日本編Ⅱ:第11話~第15話

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第11話:緊張の謁見

桜國城にて──
入り組んだ長い廊下を進んでいき、いくつもの襖を見送り、
〇〇たちは広々とした一室に通された。

グラース立派な広間だが……椅子がないぞ。
そのクッションみたいなのの上に立ってりゃいいのか?
十手いや、それは座布団。その上に座ればいいんだよ。
正座はできるかい?
ほら、こうして……。
グラースなんだそれ……うわっ!

グラースが少しバランスを崩しつつ、
なんとか十手のように正座をする。

十手痛かったら無理せずに胡座でも……。
江戸時代の初期なんかは、胡座が『正座』だったというし。
グラースふん、問題ない。
その国のマナーに合わせるのが紳士だからな。
幕臣上様、および貴銃士イエヤス様の御成ー!

十手に倣い、〇〇とグラースも頭を下げる。
静かな足音が2人分、上座へと歩んでいった。

???面を上げよ。
主人公【はい!】
???そなたが〇〇殿か。
そして貴銃士の十手殿とグラース殿だな。
遠路はるばる、よくぞ日ノ本へ参られた。
イエヤス俺の名はイエヤス。
かつてはレジスタンスの貴銃士として戦い、
今はこの桜國幕府に身を置いている。
グラース(ん……? 将軍はどこだ?)
十手(この御仁がイエヤス殿か……!
そして、御簾の奥にいらっしゃるのが……!)

イエヤスの後ろには御簾が垂らされている。
薄暗い御簾の奥にいる将軍の姿をはっきり見ることはできない。

イエヤス〇〇殿は、恭遠やカールとの関わりも深いそうだな。
彼らから、俺のことは何か聞いているだろうか。
主人公【カールが『好青年』だと話していました】
→イエヤス「はははっ、好青年か。
光栄だが、青年と言えるのかはなんとも言えないところだな。
彼にとっては俺もまだ若造と言えるのかもしれないが。」

【たしか、『タヌキ』……?】

→イエヤス「…………。」
イエヤス「……ふっ、はははは!
そう言ったのはカールだろうか。
ならば褒め言葉として受け取っておくのがよさそうだ。」
イエヤス……さて、挨拶はこれくらいにして。
〇〇殿に尋ねたいことがいろいろあるのだ。
イエヤスそうだな、まずは……そなたにとって、貴銃士とは?

イエヤスは時折、御簾の向こうの将軍と言葉を交わしつつ、
あれこれと質問を投げかける。

〇〇はまるで面接のような問いかけの数々に
戸惑いながらも、丁寧に自分の言葉で答えていった。


イエヤス……なるほど。
質問攻めにしてあいすまぬな。
俺から聞きたいことは以上だ。
イエヤスそちらからも、知りたいことがあれば聞いてくれ。
主人公【鎖国は今後も続きますか?】
イエヤス……ふむ、〇〇殿は
日ノ本の鎖国を不便に感じていると見える。
イエヤスそれは俺も同じだ。ははは。
グラースえっ!
じゃあ、開国もあり得るのか……ですか?
イエヤス同じ貴銃士同士だ。
かしこまらずに話してくれ。
イエヤスさて、鎖国についてだが……。
日ノ本の状況は、君たちがいる欧州とは大きく異なっている。
その点から話を始めてみよう。

イエヤス日本は世界帝府のお膝元やレジスタンス活動の中心地から
地理的に遠いこともあり、太平楽にかの時代をやり過ごした……
と思われているかもしれないが、実情は違う。
イエヤス圧政下の桜國幕府は、世界帝府の傀儡だった。
既存の政治の枠組みを流用する方が
支配者にとって楽だったために残されただけで、実権は何もない。
イエヤス帝府の意向に従うだけの、上意下達機関だ。
だが、形骸化していたとはいえ『幕府』は存在していたため、
圧政下での人々の不満は、幕府に向けても募っていった……。
イエヤスゆえに、革命戦争後の日ノ本は大混乱となった。
幕府を実質的に支配していた世界帝府が消え、
政治の中枢は桜國幕府へと戻されたが……。
イエヤスそれを良しとしない者たちも当然いる。
彼らはそれぞれが信じる正義のために、
それぞれの理想を胸に戦ったのだ。
イエヤスある一派は、日ノ本も世界連合の一員となるべきだと考えた。
ある一派は幕府を解体して新たな政府を作ろうと考えた。
またある一派は、桜國幕府を立て直そうと奔走した。

イエヤス最終的には……革命戦争後の混乱期をなるべく早く脱し、
もう二度と他の枠組みに服従することなく、これからも
日ノ本としてあり続けることを掲げた者が支持を集めた。
主人公【その方が、今の将軍なんですね】
イエヤスいかにも。
上様の奔走に突き動かされ、
かつての政敵も少なからず幕府に加わっている。
イエヤス幕府を支える幕臣たちには、世界帝政時代を知る者も多い。
圧倒的武力を前に為す術もなく傀儡に成り下がり、
国を荒らされた屈辱を嫌というほど味わった者たちだ。
イエヤス彼らの多くは、新しい世界秩序とやらに
軽々に参加するのは愚だと感じている。
……かつての世界帝の例がある以上はな。
グラース(……つまり、幕府の奴らは
世界連合に不信感を持ってるってわけか。けど……)
グラース幕府としてはそうでも、
イエヤス……君にとっては違うんじゃないのか?
グラース今の世界連合には元レジスタンスのお仲間も多いだろ?
それに、世界帝府の反省をもとに、
運用もいろいろと見直されてるはずだ。
イエヤスそうだな……俺個人としては、
世界連合と距離を縮めることに大きな抵抗感はない。
懐かしい顔を見に、欧州の地へ赴きたい気持ちもある。
イエヤスだが……俺は貴銃士だからな。
政は人のもので、俺たち貴銃士のものではない。
日ノ本を治める者たちが否としたならば、覆そうとは思わないさ。
十手そうか……。
イエヤスそういうわけで、鎖国はまだしばらく続きそうだ。
……さて、他に尋ねたいことは?
主人公【自分たちを招いてくださった理由は……?】
イエヤスそれは……俺が時に『狸』と呼ばれる所以だな。
十手……??
イエヤス今宵は自衛軍にて宴が催されると聞いている。
どうか楽しんでいってくれ。
主人公【はい!】
【ありがとうございました!】
イエヤス──では。
???大義であった。
十手……っ!

御簾の向こうの人物が、部屋をあとにした。
イエヤスもそれに付き添うようにして去って行く。

十手さて、俺たちも行こうか。
葛城君と八九君が待っているはずだからね。
主人公【そうだね……あれ?】
【た、立てない……!?】
グラースなんだこれ、足が動かないぞ……!
うおっ、痛っ!

〇〇とグラースが、
立ち上がれずに床を転げ回る。

十手はは、足が痺れたんだね!
こりゃ大変だ!

第12話:再会

グラースうぐ……、はぁ……やっと落ち着いてきた。
痺れ薬でも盛られたみてぇだった……!
主人公【苦行だった……】
【平気な十手はすごいね!】
十手はは……短い時間だったけど、
慣れてないと大変だよね。
グラース……で、結局喋ったのは最後の一言だけだったな。
十手……上様のことかい?
主人公【基本的に直接会話はしないんじゃないかな】
【そういうしきたりなんだと思う】
グラース喋るのが面倒ならいいけど、
サクッと話してぇのにいちいち間に人を挟まなきゃいけないなら
まどろっこしそうだよな。
十手そうだねぇ……。
威厳だとか安全面だとか、理由はあれこれありそうだね。
間に誰かを挟むことで、会話内容の証人にもなってもらえるし。
グラースま、お偉方ってのはいろいろ面倒なもんだよな。
常に周りを囲まれて、気を抜く暇もなさそうで……
監視されてんのと同じじゃねぇか?
グラースイエヤスもご立派なこった。
僕だったら抜け出してどっかに遊び行って、戻らねぇかも。
主人公【グラースは無断外出が多いからね】
【寮の門限は守ってほしいな】
グラースう……。
十手〇〇君はいろいろと質問されていたね。
大変だったんじゃないかい?
主人公【重要な質問ばかりで少し緊張した】
【見極められてるみたいで責任重大だった】
グラースああ……世界連合や各国のスタンス、
貴銃士について……慎重に探ってる感じだったな。
十手滞在中の俺たちの振る舞いも重要になってくるね。
うう……身が引き締まるよ。

十手……おや?
邑田おお、久方ぶりじゃのぅ。
在坂…………。
十手邑田君、在坂君、久しぶりだね。
また会えて嬉しいよ!
そちらの方は?
邑田桂 十三(じゅうぞう)。
自衛軍の幕僚長にして、我らのマスターじゃ。
お初にお目にかかりますな。
遠くイギリスより、ようこそおいでくださいました。
主人公【(幕僚長……!?)】
【(自衛軍の大物だ……!)】
はっはっは、そう身構えないでくだされ。
あなた方は客人なのですから。
それに……ふむ、ふむ。
〇〇殿は腕の立つ狙撃手の卵のようだ。
士官候補と聞いているが、既に軍人としての覚悟を持っている。
グラース狙撃手って……
見ただけでそんなことまでわかるんです?
身のこなしや、纏う空気が狙撃手のそれでしたからな。
これでも、多くの部下を見てきたので、
素質のある者を見分ける目はあるつもりです。
グラースへぇ……さすがは幕僚長殿ですね。
グラース今夜、お部屋に伺っても?
十手グ、グラース君!? 駄目だよ……!?
主人公【皆さんもお城で用事が……?】
邑田うむ。ちょいと茶室での。
用が済んで、ちょうど帰るところである。
十手ああ……そういえば八九君が、
君たちはお茶会をしてるって言っていたなぁ。
在坂……在坂は、人の予定を無闇に話すのは感心しない。
主人公【もしかすると、羨ましかったのかも】
【お茶会に興味があったのかも】
在坂む……そうか。
在坂は八九を仲間外れにしたいわけではない。
でも、茶会に来るのは駄目だ……と思う。
邑田そうじゃな。
代わりに歓迎会では八九を可愛がってやろうぞ。
おお、そうでした。
歓迎会の用意ができていると、部下から連絡があったところです。
我々もすぐに合流しますから、お先に移動を。
葛城の対応に不備はございませんで?
主人公【とてもよくしてくださっています】
【丁寧に案内していただけで安心です】
ほう……それは何より!
それでは、のちほど。

──桜國城内、会議室にて。
幕臣8名が卓についていた。

幕臣1では、伊藤から報告を。
伊藤イギリスからの賓客……世界連合の審議官と、
貴銃士3名、そのマスターである士官候補生が、
国内に入っております。
幕臣2ふむ……上様とイエヤス様は、既に彼らと謁見をしたとか。
一応報告はあったものの、急な話でしたな。
我らが誰1人立ち会うことができんとは。
幕臣3近頃、上様とイエヤス様は
我らに何か隠し事をされているようじゃ。
幕臣2我々が頼りにならんと思うていらっしゃるのではないか?
まったく、誰のせいじゃ!
幕臣3そも、日美子様の予言とはいえ、
世界連合軍の関係者を軽々に街中をうろつかせるとは……。
幕臣4……そうじゃ、日美子様。
長らくお身体の具合を崩されているとか。
幕臣4成長を止めようと涙ぐましい努力をしておられるが、
神子といえども時の流れは止められぬ。
幕臣2日美子様ももうすぐ13歳……次の神子の件はどうなっておる。
伊藤日ノ本中を探しておりますが、今のところ……。
幕臣2うーむ……。
おお、そうじゃ。あともう1つ。
伊藤なんでございましょう。
幕臣2自衛軍主催の歓迎会には、伊藤が出席する予定じゃったな。
怪しまれん程度に、客人たちの監視を頼むぞ。
伊藤……ええ。

第13話:自衛軍交流会1

葛城さあ、到着しました! ここが歓迎会の会場です!
グラースおぉっ……!
グラース……おぉ???

兵士たちが一行を拍手で出迎えてくれる。
歓迎会場の小ホールは手書きの「ようこそ!」という垂れ幕や、
色とりどりのパーティーリングなどで飾られていた。

グラースなんて言うか……ホームパーティー感があるな……?
僕たち、一応国賓だろ?
葛城はい! 前回、〇〇殿と十手殿がいらした際、
ホテルでの晩餐会や観劇などにご案内したところ、
気疲れさせてしまったらしいと伺いまして。
葛城自衛軍での歓迎会だけでも、
肩肘を張らず楽しんでいただければと考えた次第なのです。
ははは、立食形式とはいいですな。
私も久方ぶりに、皆との話に混ざれそうだ。
葛城桂幕僚長! 邑田殿、在坂殿!

兵士たちが一斉に敬礼をする。

せっかくの無礼講だろう、私のことは気にしないでくれ。
司会:山本えー、では……自衛軍施設課の山本軍曹です。
本日の司会を務めさせていただきます!
司会:山本本日は、〇〇殿、十手殿、グラース殿と
親睦を深める会ということで、桂幕僚長もおいでですので、
乾杯の音頭をお願いいたします!
うむ。乾杯の挨拶は長くていいことはないからな。手短に。
……得がたい交流の機会に──乾杯!
一同乾杯!

グラース&十手…………。
グラース自衛軍の奴ら……遠巻きに見てるだけで寄ってこないな。
けど、敵意は感じねぇし……
嫌われてるってワケでもなさそう、か……?
十手うん、どう近づけばいいかわからないって感じかな。
どちらかというと興味はあるように感じるよ。
みんな、チラチラとこっちを見ているしね。
邑田そなたら、楽しんでおるか?
葛城は余興の準備でおらぬようじゃから、
わしらが相手をしてやろう。
邑田食べたいものがあれば、言うがよいぞ。
取ってきてやろうな。……八九が。
八九俺かよ!!
在坂むぐ……八九はとてもいい仕事をした。
今日のメニューに唐揚げがなかったら、
在坂は物足りなかっただろう。
八九って、もう唐揚げがねぇ!
あんなに用意したのに!? 全部食うなよ!!
在坂早いもの勝ちだ。
グラース悪くねぇ考えだ。
奪われたくなけりゃ、先に奪うしかないからな。
八九いや、お前の分も奪われてるけど……?
十手ええと……よかったら、俺が取っておいた唐揚げを食べるかい?
邑田おや、気が利くのう。
八九おいいい、邑田!?
十手は俺に言ったんだよな!?
邑田ほっほっほ! して、皆の者。
〇〇たちに話しかけるなら今じゃぞ。
でなければ、わしらが独占してしまうが。
自衛軍兵士1あ、あの!
よければ、士官学校の生活について教えてください!
自衛軍兵士2飛行機に乗った感想は!?
八九うおっ……一気に集まってきやがったな……。

次第に〇〇の周囲に人だかりができる。

グラースああ、鎖国してるから海外に旅行にも行けないんだよな。
じゃあ、フランスの社交界の話はどうだい?
なんなら、ダンスをしながらでも。
自衛軍兵士1フランス! 社交界!
自衛軍兵士2ダンスもお手の物、と……!
洗練されていらっしゃるなぁ……。
主人公【(あれ、八九さんが消えてる)】
【(在坂さんがいない……?)】
在坂…………。
司会:山本さてさて、交流会名物ゲームコーナー!
これから『お絵かき伝言ゲーム』を開催します!
名前を呼ばれた人は、壇上へどうぞ!

 

第14話:自衛軍交流会2

司会:山本さてさて、続いては『あなたが知りたい!ビンゴ大会』!
ここにいる皆様にちなんだ数字を開いていきます!
司会:山本では、次の番号は、十手殿の記念日から!
司会:山本義のために戦った勇敢な侍にあやかりたいと、
赤穂浪士討ち入りの日を記念日にされたそうです。
司会:山本ということで、十手殿。
十手殿の記念日は、12月の何日でしょうか?
十手14日だよ。
司会:山本はい、次の数字は14です!
そろそろビンゴの方はいらっしゃるでしょうか?
主人公【はい!】
【ビンゴ!】
葛城おおっ、小生もビンゴであります!
司会:山本おおっと!
1等の商品は最新型冷蔵庫です!
同時ビンゴの場合はジャンケンで勝負となります!
一同おおお~!!
八九ファミリー型の冷蔵庫とか、寮住みの奴はもらっても困るだろ。
2等の商品券の方が汎用的で、1等級の当たりだな。
けど、3等の個室高級焼肉フルコースもいい。
???……八九殿ももしや、3等狙いですか?
八九お、竹田……お前もかよ。
そっちは今どんな感じなんだ?
竹田この通りです。
いい線を行っていると思うのですが、
なかなか決め手に欠け……。
八九げっ! ダブルリーチじゃねーかよ……!
司会:山本さーて、冷蔵庫はどちらの手に!
……っと、〇〇殿、どうされました?
主人公【イギリスに冷蔵庫を持って帰れないので……】
【自分は寮暮らしですから……】
葛城小生に譲ってくださるのですか……?
ありがとうございます……!

〇〇は2等の商品券を受け取って、
貴銃士たちのもとに戻った。

十手おめでとう、〇〇君!
滞在中に使えるといいね。
十手……〇〇君?
主人公【……やっぱり、在坂さんがいない】
十手ああ……君も気づいたかい?
俺もさっきから気になって探してるんだが、姿が見えなくて……。
十手もしかして、食べ過ぎで具合が悪くなったとか……?
葛城〇〇殿、どうされましたか?
お困りのことがあれば小生になんでもおっしゃってください!
葛城小生はイエヤス様より直々に〇〇殿のお世話係を
託していただいた際、『〇〇殿第一!』と
申し付けられておりますゆえ。遠慮など無用です!
主人公【ええっ……!?】
【自分第一……!?】
葛城ははは! というのは意訳なのですが。
正確に申しますと、〇〇殿の意図に添えるよう
交流を深めつつ柔軟に動くように、とのことです。
葛城……あ!
しかし、申しつかったからそうするというのではなく!
葛城数多の貴銃士に慕われている〇〇殿と
交流を深められるのが、『マスター』の末席に名を連ねる者として
心底嬉しいのです!
主人公【ありがとうございます】
【そう言っていただけて光栄です】
葛城……おっと! それで、何かお悩みのようでしたが……。
主人公【在坂さんがどこに行ったか知っていますか?】
【在坂さんが見当たらないことが気になって】
葛城ああ、在坂殿は……。
葛城……!
邑田殿も、在坂殿の件ですか?
邑田うむ、左様じゃ。
十手わっ!?
い、いつの間に後ろに!?
邑田わしとしたことが、目を離してしもうての……。
在坂が今どこかで1人寂しくしていると思うと、
いても立ってもいられぬのじゃ。
邑田〇〇、そなたも在坂が気になるのかえ?
主人公【はい、1人でどこに行ったのかなと……】
【食べ過ぎでお腹を壊していないか心配です】
邑田そうかそうか……!
邑田わしにとって在坂は、かけがえのない存在であるからの。
そなたもわしと同じように在坂を気にかけてくれておること、
まこと、嬉しく思うぞ。
邑田おお、そうじゃ。
わしも、桂からくれぐれもそなたを頼むと言われておる。
邑田ゆえに、危険が伴うようなことでなければ、
そなたの行きたいところへ行き、見たいものを見られるよう
そばにいて手助けするつもりじゃ。
邑田そなたも在坂が気になるのであればちょうどいい。
わしとともに、在坂を探しに行くか?
主人公【行きます】
【連れて行ってください】
邑田よし。では参ろうかの。
十手、そなたはわしの分もびんごの番をしてくれるか。
十手ああ、任せてくれ!

邑田は、〇〇と葛城を連れて、
会場を出て歩き始めた。

邑田…………。
〇〇……そなたに1つ、
言っておかねばならんことがある。
邑田そなたの善意を、わしは嬉しく思う。
じゃが……善意が必ず良い方向に働くとは限らぬ。
時に、意図せぬ悪い方向へ転ぶこともあろう……。
邑田そのことを胸に留めておいておくれ。
……なに、わしの杞憂に終わるかもしれんからな。
頭の片隅に置いておいてくれればよいだけなのじゃ。
主人公【……わかりました】
【覚えておきます】
邑田うむ、そなたはよい子じゃ。
邑田……さて、在坂の居場所にはおおよそ目星がついておる。
早々に迎えに行くとしようかの。

第15話:月下の瞳

〇〇たちは宴会場を抜け出し、
中庭に出た。

邑田……やはり、そこにおったか。

邑田が見上げる先に、在坂がいた。
中庭に面した建物の屋根で、月を眺めている。

主人公【あんなところに……!】
【屋根の上なんて危ない……!】
葛城在坂殿ー!
在坂……!
在坂を、呼び戻しに来たのか?
在坂……在坂は戻らない。
在坂があれ以上あの場にいると迷惑だろう。
主人公【自分はそうは思いません】
【どうしてですか?】

〇〇は在坂の考えを少しでも理解しようと、
目を見つめようとする。
しかし視線が合いかけると、在坂はすっと逸してしまう。

その合間──視線が重なった瞬間のことだった。
〇〇は唐突に、肌寒さに襲われる。
そして、脳裏に忘れられない記憶がよぎった。

──世界帝軍に殺される両親。
ただ、隠れていることしかできなかった自分。

──冷たくなっていくヴィヴィアン。
わけもわからず、彼女に託された箱を手に
逃げることしかできなかった自分。

主人公【……っ!?】
【(今のは、一体……)】
邑田…………。

動揺していた〇〇だったが、ふと、
在坂が悲しげにまぶたを伏せていることに気がついた。

主人公【やっぱり体調が悪い……?】
【大丈夫ですか?】
在坂え……?
在坂どうして……在坂を心配する?
在坂が、気味悪くないのか?
主人公【気味が悪いとは思いません】
【ただ心配なだけです】
在坂……っ! ……そうか……。
邑田(……ふむ)
在坂……急に抜け出して、すまなかった。
在坂がいない方がいいと思ったんだ。
在坂だが、戻った方がいいのならそうする。
今降りるから、待っていてくれ。
在坂……!
葛城在坂殿?
在坂今日の賓客は、桂と〇〇たちだけのはず。
そうだな?
葛城……?
はい、そうですが。
在坂〇〇、14時の方向に走れ!

在坂は、そう言うと、
屋根の向こう側にひょいと飛んでいってしまった。

邑田在坂!?
葛城〇〇殿!?

在坂の言葉通り、〇〇は14時の方向に走る。
ほどなくして、曲がり角から出てきた和服の女性と衝突した。

和服の女性きゃあっ!
和服の女性い、たた……。
主人公【大丈夫ですか!?】
【ごめんなさい!】
和服の女性ひっ、し、失礼しました……!

女性は慌てて走り去ってしまった。

邑田桜の御紋に『幕』の文字……
あれは、城の侍女じゃな。
葛城確かに見覚えのある装束でした。
しかし、桜國城の侍女殿が何故こんなところに……?
邑田&在坂…………。
葛城とりあえず、会場に戻りましょう。
今日の主賓がいないとあっては、皆が残念がりますので!!

司会:山本それでは、ビンゴ大会を終わります!
商品を獲得された皆さん、おめでとうございます!
十手くぅ……りーちが4つもあったのに、
あと1つが揃わないなんて……っ!!
グラース残念だったな。
この7位の景品のショーチューってやつ、いるか?
十手え、いいのかい!?
グラースああ、ボトルが素朴すぎるし、ちょっと独特の匂いだし……。
十手嬉しいよっ!
あ。よかったら、俺の参加賞と交換しようか?
グラースいらねぇよ!
なんだよ、自衛軍クリアファイルって!
葛城皆さん、お疲れ様でした!
宿泊施設にご案内いたします!
葛城明日は巡回任務に同行いただく予定ですね。
そのお礼といたしまして、粗品ではありますが
こちらの非売品自衛軍クリアファイルを……!
グラースそれしかねーのかよ!

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