン! 察したならわざわざ言わないでほしいよ。 |
2人は木立の中に消えていく。
残る5人はそれぞれ、水分や糖分補給を始めた。
タバティエール | 〇〇ちゃん、クッキー食べるかい? |
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主人公 | 【ありがとう、もらうよ】 【うん、おいしそうだね】 |
十手 | 甘いものを食べるとなんだか力が出てくるね。 タバティエール君が作った美味しいものならなおさらだ! |
タバティエール | はは、ありがとな。 |
カトラリー | ねぇ、もう1枚──って、あれ……? |
カトラリー | わ、雨降ってきた! クッキーが湿気っちゃうよ。 |
──ガサッ
マークス | ……? 白衣の奴とゴーストか? |
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カトラリー | フェデリコ・ロッシ。名前くらい覚えなよ。 せめて「先生」って呼ぶとかさ。 |
マークス | どうでもいい。 それより、迎撃準備だ。敵かもしれない。 |
ガサガサと落ち葉を踏む足音が近づいてくる。
マークスだけでなく、他の貴銃士たちと
〇〇も警戒態勢を取った。
アウトレイジャー | 殺、ス……。 |
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タバティエール | おでましか……! |
十手 | 〇〇君は傷つけさせないよ。──絶対高貴! |
アウトレイジャー | ウウッ……! |
カトラリー | 避けられた……っ!? |
タバティエール | 絶対高貴───心銃! |
獣のような俊敏さで十手の初撃を避けたアウトレイジャー。
だが、アウトレイジャーが一行を攻撃するより先に、
討ち損じに備えていたタバティエールの心銃に撃ち抜かれる。
アウトレイジャー | ガァァッ……! |
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タバティエール | ……ふぅ。なんとか片付いたな。 |
──ガサガサッ
マークス | いや、まだだ! |
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マークスが銃を構えた次の瞬間──
ロッシ | ま、待て待て! 私たちだ! 撃つんじゃない! |
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カトラリー | なんだ、あんたたちだったの。 |
十手 | ……って、ゴースト君!? どうしたんだい!? まさか、アウトレイジャーに……!? |
ゴーストは、ロッシに肩を貸してもらって
なんとか歩いている状態だ。
〇〇は慌てて駆け寄る。
主人公 | 【大丈夫!?】 【負傷部位はどこ!?】 |
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ゴースト | 大丈夫、だ……。 足を捻っただけ、だから。 |
マークス | は……? 何やってるんだ、あんたは。 |
ゴースト | いや……雨が降ってきた、だろ……? 湿った落ち葉で、足がズルッと、こう……な……? |
〇〇がゴーストの足首を確認してみると、
やや赤くなって腫れているのがわかる。
ロッシ | 骨折ではなさそうだが、おそらく中程度の捻挫だね。 靭帯を痛めているかもしれないから、足首を固定して── |
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ロッシ | ……いや、貴銃士にそういう必要はないのだったね。 |
主人公 | 【自分に任せてください】 【治療します】 |
〇〇は、腫れているゴーストの足首に手をかざす。
温かく淡い光が患部に降り注ぎ、腫れはあっという間に引いた。
ロッシ | ……! これが……「マスター」の力……! |
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ゴースト | ありがと、な……。助かった。 |
マークス | もう間抜けなことでマスターの手を煩わせるなよ。 |
ゴースト | ……厳しいやつ、だな……。 |
ロッシ | …………。 知識としては知っていたつもりだが、 目の当たりにすると貴銃士とマスターというのはすごいものだね。 |
ロッシ | 一体どういうメカニズムなんだろうか……。 貴銃士の肉体はマスターに宿る薔薇の傷と、 マスター自身の力に支えられているとして── |
ロッシ | 貴銃士を構成する細胞にマスターの力は深く関連しているから、 細胞の治癒力を飛躍的に高めるような働きかけができるのか? あるいは正常状態が記録されていてその状態に復元している……? |
ゴーストは、ロッシからそっと距離を取った。
ゴースト | こわ……なんか、解剖されそうな熱を感じた……。 |
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カトラリー | ちょっとローレンツっぽかったよね、今の。 |
ロッシ | すまない……医者として、傷が一瞬で治る奇跡の光景は、 どうにも探究心がそそられてしまってね……。 |
マークス | おい、それより先を急ごう。 雨が強くなってきた。 |
ロッシ | ああ。 目的地のプラトー村はもうすぐのはずだよ。 足元に気をつけて進もう。 |
──それから30分ほどで、一行は山間の小さな村に到着した。
ロッシ | ここがプラトー村だ。 この村周辺で度々アウトレイジャーが出没していることから、 連合軍からカサリステへ討伐依頼が来たようだ。 |
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カトラリー | こんな山の上の不便そうなとこに村がねぇ……。 アウトレイジャーも出て危ないし、 わざわざここに住まなくてもいいのに。 |
十手 | 愛着のある土地からは、そう簡単に離れられないものさ。 住めば都って言うし…… そうでなくても俺は、のどかで素敵なところだと思ったよ。 |
カトラリー | ふぅん……そっか。 まあ、こういうのが気に入る人にとってはいいとこなのかもね。 |
ロッシ | 私もあまり詳しくはないんだが、 任務の事前資料によれば、村民は100人程度だそうだ。 見える範囲にある家は……50世帯くらいといったところかな。 |
カトラリー | ……フレンチ料理は期待できそうにないね。 他に何か名物でもあればいいけど。 |
司祭 | ……おや? 連合軍の方ですね。 さあ、こちらへ! |
小ぢんまりとした教会から、1人の司祭が出てくる。
雨に濡れた一行は教会の軒下に駆け寄った。
司祭 | 危険な道中を、よくぞおいでくださいました。 司祭のジョゼフ・ワダムズです。 |
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司祭 | どうぞ、中へお入りください。 すぐにタオルをお持ちします。 |
7人は、薄手のタオルで濡れた髪や服を拭き、
控えめに薪がくべられている暖炉で冷えた身体を温める。
司祭 | 武装襲撃犯が森に潜んでいると軍から警告を受け、 村民はここしばらく恐ろしい思いをしていましたが、 これでようやく安心できますよ。 |
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司祭 | 街への交易にも出られる……本当に助かります。 小さな村ですが、どうぞごゆっくりお過ごしください。 |
タバティエール | 助かるぜ。 そんな状況だったなら、物資も食料も不足してるんじゃないか? 軍に支援を要請した方がよければ言ってくれよ。 |
司祭 | 少し不足気味ですが、大丈夫ですよ。 教会で備蓄をしておりましたし、こういう小さな村ですから、 村民同士で分かち合い、乗り越えております。 |
十手 | 昔ながらの温かい村なんだね。 |
司祭 | ええ。今時なかなかこういう地はないかもしれませんね。 |
司祭 | 都会の暮らしをされている皆さんには不便に感じられるかも しれませんが……。 任務でのご滞在中、せめて温かい食事と、 教会の客間を提供させていただきます。 |
主人公 | 【ありがとうございます】 【お世話になります】 |
司祭 | さ、もう少ししたら夕食の時間ですからね。 その時、皆さんを村の者たちに紹介させてください。 |
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