日本編Ⅱ:第1話~第5話

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第1話:秘密の茶会

本シナリオはロードストーリー「アメリカ編」「オーストリア編」
「ベルギー編」後の出来事です。
先に上記のシナリオを読むことを推奨します。


──日ノ本。

桜國城の一室にて、ささやかな茶会が催されていた。
静謐な庭に、ししおどしの音が響き渡る──。

邑田結構なお点前じゃの、桂。
いや、なに。
粗野な軍人が見様見真似しているだけですよ。
在坂在坂はそっちにある、柿の形の菓子が食べたい。
邑田おお、ならばわしの分までお食べ。
ほれ、ほれ。
在坂むぐ……今度は濃いお茶が欲しい……。
ははは。そう慌てずとも、おかわりはこちらに。
邑田ほっほっほ。流石じゃな。
邑田……して。
今日も御簾の向こうの御方は、顔を見せてはくれぬのか。

一段上がった上座には御簾が下ろされている上、
屏風まで置かれており、中の様子を窺い知ることはできない。
しかし邑田も在坂も、人の気配をはっきりと感じていた。

???…………。
……邑田殿。
邑田この茶会、我らが召銃されてから……もう、6度目になるか。
多忙な幕僚長のそなたがこう何度も、わざわざ城で催すからには、
相応の理由があるのじゃろう?
邑田いずれそなたが口を開く日がくるじゃろうと思っておったが、
このままではいつまでも、謎の茶飲み仲間が謎のままになるわ。
邑田我らが御簾の奥の御仁について
いい加減知りたいと思うのは、当然ではないか?
のう、桂。
…………。
邑田在坂とも茶会のあと、毎度話しておるのじゃ。
御簾の向こうには、どんな御方が座っているのか、とな。
在坂見上げるような大男か──
あるいは、桂よりももっと年嵩の爺か。
邑田ハッと身を引くような艶やかな女子かもしれぬ。
はたまた……年端も行かぬ幼な子やも?
???…………。
在坂在坂も人と顔を合わせるのは得意ではないから、無理は言えない。
だが……。
…………。
……日が、落ちてきましたな。
今日はここらでお開きといたしましょう。
在坂…………。ああ。
邑田ちょうど、何やら騒がしい気配が近づいておるの。
葛城桂幕僚長殿、貴銃士邑田殿、同じく在坂殿!
葛城輝彦、および貴銃士八九です。
ご報告がございまして……!
うむ、続けてくれ。
葛城はっ!
ただいま、世界連合軍イギリス支部より〇〇殿、
および貴銃士2名が到着したとの連絡が入りました。
葛城我々は一足先に迎えに行って参ります。
本日の歓迎会、よろしくお願いいたします!
邑田おお、そうじゃ。八九や、歓迎会の食事は期待しておるぞ。
もちろん、在坂が喜ぶ献立であろうな?
八九うげ、プレッシャーかけんなよ……!
ご苦労。案内を任せたぞ。よろしく頼む。
葛城はっ! それでは!
邑田……〇〇か。
はてさて、何が起こるやら。
在坂何かが起こるといい、と在坂は思う。
邑田そうじゃの。
……うむ、まことその通りじゃ。
邑田狭間より覗くは悪鬼か光明か……楽しみなことよの。
……ほっほっほ!

その時、屏風の裏の気配が遠のいた。
かすかに布を引きずる音が聞こえる。

邑田…………。

???ごほっ! こほ……っ!
???(……時間が、ない……)

第2話:日本への誘い、再び

〇〇たちが日本に到着する数日前──
恭遠に呼び出され応接室に行くと、
そこではカールがティーカップを片手にくつろいでいた。

カールやあ、君たち。ご機嫌はいかがかな。
主人公【カール!】
【いきなりどうしたの?】
恭遠ああ、実はカールから君たちに話があるそうでな。
カールうん、ここは単刀直入に。
君たち、日本へ観光に行こうじゃないか!
十手えっ!?
観光って……あの日本にかい!?
カールもちろん、その日本だ。
十手いや、だが……日本は世界連合と距離を置いていて、
鎖国状態じゃないか。桜國幕府の許可が出たとしても、
移動するのに往復で何日もかかるよ。
十手カール君といえども、かる~く「観光」だなんて
言えない国なのだと……カール君だけに……。
かるく……ぷぷっ!
カールおや、これは──
カールナンディヤーネン!

カールは何か合点がいったように頷くと、
十手の胸に向かって勢いよくチョップを繰り出した。

十手あいたっ!
主人公【ナンディヤーネン?】
→カール「ん? こう習ったように思うんだが……。」
十手「え……? 習った?」

【つ、つまらなかった……?】

→十手「はうっ……! 俺の駄洒落の腕はまだまだか……。
これは修業が必要そうだ……。」
カール「む?
日本の流儀だと習った覚えがあるんだが、何か間違ったかなー。」
十手「どういうことだい?」
カールレジスタンスにいたころ、日本出身の貴銃士に聞いたのさ。
誰かがボケたら、ナンディヤーネンと言ってビシッとはたくのが
日本のお約束なんだろう?
十手ああ、そういうことか! 何か惜しい気がするけど、
カール君にツッコミをもらえるなんて感動だよ!
ありがとうカール君!
恭遠…………。
恭遠ははは、上手なツッコミだったな!
ごほん。話を戻すぞ。
恭遠実は、観光というのは建前で……。
日本の貴銃士・イエヤスから、来訪の要請が来ているんだ。
主人公【イエヤスさんというと、あの……?】
【レジスタンスで活躍した貴銃士ですよね?】
カールああ。かつての将軍、徳川家康が使った由緒ある火縄銃さ。
革命戦争の際はレジスタンスのマスターに呼び出され、
僕らと共に世界帝府を打倒するために戦った仲間だ。
カール世界帝府の崩壊後、日本に返還されて……
現在は日本の桜國幕府の将軍・桜國泰澄(やすずみ)を
マスターとして、幕府重鎮を務めているといわれている。
十手昔も今も将軍に仕えるなんて、凄い貴銃士なんだね……!
カールふむ、そうだねー。
見た目は穏やかな好青年で、度量の広い貴銃士だったよ。
カールそれから、知略にも優れていたねー。
日本的な言い方をするなら、『狸』というやつかな。
主人公【タヌキ?】
【可愛いということ?】
十手ええと……日本では、狐狸は人を化かすと言われていてね。
ずる賢くて一筋縄ではいかないという印象があるんだ。
十手これを人に対して比喩で使う時は……そうだなぁ。
優しく穏やかな好々爺(こうこうや)に見えても、
その実は油断できない策略家……という感じになるかな。
十手彼の持ち主だった徳川家康も、
『狸爺』と評されることがあるね。
カールまあ要するに、敵ならば厄介だが、
仲間ならば心強い相手ということさ。
カールそれはさておきだ。
僕が君の貴銃士になって間もない頃、
恭遠を通して、イエヤスから僕個人への来訪要請があったんだ。
カールそれで以前、僕は密かに日本を訪れた。
……情報共有をするためにね。
カールメンバーは、イエヤス、キセル、そして僕──
元レジスタンスの貴銃士たちだ。
僕はそこで、オーストリアの一件でわかったことを共有した。
カールその中で、個人的に気になることができてね……。
日本へ行かなくてはならないんだ。
うん……絶対に。

第3話:もう1人の同行者

カールというわけで僕と恭遠は行くのだが、
イエヤスは君たちにも興味を示しているのだよー。
どうだい、一緒に来ないかい?
十手そ、それは是非とも……!
〇〇君さえよければ……どうかな?
主人公【もちろん行きたい】
【イエヤスさんに会ってみたい】
十手ようし! そうこなくっちゃ。
で、カール君。出発はいつなんだい?
カールああ、明日の朝だ。
十手あ、明日!!??
恭遠すまないな。
俺の都合もあって、急なスケジュールになってしまったんだ。
恭遠ちなみに……君の予定は公休という形で
調整可能なことを確認済みだ。
主人公【既に手回しが……!】
【ありがとうございます!】
カールでは、決まりだ!
士官学校の貴銃士2名程度なら逗留許可が出るそうだから、
せっかくならもう1人呼びたまえ。
カール十手と僕は古銃だから、
薔薇の傷のバランスを取るには現代銃がいいかな。
カール諸々、よろしく頼むよー。

十手うーむ……急な話で頭が追いつかないけれど、
もう1人を早いところ決めないといけないね。
主人公【マークスは前回一緒に行けなかった】
→十手「はは、そうだったね。
荷物に入れて連れて行ってくれと言っていたのが
なんだか懐かしいよ。」

【ライク・ツーはどう?】

→十手「うんうん。
ライク・ツー君が一緒だと心強いね。」
十手しかし……マークス君とライク・ツー君の2人は
今朝から健康診断でカサリステに泊まり込みだからなぁ。
主人公【貴銃士の健康診断ってどんなことをするの?】
→十手「ああ、そういえばあまり話したことはなかったかな。」

【健診というよりしっかりした検査みたいだね】

→十手「その通りなんだよ。
最初は目新しくて面白かったんだが、
何度もとなると結構大変でね……。」
十手血液検査をしたり、骨の写真を撮ったり……。
食事を控えないといけない時間もあるから、
検査までの段取りを間違うと厄介なんだ。
十手妙な筒をくわえて息を吸ったり吐いたりもしたね。
あれで何がわかるのか、俺にはよくわからないが……。
それから、絶対高貴を使ってみたりすることもあるよ。
十手あれには少しばかり参ってしまうが、
貴銃士にはまだまだ謎が多いし、
いろいろ調べないといけないことがあるんだろうね。
主人公【(貴銃士ドック……)】
【(検査入院みたいなものか……)】
十手というわけで、残念だけどあの2人は
明日の出発には到底間に合わないだろうなぁ……。
十手現代銃の貴銃士も増えてきているし、
誰か1人だけ選ぶのも難しいものだね。
十手うーん、困った困った……。
グラース…………。
十手あれは……グラース君?
珍しく、と言ってはなんだが、物憂げな顔だね……。
主人公【どうしたの?】
【悩み事?】
グラース……〇〇。
空を眺めていたのさ。
僕の心は雨でも、空は澄んで綺麗だろう……。
グラース……なんだよ。
別に、なんでもないって。
十手(なんでもないわけがない……って言ったら、
余計に怒られそうだけど)
主人公【日本に興味ない?】
【任務に同行してほしい】

〇〇は、日本に一緒に行ってくれる
現代銃の貴銃士1人を急いで決めねばならないことを話した。

グラースへぇ……日本行きの任務なぁ。
十手せっかくだから、気分転換も兼ねてどうだい?
グラース考えてもいいぜ。
どんな任務なのか聞かせろよ。
十手うん、実はさっきカール君が来ていてね──

グラースふぅん……日本の幕府から正式に招待されてるのか。
それじゃあ、賓客扱い──VIPってわけだ。
グラースははっ、それなら僕が適任だろうな。
そういう場でのマナーは完璧だ。
十手確かに! 心強いよ!
グラースそれに、グラース銃は日本にもゆかりがあるしな。
十手え?
グラース君はフランスの銃じゃ……?
グラース日本の軍隊ってのは、かつてフランスを手本に近代化したんだぜ?
グラース銃は日本で初めての制式銃の元になったはずだ。
十手ええ! そりゃすごい!
グラース(日本は諸外国との交流をほとんど断って鎖国状態だったよな。
フランスとは違って革命戦争の中心からも遠い。
現代銃への忌避感もそこまで強くねぇといいんだが)
グラース(……もしかすると、日本にもゆかりのある銃ってことで
歓迎されたりしてな)
グラース……よし。行ってやるぜ。
十手おお! ありがとう、グラース君。
とても嬉しいよ!

同行する貴銃士がグラースに決定したことを恭遠に伝えるため、
〇〇は1人、職員室へと向かった。

グラースあー、楽しくなってきた!
日本旅行を満喫して、
モーガンにフられた鬱憤を晴らしてやるぜ!
十手……え?
グラース信じられるか?
彼女、僕の雰囲気が好みじゃないとか、
『シャスポーさんの方が好き!』だとか言うんだぜ!?
グラース見る目がないにもほどがあるだろっ!
十手そ、そんなことで落ち込んでいたのかい……?
グラースなんだよ、そんなことって。大問題だろ!
十手ご、ごめん。
まあ、任務にやる気があるならよかった……のかな?

 

第4話:日本到着!

ロンドンを出発した翌日──
〇〇、十手、グラース、カール、恭遠の5人は
日本の空港に降り立った。

恭遠では、事前に話していた通り、ここからは別行動だ。
くれぐれも気をつけて行動してくれ。
グラース……なあ。
別行動ってのは聞いてるが、そっちはどこに行くんだ?
目的地も何も聞いてないぞ。
カール……僕たちは種子島に向かう。
このことは他言無用で頼むよ。
主人公【タネガシマ?】
カールそう、この日ノ本に初めて銃が伝来した場所だ。
カールでは、イエヤスによろしく伝えておいてくれ。
そちらは頼んだよ。
恭遠お、君たちの迎えの車が来ているみたいだ。
それじゃあ、また。

カールと恭遠と別れた3人は、
幕府の役人に迎えられ、城を目指して移動を始めた。

グラースここが日本か……!
フジヤマはどれだ? 向こうに見える山か?
でも、絵とは全然違うな。
十手グラース君、このあたりから富士山は見えないと思うよ。
十手ええと……桜國幕府での会合は17時からか。
それまで結構時間があるね。
主人公【また歌舞妓町に行ってみる?】
【キセルさんに挨拶に行こうか】
十手おお、それはいいね!
キセル君は変わりないかな。久々に会えるのが楽しみだよ!
グラースなあ、ずっと聞こうと思ってたんだけど。
サクラグニ幕府ってなんなんだ?
主人公【どこから説明すればいいかな……】
【十手が詳しいはず】
十手うーむ……かいつまんで話そうか。

十手黒船来航から始まる明治維新と大政奉還によって、
約260年続いた江戸時代が終わった──その十数年後。
十手外国との戦争が起きようとする中、
戦争は古来より征夷大将軍率いる『幕府』の役目である、
という運動を起こした一派がいたんだ。
十手この運動を主導して世論をまとめ上げ、
天子様の任命を受けて新たな『将軍』となり
幕府を開いたのが、桜國義彦(よしひこ)だった。

十手彼が今にまで続く桜國幕府の初代将軍というわけだ。
グラースへぇ、日本にもナポレオンみたいなヤツがいたんだな。
それに、ナポレオンよりもハッピーエンドだ。
グラース第三次世界大戦では激戦地からは外れて、
核兵器による国土壊滅も避けられたみたいだしな。
十手地理的な条件が幸いしたのもあるだろうね。
それでも、世界帝府の圧政下に置かれたのは、
世界中の国々と同じだ。
十手革命戦争後の大転換期の今は、世界各国と距離を置きつつ、
国力の回復に努めているんだって。
十手それを主導しているのが、
今の将軍・桜國泰澄様というわけさ。
十手日本が距離以上に『遠い国』と言われるのは、
世界連合に加盟していないから。
十手『世界連合軍日本支部』ではなくて、
『自衛軍』という独自の軍を持っているのも特色だね。
グラースMerci. 日本のことはよくわかったぜ。
なあ、それよりもさ……。

グラースは窓の外を眺めて、眉間にぐっと皺を刻んだ。

グラース僕のイメージと違うぞ!
そこらじゅうビルだらけじゃねぇか!
グラースフジヤマも見えねぇしサムライもいない!
これじゃ楽しい観光にならないぜ!?
主人公【現代的だよね】
【ロンドンのビジネス街と似てる】
十手ははは、心配ご無用!
これからグラース君が想像しているような『日本』に行くよ。

第5話:歌舞妓町にて

──〇〇たちは、歌舞妓町自治区に到着した。

十手どうだい、グラース君!
グラースWaouh……! これだよこれ!
サムライがいっぱいいるぞ!
あっ! あれがゲイシャ!?
主人公【やっと気分が上がってきたね】
【楽しそうで何より!】
十手うん、グラース君の期待に応えられてよかった!
グラース……コホン。麗しき花々のようなマドモアゼルたち。
僕は初めて日ノ本に来たんだ。
何も知らない僕に、手取り足取り教えてくれると嬉しいな。
女郎1まあ! 異国のお兄さんだなんて珍しいわね。
……あら?
女郎1ねぇ……もしかして、十手さんじゃない?
お久しぶりだねぇ!
十手んん?
女郎1そっちは……士官候補生さん!
女郎2この間の大捕物、格好よかったって噂よぉ!
おかげで大黒屋の悪事もわかったって話じゃないか。
ね、これからうちの見世で話しましょうよ!
女郎2歌舞妓町を守ってくれた立役者たちだもの。
美味しいお茶とお菓子くらいご馳走させてちょうだいな!
十手いやいや、俺たちはただ、やるべきことをしただけで。
でも、そういう風に言ってもらえるのは嬉しいものだね。
主人公【ありがとうございます】
女郎1もう、2人揃って謙虚すぎるわよぉ。
グラース(な……僕を差し置いて、十手がモテている……!?)
女郎1ね、今回はしばらく日本にいらっしゃるの?
遠慮なんてしなくていいから、
時間がある時にまた寄ってくれなくちゃ嫌なんだからね。
女郎2そうよ! ねぇ、いいでしょう?

女郎たちに囲まれる十手と〇〇を、
グラースは愕然として見つめる。

グラース〇〇……お前は貴銃士たらしだと思ってたから、
そこまで驚きはねぇけど……。
グラース十手……僕はどうやら、お前を見くびってたみたいだ。
やるじゃねぇか……!
十手ええっ!?
???よう、俺のシマで賑やかにやってくれてるじゃねェか!
主人公【この声は……!】
【キセルさん!】
キセル久しぶりだなァ、〇〇、十手!
十手キセル君、早速会えて嬉しいよ!
でも、俺たちがここにいるってなんでわかったんだい?
キセルお前らが来たことは門番が報告を上げてくれてな。
あとは歌舞妓町の皆に聞いて辿っていけばすぐってわけだ。
キセルカールから話は聞いてるぜ?
このあとはお偉いさんと会合だろ。
忙しいのに真っ先に顔見せに来てくれるとは、嬉しいもんだ!
キセルそういや、新顔もいるな。
俺ぁ鷲ヶ前(わしがさき)組のキセルだ。よろしくな。
グラースBonjour.
〇〇の貴銃士のグラースだ。よろしく。

キセルに誘われ、一行は近くの食事処で昼食をとる。
その後、前回も訪れた茶屋で団子を食べることになった。

主人公【やっぱり美味しい!】
【お団子最高……!】
グラースおお、これがマッチャか……!
……んぐっ、苦……っ!?
キセルははっ! いっぱい食えよ。
キセル(……この傷がなァ……)

キセルは、団子を持つ〇〇の手に刻まれている
薔薇の傷をじっと見つめた。


カール……やはり、アリノミウム結晶には本物と偽物があると思う。
レジスタンス時代、赤い石は触れると全身から血を吹き出して死ぬ
危険なものだという情報が入っていただろう?
キセルおう。俺たち奇銃で世界帝軍に探りを入れてた時も、
そんな話を聞いたことがあったぜ。
カールそれなのに、今や世界のあちこちにマスターがいる。
これは明らかにおかしい。
おまけに、君たちが絶対高貴になれないのも異常だ。
カールマスターになる際の死亡リスクをなくす代わりに、
不完全な召銃しかできない紛い物の結晶……。
カールこれが数多く流通していることからして、
人工的に作り出された結晶と考えるべきだろう。
本物と人工の結晶には、いくつかの決定的な違いがある。
カール人工のアリノミウム結晶を使って召銃を行った場合、
どういうわけか、いかなる古銃も絶対高貴にはなれないようだ。
イエヤス絶対高貴になれないとなると……。
カールそう。マスターの薔薇の傷の悪化を食い止める手段がないんだ。
薔薇の傷の悪化は、マスターと貴銃士双方に悪影響を及ぼす。
その最終段階がおそらく……貴銃士のアウトレイジャー化だ。
キセル……あの話も通じねぇ、破壊と殺戮だけしか行動原理にねぇような
アウトレイジャーどもは、貴銃士のなれの果てなのか。
キセルそして、いずれ俺たちも……。
イエヤス&キセル…………。
カールそう悲観することはないが、油断もできないねー。
薔薇の傷が悪化する速度には、貴銃士自身の性質や精神状態、
マスターの健康状態が関わっていると考えられる。
カールそれから、絶対非道に寄っても著しく悪化する。
しかし君たちは古銃で、マスターを同じくする貴銃士はいない。
急速に傷が悪化することはないだろう。
カール……通常ならば。
カールただ……僕の例からもわかるように、
マスターが加害されると、状況は一変する。
だから、マスターの守りを固めることも重要だねー。
カールそういうわけで、君たちが絶対高貴になれない理由は明確かつ、
君たちにはどうしようもないことだ。
気に病めば傷の養分になってしまうから、気にしないように。
カールそうそう。僕が伝えた情報は他言無用で頼むよ。
知るだけでも危険性が増すのは間違いないからねー。

キセル…………。
十手キセル君?
キセル……ん? 悪ィ、ボーッとしちまってたぜ。
キセルさて、団子は食い終わったな。
少し場所を移すか。

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