十手 | はぁっ、はぁ……!! |
---|
十手は、地図を片手に走り回っていた。
いつの間にか降り始めた冷たい雨が頬を打っても、
足を止めることはない。
十手 | 俺は、必ず……! |
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十手 | 絶対高貴に、なるんだ……! |
十手 | あの神社を、見つけてみせる……! |
十手 | はぁっ、はぁっ……! |
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十手 | 今のは、鈴の音……? 夢中で走ってきたが……ここはどこだ? |
──シャン、シャン
十手 | この鈴の音は、夢と同じ……! |
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十手 | それに、なんだか胸がざわつく……。 この先に、何かがあるのか……!? |
十手 | ここは……。 |
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十手 | このお堂、鳥居……それにこの木! 間違いない。ここが夢で見た、あの神社だ……! |
十手 | すごいな……! 本当に何もかも、夢と同じだ。 |
十手 | ここに、絶対高貴になれる何かが……! そ、そうだ、御本堂! 夢では御本堂の中から、温かい光が漏れていた……! |
古い木の扉は、きしんだ音を立てて開いた。
十手は、本堂の中にそっと上がり込む。
十手 | ケホッ……。 |
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何十年も閉ざされていたのか、砂埃が舞い上がる。
壊れた石像や、何かの儀式の道具が散乱するなかで、
十手は古い木箱を目にとめた。
十手 | この箱は……桐だな。 |
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慎重に蓋を開けると、
箱の中にはたくさんの紙の束が詰まっていた。
十手 | なんだこれは……? 『一枡屋 古武具取引之証』……? |
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十手 | 古武具の取引……つまり、 美術商か道具屋の、売り買いの証文か……? |
証文の内容を確認していく。
そこに書かれていたものは──
十手 | 『買取 十手── これなる十手の所有者は、元同心の浅利藤右衛門』 |
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十手 | ……!? ま、まさか、これは……。 |
十手 | 『好事家好みにせんと、工房にて十手鉄砲に改造──』 |
十手 | 『マーク・ウェリントン氏に、 同心が愛用した十手鉄砲として販売』 |
十手 | これは……! これは、全部……俺のこと……! |
十手の手から桐の箱が離れ、床に落ちて割れた。
その音に慄いたように、十手は本堂を飛び出す。
十手 | ハァ……! ハァ……ッ! |
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十手 | (道具屋に売られたとき、 俺は、ただの十手だった……!) |
十手 | (だが、好事家に高く売れるようにと、 銃に改造された──) |
十手 | (それが本当の俺だ! 十手鉄砲として使われたことなんかない……!) |
十手 | (自分を少しでもよく見せようとして、 皆に嘘をついて騙してきた、俺の真実……!) |
十手 | (本当は俺が……銃として使われたこともない、 「偽物の銃」だという証拠──!) |
十手 | くそっ、どうしてこんなもんが今さら出てくるんだ! |
十手 | なんでこんなものを、 あの夢は俺に見せようとしたんだ……! |
十手 | 俺が1番隠したいことを突きつけて……! これで、絶対高貴になれるとでも……!? |
十手 | 俺を偽物だと知らしめて…… 偽物の貴銃士に、 絶対高貴は無理だと告げているのか……!? |
邑田 | のう、在坂や。 今晩の逸品であるオムライスについてだが。 |
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邑田 | 此度はけちゃっぷでどんな字を書くか、 はたまた絵を描くか。もう決めておるのか? |
在坂 | 在坂はもう決めた。 今日の文字は、「萌え」だ。 |
八九 | もえって……あの「萌え」かよ。 |
在坂 | 萌えというのは「対象物に対する狭くて深い感情」だ。 |
八九 | ……いや、意味はなんとなく知ってるけどさ。 つーか、そんな堅苦しい意味なのか……。 |
邑田 | ほっほっほ、在坂はよき「せんす」をしておるのう。 ではわしは……「絶対非道」と書こう。 |
邑田 | 戦を制するには、非道も必要なり。 わしらにはうってつけの言葉じゃからな。 |
八九 | いや「絶対非道」とか、難易度高すぎだろ。 オムライスの表面に全部書けねぇよ。 絶対ぐちゃってなる……。 |
邑田 | 何を言う。わしは米粒あーとを嗜んでおるのじゃ。 おむらいすに字を書く程度、児戯のごとし。 |
八九 | つーかあんたら、オムライスとか焼きそばパンとか、 意外と俗っぽい食いもんが好きだよな。 |
邑田 | これ、紅ほのかの焼き芋を忘れるでないぞ、八九。 |
八九 | へいへい……。 |
邑田 | おお、そうじゃ。 昨日の答え合わせがまだじゃったな。 |
邑田 | 八九が何度「帰りたい」と言ったのか── よもや数え忘れたということはあるまいな? 〇〇や、答えを申してみよ。 |
主人公 | 【22回でした】 |
在坂 | 在坂は20回、邑田は30回に賭けた。 ……この勝負、在坂の勝ちだ。 |
邑田 | うーむ、口惜しい。 |
在坂 | 約束だ。 オムライスの卵部分を、在坂が半分いただく。 |
邑田 | なんと……。 わしのおむらいすが、悲しき禿山に……。 |
主人公 | 【遅いな……】 【まだ帰ってこない……】 |
八九 | ああ、十手のことか。 |
八九 | あいつ、お前を置いて走ってったけど…… マスター放っといていいのかよ。 |
主人公 | 【ここなら安全だから大丈夫】 【絶対高貴になるためだから】 |
八九 | 絶対高貴、ねぇ……。 あいつ、すげぇ必死だったな。 |
八九 | 俺は、邑田や在坂と違って絶対非道になれねぇが、 もともとそんな力なくても戦えてたし、 全然気にならねーけど。 |
八九 | 夢のお告げとやらが、そんなに大事かねぇ。 |
八九 | あ、そういえば……。 夢の話で、少し思い出したことがあった。 |
八九 | あんたらが日本に呼ばれたのは、 日美子様の予知夢のせいらしいぜ。 |
主人公 | 【予知夢?】 【ひみこさま?】 |
八九 | 日美子様ってのは、将軍の妹な。 「欧州にいる日本ゆかりの貴銃士に吉あり」 とかいう夢を見たらしい。 |
八九 | 日美子様の予知夢は、 怖ぇくらい当たるって言うからな。 今回のは、どうなることやら……。 |
十手 | ……ただいま帰った。 |
八九 | 十手……? って、うおっ! ずぶ濡れじゃねーか! |
主人公 | 【大丈夫?】 【早くタオルを……】 |
十手 | ……ああ。ありがとう。 |
八九 | それで、神社は見つかったのかよ。 |
十手 | …………。 |
十手 | ……すまんが、少し1人にさせてくれ。 |
そう告げると、十手はとぼとぼと自室へ戻っていった。
八九 | 何だありゃ……? 収穫なしだったってことか? |
---|---|
邑田 | 収穫はあったのであろうよ。 |
八九 | 聞いてたのか? |
邑田 | うむ、在坂と有意義なるおむらいす談義をしておったら、 小耳に挟んだ。 |
邑田 | のう、在坂? |
在坂 | ……在坂は、 十手は何かを見つけたのではないかと思う。 |
八九 | 見つけたって、何をだ? |
邑田 | それは、マスターである〇〇が 聞くべきことじゃろう。 あれのマスターはそなたなのだから。 |
邑田 | とはいえ……聞いたところで、 答えるか否かは、あやつ次第じゃがな。 |
──翌日。
十手 | …………。 |
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キセル | よう! こんなとこにいたのか、十手。 |
十手 | キセル君! |
キセル | シケた面してどうした。 〇〇は一緒じゃねェのか? |
十手 | 少し頭の中を整理したくてね……。 お願いして、今日は別行動にしてもらったんだ。 |
十手 | この辺りは静かで、心が落ち着くよ……。 |
キセル | そうだな。頭の中がごちゃごちゃになっちまった時は、 川のほとりやら森の中でぼーっとするのが一番ってもんよ。 |
十手 | ……なぁ。 |
キセル | ん? |
十手 | あの少年……一太君の具合はどうだ……? |
キセル | ……まだ意識が戻らねェ。 だが、ウチの若いモンを看病につかせてるから、 何かあれば俺に連絡が来るだろうよ。 |
キセル | ……なに、薔薇の傷にやられてるとはいえ、 あいつはまだ元気溢れるやんちゃ盛りだ。 きっと持ちこたえてくれるさ。 |
十手 | そうか……。 |
キセル | おうよ。 ……んで、例の神社は見つかったのか? |
十手 | ……ああ、見つけたよ。 |
キセル | そいつはめでてぇ! と言いたいところだが……。 お前さん、なんでそんな顔してんだ? |
キセル | まさか…… 絶対高貴になるための鍵がなかったのか? |
十手 | あれは……俺の思い過ごしだったのかもしれない。 |
十手 | 夢で見た神社に行けば、 俺だって絶対高貴になれるとばかり思っていたが……。 神社にあったのは、これだった。 |
キセル | これは……証文か? |
十手 | ああ……道具屋が俺を買ったあと、 改造して売り払ったことが記録されてる。 |
キセル | ……改造だと? |
十手 | 俺は……本当は、銃じゃない。 正真正銘、『普通の十手』だったんだ。 |
十手 | 俺の持ち主は幕末の同心でな、 江戸幕府が終わり新政府へと変わる中で職を失った。 |
十手 | 家族を食わせなきゃいけないから、 同心の誇りでもあった俺を泣く泣く金に変えたんだ。 |
十手 | そのあと俺は、 「この方が好事家に売れやすいから」って理由で、 銃に改造された。 |
十手 | 最初から銃として作られたわけじゃないし、 同心が十手鉄砲として使ったなんて、嘘っぱちだ。 |
十手 | 偽物の銃なんだ、俺は。 |
十手 | 「江戸時代、目つぶしなどに使われた珍品、十手鉄砲」 「世にも珍しき十手鉄砲」 「捕り物の際、目つぶしや合図に使われた逸品!」 |
十手 | ……こんな文句で売りに出されていたよ。 |
十手 | ……もちろん、そんなの全部嘘っぱちだ。 |
十手 | それなのに…… いつしか俺自身も、その嘘を信じ込みたくなっちまった。 そして── |
十手 | 俺は指し火式火縄銃の十手鉄砲。 江戸時代の奇銃だ。 |
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十手 | ──嘘をついてしまった。 |
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十手 | (本当は銃としては使われたことがないのに…… 貴銃士としてなぜ目覚めることができたのか、 不思議でしかたがない……) |
---|---|
十手 | (でも、あの時本当のことを話していたら、 俺はすぐ銃に戻されていたかもしれない……) |
十手 | (いずれ銃に戻るにしても、 こんな俺が貴銃士として目覚めた意味がなんなのか、 知ってからにしたいもんだが……) |
十手 | ……戦えなきゃ、本当に穀潰しになってしまうしなぁ。 とりあえず、試し撃ちをしてみるか……。 |
──パンッ!
十手 | うおッ……! こんなに手元が揺れるもんなのか。 |
---|---|
十手 | ……って、おいおい……。 10メートルも離れてないのに、 的になんとか当たる程度か。 |
十手 | はは……。 本当に、至近距離でないと使い物にならないんだな。 |
十手 | (これではどう考えても、俺の来歴を知られる以前に 戦力外通告を受けてしまうじゃないか……) |
十手 | いやいや、弱気になるな……! |
十手 | 俺が銃としては捕り物に向いてないのは、 まぎれもない現実……。 |
十手 | だが、こうして貴銃士として目覚めたのもまた事実。 必ず何か、お役目があるはずだ……。 |
十手 | よし、決めた! 俺は、俺の正義をまっとうする……! 〇〇君の役に立って正義をなすんだ!! |
十手 | ──と、まぁ……。 そうやってこれまで皆に嘘をついてきたんだ。 だけど、もう耐えられない。 |
---|---|
十手 | 俺は偽物だ。ちゃんとした銃でもなければ、 銃に改造されたことで、 元の十手でもないものになってしまった半端者……。 |
十手 | 〇〇君の貴銃士でいる資格なんかないんだ……。 |
キセル | …………。 |
十手 | ……面目ない。 たまたま居合わせただけなのに、 辛気臭い話を聞かせてしまって……。 |
キセル | ……ちょいと、俺の話をするか。 |
十手 | え……? |
キセル | なぁに、ちょっとした昔話だよ。 気楽に聞いてくれ。 |
キセル | ……俺はもともと、 江戸から明治にかけて任侠モンに使われていた。 |
キセル | それから、レジスタンス支援のため海外に送られてな、 レジスタンス特別支部で、貴銃士になったってワケだ。 |
キセル | けどよォ、そん時は笑えるくれェ弱気でなァ! シケた自分が最高に嫌だったぜ。 |
十手 | 弱気!? キセル君が!? |
キセル | ああ、そうだ。このサングラスを外すと、 俺はたちまち弱気な俺に戻っちまう。 ……このことは他言無用だぜ? |
十手 | あ、ああ……承知した。 でも、サングラス1つで強くなれるものなのか……? |
キセル | こいつは、ただのサングラスじゃねぇ。 レジスタンスの頃のマスターがくれた、大事なモンなんだ。 |
キセル | マスターは、弱い俺も強気の俺も、 どちらも俺だと言って認めてくれてよォ。 |
キセル | そうこうしてるうちに、 腹割って話し合える仲間ができて、 サングラスなしの俺にも少しだけ自信がついてった。 |
キセル | 時間をかけて少しずつ、成長できたってワケだ! |
十手 | …………。 |
キセル | この間も少し話したが…… 世界帝との戦いが終わってしばらく経った頃、 鷲ヶ前組が、俺の返却を求めたらしい。 |
キセル | 組と歌舞妓町をまとめてくために、 俺を再び貴銃士として目覚めさせてェってな。 |
キセル | 元レジスタンスの仲間たちは、その話を受け入れた。 ……そうして俺は再び、日本に戻ったってワケだ。 |
キセル | カシラは跳ねっ返りだが、大きな夢がある。 今の日本では失われちまいつつある「任侠」の精神を もう一度取り戻すって夢がなァ! |
キセル | どうだ、気持ちのいいお人じゃねェか! 俺はカシラの夢を叶えてやりてぇと、心から思ってる。 |
キセル | だが、今の俺は、レジスタンスの時と違って 絶対高貴になれねェ。お前と同じでな。 |
キセル | 肝心な時に、思うようにカシラの力になれねェ、 昔の光を失った貴銃士だけどよ…… それでも、カシラは俺を認めてくれてんだ。 |
キセル | 俺には任侠モンの心がある……ってなァ! 銃だからなんだ? 十手だからなんだ? 貴銃士だからなんだ!? |
キセル | 大事なのは、てめぇの心だろうが! |
十手 | あ……。 |
キセル | ……なぁ、十手。 |
キセル | お前のマスターは、お前が十手として作られたか、 銃として作られたか、それのどっちが先か、 そんなちっぽけなことでお前を見放すような奴なのか? |
十手 | ち、違う……! お天道様に誓って、 〇〇君はそんな人間ではない! |
キセル | ハッ、わかってんじゃねェか! |
キセル | 自分を卑下する気持ちは痛ェほどわかるがな、十手。 お前さんを大事に思ってるヤツがいるんだろ。 もっとマスターを信頼しろ! |
キセル | お前がお前を卑下すりゃ、マスターが悲しむ。 こんな場所でウダウダしてねェで、 ちゃんと腹割って話してこい! |
キセル | それでもまだ気に入らねえなら、 俺が直々に一発、どぎつい喝入れてやらァ! |
十手 | う……っ、それは遠慮しておくよ……。 |
十手 | でも、ありがとう、キセル君。 おかげで、頭の中の霧が晴れたような気がするよ。 |
──日本滞在、残り2日。
十手 | いやぁ、あんなに見事な庭園を拝めるとはなぁ……。 心が洗われるようだったよ。 |
---|---|
主人公 | 【気分転換できてよかった】 【お茶も美味しかったね】 |
十手 | そうだなぁ。 士官学校の皆に、また1つ土産話もできた。 |
十手 | …………。 |
十手 | ……あの、〇〇君。 実は、大事な話があるんだ。 |
十手 | あとで、ちょっと時間をもらえるかい……? |
主人公 | 【わかった】 【もちろん】 |
十手 | ああ、ありがとう……。 それから、探していた神社が── |
通行人1 | うわあぁぁぁ! |
通行人2 | に、逃げろ!! |
十手 | なんだ!? 自治区の方で何かあったのか……? |
十手 | そこのお人! これは一体なんの騒ぎだ!? |
通行人3 | あんたたちも逃げろ! 化け物が出たんだよ! |
通行人4 | 銃を持ってやがる! 早く逃げねぇと……! |
十手 | 化け物……? それに、銃だと……? |
主人公 | 【アウトレイジャー!?】 |
十手 | かもしれない。〇〇君、急ごう! |
十手 | 〇〇君、あの角だ……! |
---|---|
少年1 | うぅ……っ、痛い……苦しい……。 |
少女1 | 食べ物……お腹空いたよぅ……っ。 |
少年2 | あ、あぁ……盗め……っ! |
アウトレイジャーたち | 殺セ……奪エ……! |
主人公 | 【アウトレイジャー……!】 【子供たちが倒れて……!】 |
十手 | まずい! あんな、アウトレイジャーの近くにいては……! |
危険はそれだけではない。
服の袖から覗く彼らの手の甲には、
薔薇の傷が赤々と刻まれていた。
十手 | ん……? 待ってくれ、この子たち……! この前茶屋で話しかけてきた子たちでは……? |
---|---|
キセル | こいつは何事だ!? |
十手 | ……キセル君! |
キセル | チッ……一太と同じようなことになってやがる。 お前ら、今助けてやるからなァ! |
アウトレイジャーたち | 殺……セ、殺ス……コロス……ッ! |
キセル | 鷲ヶ前組のシマで勝手は許さねェ。 おい! やるぞ、てめぇら! |
鷲ヶ前組員たち | おうっ! |
キセルの合図で、鷲ヶ前組の組員たちが、
アウトレイジャーへと立ち向かっていく。
十手 | 子供たちを避難させなければ! 〇〇君、君はそちらの小さな子を……! |
---|---|
町人1 | ここはあっしらが引き受けます! 子供たちをこちらへ! |
町人2 | とにかく手当ができる場所へ運びやす! |
十手 | かたじけない。子供たちを頼んだ! |
十手 | キセル君! 俺たちも助太刀するぞ! |
キセル | それには及ばねェ! |
十手 | しかし……っ! |
キセル | ウチの若い衆が自衛軍に応援を呼びに行った! あいつらが来るまで、俺たちが食い止める。 お前らは早く逃げろ! |
キセル | ここは鷲ヶ前組の領分だ! それに……てめぇには、マスターを守るっていう、 てめぇにしかできねぇ大事な役割があるだろ! |
十手 | ……っ! |
十手 | ……行こう、〇〇君。 |
十手 | 俺は、マークス君や皆から君を任されて日本に来た。 それも、夢のことが気になるっていう俺の我儘で……! |
十手 | 万に一つでも、君を傷つけさせるわけにはいかない。 だから……すまないっ! |
十手に強く手を掴まれて、
〇〇は走り出した。
十手 | くそ……! 俺に、マークス君たちみたいな強さがあれば……! |
---|---|
アウトレイジャー | …………。 |
十手 | ……っ! しまった、こっちにもアウトレイジャーがっ!? 〇〇君、危ないっ! |
突然のアウトレイジャーの出現に、
十手は咄嗟に前に出て、〇〇を庇う。
十手 | ぐあっ……! |
---|---|
主人公 | 【十手っ!!!】 |
アウトレイジャーの凶弾は──
十手の胸を貫いていた。
地面に倒れた十手に駆け寄る。
心臓からは外れたようで意識はあるが、
どくどくと大量の血が流れ出ていた。
自衛軍兵士1 | 八九殿! こちらにも一体います! |
---|---|
八九 | 邑田と在坂が来ないと、完全制圧は厳しい! とにかく急所を狙って撃ち続け、動きを止めろ。 |
自衛軍兵士たち | 了解! |
十手 | ああ……よかった……。 援軍が来た、みたいだな……。 |
八九 | なっ……十手!? おい、衛生兵だ! |
自衛軍兵士2 | はっ! |
十手 | 〇〇君、無事だな……? はは……最後の最後……で、 少しは役に立てた、かな……。 |
主人公 | 【しっかりして!】 【最後なんて言うな!】 |
十手 | なぁ、聞いて……くれ。俺は……嘘をついてた。 俺は……本当の、銃じゃない。 |
十手 | ただの十手を、より価値をつけて…… 売る、ため……っ。 十手鉄砲に改造された、半端な銃……。 |
十手 | そ、れが、俺の正体……げほっ、ゴホッ! |
主人公 | 【喋らないで!】 【治療する!】 |
十手は〇〇の手を押しとどめて、
言葉を続けた。
十手 | ……江戸時代、目つぶしに使われたなんて、嘘っぱち。 少しでも……自分に、価値があると……思いたかった。 |
---|---|
十手 | すまない── 最後に……話しておけてよかった……。 |
十手 | 治療……は、しないでくれ……。 再召銃も、だ……。 今までありがとう、〇〇君……。 |
主人公 | 【……嫌だ!】 【……断る!】 |
十手 | ……っ! |
力を失いつつある十手の手を振りほどき、
〇〇は有無を言わせずに
治療を開始する。
瀕死の重傷を治すにはかなりの力が必要で、
じわじわと薔薇の傷が身を蝕んでいく──。
十手 | や、やめて、くれ……ッ! 俺は君に、何もしてやれない! 戦力にもなれず、その傷を癒すこともできない、のに! |
---|---|
主人公 | 【今はそうかもしれない】 【でも、十手を信じてる】 |
全ての力を込めて治療をしつつ、
〇〇は必死に語り掛ける。
十手の来歴がどうであれ気にしない。
十手の正義を尊ぶ姿勢や、
勇気があるところを尊敬している。
だから、十手ならいつかきっと、
絶対高貴になれると信じている、と。
十手 | ……っ! |
---|
キセル | 大事なのはてめェの心だろうが! |
---|
十手 | (大事なのは……自分の心……) |
---|---|
主人公 | 【これでもう、大丈、夫……】 |
十手 | 〇〇! しっかりしてくれ、〇〇君! |
ふらつく〇〇の身体を、
十手の手が支える。
十手 | 君は……俺なんかのために、 命を削るような真似をして……っ! |
---|---|
十手 | いや……君が命を懸けてくれた俺を、 俺自身が卑下しちゃいけないよな……。 |
十手 | 俺は……、俺は……っ! |
十手 | …………。 |
十手 | 〇〇君……。 俺は……俺の正義を信じてみる。 |
十手 | 君が俺を信じてくれたように、 俺も自分を信じて、足掻き続けてみるよ。 |
十手 | だから……俺の歩みを、君に見届けてほしい! |
十手 | それに俺は、君を守ると誓った貴銃士なんだ……! こんなところで、みすみす君を失ってたまるもんかっ! |
強く拳を握りしめた十手の身体が、
徐々に光を帯び始める。
十手 | ……っ!? この光は……。 |
---|---|
十手 | 〇〇君の傷が、治っていく……! |
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