日本編Ⅱ:第16話~第20話

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第16話:桜國の神子

──桜國城、祈祷所にて。

???──、──……。
侍女日美子様……日美子様っ!
侍女恐れながら申し上げます。
どうか、お食事を召し上がってください……!
日美子不要だと言ったはずです。
……下げてください。
侍女しかし……少しでも召し上がってくださいませ。
近頃ほとんど何も口にされていないではありませんか!
日美子……大丈夫です。
日美子それよりも、報告を。
〇〇はどのような人物でしたか……?
侍女はい……今夜は自衛軍主催の歓迎会に参加され、
皆様とゲームをされておいででした。
〇〇様は勝ちを譲っていらして……。
侍女自衛軍の方々ともすでに打ち解けていらっしゃいます。
お1人になった在坂様にもお気遣いをされていました。
侍女それから、葛城二佐に──
日美子……っ!

その時、日美子が手にしていた榊の葉が、ひらりと落ちる。

日美子これは……不吉の前触れ……。

──翌日、〇〇たちは
自衛軍の巡回に同行していた。

葛城おはようございます!!
主人公【おはようございます!】
【今日もよろしくお願いします!】
葛城本日は丈下(たけした)通りの警邏の予定です。
三連休ということもあり、ご覧の通り──
十手わぁ! 何かのお祭りかい!? すごい人出だ!
グラースへぇ、賑やかだな……!
邑田いかん!
あのような人混みに在坂が足を踏み入れるなど、まかりならぬ!
十手ひゃあ! 派手な格好の人たちがいるよ……!
八九あれは丈の子族って呼ばれてる陽キャ集団な。
グラース自由なファッションを楽しみ、路上でダンスか。
欲望に忠実でいいじゃねぇか。
葛城おっと!
少し離れていますが、秋ノ葉原から警備依頼が……。
移動いたしましょう!

〇〇たちは秋ノ葉原に移動した。

ニャンカフェ店員ご主人様、ニャンカフェに寄っていきませんかニャ?
十手え!? 獣の耳が生えている……!
八九耳付きのカチューシャな。
このへんは、あの手のコンセプトカフェが多いんだよ。
あれは猫耳メイドカフェの呼び込みだ。
葛城猫耳……カチューシャ……カフェ……。
グラースこっちも欲に忠実……いや、欲望そのものが生きている……!
日本人、見直したぜ……!

十手これは本屋かな?
同じような表紙の箱がたくさん並んでるね。
八九あれは本じゃなくてゲームな。
パッケージが凝ってるだろ。
十手へぇ……! あっちの大きな貼り紙はなんだい?
あれも、げぇむの広告だろうか?
八九あっちは……まあ、小説だな。
十手小説!? とても可愛い絵だけど……。
八九ラノベっつーんだけど……ま、話すと長いか。
さっきのゲームのノベライズとかもあるぞ。
十手のべ……?
よくわからんが、いろんな種類の娯楽があるんだね。
邑田八九や。あの愉快な箱のげぇむ、
そなたが気になっておるものではないかえ?
在坂八九はいつも部屋でゲームをしている。
気になるのなら買ってくればいいだろう。
八九いや、いらねぇよ。もう持ってるし……。
十手ええ、それはすごいね!
かなりの人気商品みたいなのに!
主人公【やってみたいな!】
八九えっ……!?
邑田何か不都合があるのかえ?
〇〇と親交を深めるよりも大切な都合なのか?
八九う……わ、わかった。
同じゲーム持ってる奴も呼ぶわ。
八九(〇〇って、
精神的にめちゃくちゃフットワーク軽いな……。
ま、馬鹿にしてこねぇ分うざくはねぇからいいけど )

第17話:在坂と鯉

──秋ノ葉原の巡回を終えた一同は、
北上して、大きな日本庭園にやってきた。

グラースふぅん、案外華やかなところだな。
悪くねぇ。
十手前回は神社巡りをしていたから、この庭園には初めて来るよ!
いやぁ、立派で風情あるいいところだ!
邑田七義園といってな、今は公園のようになっておる。
四季折々の花が咲き乱れる、風流な景観が人気じゃの。
在坂在坂は、この池が好きだ。
どの庭園より大きな鯉がいる……おおっ!

池のヌシのような大きな鯉が、ぱくぱくと口を開閉する。

主人公【お腹が空いているのかも】
【大きい……!】
在坂大きいのはいいことだ。
……在坂も、大きくなれたらいい。
在坂在坂はここに来るといつも、鯉にエサをやることにしている。
邑田今日も例に漏れずエサやりをするじゃろうと思って、
準備しておいたぞ。ほれ!
在坂……!
さすが邑田だ。礼を言う。

嬉しそうに鯉にエサやりをする在坂を、
邑田は優しい目で見つめる。

主人公【保護者みたいですね】
→邑田「」

【在坂さんが本当に大切なんですね】

→邑田「無論じゃ。」
邑田在坂はわしの後継銃でな。
あの子が使われてきた戦場は──。
邑田敗走すら許されぬ、飢えと狂気が渦巻く悲惨なものじゃった。
多くの兵が、祖国に帰れぬままに死んでいく。
邑田そんな戦場で使われてきた在坂は、
自分自身に対してあまりに無頓着じゃ。

邑田くっ……爆弾でもって不意を突こうとは小賢しい……!
無事か、在坂……在坂!?
在坂……う……。
邑田(子供を庇ったのか……!?)
在坂在坂は……問題ない。それより、この子を……。

邑田在坂は、常人であればのたうち回るような大怪我をしようとも、
わずかに呻くばかりで泣き言ひとつ言わぬ。
己の身を顧みることがないのだ。
邑田在坂は……自分は幸福になってはならぬと思っている節がある。
じゃが、地獄のような戦場に身を置いた銃だからといって、
貴銃士としても未来永劫苦しむ必要はなかろう?
邑田だから、わしは決めたのじゃ。
在坂を絶対に幸せにしてやろうとな。
邑田……昨夜、そなたはあの子の瞳の深淵を垣間見た。
それでも避けぬ人間というのは珍しい。
邑田……期待しておるぞ。
主人公【……!】
【は、はい……!】
無線『──葛城二佐! 貴銃士の皆様方と一緒でしょうか?
四ツ辻の廃墟付近で武装兵の目撃情報あり、
アウトレイジャーだと思われます!』
無線『急ぎ、貴銃士の皆様とともに現場へ急行されたし!』
葛城なんと……了解! ただちに向かいます!
十手大変だ……! 急ごう!!

葛城状況は!?
自衛軍兵士1はっ! 通行人および周辺住人の避難は完了しております!
邑田それは重畳。やりやすくなるわい。
在坂ああ。
八九銃狙ってなるはやで始末するか。
アウトレイジャーウウウ……恨ミ……晴ラセ……。
グラースハッ、銃狙い? ちまちましたことしてねぇで、
絶対非道をどーんとかましてやればいい。
グラース──行くぞ!

第18話:八九と自衛軍

グラース絶対非道──心銃!
アウトレイジャー1グァァァア……!
アウトレイジャー2殺、ス……!
邑田……退避せよ!

邑田、在坂、八九の3人が、アウトレイジャーへ向けて
一斉に銃を向け、弾丸を放つ。
しかし銃本体には当たらず、アウトレイジャーは止まらない。

十手危ない! 絶対高貴……!
アウトレイジャー2ウグァァ……。
自衛軍兵士1アウトレイジャーの消滅を確認!
周辺への被害も軽微です!
葛城ふぅ……なんとか無事に討伐が完了しましたね。
〇〇殿、グラース殿、十手殿、
助太刀いただきありがとうございます!
葛城いやはや、さすが連合軍の精鋭と思わずにはいられない、
流れるような見事な戦闘でした!
マスターと貴銃士の阿吽の呼吸……見習いたいものです!
グラースははっ、そいつはどうも。
……つーか、昨日も思ったけどよ、僕らは一応国賓だろ?
僕らだけに戦わせといて、お前らは呑気に観戦かよ。
邑田……そなたのやる気がみなぎっておったからの。
見せ場を譲ってやっただけじゃ。
在坂それに、見ていただけではない。
グラース……銃で普通に撃って応戦したことを言ってんのか?
あんな攻撃じゃ、大した足止めにもならねぇぞ。
アウトレイジャーに普通の攻撃がほぼ無意味だって知ってんだろ。
グラースさくっと絶対非道で倒せばいいだろうに、
3人揃って普通に射撃し始めるから何事かと思ったぜ。
十手(確かに……アウトレイジャーが目前に迫っていたのに、
邑田君も在坂君も絶対非道を使おうとしなかった。
邑田君なら在坂君を守るために躊躇しなさそうなものだが……。)
十手八九君は前に、絶対非道を使えないと言っていたけれど……
2人も使わなかったのは、マスターの薔薇の傷を気遣ってかい?
絶対非道を使うと、傷が一気に悪化してしまうからね。
邑田うむ、その通りじゃ。
わしらのマスターは〇〇と比べると、
だいぶ年を食っておるからのう。
邑田老体にあまり負担をかけるものではなかろう?
グラースあー……負担かけすぎてぽっくり死なれたら困るしな。
でも、今なら十手がいるから平気だろ。
十手ああ、俺でよければいくらでも力になるよ!
邑田ほっほっほ。覚えておくとしよう。
グラースつーかよ……八九、お前、絶対非道使えねぇのかよ!?
元世界帝軍の貴銃士とか、非道の権化だろうが!?
十手ちょっ、グラース君……!?
八九いや……絶対非道って別に、
すげー非道なことしたら目覚めるってわけじゃねぇだろ。
十手はは……そうだね。
みんなの話だと、絶対に何かを成し遂げたいっていう
ものすごく強い気持ちが引き金になるんだったかな。
八九そういうの、俺にはねぇしな。
なれなくても別に今んとこ不便もねぇから、
どうでもいいっていうか。
八九絶対非道やら絶対高貴ほどスムーズにはいかなくても、
俺らの銃とか自衛軍の武器で
アウトレイジャーには一応対処できてるしよ。
グラースはぁ……?
信じらんねぇほど覇気のない奴だな……。
邑田こやつのことはよい。
それより〇〇、傷の具合は問題ないかえ?
主人公【これくらいなら大丈夫です】
【問題ありません】
邑田ならばよし。
そなたに負担をかけることになってすまぬな。
十手〇〇君、治療が必要な時にはすぐに言ってくれよ。
葛城さて……アウトレイジャー討伐も終わりましたし、
そろそろ基地に戻りましょうか!
葛城今夜は八九殿のゲームで遊ぶ予定でしたね。
それまでは自由時間となっておりますので、
どこかへ行かれる際は小生へお声がけください!
葛城小生も仕事を終わらせて、
夜には八九殿のお部屋へお邪魔いたします!
八九げっ、お前も来るのかよ。
葛城もちろんです!
八九殿とゲームを通して親睦を深めたいと
常々思っておりましたので。
八九あっそ……。

八九……っと、あいつ今日は日勤のはずだよな。
八九おーい、竹田。
ちょっといいか?
竹田はい!
おや、八九殿。少々お待ちください!
竹田八九殿! お待たせいたしました。
本日はどのようなご用件で……?
八九……昨日も思ったけど、
お前に真面目に話されると落ち着かねぇな。
竹田フフフ……しかし、公衆の面前で『豊田(ほうだ)氏~!』と
いつものノリで声を掛けるわけにもいきませんので。
八九二佐だしな。一応威厳とかいるわな。
竹田ええ、円滑な自衛軍生活のための擬態であります。
それで……?
八九あー、本題忘れるとこだった。
この間出た新作のパーティーゲームあるだろ?
あれで、今イギリスから来てる奴らが遊びてぇって言ってて。
竹田おおっ! ゲーム外交ですか!
八九いや、そんな大層なもんじゃねぇよ。
単純に興味があるって感じだ。
八九それで、お前も参加頼めるか。
あいつらを俺1人で捌き切るのは大変そうだからよ……。
竹田八九殿の頼みとあらば、
一肌どころか二肌三肌全部脱ぎ捨て助太刀いたしましょう!
八九……心意気はありがてぇけど裸芸はやめろよ?
絶対ドン引かれるからな??
自衛軍兵士1おや、八九殿!
珍しいですね、こちらまでいらっしゃるとは。
八九おう、ちょっと緊急の用事があってな。
自衛軍兵士1そうでしたか!
そうそう、貸していただいたボードゲーム、
同室の皆とすっかりハマっております!
自衛軍兵士1今度ぜひ八九殿ともお手合わせしたいと、
皆で話しているのです。
八九おー。いいぜ。
気が向いた時でよければな。
自衛軍兵士1ありがとうございます!
楽しみにしております!!
八九おう、じゃあな。
そんじゃ、竹田も今夜よろしく。

八九…………。
八九(……なんつーか、のんびりしたもんだよな。
アウトレイジャーとか薔薇の傷とか、
考えなきゃなんねぇことはそれなりにあるけど……)
八九(俺の日常は大体平穏で、
引っ張り出された時やら気が向いた時だけ訓練して、
あとはのんびりゲームしたりで好き勝手できてる)
八九(別に特別やりたいこともねぇ。
なんとしても成し遂げたいなんて
強い思いを抱くような対象もねぇ)
八九(面倒なことはしたくねぇし、必要性も感じねぇし……
俺が絶対非道になれないのは納得感ありすぎるよな)
八九……ま、どうでもいいか。

 

第19話:深夜のゲーム会

八九……っしゃ!! 俺の勝ちだな。
在坂……すごい連打だった。
在坂は八九を見直した。
グラースゆ、指がつっ、たぁ……!
不覚……この僕が負けるだなんて……。
主人公【もう1回やろう!】
【次は負けない!】
八九まだやるのか?
俺はちょっと休憩。竹田、パスしていいか?
竹田もちろんですとも。
皆さんのお相手を務めさせていただきましょう!
葛城竹田二佐、お手合わせよろしくお願いいたします!
竹田胸を借りるつもりでどーんと遠慮なくかかってきなさい!
葛城はっ!

八九……オフラインで大人数のマルチとか、
することはねぇと思ってたけど……これはこれで悪くねぇな。
主人公【オフライン……マルチ……?】
→八九「あー……っと、こうやってリアルで集まって、
複数人でゲームをやんのが新鮮だって話だ。」

【普段はどうやって遊んでるの?】

→八九「普段はオンラインでマルチ……
つまり、こうやってリアルで集まるんじゃなくて、
通信だけ繋いでそれぞれの場所でゲームしてんだよ。」
八九竹田みたいに、ネット環境があるゲーム仲間が何人かいてよ。
時間が合う時は、そいつらと一緒にプレイしたりもする。
十手むむ……?
実際に集まらなくても、一緒にげぇむができるのかい?
八九そういうことだ。
詳細は機密な気がするから伏せとくけど、
軍関係だとそれなりに通信網が発達してるからな。
グラース……軍用の連絡網で遊んでんのか?
ハハッ、お前、ちゃっかり強欲じゃねぇか!
十手ああ、ええと、八九君。
グラース君のこれは褒め言葉でね……!
八九そ、そうなのか……? そりゃどうも……?
自衛軍兵士1──葛城二佐はこちらにいらっしゃいますか?
葛城おや? 提出した書類に何か不備でもあったのでしょうか……。
はい! 葛城二佐、在室しております!

葛城は、呼びに来た兵士と何やら言葉を交わしてから
再び部屋へと戻ってくる。

主人公【大丈夫ですか?】
【何かありましたか?】
葛城それが……日美子様から、
自衛軍全体へ向けてお達しがあったそうなのです。
邑田……新たな予言かえ? して、内容は。
葛城『十分に用心せよ』……と。
グラース……それだけか? ずいぶんざっくりしてるな。
誰とかどことか何にとか、もうちょっと情報はねぇのかよ。
竹田ふむ……確かに今回はふわっとしたお言葉ですね。
おそらく、断片的にしか予知を得られなかったのでしょう。
竹田神子のお力は万能ではありませぬから。
日美子様もきっと歯痒く感じながら警告を発せられたのかと……。
葛城日美子様のお力は本物です。
皆様もこのお言葉を頭の片隅に置き、気をつけてお過ごしを。
不肖葛城も、皆様の安全のため尽力いたします!
十手ああ。ありがとう、葛城君。
在坂…………在坂は、腹が減った。
十手そういえば俺も少し……って、もう0時じゃないか!
夢中で遊んでいたらあっという間だったなぁ。
十手夜食が欲しいところだが、
明日の朝食まで我慢するしかないか……。
八九いや、コンビニに行けばなんかあると思うぜ。
おにぎりとか、もっと軽いのならスナックとか。
グラース……?
こんな時間に開いてる店があるのか?
八九正門出てすぐのとこに、コンビニ……
あー……24時間営業の小売店がある。
八九俺はカップ麺のストックがあるから行かねぇけど、
腹減ってて興味があるなら行ってみたらどうだ?
主人公【お腹が空いたから行ってみようかな】
【コンビニ……面白そう!】
葛城…………。
葛城……! し、失礼しました!
ええと、出かけられるのですよね。
では小生も同行いたします。
竹田葛城二佐は眠いのでしょう。
自分が皆さんに同行するので、先に休みなさい。
葛城そういうわけには……。
邑田半目になっておるではないか。
そなたは特例の特進があったとはいえ、
竹田と同じ二佐。過度の遠慮はいるまいよ。
葛城うう……面目ない……。
竹田二佐、よろしくお願いいたします……。
主人公【おやすみなさい】
【また明日!】
邑田さて、わしと在坂も行くとしようかの。
こんびには目新しい商品が多く面白い。
在坂や、なんでも好きなものを選ぶとよいぞ。
在坂ああ。

部屋に残るグラースと八九、自室に戻って寝ることにした葛城、
買い物に行くその他の面々で一旦解散となる。
葛城は眠い目を擦りつつ自室に入り、ベッドに寝転がった。

葛城……ふぅ。
葛城(なんとも充実した1日だった……。
八九殿もなんだかんだ楽しそうにされていて……)

心地よい疲労感に身を委ね、
葛城はすぐに寝息を立て始めたのだった──。


???…………。

葛城が寝入ってしばらく──。
1つの人影がそっと音もなく侵入し、ベッド脇に歩を進める。

葛城……っい、痛……!?

腕に鋭い痛みを感じて、葛城は目を覚ました。
何事かと周囲を見回し、部屋から出ていく人影を視界に捉える。

葛城待て……ぐっ!
葛城なんだ……? 目眩が……。
うぐっ……。

激しい動悸と目眩、全身を蝕む苦痛。
尋常ではない異変に襲われ、葛城の額に脂汗がにじむ。

汗を拭おうと上げた手から
ポタポタと滴り落ちるのは……血だ。

葛城……っ、薔薇の傷が……!
葛城あ、あああ……ぐあぁ……!

第20話:異変

グラースおい、あいつらが買い物に行ってる間にもう1戦しようぜ。
お前相手に練習して上達してやる!
八九……お前、顔の割に負けず嫌いだな。
グラースはぁ……? なんだそれ。
八九……なんでもないっす……。
八九んじゃ、始めるか。
1 on 1モードで、ステージは──
八九……っ、……?
グラース……? おい、どうした?
八九……っ、くっ……。
なんだ……心臓が……!?

葛城う……ぐ……さっきの輩は、どこだ……。

軍刀を杖のようにして支えとし、
葛城はよろめきながら廊下を進む。
その時──八九の部屋から破壊音が響いた。

葛城……っ!?
八九ウウゥ……。
葛城そんな……八九、殿……!?
グラース……っ、いきなりなんで……!
おい、しっかりしろ! 呑み込まれんな!

八九へ必死に声をかけるグラース。
しかし、八九は不気味な笑みを浮かべ──彼へ銃口を向けた。

グラースクソッ……!
葛城……!
これが、〇〇殿が教えてくださった……。

葛城の脳裏に、〇〇たちの忠告がよぎる。
傷は、召銃している貴銃士が絶対非道を使う以外に、
マスターの肉体・精神的な健康状態によっても悪化し──

薔薇の傷が悪化しすぎると、
貴銃士がアウトレイジャー化してしまう恐れがあること。
そうなってしまった場合、対処法は非常に限られていること。

葛城(八九殿は絶対非道に目覚めていない。
そして、小生の部屋に侵入した不審者……。
あの曲者に小生はおそらく何かを注射された)
葛城(あれのせいで薔薇の傷が悪化し、八九殿がこんなことに……!
十手殿がいない以上、小生にできることは1つしかない……!)
葛城八九殿に、仲間殺しの汚名を着せてなるものか!!

葛城は、杖代わりにしていた軍刀を掲げ、鞘を払った。
支えを失い膝を床につきながらも、
刀をしっかりと握りしめ──自らへとその切っ先を向ける。

葛城マスターの命が尽きれば、貴銃士は銃に戻る──
そうでしたね、グラース殿。
グラースな……っ! 何してんだ、馬鹿野郎……!

葛城は迷いなく、自らの腹部に刃を突き立てた。

八九ウ、グ……ァ……!?
グラースチッ……! 絶対非道……!
八九ウゥゥ……!
グラースおい! 誰か!!
急いで〇〇と十手を呼べ! 医者もだ!!
自衛軍兵士たちは、はい!!

騒ぎを聞いて何事かと部屋から出てきた兵士たちは、
グラースの言葉を聞いて急いで駆けていった──。


在坂どうした、〇〇?
主人公【……薔薇の傷が悪化し始めた】
【グラースが絶対非道を使った……?】
十手なんだって……?
自衛軍で何かあったのか……!?
邑田日美子様の予言が当たってしまったか……急いで戻るぞ!

正門へ駆け込んだ〇〇たちは、
呼びに来た兵士たちと鉢合わせ、急いで現場へ向かう。

先程まで皆でゲームを楽しんでいた八九の部屋は大きく損壊し、
廊下では血まみれの葛城が青白い顔で倒れている。

グラースは八九を床に押さえこみ、動きを封じながら叫ぶ。

グラース十手! 絶対高貴でそいつの傷を治せ!!
十手これは……っ、合点承知だ、グラース君!
十手……絶対高貴!

十手が放つ絶対高貴の光が葛城の薔薇の傷へ降り注ぎ、
首筋にまで蔦を伸ばしていた傷がみるみる治っていく。
やがて──跡形もなく薔薇の傷は消え去った。

八九あ……、俺、ハ……。

八九の姿も空気に解けるように消え、
あとには1挺の銃だけが残された。

グラースギリ、間に合ったか……?
十手最後の八九君には、八九君の意識があったと思う。
間に合ったはず……だ。
だが、葛城君が……。

駆けつけた軍医の指示で、青白い顔をした葛城が運ばれていく。
〇〇たちには、それを見守ることしかできない。

主人公【一体何が……?】
【グラース、ここで何があったか教えて】
グラース……僕にもよくわからねぇ。
普通に、ゲームの続きをしようとしてたんだ。
そしたらあいつがいきなり苦しみだして……。
グラース前触れも何もなかった。
本当にいきなりアウトレイジャー化が始まったんだ。
グラース八九が部屋のドアをぶち壊して廊下で暴れてる時に葛城が来て……
おかしくなっちまってる八九を見るなり、
自分のことをぶっ刺しやがった。
グラースその前から葛城もフラフラだったし、
ほら、見てみろよ。
あいつの部屋からこっちまで、点々と血痕が続いてる。
主人公【薔薇の傷が急激に悪化した……?】
【まさか、オーストリアで使われた毒……?】
十手……!
トルレ・シャフの手が、自衛軍にまで伸びているのか……?

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