司祭 | そういえば……先日、あなたのご両親のことを耳にしました。 さぞつらく寂しい思いをされたことでしょう……。 |
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司祭 | あなたもこの村の子供であったなら、 寂しさや悲しみも長くは続かなかったかもしれません。 |
司祭 | どの子供も皆が平等に、 大人たちの愛のもと育っているのですから。 |
主人公 | 【(そう……なんだろうか?)】 【(本当に……?)】 |
しかし──と、〇〇は首を横に振る。
これがこの村の常識で、小さい頃からそういう文化・環境に
身を置いていたなら、サムの反応も不自然ではないかもしれない。
トバイアス | 司祭様、食料を1人分、お戻ししますね。 |
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司祭 | トバイアス……ええ、受け取りましょう。 フィリップのことは……残念でした。 |
司祭 | 18歳になったばかりでしたね……。 しかし彼は今、安らぎの国にいるはずです。 |
トバイアス | はい……。 |
十手 | ……ちょっと待ってくれ。 食料を戻すってのは、どういうことだい? |
トバイアス | この村で、食料は貴重です。 一度教会に持ち寄り、家族の人数に合わせて平等に分配します。 我が家は……1人減ってしまったので。 |
トバイアス | 司祭様にお願いして、 また分配してもらうのです。 |
十手 | そ……そこまでする必要はあるのかな…… いや、部外者の俺が口を出すことでもないと思うんだが……。 |
トバイアス | ……日没前に、土砂がさらに崩れる傾向があったので、 二次災害を防ぐために、 捜索は打ち切りにすることを村の皆で決めました。 |
トバイアス | フィリップが帰ってくることはありません……。 ですから、食料は然るべきところへ── フィリップが食べるはずだった、パン……。 |
トバイアス | ……フィリップ……。 |
穏やかに話していたトバイアスだったが、
突然、ぽろぽろと涙をこぼし始める。
トバイアス | ……あれ……なんで、私は泣いて……? |
---|---|
司祭 | ……トバイアス。大丈夫ですよ。 奥の部屋で少し休んで、共に祈りましょう。 フィリップが天の国で休めるよう……。 |
司祭 | 安心してください。 今、貴方の魂は暗闇の中にいますが、 私がきちんと光まで導きますから。 |
司祭にそっと背中を押され、トバイアスは歩きだす。
2人は教会の奥に繋がる扉へと入っていった。
カトラリー | なんでもなにも…… 自分の息子が死んじゃって泣くのは当たり前じゃん。 なに、あの人……? |
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タバティエール | ああ……。 |
十手 | 分かち合う、か……決まりと言ったって、 無理にする必要はないと思うんだが……。 確かに、この村の食糧事情は厳しいものがあるしなぁ。 |
ゴースト | 俺たちは、村人じゃない……から、 あんまり余計なこと……言えないよな。 |
十手 | ああ……。 |
ロッシ | 我々の価値基準で介入するのは、文化の否定にもつながる……。 賢明な判断だと思うよ。 |
〇〇たちは、
複雑な気持ちを抱えながら、借り家へと帰った。
───翌日から、アウトレイジャー捜索と復興活動がはじまった。
ロッシ | 私とタバティエール、十手の3人は村に残って、 治療と炊き出し、家屋の修繕をするよ。 |
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ロッシ | 君たちは、何かあったらすぐに村へ戻るように。 戦闘の音が聞こえたら、私たちもすぐに向かうよ。 |
主人公 | 【イエッサー!】 |
カトラリー | 今日こそ任務が終わるといいよね。 それじゃ、行こっか。 |
カトラリー | ……ねぇ、ちょっと気になってるんだけどさ。 やっぱり、あの村って変じゃない? |
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マークス | そうだな……だが、妙な匂いはしない。 |
ゴースト | 全部鼻が基準な……のか……。 |
主人公 | 【いろんな文化の地域があるから】 【一概に変とは言えないよ】 |
カトラリー | それはそうなんだけど……。 でも、なんか不気味なんだ。 |
カトラリー | 無理に感情を押さえつけて、変に笑ってさ。 ゾワッてするっていうか……ああもう、上手く言えないけど! |
カトラリー | 大体、あんなごはんで我慢できてることも異常だよ。 |
ゴースト | 結局そこ、なのか……。 |
マークス | ああ……マスターのカレーが食べたい。 |
カトラリー | もう、真面目に聞きなよ! |
ゴースト | やかまし……。 |
───ガサッ!
一同 | ……! |
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アウトレイジャー | ……破壊……スル……。 |
ゴースト | ほら……あんたがやかましいからお出まし、だ……。 |
カトラリー | えっ……こいつら、大声で寄ってくるワケ!? っていうか、そんなに騒がしくしてないし……。 |
マークス | やっと出会えたな。 おい、やるぞ! |
ゴースト | おー……。 |
マークス | ──討伐完了。 これで最後のアウトレイジャーだといいんだが。 |
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主人公 | 【お疲れ様】 【一旦村に戻ろうか】 |
ゴースト | ああ……。 |
村に戻ると、教会の前に村人が列を作っていた。
タバティエール | おう、〇〇ちゃんたちか。 今ちょうど炊き出しが始まったところだよ。 |
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手伝いの村人 | 家が無事な人はこっちです! 配給箱を持って並んでくださいねー! |
カトラリー | 配給箱? |
タバティエール | なんでも、週に2回か3回食料をみんなに分配しているらしいぜ。 今日は、ミルクにチーズ、野菜と卵の日なんだと。 |
カトラリー | へぇ、結構充実してるね。 麓に行けるようになったからかな。 |
マークス | そういや、炊き出しってのは? |
タバティエール | 家が全壊した人も結構いるだろ? 料理ができないだろうから、その人たちに食事を作ったんだ。 |
タバティエール | 皆の分も作らせてもらったから、食べてくれよ。 |
マークス&カトラリー | よし……! やった……! |
トバイアス | ……すみません、大人2人、子供2人分をお願いします。 とてもいい香りで、家族皆お腹がすいてしまって。 |
十手 | ……! ああ、すぐに準備するよ。 |
カトラリー | (あの人って、昨日の……) |
トバイアス | フィリップが帰ってくることはありません……。 ですから、食料は然るべきところへ── フィリップが食べるはずだった、パン……。 |
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トバイアス | ……フィリップ……。 |
カトラリー | (あんなに悲しそうだったのに…… 4人で“家族皆”って、あんなにあっさり……) |
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カトラリー | …………。 |
カトラリー | (やっぱり変な村だよ、ここ……。 ああもう、早く帰りたい……) |
カトラリーは、賑わう教会から離れていく。
村の入口あたりでしゃがみ込んでいると、
近づいてくる足音が聞こえた。
カトラリー | 何……? またアウトレイジャーとか勘弁なんだけど……! |
---|---|
??? | ああ、ここだ……プラトー村……! |
カトラリー | ……? |
現れたのは、あまり身ぎれいとは言えない男性だった。
白いシャツは汚れてまだらに茶色くなっており、
リュックや靴などもほつれが目立つ。
カトラリー | ……あんた、この村の人? |
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男性 | ああ……いや、ああ、そうなんだが……。 |
カトラリー | どっちなのかはっきりしなよ。 |
男性 | この村の出身だが、戻ってくるのは数年ぶりなんだ。 お前もプラトー村の子供か? にしちゃあ毛色が違うが。 |
カトラリー | 僕は仕事で来ただけ! 村の人なら……ほら、教会の前にいるよ。 |
男性 | そうか、ありがとう。 |
教会の方へと視線を向けた男性は、 ある人物を見て大きく目を見開く。
男性 | あ……おふくろ……。 ……おふくろ! |
---|
駆け出した男性は、おばあさんの前で足を止めた。
老婆 | なんだい……? |
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男性 | その声……ちょっとしわがれたけど、やっぱりおふくろだ! |
男性 | ずっと帰らなくてごめんよ、おふくろ……やっと会えた……! |
老婆 | …………。 |
老婆 | ……失礼だけど、どちら様かねぇ? あたしの子供は、娘が1人なんだけれど。 |
男性 | え……、は……? |
アンディ | 何言っているんだよ、おふくろ。違うだろ!? 俺は1人息子だったじゃないか。 アンディだよ……! 俺がわからないのか……!? |
老婆 | 人違いだよ。 ほら、向こうにいるのが娘と婿だ。 孫が2人……かわいいだろう? |
アンディ | たちの悪い冗談はやめてくれよ……。 俺はちゃんとおふくろの言う通り軍に入って─── いや、途中で脱走しちまったけど……。 |
アンディ | 徴兵には逆らうなっておふくろにケツ叩かれて…… 世界帝軍に従軍して、けど脱走して……。 村の皆を巻き込みたくなくて、ずっと帰れなかった。 |
アンディ | 革命戦争が終わってからも、あちこち放浪して…… やっと、決心がついて戻ってきたんだよ。 |
老婆 | は、はぁ……。 |
アンディ | 遅くなってごめん……。 死んだもんだって思っても仕方ない。 だけど、俺のこと知らないふりなんかやめてくれよ……! |
老婆 | ……参ったねぇ……。知らないふりも何も、 あたしは本当にあんたのことを知らないんだよ……。 |
村人 | なんの騒ぎだ……? おい、あんた、婆ちゃんになんの用だ? |
アンディ | 俺は、この人の息子で……! |
司祭 | ふむ……記憶違いか、世界帝軍にいた時のショックで、 自分を守るために思い込みを作ったのでしょうか ……。 |
司祭 | とにかく長旅で疲れたでしょう。 どなたかは存じませんが、どうぞ休んでいってください。 皆さん、彼を教会へ。 |
アンディ | 嫌だ、おふくろ……おふくろ……! |
取り乱している様子の旅人を数人の村人が囲み、
無理やり教会へ連れて行く。
トバイアス | ……すみません、大人2人、子供2人分をお願いします。 とてもいい香りで、家族皆お腹がすいてしまって。 |
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カトラリー | (泣いてたトバイアスって人は、もうケロッとしてるけど…… そういえば、あの人も教会の奥の方に案内されてたっけ) |
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カトラリー | ……教会で、何するつもりなんだろう……? |
カトラリーはそっと、あとを追うことにした。
十手 | ふぅ、さすがに少しくたびれたね。 少しでも村の人たちの役に立てていればいいんだが……。 |
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ゴースト | アウトレイジャーも倒したし……役には立ってる、だろ。 俺の存在感も増し増しでマシになったはず……。 |
十手 | ははは! 増し増しでマシになるのか。 ゴースト君って洒落の才能があるねぇ! |
タバティエール | は、ははは……。 |
ロッシ | アウトレイジャーは今朝討伐したもので最後かもしれないね。 そろそろ戻れそうだとカサリステに連絡をしておこうか。 |
カトラリー | …………。 |
十手 | わっ! カトラリー君、いつの間に帰ってきてたんだい? |
十手 | あれ、そのサンドイッチは? |
カトラリー | これ、村の人が分けてくれたんだ。 栄養を摂れる日々の食事に感謝だよね。 |
マークス | ……? あんた、味がないと文句を言っていただろう。 |
カトラリー | 味が気に入らないなんて……馬鹿の言うことでしょ。 限られた食べ物を皆で分かち合って、 日々の暮らしのために必要なものを摂取すること。 |
カトラリー | そういうことの方が、味よりもずっと大事なのに。 |
タバティエール | ……カトラリーくん、どうしちまったんだ? 頭でもぶつけたのか……? |
マークス | あんたが味のことをどうでもよさそうにするなんて、 明らかにおかしいぞ……。 |
マークス | ハッ……! おい、全員動くな。 足下にネジが落ちてないか探せ。 |
ゴースト | は……? |
マークス | こういうやつのことを、「頭のネジが外れた」と言うんだろう。 こいつもどこかのパーツを落としたのかもしれないぞ。 |
主人公 | 【故障……異常と同じなら……】 【もしかして……】 |
〇〇はカトラリーに近づき、手をかざす。
カトラリー | 何? 今食べてるんだけど。 |
---|---|
マークス | マスター、銃本体のパーツの抜けなら、 治療では治らないと思うが……。 |
カトラリー | …………。 |
カトラリー | ……う……口の中がペチャッてする……! やっぱりこのサンドイッチまずいっ!! ああもう、水っ! タバティエールが作ったスープもちょうだい! |
十手 | ……いつものカトラリー君だ……。 |
タバティエール | 〇〇ちゃんの治療が効いた……? 何があったんだ、カトラリーくん。 |
カトラリー | えっと……あれ? 僕、何してたんだっけ。 サンドイッチ食べてたのもよくわからないし……。 |
主人公 | 【この様子……あの時と似てる】 【何があったか思い出せる?】 |
カトラリー | うーん……なんか、ちょっとぼやっとしてるけど、 なんとか……? |
十手 | ……なあ、〇〇君。 カトラリー君のこれは……。 |
タバティエール | とにかく、順を追って思い出してみてくれ。 |
カトラリー | えっと……この村出身だっていう男の人が来て、 だけどその人の母親は、そいつを知らないっていうんだ。 でも、僕にはそんなふうには見えなくて……。 |
カトラリー | そうこうしてるうちに、司祭と村人が来て、 その人を教会に連れて行ったんだ。 僕、トバイアスって人のことも気になったからついて行って───。 |
カトラリーは、司祭と村人、半ば拘束された男性を追って、
教会の中へと忍び込んだ。
彼らは教会の奥へと進んでいく。
カトラリー | (教会の奥にこんなとこがあったんだ……。 ちょっと怖い……。何か怪しいことしてるのかな……) |
---|
やがて司祭たちは、奥の部屋に入る。
カトラリーはドアの隙間から室内を覗いた。
男性 | おい、なんなんだよ! おふくろとちゃんと話をさせてくれ! |
---|---|
司祭 | 心を鎮めて……光があなたを導いてくれますから。 |
司祭が小箱を開けると、ビロード地のクッションに、
紫がかった光を放つ石が置かれていた。
カトラリー | (あれって……!?) |
---|---|
カトラリー | ……? あ……れ……僕……? |
カトラリー | そこから先は、曖昧にしか記憶がなくて……。 |
---|---|
ロッシ | ……やはり……セント・ディース基地事件で使われた結晶と 類似のもののようだな……。 |
ロッシ | しかし、なぜこんな山奥の小さな村にあんなものが……!? |
ゴースト | ……この村そのものが、トルレ・シャフのアジト…… だったりして。 |
十手 | ええっ……? でも、村の人たちはとてもそんなふうには……。 |
タバティエール | ああ。村人がトルレ・シャフの構成員だとは思えない……。 ただ、完全結晶だったか。島で錯乱した兵士たちのように、 その力で支配されてるとしたら……? |
カトラリー | ……僕たちが感じてた違和感の正体って、それだよ、きっと! この村ってちょっとヘンで……なんか気味が悪いじゃん。 |
カトラリー | みんな感情がないっていうか……、 村の人たちそれぞれの、個人の意思がない気がするんだ。 |
タバティエール | 個人の意思、か……。 言われてみれば確かにそうだ。 この村じゃあ、いつだって個よりも全体が優先されてた。 |
タバティエール | それは理想のひとつの形かもしれねぇが…… 人ってのは、そういうもんかねぇ。 |
ゴースト | ……俺たちの周りじゃ、そうじゃなかったな……。 |
主人公 | 【教会に行こう】 【真実を確かめよう】 |
ロッシ | カトラリー君、その部屋まで案内できるかい。 |
カトラリー | うん、どこだったかちゃんと覚えてる。 |
ロッシ | この村で何が起きているのか……。 我々で突き止めなくてはならない。 ……行こう。 |
───〇〇たちは教会に忍び込み、
カトラリーの先導で奥の部屋を目指した。
カトラリー | こっちだよ。 |
---|---|
カトラリー | ほら……あの部屋。 |
ロッシ | 行こう。そーっとね。 |
7人は足音を忍ばせて部屋に近づく。
すると───閉ざされていた扉が急に開いた。
十手 | えっ!? |
---|---|
司祭 | ───お待ちしていましたよ。 |
司祭の手には、蓋が開いた小箱がある。
そこに収められているのは───紫を帯びた結晶だ。
主人公 | 【光を見たらだめだ!】 【目を閉じて!】 |
---|
〇〇が叫ぶのと同時に───
一瞬、結晶が光を放った。
司祭 | ふ……崇高なる理想の賛同者となれ……! |
---|---|
ロッシ | う……っ。 |
十手 | ……っく! |
司祭 | さあ、理想の世界を実現しましょう。 人々は協力し、支え合い、分かち合う。 慈愛に満ちた、争いのない平和な世界を……! |
ロッシ | ああ……素晴らしい。 争いがなくなれば……悲しみも消える。 傷つき壊れてしまう人もいなくなる……。 |
ロッシ | それこそが、私の求めた理想の世界……。 叶うはずなどないと思っていたけれど、 それは間違いだったのですね……。 |
マークス | …………。 |
マークス | ……なあ、マスター……。 争いがなくなれば、マスターが傷つくこともなくなる……。 |
十手 | ああ……そうだ、その通りだね。 |
主人公 | 【みんな……?】 |
どこかぼんやりとした目で、次々に賛同の言葉を告げる6人。
〇〇の目の奥でも紫の光の残像が瞬き、
強い頭痛に襲われる───
??? | ───争いのない世界。 穏やかな人々が助け合い、分かち合う理想の世界…… それは、素晴らしいだろう? |
---|---|
??? | ───悲しむ人も苦しむ人もいない、平等で平穏な世界。 お前も、実現したいと思うだろう……? |
主人公 | 【争いのない世界……】 【平穏な世界……】 |
〇〇の脳裏に、村で見た光景や、
カトラリーから聞いた話が次々と蘇る。
誰もが穏やかに微笑み、すべてを分かち、支え合っていたが───
トバイアス | 司祭様、食料を1人分、お戻ししますね。 我が家は……1人減ってしまったので。 司祭様にお願いして、また分配してもらうのです。 |
---|---|
トバイアス | フィリップが帰ってくることはありません……。 ですから、食料は然るべきところへ─── フィリップが食べるはずだった、パン……。 |
トバイアス | ……あれ……なんで、私は泣いて……? |
アンディ | ずっと帰らなくてごめんよ、おふくろ……やっと会えた……! |
---|---|
老婆 | ……失礼だけど、どちら様かねぇ? あたしの子供は、娘が1人なんだけれど。 |
アンディ | 遅くなってごめん……。 死んだもんだって思っても仕方ない。 だけど、俺のこと知らないふりなんかやめてくれよ……! |
老婆 | ……参ったねぇ……。知らないふりも何も、 あたしは本当にあんたのことを知らないんだよ……。 |
主人公 | 【(ひとりひとりの感情を、殺す世界だ)】 【(これが本当の幸福だとは思わない)】 |
---|
プラトー村では確かに、争いは起きそうにもない。
しかし、人々は自分の感情を発露することすら不自由になり、
大切な記憶も、想いも、全体のためにないものにされていた。
個々を押し潰し───まるで人形のようにして作られる理想の世界が
理想であるはずはない。平穏で……それ以上に平坦な世界など、
と〇〇は強く拳を握る。
主人公 | 【(───そんな世界は間違ってる!)】 |
---|
〇〇の意識を侵食しようとしていた囁きが、
少しずつ弱まっていく。
??? | 争い───ない───平、和、な───……。 |
---|
───ピキッ……パリン!
司祭 | な……! 完全結晶が……意思の器が自壊した、だと……!? |
---|---|
主人公 | 【あなたの意見には同意できない】 |
司祭 | お前……なぜ抗える……!? 導きの光を見たはずのお前が、どうして私に抗うのだ……!? |
主人公 | 【人の意思や感情をなくした世界はおかしい!】 【人を人形に変えてできた平和に意味はない!】 |
主人公 | 【そんなやり方は間違ってる!】 |
タバティエール | ん……これは……そうだ、俺たちは光を見て……。 |
マークス | ……っ、マスター! もう大丈夫だ、頭のもやもやが取れたから……! |
完全結晶が割れてしまった影響なのか、
我に返った貴銃士たちが銃を手に司祭へ迫る。
司祭 | ……貴銃士の小僧に見られた時点で手は打ってある。 こうなったら……お前たちを無事に帰しはしない! ───さあ! |
---|
司祭が叫ぶと、部屋の扉が開き、
銃を構えた男たちが飛び込んでくる。
トルレ・シャフ構成員1 | ……貴様らを拘束する。 |
---|---|
トルレ・シャフ構成員2 | 命が惜しくば、降伏することだ……。 |
カトラリー | はっ……そっちこそ! |
マークス | マスター……一気に片付ける! |
トルレ・シャフ構成員たち | うぐっ……。 |
---|
現れたトルレ・シャフ構成員たちは、
正気を取り戻した貴銃士たちによって返り討ちにされ、
きつく拘束される。
十手 | よぉし、捕縛完了だ。 あとは応援を待って引き渡すとしようか。 |
---|---|
カトラリー | ……! ねぇ、こっちにも同じような小箱があるよ。 もしかして、さっきの石がまだあるってこと……? |
ゴースト | それなら……開けたらまずい、んじゃないか……? |
タバティエール | だな……どういう条件で光るのかわからんが、 箱を開けた瞬間にまたピカッとやられたら大変だ。 |
主人公 | 【貸して】 【自分がやる】 |
マークス | マスター!? 大丈夫なのか……!? |
主人公 | 【みんな、目をつぶっていて】 【いいよと言うまで目を閉じて】 |
小箱の中には、紫色を帯びた結晶が入っていた。
これまで見聞きしたことから考えて……
先程の結晶と同様、洗脳の力を発揮しているものだろう。
主人公 | 【(研究材料は消えてしまうけど……)】 |
---|---|
主人公 | 【(すでに洗脳された人がいるならやるしかない)】 |
一度目はドライゼが踏んで粉砕した。
つまり───物理的に壊せる。
〇〇は紫色の結晶を、
力いっぱいレンガの壁へと投げつけた。
───パリン!
老婆 | あたしは……一体……? 昨日……あの子を見たような気がするけれど……。 |
---|---|
サム | ……パパ……ママ……? ダン兄ちゃん……う、あ……うわぁぁぁあん!! |
トバイアス | フィリップ……私の可愛い息子……私は、なぜ、忘れて……。 うっ……あああああっ……! |
---|
村人 | なんだか、長い夢を見ていたような気がする……。 |
---|---|
村人の妻 | 私もよ……これは現実、よね……? |
村人たちが、少しずつ自我を取り戻していく。
不気味なほどに静かだった村に、悲鳴や困惑の声が響く……。
タバティエール | これで終わったのか……? |
---|---|
ロッシ | ……うっ……これが、結晶の力……。 臨床心理士として多少の抵抗力はあるかと思っていたが、 これほどまでとは……。情けない…… |
十手 | フェデリコ先生、大丈夫かい? |
ロッシ | ああ……さっきまでぼんやりしていたけれど、 だいぶ頭がすっきりしてきたよ。 〇〇君のおかげだね……ありがとう。 |
ロッシ | 結晶の力があれほどとは……なんと恐ろしいんだ。 |
ゴースト | 信じられない、な……。 |
ロッシ | 村人も混乱していることだろう……。 場合によっては危険かもしれない。 様子を見に行こう! |
村は大騒ぎになっていた。
静まりかえっていたのが嘘のように、
村人たちが戸惑い、悲しみ、喜んでいる。
アンディ | おふくろ! よかった、俺のことがわかるんだね……! |
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老婆 | もちろんだよ、この馬鹿息子! 10年近くもどこに行ってたんだい……! ほら……突っ立ってないで、近くで顔を見せておくれ……! |
トバイアス | フィリップ……! 父さんが絶対に、お前を見つけて家に連れて帰るからな……。 どんなに経っても……っ、どんな姿でも……。 |
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トバイアスの妻 | ええ、ええ……。 そうよ……っ。 |
サム | 父ちゃん……母ちゃん……っ! うわあぁぁ……っ!! うわああぁぁぁぁん……!! |
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カトラリー | …………。 洗脳は解けた、けど……。 |
崩れた家の前で泣き崩れる人、
土砂を前に呆然と立ち尽くす人。
涙を流しつつ、行方不明の身内を探そうとする人。
再会に歓喜の涙を流す人もいれば、
大事なものがないと喧嘩をする人、
作られた家族を前に戸惑いを浮かべる人もいる。
カトラリー | これでよかった……のかな……。 前はさ、自分や家族のことよりこの村、みんなのことって感じで 仮面みたいにニコニコしてて不気味だったけど……。 |
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カトラリー | それでも……あんなふうに、 心が壊れそうなくらい悲しんでる人はいなかった、よね……。 もしかしたら、そのままだった方が─── |
タバティエール | いや、それは違うと思うぜ、カトラリーくん。 |
タバティエール | 本当は悲しいのに、それを認識できてなかったんだ。 悲しむことすら許されてなかった…… 心の平穏が保てたとしても、そんなのはあんまりだ。 |
カトラリー | うん……そうかも……。 大切な人の死を悼む気持ちも奪われてたってことだもんね……。 |
十手 | ああ……傷つくことを避けられたとしても、 それは不幸なことのように思えるよ……。 |
〇〇と貴銃士たちは、
様々な感情であふれる村の様子を見つめる。
タバティエール | この村で暮らしてるのは、“人形”じゃなくて“人間”なんだ。 |
---|---|
タバティエール |
悲しみ、苦しみ、喜び、幸せ─── 穏やかだとは限らねぇが、これが人間の本当の姿だって…… 全部あるのが人生なんじゃないかって俺は思うよ。 |
タバティエール | ……貴銃士が何言ってんだ、って感じかもしれないけどな。 |
主人公 | 【そんなことないよ】 【タバティエールの言う通りだと思う】 |
〇〇の人生にもいろいろなことがあった。
両親、親友、恩師の死───いっそ忘れられたら楽かもしれない。
だが、それらをなかったことにして生きていくのは絶対に嫌だ。
十手 | 全部あるのが人生、か……。 この人たちはこれからまた、自分の人生を歩き始めるんだね。 |
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