桜國城にて──
入り組んだ長い廊下を進んでいき、いくつもの襖を見送り、
〇〇たちは広々とした一室に通された。
グラース | 立派な広間だが……椅子がないぞ。 そのクッションみたいなのの上に立ってりゃいいのか? |
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十手 | いや、それは座布団。その上に座ればいいんだよ。 正座はできるかい? ほら、こうして……。 |
グラース | なんだそれ……うわっ! |
グラースが少しバランスを崩しつつ、
なんとか十手のように正座をする。
十手 | 痛かったら無理せずに胡座でも……。 江戸時代の初期なんかは、胡座が『正座』だったというし。 |
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グラース | ふん、問題ない。 その国のマナーに合わせるのが紳士だからな。 |
幕臣 | 上様、および貴銃士イエヤス様の御成ー! |
十手に倣い、〇〇とグラースも頭を下げる。
静かな足音が2人分、上座へと歩んでいった。
??? | 面を上げよ。 |
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主人公 | 【はい!】 |
??? | そなたが〇〇殿か。 そして貴銃士の十手殿とグラース殿だな。 遠路はるばる、よくぞ日ノ本へ参られた。 |
イエヤス | 俺の名はイエヤス。 かつてはレジスタンスの貴銃士として戦い、 今はこの桜國幕府に身を置いている。 |
グラース | (ん……? 将軍はどこだ?) |
十手 | (この御仁がイエヤス殿か……! そして、御簾の奥にいらっしゃるのが……!) |
イエヤスの後ろには御簾が垂らされている。
薄暗い御簾の奥にいる将軍の姿をはっきり見ることはできない。
イエヤス | 〇〇殿は、恭遠やカールとの関わりも深いそうだな。 彼らから、俺のことは何か聞いているだろうか。 |
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主人公 | 【カールが『好青年』だと話していました】 →イエヤス「はははっ、好青年か。 光栄だが、青年と言えるのかはなんとも言えないところだな。 彼にとっては俺もまだ若造と言えるのかもしれないが。」 【たしか、『タヌキ』……?】 →イエヤス「…………。」 イエヤス「……ふっ、はははは! そう言ったのはカールだろうか。 ならば褒め言葉として受け取っておくのがよさそうだ。」 |
イエヤス | ……さて、挨拶はこれくらいにして。 〇〇殿に尋ねたいことがいろいろあるのだ。 |
イエヤス | そうだな、まずは……そなたにとって、貴銃士とは? |
イエヤスは時折、御簾の向こうの将軍と言葉を交わしつつ、
あれこれと質問を投げかける。
〇〇はまるで面接のような問いかけの数々に
戸惑いながらも、丁寧に自分の言葉で答えていった。
イエヤス | ……なるほど。 質問攻めにしてあいすまぬな。 俺から聞きたいことは以上だ。 |
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イエヤス | そちらからも、知りたいことがあれば聞いてくれ。 |
主人公 | 【鎖国は今後も続きますか?】 |
イエヤス | ……ふむ、〇〇殿は 日ノ本の鎖国を不便に感じていると見える。 |
イエヤス | それは俺も同じだ。ははは。 |
グラース | えっ! じゃあ、開国もあり得るのか……ですか? |
イエヤス | 同じ貴銃士同士だ。 かしこまらずに話してくれ。 |
イエヤス | さて、鎖国についてだが……。 日ノ本の状況は、君たちがいる欧州とは大きく異なっている。 その点から話を始めてみよう。 |
イエヤス | 日本は世界帝府のお膝元やレジスタンス活動の中心地から 地理的に遠いこともあり、太平楽にかの時代をやり過ごした…… と思われているかもしれないが、実情は違う。 |
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イエヤス | 圧政下の桜國幕府は、世界帝府の傀儡だった。 既存の政治の枠組みを流用する方が 支配者にとって楽だったために残されただけで、実権は何もない。 |
イエヤス | 帝府の意向に従うだけの、上意下達機関だ。 だが、形骸化していたとはいえ『幕府』は存在していたため、 圧政下での人々の不満は、幕府に向けても募っていった……。 |
イエヤス | ゆえに、革命戦争後の日ノ本は大混乱となった。 幕府を実質的に支配していた世界帝府が消え、 政治の中枢は桜國幕府へと戻されたが……。 |
イエヤス | それを良しとしない者たちも当然いる。 彼らはそれぞれが信じる正義のために、 それぞれの理想を胸に戦ったのだ。 |
イエヤス | ある一派は、日ノ本も世界連合の一員となるべきだと考えた。 ある一派は幕府を解体して新たな政府を作ろうと考えた。 またある一派は、桜國幕府を立て直そうと奔走した。 |
イエヤス | 最終的には……革命戦争後の混乱期をなるべく早く脱し、 もう二度と他の枠組みに服従することなく、これからも 日ノ本としてあり続けることを掲げた者が支持を集めた。 |
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主人公 | 【その方が、今の将軍なんですね】 |
イエヤス | いかにも。 上様の奔走に突き動かされ、 かつての政敵も少なからず幕府に加わっている。 |
イエヤス | 幕府を支える幕臣たちには、世界帝政時代を知る者も多い。 圧倒的武力を前に為す術もなく傀儡に成り下がり、 国を荒らされた屈辱を嫌というほど味わった者たちだ。 |
イエヤス | 彼らの多くは、新しい世界秩序とやらに 軽々に参加するのは愚だと感じている。 ……かつての世界帝の例がある以上はな。 |
グラース | (……つまり、幕府の奴らは 世界連合に不信感を持ってるってわけか。けど……) |
グラース | 幕府としてはそうでも、 イエヤス……君にとっては違うんじゃないのか? |
グラース | 今の世界連合には元レジスタンスのお仲間も多いだろ? それに、世界帝府の反省をもとに、 運用もいろいろと見直されてるはずだ。 |
イエヤス | そうだな……俺個人としては、 世界連合と距離を縮めることに大きな抵抗感はない。 懐かしい顔を見に、欧州の地へ赴きたい気持ちもある。 |
イエヤス | だが……俺は貴銃士だからな。 政は人のもので、俺たち貴銃士のものではない。 日ノ本を治める者たちが否としたならば、覆そうとは思わないさ。 |
十手 | そうか……。 |
イエヤス | そういうわけで、鎖国はまだしばらく続きそうだ。 ……さて、他に尋ねたいことは? |
主人公 | 【自分たちを招いてくださった理由は……?】 |
イエヤス | それは……俺が時に『狸』と呼ばれる所以だな。 |
十手 | ……?? |
イエヤス | 今宵は自衛軍にて宴が催されると聞いている。 どうか楽しんでいってくれ。 |
主人公 | 【はい!】 【ありがとうございました!】 |
イエヤス | ──では。 |
??? | 大義であった。 |
十手 | ……っ! |
御簾の向こうの人物が、部屋をあとにした。
イエヤスもそれに付き添うようにして去って行く。
十手 | さて、俺たちも行こうか。 葛城君と八九君が待っているはずだからね。 |
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主人公 | 【そうだね……あれ?】 【た、立てない……!?】 |
グラース | なんだこれ、足が動かないぞ……! うおっ、痛っ! |
〇〇とグラースが、
立ち上がれずに床を転げ回る。
十手 | はは、足が痺れたんだね! こりゃ大変だ! |
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グラース | うぐ……、はぁ……やっと落ち着いてきた。 痺れ薬でも盛られたみてぇだった……! |
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主人公 | 【苦行だった……】 【平気な十手はすごいね!】 |
十手 | はは……短い時間だったけど、 慣れてないと大変だよね。 |
グラース | ……で、結局喋ったのは最後の一言だけだったな。 |
十手 | ……上様のことかい? |
主人公 | 【基本的に直接会話はしないんじゃないかな】 【そういうしきたりなんだと思う】 |
グラース | 喋るのが面倒ならいいけど、 サクッと話してぇのにいちいち間に人を挟まなきゃいけないなら まどろっこしそうだよな。 |
十手 | そうだねぇ……。 威厳だとか安全面だとか、理由はあれこれありそうだね。 間に誰かを挟むことで、会話内容の証人にもなってもらえるし。 |
グラース | ま、お偉方ってのはいろいろ面倒なもんだよな。 常に周りを囲まれて、気を抜く暇もなさそうで…… 監視されてんのと同じじゃねぇか? |
グラース | イエヤスもご立派なこった。 僕だったら抜け出してどっかに遊び行って、戻らねぇかも。 |
主人公 | 【グラースは無断外出が多いからね】 【寮の門限は守ってほしいな】 |
グラース | う……。 |
十手 | 〇〇君はいろいろと質問されていたね。 大変だったんじゃないかい? |
主人公 | 【重要な質問ばかりで少し緊張した】 【見極められてるみたいで責任重大だった】 |
グラース | ああ……世界連合や各国のスタンス、 貴銃士について……慎重に探ってる感じだったな。 |
十手 | 滞在中の俺たちの振る舞いも重要になってくるね。 うう……身が引き締まるよ。 |
十手 | ……おや? |
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邑田 | おお、久方ぶりじゃのぅ。 |
在坂 | …………。 |
十手 | 邑田君、在坂君、久しぶりだね。 また会えて嬉しいよ! そちらの方は? |
邑田 | 桂 十三(じゅうぞう)。 自衛軍の幕僚長にして、我らのマスターじゃ。 |
桂 | お初にお目にかかりますな。 遠くイギリスより、ようこそおいでくださいました。 |
主人公 | 【(幕僚長……!?)】 【(自衛軍の大物だ……!)】 |
桂 | はっはっは、そう身構えないでくだされ。 あなた方は客人なのですから。 |
桂 | それに……ふむ、ふむ。 〇〇殿は腕の立つ狙撃手の卵のようだ。 士官候補と聞いているが、既に軍人としての覚悟を持っている。 |
グラース | 狙撃手って…… 見ただけでそんなことまでわかるんです? |
桂 | 身のこなしや、纏う空気が狙撃手のそれでしたからな。 これでも、多くの部下を見てきたので、 素質のある者を見分ける目はあるつもりです。 |
グラース | へぇ……さすがは幕僚長殿ですね。 |
グラース | 今夜、お部屋に伺っても? |
十手 | グ、グラース君!? 駄目だよ……!? |
主人公 | 【皆さんもお城で用事が……?】 |
邑田 | うむ。ちょいと茶室での。 用が済んで、ちょうど帰るところである。 |
十手 | ああ……そういえば八九君が、 君たちはお茶会をしてるって言っていたなぁ。 |
在坂 | ……在坂は、人の予定を無闇に話すのは感心しない。 |
主人公 | 【もしかすると、羨ましかったのかも】 【お茶会に興味があったのかも】 |
在坂 | む……そうか。 在坂は八九を仲間外れにしたいわけではない。 でも、茶会に来るのは駄目だ……と思う。 |
邑田 | そうじゃな。 代わりに歓迎会では八九を可愛がってやろうぞ。 |
桂 | おお、そうでした。 歓迎会の用意ができていると、部下から連絡があったところです。 |
桂 | 我々もすぐに合流しますから、お先に移動を。 葛城の対応に不備はございませんで? |
主人公 | 【とてもよくしてくださっています】 【丁寧に案内していただけで安心です】 |
桂 | ほう……それは何より! それでは、のちほど。 |
──桜國城内、会議室にて。
幕臣8名が卓についていた。
幕臣1 | では、伊藤から報告を。 |
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伊藤 | イギリスからの賓客……世界連合の審議官と、 貴銃士3名、そのマスターである士官候補生が、 国内に入っております。 |
幕臣2 | ふむ……上様とイエヤス様は、既に彼らと謁見をしたとか。 一応報告はあったものの、急な話でしたな。 我らが誰1人立ち会うことができんとは。 |
幕臣3 | 近頃、上様とイエヤス様は 我らに何か隠し事をされているようじゃ。 |
幕臣2 | 我々が頼りにならんと思うていらっしゃるのではないか? まったく、誰のせいじゃ! |
幕臣3 | そも、日美子様の予言とはいえ、 世界連合軍の関係者を軽々に街中をうろつかせるとは……。 |
幕臣4 | ……そうじゃ、日美子様。 長らくお身体の具合を崩されているとか。 |
幕臣4 | 成長を止めようと涙ぐましい努力をしておられるが、 神子といえども時の流れは止められぬ。 |
幕臣2 | 日美子様ももうすぐ13歳……次の神子の件はどうなっておる。 |
伊藤 | 日ノ本中を探しておりますが、今のところ……。 |
幕臣2 | うーむ……。 おお、そうじゃ。あともう1つ。 |
伊藤 | なんでございましょう。 |
幕臣2 | 自衛軍主催の歓迎会には、伊藤が出席する予定じゃったな。 怪しまれん程度に、客人たちの監視を頼むぞ。 |
伊藤 | ……ええ。 |
葛城 | さあ、到着しました! ここが歓迎会の会場です! |
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グラース | おぉっ……! |
グラース | ……おぉ??? |
兵士たちが一行を拍手で出迎えてくれる。
歓迎会場の小ホールは手書きの「ようこそ!」という垂れ幕や、
色とりどりのパーティーリングなどで飾られていた。
グラース | なんて言うか……ホームパーティー感があるな……? 僕たち、一応国賓だろ? |
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葛城 | はい! 前回、〇〇殿と十手殿がいらした際、 ホテルでの晩餐会や観劇などにご案内したところ、 気疲れさせてしまったらしいと伺いまして。 |
葛城 | 自衛軍での歓迎会だけでも、 肩肘を張らず楽しんでいただければと考えた次第なのです。 |
桂 | ははは、立食形式とはいいですな。 私も久方ぶりに、皆との話に混ざれそうだ。 |
葛城 | 桂幕僚長! 邑田殿、在坂殿! |
兵士たちが一斉に敬礼をする。
桂 | せっかくの無礼講だろう、私のことは気にしないでくれ。 |
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司会:山本 | えー、では……自衛軍施設課の山本軍曹です。 本日の司会を務めさせていただきます! |
司会:山本 | 本日は、〇〇殿、十手殿、グラース殿と 親睦を深める会ということで、桂幕僚長もおいでですので、 乾杯の音頭をお願いいたします! |
桂 | うむ。乾杯の挨拶は長くていいことはないからな。手短に。 ……得がたい交流の機会に──乾杯! |
一同 | 乾杯! |
グラース&十手 | …………。 |
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グラース | 自衛軍の奴ら……遠巻きに見てるだけで寄ってこないな。 けど、敵意は感じねぇし…… 嫌われてるってワケでもなさそう、か……? |
十手 | うん、どう近づけばいいかわからないって感じかな。 どちらかというと興味はあるように感じるよ。 みんな、チラチラとこっちを見ているしね。 |
邑田 | そなたら、楽しんでおるか? 葛城は余興の準備でおらぬようじゃから、 わしらが相手をしてやろう。 |
邑田 | 食べたいものがあれば、言うがよいぞ。 取ってきてやろうな。……八九が。 |
八九 | 俺かよ!! |
在坂 | むぐ……八九はとてもいい仕事をした。 今日のメニューに唐揚げがなかったら、 在坂は物足りなかっただろう。 |
八九 | って、もう唐揚げがねぇ! あんなに用意したのに!? 全部食うなよ!! |
在坂 | 早いもの勝ちだ。 |
グラース | 悪くねぇ考えだ。 奪われたくなけりゃ、先に奪うしかないからな。 |
八九 | いや、お前の分も奪われてるけど……? |
十手 | ええと……よかったら、俺が取っておいた唐揚げを食べるかい? |
邑田 | おや、気が利くのう。 |
八九 | おいいい、邑田!? 十手は俺に言ったんだよな!? |
邑田 | ほっほっほ! して、皆の者。 〇〇たちに話しかけるなら今じゃぞ。 でなければ、わしらが独占してしまうが。 |
自衛軍兵士1 | あ、あの! よければ、士官学校の生活について教えてください! |
自衛軍兵士2 | 飛行機に乗った感想は!? |
八九 | うおっ……一気に集まってきやがったな……。 |
次第に〇〇の周囲に人だかりができる。
グラース | ああ、鎖国してるから海外に旅行にも行けないんだよな。 じゃあ、フランスの社交界の話はどうだい? なんなら、ダンスをしながらでも。 |
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自衛軍兵士1 | フランス! 社交界! |
自衛軍兵士2 | ダンスもお手の物、と……! 洗練されていらっしゃるなぁ……。 |
主人公 | 【(あれ、八九さんが消えてる)】 【(在坂さんがいない……?)】 |
在坂 | …………。 |
司会:山本 | さてさて、交流会名物ゲームコーナー! これから『お絵かき伝言ゲーム』を開催します! 名前を呼ばれた人は、壇上へどうぞ! |
司会:山本 | さてさて、続いては『あなたが知りたい!ビンゴ大会』! ここにいる皆様にちなんだ数字を開いていきます! |
---|---|
司会:山本 | では、次の番号は、十手殿の記念日から! |
司会:山本 | 義のために戦った勇敢な侍にあやかりたいと、 赤穂浪士討ち入りの日を記念日にされたそうです。 |
司会:山本 | ということで、十手殿。 十手殿の記念日は、12月の何日でしょうか? |
十手 | 14日だよ。 |
司会:山本 | はい、次の数字は14です! そろそろビンゴの方はいらっしゃるでしょうか? |
主人公 | 【はい!】 【ビンゴ!】 |
葛城 | おおっ、小生もビンゴであります! |
司会:山本 | おおっと! 1等の商品は最新型冷蔵庫です! 同時ビンゴの場合はジャンケンで勝負となります! |
一同 | おおお~!! |
八九 | ファミリー型の冷蔵庫とか、寮住みの奴はもらっても困るだろ。 2等の商品券の方が汎用的で、1等級の当たりだな。 けど、3等の個室高級焼肉フルコースもいい。 |
??? | ……八九殿ももしや、3等狙いですか? |
八九 | お、竹田……お前もかよ。 そっちは今どんな感じなんだ? |
竹田 | この通りです。 いい線を行っていると思うのですが、 なかなか決め手に欠け……。 |
八九 | げっ! ダブルリーチじゃねーかよ……! |
司会:山本 | さーて、冷蔵庫はどちらの手に! ……っと、〇〇殿、どうされました? |
主人公 | 【イギリスに冷蔵庫を持って帰れないので……】 【自分は寮暮らしですから……】 |
葛城 | 小生に譲ってくださるのですか……? ありがとうございます……! |
〇〇は2等の商品券を受け取って、
貴銃士たちのもとに戻った。
十手 | おめでとう、〇〇君! 滞在中に使えるといいね。 |
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十手 | ……〇〇君? |
主人公 | 【……やっぱり、在坂さんがいない】 |
十手 | ああ……君も気づいたかい? 俺もさっきから気になって探してるんだが、姿が見えなくて……。 |
十手 | もしかして、食べ過ぎで具合が悪くなったとか……? |
葛城 | 〇〇殿、どうされましたか? お困りのことがあれば小生になんでもおっしゃってください! |
葛城 | 小生はイエヤス様より直々に〇〇殿のお世話係を 託していただいた際、『〇〇殿第一!』と 申し付けられておりますゆえ。遠慮など無用です! |
主人公 | 【ええっ……!?】 【自分第一……!?】 |
葛城 | ははは! というのは意訳なのですが。 正確に申しますと、〇〇殿の意図に添えるよう 交流を深めつつ柔軟に動くように、とのことです。 |
葛城 | ……あ! しかし、申しつかったからそうするというのではなく! |
葛城 | 数多の貴銃士に慕われている〇〇殿と 交流を深められるのが、『マスター』の末席に名を連ねる者として 心底嬉しいのです! |
主人公 | 【ありがとうございます】 【そう言っていただけて光栄です】 |
葛城 | ……おっと! それで、何かお悩みのようでしたが……。 |
主人公 | 【在坂さんがどこに行ったか知っていますか?】 【在坂さんが見当たらないことが気になって】 |
葛城 | ああ、在坂殿は……。 |
葛城 | ……! 邑田殿も、在坂殿の件ですか? |
邑田 | うむ、左様じゃ。 |
十手 | わっ!? い、いつの間に後ろに!? |
邑田 | わしとしたことが、目を離してしもうての……。 在坂が今どこかで1人寂しくしていると思うと、 いても立ってもいられぬのじゃ。 |
邑田 | 〇〇、そなたも在坂が気になるのかえ? |
主人公 | 【はい、1人でどこに行ったのかなと……】 【食べ過ぎでお腹を壊していないか心配です】 |
邑田 | そうかそうか……! |
邑田 | わしにとって在坂は、かけがえのない存在であるからの。 そなたもわしと同じように在坂を気にかけてくれておること、 まこと、嬉しく思うぞ。 |
邑田 | おお、そうじゃ。 わしも、桂からくれぐれもそなたを頼むと言われておる。 |
邑田 | ゆえに、危険が伴うようなことでなければ、 そなたの行きたいところへ行き、見たいものを見られるよう そばにいて手助けするつもりじゃ。 |
邑田 | そなたも在坂が気になるのであればちょうどいい。 わしとともに、在坂を探しに行くか? |
主人公 | 【行きます】 【連れて行ってください】 |
邑田 | よし。では参ろうかの。 十手、そなたはわしの分もびんごの番をしてくれるか。 |
十手 | ああ、任せてくれ! |
邑田は、〇〇と葛城を連れて、
会場を出て歩き始めた。
邑田 | …………。 〇〇……そなたに1つ、 言っておかねばならんことがある。 |
---|---|
邑田 | そなたの善意を、わしは嬉しく思う。 じゃが……善意が必ず良い方向に働くとは限らぬ。 時に、意図せぬ悪い方向へ転ぶこともあろう……。 |
邑田 | そのことを胸に留めておいておくれ。 ……なに、わしの杞憂に終わるかもしれんからな。 頭の片隅に置いておいてくれればよいだけなのじゃ。 |
主人公 | 【……わかりました】 【覚えておきます】 |
邑田 | うむ、そなたはよい子じゃ。 |
邑田 | ……さて、在坂の居場所にはおおよそ目星がついておる。 早々に迎えに行くとしようかの。 |
〇〇たちは宴会場を抜け出し、
中庭に出た。
邑田 | ……やはり、そこにおったか。 |
---|
邑田が見上げる先に、在坂がいた。
中庭に面した建物の屋根で、月を眺めている。
主人公 | 【あんなところに……!】 【屋根の上なんて危ない……!】 |
---|---|
葛城 | 在坂殿ー! |
在坂 | ……! 在坂を、呼び戻しに来たのか? |
在坂 | ……在坂は戻らない。 在坂があれ以上あの場にいると迷惑だろう。 |
主人公 | 【自分はそうは思いません】 【どうしてですか?】 |
〇〇は在坂の考えを少しでも理解しようと、
目を見つめようとする。
しかし視線が合いかけると、在坂はすっと逸してしまう。
その合間──視線が重なった瞬間のことだった。
〇〇は唐突に、肌寒さに襲われる。
そして、脳裏に忘れられない記憶がよぎった。
──世界帝軍に殺される両親。
ただ、隠れていることしかできなかった自分。
──冷たくなっていくヴィヴィアン。
わけもわからず、彼女に託された箱を手に
逃げることしかできなかった自分。
主人公 | 【……っ!?】 【(今のは、一体……)】 |
---|---|
邑田 | …………。 |
動揺していた〇〇だったが、ふと、
在坂が悲しげにまぶたを伏せていることに気がついた。
主人公 | 【やっぱり体調が悪い……?】 【大丈夫ですか?】 |
---|---|
在坂 | え……? |
在坂 | どうして……在坂を心配する? 在坂が、気味悪くないのか? |
主人公 | 【気味が悪いとは思いません】 【ただ心配なだけです】 |
在坂 | ……っ! ……そうか……。 |
邑田 | (……ふむ) |
在坂 | ……急に抜け出して、すまなかった。 在坂がいない方がいいと思ったんだ。 |
在坂 | だが、戻った方がいいのならそうする。 今降りるから、待っていてくれ。 |
在坂 | ……! |
葛城 | 在坂殿? |
在坂 | 今日の賓客は、桂と〇〇たちだけのはず。 そうだな? |
葛城 | ……? はい、そうですが。 |
在坂 | 〇〇、14時の方向に走れ! |
在坂は、そう言うと、
屋根の向こう側にひょいと飛んでいってしまった。
邑田 | 在坂!? |
---|---|
葛城 | 〇〇殿!? |
在坂の言葉通り、〇〇は14時の方向に走る。
ほどなくして、曲がり角から出てきた和服の女性と衝突した。
和服の女性 | きゃあっ! |
---|---|
和服の女性 | い、たた……。 |
主人公 | 【大丈夫ですか!?】 【ごめんなさい!】 |
和服の女性 | ひっ、し、失礼しました……! |
女性は慌てて走り去ってしまった。
邑田 | 桜の御紋に『幕』の文字…… あれは、城の侍女じゃな。 |
---|---|
葛城 | 確かに見覚えのある装束でした。 しかし、桜國城の侍女殿が何故こんなところに……? |
邑田&在坂 | …………。 |
葛城 | とりあえず、会場に戻りましょう。 今日の主賓がいないとあっては、皆が残念がりますので!! |
司会:山本 | それでは、ビンゴ大会を終わります! 商品を獲得された皆さん、おめでとうございます! |
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十手 | くぅ……りーちが4つもあったのに、 あと1つが揃わないなんて……っ!! |
グラース | 残念だったな。 この7位の景品のショーチューってやつ、いるか? |
十手 | え、いいのかい!? |
グラース | ああ、ボトルが素朴すぎるし、ちょっと独特の匂いだし……。 |
十手 | 嬉しいよっ! あ。よかったら、俺の参加賞と交換しようか? |
グラース | いらねぇよ! なんだよ、自衛軍クリアファイルって! |
葛城 | 皆さん、お疲れ様でした! 宿泊施設にご案内いたします! |
葛城 | 明日は巡回任務に同行いただく予定ですね。 そのお礼といたしまして、粗品ではありますが こちらの非売品自衛軍クリアファイルを……! |
グラース | それしかねーのかよ! |
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